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No.73

色紙に密やかな願いを込めて【グラルリ】

色紙に密やかな願いを込めて【グラルリ】
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公式の七夕絵がやばい……浴衣かわいいかよ……最高かよ……ありがとう公式……。
そんな感じの捏造マシマシグラルリ。ジータちゃんもいるよ。
Q.何で七月七日に投稿しなかったんですか?
A.ネタ思いついたのが八日の朝方だから。

 サァと風が走り抜ける音に続いて、細い葉と色とりどりの紙が揺れる。星空を背に踊るその姿は、暗闇の中でもはっきりと映った。
 空高く伸びる緑を見上げ、グランはほぅと小さく息を吐く。節が等間隔に並ぶ幹は随分と細いというのに、大木にも負けないほど力強くまっすぐに立っていた。手を広げるように生えた細長い葉の根元、茎の部分には札のような色紙がいくつも括り付けられている。鮮やかなそれには、様々な文字が踊っていた。
 グラン率いる騎空団は、長い航行の休息を兼ねてこの島に停泊する事となった。入港手続きをしていると、受付をしている島民が愉快そうに語りかけてきた。曰く、今この島では年に一回の七夕祭――笹という植物に願い事を書いた紙を吊し、成就するよう祈る祭りをやっているとのことだ。せっかくの機会だ、皆で遊びに行こうではないか、と団員たちに提案したのが昼のこと。出店や見世物を楽しみ、夜の帳が降りた頃、グランたちは広場に立ち寄る。街一番の広さを誇るこの場所には、大きな笹が数え切れないほど並んでいた。その全てには色鮮やかな紙がいくつも結ばれており、若い緑の植物を彩っていた。
 グラン、とはしゃぐ声が若き団長の名を呼ぶ。くるりと振り返ると、笹の間を駆けて抜けてくるルリアの姿があった。その細い身体は普段の白いワンピースではなく、ユカタヴィラという花の柄がいくつも散る衣装に包まれていた。せっかくのお祭りだから、と団に属するコルワが用意してくれたものだ。しっかりとグランたちの分まで用意してあったのはさすがと言うべきだろう。
 からころと可愛らしい足音が少年の前で止まる。宵闇の中でもキラキラと輝く青の瞳が、鳶色を見上げた。
「ねぇ、グラン! グランはもう短冊を吊してきましたか?」
「まだだよ。これから」
 そう言って、グランは少女の手元を見る。白く細い手には鮮やかな赤の色紙が握られていた。
「ルリアは何をお願いするの?」
 少年の問いに、ルリアは細長い短冊の上下を持ち、帆を張るようにピンと伸ばす。薄い紙には、少女らしい丸っこい文字が綺麗に並んでいた。
「『皆元気に旅ができますように』です!」
 楽しそうな笑みと共に語られた願いは、心優しい彼女らしいものだった。はにかむ愛らしい姿に、少年の頬が緩む。煉瓦色がふわりと弧を描く様子を見て、ルリアも楽しげにえへへと笑った。
「グランは何をお願いするんですか?」
 好奇心たっぷりの声で問うて、蒼い瞳が少年の手元を覗きこむ。途端、グランの身体が大げさなほどに跳ねた。あわあわと慌てて、少年は手に握った短冊をぎゅうと抱きしめ、彼女の視線から無理矢理外した。不可解な行動に、小さな頭がこてんと傾く。緩く結われた蒼空色の髪がさらりと揺れた。
「グラン?」
「あ、あぁ、いや。ごめん、ちょっとびっくりしただけだよ。何でもない。何でもないよ」
 あはははは、とグランは大きな笑い声をあげる。その音色は明らかに何かを誤魔化すもので、頬も妙に強ばっていた。もしかして見られたくなかったのだろうか。勝手に覗き込むなんて悪いことをしてしまった。己の過失に、少女の顔が曇る。蒼の視線がどんどんと足元に向かっていることに気付き、少年は慌てて抱えた短冊を離し、少女と同じように両の手で大きく広げて見せた。
「えっと、ほら! 『イスタルシアに辿りつけますように』だよ!」
 大きな皺が浮かぶ短冊を少女の目の前に差し出す。少し癖のある字が、幼い頃から夢見ていた大きな願いをはっきりと形作っていた。ルリアの視線が再び上がったことを確認して、少年は柔らかな笑みを向ける。栗色の瞳が柔らかに細められた。
「もちろん、皆で元気に、ね」
「――はい! もちろんです!」
 優しく語りかける少年に、ルリアも笑顔で答える。彼女の抱えた不安は綺麗に晴れ、満面の笑みが暗闇の中に咲いた。
「他のに埋もれちゃう前に吊るしてくるといいよ。ビィに頼んで一番高いところに結んでもらおう」
「そうですね。グランも一緒に行きましょう?」
「あー……、えっと……、ちょっと用事があるし、僕は後にするよ。先に行ってて」
 ほら、と少年は形の良い蒼い頭を撫でる。少女は不思議そうに小さく首を傾げてつつも、はいと元気よく返事した。
 ビィさーん、と大きな声で駆けていくルリアの背を見送って、グランは大きく溜息を吐いた。まだ幼さの残る顔に、安堵と疲労の色が色濃く浮かぶ。数え切れないほどの戦いをくぐり抜けてきた彼だが、今の表情は大きな戦いを終えた時よりもずっと疲れて見えた。
「へー」
 真後ろから聞こえた声に、グランはびくりと飛び上がる。ひ、と悲鳴を飲み込み慌てて振り返ると、そこには双子の片割れであるジータがいた。お揃いの鳶色の瞳は細められ弧を描いており、口元は意地悪げに口角を上げていた。
「『イスタルシアに辿り着けますように』、ねぇ」
「……何だよ」
 へー、ふーん、と意地の悪い笑みで眺めてくる兄弟に、グランは強く眉を寄せる。棘のある声など気にもかけず、ジータは片割れの手元へと素早く手を伸ばした。あっ、と少年は焦燥の声をあげるが、音が発せられた頃には手にしていたはずの短冊は少女の手の内にあった。
「あれれー? おかしいなー? 後ろにもう一枚紙があるよー?」
 以前共闘した少年の口調を真似て、ジータはわざとらしく疑問を口にする。普段から剣を振るうしなやかな指がするりと紙の上を滑る。若草のような淡い緑で染まった紙の後ろ側から、海底のような深い青の紙が顔を覗かせた。
「っ、返せよ!」
 血相を変え、グランは己の願いを込めた短冊を取り戻そうと、急いで少女が握る紙へと手を伸ばす。普段から鍛えた素早い動きでだったが、ジータは事も無げにひらりとかわす。先日、グランより先に修行を終え忍者のジョブを取得した彼女の動きは、まるで風のように軽やかで素早い。今のグランには捕まえられそうにない。ぐ、と少年の顔が悔しげに歪んだ。
「どうせ吊るすんだから隠す必要ないじゃない」
「吊るさないって!」
「吊るさないのにわざわざ書いたんだ?」
 へー、と咎めるような鋭い視線から顔を逸らし、グランは腰帯に刺していたうちわを取り出し口元を隠す。意気地の無い片割れの様子に、少女は呆れを多大に込めた溜息を吐いた。
「こんなの書くぐらいなら、直接言ってくればいいじゃない」
「……言えたら、そんなものわざわざ書いてない」
「へたれ」
「うるさい」
 辛辣な評価に薄く涙を浮かべた兄弟を見て、ジータははぁ、とわざとらしく嘆息する。ほんっとどっちもまどろっこしいんだから、という呟きは、笹の葉がさざめく音に消えた。
「で? これ、どうするの」
 二色の短冊をトランプを広げるように持ち、ジータは薄い紙をひらひらと振る。詰問めいた尖った声に、グランは力なく視線を少女へと戻した。それでも直接見つめることは出来ないのか、鳶の瞳はわずかに逸らされている。
「…………持って帰る」
「捨てないんだ」
「ここで捨てたら他の人に見られるかもしれないだろ。部屋で燃やす」
 長い沈黙の後に返ってきた答えに、ジータは上空を仰ぐ。そういう部分より先に気にかけることがあるだろう、と叫びたい気持ちをどうにか飲み込み、少女は手にした薄紙を元通りにぴったりと重ね合わせる。半ば投げやりに少年に突き出すと、剣胼胝がいくつも出来た指が力なく受け取った。二人の年若き団長の口は揃って真一文字に結ばれている。沈黙の中を、涼しげな夜風が通り過ぎた。
「あーもー、さっさと吊るしてきなさいよー。ルリア、待ってるわよ」
 沈黙を破り、ジータは少年の背越しに蒼の少女を見やる。空に浮かぶ星のようにきらきらと輝く瞳は、青々とした笹の葉と鮮やかに揺れる短冊たちを見つめていた。少女の視線に気付いたのか、ルリアが大きく手を上げこちらに向かって振る。青と黄の花が散るユカタヴィラの袖がひらひらと揺れていた。ジータも赤い花で彩られた袖を揺らし、手を振り返した。
 じゃーね、とそのままひらひらと手を振り、ジータはルリアの方へと歩き去る。金魚の尾のようにふわりと広がる帯が綺麗に結われた背を見送って、グランは視線を下ろす。深く息を吐き、今一度己の手元を見た。
 すっかりくしゃくしゃになった短冊には『イスタルシアに辿り着けますように』と大きな文字で書かれている。薄緑に染まるそれを少しずらすと、下から深い青の薄紙が姿を現した。薄紙には、紙色に埋もれてしまいそうなほど細く薄い文字で『ルリアと一緒にいられますように』と、淡い恋心が綴られていた。










おまけ
 満天の星空を隠してしまいそうなほどの緑を見上げ、ジータはほぅと感動の息を漏らす。木々が生い茂る森とはまた違う光景に、少女の視線は上空へと吸い込まれた。
 紺碧と常磐の夜空を堪能し、ジータは上へと向けた首を元の角度に戻す。ぐるりと辺りを見回すと、多くの人の中に団員たちの姿を捉える。楽しげにはしゃぐ彼らを愛おしげに眺めて、少女は歩き出す。丸っこい下駄がからころと軽やかな音を奏でた。
 人混みをすいすいと進む中、透き通る蒼髪が夜風にたなびくのが目に入る。宛もなく歩いていた少女の足が、見慣れたそれの方へと向いた。近づくと、爽やかな蒼の瞳は手元をじぃと見つめているのが分かる。集中しているのか、少女に気付く様子は無い。
「ルーリア」
 とん、と細い肩を叩くと、名を呼ばれた少女はひゃあと大きな悲鳴をあげた。想像以上の反応に、ジータも小さく跳ねる。驚きに思わず大きく目を見開くと、恐る恐るといった風に悲鳴の主が振り返った。
「な、なんだ……ジータでしたか……」
「ごめんごめん、驚かせちゃったね」
 安堵の溜め息を吐くルリアに、ジータは申し訳なさそうに謝罪する。ちょっとしたいたずらのつもりだったが、ここまで驚かせてしまうとは思わなかった。しゅんとする彼女の様子に、ルリアはわたわたと胸の前で大きく手を振った。
「大丈夫ですよ、ちょっと驚いちゃっただけです」
 困ったように笑う彼女に、ごめんね、と今一度謝罪の言葉を唱える。気にしないでください、と手を振る彼女の手に握られた薄紙の存在に気付き、ジータはぱちりと瞬きをした。
「ルリアも短冊書いたの?」
「……は、い」
 今この島で行われている七夕祭は、願い事を書いた短冊を笹に結わえるという行事だ。広場の片隅に何本も設置された笹の枝には、既に多くの短冊が吊され夜風を受けてひらめいていた。
 好奇心旺盛なルリアは昼からはしゃいでいたが、夜となった今はどこか覇気がなく見えた。何かあったのだろうか、お腹でも痛いのだろうか、夜風で冷えたのだろうか、大丈夫だろうか。過保護な思考にジータの目が眇められる。少女の変化に気付き、ルリアは今一度大丈夫ですよ、と苦笑した。
「えっと、あの、短冊もらったんですけど……、字を間違えちゃって、どうしようかな、って……」
 えへへ、と苦笑するルリアだが、その声も表情も普段よりずっと硬い。何か隠していることは、長い時を共に過ごしてきたジータでなくてもすぐに気付く。嘘を吐くのが苦手だというのに、彼女は余計な心配をかけまいと己の感情を無理矢理隠ししまいこんでしまう節がある。今回もそうなのだろう。
 ルリア、と彼女が抱えているであろう淀みを溶かすように、ジータは優しく蒼い少女の名を呼ぶ。うぅ、と気まずげな呻りの後、青い瞳が鳶色のそれを見上げた。絶対、絶対秘密ですよ、と真剣に訴える彼女に、ジータは力強く頷く。何よりも誰よりも可愛らしい彼女との約束を破る訳など無かった。
 安心したように、ルリアはぎゅうと握っていた短冊をそっとジータに差し出す。少し皺になった蒼空色の紙には、丸っこい字で少女の願いが綴られていた。
「え、っと、お願い事を書いたはいいんですけど……、はっ、恥ずかしくなっちゃって……」
 だんだんと細くなる声に比例して、蒼の少女の頬が赤く色付いていく。羞恥に耐えられなくなったのか、少女はううう、と今一度唸った。
 『これからもグランと一緒に旅できますように』と可愛らしい字が綴った願い事を読み、あー、とジータは音にならぬよう嘆息する。確かにこれは吊せない――人に、それも本人の目に触れる場所に飾ることなど、淡い恋心を宿したルリアにできるはずなどなかった。
 どうしましょう、とルリアははわはわと焦った様子でジータを見上げる。大丈夫だよ、と蒼い瞳の端に浮かぶ涙を消すようにジータは小さな頭を撫でる。真ん中にぴょこりと立った蒼い髪が揺れた。
「字を間違えてちゃいました、って言って新しいのもらってこよう? こっちのは……、私が預かっておいた方がいいかな」
「はい……」
 未だ赤が浮かぶ顔を伏せ、ルリアはか細い声で返事をする。自分が持っていては落としてしまうかもしれない、ということは彼女自身も分かっているようだった。うん、と頷き、ジータは温かな想いが描かれた短冊を懐の奥の方へ、絶対に落とさないようにしまいこむ。自室に帰ってから燃やして処分すればいいだろう。徹夜で自身の研究を行っている団員が多いのだから、夜中に火の元素を操っても怪しまれない。
「さ、行こう。あっちで配ってたはずだよ」
 少女の細い手を取り、ジータは広場の一角を指差す。人が多く集まっている簡素な屋台の側には『七夕祭の短冊はこちら』と大きく書かれたのぼりが立っていた。
「はい!」
 羞恥と不安に細められていた蒼穹を思わせる瞳が、ゆっくりと解けてふわりと弧を描く。抱えた不安は取り除けたようだ、とジータも安堵の笑みを浮かべる。早く行こう、とそのまま少女の手を引き、目的の場所まで歩みを進めた。
 からころと下駄の音が二つ分響く中、ジータは思案する。さて、同じ想いを抱えた片割れはどうするのか。後で見にいってやろう、と密かに意地の悪い笑みを浮かべ、少女は夜の広場を歩んでいった。

畳む

#グラルリ #ジータ

グランブルーファンタジー


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