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No.78

共に輝く舞台へ【レイ+グレ】

共に輝く舞台へ【レイ+グレ】
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ロケテでVのデフォクルーはグレイスちゃんだと聞いてうわああああああああってなったあれ。
結局デフォクルーはレイシスちゃんだったし、書きたかったこと全部公式キャラ紹介が書いちゃってるけど、稼働開始二日前に書き始めたやつだから許してほしい……。
レイグレ姉妹頑張れ超頑張れという話。

 着替えを終え、グレイスは壁に取り付けられた大きな鏡へと振り返る。メイク台の上、光る鏡面の中、己の長い髪が踊るように揺れたのが見えた。
 目の前に映る自分をじぃと眺める。普段ならば学園内では指定の制服を着ているが、今彼女の身体を包んでいるのは全く違うものだ。
 白地に青のラインが走るセーラー服は、ほのかに輝く白で縁取られた深い黒のベアトップに変わっている。胸元は大胆に開いており、間からは目に痛いほど鮮やかなピンクが覗いていた。少し下、上腹部はポップなマークが散りばめられた柔らかな生地が優しく包み込んでいた。胸部を彩る衣装を繋ぎ止める肩紐は細く、片側は大振りなフリルで縁取られている。大人びた格好良さの中に、少女らしい可愛らしさをもたらすものだ。
 白のショートパンツは、トップスと同じ色の短いスカートに変わっている。フリルがふんだんにあしらわれたそれはボリューミーで、膨らんだシルエットや大ぶりなフリルが揺れる様は可愛らしさに溢れている。細い腰に巻かれたビビッドカラーの太いベルトには、彼女らが生きる世界の名が大きく刻まれていた。
 変なところはないだろうか、と少女は全身を確認しようと鏡の前でくるくると身を翻す。高い位置に結ったポニーテールが、風に揺れる花のようにふわりと舞った。
 重力戦争が終わり、輝く海の世界が生まれて二年。今、ネメシスはまた新しい舞台へと歩み出そうとしていた。レイシスとともにメインビジュアルを務めることが決まったグレイスには、新しい衣装が与えられることとなった。稼働が間近に迫った今日は、不備が無いか最終確認をしているのだ。
 鏡像と正面から向き合い、少女は己の胸に手を当てる。ロケテストでのナビゲートやポスター撮影などで既に何度か着ているが、未だこの姿に慣れずにいた。学園内では指定の制服を着ており、私服は姉手ずからデザインした少女趣味のものを与えられている。このようなデザイン傾向の衣服は以前ライブイベントで着たぐらいで、あまり馴染みがないのだ。
 着慣れぬにそわそわとしているが、薄く色付いたその口元は緩やかに綻んでいた。大人びて振る舞おうとしているが、グレイスも年頃の女の子なのだ。新しい衣装に心が踊り、はしゃいでしまうのは仕方のないことだろう。
「サイズは大丈夫デスカ?」
 突然背後から飛んできた声に、少女の細い肩が小さく跳ねる。急いで振り返ると、そこにはにこやかに笑うレイシスの姿があった。そうだ、同じく最終確認を行うために彼女も共にいたのだった。衣装に気を取られてすっかりと忘れていた。今までの落ち着きのない様子を全てを見られていたという羞恥に、躑躅の白い頬に紅が差す。姉の慈愛に満ちた笑顔から逃げるように、マゼンタの瞳がふいと逸らされた。
「えぇ、問題ないわ」
 平静を装った声で答えると、良かったデス、と嬉しそうな言葉が返ってくる。事実、衣装は初めから驚くほどぴったりに作られていた。ネメシスで暮らし始めた頃はレイシスが服を作り与えてくれたので、サイズを把握されていてもおかしくはない。しかし、身体が安定し成長してから測り直した覚えはないというのに、何故今でも寸分の狂いもない衣装が作れるのだろうか。ある種の恐怖すら浮かんでくる。ふるふると緩く頭を振り、考えてもどうしようもないそれを意識から無理矢理弾き飛ばした。
 真正面に立つ姉の顔を見ることができず、躑躅は壁に面したメイク台へと視線を移す。化粧道具と小物が散らばるそれの上から、白いマイクを手を取る。細い柄に描かれた新たな世界の名前を眺め、少女は静かに目を眇めた。
 もうすぐ始まる新しい世界。そこでは、グレイスが正式にナビゲートを担当することとなった。
 ネメシスに迎え入れられてからの二年間、仲間たちに助けられつつも少女はナビゲーターとしての基礎を学んできた。始めはたどたどしいものだったが、本人の頑張りもあって今では一人で仕事を任されることも増えてきている。彼女が確かな成長を遂げていることは、運営に携わる皆が認めていた。
 グレイス自身、ナビゲーターとしての実力がついてきていることは実感している。けれども、今までレイシスが担当していたその位置に己が就くのか、と考えると、胸の中に黒く重い何かが渦巻くのだ。
 一人でもきちんと役目を果たせるだろうか。レイシスのようにユーザーをサポートすることができるのだろうか。己にはその技量があるのだろうか。何か大きなミスをして迷惑を掛けないだろうか。本当に、私でいいのだろうか。
 普段ならば気に掛けることのない些細な懸念がいくつも募り、どんどんと膨れ上がっていく。小さな体躯を潰してしまいそうな不安から己を守るように、グレイスは目を伏せマイクを握りしめる。青いネイルで彩られた細い指は、手にしたそれと同じほど色を無くしていた。
「緊張しマスヨネ」
 どこか心許ない声に、少女はばっと顔を上げる。さっきまで逸らしていた視線の先には、眉端を下げたレイシスが立っていた。薄く苦い笑みを浮かべる姉を見て、妹は驚きに目を瞬かせる。ナビゲートシステムとして常に最前面に立ち、皆を率いていく彼女はいつだって笑顔で元気に満ち溢れている。このような表情をすることなど、滅多にないことだ。
「……あなたでも緊張なんてするのね」
「しマスヨ」
 精一杯の軽口に、レイシスは酷いデス、と唇を尖らせる。その声も表情も、普段の太陽のように明るく輝かしいそれとは違う、どこか弱々しく陰ったものだった。彼女らしくもない様子に、グレイスは呆けたように姉を見る。生まれたばかりでろくに経験を積んでいない自分ならまだしも、何故生まれ落ちた時からこの役割を十全に果たしている彼女がこんな表情をするなんて。いつだって未熟な自分を引っ張っていってくれる彼女が、こんな弱音を吐くだなんて。思ってもみないことだった。
 呆然と己を見つめる妹の心情を察したのか、薔薇色の少女は安心させるように小さく笑みを浮かべ、えへへと笑声を漏らす。愛らしさに溢れたその響きには、微かに寂しさが混ざっているように聞こえた。
「新しい世界に行くのはいつだって緊張しマスヨ。変わることは不安デスカラ」
 小さな可愛らしい口が、細く静かな音を紡ぐ。わずかに伏せられたその目には、憂いが薄く影を落としていた。普段よりも華奢に見える姉の姿に、グレイスは苦しげに眉を寄せる。彼女を覆う闇を晴らしたいというのに、自身が抱えるそれにすら押し潰されそうなほど未熟な自分にはどうにもできないのだ。言葉のひとつすら出てこない無力さに、少女は口を引き結んだ。
 デモ、と薔薇色の少女はまとわりつく影を振り払うように力強く声をあげる。丸く愛らしい目が気合いを入れるようにぎゅうと瞑られ、ぱちりと開く。再び現れた紅水晶には、元のキラキラとした輝きが戻っていた。
「遊んでくれる皆サンがもっと楽しんでくれルノハ、とっても嬉しいことデスカラ。緊張はしマスケド、それ以上に新しい世界が楽しみナンデス!」
 胸の前で両手を握り、少女はにこやかに笑う。そこにはもう憂色は無く、普段と変わらぬ太陽のような明るさと温もりに満ちた笑顔があった。
 華やかに咲く薔薇色を見て、躑躅は眩しそうに目を細める。きっと先ほど漏らした言葉通り、彼女も年相応に不安を抱えているのだ。それでも、皆のために顔を上げまっすぐに進んでいく。その力強さが、グレイスにとって眩しくてたまらなかった。
 かつん、と狭い部屋に靴音が一つ落ちる。強く握りしめ冷え切った己の手が、温かく柔らかなものに包まれる。一体何だと思うより先に、そのままぐいと持ち上げられる。驚きに開いた柘榴石の中に、己の手を握った姉の姿と、花開くかのような満面の笑顔が映った。
「ソレニ、今回はグレイスが一緒にデスカラ。ダカラ、きっと怖くなんてありマセン!」
 励ますように妹の手をぎゅうと握り、レイシスははきはきと言葉を紡ぎ出す。元気いっぱいのその声には、二人ならば絶対に上手くいくという自信と、相手に対しての信頼に満ち溢れていた。
 姉の言葉に、グレイスは大きく目を見開く。ぱちぱちと瞬いて数拍、引き結ばれていた口がようやく綻び、その端がゆっくりと持ち上がった。小さく描かれた曲線は、まさしく笑みの形をしていた。
「……そうよね。私がいるもの」
 咲き誇る薔薇色を見つめ、躑躅は小さく言葉を漏らす。愛おしそうに細められたその目には、安堵と色が広がっていた。
 誰にだって優しく慈愛の溢れる彼女が、不安に縮こまる自分を気遣ってくれているということは分かっている。それでも、憧れ目指し努力してきたその人が、まだまだ未熟な己を頼ってくれる。投げかけられたその言葉は、グレイスにとって嬉しくてたまらないものだった。
 だからこそ、その隣に立ちたい。自分よりも他人を優先するような彼女を支えたい。世界を輝き照らす姉のようになりたい。数年の間、胸の内に積もっていた思いがぶわりと広がる。素直に言葉にすることができない自分は、態度で表すしかないのだ。そう考えて、少女は気付かれぬよう小さく頷いた。
 そうデスヨ、とレイシスは弾んだ声をあげる。憂慮に潰されそうになっていた妹がやっと笑ってくれたのが嬉しいのだろう。溢れる感情をそのまま表すように、握ったその手をぶんぶんと振った。常ならば忙しない、子供じゃないのだから、と振り払うグレイスだが、今日ばかりは伝わる慈しみに満ちた温もりを手放すことはしなかった。
「そうよ、あなた以上に立派なナビゲートをしてみせるんだから」
 ふん、と不遜に笑い飛ばし、グレイスはそう言ってみせる。事実、今で満足などしていない。もっとユーザーを導けるように、隣に並ぶべき彼女に近づけるほどにならねばならないのだ。言葉通り、レイシスを超える気概でいなければならない。今までも、これからもずっとそうだ。こんなこと絶対に口に出してなんかやらないけれど、と内心呟き、少女はにまりと口角を上げた。
 その言葉に、目の前の鮮やかな桃の瞳が大きく開かれる。こてんと首を傾げて少し、叩きつけられた宣言をはっきりと理解して、レイシスは不満げに声をあげた。
「ワタシだってまだまだ負けマセンヨ!」
「さぁ? どうかしら」
 子供のようにむくれる姉と、不敵に妹。にらめっこをするかのように二人は互いをじぃと見つめ合う。しばらくして、どちらともなくくすくすと小さな笑い声をあげた。可愛らしい軽やかな二重奏が、二人きりの部屋に響いた。
「これからもよろしくお願いしマスネ」
「もちろんよ。よろしく」
 手を繋ぎ合ったまま、姉妹は穏やかに言葉を交わす。そこにはもう不安と緊張の鈍い色は無い。輝かしい未来への期待と、互いへの強い信頼があった。
 ひとりきりの暗く寂しい世界で、ずっと見つめ憧れてきた存在。手を伸ばしても絶対に届かないと思い込んでいたこの位置に、今自分は立っているのだ。それも、思い描いてきたそれよりもずっと素敵な形で、この世界で生きている。繋いだ先から伝わる姉の温かさと響く明るい声に、グレイスは小さく息を吐く。細いそれは、幸せの色をしていた。
 緊張が解け温度と色を取り戻した手から、重なり包み込んでいた温もりが去って行く。寂しさを覚えるより先に、空いている方の手に細く白い指が絡みつく。指と指の間に己のそれをそっと潜り込ませ、レイシスは大切な妹を優しく捕らえた。
「サァ、稼働までもうすぐデスヨ! 一緒に頑張りマショウ!」
 繋いだ手をきゅっと握り、少女は今一度躑躅に語りかける。そうね、と素っ気なく返し、グレイスもそのしなやかな指を姉の手に絡めた。
 ついさっきまで不安でたまらなかったのに、今では新しい世界が楽しみで仕方がない。それはきっと、隣に寄り添ってくれる彼女がいるからこそだ。
 決して口に出さない姉への信頼と憧れを胸に仕舞い込み、グレイスは鮮やかに花開いた薔薇色を愛おしげに見つめた。

畳む

#レイシス #グレイス

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