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No.62
その色を消す手段【ライレフ】
その色を消す手段【ライレフ】
即興二次創作で時間制限内に書けなかったので完成させてこっちに投げる。
それっぽさは皆無に近いけどライレフ。多分。
ジャンル:SOUND VOLTEX お題:赤いむきだし
制限時間:30分
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いち、に、と紙の束を弾いていく。薄いそれを繰る度、擦れる軽い音が指先から奏でられた。
怒涛のアップデートもようやく落ち着いたためか、本日は比較的ユーザーが少ない。そのためナビゲートの仕事はあまりないので室内を掃除をする運びとなった。すると、運営に関わる書類がそこかしこから出てきたのだ。処理済みのものはしっかりと整理しファイリングしてあるはずだが、と首を傾げる間も無く、犯人は見つかった。わざとらしく目を逸らした赤毛の姿は『私が犯人です』と手を上げているのと同義だ。
どれも重要度は低く量はさほど多くないが、乱雑に置いておくのは突然必要となった時に困る。運営の仕事はレイシスに一任し、今日は整理を優先することにした。もちろん、元凶である雷刀もだ。
今時紙だなんて、と烈風刀は嘆息する。データでのやりとりがほとんどであるこの世界で、紙を使うメリットはあまりないように思える。非効率であるが、定められたものなのだから仕方ない。黙って指を動かした。
規定分揃っているか数え終わり、少し形の崩れたそれを整える。次の山に取り掛かろうと積まれた塊に手を伸ばしたところで、ザリ、と嫌な音が聞こえた。次いで鈍い痛みが走り、烈風刀は小さく眉を寄せた。音の発生源と思しき己の指に視線をやると、白い肌に白い直線が走り、そこから赤が滲んでいた。どうやら、紙の縁で切ってしまったらしい。
「どうしまシタカ?」
いつの間にか、レイシスが隣に立ちこちらを覗きこんでいた。休憩を兼ね飲み物でも取りにいっていたのだろう、その手には彼女が愛用しているマグカップが握られている。
「いえ、指を切ってしまいまして」
見つめる桃色に、烈風刀は苦笑する。格好悪いところを見られてしまった、と痛みとは別の感情が彼の眉間に刻まれた。そんな少年の心など知らないレイシスは、軽く上げられた手に視線を移す。白い肌から鮮やかな赤い球が生まれていく様を見て、彼女は小さく声をあげた。
「はわっ、大丈夫デスカ?」
「ほんの少しですから大丈夫ですよ。すぐに止まります」
狼狽えるレイシスを見て、烈風刀は落ち着けるように優しい声で返す。所詮紙が擦れただけだ、皮膚が少し傷つけられた程度で傷は浅い。じきに血も止まり、数日もすれば治るだろう。
「デッ、デモ、血ガ」
ふつりふつりと指先を彩っていく赤を見て、レイシスははわわわわ、と依然あたふたと声を漏らす。ぱちり、と薔薇のように華やかなその瞳が大きく瞬きする。何か思いついたのか、彼女は手にしたマグカップを机に置き、傷口に触れぬよう烈風刀の手を取った。両手で優しく包んだそれを、彼女は彼の目の前、少しばかり高い位置に持ち上げる。血が出た場合、患部を心臓より高い位置に持っていけば止まりやすい、という話を聞いたことがある。彼女もそれを知っており、流れるそれを少しでも 防ごうとしたのだろう。
伝わる柔らかな温度に、どきり、と烈風刀の心臓が一際大きく脈を打つ。好意を寄せる女性に手を握られるのは、初心な彼には少し刺激が強かったらしい。その頬にぱっと紅が散った。
「えっ、いや、あの、大丈夫ですよ。おちついてくださ――」
「どしたー?」
理由は違えどレイシス同様慌てる烈風刀の肩に、ぐ、と重みがかかる。すぐそばで鼓膜を震わす声は兄のそれだった。配分された作業が終わり手伝いに来たのか、烈風刀が作業する机へと戻ってきたらしい。
「怪我?」
「紙で切っちゃったみたイデ」
あわあわとしたレイシスの声に、雷刀は彼女が握ったその手に目をやる。ふぅん、とどこかつまらなそうに呟いた彼は、そのまま烈風刀の手首を掴み己の目の前へと引き寄せる。少し強引なそれは、まるで彼女からその手を取り上げるようだった。
「あぁ、これくらい舐めときゃ治るって」
滲む赤を見て、雷刀はだいじょーぶだいじょーぶ、と空いた手をひらひらと振った。掴んだ手を離す様子はなく、むしろ尚自身の下へと寄せるように引いた。
「固まりかけてるっぽいけど拭いといた方がいいかな。レイシス、ティッシュ持ってきてくれないか?」
「ハイ! 分かりマシタ!」
レイシスはパタパタと備品を収納した棚の方へと駆けていく。そよぐ薔薇色の髪を見送り、烈風刀は手を掴む雷刀へと顔を向ける。その瞳は訝しげに細められていた。
「何なのですか、一体」
以前掴まれたままの手を見やる。引き寄せられたそれはあまりにも近く、そのまま手の甲に口づけしてしまいそうなほどだ。傷を見るにしても、こんなにも近くに寄せる必要はない。そもそも、彼が患部を見る必要などないのだ。
「別に」
答える声は平坦で、機嫌が悪そうに見えた。デスクワークを苦手とする彼だ、本日の業務が不満なのだろうか。それも全て自分が悪いのではないか、と口を開こうとしたところで、掴まれた手に兄が唇を寄せる姿が間近にあった。ぎくり、と怯えるようにその手が硬直する。何を、と尋ねるより先に、薄く開かれたそこから赤い舌が覗いた。
指先に生温かい感触と、ほんの少しの痛み。舐められたのだ、と気付くころには、赤で彩られた指先は赤の中に消えていた。
「ら、いと」
咎めるように名を呼ぶ。その音は動揺する彼の心中を表すかのように震えていた。あまりにも突然の行為に、烈風刀はその手を振り放せずにいた。硬直した指はどんどんと唾液に塗れ、蛍光灯の青白い光にてらてらと輝いていた。緩く尖らせた舌先が傷口をつつく。その痛みに我に返った彼は、力いっぱいに掴まれたままでいた手を引いた。血液と同じ、真っ赤なそれにから守るように、もう片方の手で囚われの身だったそれを包む。温かな塊から離れた指先が冷えていくように感じた。
「舐めときゃ治る、って言ったじゃん?」
「本当に舐める人がいますか!」
首を傾げる雷刀に、烈風刀は怒声をぶつける。舐めるはおろか、故意に傷口を抉っていたのである。語られる俗説が本当だとしても、治す気などさらさらないのは明白だ。
だってさぁ、と雷刀は机に肘をつき、不機嫌そうなに話し出す。音が発せられる度に姿を見せる赤に、思わずひくりと息を呑むのが分かった。
「烈風刀だけレイシスに手握ってもらうとかずるいじゃん?」
オレだってレイシスに手ぇ握ってほしいしー、と雷刀は机に突っ伏した。一連の行為は、どうやら子どもめいた嫉妬によるものだったらしい。あまりにも身勝手なその言葉に、そして酷く羞恥心を煽る行為に、烈風刀の胸にふつふつと熱い何かが湧くのが分かっる。傷の無い手をぐっと固く握りしめる。そのまま朱い頭に勢いよく振り下ろした。ゴン、と硬い何かがぶつかる鈍い音と、潰れたようなくぐもった 声が聞こえた。
「何すんだよ!」
「馬鹿!」
キャンキャンと罵りのドッヂボールが繰り広げられる中、ティッシュ箱を抱えたレイシスが帰ってきた。珍しく声を荒げ喧嘩する二人を見て、彼女は今日何度目かの驚きの声を上げた。
「一体どうしたんデスカ!?」
「だって烈風刀がさー!」
「何でもありません!」
オレは悪くないと言わんばかりの雷刀の言葉を烈風刀は掻き消す。指を舐められて喧嘩していました、なんて心底くだらなく恥ずかしいことを彼女に知られるのは絶対に防ぐべきだ。不満げな声を上げる兄の顔をぐいぐいと押し、距離を取り口を塞ぐ。もがもがと抵抗する彼を視界に入れぬよう、烈風刀はレイシスの方に向き直った。
「ティッシュ持ってきマシタヨ」
「ありがとうございます」
心配気に差し出すレイシスに、烈風刀は爽やかな笑みを作り礼を言う。薄いそれを一枚抜き取ると、すぐさま未だぬめり光る傷口を包んで隠した。
「もう止まっているみたいデスネ。よかったデス」
「オニイチャンのおかげでなー」
赤が白を侵さない様子に、レイシスは安堵の笑みを浮かべた。押しやる手から逃れた雷刀はからかうような愉快そうな声を上げる。今にも先程の出来事を面白おかしく話してしまいそうなそれに、烈風刀はキッと鋭い視線を向ける。射殺すような、とはこれのことを言うのだろう。あまりの気迫に、雷刀はへいへいと口を閉ざした。優等生らしく冷静な仮面を被る碧は、レイシスが絡むとこうも感情をあらわにするのだった。
「仕分けはあらかた終わりましたし、あとはファイリングすれば完了です。すぐに済ませますね」
「急がなくても大丈夫デスヨ? また怪我をしたら大変デス」
心配そうに見つめるレイシスに、烈風刀は大丈夫ですよ、と優しい声音で返事をする。嬬武器の双子がレイシスに対してあまりにも過保護であるのは有名だが、彼女も彼女で少し過保護の気があった。それだけ皆を大切に思っているのだろう。そんな彼女を心配させるわけにはいかない、と烈風刀は改めて考える。
「もうこんなことはしません。心配しないでください。業務をレイシスに任せっきりなのも申し訳ありませんから」
困ったようにハハ、と声を漏らす姿を見て、レイシスはそうデスカ、と頬に手を当てた。その瞳からは不安の色は薄まり、元の明るさを取り戻しつつあった。
「デハ、よろしくお願しマス!」
「任せてください」
ぐ、と両手を握り微笑むレイシスを見て、烈風刀も頬を緩めた。待ってマスネ、と手を振り自分の席へと戻る彼女を見送り、烈風刀は小さく息を吐いた。もうこんなことはこりごりである。
放置していた書類に目を戻すと、その脇で紅緋の瞳がじぃ、と薄い紙に隠れた指先を見つめていることに気付く。反射的に手で包み隠すと、雷刀はにぃと悪い笑みが浮かべた。
「早く治るといいな」
「どの口が言いますか」
ペシ、と頭を叩く。いってぇ、と笑う声を無視し、まとまった書類を再び手に取った。白いそれは赤で汚れることなく、ただただ黒い文字が浮かんでいた。
畳む
#ライレフ
#腐向け
#ライレフ
#腐向け
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SDVX
2024/1/31(Wed) 00:00
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その色を消す手段【ライレフ】
その色を消す手段【ライレフ】即興二次創作で時間制限内に書けなかったので完成させてこっちに投げる。
それっぽさは皆無に近いけどライレフ。多分。
ジャンル:SOUND VOLTEX お題:赤いむきだし
制限時間:30分いち、に、と紙の束を弾いていく。薄いそれを繰る度、擦れる軽い音が指先から奏でられた。
怒涛のアップデートもようやく落ち着いたためか、本日は比較的ユーザーが少ない。そのためナビゲートの仕事はあまりないので室内を掃除をする運びとなった。すると、運営に関わる書類がそこかしこから出てきたのだ。処理済みのものはしっかりと整理しファイリングしてあるはずだが、と首を傾げる間も無く、犯人は見つかった。わざとらしく目を逸らした赤毛の姿は『私が犯人です』と手を上げているのと同義だ。
どれも重要度は低く量はさほど多くないが、乱雑に置いておくのは突然必要となった時に困る。運営の仕事はレイシスに一任し、今日は整理を優先することにした。もちろん、元凶である雷刀もだ。
今時紙だなんて、と烈風刀は嘆息する。データでのやりとりがほとんどであるこの世界で、紙を使うメリットはあまりないように思える。非効率であるが、定められたものなのだから仕方ない。黙って指を動かした。
規定分揃っているか数え終わり、少し形の崩れたそれを整える。次の山に取り掛かろうと積まれた塊に手を伸ばしたところで、ザリ、と嫌な音が聞こえた。次いで鈍い痛みが走り、烈風刀は小さく眉を寄せた。音の発生源と思しき己の指に視線をやると、白い肌に白い直線が走り、そこから赤が滲んでいた。どうやら、紙の縁で切ってしまったらしい。
「どうしまシタカ?」
いつの間にか、レイシスが隣に立ちこちらを覗きこんでいた。休憩を兼ね飲み物でも取りにいっていたのだろう、その手には彼女が愛用しているマグカップが握られている。
「いえ、指を切ってしまいまして」
見つめる桃色に、烈風刀は苦笑する。格好悪いところを見られてしまった、と痛みとは別の感情が彼の眉間に刻まれた。そんな少年の心など知らないレイシスは、軽く上げられた手に視線を移す。白い肌から鮮やかな赤い球が生まれていく様を見て、彼女は小さく声をあげた。
「はわっ、大丈夫デスカ?」
「ほんの少しですから大丈夫ですよ。すぐに止まります」
狼狽えるレイシスを見て、烈風刀は落ち着けるように優しい声で返す。所詮紙が擦れただけだ、皮膚が少し傷つけられた程度で傷は浅い。じきに血も止まり、数日もすれば治るだろう。
「デッ、デモ、血ガ」
ふつりふつりと指先を彩っていく赤を見て、レイシスははわわわわ、と依然あたふたと声を漏らす。ぱちり、と薔薇のように華やかなその瞳が大きく瞬きする。何か思いついたのか、彼女は手にしたマグカップを机に置き、傷口に触れぬよう烈風刀の手を取った。両手で優しく包んだそれを、彼女は彼の目の前、少しばかり高い位置に持ち上げる。血が出た場合、患部を心臓より高い位置に持っていけば止まりやすい、という話を聞いたことがある。彼女もそれを知っており、流れるそれを少しでも 防ごうとしたのだろう。
伝わる柔らかな温度に、どきり、と烈風刀の心臓が一際大きく脈を打つ。好意を寄せる女性に手を握られるのは、初心な彼には少し刺激が強かったらしい。その頬にぱっと紅が散った。
「えっ、いや、あの、大丈夫ですよ。おちついてくださ――」
「どしたー?」
理由は違えどレイシス同様慌てる烈風刀の肩に、ぐ、と重みがかかる。すぐそばで鼓膜を震わす声は兄のそれだった。配分された作業が終わり手伝いに来たのか、烈風刀が作業する机へと戻ってきたらしい。
「怪我?」
「紙で切っちゃったみたイデ」
あわあわとしたレイシスの声に、雷刀は彼女が握ったその手に目をやる。ふぅん、とどこかつまらなそうに呟いた彼は、そのまま烈風刀の手首を掴み己の目の前へと引き寄せる。少し強引なそれは、まるで彼女からその手を取り上げるようだった。
「あぁ、これくらい舐めときゃ治るって」
滲む赤を見て、雷刀はだいじょーぶだいじょーぶ、と空いた手をひらひらと振った。掴んだ手を離す様子はなく、むしろ尚自身の下へと寄せるように引いた。
「固まりかけてるっぽいけど拭いといた方がいいかな。レイシス、ティッシュ持ってきてくれないか?」
「ハイ! 分かりマシタ!」
レイシスはパタパタと備品を収納した棚の方へと駆けていく。そよぐ薔薇色の髪を見送り、烈風刀は手を掴む雷刀へと顔を向ける。その瞳は訝しげに細められていた。
「何なのですか、一体」
以前掴まれたままの手を見やる。引き寄せられたそれはあまりにも近く、そのまま手の甲に口づけしてしまいそうなほどだ。傷を見るにしても、こんなにも近くに寄せる必要はない。そもそも、彼が患部を見る必要などないのだ。
「別に」
答える声は平坦で、機嫌が悪そうに見えた。デスクワークを苦手とする彼だ、本日の業務が不満なのだろうか。それも全て自分が悪いのではないか、と口を開こうとしたところで、掴まれた手に兄が唇を寄せる姿が間近にあった。ぎくり、と怯えるようにその手が硬直する。何を、と尋ねるより先に、薄く開かれたそこから赤い舌が覗いた。
指先に生温かい感触と、ほんの少しの痛み。舐められたのだ、と気付くころには、赤で彩られた指先は赤の中に消えていた。
「ら、いと」
咎めるように名を呼ぶ。その音は動揺する彼の心中を表すかのように震えていた。あまりにも突然の行為に、烈風刀はその手を振り放せずにいた。硬直した指はどんどんと唾液に塗れ、蛍光灯の青白い光にてらてらと輝いていた。緩く尖らせた舌先が傷口をつつく。その痛みに我に返った彼は、力いっぱいに掴まれたままでいた手を引いた。血液と同じ、真っ赤なそれにから守るように、もう片方の手で囚われの身だったそれを包む。温かな塊から離れた指先が冷えていくように感じた。
「舐めときゃ治る、って言ったじゃん?」
「本当に舐める人がいますか!」
首を傾げる雷刀に、烈風刀は怒声をぶつける。舐めるはおろか、故意に傷口を抉っていたのである。語られる俗説が本当だとしても、治す気などさらさらないのは明白だ。
だってさぁ、と雷刀は机に肘をつき、不機嫌そうなに話し出す。音が発せられる度に姿を見せる赤に、思わずひくりと息を呑むのが分かった。
「烈風刀だけレイシスに手握ってもらうとかずるいじゃん?」
オレだってレイシスに手ぇ握ってほしいしー、と雷刀は机に突っ伏した。一連の行為は、どうやら子どもめいた嫉妬によるものだったらしい。あまりにも身勝手なその言葉に、そして酷く羞恥心を煽る行為に、烈風刀の胸にふつふつと熱い何かが湧くのが分かっる。傷の無い手をぐっと固く握りしめる。そのまま朱い頭に勢いよく振り下ろした。ゴン、と硬い何かがぶつかる鈍い音と、潰れたようなくぐもった 声が聞こえた。
「何すんだよ!」
「馬鹿!」
キャンキャンと罵りのドッヂボールが繰り広げられる中、ティッシュ箱を抱えたレイシスが帰ってきた。珍しく声を荒げ喧嘩する二人を見て、彼女は今日何度目かの驚きの声を上げた。
「一体どうしたんデスカ!?」
「だって烈風刀がさー!」
「何でもありません!」
オレは悪くないと言わんばかりの雷刀の言葉を烈風刀は掻き消す。指を舐められて喧嘩していました、なんて心底くだらなく恥ずかしいことを彼女に知られるのは絶対に防ぐべきだ。不満げな声を上げる兄の顔をぐいぐいと押し、距離を取り口を塞ぐ。もがもがと抵抗する彼を視界に入れぬよう、烈風刀はレイシスの方に向き直った。
「ティッシュ持ってきマシタヨ」
「ありがとうございます」
心配気に差し出すレイシスに、烈風刀は爽やかな笑みを作り礼を言う。薄いそれを一枚抜き取ると、すぐさま未だぬめり光る傷口を包んで隠した。
「もう止まっているみたいデスネ。よかったデス」
「オニイチャンのおかげでなー」
赤が白を侵さない様子に、レイシスは安堵の笑みを浮かべた。押しやる手から逃れた雷刀はからかうような愉快そうな声を上げる。今にも先程の出来事を面白おかしく話してしまいそうなそれに、烈風刀はキッと鋭い視線を向ける。射殺すような、とはこれのことを言うのだろう。あまりの気迫に、雷刀はへいへいと口を閉ざした。優等生らしく冷静な仮面を被る碧は、レイシスが絡むとこうも感情をあらわにするのだった。
「仕分けはあらかた終わりましたし、あとはファイリングすれば完了です。すぐに済ませますね」
「急がなくても大丈夫デスヨ? また怪我をしたら大変デス」
心配そうに見つめるレイシスに、烈風刀は大丈夫ですよ、と優しい声音で返事をする。嬬武器の双子がレイシスに対してあまりにも過保護であるのは有名だが、彼女も彼女で少し過保護の気があった。それだけ皆を大切に思っているのだろう。そんな彼女を心配させるわけにはいかない、と烈風刀は改めて考える。
「もうこんなことはしません。心配しないでください。業務をレイシスに任せっきりなのも申し訳ありませんから」
困ったようにハハ、と声を漏らす姿を見て、レイシスはそうデスカ、と頬に手を当てた。その瞳からは不安の色は薄まり、元の明るさを取り戻しつつあった。
「デハ、よろしくお願しマス!」
「任せてください」
ぐ、と両手を握り微笑むレイシスを見て、烈風刀も頬を緩めた。待ってマスネ、と手を振り自分の席へと戻る彼女を見送り、烈風刀は小さく息を吐いた。もうこんなことはこりごりである。
放置していた書類に目を戻すと、その脇で紅緋の瞳がじぃ、と薄い紙に隠れた指先を見つめていることに気付く。反射的に手で包み隠すと、雷刀はにぃと悪い笑みが浮かべた。
「早く治るといいな」
「どの口が言いますか」
ペシ、と頭を叩く。いってぇ、と笑う声を無視し、まとまった書類を再び手に取った。白いそれは赤で汚れることなく、ただただ黒い文字が浮かんでいた。
畳む
#ライレフ #腐向け