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No.183

あんたに編み込んで【ヒロ←ニカ】

あんたに編み込んで【ヒロ←ニカ】
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ハッピーハロウィン(フライング)(明日の体調が怪しいため)
キョンキョンぼう可愛い! そういやこれ三つ編み付いてんすね! お揃い! とかそういう単純な思考による単純な話。都合の悪いところは都合の良いように勝手に捏造してる。
ハロウィンギアが気になるベロニカちゃんハロウィンギアに興味津々なヒロ君の話。

 前後に付けられた大きな装飾を横に避け、丼をひっくり返したような帽子を被る。そのままくるくると回して正しい被り方をする。不思議なことに、顔の真ん前に配置された大きな厚紙は透けて向こう側がはっきりと見えた。おぉ、とベロニカは思わず感嘆の声を漏らした。どういう仕組みか分からないものの、こんな顔を隠すようなデザインでしっかりと視界が確保できるようになっているのは驚きだ。見た目を最優先した機能性の低いギアだと思っていたが、そうではないようだ。
「前見えますか?」
「見える。すげーわこれ」
 尋ねる声に急いでそちらへと顔を向ける。透ける札紙の向こうには、どこか心配そうな顔をしたヒロがいた。やはり視界の確保への懸念が大きいのだろう。そんな表情を振り払うように弾んだ声を、恥ずかしながら弾んでしまった声をあげる。それでも信じられないのか、送られる視線はまだ訝りを残していた。
「ヒロも被ってみろよ。すげーんだって」
 被ったギア、キョンキョンぼうを脱ぎ捨て、目の前の青い頭へと載せる。うわ、と短い悲鳴があがった。怯んだように屈んだ頭を見下ろしながら、帽子の位置を調節してやる。こわごわと上げた顔からは次第に猜疑の色が消え、高揚にも似た感動の色が広がっていく。赤い瞳は感情を表すように大きく丸くなっていく。口元は小さく開き、はわぁと小さな溜め息が落ちた。
「ちゃんと見えるんですね。どういう仕組みなんでしょう」
「何なんだろうな。こっちから見たらただの紙なのに」
 眼前に取り付けられた厚みのある紙をいじくりながら少年は呟く。少女も不思議そうに前から横からと覗き込んだ。やはり何度見ても正面からでは達筆すぎて読み下せない文字書かれたただの厚紙だ。けれど、横から見るとうっすらと前が透けて見える。きちんと被って見た結果は先ほど十二分に味わった。普通の紙のように見えるが、何か特殊なものなのだろうか。知的好奇心が年頃の少年少女をこれでもかとくすぐって、あちらへこちらへと動かした。
 横から紙を眺める黄色い目がすぃと動く。レモンの瞳に映るのは、ギアの背面に付けられた装飾だ。背の半ばまであるそれは、三つ編みにされた髪のようなものだった。かっちりと編み込まれた様子は縄を思い起こさせる。前に取り付けられた札も大概意味が分からない装飾だが、こちらも何のためにあるのかが全く分からない。下手をすればバトル中どこかに引っかけてしまう危険性があるのだから、実用性を下げるものである。先ほどのような配慮はあれど、やはり見目を最優先したギアのようだ。
 そういえば、とベロニカは記憶を辿る。インクリングはゲソを気合いを入れて伸ばし、前に垂らした三つ編みにしている者がいる。己もその一人だ。しかし、オクトリングがそのようなヘアスタイルをしているのは見たことがなかった。彼らの多くは長いゲソ――オクトリングは『ゲソ』ではないと目の前の友人に教えられた覚えがあるが――を分けて下ろしているか、簡単に結っているかがほとんどだ。
 気合いを入れればゲソは伸ばすことができる。けれどもそれをしないのは何故なのだろう。バンカラ街のオクトリングもまた『イカした』ことに力を注いでいるのに、何故ヘアスタイルには無頓着なのだろう。インクリングとオクトリングはトレンドが違うのだろうか。いや、ロビーに広げっぱなしにされていた雑誌ではどちらも同じように扱っていた覚えがある。では、何故。
 疑問と好奇心で埋め尽くされた少女の心は、容易く身体を動かす。角張った手が伸び、後ろに垂れた三つ編みの装飾を避け、背へと流れる青いゲソに触れる。先が緩やかにカールしたそれは、冷房が切られてぬるいロッカールームの中でもひやりとしていた。耳の後ろ側、太い部分に這わせた指をゆっくりと動かしなぞる。先端に辿り着いたところで、年頃の少女にしては硬い指が躊躇いがちに泳ぐ。しばしして、ゆるくうねったそれをしかりとつまむ。そのまま、ぐっと下に引っ張った。
「いった!」
 瞬間、目の前で悲鳴があがる。形が良いブルーの頭がぐっと後ろに傾く。バランスを崩した帽子が揺れ動き、そのまま床へと落ちた。わっ、と思わずこちらも声をあげる。
「すまん!」
「一体どうしたんですか……?」
 即座に手を離し、ベロニカは悲鳴と同じぐらい大声で謝る。ゲソを引っ張られた当人は、己の愚行に怒ることなく問いかけるだけだ。動揺をあらわにした声は、本当に状況が理解できていないことを如実に表していた。
「これ、後ろ三つ編みになってんだろ? オクトリングも気合い入れて引っ張ったら三つ編みにできねーのかなーって」
 しょぼくれた声で答えを返す。この有様では返答ではなく言い訳にしか聞こえなかった。事実そうであるのだけれど。あまりにもイカしてない、みっともない、子どもそのものの行動だった。今になって羞恥と後悔が湧き起こってくる。何より、彼に危害を与えてしまったのが大問題だ。普段から世話を焼いてくれる優しい友人を衝動的な好奇心で傷付けるなど馬鹿にも程というものがある。
 あぁ、と少年は納得した声をあげる。そこにうすらと笑みを含んでいるように聞こえたのは、きっと気のせいなんかでないだろう。当たり前だ、こんなガキくさいことをして笑われない方がおかしいのだ。
「オクトリングはインクリングに比べて触手の本数が少ないですからね。三つ編みはよっぽど頑張らないと難しいんじゃないでしょうか」
「あー……、本数は気合いじゃどうにもならねーもんな」
 インクリングの頭部にあるゲソは六本だが、オクトリングのそれは四本だ。目の前の頭を見るに、それも左右に二本ずつ分かれた配置をしている。己たちのように気合いで伸ばしたとしても、アンバランスになってしまうだろう。
 種族差によってヘアスタイルに違いが出てくるとは。なるほどなぁ、とベロニカはこぼす。目の前のヒロは、事態を飲み込めていないのかきょとりとした顔をしていた。
「できたらいいのにな。三つ編み似合いそうだし」
 指を伸ばし、今度は顔の脇にある一本に触れる。ゲソの持ち主はびくりと身体を震わせた身を引いたが、すぐさま平常通り、何でもないという風な顔でこちらを見た。怯えさせてしまった事実に、また胸を悔恨が掻き混ぜて黒く染め上げていく。全ては自分が悪いのだけれど。
 取れてしまった帽子に、無くなってしまった三つ編みに、心臓を撫でるように風が吹いていく。うっすらと、けれども確かに冷たいそれには覚えがある。ダイヤの乱れで待ち合わせの時間に会えない改札口。合流のタイミングを見誤って先にバトルに行かれてしまったロビー。予定が合わずしばしの間戦えない連絡が来た床の上。そんな時はいつだって冷えた何かが心の臓を這っていくのだ。
 今は目の前に彼がいる。ギアの試着を終えれば、ナワバリバトルに繰り出す予定だ。なのに、何故こんな気分になるのだろう。少女は目をしばたたき、小首を傾げる。胸のあたりを撫でてみるが、依然として冷たさは消えなかった。
「せっかくのハロウィンですし使ってみたいですけど、ヒト速……ヒト速かぁ……」
「あたしもどうすっかなー」
 ブツブツと呟くヒロに、ベロニカも難しそうな声を返す。ヒト速はトライストリンガーと相性は悪くないものの、今から普段通りのギア構成になるようにコーデを組み直すのは骨だ。自分の趣味嗜好を考えるに、使うとしても今回のハロウィン特別フェスが最初で最後だろう。そのために新しくコーデを考えるというのはどうにも面倒くささが勝つ。
 悩ましげに眉を寄せ、いつの間にか拾った帽子を睨みつける友人を見やる。.96ガロンを扱うヒロにとって、ヒト速であるこのギアを採用するのは難しいだろう。.96ガロンはヒト速の効果量がそれはそれは低いのだ。わざわざ活かせないものに枠を割くのは非合理的である。それを分かっていても悩むほど、彼はこれに惹かれているようだ。
 帽子に取り付けられた三つ編みが揺れる。三つ編み。オクトリングにはできないヘアスタイル。オクトリングである彼ではきっとずっと見られないヘアスタイル。
「……ま、いっか」
 少女は小さくこぼす。は、と吐き出した息は、胸中の混迷具合と正反対に軽い響きをしていた。
 今さっき見れたじゃないか。たとえギアの装飾とはいえ、三つ編みを下げた姿が見られたじゃないか。違うヘアスタイルをした彼が見れたじゃないか――己と揃いのヘアスタイルにした彼が見れたじゃないか。
 吐いた途端、ぐちゃりと渦巻く感情が吹き飛んで消えていく。冷たいものが撫でていた胸に温度が戻ってくる。むしろ、温かさを覚える何かが胃の腑に落ちた気がした。
「どうしました?」
 問われ、ベロニカは視線を前に戻す。そこには、今一度ギアを被ったヒロの姿があった。後ろに偽物の三つ編みを垂らした彼の姿が。
 ふっと思わず笑みを漏らす。口元が緩む。とくりとくりと心の臓が普段よりも大きな駆動音を鳴らし始めた気がした。どれも不可解だ。けれど、どれも心地よさがあった。
「どうせなら写真撮っときゃよかったなって」
「さすがに勘弁してください」
 ニカリと笑う少女に、少年は笑って返す。ギアを取り扱っている今、どちらの手元にもナマコフォンは無い。冗談と言うことは分かりきっていた。そもそも、彼が写真の類をあまり得意としていないことはよく知っている。珍しいコーデをしていようと、不躾にカメラを向けようだなんてことは一つも思わなかった。互いに冗談だと分かっているからこそ、笑みを交わせるのだ。
「作るだけ作ってみっかなぁ」
 貸していたギアを眼前の頭からひょいと取り、ベロニカはスロッシャーのように指先でくるくると回す。インクの色に染まった長い三つ編みも一緒に回った。ぺちぺちと身体に当たるのが鬱陶しく、すぐにやめて胸を隠すように持つ。前から見ると相変わらず不透明な札が少女を見上げた。
「使うならこっちでしょうか」
 そう言って少年が取り出したのは、不気味の一言に尽きる仮面だった。ヒトの顔に似ているようで、出っ張っている額や顎がヒトならざる者だと語っている。要所要所に開けられた穴たちや、矢印のような赤い模様が更に不気味さを加速させていた。
「何だそれ」
「『ホッケかめん』だそうです。ホッケ……なんでしょうか?」
 裏表を確認していたオクトリングの手が止まる。そのまま両手を側面に当て、かぽりと顔に被せた。顔面全てを覆う仮面により、一瞬にして顔も表情が失われる。目元だけがうっすらと透けて見えるのが、どこか滑稽だった。
「……似合ってんじゃね?」
「似合うとか似合わないとか、そういうギアじゃないと思いますけどね」
 軽口を叩き合い、二人でクスクスと笑い合う。ハロウィンまであと少し。
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#Hirooooo #VeronIKA #ヒロニカ

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