No.190
favorite THANKS!! スプラトゥーン 2024/11/29(Fri) 21:35 edit_note
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その程度でお前を隠せるはずがない【ワイ→←エイ】
その程度でお前を隠せるはずがない【ワイ→←エイ】エイトくんを評価しまくってるワイヤーグラスくんとんなこと露ほども思って無いし気付いてないエイトくん良いな……というあれ。ワイヤーグラスくんもワイヤーグラスくんでそこそこ重い感情抱えてたら私が喜ぶ。あと色んなとこ捏造しまくってるし色んな解釈はゲームのオンライン要素寄り。
自由気ままに野良に潜ってるワイヤーグラスくんと隠れて野良に潜ってるエイトくんの話。大体3話前ぐらいの時系列。
広いロッカールーム、その一角。チープな金属扉に隠れるように頭を潜り込ませ、エイトは愛用するミミタコ8を外す。カゴの中に静かに放り込み、代わりにロブスターブーニーを取り出した。目元はもちろん、長めのヘアスタイルも全て隠すように目深に被り、ブキを片手に足早にロッカールームを出る。開けたロビーでは多くの者たちがエイムやイカロールの練習に励んでいた。普段と違い、こちらを見る目は皆無に近い。
新バンカラクラスであるエイトは目立つ。それはもう目立つ。特徴的なギアを着けていることもあり、ロビーに入ればすぐに存在を気付かれるほどには目立つ。存在に気づいて離れていくものもあれば、これみよがしに声を交わす者もいる。やりたくねー。当たりたくねー。何で野良で潜ってんだよ。時にはげんなりとした声で、時には嘲るような声で紡がれる言葉は、それこそ耳にタコができるほど聞いたものである。
ならば、目立たなければいい。
ヒトというのはどうやら色を特徴として捉え、大きく印象持ち、強く覚えるらしい。頭と真反対の色をした、それはもう目立つ真っ赤なミミタコ8を外すだけで飛んでくる声の数は減った。つばの大きな帽子を目深に被り、ギアと同じぐらい鮮烈な赤い目を隠せば、潜めた声の数は激減した。プレートの名前は変えられないものの、近頃は騙りが多いからか気にする者は少ない。『本物』がまぎれているだなんて思うヤツの方が少ないのだ。インクリングは単純な種族だと聞かされていたが、オクトリングも同じほど間抜けらしい。これできちんとバトルができるのかと不安を覚えるほどである。
マッチングを開始し、少年は壁際を陣取る。普段ならばエイム練習をするところだが、今ばかりは静観する他無い。目立ってしまっては意味がないのだ。手遊ぶように片手でナマコフォンを開いてスケジュールを再確認する。今のステージはマテガイ放水路とゴンズイ地区だ。マテガイ放水路は最近になって手が入り、地形が変わったと知らされている。事前に確認したかぎり侵入ルートが一つ増えただけだが、実戦でどうなるかなどまだ分からない。少しでも経験を積む必要がある。実力だけではない、情報も全て手に入れ優位に立たねばならないのだ。
ベルの音が鳴り響く。マッチングが終わったようだ。慣れた調子で移動し、スポナーへと入る。少しの待機の後、浮遊感。開始地点に並んだ証だ。もうじきバトルが始まるだろう。
スポナーを満たしていた身体をヒトの姿へと変え、エイトはスポナーの上に立つ。武器を構えたところで、両脇からゲェッと汚い悲鳴が聞こえた。何だ、と瞠られた三対の目たちの先をみやる。視界に入ったそれに、腹の奥底から勢いよく声が湧き出てきた。野良のチームメンバーのように無様な声を出さぬよう、喉で必死に押し殺す。潰れたような醜い音がスポナーの上に落ちた。
身体はゆったりとしたニットとサルエルパンツにほとんど隠されているが、覗くわずかな部分だけでも鍛えられていることが分かる。抱えるのは目に痛いほど鮮やかな青で彩られたプライムシューターだ。長いゲソはコーンロウで綺麗にまとめており、顔立ちがしっかりと見える。目つきは鋭く、視界に入った何もかもを射殺すような輝きに満ちていた。その目元には細い銀フレームの眼鏡――あれを眼鏡と称すのは未だに疑問を覚えるが――が光る。何より、ネームプレートに記された名前。
ワイヤーグラス。
8傑――その中でも更に強い者が集まった新バンカラクラス、トップに立つ最強のインクリングがそこにいた。よくよく見ると、彼の両隣のオクトリングもあんぐりと口を開いて固まっている。どうやら野良で一人潜っているところに出くわしてしまったらしい。
「いやいやいやいや」
「うっそだろ、ワイヤーグラスとかマジ?」
「これ無理っしょー……」
聞こえる声は完全に意気消沈していた。強者に勝とうという気概など一欠片も見えない。最初から勝負を放棄していることが丸分かりだ。
罵声を吐きそうになるのを愛銃のグリップを握ることで押し止める。向上心など欠片も感じられない、反骨心の一つも見られない、立ち向かう気概など砂粒ほども無いヤツらなど、今まで数え切れないほど見てきたではないか――相対してきたではないか。掃いて捨てるほどいる弱いヤツを引いただけの話だ。寄せ集めの野良なんてこんなものである。
ポジティブに解釈すれば、絶好のチャンスである。ここから見ただけでも、相手チームはワイヤーグラス以外の面子がすっかりと萎縮しているのが分かる。きっと勇んで前線に躍り出てくることは無いだろう。つまり、前線は己と彼との一騎打ちがほとんどになる。バトルメモリーや現地での観戦で彼の動きは何十何百と見ているが、実際に手合わせできる機会など滅多に無い。新バンカラクラス最強との戦い――またとない好機だ。
またスポナーに身体を沈める。ふ、と短く息を吐く。いつもより浅くなっていたのは、きっと気のせいだ。
勝つ。一回だけでも絶対に撃ち勝つ。
バトル開始の合図とともにステージに降り立つ。赤い瞳は相手のリスポーン地点を――ワイヤーグラスがいるであろう場所を一心に見つめていた。
音が弾けると同時に、目の前、相手陣地に紙吹雪が舞う。見える顔は喜びよりも安堵、もっと言うならば疲弊が強く出ていた――一人を除いて。
そのたった一人であるワイヤーグラスも、特段勝利を喜んでいるようには見えない。へたり込む即席チームの仲間など無視して端末を操作していた。おそらくマップを確認しているのだろう。熱心なものだ、とエイトは小さく息を吐いた。
「こんなん勝てっかよ」
「え? 勝とうとか思ってたの?」
「んなわけないじゃん」
「最初から負けるって決まってんだよなー」
だよなー、とリスポーン地点に座り込んだ野良三人は合唱する。疲弊しきったような素振りに、少年は舌打ちしそうになるのをこらえた。疲労を覚えるほど戦っていなかったくせに。最初からろくに前線に出てこなかったくせに。カバーはおろか撃ち合う素振りすら見せなかったくせに――最初から勝負を放棄していたくせに。勝つ気がないくせに被害者面をするのだから腹立たしい。これだから弱いヤツは弱いままなのだ。
ぐだぐだと文句を垂れ流す弱者など目もくれず、オクトリングはロビーへと戻る。先のバトルでの経験をまとめ、バトルメモリーを見返さねばならない。己の実力にあぐらをかいて研究を怠ってはならない。強者はいつだって強者であらねばならないのだ。
手早くナマコフォンを開き、つい先ほど記録されたリザルトを眺める。並ぶ数字の群れに喉が鳴った。こぼれ落ちた濁った音が喧騒に溶けて消える。
目を引くのはやはりワイヤーグラスのものだ。インクリングをデフォルメしたアイコンの横に並ぶ数字は八とゼロ。つまり、三分の間一度も倒れることなく戦ったことを意味している。対して己のは五と三。三度倒れたのは、全てワイヤーグラスにとの対面だった。遠くからラインマーカーで刺され、マーキングによって把握された行動を見咎められ、削られた状態で対面に持ち込まれ、撃ち合いに負けてリスポーンへと戻る。他の面子――あちらも大概自陣に引きこもっていたが――をいくらか倒して前線を上げようとしたものの、全て抑えられてしまった。上げたところで味方は続こうとしなかったのだから意味は薄かったのだけれど。
サブウェポンの使い方も、メインウェポンの使い方も、スペシャルウェポンの切りどころも、全てが完璧だった。敵が嫌がることを丁寧に行い、攻勢を封じ込め、押し切り抑えきる。まさにお手本のような戦い方だ――実力が違いすぎてほとんどの者にとって参考にはならないだろうが。
はぁ、と思わず溜め息をこぼす。対面に一度も勝てなかったのは悔しい。一人の力で勝てなかったのが悔しい。強い者はいつだって強くあらねばならないのだ。たとえ味方が非協力的であろうが、一人で勝ちを掴まねばならない。それでこそ『強者』なのだから。
「エイト」
耳慣れた声が、生きてきた中で数えられないほど聞いた言葉をなぞる。想定などしていないそれに、ビクンと大きく肩が跳ねた。この声は。いやけれども。だって今、『エイト』は『新バンカラクラスのエイト』の姿をしていなくて。なのに。
ガッと音が鳴りそうなほど肩を強く掴まれ、勢いよく引かれる。たたらを踏みそうになるのを体幹に物を言わせてこらえ、エイトは振りほどくように身を反転させた。反動を殺すようにタップを踏んで二、三歩距離を取る。帽子が上半分を隠した視界の中には、予想通り鮮やかなオレンジがあった。深い橙を通り越して血にも似た瞳がこちらを睨みつける。この身を貫き刺し殺すような視線だった。
「……よく分かったね」
相対するワイヤーグラスに、エイトはどうにか笑みを浮かべて返す。あぁ、と威圧的な声が聞こえた。銀のアタマギアの奥、吊り目が眇められ鋭さを増す。十人中八人はこの顔を見ただけで逃げるだろう。そして残り二人は名前を聞いて逃げ帰る。
「分かるに決まってんだろ」
鼻を鳴らしインクリングは言う。は、と今度はこちらが疑問の声を漏らす番だった。
己は今、目立つアタマギアを外し、目やヘアスタイルといった特徴を隠している。ネームは『エイト』のままであれど、騙りが多いここ最近は信用に値しない情報だ。バトル中は別のインク色に変わっていたのだから、あのさなかで『新バンカラクラスのエイト』の印象を持つはずがない。だのに、何故。
「動き見りゃ分かる」
当然のように吐き捨てる強者に、オクトリングはますます首を傾げる。確かにヒトには動きにはどうしても癖が存在する。開幕まっすぐに中央に進む、対面時はサブウェポンから入る、潜伏を多用する、スペシャルの切りどころが同じなど様々だ。弱点に繋がるそれを消そうと日夜注意しているものだが、気付いていないだけでまだまだあるらしい。いや、それはいい。問題は『何故彼が己の癖を覚えているか』だ。
彼は強い者にしか興味が無い。そして、己は彼に敗れた――悔しいけれども、彼にとっては『弱いヤツ』だ。新バンカラクラスに誘われたものの、その事実は覆せていない。彼の中では己は『弱いヤツ』であり、有象無象の一人でしかないのだ。だというのに、何故彼は己の癖を覚えているのだ。まるで今までの戦いを見てきたかのような。まるで意識してきたかのような。そんなこと、あるはずがないのに。
「お前も分かるだろ」
「まぁ、きみほどとなるとさすがにね」
ほらな、とワイヤーグラスはまた鼻を鳴らす。誰だって強者のことは覚えるだろう。己は彼を研究しているのだから尚更だ。だが、彼にとっては事情が違うではないか。強者ならともかく、弱者を覚えているなど。
「もう一戦付き合え」
「は?」
「侵入できるようになったとこ研究しきれてねぇんだよ。手伝え」
は、とまた疑問符にまみれた声が漏れる。相手はこちらの様子など歯牙にもかけず、スタスタと歩き出していた。まるで付いてくるのが当然であるかのような姿だ。色とりどりの毛糸で飾られた背中はどんどんと遠ざかり、マッチング手続きをするために動いていく。
覚えられていた。
彼が弱者に意識を向けていた驚愕、理由が全く分からぬ故の猜疑――そして、己は彼が記憶するに値した存在であるという事実への歓喜。マイナスもプラスも心の中をぐるぐると巡って、鼓動を早くしていく。マイナスもプラスも殴りかかるように突っ込んできて、頭の中をぐちゃぐちゃに掻き乱した。
これではまるで彼が己のことを認めているようではないか。そんなはずはない。彼は『負けた弱いヤツ』に興味があるはずなど無いのだ。脅威になり得ない己を意識するはずがないのだ。けれど、現実が、『彼は己の癖を把握している』という事実が全ての前提を破壊していく。ろくに思考できない脳味噌を更に使い物にならないものにしていく。
拳を握りしめ、エイトは歩き出す。手続きをするワイヤーグラスを追って歩き出す。うるさい鼓動を、無様に浮き足立ちそうな心を、醜く慌てふためく脳味噌を押さえつけるように、悠々とした足取りで歩みを進めた。
共に戦うなどまたとない機会だ。すぐ隣で戦えば、彼の癖が更に分かるはずだ。味方に出す指示やカバー時の立ち回りを盗めるかもしれない。対面するよりも貴重な、今後あるか分からないほどのチャンスだ。それをみすみす逃すわけにはいかない。どうでもいいことを考えて立ち尽くすわけにはいかないのだ。
混迷し高揚しごちゃつく思考を切り替え、少年は歩みを進める。ようやく追いついたカラフルな身体の横に立ち、端末を操作する。チームで潜る時と同じように手続きを終えた。
盗むのだ。暴くのだ。全てを研究し、解き、ワイヤーグラスに勝つのだ。誰よりも強者としてあるのだ。あらねばならないのだ。
たった一つの目標を、打ち倒すべく強者を横目でみやり、エイトは.96ガロンを握り締めた。畳む
#ワイヤーグラス #エイト #ワイエイ #腐向け