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No.10
雪とみかんと炬燵と【さなれいむ】
雪とみかんと炬燵と【さなれいむ】
pixivで非公開にしていたものをサルベージ。キャプションとか諸々全部当時のままです。
パウンドケーキって美味しいけど酒の匂いがキツくて苦手。
急にさなれいむが書きたくなったので。三人称と一人称が混ざって訳分からん。
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「霊夢さーん! れーいーむーさーん!」
雪の積もる境内に、上機嫌を通り越してハイになった声が響く。雪降る寒さにも負けず、早苗は霊夢がいるであろう社務所の方へと駆けていく。
その顔に、大きめの札がベシャリと貼付けられた。
「うるさい」
縁側に面した部屋の襖の隙間から霊夢が顔を出した。不機嫌さを隠すことなく、訪問者にもう一枚札を投げる。札は見事に早苗の顔に命中し、早苗はさらにもがもがともがいた。
やっと札を剥がし終えた早苗は、霊夢の顔を見てにへらと笑った。
「なにその顔」
「まあまあ。それよりも、霊夢さんに渡したいものがあるんです」
緩んだ顔のまま縁側に腰掛け、早苗は肩にかけた鞄を漁り、目的のものを取り出し掲げる。
「ハッピーメリークリスマース!」
「は? め……、なに?」
「なにって、クリスマスですよ。クリスマスプレゼントですよ」
互いの言っている事が分からないのか、二人とも不思議そうな顔をする。しばらくして、早苗は合点がいったようで、未だに状況を理解していない霊夢に説明をはじめた。
「私のいた外の世界では、今日は皆でご馳走を食べたりプレゼントを交換したりするんです」
「宴会する日ってこと?」
「そんなものです」
「本当は神様の誕生日なんですけどね」と続ける早苗を尻目に、霊夢は掲げられた箱に目を移す。寝そべった状態では見上げるのが辛く、途中で諦め起き上がる。
「ともかく、私から霊夢さんにクリスマスプレゼントを持ってきたのですよ」
満面の笑顔で手渡された箱は大きさに反して重い。中身は何なのだろうと考えていると、開けるよう促される。
「おぉ」
箱の中身はクッキーとパウンドケーキだった。クッキーは様々な形に型抜きされており、パウンドケーキの断面からは色とりどりのフルーツが顔を覗かせている。どちらも程よい焼き色で、仄かに甘い香りを漂わせていた。
「早苗が作ったの?」
「えぇ。フルーツは秋神様から頂いたものなので、味は保証できますよ」
「あんた、こんなのも作れるのねぇ」
神妙そうな顔をしてクッキーを一つかじる。サクリとした食感と期待通りの甘さが口の中に広がった。
「ん、美味しい」
「作った甲斐がありました」
もしゃもしゃとクッキーを食べる霊夢の横で、早苗は幸せそうに笑う。しかし、それは通り抜けた北風に掻き消され、早苗は寒さにぶるりと身を震わせた。
「あー、寒いし中に入りなさいよ」
「お邪魔します」
早苗は冷たい腕で自らを抱きながら部屋に入る。促されるままに霊夢の隣に座り、炬燵に足を潜り込ませる。冷たい足先に暖かさがじんわりと染み込んだ。
因みに霊夢は早苗との会話中、下半身は炬燵に潜り込ませたままだった。道理で寒さに文句を言わなかったわけである。
「大きい方のクッキーは後で分けましょうか」
「霊夢さん、それケーキです」
「? ケーキってあれでしょ、ふわふわした黄色いのにクリーム塗ったやつでしょ? たまに赤いけど」
「ケーキにも種類があるんですよ。それは固めのケーキなんです」
「へぇ」
まじまじとパウンドケーキを見つめる霊夢を眺めながら、今度はとびきり大きいホールケーキを持ってきてやろうと早苗は固く誓った。同時に、その『ふわふわした黄色いのにクリーム塗った』ケーキを霊夢に食べさせた誰かに嫉妬する。
たまに赤い、おそらく苺などのフルーツを混ぜこんだものが出てくるあたり、相手は腕の立つ者なのだろう。強い相手だろうが、恋人の胃袋を掌握させてたまるものか。
見知らぬ誰かに闘士を燃やす早苗を無視して、霊夢は早苗が持ってきたクッキーを頬張る。無言でどんどんと食べていくあたり、気に入ったのだろう。
「美味しいですか?」
「美味しい」
霊夢の素直な返答にえへへと笑う早苗だが、その笑みに少し黒いものが混じる。
「ねぇ、霊夢さん」
「あに」
「霊夢さんは私に何をくれますか?」
「はぁ?」
思いっきり怪訝で不機嫌な声と視線が早苗に向けられた。早苗は気にせず話を続ける。
「さっき言ったじゃないですか。今日は『プレゼントを交換したりする日』だ、って。私は霊夢さんにお菓子を送りました。つまり、私は霊夢さんにプレゼントをもらう権利があります!」
ビシィ、と霊夢を指差す。霊夢は眉間にシワを寄せて早苗を睨み、溜息をついた。
「みかんぐらいしかないんだけど」
「そのみかん、前におすそ分けしたものですよね?」
「じゃあこれ返す」
「クッキー、くずしか残ってないじゃないですか」
「じゃあどうしろってんのよ」
早苗はふふふと不敵に笑い、霊夢の方へ身を寄せた。
「別に物品である必要はないんです。例えば、キスしてくれたりとか、甘えてくれたり甘えさせてくれたりとかでいいんですよぅ」
霊夢の眉間にシワがさらに深く刻まれる。なまはげのような顔をした霊夢に屈することなく、早苗は辛抱強く返答を待った。
しばらくして、諦めたかのような溜息とともに寄っていたシワが緩んだ。ちょいちょい、と小さく手招きされて早苗はさらに霊夢の方へに寄る。まだ足りないのか手はなかなか下りない。ついに痺れを切らしたのか、霊夢は立ち上がり、早苗のすぐ隣、肩が触れ合うような場所に座った。
「早苗、こっち向きなさい」
声に誘われ霊夢の方を向く。視界から霊夢が消え、身体に温かな重みがかかる。しばらくして、霊夢が早苗に抱きついたのだと理解した。
早苗はいきなりの出来事に軽くパニック状態になっていた。
あの霊夢が、あの霊夢が自分に抱きついているのである。普段なら自ら抱きついても邪険に扱うような霊夢が、原因はどうであれ自発的に抱きついてきたのだ。嬉しさやらなんやらで早苗の頭は処理が追いつかない状態になっていた。
霊夢は霊夢でパニック状態になっていた。
普段なら恥ずかしさやら照れ臭さで抱きつかれても邪険に扱ってしまうというのに、自分から抱きついたのだ。こんなこと初めてだ。恥ずかしさやら照れ臭さやら抱きついたのはいいがこのあとどうすればいいのやらで頭がオーバーヒートしかけていた。
「……肩、冷たい」
「そ、そのまま出てきちゃいましたから」
霊夢は少しだけむくれる。
実際はどうかは知らないが、見た目だけで言うなら早苗の方が年上に見える。だが、その行動は魔理沙とどっこいどっこいなくらい子供っぽい。夢中になれば自身を顧みず行動する早苗の姿は、霊夢には少し面白くなかった。恥ずかしくも照れ臭くも、早苗は霊夢のもので霊夢は早苗のものなのだ。自分の与り知らぬところで傷つかれるのは嫌だ。
口には決して出さないが、霊夢は霊夢で早苗のことが心配で、心配するくらい好きなのだ。
「あんた、もっと考えて行動しなさいよ」
「善処します」
「あほ」
回す腕に力を込める。顔には冷たい肌が、身体には温かな柔らかさが伝わってきた。
するり、と腕を解き、霊夢は炬燵に突っ伏した。恥ずかしさと照れ臭さと幸福感で顔が大変なことになっているのが分かる。こんな恥ずかしい顔をあげることは到底無理だ。
「霊夢さーん」
同じく幸福感で頬が緩まった早苗が霊夢を呼ぶ。返事が返ってこないことは分かっているのだが、何だか名前を呼びたくて堪らないのだ。
「霊夢さん」
「……腕、寒いし、疲れたから」
霊夢は炬燵に手を入れたまま、早苗のスカートの端を少し握る。早苗がこちらを向いたのが分かり、霊夢は顔を反対側へと向けた。
「みかん、皮剥いて」
「なんなら食べさせてあげましょうか?」
「あほ」
霊夢はぺし、と早苗の膝を軽く叩く。早速早苗はカゴからみかんを取り出し、鼻歌を歌いながら皮を剥きはじめた。
外では雪、内ではみかんの皮がゆっくりと積もっていった。
畳む
#さなれいむ
#百合
#さなれいむ
#百合
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東方project
2024/1/31(Wed) 00:00
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雪とみかんと炬燵と【さなれいむ】
雪とみかんと炬燵と【さなれいむ】pixivで非公開にしていたものをサルベージ。キャプションとか諸々全部当時のままです。
パウンドケーキって美味しいけど酒の匂いがキツくて苦手。
急にさなれいむが書きたくなったので。三人称と一人称が混ざって訳分からん。
「霊夢さーん! れーいーむーさーん!」
雪の積もる境内に、上機嫌を通り越してハイになった声が響く。雪降る寒さにも負けず、早苗は霊夢がいるであろう社務所の方へと駆けていく。
その顔に、大きめの札がベシャリと貼付けられた。
「うるさい」
縁側に面した部屋の襖の隙間から霊夢が顔を出した。不機嫌さを隠すことなく、訪問者にもう一枚札を投げる。札は見事に早苗の顔に命中し、早苗はさらにもがもがともがいた。
やっと札を剥がし終えた早苗は、霊夢の顔を見てにへらと笑った。
「なにその顔」
「まあまあ。それよりも、霊夢さんに渡したいものがあるんです」
緩んだ顔のまま縁側に腰掛け、早苗は肩にかけた鞄を漁り、目的のものを取り出し掲げる。
「ハッピーメリークリスマース!」
「は? め……、なに?」
「なにって、クリスマスですよ。クリスマスプレゼントですよ」
互いの言っている事が分からないのか、二人とも不思議そうな顔をする。しばらくして、早苗は合点がいったようで、未だに状況を理解していない霊夢に説明をはじめた。
「私のいた外の世界では、今日は皆でご馳走を食べたりプレゼントを交換したりするんです」
「宴会する日ってこと?」
「そんなものです」
「本当は神様の誕生日なんですけどね」と続ける早苗を尻目に、霊夢は掲げられた箱に目を移す。寝そべった状態では見上げるのが辛く、途中で諦め起き上がる。
「ともかく、私から霊夢さんにクリスマスプレゼントを持ってきたのですよ」
満面の笑顔で手渡された箱は大きさに反して重い。中身は何なのだろうと考えていると、開けるよう促される。
「おぉ」
箱の中身はクッキーとパウンドケーキだった。クッキーは様々な形に型抜きされており、パウンドケーキの断面からは色とりどりのフルーツが顔を覗かせている。どちらも程よい焼き色で、仄かに甘い香りを漂わせていた。
「早苗が作ったの?」
「えぇ。フルーツは秋神様から頂いたものなので、味は保証できますよ」
「あんた、こんなのも作れるのねぇ」
神妙そうな顔をしてクッキーを一つかじる。サクリとした食感と期待通りの甘さが口の中に広がった。
「ん、美味しい」
「作った甲斐がありました」
もしゃもしゃとクッキーを食べる霊夢の横で、早苗は幸せそうに笑う。しかし、それは通り抜けた北風に掻き消され、早苗は寒さにぶるりと身を震わせた。
「あー、寒いし中に入りなさいよ」
「お邪魔します」
早苗は冷たい腕で自らを抱きながら部屋に入る。促されるままに霊夢の隣に座り、炬燵に足を潜り込ませる。冷たい足先に暖かさがじんわりと染み込んだ。
因みに霊夢は早苗との会話中、下半身は炬燵に潜り込ませたままだった。道理で寒さに文句を言わなかったわけである。
「大きい方のクッキーは後で分けましょうか」
「霊夢さん、それケーキです」
「? ケーキってあれでしょ、ふわふわした黄色いのにクリーム塗ったやつでしょ? たまに赤いけど」
「ケーキにも種類があるんですよ。それは固めのケーキなんです」
「へぇ」
まじまじとパウンドケーキを見つめる霊夢を眺めながら、今度はとびきり大きいホールケーキを持ってきてやろうと早苗は固く誓った。同時に、その『ふわふわした黄色いのにクリーム塗った』ケーキを霊夢に食べさせた誰かに嫉妬する。
たまに赤い、おそらく苺などのフルーツを混ぜこんだものが出てくるあたり、相手は腕の立つ者なのだろう。強い相手だろうが、恋人の胃袋を掌握させてたまるものか。
見知らぬ誰かに闘士を燃やす早苗を無視して、霊夢は早苗が持ってきたクッキーを頬張る。無言でどんどんと食べていくあたり、気に入ったのだろう。
「美味しいですか?」
「美味しい」
霊夢の素直な返答にえへへと笑う早苗だが、その笑みに少し黒いものが混じる。
「ねぇ、霊夢さん」
「あに」
「霊夢さんは私に何をくれますか?」
「はぁ?」
思いっきり怪訝で不機嫌な声と視線が早苗に向けられた。早苗は気にせず話を続ける。
「さっき言ったじゃないですか。今日は『プレゼントを交換したりする日』だ、って。私は霊夢さんにお菓子を送りました。つまり、私は霊夢さんにプレゼントをもらう権利があります!」
ビシィ、と霊夢を指差す。霊夢は眉間にシワを寄せて早苗を睨み、溜息をついた。
「みかんぐらいしかないんだけど」
「そのみかん、前におすそ分けしたものですよね?」
「じゃあこれ返す」
「クッキー、くずしか残ってないじゃないですか」
「じゃあどうしろってんのよ」
早苗はふふふと不敵に笑い、霊夢の方へ身を寄せた。
「別に物品である必要はないんです。例えば、キスしてくれたりとか、甘えてくれたり甘えさせてくれたりとかでいいんですよぅ」
霊夢の眉間にシワがさらに深く刻まれる。なまはげのような顔をした霊夢に屈することなく、早苗は辛抱強く返答を待った。
しばらくして、諦めたかのような溜息とともに寄っていたシワが緩んだ。ちょいちょい、と小さく手招きされて早苗はさらに霊夢の方へに寄る。まだ足りないのか手はなかなか下りない。ついに痺れを切らしたのか、霊夢は立ち上がり、早苗のすぐ隣、肩が触れ合うような場所に座った。
「早苗、こっち向きなさい」
声に誘われ霊夢の方を向く。視界から霊夢が消え、身体に温かな重みがかかる。しばらくして、霊夢が早苗に抱きついたのだと理解した。
早苗はいきなりの出来事に軽くパニック状態になっていた。
あの霊夢が、あの霊夢が自分に抱きついているのである。普段なら自ら抱きついても邪険に扱うような霊夢が、原因はどうであれ自発的に抱きついてきたのだ。嬉しさやらなんやらで早苗の頭は処理が追いつかない状態になっていた。
霊夢は霊夢でパニック状態になっていた。
普段なら恥ずかしさやら照れ臭さで抱きつかれても邪険に扱ってしまうというのに、自分から抱きついたのだ。こんなこと初めてだ。恥ずかしさやら照れ臭さやら抱きついたのはいいがこのあとどうすればいいのやらで頭がオーバーヒートしかけていた。
「……肩、冷たい」
「そ、そのまま出てきちゃいましたから」
霊夢は少しだけむくれる。
実際はどうかは知らないが、見た目だけで言うなら早苗の方が年上に見える。だが、その行動は魔理沙とどっこいどっこいなくらい子供っぽい。夢中になれば自身を顧みず行動する早苗の姿は、霊夢には少し面白くなかった。恥ずかしくも照れ臭くも、早苗は霊夢のもので霊夢は早苗のものなのだ。自分の与り知らぬところで傷つかれるのは嫌だ。
口には決して出さないが、霊夢は霊夢で早苗のことが心配で、心配するくらい好きなのだ。
「あんた、もっと考えて行動しなさいよ」
「善処します」
「あほ」
回す腕に力を込める。顔には冷たい肌が、身体には温かな柔らかさが伝わってきた。
するり、と腕を解き、霊夢は炬燵に突っ伏した。恥ずかしさと照れ臭さと幸福感で顔が大変なことになっているのが分かる。こんな恥ずかしい顔をあげることは到底無理だ。
「霊夢さーん」
同じく幸福感で頬が緩まった早苗が霊夢を呼ぶ。返事が返ってこないことは分かっているのだが、何だか名前を呼びたくて堪らないのだ。
「霊夢さん」
「……腕、寒いし、疲れたから」
霊夢は炬燵に手を入れたまま、早苗のスカートの端を少し握る。早苗がこちらを向いたのが分かり、霊夢は顔を反対側へと向けた。
「みかん、皮剥いて」
「なんなら食べさせてあげましょうか?」
「あほ」
霊夢はぺし、と早苗の膝を軽く叩く。早速早苗はカゴからみかんを取り出し、鼻歌を歌いながら皮を剥きはじめた。
外では雪、内ではみかんの皮がゆっくりと積もっていった。
畳む
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