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No.93
向かい合い愛し合い【ライレフ/R-18】
向かい合い愛し合い【ライレフ/R-18】
対面座位がとても好き→じゃあ推しカプの対面座位最強じゃね?
そんな感じで生まれた文章です対戦よろしくお願いします。
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崩折れそうな足を叱咤し、膝立ちになる。正面、己の腰を支える朱に縋り付くように抱きつき、その足に跨った。肉付きの薄い尻たぶに、熱の塊が触れる。肌を焼くような愛おしい温度に、烈風刀は小さく息を呑んだ。
ぎこちなく腰を揺らし、焼け付く楔を後孔へと押し当てる。入念に解され濡れそぼつそこに触れた瞬間、ぷちゅ、といやらしい音があがった。ほんの小さいはずのそれが、頭の中にいやに大きく響く。本能に食い尽くされる中、どうにか生き残っていたわずかな理性が羞恥を叫ぶ。常ならばストッパーとして機能するそれも、快楽の沼に沈みゆく頭には意味を成さなかった。
震え崩れ落ちそうになる足を、目の前の兄にしがみつくことでどうにか堪える。愛し愛された頭の中はもうドロドロで、身体の制御方法など忘れてしまいそうだ。それでも、ここで体勢を崩すことは――崩折れ、重力に身を任せ熱塊を一気に飲み込むのは、絶対に避けるべきことだ。だってそんな、この愛おしい雄を最初から全部受け入れるだなんて、解れ切った隘路を一気に割り開かれるなんて、薄い肚の最奥を力いっぱい突かれるだなんて、そんな恐ろしいこと――そんな、とってもきもちがいいことをされて、このとろけきった頭と身体が耐えられるはずなどない。
最悪の――あるいは最高の――パターンを思い浮かべ、無意識に腰が揺れる。迎え入れる準備を済ませた孔が期待にきゅうと窄まる。ぁ、と熱を孕んだ吐息が細く漏れ出た。
「ちゃんと支えてるから。ゆっくりでだいじょぶだからな?」
柔らかな言葉が耳に直接注ぎ込まれる。努めて穏やかな響きには、確かな情欲の炎が宿っていた。腰に回された手が、宥めるようにそっと肌を撫ぜる。たったそれだけで、甘い痺れが背筋を駆けた。込み上げる嬌声をどうにか喉に押さえ込み、碧は小さく首肯する。視界の端に映ったそれに、朱も同じく頷いた。
目の前の肩についた己の手と、腰を支える兄の手を頼りに、緩慢な動きで腰を落としていく。熱された硬い楔の先端が、解され潤んだ蕾に触れる。勇気を振り絞り咥え込もうとするも、狙いが上手く定まらず、ずるりと逃げられてしまう。肌を擦り上げる温度に、ビクリと身体が跳ねた。
今度こそ迎え入れるべく、姿勢を正し熱を門へと宛がう。何度か繰り返すも、愛しい雄は尻肉の間を滑って逃げてしまうばかりだ。ぬち、ぐち、と粘ついた音が二人きりの部屋に響く。耳から思考を犯す淫音に、頭の奥がピリピリと痺れた。焦れて拙く動く中、腰に回された手にわずかに力が込められる。もどかしいのは互いに同じようだ。
落ち着こうと一息吐き、一度軽く腰を浮かせる。愛しい熱との別離に、腹の奥が切なげに鳴き声をあげた。息を整え、再びゆっくりと下ろしていく。先端と孔穴が、ちゅ、と口づけたように艶めかしい音をたてて触れ合う。はぁ、と大きく息を吐いて、気付かぬ間に強張っていた身体から力を抜く。脱力しわずかに綻んだ蕾を、しっかりと雄に押し当てる。目打ちするようにわずかに埋まったのを頼りに、今度こそ熱塊を胎内に迎え入れた。
硬く張り詰めた頭が、丁寧に解された内部を割り開く。大きく張り出した部分が、柔らかな内壁を擦り上げる。太い茎が、狭い内部を満たしていく。うちがわを支配されていく感覚に、烈風刀は身を縮こませ朱い頭を掻き抱いた。
「ッ、ぁ、あ……っ」
熱い欲望が潤む肉に切り込んでいく中、少年は細い声を漏らす。断続的に吐かれる浅い息は、情欲に溺れれていた。
ゆっくりゆっくり、硬度を増した剣が熱を孕む鞘へと納められていく。ようやく根本まで受け入れたところで、奥底まで潜り込んだ先端が隘路の行き止まりをこつんとノックした。神経回路を焼く快楽に、碧は背を反らし甘ったるい悲鳴をあげる。媚肉が、咥え込んだ欲望を力いっぱい締め付ける。ぐ、と苦しげに喉が鳴る音が部屋に落ちた。
「……動く?」
互いに荒い呼吸をこぼす中、雷刀は抱いた腰をさすり、静かに問う。本当ならば、挿入だけでこれほどとろけてしまっている己よりも、まだ幾ばくか余裕のある彼自身が動く方が良いはずだ。けれども、この体位を――受け止める側が動く愛し合い方を望んだのは兄だ。ならば、その欲を満たすため、希望通りに自分がきちんと動くべきである――己の拙い動きで十全に満足してもらえるかは疑問なのだけれど。
だいじょうぶです、と力の入らない舌をどうにか動かし、呟くように答える。有言実行とばかりに、少年は掻き抱いた赤い頭を支点に再び腰を上げていく。入り込んだ楔が腹の中をゆっくり擦り上げる感覚に、白い背がふるふると震えた。崩れそうになるのをどうにか持ちこたえ、傘開いた場所を埋め込んだまま、元の膝立ちの格好になる。またゆっくりと腰を落とし、今一度硬い熱を迎え入れた。名残惜しげに抜き、悦んで挿れを繰り返す。幾度も繰り返すうちに、ぎこちがない動きはどんどんと激しさを増していった。
胎内を暴かれる快楽を求め、少年は必死に腰を振りたくる。硬い幹が、張り出した傘が、熱を帯びた肚をごりゅごりゅと蹂躙していく。予め丁寧に愛された内部は、純然たる淫悦のみを拾い上げ脳髄に叩き込んでいった。
動く度、二人の間に挟まれた己自身を兄の腹に擦り付ける形になってしまう。体位故とはいえ、鍛錬により割れた腹筋にはしたなく涎を垂らす自身を擦り付けるなど、何と浅ましいのだろう。脳の奥底を背徳が引っ掻いた。
「ひっ、あ、ア、ぁ」
兄の首にしがみつき、烈風刀は甘い声をあげる。とろけた声と共に、水底色の瞳からポロポロと悦びの涙が零れ落ちた。
恭悦を求め、細い腰が揺らめきくねる。背側を一気に擦り上げられる度、脊髄を快楽信号が駆けていく。腹側、好む場所を小突かれる度、ふわふわとしたうちがわが侵入者を強く抱き締める。淫らな肚が、法悦のを高らかに叫んだ。
熱心に抽挿する度、浅葱の髪がさらさらと流れる。細く柔らかなそれが汗ばんだ白い肌に張り付き乱れる様は、艶やかな色香を振りまいていた。
「ぁ、あッ、ら、いとっ」
悦楽の波に飲まれる中、碧はしがみついた愛しい人の名を呼ぶ。腰を掴む指が、しっとりとした肌に浅く食い込む。ぅ、と快楽と痛苦が混じった音が耳のすぐ隣から聞こえる。ほぼ同時に、薄い肚を穿つ欲望がびくりと震える感覚がした。愛しい恋人の可愛らしく淫らな声を耳に直接注ぎ込まれているのだ。張り詰めた雄が反応を示すのは当たり前だろう。
白い身体が艶めかしいダンスを踊る中、息を呑む音と歯と歯が擦れる音が薄暗い空間に落ちる。快感に支配される思考の中でも、愛しい人が焦れる様はすぐに分かった。
本当ならば、自身の手で本能がままに揺すり、突上げ、思うがままに動きたいのだろう。けれど、心優しい兄は己が『だいじょうぶ』と言ったのを尊重し、欲を抑え身を任せてくれているのだ。その優しさと与えているであろう苦しみに、胸がずきりと痛んだ。
「らいと」
ゆらゆらと揺れる腰をどうにか抑え、烈風刀は恋しき人の名前を呼ぶ。どうにかしがみついていた腕を解き、ゆっくりと身を起こす。見下ろした先にある紅玉は、ギラギラと肉食獣めいた輝きを宿していた。わずかに歪んだ表情から、彼が内に燻ぶる獣欲を抑えていることが痛いほど分かる。兄のため、などと称しながら、自分本位に動いていた己のなんと浅ましいことか。罪悪感が胸の内を染めていった。
「らいと、……うごいて、だいじょうぶ、です、から……。がま……ぅ、しない、で」
「い、や。我慢なんて、してねーって」
だいじょーぶ、と微笑み、朱はしっとりとした碧髪を撫ぜる。口元は柔らかな弧を描いているが、ずっとその笑顔を見つめてきた弟から見れば、強張ったものであるのは明らかだ。
「だい、じょ、ぶ……です」
ゆっくりと息を整えつつ、少年は言葉を紡いでいく。我慢していないなんて、大丈夫だなんて、嘘であることは自明だ。だからこそ、今己の思いをはっきりと伝えねばならない。
「ちゃんと、らいとにもきもちよくなって、ほしいんです。……だか、ら……ね?」
いっしょにきもちよくなりましょう?
薄っすらと紅に染まる兄の頬に手を当て、弟は小さく首を傾げ問いかける。欲と熱にとろけた声は、情欲を掻き立てる響きをしていた。
「……辛かったらちゃんと言えよ」
幾分か低い声が、鼓膜を震わせる。了承の意を示す言葉に、少年は再び抱きつくことで応える。すり、と擦り寄せた首は雫が伝うほど汗ばんでいた。汗と兄の匂いが鼻孔を満たす。きゅう、と欲望に満たされたナカが収縮した。
腰に添えられていた手が、支えていたそれをしっかりと鷲掴む。ガッチリと掴む様は、捕らえた獲物を逃げられぬよう組み敷いた肉食獣を思わせた。
烈風刀自身の手助けもあり、細い腰がゆっくりと持ち上げられる。瞬間、腕が降ろされると同時に、座り込んでいた腰が跳ね上がり、薄い尻に打ち付けられた。
「ッ、あっ! アッ……ぅ、ぁ」
ぱちんと肌と肌が打つ音が、二人きりの部屋に響く。鋭い初動に反し、こつんこつんとどこか遠慮がちに突き上げられる。ゆるゆると優しく内部を擦られる感覚に、少年は抱きつく身を更にぎゅうと縮こませる。激しさだけでいえば、先程己が自分勝手に動いていた時の方が勝る。だが、兄と一緒に愛し合っているという事実が、何よりも甘美な快楽として神経を焼いた。
調子を伺うような動きは、次第に速さを増していく。子供をあやすような優しい律動は、既に欲に任せた重いものへと変貌していた。
本来ならば腰を揺らめかせ愛に応えるはずが、激しい衝撃にそんな余裕など奪われてしまっていた。怯える子供のようにぎゅうと首にしがみつく。開いたままの口は意味を成さない音をこぼす。純然たる快感を拾い上げる内部は、雄を歓迎するようにうねり更なる場所へと誘った。
腰を掴んでいた手が、次第に肌を伝って降りていく。その先、肉の薄い尻たぶを、骨ばった手が包む。姿勢の補助の役割が強かったものが、身体全てを持ち上げる形へと変貌する。興奮を表すかのように、掴んだ尻肉にだんだんと固い指が食い込んでいく。丸いそれが歪に形を変える姿は、淫靡というのが相応しいものだ。
ぱちゅんぱちゅんと水音が鳴り響く。下ろす腰に、跳ね上がる腰がぶつかる音だ。濡れた肉と肉が打ち鳴らす音色は、何よりも淫猥だ。それこそ、普段の品行方正な烈風刀ならば耳を塞ぐであろうほどに。
「ひっ、あっ! ……ぅあ、ぁ、あっ!」
しかし、その音色は今の彼にとっては性的興奮を煽るものと化していた。鼓膜を震わす甘い楽章が、脊髄を走る鋭い快感が、脳味噌をとろかしていく。本能を顕にした少年は、愛する者と獣の悦びをひたすらに求めた。
目一杯満たされた洞が、熱塊の形を覚えようと――否、既に覚え込まされたそれをきゅうきゅうと締め付ける。受け入れたそれが脈打つ感覚が分かるのではないかと錯覚するほどの熱烈な抱擁だ。甘えるような仕草に応えるように、打ち付ける勢いが増す。鍛えられた腹すら破ってしまいそうな凄まじさであった。
雄の証が肚の最奥を穿つ。暴かれざる場所を強くノックされる度、脳髄がビリビリと痺れた。ぐぅ、と喉が潰れたような音が溢れる。溢れそうになる快楽を音で逃がそうにも、絶えず与えられるそれには意味をなさない。ただ、欲望の奔流に身を任せる他なかった。
奥底を守る襞が、雄を最奥のその先へと誘う。吸い付くように先端を締め付けられ、隘路を蹂躙するが肉槍がビクビクと震え跳ねる。熱い楔に満たされ、肉道に抱きしめられ、脳味噌が快感に支配されきっていく。きもちがいいことに魅せられた二人には、ひたすら肉を打ち付け合わせた。
閉じる術など無く開かれたままの口から、ぅ、ぁ、と意味の無い音がひっきりなしに漏れ出る。開け放たれたそこから、唾液がとろとろと漏れ流れいく。涙を讃えた翡翠から、獣欲で熱された涙がこぼれ落ちる。頬から、おとがいから、伝い落ちていく液が、抱きついた兄の背を汚す。あまりにもはしたない現状に、ぼやける思考が羞恥を覚える。すぐさま、痛いほどの性感が塗り潰していった。
「っァ、あっ……、そ、こ……! ぁ……!」
動きを変えた剣の硬い切っ先が、好む場所をゴリゴリと擦り上げる。イイところを容赦無く攻め立てられ、少年は抱きついた身体により縋り付いた。外もナカも強く抱きしめられ、朱は苦しげに喉を鳴らす。その響きには、かすかな加虐心がにじんでいた。
「ここ……、っ?」
いたずら気な声――と言うにはあまりにも獣めいた響きだが――と共に、浅い場所を幾度も突かれる。柔らかに膨れた箇所を容赦無く穿たれ、白い背がしなる。高い嬌声と共に、日に焼けていない喉が晒された。
「あっ……、ア、ァ……や、ぁ……!」
擦られ突かれる度、視界に細かな光が舞う。許容量を遙かに超える快楽が脳髄に直接叩き込まれ、少年はただただ艶やかな声をあげることしか出来なかった。白に染まりゆく視覚、愛する者の香りに包まれる嗅覚、淫猥な合唱に犯される聴覚、愛しい人と深くまで触れあう触覚。五感のほとんどが朱に支配されていた。
浅い場所を突く抽挿が、肉茎全体で擦り上げるものへと変わる。耕されきった肉の路を、硬いモノがごりごりと押し広げていく。内部全てを探り暴くような動きに、欲望に支配された肚が歓喜に震え、とろけきった鳴き声を上げた。
「アッ、ぁ、らいとっ! らいとぉ……!」
身体全てが快楽に侵蝕されていく。恐怖すら覚える感覚に、少年は首元に頭を埋めて縋りつき、愛おしい兄の名を何度も呼んだ。迷い子のような涙声に、雷刀は一度動きを抑え、震える背をゆっくりと撫でた。触れられるだけで、甘やかな痺れが脊髄を駆ける。それ以上に、肌と肌が重なり伝わる温もりが、恐怖に蝕まれつつあった心に凪をもたらした。
「れふと」
とろりとした甘い声で、兄はゆっくりと弟の名を呼ぶ。求める声に、抱き縋る腕を緩め、弟はそっと顔を上げた。太股に乗り上げた状態、少しだけ高くなった視線が紅玉髄へと向けられる。欲望にギラついていた紅の中には、慈しみの色が見えた。
節の目立ってきた手が、頬へと伸ばされる。赤らんだ肌に張り付く夜明け色を、そっと指でなぞり退かしていく。行為の激しさとは真逆、硝子細工に触れるような、どこか恐れを孕んだ動きだ。無言の問いに、少年はとろりと藍玉を細める。温かな手の導きに従い、静かに顔を寄せ、赤々とした唇に己のそれを重ねた。
ちゅ、ちゅ、と啄むように触れあい、軽く押しつけるように重ね合い、舌で舐め食むようにじゃれあい。甘やかな口接は、次第と深くなっていく。飴のように舐め、薄い唇を軽く食み、子供のようにじゃれあう中、唇の合わせ目を柔く突かれる。これから待ち受けるものへの期待に胸を高鳴らせ、少年は従順に口を開く。すぐさま、熱くぬめる舌が口腔に潜り込んできた。
潜り込んできた兄に、ちょんと舌先で触れる。朱も同じように軽く突く。しばしの軽い触れあいの後、唾液を纏いぬめる侵入者が、家主の表面をそっと撫でる。確かな性感に、頭は快楽を意味する電気信号を受け取った。
尖らせた先端を突き合わせ、ざらりとした表面を撫で。遊ぶような動きは、次第に大胆なものへと移り変わっていく。赤いそれを絡め合わせ、なぞりくすぐるように擦り合わせ、つるりとした硬口蓋と歯列をなぞる。よく手入れされなめかな歯の上を、獣欲で熱された舌が滑っていく。形容しがたい快感に、ん、と鼻にかかった息が漏れる。小さなそれは、情欲を示すものだった。
合わさった唇の端から、いやらしい水音と甘い吐息と混ぜ合わさった唾液が流れ落ちる。与えられるものがこぼれ消えゆくことが酷く惜しく感じ、これ以上こぼすまいと烈風刀は口腔内に溢れるそれをこくりこくりと飲み込んだ。明確な味などないだろうに、口内で混ぜ合わさった熱いカクテルは甘露のように思えた。
頬に添えられていた手がするりと滑り、首を、肩を、背筋を経て、再び肉付きの薄い尻肉へと戻る。しなやかな身体をしっかりと掴み固定し、雷刀はとん、と腰が打ち付ける。瞬間、甘美な痺れが背を駆け抜けていった。
とん、とん、と再び緩やかな動きで楔が打ち込まれる。先程の激しさなど微塵も感じさせないそれは、何もかもを溶かすような甘やかさでできていた。重ね合った唇の端から、くぐもった声が漏れ出る。とろけきった響きは、互いの内に秘めたる焔を燃え上げるには十分な妖艶さがあった。
打ち付けるリズムが次第に変わり、剛直がどんどんと奥へと潜り込んでいく。肉洞の隅から隅まで擦り上げられる官能に、肚の奥底が悦びの声をあげた。もっと、とねだるかのように、内壁が怒張に吸い付き抱き締める。扱くようにうねる蠕動が、更に奥へと誘った。
行為は再び激しさを増してゆく。唇は未だぴたりと合わさったままで、呼吸が少しずつ難しくなっていく。さすがに限界を感じたのだろう、交じわい続けた口が一度離される。しまい忘れた二つの舌は、細い糸で繋がっていた。
ほんの数拍呼吸を整え、二人は再び赤い塊を交わし合わす。合わさった場所、ごく僅かな隙間から、二つの赤が覗く。ぴたりと絡み合いぬるぬると動く様は、情熱的なダンスを踊っているかのようだった。
ぱちゅん、ぬちゅん、と肉が交わる音が、薄暗い部屋に落ちる。くちゅくちゅと、繋がった唇から漏れる音も重なった。淫猥な水音の重奏が響く中、二人はひたすらに肌を重ね合わせた。
一度休憩を挟んだものの、呼吸は未だ難しく、肺は苦しさを訴えていた。しかし、熱烈な口吻を解く気など欠片も無い。こんなにも情熱的に愛し合っている二人の間に、離れるという選択肢は存在しなかった。
きもちいい。うれしい。だいすき。あいしてる。
様々な感情を舌に乗せ、碧は厚いそれを兄に絡める。ただでさえきもちのよいことなのに、口づけをするだけで、苦しさすら覚える快感とふわふわとした多幸感が少年の胸を満たした。雷刀も同じなのだろう、眼前の茜色がふわりと幸せそうに弧を描いたのが見えた。溢れる愛おしさを示すように、烈風刀は目の前の朱い頭を抱き締める。重なる唇と唇、交わる舌と舌がより深くまで触れあった。
優しさに満ちた口交に反し、下半身の動きは重量を増していた。跳ね上がる腰が、降ろされる身体が、重い音をたてて打ち合い続ける。左右に割り開くように持ち上げられた尻たぶの間から、繋がり合わさった場所がはっきりと覗いていた。激しい水音をたて剣と鞘が抜き差しされる様子はあまりにも淫猥で、凄まじい視覚的暴力だった。
バチバチと、脳の奥が焼き切れそうな音が聞こえる。酸素が足りない脳味噌が、視界を暗がりへと誘う。薄暗い視界の中、パチパチと不規則な光の明滅が見えた。
果てが近いのだと認識し、少年は最後の力を振り絞る。かすかながら腰を揺らめかせ、抱き込んだ雄をぎゅうと抱き締める。精一杯の献身は思いの外効いたらしい。合わさる唇から、ぅ、と低い唸り声が漏れた。
健気な献身に対する褒美か、それとも意地の悪い淫行への罰か。雷刀は歯を食いしばり、捕らえた身体を思い切り持ち上げる。一気に下ろすと同時に、腰が大きく跳ねた。パァンと、一際高い音が鳴り響いた。
隘路を一気に割り開かれ、奥を穿たれる。それも、秘めたる襞のその先まで。神経を焼き切る官能に、碧は悲鳴をあげる。それも全て、愛する人の口腔内へと注ぎ呑み込まれた。
今までと比べ物にならない衝撃が少年を襲う。脊髄を電流が流れていく。脳髄に凄まじい快楽信号が叩き込まれる。神経がショートし意識が落ちてしまいそうな中、碧はひたすらに番を求め抱き締めた。
酸素不足と振りたくられる衝撃で、頭の中が、思考が、意識がぐらぐらと不安定に揺れる。それ以上の快楽と多幸感が彼の身体を支配していた。もっと、と乞うように、自らも腰を落とす。二人合わさった衝撃は、腹を突き破りそうな錯覚をするほど重いものだった。
肉を打ち付ける高い音一つ。硬い切っ先が、とうとう最奥最後の襞を打ち破る。敏感なそれが、侵入者を歓待し、逃がすまいと締め付けた。敏感な先端、深く刻まれたくびれ、傘と柄の継ぎ目を走る裏筋、脈動する幹。うねる内部が、愛する雄を全身全霊を持ってぎゅうと抱き締めた。
息を呑む音が聞こえた気がした。瞬間、埋め込まれた雄の象徴から、熱い欲望が勢いよく迸った。大量の欲の証が、締め付け震える内部を白で染め上げていく。先端が潜った場所、肚の奥の奥にまで直接濁液を注ぎ込まれる。腹の中を溶かしてしまいそうな熱が、うちがわを蹂躙していく。チカチカと不規則に明滅していた視界が、とうとう真っ白に塗り潰された。
重い一撃と脳を焼く官能に、長く交わされていた口付けがとうとう終わりを迎えた。とろりと橋掛かった銀の糸は、すぐさまぷつりと途絶えて消える。色のないそれは、二人の間に落ちて汗と同化した。
「あッ、あ――――あああああッ!!」
細く白い喉を反らし、はしたなく舌を出したまま、碧は法悦の咆哮をあげる。身体中を駆け巡る暴力じみた快楽に反して、幸せに満ちた甘美な響きをしていた。
必死に耐えていた腰からとうとう力が抜け、跨がった太股の上にへたり込む。結果、図らずとも更に深くまで雄を飲み込む形となってしまった。想定外の追い打ちに、引き締まった腹がびくびくと跳ねる。二人の腹の間で主張をしていた烈風刀自身から、白い蜜が吐き出された。
快楽の嵐に翻弄された身体は、最早自身を支えることすら不可能だった。目の前、どうにか抱きついたままの兄の身体に身を預ける。普段ならば重いだろうと気を遣うのが、激烈な快楽の暴力を受けた今ばかりは思考することすら不可能だった。
荒い呼吸が生ぬるい部屋に落ちては積もっていく。二人とも大きく口を開き、何とか酸素を得ようと必死に肺を動かした。心臓が痛いほど脈打つ。重ね合わさった胸元から、その鼓動が伝わってくる。その感覚すら、微かな甘い痺れが背を撫でた。
鷲掴んでいた手を離し、兄は弟の背へと回す。そのまま、抱きつくような形で身体を支えられる。力が入らずもたれかかった身体をゆっくりと後ろに倒し、愛し人をベッドの上に横たえた。
ぐったりと倒れた中、白で塗り潰されていた視界がゆっくりと色を取り戻していく。一番初めに映ったのは、涙を湛えた紅緋だった。らいと、と無意識に愛しい人の音に口を動かす。動きだけで伝わったのか、朱は汗ばんだ浅葱を優しく撫でることで応えた。
「だいじょぶ?」
荒い呼吸の合間を縫うように、問いが投げかけられる。髪と同じ色をした整った眉は、八の字に下がっていた。完全に力が抜け、全体重を掛けもたれかかるような状態だったのだ。心配するのも無理はないだろう。
はい、と返した瞬間、咳がせり上がってきた。言葉を紡ぎ出すのは、酷使し乾ききった喉にはまだ難しいらしい。ケホケホと乾いた息を吐き出すと、だいじょぶか、と再び泣きそうな声が降ってきた。幾度も咳く中、だいじょうぶです、とカサつく声でどうにか返す。そんな音では安心しきれないのか、目の前の緋色はふるふると可哀想に揺れていた。
抜くから、と慌てた声と共に、兄は身体を起こす。弟の腰を掴んで軽く固定し、挿入されたままだった彼自身をゆっくりと抜いていった。うちがわ全てを埋め尽くしていた熱塊が、緩慢な動きで去って行く。瓶から栓を抜いたように、中にたっぷりと注ぎ込まれていた欲望の迸りがとろりと漏れた。愛おしい熱が消えゆく感覚に、赤らんだ身体がびくりと震えた。だいじょぶか、とまた問いが降ってくる。腹いっぱいに与えられた精を失うことが惜しい、なんてはしたないことを言えるはずもない。物案じで揺れる紅瑪瑙から目を逸らし、烈風刀はこくりと小さく頷き返した。
ようやく呼吸が整い、少年はそっと息を漏らす。未だ力が入らず重たい腕をどうにか伸ばし、目の前の頬に触れる。紅色に染まった肌は、その色が示す通り熱かった。
「あ、の…………、きもちよかった、ですか……?」
もつれそうな舌で、胸を占める問いを紡ぎ出す。つかえつかえに吐き出された言葉は、不安と憂慮とわずかな羞恥に染まったものだった。
未だ性に消極的な部分がある己が、対面座位のような受け入れる側が積極的に動く体位で性行為をする機会はあまりない。圧倒的に経験値が足りずいつまで経っても拙いそれでは、きちんと兄を満足させることができるか不安で仕方がなかった。今回だって、ほとんど雷刀が動いていたのだから尚更だ。
はぁ、と溜め息が一つ落ちる。恐れにひくりと喉が鳴るより先に、ぎゅうと抱き締められた。重なる肌は酷く熱く、汗ばみ濡れていたが、不思議と不快感はない。その温かさに愛しさすら感じられた。
「めちゃくちゃ気持ちよかった……」
もう一つ落ちた溜め息は、疲労とかすかな熱を孕んだものだった。首筋に埋められた頭が、犬がじゃれつくようにぐりぐりと押しついてくる。汗で濡れしっとりとした髪が肌をなぞった。
「ナカとろとろで、ぐりぐりしてくるのもぎゅーって締めてくるの気持ちよかったし、正直イかないようにめっちゃ我慢してた」
欲望にまみれた兄の言葉に、弟はほっと胸を撫で下ろす。きちんと快楽を与えられていたという安堵と、行ったこと全てを言語化される羞恥に、上気した頬に更に朱が刷かれる。まるで、己がどれだけ淫らなのかを突きつけられているようだ。ぅ、と羞恥に小さく喉が鳴った。
「それに、頑張って動いてる烈風刀、すげー可愛かいしえろかった」
起き上がった朱が、見下ろした翡翠を見つめて言う。言葉を紡ぐ口元と宝石のような輝く瞳は、嬉しそうに柔らかな弧を描いていた。
向けられた言葉を咀嚼し、反芻し、烈風刀の顔が更に紅に染まる。本人は褒めているつもりなのだろうが、『えろい』だなんて言われて喜ぶことなどできない。小さな反抗に、柔らかな頬をむにりと掴みつねる。痛い、と声があがるも、表情は変わらず笑みを湛えていた。痛みなど欠片も感じていないことが分かる。ただじゃれているだけだということは、とうに見透かされていた。
なぁ、と赤々とした唇が、遠慮がちに言葉を紡ぐ。発せられた音には、微かに不安が滲んでいた。何だろう、とぼやける意識の中、目の前の茜空を見上げる。髪と同じ色をした眉は、再び端が少し下がっていた。
「またやろ?」
そう言って、雷刀は首を傾げる。何かを頼み込む時にする、彼の癖だ。眉を八の字に下げ、まあるい瞳を潤めかせ、小さく首を傾げる姿は可愛らしいと形容するのが適切だろう――口にしている言葉は、可愛らしさの欠片もないものなのだけれど。
う、と再び喉が低い音をたてる。やはり、自身が積極的に動く体位には苦手意識がある。そもそも、性行為をする約束をすることは、酷く破廉恥ではしたないことではないか。ようやく取り戻した理性が、常識らしきものを叫ぶ。その通りだ、と冷静たる思考も賛同した。
しかし、そうやって逃げていては、いつまで経っても下手なままではないか。性行為とは、双方が快楽を得ることが重要である。もっと経験を積み、兄を悦ばせられるようになるべきだ。
冷静沈着と称される頭が、いかにもそれらしき理屈を並べ立てる。理性が戻ってきたとはいえ、まだ脳味噌は快楽と本能がほとんどを占めている。ならば、それに従ってしまうのは仕方がないことだ――だって、あんなにきもちがよかったのだから。
長い長い沈黙の末、烈風刀は目を伏せこくりと頷く。濡れた髪が貼り付いた頬は、真っ赤に染まっていた。
肯定を意味する様子に、雷刀はぱぁと表情を輝かせる。喜びを身体で表すように、今一度愛おしい人にぎゅっと力強く抱きついた。
畳む
#ライレフ
#腐向け
#R18
#ライレフ
#腐向け
#R18
favorite
THANKS!!
SDVX
2024/1/31(Wed) 00:00
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向かい合い愛し合い【ライレフ/R-18】
向かい合い愛し合い【ライレフ/R-18】対面座位がとても好き→じゃあ推しカプの対面座位最強じゃね?
そんな感じで生まれた文章です対戦よろしくお願いします。
崩折れそうな足を叱咤し、膝立ちになる。正面、己の腰を支える朱に縋り付くように抱きつき、その足に跨った。肉付きの薄い尻たぶに、熱の塊が触れる。肌を焼くような愛おしい温度に、烈風刀は小さく息を呑んだ。
ぎこちなく腰を揺らし、焼け付く楔を後孔へと押し当てる。入念に解され濡れそぼつそこに触れた瞬間、ぷちゅ、といやらしい音があがった。ほんの小さいはずのそれが、頭の中にいやに大きく響く。本能に食い尽くされる中、どうにか生き残っていたわずかな理性が羞恥を叫ぶ。常ならばストッパーとして機能するそれも、快楽の沼に沈みゆく頭には意味を成さなかった。
震え崩れ落ちそうになる足を、目の前の兄にしがみつくことでどうにか堪える。愛し愛された頭の中はもうドロドロで、身体の制御方法など忘れてしまいそうだ。それでも、ここで体勢を崩すことは――崩折れ、重力に身を任せ熱塊を一気に飲み込むのは、絶対に避けるべきことだ。だってそんな、この愛おしい雄を最初から全部受け入れるだなんて、解れ切った隘路を一気に割り開かれるなんて、薄い肚の最奥を力いっぱい突かれるだなんて、そんな恐ろしいこと――そんな、とってもきもちがいいことをされて、このとろけきった頭と身体が耐えられるはずなどない。
最悪の――あるいは最高の――パターンを思い浮かべ、無意識に腰が揺れる。迎え入れる準備を済ませた孔が期待にきゅうと窄まる。ぁ、と熱を孕んだ吐息が細く漏れ出た。
「ちゃんと支えてるから。ゆっくりでだいじょぶだからな?」
柔らかな言葉が耳に直接注ぎ込まれる。努めて穏やかな響きには、確かな情欲の炎が宿っていた。腰に回された手が、宥めるようにそっと肌を撫ぜる。たったそれだけで、甘い痺れが背筋を駆けた。込み上げる嬌声をどうにか喉に押さえ込み、碧は小さく首肯する。視界の端に映ったそれに、朱も同じく頷いた。
目の前の肩についた己の手と、腰を支える兄の手を頼りに、緩慢な動きで腰を落としていく。熱された硬い楔の先端が、解され潤んだ蕾に触れる。勇気を振り絞り咥え込もうとするも、狙いが上手く定まらず、ずるりと逃げられてしまう。肌を擦り上げる温度に、ビクリと身体が跳ねた。
今度こそ迎え入れるべく、姿勢を正し熱を門へと宛がう。何度か繰り返すも、愛しい雄は尻肉の間を滑って逃げてしまうばかりだ。ぬち、ぐち、と粘ついた音が二人きりの部屋に響く。耳から思考を犯す淫音に、頭の奥がピリピリと痺れた。焦れて拙く動く中、腰に回された手にわずかに力が込められる。もどかしいのは互いに同じようだ。
落ち着こうと一息吐き、一度軽く腰を浮かせる。愛しい熱との別離に、腹の奥が切なげに鳴き声をあげた。息を整え、再びゆっくりと下ろしていく。先端と孔穴が、ちゅ、と口づけたように艶めかしい音をたてて触れ合う。はぁ、と大きく息を吐いて、気付かぬ間に強張っていた身体から力を抜く。脱力しわずかに綻んだ蕾を、しっかりと雄に押し当てる。目打ちするようにわずかに埋まったのを頼りに、今度こそ熱塊を胎内に迎え入れた。
硬く張り詰めた頭が、丁寧に解された内部を割り開く。大きく張り出した部分が、柔らかな内壁を擦り上げる。太い茎が、狭い内部を満たしていく。うちがわを支配されていく感覚に、烈風刀は身を縮こませ朱い頭を掻き抱いた。
「ッ、ぁ、あ……っ」
熱い欲望が潤む肉に切り込んでいく中、少年は細い声を漏らす。断続的に吐かれる浅い息は、情欲に溺れれていた。
ゆっくりゆっくり、硬度を増した剣が熱を孕む鞘へと納められていく。ようやく根本まで受け入れたところで、奥底まで潜り込んだ先端が隘路の行き止まりをこつんとノックした。神経回路を焼く快楽に、碧は背を反らし甘ったるい悲鳴をあげる。媚肉が、咥え込んだ欲望を力いっぱい締め付ける。ぐ、と苦しげに喉が鳴る音が部屋に落ちた。
「……動く?」
互いに荒い呼吸をこぼす中、雷刀は抱いた腰をさすり、静かに問う。本当ならば、挿入だけでこれほどとろけてしまっている己よりも、まだ幾ばくか余裕のある彼自身が動く方が良いはずだ。けれども、この体位を――受け止める側が動く愛し合い方を望んだのは兄だ。ならば、その欲を満たすため、希望通りに自分がきちんと動くべきである――己の拙い動きで十全に満足してもらえるかは疑問なのだけれど。
だいじょうぶです、と力の入らない舌をどうにか動かし、呟くように答える。有言実行とばかりに、少年は掻き抱いた赤い頭を支点に再び腰を上げていく。入り込んだ楔が腹の中をゆっくり擦り上げる感覚に、白い背がふるふると震えた。崩れそうになるのをどうにか持ちこたえ、傘開いた場所を埋め込んだまま、元の膝立ちの格好になる。またゆっくりと腰を落とし、今一度硬い熱を迎え入れた。名残惜しげに抜き、悦んで挿れを繰り返す。幾度も繰り返すうちに、ぎこちがない動きはどんどんと激しさを増していった。
胎内を暴かれる快楽を求め、少年は必死に腰を振りたくる。硬い幹が、張り出した傘が、熱を帯びた肚をごりゅごりゅと蹂躙していく。予め丁寧に愛された内部は、純然たる淫悦のみを拾い上げ脳髄に叩き込んでいった。
動く度、二人の間に挟まれた己自身を兄の腹に擦り付ける形になってしまう。体位故とはいえ、鍛錬により割れた腹筋にはしたなく涎を垂らす自身を擦り付けるなど、何と浅ましいのだろう。脳の奥底を背徳が引っ掻いた。
「ひっ、あ、ア、ぁ」
兄の首にしがみつき、烈風刀は甘い声をあげる。とろけた声と共に、水底色の瞳からポロポロと悦びの涙が零れ落ちた。
恭悦を求め、細い腰が揺らめきくねる。背側を一気に擦り上げられる度、脊髄を快楽信号が駆けていく。腹側、好む場所を小突かれる度、ふわふわとしたうちがわが侵入者を強く抱き締める。淫らな肚が、法悦のを高らかに叫んだ。
熱心に抽挿する度、浅葱の髪がさらさらと流れる。細く柔らかなそれが汗ばんだ白い肌に張り付き乱れる様は、艶やかな色香を振りまいていた。
「ぁ、あッ、ら、いとっ」
悦楽の波に飲まれる中、碧はしがみついた愛しい人の名を呼ぶ。腰を掴む指が、しっとりとした肌に浅く食い込む。ぅ、と快楽と痛苦が混じった音が耳のすぐ隣から聞こえる。ほぼ同時に、薄い肚を穿つ欲望がびくりと震える感覚がした。愛しい恋人の可愛らしく淫らな声を耳に直接注ぎ込まれているのだ。張り詰めた雄が反応を示すのは当たり前だろう。
白い身体が艶めかしいダンスを踊る中、息を呑む音と歯と歯が擦れる音が薄暗い空間に落ちる。快感に支配される思考の中でも、愛しい人が焦れる様はすぐに分かった。
本当ならば、自身の手で本能がままに揺すり、突上げ、思うがままに動きたいのだろう。けれど、心優しい兄は己が『だいじょうぶ』と言ったのを尊重し、欲を抑え身を任せてくれているのだ。その優しさと与えているであろう苦しみに、胸がずきりと痛んだ。
「らいと」
ゆらゆらと揺れる腰をどうにか抑え、烈風刀は恋しき人の名前を呼ぶ。どうにかしがみついていた腕を解き、ゆっくりと身を起こす。見下ろした先にある紅玉は、ギラギラと肉食獣めいた輝きを宿していた。わずかに歪んだ表情から、彼が内に燻ぶる獣欲を抑えていることが痛いほど分かる。兄のため、などと称しながら、自分本位に動いていた己のなんと浅ましいことか。罪悪感が胸の内を染めていった。
「らいと、……うごいて、だいじょうぶ、です、から……。がま……ぅ、しない、で」
「い、や。我慢なんて、してねーって」
だいじょーぶ、と微笑み、朱はしっとりとした碧髪を撫ぜる。口元は柔らかな弧を描いているが、ずっとその笑顔を見つめてきた弟から見れば、強張ったものであるのは明らかだ。
「だい、じょ、ぶ……です」
ゆっくりと息を整えつつ、少年は言葉を紡いでいく。我慢していないなんて、大丈夫だなんて、嘘であることは自明だ。だからこそ、今己の思いをはっきりと伝えねばならない。
「ちゃんと、らいとにもきもちよくなって、ほしいんです。……だか、ら……ね?」
いっしょにきもちよくなりましょう?
薄っすらと紅に染まる兄の頬に手を当て、弟は小さく首を傾げ問いかける。欲と熱にとろけた声は、情欲を掻き立てる響きをしていた。
「……辛かったらちゃんと言えよ」
幾分か低い声が、鼓膜を震わせる。了承の意を示す言葉に、少年は再び抱きつくことで応える。すり、と擦り寄せた首は雫が伝うほど汗ばんでいた。汗と兄の匂いが鼻孔を満たす。きゅう、と欲望に満たされたナカが収縮した。
腰に添えられていた手が、支えていたそれをしっかりと鷲掴む。ガッチリと掴む様は、捕らえた獲物を逃げられぬよう組み敷いた肉食獣を思わせた。
烈風刀自身の手助けもあり、細い腰がゆっくりと持ち上げられる。瞬間、腕が降ろされると同時に、座り込んでいた腰が跳ね上がり、薄い尻に打ち付けられた。
「ッ、あっ! アッ……ぅ、ぁ」
ぱちんと肌と肌が打つ音が、二人きりの部屋に響く。鋭い初動に反し、こつんこつんとどこか遠慮がちに突き上げられる。ゆるゆると優しく内部を擦られる感覚に、少年は抱きつく身を更にぎゅうと縮こませる。激しさだけでいえば、先程己が自分勝手に動いていた時の方が勝る。だが、兄と一緒に愛し合っているという事実が、何よりも甘美な快楽として神経を焼いた。
調子を伺うような動きは、次第に速さを増していく。子供をあやすような優しい律動は、既に欲に任せた重いものへと変貌していた。
本来ならば腰を揺らめかせ愛に応えるはずが、激しい衝撃にそんな余裕など奪われてしまっていた。怯える子供のようにぎゅうと首にしがみつく。開いたままの口は意味を成さない音をこぼす。純然たる快感を拾い上げる内部は、雄を歓迎するようにうねり更なる場所へと誘った。
腰を掴んでいた手が、次第に肌を伝って降りていく。その先、肉の薄い尻たぶを、骨ばった手が包む。姿勢の補助の役割が強かったものが、身体全てを持ち上げる形へと変貌する。興奮を表すかのように、掴んだ尻肉にだんだんと固い指が食い込んでいく。丸いそれが歪に形を変える姿は、淫靡というのが相応しいものだ。
ぱちゅんぱちゅんと水音が鳴り響く。下ろす腰に、跳ね上がる腰がぶつかる音だ。濡れた肉と肉が打ち鳴らす音色は、何よりも淫猥だ。それこそ、普段の品行方正な烈風刀ならば耳を塞ぐであろうほどに。
「ひっ、あっ! ……ぅあ、ぁ、あっ!」
しかし、その音色は今の彼にとっては性的興奮を煽るものと化していた。鼓膜を震わす甘い楽章が、脊髄を走る鋭い快感が、脳味噌をとろかしていく。本能を顕にした少年は、愛する者と獣の悦びをひたすらに求めた。
目一杯満たされた洞が、熱塊の形を覚えようと――否、既に覚え込まされたそれをきゅうきゅうと締め付ける。受け入れたそれが脈打つ感覚が分かるのではないかと錯覚するほどの熱烈な抱擁だ。甘えるような仕草に応えるように、打ち付ける勢いが増す。鍛えられた腹すら破ってしまいそうな凄まじさであった。
雄の証が肚の最奥を穿つ。暴かれざる場所を強くノックされる度、脳髄がビリビリと痺れた。ぐぅ、と喉が潰れたような音が溢れる。溢れそうになる快楽を音で逃がそうにも、絶えず与えられるそれには意味をなさない。ただ、欲望の奔流に身を任せる他なかった。
奥底を守る襞が、雄を最奥のその先へと誘う。吸い付くように先端を締め付けられ、隘路を蹂躙するが肉槍がビクビクと震え跳ねる。熱い楔に満たされ、肉道に抱きしめられ、脳味噌が快感に支配されきっていく。きもちがいいことに魅せられた二人には、ひたすら肉を打ち付け合わせた。
閉じる術など無く開かれたままの口から、ぅ、ぁ、と意味の無い音がひっきりなしに漏れ出る。開け放たれたそこから、唾液がとろとろと漏れ流れいく。涙を讃えた翡翠から、獣欲で熱された涙がこぼれ落ちる。頬から、おとがいから、伝い落ちていく液が、抱きついた兄の背を汚す。あまりにもはしたない現状に、ぼやける思考が羞恥を覚える。すぐさま、痛いほどの性感が塗り潰していった。
「っァ、あっ……、そ、こ……! ぁ……!」
動きを変えた剣の硬い切っ先が、好む場所をゴリゴリと擦り上げる。イイところを容赦無く攻め立てられ、少年は抱きついた身体により縋り付いた。外もナカも強く抱きしめられ、朱は苦しげに喉を鳴らす。その響きには、かすかな加虐心がにじんでいた。
「ここ……、っ?」
いたずら気な声――と言うにはあまりにも獣めいた響きだが――と共に、浅い場所を幾度も突かれる。柔らかに膨れた箇所を容赦無く穿たれ、白い背がしなる。高い嬌声と共に、日に焼けていない喉が晒された。
「あっ……、ア、ァ……や、ぁ……!」
擦られ突かれる度、視界に細かな光が舞う。許容量を遙かに超える快楽が脳髄に直接叩き込まれ、少年はただただ艶やかな声をあげることしか出来なかった。白に染まりゆく視覚、愛する者の香りに包まれる嗅覚、淫猥な合唱に犯される聴覚、愛しい人と深くまで触れあう触覚。五感のほとんどが朱に支配されていた。
浅い場所を突く抽挿が、肉茎全体で擦り上げるものへと変わる。耕されきった肉の路を、硬いモノがごりごりと押し広げていく。内部全てを探り暴くような動きに、欲望に支配された肚が歓喜に震え、とろけきった鳴き声を上げた。
「アッ、ぁ、らいとっ! らいとぉ……!」
身体全てが快楽に侵蝕されていく。恐怖すら覚える感覚に、少年は首元に頭を埋めて縋りつき、愛おしい兄の名を何度も呼んだ。迷い子のような涙声に、雷刀は一度動きを抑え、震える背をゆっくりと撫でた。触れられるだけで、甘やかな痺れが脊髄を駆ける。それ以上に、肌と肌が重なり伝わる温もりが、恐怖に蝕まれつつあった心に凪をもたらした。
「れふと」
とろりとした甘い声で、兄はゆっくりと弟の名を呼ぶ。求める声に、抱き縋る腕を緩め、弟はそっと顔を上げた。太股に乗り上げた状態、少しだけ高くなった視線が紅玉髄へと向けられる。欲望にギラついていた紅の中には、慈しみの色が見えた。
節の目立ってきた手が、頬へと伸ばされる。赤らんだ肌に張り付く夜明け色を、そっと指でなぞり退かしていく。行為の激しさとは真逆、硝子細工に触れるような、どこか恐れを孕んだ動きだ。無言の問いに、少年はとろりと藍玉を細める。温かな手の導きに従い、静かに顔を寄せ、赤々とした唇に己のそれを重ねた。
ちゅ、ちゅ、と啄むように触れあい、軽く押しつけるように重ね合い、舌で舐め食むようにじゃれあい。甘やかな口接は、次第と深くなっていく。飴のように舐め、薄い唇を軽く食み、子供のようにじゃれあう中、唇の合わせ目を柔く突かれる。これから待ち受けるものへの期待に胸を高鳴らせ、少年は従順に口を開く。すぐさま、熱くぬめる舌が口腔に潜り込んできた。
潜り込んできた兄に、ちょんと舌先で触れる。朱も同じように軽く突く。しばしの軽い触れあいの後、唾液を纏いぬめる侵入者が、家主の表面をそっと撫でる。確かな性感に、頭は快楽を意味する電気信号を受け取った。
尖らせた先端を突き合わせ、ざらりとした表面を撫で。遊ぶような動きは、次第に大胆なものへと移り変わっていく。赤いそれを絡め合わせ、なぞりくすぐるように擦り合わせ、つるりとした硬口蓋と歯列をなぞる。よく手入れされなめかな歯の上を、獣欲で熱された舌が滑っていく。形容しがたい快感に、ん、と鼻にかかった息が漏れる。小さなそれは、情欲を示すものだった。
合わさった唇の端から、いやらしい水音と甘い吐息と混ぜ合わさった唾液が流れ落ちる。与えられるものがこぼれ消えゆくことが酷く惜しく感じ、これ以上こぼすまいと烈風刀は口腔内に溢れるそれをこくりこくりと飲み込んだ。明確な味などないだろうに、口内で混ぜ合わさった熱いカクテルは甘露のように思えた。
頬に添えられていた手がするりと滑り、首を、肩を、背筋を経て、再び肉付きの薄い尻肉へと戻る。しなやかな身体をしっかりと掴み固定し、雷刀はとん、と腰が打ち付ける。瞬間、甘美な痺れが背を駆け抜けていった。
とん、とん、と再び緩やかな動きで楔が打ち込まれる。先程の激しさなど微塵も感じさせないそれは、何もかもを溶かすような甘やかさでできていた。重ね合った唇の端から、くぐもった声が漏れ出る。とろけきった響きは、互いの内に秘めたる焔を燃え上げるには十分な妖艶さがあった。
打ち付けるリズムが次第に変わり、剛直がどんどんと奥へと潜り込んでいく。肉洞の隅から隅まで擦り上げられる官能に、肚の奥底が悦びの声をあげた。もっと、とねだるかのように、内壁が怒張に吸い付き抱き締める。扱くようにうねる蠕動が、更に奥へと誘った。
行為は再び激しさを増してゆく。唇は未だぴたりと合わさったままで、呼吸が少しずつ難しくなっていく。さすがに限界を感じたのだろう、交じわい続けた口が一度離される。しまい忘れた二つの舌は、細い糸で繋がっていた。
ほんの数拍呼吸を整え、二人は再び赤い塊を交わし合わす。合わさった場所、ごく僅かな隙間から、二つの赤が覗く。ぴたりと絡み合いぬるぬると動く様は、情熱的なダンスを踊っているかのようだった。
ぱちゅん、ぬちゅん、と肉が交わる音が、薄暗い部屋に落ちる。くちゅくちゅと、繋がった唇から漏れる音も重なった。淫猥な水音の重奏が響く中、二人はひたすらに肌を重ね合わせた。
一度休憩を挟んだものの、呼吸は未だ難しく、肺は苦しさを訴えていた。しかし、熱烈な口吻を解く気など欠片も無い。こんなにも情熱的に愛し合っている二人の間に、離れるという選択肢は存在しなかった。
きもちいい。うれしい。だいすき。あいしてる。
様々な感情を舌に乗せ、碧は厚いそれを兄に絡める。ただでさえきもちのよいことなのに、口づけをするだけで、苦しさすら覚える快感とふわふわとした多幸感が少年の胸を満たした。雷刀も同じなのだろう、眼前の茜色がふわりと幸せそうに弧を描いたのが見えた。溢れる愛おしさを示すように、烈風刀は目の前の朱い頭を抱き締める。重なる唇と唇、交わる舌と舌がより深くまで触れあった。
優しさに満ちた口交に反し、下半身の動きは重量を増していた。跳ね上がる腰が、降ろされる身体が、重い音をたてて打ち合い続ける。左右に割り開くように持ち上げられた尻たぶの間から、繋がり合わさった場所がはっきりと覗いていた。激しい水音をたて剣と鞘が抜き差しされる様子はあまりにも淫猥で、凄まじい視覚的暴力だった。
バチバチと、脳の奥が焼き切れそうな音が聞こえる。酸素が足りない脳味噌が、視界を暗がりへと誘う。薄暗い視界の中、パチパチと不規則な光の明滅が見えた。
果てが近いのだと認識し、少年は最後の力を振り絞る。かすかながら腰を揺らめかせ、抱き込んだ雄をぎゅうと抱き締める。精一杯の献身は思いの外効いたらしい。合わさる唇から、ぅ、と低い唸り声が漏れた。
健気な献身に対する褒美か、それとも意地の悪い淫行への罰か。雷刀は歯を食いしばり、捕らえた身体を思い切り持ち上げる。一気に下ろすと同時に、腰が大きく跳ねた。パァンと、一際高い音が鳴り響いた。
隘路を一気に割り開かれ、奥を穿たれる。それも、秘めたる襞のその先まで。神経を焼き切る官能に、碧は悲鳴をあげる。それも全て、愛する人の口腔内へと注ぎ呑み込まれた。
今までと比べ物にならない衝撃が少年を襲う。脊髄を電流が流れていく。脳髄に凄まじい快楽信号が叩き込まれる。神経がショートし意識が落ちてしまいそうな中、碧はひたすらに番を求め抱き締めた。
酸素不足と振りたくられる衝撃で、頭の中が、思考が、意識がぐらぐらと不安定に揺れる。それ以上の快楽と多幸感が彼の身体を支配していた。もっと、と乞うように、自らも腰を落とす。二人合わさった衝撃は、腹を突き破りそうな錯覚をするほど重いものだった。
肉を打ち付ける高い音一つ。硬い切っ先が、とうとう最奥最後の襞を打ち破る。敏感なそれが、侵入者を歓待し、逃がすまいと締め付けた。敏感な先端、深く刻まれたくびれ、傘と柄の継ぎ目を走る裏筋、脈動する幹。うねる内部が、愛する雄を全身全霊を持ってぎゅうと抱き締めた。
息を呑む音が聞こえた気がした。瞬間、埋め込まれた雄の象徴から、熱い欲望が勢いよく迸った。大量の欲の証が、締め付け震える内部を白で染め上げていく。先端が潜った場所、肚の奥の奥にまで直接濁液を注ぎ込まれる。腹の中を溶かしてしまいそうな熱が、うちがわを蹂躙していく。チカチカと不規則に明滅していた視界が、とうとう真っ白に塗り潰された。
重い一撃と脳を焼く官能に、長く交わされていた口付けがとうとう終わりを迎えた。とろりと橋掛かった銀の糸は、すぐさまぷつりと途絶えて消える。色のないそれは、二人の間に落ちて汗と同化した。
「あッ、あ――――あああああッ!!」
細く白い喉を反らし、はしたなく舌を出したまま、碧は法悦の咆哮をあげる。身体中を駆け巡る暴力じみた快楽に反して、幸せに満ちた甘美な響きをしていた。
必死に耐えていた腰からとうとう力が抜け、跨がった太股の上にへたり込む。結果、図らずとも更に深くまで雄を飲み込む形となってしまった。想定外の追い打ちに、引き締まった腹がびくびくと跳ねる。二人の腹の間で主張をしていた烈風刀自身から、白い蜜が吐き出された。
快楽の嵐に翻弄された身体は、最早自身を支えることすら不可能だった。目の前、どうにか抱きついたままの兄の身体に身を預ける。普段ならば重いだろうと気を遣うのが、激烈な快楽の暴力を受けた今ばかりは思考することすら不可能だった。
荒い呼吸が生ぬるい部屋に落ちては積もっていく。二人とも大きく口を開き、何とか酸素を得ようと必死に肺を動かした。心臓が痛いほど脈打つ。重ね合わさった胸元から、その鼓動が伝わってくる。その感覚すら、微かな甘い痺れが背を撫でた。
鷲掴んでいた手を離し、兄は弟の背へと回す。そのまま、抱きつくような形で身体を支えられる。力が入らずもたれかかった身体をゆっくりと後ろに倒し、愛し人をベッドの上に横たえた。
ぐったりと倒れた中、白で塗り潰されていた視界がゆっくりと色を取り戻していく。一番初めに映ったのは、涙を湛えた紅緋だった。らいと、と無意識に愛しい人の音に口を動かす。動きだけで伝わったのか、朱は汗ばんだ浅葱を優しく撫でることで応えた。
「だいじょぶ?」
荒い呼吸の合間を縫うように、問いが投げかけられる。髪と同じ色をした整った眉は、八の字に下がっていた。完全に力が抜け、全体重を掛けもたれかかるような状態だったのだ。心配するのも無理はないだろう。
はい、と返した瞬間、咳がせり上がってきた。言葉を紡ぎ出すのは、酷使し乾ききった喉にはまだ難しいらしい。ケホケホと乾いた息を吐き出すと、だいじょぶか、と再び泣きそうな声が降ってきた。幾度も咳く中、だいじょうぶです、とカサつく声でどうにか返す。そんな音では安心しきれないのか、目の前の緋色はふるふると可哀想に揺れていた。
抜くから、と慌てた声と共に、兄は身体を起こす。弟の腰を掴んで軽く固定し、挿入されたままだった彼自身をゆっくりと抜いていった。うちがわ全てを埋め尽くしていた熱塊が、緩慢な動きで去って行く。瓶から栓を抜いたように、中にたっぷりと注ぎ込まれていた欲望の迸りがとろりと漏れた。愛おしい熱が消えゆく感覚に、赤らんだ身体がびくりと震えた。だいじょぶか、とまた問いが降ってくる。腹いっぱいに与えられた精を失うことが惜しい、なんてはしたないことを言えるはずもない。物案じで揺れる紅瑪瑙から目を逸らし、烈風刀はこくりと小さく頷き返した。
ようやく呼吸が整い、少年はそっと息を漏らす。未だ力が入らず重たい腕をどうにか伸ばし、目の前の頬に触れる。紅色に染まった肌は、その色が示す通り熱かった。
「あ、の…………、きもちよかった、ですか……?」
もつれそうな舌で、胸を占める問いを紡ぎ出す。つかえつかえに吐き出された言葉は、不安と憂慮とわずかな羞恥に染まったものだった。
未だ性に消極的な部分がある己が、対面座位のような受け入れる側が積極的に動く体位で性行為をする機会はあまりない。圧倒的に経験値が足りずいつまで経っても拙いそれでは、きちんと兄を満足させることができるか不安で仕方がなかった。今回だって、ほとんど雷刀が動いていたのだから尚更だ。
はぁ、と溜め息が一つ落ちる。恐れにひくりと喉が鳴るより先に、ぎゅうと抱き締められた。重なる肌は酷く熱く、汗ばみ濡れていたが、不思議と不快感はない。その温かさに愛しさすら感じられた。
「めちゃくちゃ気持ちよかった……」
もう一つ落ちた溜め息は、疲労とかすかな熱を孕んだものだった。首筋に埋められた頭が、犬がじゃれつくようにぐりぐりと押しついてくる。汗で濡れしっとりとした髪が肌をなぞった。
「ナカとろとろで、ぐりぐりしてくるのもぎゅーって締めてくるの気持ちよかったし、正直イかないようにめっちゃ我慢してた」
欲望にまみれた兄の言葉に、弟はほっと胸を撫で下ろす。きちんと快楽を与えられていたという安堵と、行ったこと全てを言語化される羞恥に、上気した頬に更に朱が刷かれる。まるで、己がどれだけ淫らなのかを突きつけられているようだ。ぅ、と羞恥に小さく喉が鳴った。
「それに、頑張って動いてる烈風刀、すげー可愛かいしえろかった」
起き上がった朱が、見下ろした翡翠を見つめて言う。言葉を紡ぐ口元と宝石のような輝く瞳は、嬉しそうに柔らかな弧を描いていた。
向けられた言葉を咀嚼し、反芻し、烈風刀の顔が更に紅に染まる。本人は褒めているつもりなのだろうが、『えろい』だなんて言われて喜ぶことなどできない。小さな反抗に、柔らかな頬をむにりと掴みつねる。痛い、と声があがるも、表情は変わらず笑みを湛えていた。痛みなど欠片も感じていないことが分かる。ただじゃれているだけだということは、とうに見透かされていた。
なぁ、と赤々とした唇が、遠慮がちに言葉を紡ぐ。発せられた音には、微かに不安が滲んでいた。何だろう、とぼやける意識の中、目の前の茜空を見上げる。髪と同じ色をした眉は、再び端が少し下がっていた。
「またやろ?」
そう言って、雷刀は首を傾げる。何かを頼み込む時にする、彼の癖だ。眉を八の字に下げ、まあるい瞳を潤めかせ、小さく首を傾げる姿は可愛らしいと形容するのが適切だろう――口にしている言葉は、可愛らしさの欠片もないものなのだけれど。
う、と再び喉が低い音をたてる。やはり、自身が積極的に動く体位には苦手意識がある。そもそも、性行為をする約束をすることは、酷く破廉恥ではしたないことではないか。ようやく取り戻した理性が、常識らしきものを叫ぶ。その通りだ、と冷静たる思考も賛同した。
しかし、そうやって逃げていては、いつまで経っても下手なままではないか。性行為とは、双方が快楽を得ることが重要である。もっと経験を積み、兄を悦ばせられるようになるべきだ。
冷静沈着と称される頭が、いかにもそれらしき理屈を並べ立てる。理性が戻ってきたとはいえ、まだ脳味噌は快楽と本能がほとんどを占めている。ならば、それに従ってしまうのは仕方がないことだ――だって、あんなにきもちがよかったのだから。
長い長い沈黙の末、烈風刀は目を伏せこくりと頷く。濡れた髪が貼り付いた頬は、真っ赤に染まっていた。
肯定を意味する様子に、雷刀はぱぁと表情を輝かせる。喜びを身体で表すように、今一度愛おしい人にぎゅっと力強く抱きついた。
畳む
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