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No.193

今日も明日も全力で【ヒロニカ】

今日も明日も全力で【ヒロニカ】
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弊ヒロニカはバトルジャンキーなのでクリスマスよりイベマ優先するだろと思ったので(24/12/26はサメ祭だったため)
あと育ち盛りバトルジャンキーなので弊ヒロニカは食べ盛りの健啖家だと思う。きっとめちゃくちゃ食う。そんな大遅刻クリスマス話。
ピザ屋帰りのヒロ君とベロニカちゃんの話。

 コートでは暑いほど暖かな屋内も、着込んでも凍えるほど寒い屋外も、どこもかしこもが油の匂いで満ちていた。
 ともすれば胃がもたれるような強烈なものだが、空腹の今は胃をこれでもかと刺激し痛みすら感じさせるほどのふくよかで芳しい香りだった。溶けて流れゆく油の匂い、香ばしく焼かれた肉の匂い、炙られとろけたチーズの匂い、ふわふわのカリカリに仕上がった小麦の匂い。何もかもが少女の鼻腔を満たし、食欲を溢れさせ、胃の腑が仕事するようつつき回した。
 ぐうぅ、と腹の虫が抗議の声をあげる。早く食わせろ、早く胃に入れろ、早く腹を満たせ、と叫ぶ。朝食を軽めに済ませたのもあり、腹は底が抜けて無くなってしまったかのように空っぽだ。盛大な音を響かせるのも仕方が無いことだろう。あまりにも凄まじい芳香に唾液が湧いてくるのも。
 ベロニカは手にしたビニール袋の中身を見やる。大きなピザが入った平たく丸い紙のパッケージはまだ温かで、うっすらと湯気を上げていた。箱とビニールが遮っているものの、やはりあの食欲そそる香りは鼻に届くほど強く匂っている。今すぐ蓋を開けて一切れだけでも食べてしまいたい。否、これは割り勘で買ったものなのだ。たとえ一切れでも、一人で勝手に食べるなど言語道断である。そもそも、ここはベンチも何もないただの歩道だ。おもむろにピザを取り出して食べ歩くなんて非常識なことはさすがにできない。いくら腹が潰れて無くなってしまうほど空腹でも、それぐらいの常識と理性は持っていた。
「すごい匂いですね」
 弾んだ声が隣から聞こえる。心を見透かしたような言葉に、少女はビクン、と肩を跳ねさせた。そろりと見やると、そこにはビニール袋を軽く掲げたヒロの姿があった。彼の手にあるそれには紙袋と紙箱、おまけにカラフルなチラシが入っている。そちらもそちらで油と肉の素敵な匂いを漂わせていた。ぐぅ、とまた腹が鳴る。今度は痛みを伴ったものだった。
「お腹が空く匂いですよね、これ」
「マジでなー……」
 ガサリ、と袋が下げられる音。ぐぅ、と輪唱のような腹の声。はは、とヒロは小さく笑声をあげた。腹が減っているのはお互い様らしい。食べたい、食べたい、食べたい。早くカリカリになった生地にかぶりつきたい。塩と油たっぷりのチーズで口を満たしたい。油したたる肉に食らいつきたい。サクサクのビスケットを頬張りたい。三大欲求の一つががなりたてる。ぐう、とまた腹の虫が大きな鳴き声をあげた。
「走ってこーぜ」
「ピザ崩れませんか?」
「だいじょぶじゃね? こう、横のまま抱えりゃ」
 首を傾げるヒロに、ベロニカは手に提げたピザを抱え直して見せる。腕を地面と平行にし、そこに箱を載せ、手で縁をしっかりと掴む形だ。まるで料理を運ぶ店員である。
「もうちょっとだけ待ってくれませんか? コンビニに寄るので」
「ジュースとか昨日買っただろ?」
 どこか苦く笑う少年に、今度は少女が首を傾げる番だった。
 今日は十二月二十五日。俗に言うクリスマスである。本当ならば二人でゆっくり過ごす予定だったのだが、明日イベントマッチを行うという知らせが入ったのだ。ならば早めに集まって早めに解散しよう、と決めたのはすぐだった。なにせイベントマッチは不定期開催な上に毎回内容が変わるのである。同じ内容のイベントが次いつ開催されるかなど誰も分からない。二人で過ごすことはいつでもできるが、イベントマッチは明日しかできない。バトルをこよなく愛する二人がどちらを優先するかなど火を見るより明らかだ。
 そうして昨日ジュースと菓子を買い込み、今日は朝から予約したピザとチキンとビスケットを受け取りに行き、二人きりのパーティー会場であるヒロの部屋に帰る今に至る。
「たぶんこれだけじゃ足りないと思いまして、ポテトとチキンを予約したんですよね」
「ナイス!」
 はにかむヒロに、ベロニカは親指を立てて褒め称える。今しがた取りに行ったピザたちもそこそこの量はあるものの、育ち盛り食べ盛りの己たちの腹を存分に満たすことができるかは若干怪しい部分がある。かといって、これ以上の品を頼めば予算を大幅にオーバーする。なので安い菓子類を買い込んだのだが、ここでまさかの主菜追加登場である。大手コンビニならば味も安定しているだろう。ピザ屋のものとの違いを楽しむことまでできる。最高の提案だった。
「帰ったら半分払うな」
「いいですよ。僕が食べたくて予約したので」
「あたしも食べるんだから出させろ。それともヒロ一人で全部食べんのか? あたしの真ん前で?」
 軽く手を振ってあしらおうとするオクトリングに、インクリングはじとりと眇めて睨みつける。優しい彼ならば絶対にあり得ない、意地の悪い問いだ。う、と詰まった音が横一文字になった口から漏れ出るのが聞こえた。赤い瞳が宙を彷徨う。しばしして、少年は眉根を軽く寄せながら目を伏せた。
「……分かりました。でもそこそこしますよ?」
「いいよ。美味いもんなんだからある程度金かかんのはしょうがねーだろ。……てかそこそこするもん一人だけで買おうとしてたのか、あんた」
 今回の食事代は割り勘だと決めていた。バトルで稼いではいるものの、これだけの量となると一人で賄うのは無理がある。そもそも、二人きりで半分こして食べるのだ。二人で半分ずつ負担するのは当然の結論である。だというのに、隣を歩くこいつは一人で負担を増やそうとしたらしい。心優しい彼らしくはあるが、さすがに看過できないものだった。互いに奢られてばかりでは気が済まないのを分かっている上での行動なのだから尚更である。
 う、とまた詰まった声。今度は呻き声に近いものだった。あー、えー、と意味をなさない声が白い息上がる口から漏れていく。観念したのか、すみません、と謝罪の言葉が紡がれた。
「ちょっとぐらいいい格好させてくれてもいいじゃないですか」
「こんなことで見栄張んな。いいカッコすんならバトルの時にしろ」
 唇を尖らせる少年を、少女はバッサリと切り捨てる。また濁った音が隣から聞こえた。どうにも己の言葉が刺さったらしい。金銭面で頼りになるようなことをするよりも、バトルで背を任せたり戦況を切り開いてくれる方がずっと格好がいいことぐらい彼も分かっているのだから。
「早く取りに行こーぜ。ピザ冷めちまう」
「そうですね」
 早足で歩き出すベロニカに、ヒロも同じほどの速さで続く。ヒトの少ない歩道を、柔らかな白い息と軽快な足音、油気たっぷりの香りが撫でていった。
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#Hirooooo #VeronIKA #ヒロニカ

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