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No.41
雨音響く日常【後輩組】
雨音響く日常【後輩組】
pixivで非公開にしていたものをサルベージ。キャプションとか諸々全部当時のままです。
後輩組、というより魂と灯色がだらだら話してるだけ。後輩組はゆっるい付き合いをしているといい(私が)
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照明など機能していない部屋の一角は青白い光で照らされている。光源であるモニタの前には、猫背になった魂がじっとそれを注視しキーボードを操っていた。暗い部屋で不健康な光を浴び続けるのは、学園のメインサーバーを管理する役目を担う彼の日常である。
その後ろ、少し離れた位置では灯色が硬い床の上に寝転びピクリとも動かず眠っていた。寝息すら聞こえないその姿は生きているかどうか不安になる者も多い。けれども、魂にとっては当たり前の日常の一コマでしかない。バグも現れない現在、起こす理由などないのだから、気にすることなくキーの上で指を踊らせた。
寝転がっていた灯色の指がピクリと小さく動いた。痙攣するように彼の身体が震え、小さな呻き声と共に酷く緩慢な動きで起き上がる。そのままゆるりと首を動かして暗い部屋を見回した。
「んー……魂、冷音は?」
「外走り回ってる」
八割方眠っている声に、魂はモニタから目を離すことなく答える。ふぅん、と答えにもならない声をあげて、灯色はつまらなそうにドアを見つめた。他の教室と違い、ガラス窓が無いその扉の向こうに何があるか見えることはない。ただ、魂の言葉から何が起きているかははっきりと理解できた。
二人の共通の友人である青雨冷音は普段は気弱で温厚な少年だが、雨の日は豹変する。口調も性格も強気で攻撃的なものに変わり、躁状態ではないかと疑うほどテンションが高くなる。雨の中外に飛び出し、ヒャーなどと叫び傘を振り回し走り回る姿は、最早学園名物の一つとなりつつあることを彼は知らないだろう。
本日の天気は雨。それも耳が痛くなるほど雨音がうるさくい土砂降りだ。朝から授業を放り出しそうなほどのテンションだった彼が放課後どうなっているかなど、火を見るより明らかだ。
「元気だね……何が楽しいんだろ……」
「さぁな。昔からあの調子だし」
やる気なく呟く灯色に、魂は同じくやる気なく答える。幼馴染で腐れ縁、長年共に過ごしてきた彼にすら分からないのなら他者が分かることなどないだろう。自然現象レベルだな、と灯色はぼんやり考え、窓のないドアをぼうと見る。雨の名を冠した彼はまだまだ帰ってこないように思えた。
「はしゃぐのはいいけど後のこと考えろよなー。毎度毎度ぐっちゃぐちゃのどっろどろになって帰ってきやがって……」
画面から目を離すことなく、魂はぶつぶつと愚痴をこぼす。放っておけばいいのに、と灯色は思うが、言っても意味はないだろう。二人ともなんだかんだ世話焼きのお人好しなのだ。
「……いいね」
「どこがだよ」
「ボクは、そういうの……覚えてないから……」
不律灯色には記憶がない。己の名前すら忘れた彼の今のそれは、学園に編入するために一時的に与えられたものだ。目的も忘れ、ただただ世界を彷徨う彼が過去にあったかもしれない光景、普通の未来に存在したかもしれない光景を羨ましがるのは当然ともいえるだろう。たとえ、それが意識することなく日常に存在するワンシーンだとしても、だ。
悪いことを言ってしまった、と魂は灯色の言葉に気まずそうに顔をしかめた。
「……まあ、どうでもいいけどね」
「いいのかよ」
つまらなそうにあくびをする灯色に、魂は思わず呆れたような声を上げる。先程までの寂しげな言葉は一体何だったのだ、と眉をひそめた。
「ていうか……魂はそういうの分からないの……? スーパーハッカーってやつなんでしょ……?」
「『スーパー』じゃねぇし。てか手がかり全くないのにできねーっての。その名前もマキシマ先生がつけたんだろ?」
「らしいね……」
「『らしい』って、お前当事者だろ……」
「半分寝てたから覚えてない……。ていうか、マキシマにボコボコにされて記憶飛んでる……気がする……」
先生、あんた一体何してんだ、と魂はげんなりとした表情を浮かべた。退治するにしてもやりすぎである。それほど灯色が強かったと考えるのが自然だろう。事実、灯色のバグ退治の腕は仕事を始めたばかりの頃から抜群に長けていた。記憶は消えてしまっても、身体はしっかりと覚えている。それが彼を探す手掛かりにならないか、と魂は幾度か考えたことがある。けれども、腕っ節の強い者などこの世界、それどころかこの狭い学園にすらある程度いる。それ以外の何も情報が無いのだから、そう簡単には見つからないだろう。下手をすればトライプルのように別世界から来たという可能性もある。手がかりがかけらもないのだから、どうしようもないのだ。
「……今は今で楽しいし」
魂たちもいるしね、と言って灯色はまた横になった。ヘッドホンが地面にぶつからぬよう器用に寝転がる姿は、まるでしなやかな猫のようだ。
「…………魂」
ガラガラとドアがゆっくりと開かれ、光が闇の深い部屋に注ぎ込まれる。二人の視線の先には冷音がいた。頭からつま先まで、全身余すところなくずぶ濡れになった彼は普段通りの落ち着いた様子だ。むしろ落ち込んで更にテンションが低くなっているようにも見える。
「雨、上がったのか?」
魂の問いに冷音は小さく頷いた。早すぎるよ、と酷く辛そうな、ほんの少しでも気を抜けば泣き出してしまいそうな声で彼は呟く。あんなに長く外にいたというのに、まだまだ足りないようだ。まだ入ってくんなよ、と魂は入口に佇む冷音に釘を刺す。機械だらけのこの部屋に水の塊と言っても差し支えないほど濡れた彼をそのまま入れるなどできない。魂は脇に置いてあった冷音のカバンからタオルを取りだし、持ち主に向かって投げた。自分でしっかりと用意していたらしい。案外理性的なのだな、と灯色はその光景を見て思う。
力なく頭を拭く冷音を見かねてか、魂は椅子から立ち上がりドアへと歩みを進める。部屋の境目に立ち尽くした手を伸ばして、無理矢理屈ませて乱暴にタオルを動かす。白いタオルが水を吸って重くなった頃には深い青色の髪はぼさぼさになっていた。冷音は急いで前髪を整え目元を隠す。雨が降っている時は隠すことなく行動するというのに、一体何が違うのだろう。それは皆の疑問だった。
「雨上がったなら帰るか。灯色はどうする?」
魂の問いに灯色はゆるゆると首を横に振った。もう日も暮れ、エスポワールと交代する時間が近い。一旦帰って休むには難しい時間だ。それを理解したのか、魂はそうか、と頷いた。
「んじゃ、また明日な」
いつの間にか二人分の鞄を手にした魂はひらひらと手を振り、そのまま冷音の背を押す。外に押しやられる冷音もじゃあね、と小さく手を振って廊下へと消えた。トン、と鉄でできた引き戸を閉めれば、元の闇が戻ってきた。
機械の低い唸り声が満ちる暗い部屋で灯色は寝転ぶ。薄く開かれた瞳で何もない暗闇をぼんやり見た。
記憶があれば、あのように友人らと帰ることができたのだろうか。
記憶があれば、このように寝て仕事をしてという日常を過ごすことはなかったのだろうか。
そんなくだらないことを考えて、灯色は寝返りを打つ。ヘッドホンが硬い床に触れ、カチンと小さな音を立てた。手を広げ、肉の薄い己の手を見つめる。
だらだらと友人らと話して、仕事が無い日は時折一緒に帰って、先生やエスポワールと他愛のない会話して、先輩方とバグ退治をして。今まで過ごしてきた日常を思い返して指を折る。
なんだ、今も変わらないじゃないか。
くぁ、と灯色は小さく欠伸をする。エスポワールが来るまでもう少しかかるだろう。時計は見えないが、なんとなく感覚で分かる。それほど、このような日常を過ごしてきたのだ。
重くなった瞼に逆らうことなく彼は目を閉じる。いつも隣にいる黄色と青が、暗い闇の中ぼんやりと見えた気がした。
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#赤志魂
#青雨冷音
#不律灯色
#後輩組
#赤志魂
#青雨冷音
#不律灯色
#後輩組
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SDVX
2024/1/31(Wed) 00:00
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雨音響く日常【後輩組】
雨音響く日常【後輩組】pixivで非公開にしていたものをサルベージ。キャプションとか諸々全部当時のままです。
後輩組、というより魂と灯色がだらだら話してるだけ。後輩組はゆっるい付き合いをしているといい(私が)
照明など機能していない部屋の一角は青白い光で照らされている。光源であるモニタの前には、猫背になった魂がじっとそれを注視しキーボードを操っていた。暗い部屋で不健康な光を浴び続けるのは、学園のメインサーバーを管理する役目を担う彼の日常である。
その後ろ、少し離れた位置では灯色が硬い床の上に寝転びピクリとも動かず眠っていた。寝息すら聞こえないその姿は生きているかどうか不安になる者も多い。けれども、魂にとっては当たり前の日常の一コマでしかない。バグも現れない現在、起こす理由などないのだから、気にすることなくキーの上で指を踊らせた。
寝転がっていた灯色の指がピクリと小さく動いた。痙攣するように彼の身体が震え、小さな呻き声と共に酷く緩慢な動きで起き上がる。そのままゆるりと首を動かして暗い部屋を見回した。
「んー……魂、冷音は?」
「外走り回ってる」
八割方眠っている声に、魂はモニタから目を離すことなく答える。ふぅん、と答えにもならない声をあげて、灯色はつまらなそうにドアを見つめた。他の教室と違い、ガラス窓が無いその扉の向こうに何があるか見えることはない。ただ、魂の言葉から何が起きているかははっきりと理解できた。
二人の共通の友人である青雨冷音は普段は気弱で温厚な少年だが、雨の日は豹変する。口調も性格も強気で攻撃的なものに変わり、躁状態ではないかと疑うほどテンションが高くなる。雨の中外に飛び出し、ヒャーなどと叫び傘を振り回し走り回る姿は、最早学園名物の一つとなりつつあることを彼は知らないだろう。
本日の天気は雨。それも耳が痛くなるほど雨音がうるさくい土砂降りだ。朝から授業を放り出しそうなほどのテンションだった彼が放課後どうなっているかなど、火を見るより明らかだ。
「元気だね……何が楽しいんだろ……」
「さぁな。昔からあの調子だし」
やる気なく呟く灯色に、魂は同じくやる気なく答える。幼馴染で腐れ縁、長年共に過ごしてきた彼にすら分からないのなら他者が分かることなどないだろう。自然現象レベルだな、と灯色はぼんやり考え、窓のないドアをぼうと見る。雨の名を冠した彼はまだまだ帰ってこないように思えた。
「はしゃぐのはいいけど後のこと考えろよなー。毎度毎度ぐっちゃぐちゃのどっろどろになって帰ってきやがって……」
画面から目を離すことなく、魂はぶつぶつと愚痴をこぼす。放っておけばいいのに、と灯色は思うが、言っても意味はないだろう。二人ともなんだかんだ世話焼きのお人好しなのだ。
「……いいね」
「どこがだよ」
「ボクは、そういうの……覚えてないから……」
不律灯色には記憶がない。己の名前すら忘れた彼の今のそれは、学園に編入するために一時的に与えられたものだ。目的も忘れ、ただただ世界を彷徨う彼が過去にあったかもしれない光景、普通の未来に存在したかもしれない光景を羨ましがるのは当然ともいえるだろう。たとえ、それが意識することなく日常に存在するワンシーンだとしても、だ。
悪いことを言ってしまった、と魂は灯色の言葉に気まずそうに顔をしかめた。
「……まあ、どうでもいいけどね」
「いいのかよ」
つまらなそうにあくびをする灯色に、魂は思わず呆れたような声を上げる。先程までの寂しげな言葉は一体何だったのだ、と眉をひそめた。
「ていうか……魂はそういうの分からないの……? スーパーハッカーってやつなんでしょ……?」
「『スーパー』じゃねぇし。てか手がかり全くないのにできねーっての。その名前もマキシマ先生がつけたんだろ?」
「らしいね……」
「『らしい』って、お前当事者だろ……」
「半分寝てたから覚えてない……。ていうか、マキシマにボコボコにされて記憶飛んでる……気がする……」
先生、あんた一体何してんだ、と魂はげんなりとした表情を浮かべた。退治するにしてもやりすぎである。それほど灯色が強かったと考えるのが自然だろう。事実、灯色のバグ退治の腕は仕事を始めたばかりの頃から抜群に長けていた。記憶は消えてしまっても、身体はしっかりと覚えている。それが彼を探す手掛かりにならないか、と魂は幾度か考えたことがある。けれども、腕っ節の強い者などこの世界、それどころかこの狭い学園にすらある程度いる。それ以外の何も情報が無いのだから、そう簡単には見つからないだろう。下手をすればトライプルのように別世界から来たという可能性もある。手がかりがかけらもないのだから、どうしようもないのだ。
「……今は今で楽しいし」
魂たちもいるしね、と言って灯色はまた横になった。ヘッドホンが地面にぶつからぬよう器用に寝転がる姿は、まるでしなやかな猫のようだ。
「…………魂」
ガラガラとドアがゆっくりと開かれ、光が闇の深い部屋に注ぎ込まれる。二人の視線の先には冷音がいた。頭からつま先まで、全身余すところなくずぶ濡れになった彼は普段通りの落ち着いた様子だ。むしろ落ち込んで更にテンションが低くなっているようにも見える。
「雨、上がったのか?」
魂の問いに冷音は小さく頷いた。早すぎるよ、と酷く辛そうな、ほんの少しでも気を抜けば泣き出してしまいそうな声で彼は呟く。あんなに長く外にいたというのに、まだまだ足りないようだ。まだ入ってくんなよ、と魂は入口に佇む冷音に釘を刺す。機械だらけのこの部屋に水の塊と言っても差し支えないほど濡れた彼をそのまま入れるなどできない。魂は脇に置いてあった冷音のカバンからタオルを取りだし、持ち主に向かって投げた。自分でしっかりと用意していたらしい。案外理性的なのだな、と灯色はその光景を見て思う。
力なく頭を拭く冷音を見かねてか、魂は椅子から立ち上がりドアへと歩みを進める。部屋の境目に立ち尽くした手を伸ばして、無理矢理屈ませて乱暴にタオルを動かす。白いタオルが水を吸って重くなった頃には深い青色の髪はぼさぼさになっていた。冷音は急いで前髪を整え目元を隠す。雨が降っている時は隠すことなく行動するというのに、一体何が違うのだろう。それは皆の疑問だった。
「雨上がったなら帰るか。灯色はどうする?」
魂の問いに灯色はゆるゆると首を横に振った。もう日も暮れ、エスポワールと交代する時間が近い。一旦帰って休むには難しい時間だ。それを理解したのか、魂はそうか、と頷いた。
「んじゃ、また明日な」
いつの間にか二人分の鞄を手にした魂はひらひらと手を振り、そのまま冷音の背を押す。外に押しやられる冷音もじゃあね、と小さく手を振って廊下へと消えた。トン、と鉄でできた引き戸を閉めれば、元の闇が戻ってきた。
機械の低い唸り声が満ちる暗い部屋で灯色は寝転ぶ。薄く開かれた瞳で何もない暗闇をぼんやり見た。
記憶があれば、あのように友人らと帰ることができたのだろうか。
記憶があれば、このように寝て仕事をしてという日常を過ごすことはなかったのだろうか。
そんなくだらないことを考えて、灯色は寝返りを打つ。ヘッドホンが硬い床に触れ、カチンと小さな音を立てた。手を広げ、肉の薄い己の手を見つめる。
だらだらと友人らと話して、仕事が無い日は時折一緒に帰って、先生やエスポワールと他愛のない会話して、先輩方とバグ退治をして。今まで過ごしてきた日常を思い返して指を折る。
なんだ、今も変わらないじゃないか。
くぁ、と灯色は小さく欠伸をする。エスポワールが来るまでもう少しかかるだろう。時計は見えないが、なんとなく感覚で分かる。それほど、このような日常を過ごしてきたのだ。
重くなった瞼に逆らうことなく彼は目を閉じる。いつも隣にいる黄色と青が、暗い闇の中ぼんやりと見えた気がした。
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