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No.32
紅模様【さなれいむ】
紅模様【さなれいむ】
pixivで非公開にしていたものをサルベージ。キャプションとか諸々全部当時のままです。
お題:早すぎた妻[1h]
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霊夢は縁側に腰掛けて、淹れたばかりのお茶に口をつける。博麗神社でよく見られる光景だが、今日は少し違う。
「やっぱり縁側っていいですねー。こうやってお茶飲むの、憧れてたんですよ」
早苗はのほほんと笑う。霊夢は「そう」と小さく相槌を打って茶をすすった。
今日は霊夢一人でなく、早苗と二人だ。お茶菓子も珍しく二人分ある。「里で新作の和菓子が出ていたから」と早苗が持ってきたのだ。霊夢の好物を把握している彼女が持ってくる菓子はどれも美味しい。霊夢は満足げに笑い、「せっかくだから」と茶を淹れた。そして早苗の希望で縁側に二人で腰かけたのだ。
早苗がわざわざ似たものを探してきたこともあり、二人が手にしている湯呑は実質お揃いだ。そんなことをしなくてもいいのに、と霊夢は考えるが、早苗にとっては重要なことらしい。色合いが異なるため取り間違えるような不便はないので彼女の好きにさせておくことにした。
「あ、そういえば、これおすそわけです」
がさり、と早苗が手にした薄い袋を持ち上げる。上から覗きこむと、中には数種類の野菜が入っていた。どれもとれたばかりのようで、所々土で覆われていた。その黒が野菜の色を引き立て、更に美味しそうに見えさせる。
「豊穣の神様に頂いたのですが、家だけでは食べきれなくて。神様に了承はもらったので、おすそ分けに来ました」
「それなら味は確かね。ありがとう」
礼を言い、袋を部屋に押し入れる。立ち上がらず寝そべってぐいぐいと押しやる霊夢の姿に「行儀が悪いですよ」と早苗は言うが、彼女は聞く耳を持たないようだ。
「なんかもう、通い妻みたいですね」
えへへ、と早苗は嬉しそうに笑う。反面、霊夢は渋そうな顔で「訳分かんないこと言ってんじゃないわよ」と切り捨てた。
「えー。だっていつもこうやってお菓子持ってきてますしー、ご飯も作りますしー、お掃除もしますしー。もう妻同然ですよ」
「お菓子については感謝してるけど、ご飯は二人で作ってるし、掃除も手分けしてるでしょ。ふつーよ、ふつー」
指折り数える早苗の姿に霊夢は呆れたように溜め息を吐いた。「それはそれで夫婦の共同作業って感じでいいですね!」と目を輝かせる早苗の顔にベシリと札を張った。妖怪用のものなので人体に害はない。ただ、張り付いて息が苦しくなるだけだ。
「酷い」
「訳分かんないこと言うからよ」
どうにか顔面から札を剥がしむくれる早苗を無視して、霊夢は残っていた饅頭を齧った。粒あんの甘さが口いっぱいに広がる。そうして甘ったるくなった口に渋いお茶を飲む。あぁ、なんと幸せだろうか。霊夢は顔を綻ばせた。
「関係的には霊夢さんが妻ですけど、行動的には私が妻ですよね?」
「だから妻も夫もないでしょ……」
霊夢と早苗に性差はないのだ。妻や夫といった振り分けなどできないのだ。なのに彼女は何故拘るのだろう。霊夢には理解できそうにない。
「そもそも私達じゃ結婚もなにもないでしょ」
「外には『事実婚』という言葉があるんです」
「外は外、ここはここ」
不満気な声を上げる早苗を、霊夢は膝の上に頬杖をついて見やる。下から覗きこむ形なので、早苗からは上目遣いをしているように見えた。まだ少し幼い霊夢のその姿はどこか妖艶で、早苗の心臓がどきりと跳ねた。
「『結婚』云々の前に、『恋人』らしいことした方がいいんじゃないの?」
にやにやと愉快そうに笑いながら霊夢は言う。彼女らしからぬ言葉に、早苗の顔は驚きと羞恥と幸福感でだんだんと紅葉のように鮮やかな赤色で染まっていった。
「……霊夢さん、顔真っ赤ですよ」
「あんたに言われたくないわよ」
それは霊夢も同じだったようで、彼女は顔を隠すようにうつむく。美しい黒髪から覗く頬は早苗同様鮮やかな赤で染まっていた。よく紅白と表現される彼女だが、今は紅紅といった感じだ。
その顔を覗き込むように早苗は腰をかがめ、霊夢の頬を撫でる。寒さで冷えた手にとって、彼女の熱はとても心地よいものだった。冷たさと羞恥心で逃げるのではないかと思っていたのだが、霊夢はピクリと肩を震わせただけで動く気配はない。
「恋人らしいこと、ですよね?」
ゆっくりと、『恋人』という部分を強調して問うと、霊夢は「ん」と短く返事する。肯定とも否定ともとれる言葉だが、肯定と思っておこうと早苗は彼女のなめらかな黒髪を掬い上げ、唇を寄せた。それが分かったのか、霊夢は小さく身体を震わせた。
「そんなとこにしてどうすんのよ」
霊夢は横目で早苗を見やり、小さく呟く。早苗はその物足りなさそうな声に、わざと「何も分かりません」という風ににっこりと笑いかけた。
「自己満足です」
「へんたい」
霊夢は不満げに呟いて、髪を掬う早苗の手に己の手を重ねる。それが現状の彼女にとっての精いっぱいだと知っている早苗は、にへらと幸せそうに笑った。
「でも、恋人同士でできる事って大抵夫婦でもできますよねー」
「うっさい」
緩みきった顔で言う早苗に、霊夢は小さく返す。その声はいつもの不機嫌なものでなく、どこか嬉しそうなものだった。
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#さなれいむ
#百合
#さなれいむ
#百合
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東方project
2024/1/31(Wed) 00:00
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紅模様【さなれいむ】
紅模様【さなれいむ】pixivで非公開にしていたものをサルベージ。キャプションとか諸々全部当時のままです。
お題:早すぎた妻[1h]
霊夢は縁側に腰掛けて、淹れたばかりのお茶に口をつける。博麗神社でよく見られる光景だが、今日は少し違う。
「やっぱり縁側っていいですねー。こうやってお茶飲むの、憧れてたんですよ」
早苗はのほほんと笑う。霊夢は「そう」と小さく相槌を打って茶をすすった。
今日は霊夢一人でなく、早苗と二人だ。お茶菓子も珍しく二人分ある。「里で新作の和菓子が出ていたから」と早苗が持ってきたのだ。霊夢の好物を把握している彼女が持ってくる菓子はどれも美味しい。霊夢は満足げに笑い、「せっかくだから」と茶を淹れた。そして早苗の希望で縁側に二人で腰かけたのだ。
早苗がわざわざ似たものを探してきたこともあり、二人が手にしている湯呑は実質お揃いだ。そんなことをしなくてもいいのに、と霊夢は考えるが、早苗にとっては重要なことらしい。色合いが異なるため取り間違えるような不便はないので彼女の好きにさせておくことにした。
「あ、そういえば、これおすそわけです」
がさり、と早苗が手にした薄い袋を持ち上げる。上から覗きこむと、中には数種類の野菜が入っていた。どれもとれたばかりのようで、所々土で覆われていた。その黒が野菜の色を引き立て、更に美味しそうに見えさせる。
「豊穣の神様に頂いたのですが、家だけでは食べきれなくて。神様に了承はもらったので、おすそ分けに来ました」
「それなら味は確かね。ありがとう」
礼を言い、袋を部屋に押し入れる。立ち上がらず寝そべってぐいぐいと押しやる霊夢の姿に「行儀が悪いですよ」と早苗は言うが、彼女は聞く耳を持たないようだ。
「なんかもう、通い妻みたいですね」
えへへ、と早苗は嬉しそうに笑う。反面、霊夢は渋そうな顔で「訳分かんないこと言ってんじゃないわよ」と切り捨てた。
「えー。だっていつもこうやってお菓子持ってきてますしー、ご飯も作りますしー、お掃除もしますしー。もう妻同然ですよ」
「お菓子については感謝してるけど、ご飯は二人で作ってるし、掃除も手分けしてるでしょ。ふつーよ、ふつー」
指折り数える早苗の姿に霊夢は呆れたように溜め息を吐いた。「それはそれで夫婦の共同作業って感じでいいですね!」と目を輝かせる早苗の顔にベシリと札を張った。妖怪用のものなので人体に害はない。ただ、張り付いて息が苦しくなるだけだ。
「酷い」
「訳分かんないこと言うからよ」
どうにか顔面から札を剥がしむくれる早苗を無視して、霊夢は残っていた饅頭を齧った。粒あんの甘さが口いっぱいに広がる。そうして甘ったるくなった口に渋いお茶を飲む。あぁ、なんと幸せだろうか。霊夢は顔を綻ばせた。
「関係的には霊夢さんが妻ですけど、行動的には私が妻ですよね?」
「だから妻も夫もないでしょ……」
霊夢と早苗に性差はないのだ。妻や夫といった振り分けなどできないのだ。なのに彼女は何故拘るのだろう。霊夢には理解できそうにない。
「そもそも私達じゃ結婚もなにもないでしょ」
「外には『事実婚』という言葉があるんです」
「外は外、ここはここ」
不満気な声を上げる早苗を、霊夢は膝の上に頬杖をついて見やる。下から覗きこむ形なので、早苗からは上目遣いをしているように見えた。まだ少し幼い霊夢のその姿はどこか妖艶で、早苗の心臓がどきりと跳ねた。
「『結婚』云々の前に、『恋人』らしいことした方がいいんじゃないの?」
にやにやと愉快そうに笑いながら霊夢は言う。彼女らしからぬ言葉に、早苗の顔は驚きと羞恥と幸福感でだんだんと紅葉のように鮮やかな赤色で染まっていった。
「……霊夢さん、顔真っ赤ですよ」
「あんたに言われたくないわよ」
それは霊夢も同じだったようで、彼女は顔を隠すようにうつむく。美しい黒髪から覗く頬は早苗同様鮮やかな赤で染まっていた。よく紅白と表現される彼女だが、今は紅紅といった感じだ。
その顔を覗き込むように早苗は腰をかがめ、霊夢の頬を撫でる。寒さで冷えた手にとって、彼女の熱はとても心地よいものだった。冷たさと羞恥心で逃げるのではないかと思っていたのだが、霊夢はピクリと肩を震わせただけで動く気配はない。
「恋人らしいこと、ですよね?」
ゆっくりと、『恋人』という部分を強調して問うと、霊夢は「ん」と短く返事する。肯定とも否定ともとれる言葉だが、肯定と思っておこうと早苗は彼女のなめらかな黒髪を掬い上げ、唇を寄せた。それが分かったのか、霊夢は小さく身体を震わせた。
「そんなとこにしてどうすんのよ」
霊夢は横目で早苗を見やり、小さく呟く。早苗はその物足りなさそうな声に、わざと「何も分かりません」という風ににっこりと笑いかけた。
「自己満足です」
「へんたい」
霊夢は不満げに呟いて、髪を掬う早苗の手に己の手を重ねる。それが現状の彼女にとっての精いっぱいだと知っている早苗は、にへらと幸せそうに笑った。
「でも、恋人同士でできる事って大抵夫婦でもできますよねー」
「うっさい」
緩みきった顔で言う早苗に、霊夢は小さく返す。その声はいつもの不機嫌なものでなく、どこか嬉しそうなものだった。
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