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No.139

書き出しと終わりまとめ14【SDVX】

書き出しと終わりまとめ14【SDVX】
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あなたに書いて欲しい物語でだらだら書いていたものまとめその14。相変わらずボ10個。毎度の如く診断する時の名前がちょくちょく違うのは気にしない。
成分表示:ニア+レフ1/烈風刀1/識苑+氷雪1/嬬武器兄弟1/レイ+グレ1/ライレフ3/ハレルヤ組1/紅刃1

頭ふたつ上のお兄さん/ニア+レフ
葵壱さんには「精一杯背伸びをした」で始まり、「君は気付いてくれるかな」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば7ツイート(980字程度)でお願いします。


 精一杯背伸びをした。
 地面からめいっぱい離れるほどつま先立ちし、これでもかというほど背筋をピンと伸ばす。それでも、目の前の碧の肩にすら届かない。長いリボンカチューシャを入れてやっと頭半分下に届く程度だ。うぐぐ、と喉から苦しげな音が漏れる。限界を訴える肉体の叫びであり、悔しさを覚える心の叫びであった。
「どうしたのですか?」
 不自然な声に気付いたらしい、隣で端末を操作していた烈風刀がこちらを見る。小さく首を傾げ、形の良い頭が下がる。一時的とはいえ嵩が減ったというのに、カチューシャという下駄を履いても尚彼に並び立てることが出来なかった。限界を迎えた足が踵を地に着ける。拙い努力によってどうにか縮まっていた差は元に戻ってしまった。
「れふと、身長高いなぁって」
 唇を尖らせニアは呟く。響く音色は拗ねた子どものそれだった。
 烈風刀はニアよりずっと身長が高い。当たり前だ、彼はずっと年上で、男の子で、成長期なのだ。まだ初等部の子どもで、女の子で、ようやく成長期に差し掛かった程度の自分が追いつけるはずなどない。事実なのだから仕方無い。事実だから口惜しい。
「ニアもすぐに伸びますよ。成長期ですから」
「そーかなぁ……」
 大丈夫ですよ、と大きな手が蒼い頭を撫でる。いつもならば心地良さと喜びを覚えるものだというのに、今日は何だか落ち着かない。抵抗するようにまたつま先立ちをした。危ないですよ、と優しく窘められるだけだった。
「女の子は成長が早いですから」
「ニアもれふとぐらい大きくなれる?」
 青兎の純粋な問いに、碧い少年は言葉に詰まる。悩ましげな音が頭上から降ってきた。
「さすがに僕と同じほどは難しいかもしれませんね……」
「えー……」
 苦く笑う少年に、少女は頬を膨らませる。彼は困ったように笑うだけだ。幼稚で我が儘な自分が困らせているだけなのだ。
 分かっている。性による成長の差は大きいのだから仕方無いことだとは分かっている。けれども、あの碧い目と同じ場所に立ちたかった。高くて、広くて、遠くて。そんな彼と同じ視界を共有したかった。
 貴方と同じ目線になりたい。同じ世界を見たい。そんな小さな願いに、貴方は気付いてくれるだろうか。




チラシはくまなく確認しましょう/嬬武器烈風刀
葵壱さんには「世界はいつだってかみ合わない」で始まり、「想いを伝える術はなかった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば5ツイート(700字程度)でお願いします。

 世界はいつだって噛み合わない。
 出したはずの提出物は回収されておらず放課後職員室に走り、順調に終わるはずのアップデート作業は突然のバグに見舞われ、補習が終わり先に帰った兄に連絡するも返事は無く。何もかもが噛み合わず、何もかもが狂っていく。
 ダッと地を蹴る音が夜闇に響く。街灯の明かりにぼんやりと照らされる道を、烈風刀は駆け行く。右足で地を蹴り、左足を大きく広げ、つま先で捕らえた地面をめいっぱいに踏み出し、少年は走る。走っていく。
 手にした携帯端末をちらりと見やる。ロック画面には通知は無い。兄は何度も送ったメッセージを見ていないという証であった。おそらく、鞄の中に入れっぱなしにしているのだろう。それか、疲れて寝ているか。どれにせよ、タイミングが悪いとしか言い様がない。眉根を寄せ、端末を鞄の中に放り込む。余所見をして走るのは危ない。何より、速度が落ちる。今は少しでも早く目的地に辿り着かなくてはいけないのだ。
 走る。走る。走る。足が重いことなど関係ない。息が苦しいことなど関係ない。肺が、心臓が痛むことなど関係ない。今は前に進まねばならぬのだ。
 ぐっと地を踏みしめ、角を曲がる。目的地はすぐそこまで迫っていた。ラストスパートだ、と長い足をこれでもかと広げ、しなやかな筋肉を千切れんばかりに動かし、少年は走る。ようやく、磨かれたガラスドアの前まで辿り着いた。
 もたついて開く自動ドアに苛立ちを覚えながらも、碧は足取りを緩める。どんなに急いでいたとて、こんなところで走るのは非常識だ。焦りは覚えども、常識が彼を縛った。
 走る一歩直前の足取りで店内を歩く。目的地はすぐそこだ。駆け出さないように強く意識し、足早に進む。頼む、残っていてくれ、と祈りながら。
 目的の場所、大きくスペースが取られたガラス棚の中は空っぽだった。小さなパック一つすら残っていない。空いた空間を大型冷蔵庫が無意味に冷やしているだけだ。
 崩れ落ちそうになるのを必死に堪え、烈風刀はのろのろとした手つきで携帯端末を取り出す。絶望に染まった目で画面を見るも、やはりそこには通知など一つも無い。『挽肉も買っといた』なんてメッセージが表示されるだなんて都合の良い奇跡など無かった。
 そもそも、挽肉の特売だなんて重要情報をを見逃していたのがまず悪いのだ。一際大きく出された鶏もも肉の特売情報にすっかり目を奪われていたのが悪い。おそらく、兄も気付いていないはずだ。先に帰った彼は、きっと伝えられた通りもも肉だけを買って帰っただろう。悪くない。悪くないけれど、何故気付いてくれないのだと嘆きが湧いて出るのも仕方無いだろう。
 あぁ、本当に今日は何もかもが噛み合わない。
 叫び出したい気持ちをぐっと抑える。通い詰めているスーパーの店内では、思いを吐き出す術など無かった。




願いと流星/識苑+氷雪
あおいちさんには「ずっと子供でいたかった」で始まり、「君と夜空を駆けたい」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字)以上でお願いします。


 子どものままでいたかったなぁ。
 目の前に広がる光景に無意味なことを考える。
「すげー! めっちゃ降ってる!」
「綺麗デス~!」
「すごい……。とっても綺麗ね、奈奈」
「ニアちゃん! 何お願いしたらいいかなっ?」
 夜空を見上げ、子どもたちははしゃぎ声をあげる。闇でもキラキラと輝く瞳に、数多の星が映る。黒の中で小さくきらめくそれは、今日は様相を変えていた。筆で線を描くように暗闇の上を光が何本も走っていく。瞬く度に流れゆくそれは壮観の一言に尽きた。
 すごいなぁ、と識苑は思わず声を漏らす。夜も更けた帰り道、旧校舎の近くでたまたま子どもたちと鉢合わせた。話を聞くに、流星群を見に来たそうだ。警備の届いた学園の敷地内とはいえ、子どもだけでは危険だ。先生も付き合うよ、なんてことを言って保護者役を買って出たのが数十分前。今では生徒らと同じほど夜空に目を奪われていた。
 バグがなくなりマスヨウニ。追試受けませんように。恋刃と一緒にいられますように。桃ちゃんたちとまた遊べますように。ぎゅっと目を瞑り、両手を合わせ子ども達は流れる星に祈る。微笑ましい光景に、思わず口元が解けた。
 昔は流れ星に願ったものだが、大人になった今ではそんな純粋な思いなど消えていた。流星群はただの現象、ただの風景、願いを叶える力なんてない。夢のないことばかり考えてしまう程度には、長い月日を生きてきた。
 稼働年数が随分と長くなった首が痛みを訴える。上空に吸われていた視線を下ろすと、虹色と丹色の少し後ろに立つ少女が視界に入った。雪色で身を包む氷雪は、胸に手を当てながら流れる星々をじぃと眺めていた。桃色の唇はわずかに開かれている。漏れた息には感嘆が色濃く滲んでいた。
「流れ星、すごいね」
 大股で進み、一人眺める少女の隣に立って声を掛ける。ひゃっ、と可愛らしい声が夜の空気に溶ける。先生、と水底色の瞳が月色を見上げた。
「えぇ、すごいですね……。流れ星ってこんなにいっぱい見られるものなのですね」
「流星群だからねー。しばらくはずっと降ってくると思うよ」
 そうなのですか、と答える声はどこか遠くに向けられていた。夕陽色を見つめていた瞳は、再び空へと吸い込まれていく。よほど流れ星に心を奪われているらしい。
「氷雪ちゃんは何かお願いした?」
「お願い、ですか」
 識苑の問いに、氷雪はうぅんと短い音を漏らす。しばしして、笑声にも似た音が小さな口から漏れ出た。
「全然考えてませんでした……。本当に、綺麗で、すごくて。お願いごとをするなんて、忘れてました」
 少し困ったように弧を描く口元に、白い袖が当てられる。雪原めいた傷一つ無いなめらかな頬に、朱がふわりと滲む。
「先生はお願い事しましたか?」
「んー……、先生も忘れてたや」
 忘れていた、というより、端から頭に無かったという方が正しい。だって、星が願いを叶えてくれるはずなどないのだから。意味など無いことをしても仕方が無い。
 そうですか、と可憐な口が小さな声を紡ぎ出す。少し不思議そうな音色をしていた。それはそうだ、願い事はしたか、と聞いてきた本人が忘れていた、なんて返してくるのは不自然に思うだろう。
「まぁ、綺麗だなー、って見てるだけでも楽しいしね」
「そうですね。……本当に、綺麗」
 誤魔化すように空を見上げる。少女は再び流星群に釘付けになる。興奮にかすかに紅潮した頬と、ほぅと漏らす高い息はいつだって落ち着いた彼女らしからぬものだ。それほど、この光景に惹きつけられているのだということが分かる。
 ゆるりと笑い、大人は子どもに連れ立つように空へと目を向ける。星々の白い軌跡をなぞるように、萌葱と藤黄が夜空を駆けた。




君の味/嬬武器兄弟
葵壱さんには「君は気付いてくれるかな」で始まり、「懐かしい味がした」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば3ツイート(420字)以上でお願いします。


 さて、彼は気付いてしまうだろうか。
 少しの不安を抱えながら対面を見やる。ちょうど、真っ赤な箸が件の品へと伸ばされたところだった。大きく開かれたそれが、調味料がよく絡んだ野菜と肉を鷲掴む。山ほどのおかずが、思い切り開かれた口へと運ばれる。閉じられたと同時に顎が動き、頬が膨らむ。しばしして、笑みを形取っていた目がきょとりと丸くなった。
「……あれ? こないだとちょっと違う?」
「分かりましたか」
 不可思議そうに首を傾げる雷刀の姿に、烈風刀は小さく息を吐く。悔しさがにじんだものだった。
 セールで安くなっていたからと市販の合わせ調味料を買ったのが先月のこと。賞味期限は長いとはいえあまり放置するのもよくない、何より一度味を確認したい、と使ったのが今月の頭。企業努力の結晶によって作られしワンランク上の美味しさに打ちのめされたのは、その夜のことだ。
 何とかあの味を再現できないものか。買ったパッケージや公式ホームページで原材料を調べ、食事当番の度に密かに研究を重ねた。本当に食べたいのならば、また調味料を買い直せばいい話である。しかし、自分の目的はあくまで『再現』だ。あの素晴らしい味を再現したい、手にしたい、もっと料理が上手くなりたい。兄が心なしか普段よりも喜びたくさん食べていたあの味に勝ちたかった。
「色々と調整したのですけれどね」
 そう言って回鍋肉を口に運ぶ。味見の時にも感じたが、やはり何かが違う。風味はしっかりと効いており具材と調味料もよく絡んでいるものの、どこか物足りない。恐らく、パッケージ裏にずらりと並べられていたエキスとやらが足りないのだろう。中華出汁などを駆使したが、企業が独自に制作した複雑なそれを再現するには至らなかったようだ。当たり前だ、簡単に再現できるようなものならばスーパーの棚にずらりと並べられるほどヒットしているわけがない。
「でもすげーウメー!」
 曇る碧の表情を照らし出すように、朱は機嫌の良い声をあげる。大きな口と皿とを箸が往復する。もぐもぐと咀嚼する姿は普段と変わらない元気のよいものだ。美味しいという評価は真実なのだろう。それでもどこか負けた気分になるのは何故なのだろうか。はぁ、と溜め息一つ。不出来な主菜を胃に押し込むように白米を口にした。
 でもさぁ、と向かい側から声。ご飯茶碗から視線を上げると、鮮やかな紅緋とかち合う。輝かしいそれが柔らかく細まった。
「あれも美味しかったけど、オレは烈風刀がいつも作るやつが好きだなぁ」
 八重歯を見せ、雷刀は笑う。紡ぐ声はしみじみとしたものだ。かける言葉は気休めなどではなく、真実であることが分かる響きをしていた。
「……あの日はいつもより多く食べていましたけど」
「だって珍しかったし。烈風刀あんまああいうの使わないじゃん」
 返す声はむくれていた。返ってくる声もむくれたものだ。互いに拗ねたように言い合う。あまりにも幼いやりとりに、同時に笑声を漏らした。
「また作ってな。今度はいつものやつ」
「分かりましたよ。次の当番の時を期待しててください」
 やった、と兄は弾んだ声をあげる。山盛りになった米をめいっぱい掴んだ箸が、赤い口に吸い込まれる。柔らかな頬が丸く膨れた。
 楽しげに食事を続ける片割れを見やり、弟はそっと味噌汁に口を付ける。口内にふわりと広がったのは、いつも通り、昔馴染みの懐かしい味だった。




震えなんて吹き飛ばして/レイ+グレ
AOINOさんには「魔法は3秒で解けました」で始まり、「永遠なんてない」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字)以上でお願いします。


 魔法なんてものは三秒で解けた。
 大きく開いた手に、人差し指で『人』の字を書く。広げた手を口元に運び、見えないそれを大きく飲み込む。ごくんと大袈裟に喉を動かして、胃の腑に魔法の文字を落とし込む。バクバクと脈打つ心臓が落ち着くことも、末端の細かな震えが止まることもない。緊張を解くおまじないとやらは、この身体には通用しないようだ。
 あぁもう、とグレイスは内心叫ぶ。本当ならば八つ当たりをするように喚きたい。我が儘を言う子どものように蹲ってしまいたい。天敵を前にした動物のようにこの場から逃げ去ってしまいたい。どれも、不可能だ。状況が許してくれない。何より、己のプライドがそんなみっともないことは絶対に許さない。
「大丈夫デスカ?」
 後ろから声が飛んでくる。ビクン、と剥き出しになった白い肩が大袈裟なほど跳ねた。ぎゅっと身を縮こませ、少女は恐る恐る振り返る。声の主であるレイシスは、舞台袖の薄闇の中眉尻をほんのりと下げてこちらを見ていた。手にはマイクが握られている――もうマイクを持って準備せねばならないような時間であることを突きつけられる。
「だっ、だ、だいじょぶ、よ。だいじょぶにきまってるでしょ」
「大丈夫な顔色じゃありマセンヨ!?」
 返す声は惨めったらしいほど震えていた。よほど酷い顔をしているらしい、姉の顔は心配の一色で塗り潰されていた。はわわ、とリップで綺麗に彩られた唇が言葉を漏らす。
「深呼吸しマショウ? 吸っテ、吐いテ」
 すー、はー、と声に出して深呼吸をする桃を真似て、躑躅も息を吸う。ひゅ、と細い音がチョーカーで飾られた喉から漏れた。不器用ながら息を吸って、ゆっくりと吐き出す。何度繰り返しても、バクバクとうるさく音を鳴らす心臓が落ち着くことはなかった。
「大丈夫デスヨ。あんなに練習したじゃないデスカ」
「わ、分かってるわよ。だから、大丈夫って言ってるでしょ」
 微笑みかけるレイシスに、グレイスは依然震えた声で返す。強い語調は己に言い聞かせるようなものだ。
 大丈夫。大丈夫。不安を払うはずの五音節を繰り返す。それでも、手の震えも、足の震えも止まる様子はない。冷え切った指先が熱を取り戻す気配もなかった。
 うぅん、と悩ましげな声が音楽鳴り響く薄暗闇に落ちる。カツカツとヒールが床を叩く音。しばしして、柔らかなものが己を包んだ。緊張に支配された脳味噌は、姉が抱きついてきたのだと理解するまで随分と時間を要した。
「ぎゅーってするト、緊張や不安は飛んでっちゃうんデスッテ」
 おまじないです、と少女はいたずらげに言う。優しさに満ちた、柔らかな響きをしていた。
 胸が、腹が、背が、温もりに包まれる。レイシスの言葉に反し、心臓はドクドクと爆音掻き鳴らし身体を強張らせるばかりだ。けれども、なんだか呼吸がしやすくなった気がした。
「ずっと緊張してるなんてことありマセンカラ。大丈夫デスヨ」
 大丈夫。大丈夫。桃はまじないのように繰り返し、躑躅の背を撫でる。とんとんと背を叩く様は、慈愛に満ちていた。
 温もりが離れていく。はぁ、と息を吐く。あんなに下手くそだった呼吸は、幾分かマシになっていた。離れていった熱を追いかけて、俯いていた顔を上げる。マゼンタとピンクがかちあった。
「緊張、解けマシタ?」
「最初っから大丈夫って言ってるでしょ」
 やっと震えの止まった唇が紡ぎ出したのは、意地を張る子どものような音だった。つっけんどんなそれをぶつけられても、姉はふふ、と笑みをこぼすだけだ。
 ハイ、マイク。短い言葉とともに、少女はダイナミックマイクが渡す。受け取った白と黒で彩られたそれは、今までの舞台やこれまでの練習で何度も握ったものだ。そろそろ相棒と呼んでもいいぐらいである。
「いきマショウ」
「……言われなくても」
 伸ばされた手を取り、グレイスは一歩踏み出す。震えはいつの間にか収まっていた。
 大丈夫。姉がかけてくれた魔法があれば、この恐れが永遠に続くことはない。そう信じて。




まどろむしあわせ/ライレフ
葵壱さんには「午後は眠気との戦いだ」で始まり、「時間は止まってくれない」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば8ツイート(1120字)以内でお願いします。


 午後は眠気との闘いだ。
 ソファに寝転びながら、雷刀は考える。そんな文言を思い浮かべる頭の動きは、どんどんと鈍くなっていく。瞼も重くなるばかりだ。
 久しぶりの何もない休日。美味しい昼食で心ゆくまで満たされた胃袋。空調が作り上げた心地良い室温。磨かれた窓から差し込む穏やかな陽光。陽の光に照らされほのかな熱を宿したふかふかのソファ。どれも眠気をもたらすものだ。普段ならば即座に夢の世界へと飛び込むだろう。けれども、今日は睡魔に抗いたい気分だ。
 柔らかなものに頭を預けたまま、ちらりと上を見やる。現在太股という極上の枕を提供してくれている弟は、携帯端末を眺めていた。碧の目が上から下へと何度も往復する。小説でも読んでいるのだろうか。液晶画面に釘付けになったそれに、なんだか寂しさを覚える。身じろぎし、腹に顔を押しつける。そのままぐりぐりと頭を擦り付けた。
「れふとー、ねむい」
「だったら部屋に行って寝てください」
「ねたくない」
「どちらなのですか」
 うー、と唸りながら猫のようにすりすりと頭を寄せる。くすぐったいですよ、と烈風刀は朱い頭を軽く叩いた。
 突き放すような言葉だが、音は非常に柔らかい。甘やかしてくれているのがすぐに分かる音だ。そも、こうやって膝枕なんてしてくれている時点で相当に甘やかしてくれているのだけれど。
 押しつけた腹から温度が伝わってくる。布越しのそれは、太陽の光と同じぐらい温かで穏やかで心地が良い。すん、と鼻で息をする。柔軟剤の匂いの奥に、愛しい人の香りが覗いた。ふふ、と思わず笑声を漏らす。くすぐったいですってば、とまた頭を叩かれた。その手つきも穏やかなものだ。
 このままずっと一緒にだらだらできればいいのに。
 そんな願望が浮かぶ。時間が止まってくれるはずなどないのだけれど。




初夏の白/ライ→レフ
葵壱さんには「ある晴れた日のことだった」で始まり、「なぜか目が離せなかった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば8ツイート(1120字程度)でお願いします。


 晴れた日だ。とても良く晴れた日だ。憎らしいほど晴れた日だ。
「あっつ……」
 机に突っ伏し、雷刀は呟く。吐き出すと言った方が正しい響きをしていた。机と肌の接地面から汗が湧き出、膜を作っていく。不快指数は今朝からずっと高まっていくばかりで、落ち着く様子がない。
「クーラー点かねぇの……?」
「まだ六月頭ですよ」
「クーラーは七月からデスネー」
 呆れた涼やかな声と、困ったような可愛らしい声。後者は暑いデス、と続けた。
 六月もまだ始まったばかりだというのに、本日の気温は夏真っ盛りといった調子で上がり続ける。空は雲一つないのだから、陰ってわずかでも落ち着く期待すらできない。クーラーがまだ運転していない教室内は、窓と戸を開け放しても熱が籠もっていた。
 あつい、あつい、と恨みがましい音ばかりが漏れ出る。みっともないですよ、と弟の声が垂れ流れるそれを切りつけた。
「雷刀、髪まとめてみマセン?」
 とうとう呻り声をあげるだけになった朱に、桃は一つ提案する。え、と高気温に打ちひしがれた声が返された。
「首を出すとちょっとだけ涼しくなるかもしれマセンヨ? 試してみマショウ!」
 起きてくだサイ、とレイシスは弾んだ声で言う。あまりの暑さに動く気力など欠片も無かったが、相手があのレイシスであるならば別である。ぁい、としょぼくれた声で何とか返し、雷刀はうつ伏せた上半身を起こした。
 少し曲がった背の後ろに少女は立つ。ポケットから取り出した簡素なコームで、汗ばんだ朱髪を手早く梳かしていく。少しだけ落ち着きを取り戻したそれを片手で軽くまとめ、少し高い位置に持ち上げる。小さなヘアゴムで器用に括った。小さな朱い尾っぽが教室の片隅に生まれる。
「これでどうデショウ?」
「おー……ちょっと涼しいかも」
 ニコニコと笑みを浮かべる少女に、少年は不思議そうに目を瞬かせる。たしかに、首を覆っていた熱は少し解放された気がした。窓からうっすらと流れ込む風が、汗ばんだうなじを撫ぜる。生ぬるいそれが、かすかに心地よさをもたらした。
「せっかくデスシ、烈風刀も結んでみマショウ!」
「えっ? え、いや、僕は――」
「だッテ、烈風刀も汗掻いてマスヨ? 暑いデスヨネ?」
「そう、ですけども……」
 善意と好奇心で染まり上がった薔薇輝石から逃げるように、碧は視線を窓へとやる。ぅ、と苦しげな音。様々な感情を天秤に掛けているのが分かる音だ。羞恥心と期待感といったところだろうか、と兄は眺めて考える。この弟は、愛しい少女に触れられることを好みながらも得意としないのだから。
「…………では、お願いします」
 長い沈黙の末、そう言って烈風刀は空いている席に腰を下ろし、レイシスに背を向けた。少し丸まった背は、好きにしてくれ、と語っていた。ハイ、と嬉しそうな返事があがった。
 しまったばかりのコームを再び手にし、薔薇色の少女は再び慣れた調子で髪をまとめ上げていく。今度は、同じほどの長さをした碧い尻尾が生まれた。
「どうデスカ?」
「少し涼しくなりました。ありがとうございます」
 目を輝かせる少女に、少年はにこやかに返す。形の良い頭が傾ぐ度、高い位置で結われた髪がぴょこぴょこと揺れる。可愛らしい光景だ。
 動くものはつい目で追ってしまう性分である己だが、今日は何故か全く反応しない。少女の機転によりわずかに清涼感とまともな動きを取り戻したはずの脳味噌は、揺れるそれでなく根元、伸びた髪を辿った場所に引きつけられた。
 浅葱色の髪の下から現れた首筋は白かった。家庭菜園に精を出し、度々ベランダで作業をしているとは思えないような白さだ。その美しく澄んだ色が、差し込む陽光に照らされ輝く。汗だ。汗ばんだ肌が、光を受けて輝いているのだ。雪原めいた場所に、まとめきれなかった浅海色が張り付いている。水分を含んだそれは、少しだけ色が濃く見えた。
 ドク、と心臓が大きく脈打つ感覚。何故か湧いて出てきた唾液を飲み込む。朱い瞳が軽く瞠られる。朱が、白に吸い寄せられる。
 その美しい色から、輝かしい色から、艶めかしさすら感じる色から、何故か目が離せなかった。




花咲く夜を今年も/ハレルヤ組
あおいちさんには「花が咲くように」で始まり、「だから君がいい」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば5ツイート(700字程度)でお願いします。


 花が咲くように、とはまさしくこのことを言うのだろう。上空から視線を逸らし、少年二人は隣を見やる。
 夜空に花が咲く。真っ暗闇に広がる炎の花々を見上げ、桃の瞳がまあるくなる。大きく美しい瞳に、空咲く花火が映っては消えていく。はわぁ、と高揚した声を漏らす可憐な口は、歓喜を表すように大きく開いていた。
 可愛らしい、と朱と碧は頬を緩める。空に、すぐ隣に咲いた花はどちらも素晴らしいものだ。永遠に見ていたい、と思うほどに。
 盛大な音とともに、暗闇に大輪の花がいくつも咲いては消えていく。爆音と表現するのが正しいような音なのに、目に焼け付くほど激しい光なのに、どれもが心を満たしていく。暖かな火が灯るような心地だった。
 華やかな時間もいつかは終わる。一際大きな音と光が夜を支配する。視界に収まりきらないそれが闇へと溶けると、アナウンスが鳴った。花火大会は終了を迎えたのだ。
「花火、すごかったデスネ!」
「ほんとほんと! すごかった!」
「えぇ、美しいものでした」
 はしゃいだ声をあげるレイシスに、雷刀と烈風刀は同じく弾んだ声で返す。花火の素晴らしさはもちろん、隣で歩く少女が喜び楽しんでいる様子が嬉しくてたまらなかった。
「でも、僕たちでよかったのですか? 紅刃さんたちが誘ってきたでしょうに」
 少年の口から不安が漏れる。彼の言うとおり、薔薇色の少女にはたくさんの友人がいる。花火大会に誘ってきた者も多くいただろう。男の自分たちより、同じ感性を持つ女友達との方が楽しめたのではないか。それは、兄弟二人が誘われてからずっと抱えていたものだ。隣を歩く朱の表情もわずかに陰る。
「何言ってるんデスカ」
 碧の言葉に、表情を曇らせる朱に、桃は唇を尖らせる。むぅ、となめらかな頬が膨れる。それもすぐに萎み、口元がふわりと綻ぶ。ふふ、と楽しげな笑声とともに、ぱっちりとした鴇色の目が虹のように大きな弧を描いた。花火と遜色ない、夜空に咲く大輪の笑顔だ。
「今年も二人と見たかったんデスヨ。だから、三人一緒がいいんデス」




潜る昔話/紅刃
あおいちさんには「昔読んだ本を思い出した」で始まり、「そんな昔の話」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば10ツイート(1400字程度)でお願いします。


 昔読んだ本たちを思い出す。
 目の前のモニタには、様々なタイトルが並んでいた。『桃太郎』『ヘンゼルとグレーテル』『白雪姫』『雪女』と耳慣れたものもあれば、初めて聞くようなものもある。『好きな物語を選択してください』と最上部に書かれているものの、こんなに多くては選びようがない。どうしましょうか、と紅刃は唇に手を当てた。
 ちらりと隣を見やる。己をこのヘキサダイバーに誘ってくれた妹とその友人は、一つのモニタを覗き込んでいた。どれにしましょう、奈奈はお姫様よ、じゃあ恋刃は勇者様かしら、とはしゃいだ声が聞こえてくる。彼女らも存分にこの新たな遊戯を楽しんでいるようだ。微笑ましい、と笑みをこぼした。
「お姉さまは何にするんですか?」
 体験する物語を決めたのだろう、妹はくるりと振り返って問うてくる。二人の可愛らしい様子を見てばかりで、自分のことを忘れていた。どうしようかしら、と少し焦りを含んだ声が漏れた。
 目を輝かせる恋刃から視線を外し、モニタへと戻す。『金太郎』『幸福の青い鳥』『ラプンツェル』『かぐや姫』。膨大な量だというのに、どうしても知っているものに目がいってしまう。知らない物語を体験する方がシステムコンセプトとして正しいのだろうが、どうしても一切見聞きしたことのない世界に入るのは尻込みしてしまう。んー、と閉じた唇から悩ましいと息が漏れた。
「……『赤ずきん』」
 先頭に近い位置にあった物語の名をなぞる。昔からよく読み聞かされた、妹にもよく読み聞かせた物語だ。
「『赤ずきん』にしようかしら」
 ようやく答えを返すと、恋刃は素敵、と弾んだ調子で言った。こちらを見上げる瞳は興奮で輝いている。始まる前からこんな調子だなんて、可愛らしい。最近大人びた様子を見せるが、妹はまだまだ子どものようだ。ありがとう、と礼を言う。ふふふ、と愛しいかんばせに満面の笑みが咲いた。
 物語を選択し、ブースに向かう。個別のそこに入り、テスター専用のパスを通し、電子モニタを操作して確認画面に向かう。今一度規約に目を通し、了承を選ぶ。全ての手続きが終わると、身を包む空間が暗くなった。唯一光を放つ目の前の画面に『LOADING』の電子文字が流れゆく。
 昔はこの物語を恐れたものだ。だって、オオカミに食べられてしまうだなんて、小さな子どもには刺激が強い展開だ。すぐに猟師に助けられ、祖母も孫も無事だったことに酷く安堵したことを覚えている。そして、悪いオオカミに罰が下ったことに安心感を覚えたことも。
 けれど。
 愛する祖母に花を届けようとする少女。そんな幼子を騙し、食らったオオカミ。
 そんなやつなんて、石なんか詰めずとも。
「……全て切り裂いてしまえばよかったのに」
 ふふ、と不気味さを孕んだ笑みが闇に落ちる。
 昔話が、世界を包み始めた。




二人寝の夜/ライレフ
あおいちさんには「二人きりの夜には」で始まり、「おやすみなさい」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば5ツイート(700字程度)でお願いします。


 布団にすっぽり埋もれる二人きりの夜は、いつだって温かい。どんなに汗を掻くような夏だって、どんなに縮み上がるような冬だって、いつだって心地の良い温かさが肌から注がれるのだ。暑い、と一蹴しても、狭い、と文句を言っても、その温かさはいつだってやってきて、いつだって己の心に火を灯すのだ。
 れふと、と名を呼ばれる。重くなった瞼を上げると、そこには枕に頭を沈み込ませた片割れがいた。いつだってぱっちりと開いた朱い瞳は、もう八割方姿を隠している。眠りきってしまうのも時間の問題だろう。
 シングルベッドに男子高校生二人並んで眠るのは狭苦しくて仕方無い。それでも枕で無理矢理場所を奪い、身体を捩じ込ませてくる兄は楽しそうにしていた。嬉しそうにしていた。一緒に寝よ、と眠気をたっぷりまとって誘う声はいつだって幸いに満ちていた。そんなものだから、いつだって絆されて、許して、受け入れてしまう。甘いにも程があった。
 なんですか、と返してみる。答えはない。寝言のようなものなのだろう。予想はしていた。それでも言葉を投げ返してしまうのだから、己も律儀なものである――否、ただ求めているだけだ。つい応えてしまうほど、愛しい人を。
 れふと、とまた声。なんですか、とまた返す。いつまで経ってもあの元気な声は応えない。それでも、どこか満ち足りた気分になるのは何故だろうか。
 ふ、と息を吐く。兄はもうすぐ本格的に寝入るだろう。そも、もう己も眠るべき時間だ。いつまでもこの眠気にとろけた可愛らしい顔を眺めていてはいけないのだ。
 おやすみなさい、と目を閉じる。おやすみ、とほとんど寝た声が闇の中聞こえてきた。

畳む

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SDVX


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