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No.184
先生!おかしといたずらください!【ボルテナイザー・マキシマ】
先生!おかしといたずらください!【ボルテナイザー・マキシマ】
マキシマ先生のハロウィンボイスに脳を焼かれた結果がこれだよ。たすけてください。先生におませさんって言われたい。
死ぬほど資料漁ったけど口調あやふやだし元からマキシマ先生に死ぬほど理想と夢を見ているオタクなので色々と色々。
マキシマ先生が生徒とハロウィンを過ごす話。
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今日もボルテ学園の校門は賑わいを見せていた。下校時間を過ぎた今、多くの生徒が帰路に着こうとゲートへ歩みを進めている。だが、今日この時に限っては歩みを止めている者も多い。特に初等部の幼い子どもたちは、ゲートから逸れて走っていっている姿が見受けられた。彼女らが向かった先からは、きゃいきゃいと可愛らしい声が溢れて広がっている。楽しげで嬉しげな、聞いているだけで胸が温かくなるような響きだ。
少年少女の中心は青で染まっていた。否、青い身体をした男性がいるのだ。子どもたちの倍以上はある体躯は筋骨隆々と表現するのが相応しい、丹精込めて鍛え上げらたことがひと目で分かるものだ。着衣を最小限で済ませていることもあり、美術品がごとく仕上げられた肉体は惜しみもなく晒されている。筋肉の陰影を深く刻んだ肌はきらめいて見えるほどつややかで、まるで朝露をまとっているようにすら見える。そこかしこに細かな傷は残っていれど、それすらも作品の一要素であるかのように堂々としていた。
「Foooooo! みんな、ちゃんと並ぶんだゾッ☆ 先生もお菓子も逃げないからネーッ!」
自身を『先生』と称す男性――ボルテナイザー・マキシマは、まるでポーズを決めるように両手に下げた袋を高く持ち上げる。白いそれの縁から小さな飴がいくらかこぼれ落ちる。ビシリと決めた身体に、溢れ出るほど菓子がある様に、きゃあきゃあと可愛らしい歓声があがった。
秋晴れを空風が飾る本日は十月三十一日、所謂ハロウィンである。自由な校風で有名なボルテ学園は、今日一日菓子といたずらのせめぎあいでどこもかしこも普段以上に賑やかだった。いたずらを仕掛ける者、菓子で武装し自衛する者、イベントにかこつけて菓子を食べる者、いたずらを返り討ちにせんと闘う者。学園中がハロウィン一色である。サプライズと称して教師が盛大ないたずらもとい改造を仕掛けるほどだ――別の教師にしこたま怒られていたが。
ボルテナイザー・マキシマもハロウィンを楽しむ一人だった。生徒からはいたずらを仕掛けられ、躱し、菓子を与え、菓子をもらい、と一日をこなしてきた。授業が終わった今は、初等部の生徒を中心に菓子を配っているところだ。生徒にハロウィンを楽しんでもらいたい。そんな教師としての思慮が見える姿であった。肝心の子どもたちは菓子に夢中でハロウィンなんてことは忘れている様子だけれど。
「せんせー!」
「トリック・オア・トリート、だよ!」
子どもたちの中に星空まとう兎が飛び込む。初等部の双子、ニアとノアだ。彼女らもハロウィンを楽しんでいるのだろう、片手には菓子がたくさん詰まった袋を抱えていた。それに隠れたハーフパンツのポケット部分は、不自然なほど膨らんでいる。何が入っているかなど、彼女らを知る者にはすぐさま理解できる。そして、理解と同時に逃げ出すだろう。初等部の双子兎は仲の良さだけでなくいたずらっ子としても有名なのだ。
「ニアGIRL! ノアGIRL! ハッピーハロウィーンッ!」
彼女たちと親しい――つまりは彼女たちの性格をばっちりと知っているというのに、マキシマは逃げることなく笑顔を浮かべていた。大きく開いた口からは、学園の外にまで響き渡るような声が弾け出る。綺麗に生え揃った白い歯が秋の穏やかな日差しを受けて輝いた。
「勿論、二人にもお菓子を用意してるゾーッ!」
袋を持った両手を器用に操り、マキシマは二つの包みを取り出す。市販の、けれども子どものお小遣いで買うにはちょっと手が届かない、程よい甘さとよく詰まった生地で評判のマドレーヌだ。透明な袋に入れオレンジのリボンで飾られたそれは、まさにハロウィンに相応しいものだ。菓子の登場に、双子兎の目が輝き出す。わー、と元気な声があがった。ありがとー、と元気な礼とともに、ニアは長い袖で隠された手を菓子へと伸ばす。ニアちゃん、と妹は姉の脇腹をツンツンと突いた。笑顔満面に彩られた目がハッと開き、腕がすぐさま引かれていく。そんな不自然な動きをしているというのに、マキシマは全く気にせず二人をにこやかに眺めていた。
「せんせー? あのね?」
「ニアたち、お菓子じゃなくていたずらがいいなー」
二人の顔は依然笑みで飾られていた。けれども、目の奥に輝くのは喜びのきらめきではなく意地悪気な影を落としていた。真ん丸な目が弓張月のように、小さな口が三日月のように弧を描いて笑顔を浮かべる。可愛らしいはずのそれは、瞳に宿るもののせいでどこか不穏な雰囲気をまとっていた。手を隠す長い袖が柳のようにぷらんぷらんと揺れる。それが膨らんだポケットに辿り着く前に、二人の額に何かが触れた。
「先生にいたずらがしたいーッ? このお・ま・せ・さ・んめッ☆」
双子の額にちょんと触れたマキシマの指に、ほんのわずかに力が込められる。離れさせるようにちょいとつつかれ、ビタミングリーンの耳がふわんと揺れる。わわっ、と兎たちは慌てた声を漏らした。
「ダメかー」
双子は揃って声をあげる。どこか晴れ晴れとして弾んだ調子なのはきっと気のせいではないだろう。いたずらめいた輝きが消えた瞳が、普段通りゆるりと口角を持ち上げた可愛らしい口元が、いたずらが失敗した彼女らの心を語っていた。
「じゃあ先生。改めてー」
「トリック・オア・トリート、だよ!」
「Hmm……。じゃーあー……先生はTreatを選ぶゾッ!」
持っていってねッ、とマキシマは彼女らの手の上に先ほどの菓子を載せる。ありがとー、と元気な声が二つ重なった。
「マキシマ先生ー!」
菓子片手に駆けていく双子兎を見送るマキシマの背に鋭い声が飛んでくる。名を呼ばれ、教師はいつも通りの爽やかを通り越して暑苦しい笑みを浮かべたまま振り返った。彼の目元を覆うバイザーに赤が映る。小さかったそれはどんどんど大きくなり、すぐさまその足元まで追いついた。昇降口から校門前ゲートまでの短い距離を走っただけだというのに、声の主はゼェハァと大袈裟なほど息をこぼす。疲労で俯いていた黄色い頭がバッと上がり、同時に日に焼けていない白い手が突き出された。
「菓子配ってるって聞きました! ください!」
「魂! みっともないよ!」
ねだり叫ぶ少年――赤志魂の後ろから、青雨冷音が叫んで走って寄ってくる。走って少しだけあらわになった目元は見開かれ、焦りと羞恥でわずかに色づいて見えた。一心不乱にマキシマを見つめる腐れ縁の首根っこを掴んだ彼は、ぐっと力を入れて引き剥がす。菓子一直線の少年は踏ん張って堪えた。この調子では菓子がもらえるまで動かないことぐらい、誰にだって理解できる。
「魂BOYもハッピーハロウィーンッ! HAHAHA、元気なのはいいことだゾーッ」
はい、とマキシマはまっすぐに突き出された魂の手に菓子を載せる。ありがとうございます、と普段の彼からは想像できないほどの声が辺りに響いた。
「すみません……」
「そこまでして欲しいもんなの……?」
はしゃいで菓子を眺める少年の後ろで、冷音は縮こまって謝罪の言葉を漏らす。その後ろから疑問の言葉が飛んでくる。彼らの友人である不律灯色だ。授業のほとんどを寝て過ごしていると噂される彼は、いつもと同じ眠たげな目で菓子を手にはしゃぐ魂を眺めていた。
「イベントは楽しむものだゾッ☆ 冷音BOY! 灯色BOY! お菓子といたずらどっちにするッ?」
三人の様子を気にすることなく――否、むしろ申し訳無さそうに縮こまる冷音を気遣うように、マキシマは普段通り呵々大笑する。彼の大声量を聞き慣れた少年は、ホッとした様子でリュックサックのショルダーベルトを握っていた手を緩めた。この大音量を間近で聞いているというのに、灯色は眠たげどころか寝ているかのように瞼を下ろしている。
「お、お菓子でお願いします……」
ゴソゴソとリュックを漁る冷音の目の前に、ビニール袋に包まれた菓子が差し出される。ありがとうございます、と少しつかえつかえになりながら、青いパーカーに包まれた手がこわごわと動いて受け取る。ハッピーハロウィーン、とまた大声が空に昇っていった。少しだけ晴れやかになった表情に、薄く笑みが浮かぶ。これでは反対じゃないだろうか、と出そうになった疑問は喉の奥に押し込めることに決めたようだ。
「灯色BOYはいたずらかなッ?」
「お菓子だよ……さっさとちょうだい……」
問うて構える――もちろん冗談だ――マキシマに、灯色は呆れ返った声であしらう。けだるげに差し出された生徒の手に、教師は先ほどと同じ菓子を載せた。今にも閉じてしまいそうな目が手の中にあるマドレーヌを見つめる。またこれか、と言いたげな瞳をしていた。ふぅん、と少年は小さく鼻を鳴らす。
今しがた灯色に渡されたマドレーヌは、よくマキシマが彼に与えるものだった。まだ学園にやってきて日の浅い頃、迷い子だった少年はこれをよく食べた。いっとう好んでいるわけではない。ただ毎回それだけ数が多いから、バランスよく数を減らそうと選んで食べただけだ。しかし、マキシマにはそれが『灯色が好むもの』として映ったらしい。彼は時たま差し入れにこの菓子を少年に渡すのだ。否定するのも面倒だから、と灯色は語る。けれども、彼にとってこの菓子はまだ未発達の心の中の『思い出』のひとつとして鈍い光を灯すものであるのは確かだった。
せんせー。ありがとー。さよならー。またあしたー。幼い声がゲート前に響く。時折少女の声や少年の声も混ざる。もちろん、その中でひときわ響いて輝くのはボルテ学園英語教師――誰よりも生徒を思い行動するボルテナイザー・マキシマの声だった。
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#ボルテナイザー・マキシマ
#ニア
#ノア
#赤志魂
#青雨冷音
#不律灯色
#ボルテナイザー・マキシマ
#ニア
#ノア
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#青雨冷音
#不律灯色
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THANKS!!
SDVX
2024/10/31(Thu) 21:56
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先生!おかしといたずらください!【ボルテナイザー・マキシマ】
先生!おかしといたずらください!【ボルテナイザー・マキシマ】マキシマ先生のハロウィンボイスに脳を焼かれた結果がこれだよ。たすけてください。先生におませさんって言われたい。
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マキシマ先生が生徒とハロウィンを過ごす話。
今日もボルテ学園の校門は賑わいを見せていた。下校時間を過ぎた今、多くの生徒が帰路に着こうとゲートへ歩みを進めている。だが、今日この時に限っては歩みを止めている者も多い。特に初等部の幼い子どもたちは、ゲートから逸れて走っていっている姿が見受けられた。彼女らが向かった先からは、きゃいきゃいと可愛らしい声が溢れて広がっている。楽しげで嬉しげな、聞いているだけで胸が温かくなるような響きだ。
少年少女の中心は青で染まっていた。否、青い身体をした男性がいるのだ。子どもたちの倍以上はある体躯は筋骨隆々と表現するのが相応しい、丹精込めて鍛え上げらたことがひと目で分かるものだ。着衣を最小限で済ませていることもあり、美術品がごとく仕上げられた肉体は惜しみもなく晒されている。筋肉の陰影を深く刻んだ肌はきらめいて見えるほどつややかで、まるで朝露をまとっているようにすら見える。そこかしこに細かな傷は残っていれど、それすらも作品の一要素であるかのように堂々としていた。
「Foooooo! みんな、ちゃんと並ぶんだゾッ☆ 先生もお菓子も逃げないからネーッ!」
自身を『先生』と称す男性――ボルテナイザー・マキシマは、まるでポーズを決めるように両手に下げた袋を高く持ち上げる。白いそれの縁から小さな飴がいくらかこぼれ落ちる。ビシリと決めた身体に、溢れ出るほど菓子がある様に、きゃあきゃあと可愛らしい歓声があがった。
秋晴れを空風が飾る本日は十月三十一日、所謂ハロウィンである。自由な校風で有名なボルテ学園は、今日一日菓子といたずらのせめぎあいでどこもかしこも普段以上に賑やかだった。いたずらを仕掛ける者、菓子で武装し自衛する者、イベントにかこつけて菓子を食べる者、いたずらを返り討ちにせんと闘う者。学園中がハロウィン一色である。サプライズと称して教師が盛大ないたずらもとい改造を仕掛けるほどだ――別の教師にしこたま怒られていたが。
ボルテナイザー・マキシマもハロウィンを楽しむ一人だった。生徒からはいたずらを仕掛けられ、躱し、菓子を与え、菓子をもらい、と一日をこなしてきた。授業が終わった今は、初等部の生徒を中心に菓子を配っているところだ。生徒にハロウィンを楽しんでもらいたい。そんな教師としての思慮が見える姿であった。肝心の子どもたちは菓子に夢中でハロウィンなんてことは忘れている様子だけれど。
「せんせー!」
「トリック・オア・トリート、だよ!」
子どもたちの中に星空まとう兎が飛び込む。初等部の双子、ニアとノアだ。彼女らもハロウィンを楽しんでいるのだろう、片手には菓子がたくさん詰まった袋を抱えていた。それに隠れたハーフパンツのポケット部分は、不自然なほど膨らんでいる。何が入っているかなど、彼女らを知る者にはすぐさま理解できる。そして、理解と同時に逃げ出すだろう。初等部の双子兎は仲の良さだけでなくいたずらっ子としても有名なのだ。
「ニアGIRL! ノアGIRL! ハッピーハロウィーンッ!」
彼女たちと親しい――つまりは彼女たちの性格をばっちりと知っているというのに、マキシマは逃げることなく笑顔を浮かべていた。大きく開いた口からは、学園の外にまで響き渡るような声が弾け出る。綺麗に生え揃った白い歯が秋の穏やかな日差しを受けて輝いた。
「勿論、二人にもお菓子を用意してるゾーッ!」
袋を持った両手を器用に操り、マキシマは二つの包みを取り出す。市販の、けれども子どものお小遣いで買うにはちょっと手が届かない、程よい甘さとよく詰まった生地で評判のマドレーヌだ。透明な袋に入れオレンジのリボンで飾られたそれは、まさにハロウィンに相応しいものだ。菓子の登場に、双子兎の目が輝き出す。わー、と元気な声があがった。ありがとー、と元気な礼とともに、ニアは長い袖で隠された手を菓子へと伸ばす。ニアちゃん、と妹は姉の脇腹をツンツンと突いた。笑顔満面に彩られた目がハッと開き、腕がすぐさま引かれていく。そんな不自然な動きをしているというのに、マキシマは全く気にせず二人をにこやかに眺めていた。
「せんせー? あのね?」
「ニアたち、お菓子じゃなくていたずらがいいなー」
二人の顔は依然笑みで飾られていた。けれども、目の奥に輝くのは喜びのきらめきではなく意地悪気な影を落としていた。真ん丸な目が弓張月のように、小さな口が三日月のように弧を描いて笑顔を浮かべる。可愛らしいはずのそれは、瞳に宿るもののせいでどこか不穏な雰囲気をまとっていた。手を隠す長い袖が柳のようにぷらんぷらんと揺れる。それが膨らんだポケットに辿り着く前に、二人の額に何かが触れた。
「先生にいたずらがしたいーッ? このお・ま・せ・さ・んめッ☆」
双子の額にちょんと触れたマキシマの指に、ほんのわずかに力が込められる。離れさせるようにちょいとつつかれ、ビタミングリーンの耳がふわんと揺れる。わわっ、と兎たちは慌てた声を漏らした。
「ダメかー」
双子は揃って声をあげる。どこか晴れ晴れとして弾んだ調子なのはきっと気のせいではないだろう。いたずらめいた輝きが消えた瞳が、普段通りゆるりと口角を持ち上げた可愛らしい口元が、いたずらが失敗した彼女らの心を語っていた。
「じゃあ先生。改めてー」
「トリック・オア・トリート、だよ!」
「Hmm……。じゃーあー……先生はTreatを選ぶゾッ!」
持っていってねッ、とマキシマは彼女らの手の上に先ほどの菓子を載せる。ありがとー、と元気な声が二つ重なった。
「マキシマ先生ー!」
菓子片手に駆けていく双子兎を見送るマキシマの背に鋭い声が飛んでくる。名を呼ばれ、教師はいつも通りの爽やかを通り越して暑苦しい笑みを浮かべたまま振り返った。彼の目元を覆うバイザーに赤が映る。小さかったそれはどんどんど大きくなり、すぐさまその足元まで追いついた。昇降口から校門前ゲートまでの短い距離を走っただけだというのに、声の主はゼェハァと大袈裟なほど息をこぼす。疲労で俯いていた黄色い頭がバッと上がり、同時に日に焼けていない白い手が突き出された。
「菓子配ってるって聞きました! ください!」
「魂! みっともないよ!」
ねだり叫ぶ少年――赤志魂の後ろから、青雨冷音が叫んで走って寄ってくる。走って少しだけあらわになった目元は見開かれ、焦りと羞恥でわずかに色づいて見えた。一心不乱にマキシマを見つめる腐れ縁の首根っこを掴んだ彼は、ぐっと力を入れて引き剥がす。菓子一直線の少年は踏ん張って堪えた。この調子では菓子がもらえるまで動かないことぐらい、誰にだって理解できる。
「魂BOYもハッピーハロウィーンッ! HAHAHA、元気なのはいいことだゾーッ」
はい、とマキシマはまっすぐに突き出された魂の手に菓子を載せる。ありがとうございます、と普段の彼からは想像できないほどの声が辺りに響いた。
「すみません……」
「そこまでして欲しいもんなの……?」
はしゃいで菓子を眺める少年の後ろで、冷音は縮こまって謝罪の言葉を漏らす。その後ろから疑問の言葉が飛んでくる。彼らの友人である不律灯色だ。授業のほとんどを寝て過ごしていると噂される彼は、いつもと同じ眠たげな目で菓子を手にはしゃぐ魂を眺めていた。
「イベントは楽しむものだゾッ☆ 冷音BOY! 灯色BOY! お菓子といたずらどっちにするッ?」
三人の様子を気にすることなく――否、むしろ申し訳無さそうに縮こまる冷音を気遣うように、マキシマは普段通り呵々大笑する。彼の大声量を聞き慣れた少年は、ホッとした様子でリュックサックのショルダーベルトを握っていた手を緩めた。この大音量を間近で聞いているというのに、灯色は眠たげどころか寝ているかのように瞼を下ろしている。
「お、お菓子でお願いします……」
ゴソゴソとリュックを漁る冷音の目の前に、ビニール袋に包まれた菓子が差し出される。ありがとうございます、と少しつかえつかえになりながら、青いパーカーに包まれた手がこわごわと動いて受け取る。ハッピーハロウィーン、とまた大声が空に昇っていった。少しだけ晴れやかになった表情に、薄く笑みが浮かぶ。これでは反対じゃないだろうか、と出そうになった疑問は喉の奥に押し込めることに決めたようだ。
「灯色BOYはいたずらかなッ?」
「お菓子だよ……さっさとちょうだい……」
問うて構える――もちろん冗談だ――マキシマに、灯色は呆れ返った声であしらう。けだるげに差し出された生徒の手に、教師は先ほどと同じ菓子を載せた。今にも閉じてしまいそうな目が手の中にあるマドレーヌを見つめる。またこれか、と言いたげな瞳をしていた。ふぅん、と少年は小さく鼻を鳴らす。
今しがた灯色に渡されたマドレーヌは、よくマキシマが彼に与えるものだった。まだ学園にやってきて日の浅い頃、迷い子だった少年はこれをよく食べた。いっとう好んでいるわけではない。ただ毎回それだけ数が多いから、バランスよく数を減らそうと選んで食べただけだ。しかし、マキシマにはそれが『灯色が好むもの』として映ったらしい。彼は時たま差し入れにこの菓子を少年に渡すのだ。否定するのも面倒だから、と灯色は語る。けれども、彼にとってこの菓子はまだ未発達の心の中の『思い出』のひとつとして鈍い光を灯すものであるのは確かだった。
せんせー。ありがとー。さよならー。またあしたー。幼い声がゲート前に響く。時折少女の声や少年の声も混ざる。もちろん、その中でひときわ響いて輝くのはボルテ学園英語教師――誰よりも生徒を思い行動するボルテナイザー・マキシマの声だった。
畳む
#ボルテナイザー・マキシマ #ニア #ノア #赤志魂 #青雨冷音 #不律灯色