!ネタバレがあるため読了後の閲覧をおすすめします


うたかたの好きを君に

装丁

表紙:ペルーラ スノーホワイト・180kg/本文:上質90kg/遊び紙:色上質紙中厚口 さくら
印刷所:ちょ古っ都製本工房

A5/クリアPP/66ページ/52字×24行/筑紫明朝/9pt

制作中の色々

人生で初めて作った同人誌だ。
同人誌というものに憧れはあったものの、長年「同人誌というものは100冊単位でしか発注できない」と勘違いしていたため作ることができなかった。作るにしてもWordなどの文書作成ソフトを持っていなかったのでやりようがなかった。
しかし、この年付近に1冊から発注できる印刷所があること、一太郎が同人誌制作に非常に優れているを耳にしたのだ。悩んだ末一太郎を購入し、制作に取りかかった。
作った要因の一つにボルテにはまり小説を書きだしたこともある。アニメイトでしか同人誌を買ったことがないオタクだったため、同人誌といえば漫画と思っていたのだ。でも世には小説の同人誌もある。漫画描けないけど小説ならいけるんじゃね?という浅はかで愚かで字書きガチ勢から袋叩きにされても文句は言えない考えで作り始めた。アホである。

内容は旧腐垢(現在凍結中)でぼやいたネタを元にした。「カヲアシちゃんの香水のせいで弟君がオニイチャンに惚れちゃったみたいなことになったけど実際は惚れ薬関係なく普通に惚れててその勘違いにかこつけて今だけだからと色々ぺたぺたする感じの右←左」(原文ママ)というものだ。これなら嫌でも長くなるからいけるだろ、という舐め腐った考えである。実際長くなった。

執筆当時、進捗を記録しモチベを上げようと自分のDMにEvernoteのスクショを投げていた。こんなことを言っているが、実際は兄視点2.8万字、弟視点3.1万字になったので自分の感覚というものは一切当てにしてはいけないと学んだ。あとたぶんこれ1.5kと15k間違えてる。この時点で1.5k越えてるだろ。アホ。

入稿形式がPDFのみ、CMYKを取り扱ったことがなくまた扱えるソフトを持っていない、そもそも塗りたしやらトンボやらが初めてで原稿の作り方が分からない、ということで表紙はシンプルなものに。
印刷ではRGBの色合いを再現できないということは聞いていたので、思い通りの色合いにならなくても自分の中では納得できるように……というよりも、このような表紙を作るのが初めてで全くデザインが思い浮かばなかったので赤1色のみで完結させた。結果、求めていたふわっとした色合いになったので満足している。
『カヲアシの香水(惚れ薬)』から始まる話だったので、Tomorrow Perfume (tpz Despair Remix)の小瓶を描いた。また、兄視点と弟視点でタイトルの一部を変えたので、変わった部分が読めないように香水をこぼしその部分が見えないようなデザインにした。

奥付ではどちらのタイトルも書いている。『弟視点側のタイトルが薄ら透けて見える』というのは絶対にやりたい仕様だったので、ちゃんと印刷されて本当に安堵したことを覚えている。頑張って二値云々勉強した甲斐があった。でももう覚えてない。
奥付の年を思いっきり間違えていることに2年後気付いた。アホ。ちゃんと確認してから入稿しましょう。

組版はこのようになった。
調べて自宅で試し刷りをした結果これが一番だと思ったのだが、いざ手に取ってみると小口と段の間が狭く地味に読みにくい。おそらくノドばかりを意識していたからだろう。
また、ノンブルが左下にあるのが案外読みにくくて驚いた。商業のハードカバーや新書ではノンブルが左下にあることが多いイメージがあったのでそちらを参考にしたのだが、読んでいるとなんだか邪魔に思えた。おそらくフォントサイズを本文と同じく9ptにしたのが原因の一つだろう。

内容は前述の通り。前半は兄視点で事件の一連を書き、後半で弟側の心情を書きネタばらしをするという形式だ。
初めて1万字を超える話を書いたこと、プロットをしっかり練った(当社比)割にはなかなか進まなかったこと、(分類するならば)悲恋ものだったこととで本当に地獄だった。
どこぞのドレスデザイナーと同じぐらいハピエン厨なので、こういった話は本当に辛かった。叶わない恋を題材とした話をしっかりと書いたのがこれが初めてだったので尚更だったのだろう。死ぬ。死んだ。
冗談抜きで弟視点の終盤を書いている時や推敲中は画面が滲んで見えなくなるほどぼろぼろ泣いていた。原稿を作っている最中、ひたすらに「何で……何で幸せにならないんだよ……何で……」と苦しんでいたことを覚えている。全部お前のせいだよアホ。何故ハピエン厨のくせにこんなことをやったのか。

途中ブランクはあれど長年小説を書いてきた中で一番気合いを入れて書いたものなので表現なども非常に気に入っているが、内容がこんな感じなので読み返したくない話ナンバーワンである。自分という名のハピエン厨を美しいまでに殺す話だ。何故ハピエン厨のくせにこんなことをやったのか。

裏話としては、最後に約束した通り一連の事件の解決方法についてはレイシスに話しておらず、彼女が問うても「何もない」「気にしないでくれ」としか言われないため、レイシスは「あぁ、自分には二人の間に入ることができないのだな」「自分は部外者なのだな」と強い疎外感を覚えたということ。兄は一生弟の想いを知らずに、女の子と付き合って結婚して普通の人生を歩んでいくこと。弟はこの日のことを支えに想いを殺し、隣でずっと兄の姿を見て生きていくこと。ぐらいだろうか。本当に誰も幸せにならねぇなこの話。何故ハピエン厨のくせにこんなことをやったのか。

表紙は用紙サンプルで見て一目惚れした「ペルーラ スノーホワイト」を使用。調べた結果「オンデマンドはPP加工をしなければ印刷が剥げる」とそこかしこで記されていたため、PP加工を施した。特徴であるキラキラとした細かい輝きは加工無しよりも随分と減ったが、控えめな美しさに落ち着いたので満足している。
勝手が分からず本文は上質90kgにしたのだが、これがもう硬くてめくりづらい。そして白くて目に痛い。組版ばかりに気にして用紙についてはろくに調べなかったのが原因だ。ちゃんと調べましょう。もしくは実際の本を読んで確認しましょう。
怪我の功名と言うべきか、しっかりと背表紙ができるほど厚みが出たのは嬉しかった。背表紙の作り方が分からず表1・表4で分割して入稿したため背表紙は真っ白なのだけれど。

失敗はあったものの、藁半紙に片面印刷して平とじした部誌しか作ったことが無かった人間が初めて「一般に売られている『本』のような冊子」を作ることができたので非常に満足している。紙選びや組版もその後に活きたので、作ってよかったと心から言える。思い出深い本だ。

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