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No.207
過ぎ去る色に思い馳せ【ヒロニカ】
過ぎ去る色に思い馳せ【ヒロニカ】
色気より食い気なニカちゃん存在しろという願望。ニカちゃんにドキッとしちゃうヒロ君存在しろという願望。都合の悪いところは全部都合が良いように捏造してる。
屋上から桜を眺めるヒロニカの話。
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高い音とともに風が吹き去っていく。春風にしてはあまりにも勢いの良いものだった。途端、白いものが視界をひらめく。小さなそれは宙を気ままに漂った後、コンクリートに淡い桃色を残した。
一部始終を追っていた赤い目が、風が吹いてきた方へと向けられる。無軌道に動く丸い瞳に映ったのは白く高い建物の群れ、その根元に広がるピンクの海だった。
「桜咲いてますね」
「えっ? マジ?」
ヒロの言葉に、ベロニカは声をあげる。ヒラメが丘団地、そのリスポーン地点にある欄干に足掛け半分身を乗り出し、少女はあたりを見回した。危ないですよ、と慌てて言うも、欠片も聞こえていない様子だ。月のような黄色い目はよく動いて世界を見渡していた。
「おー。マジだ、咲いてんな」
「すごいですね」
乗り出しすぎないよう注意しながら、少年ももたれかかるように欄干に手をかける。丸いミモザとサルビアの中、揺れてさざめく桃が舞う。またぶわりと吹いてきた風が、下から花びらを巻き上げた。おわっ、と跳ねた声と同時に、ブーツがコンクリートを叩く音が昼下がりの空に響いた。
「実家の周りもこんな感じだったなぁ」
「そうなんですか? ちょっと羨ましいですね」
呟くような声に、ヒロはどこか間延びした声を返す。穏やかなそれは、春の陽気によく似ていた。
地元は建物が並ぶばかりで、自然とはあまり縁が無かった。街路樹は植えられていたものの、ほとんどがイチョウだったのだ。色鮮やかな秋は飽きるほど見てきたが、明るくひらめく春を感じたのはバンカラ街に引っ越してからである。味気ない緑に囲まれた己にとっては、幼い頃から春の象徴ともいえる美しい花を見られたという彼女の環境に羨みを覚えてしまう。桜咲く春というのはちょっとした憧れなのだ。
また風が吹く。高い建物にぶつかったそれは壁を駆け上がって、屋上へと猛突進してくる。身を任せた花びらも、同じスピードで空へと駆け上がった。真っ向から顔に風を受け、小さな桃に鼻をくすぐられ、少年は軽く仰け反って欄干から手を離した。これだけ風が強いのだから、これ以上見るのは危ないかもしれない。現に、彼女は一度地に足をつけたのだ。そろそろささやかな花見をやめ、街に戻るべきだろう。
「ベロニカさん、そろそろ――」
戻りましょうか、と問いかける声は不自然に途切れた。言葉を紡ぎ出す口は、開閉する機能を忘れて間抜けに半分開いていた。
隣に並ぶベロニカは、依然眼下の桜を眺めていた。くりくりと丸い、時には鋭く光る目は少し細められている。キリリとした力強い目尻は、今は少しだけ下がっているように見えた。ハキハキと指示を飛ばす口は今は閉じられており、けれども少し綻んでいるようにも映る。どれもが穏やかで、だがどこか寂しげで、散りゆく桜のように儚げで、芽吹く春のように美しい。いつだって鋭く、格好良く、誰もを魅了する彼女からはとても想像できない――否、よほど近くにいないと見られない表情だろう。少なくとも、己には。
喉がきゅうと細くなる感覚。胸がぎゅうと握り締められるような感覚。苦しい心臓が、大きな音をたてて拍動する。身体の真ん中から何かが込み上げてくるも、喉に詰まって何も生まれない。紅玉はただただ、穏やかな光を灯した琥珀を見つめるばかりだ。
「何で普通に生ってるさくらんぼってあんなにまずいんだろうな」
ふっと小さく息を吐き、インクリングはまるで歌うように言葉を吐き出す。嘲笑にも似た響きだが、そこにはどこか純朴な幼さが見える。眩しそうだった目元は、今は伏せられていた。
へ、とオクトリングは気が抜けた声を漏らす。あんなに美しい横顔は、あんなに儚げな表情は、全てさくらんぼへと向けられたものだったようだ。あまりにも不釣り合いで、あまりにも彼女らしい。やっと喉が音を発する機能を思い出したぐらいには衝撃的なのだけれど。
「……食べられるように品種改良されてないからでしょうか」
「あー、たしかにな」
おそるおそるといった調子で返すと、よく通る声が大きな口から発せられる。先ほど見せた何もかもなど消え去った、すっきりさっぱりといった響きをしていた。
「言ってたら食いたくなってきたな。ザトウ行くか」
「え? あ、はい。そうですね」
振り返って笑うベロニカに、ヒロは少し高い声を漏らす。それもすぐに元通りになり、穏やかでなめらかに言葉を紡いだ。
ヤガラ市場もいいかもしれません。あそこフルーツめっちゃあるもんな。そんな言葉を交わし、少年少女は団地を後にする。桜をまとった風はその背中を押していった。
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#Hirooooo
#VeronIKA
#ヒロニカ
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#VeronIKA
#ヒロニカ
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スプラトゥーン
2025/4/14(Mon) 20:04
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屋上から桜を眺めるヒロニカの話。
高い音とともに風が吹き去っていく。春風にしてはあまりにも勢いの良いものだった。途端、白いものが視界をひらめく。小さなそれは宙を気ままに漂った後、コンクリートに淡い桃色を残した。
一部始終を追っていた赤い目が、風が吹いてきた方へと向けられる。無軌道に動く丸い瞳に映ったのは白く高い建物の群れ、その根元に広がるピンクの海だった。
「桜咲いてますね」
「えっ? マジ?」
ヒロの言葉に、ベロニカは声をあげる。ヒラメが丘団地、そのリスポーン地点にある欄干に足掛け半分身を乗り出し、少女はあたりを見回した。危ないですよ、と慌てて言うも、欠片も聞こえていない様子だ。月のような黄色い目はよく動いて世界を見渡していた。
「おー。マジだ、咲いてんな」
「すごいですね」
乗り出しすぎないよう注意しながら、少年ももたれかかるように欄干に手をかける。丸いミモザとサルビアの中、揺れてさざめく桃が舞う。またぶわりと吹いてきた風が、下から花びらを巻き上げた。おわっ、と跳ねた声と同時に、ブーツがコンクリートを叩く音が昼下がりの空に響いた。
「実家の周りもこんな感じだったなぁ」
「そうなんですか? ちょっと羨ましいですね」
呟くような声に、ヒロはどこか間延びした声を返す。穏やかなそれは、春の陽気によく似ていた。
地元は建物が並ぶばかりで、自然とはあまり縁が無かった。街路樹は植えられていたものの、ほとんどがイチョウだったのだ。色鮮やかな秋は飽きるほど見てきたが、明るくひらめく春を感じたのはバンカラ街に引っ越してからである。味気ない緑に囲まれた己にとっては、幼い頃から春の象徴ともいえる美しい花を見られたという彼女の環境に羨みを覚えてしまう。桜咲く春というのはちょっとした憧れなのだ。
また風が吹く。高い建物にぶつかったそれは壁を駆け上がって、屋上へと猛突進してくる。身を任せた花びらも、同じスピードで空へと駆け上がった。真っ向から顔に風を受け、小さな桃に鼻をくすぐられ、少年は軽く仰け反って欄干から手を離した。これだけ風が強いのだから、これ以上見るのは危ないかもしれない。現に、彼女は一度地に足をつけたのだ。そろそろささやかな花見をやめ、街に戻るべきだろう。
「ベロニカさん、そろそろ――」
戻りましょうか、と問いかける声は不自然に途切れた。言葉を紡ぎ出す口は、開閉する機能を忘れて間抜けに半分開いていた。
隣に並ぶベロニカは、依然眼下の桜を眺めていた。くりくりと丸い、時には鋭く光る目は少し細められている。キリリとした力強い目尻は、今は少しだけ下がっているように見えた。ハキハキと指示を飛ばす口は今は閉じられており、けれども少し綻んでいるようにも映る。どれもが穏やかで、だがどこか寂しげで、散りゆく桜のように儚げで、芽吹く春のように美しい。いつだって鋭く、格好良く、誰もを魅了する彼女からはとても想像できない――否、よほど近くにいないと見られない表情だろう。少なくとも、己には。
喉がきゅうと細くなる感覚。胸がぎゅうと握り締められるような感覚。苦しい心臓が、大きな音をたてて拍動する。身体の真ん中から何かが込み上げてくるも、喉に詰まって何も生まれない。紅玉はただただ、穏やかな光を灯した琥珀を見つめるばかりだ。
「何で普通に生ってるさくらんぼってあんなにまずいんだろうな」
ふっと小さく息を吐き、インクリングはまるで歌うように言葉を吐き出す。嘲笑にも似た響きだが、そこにはどこか純朴な幼さが見える。眩しそうだった目元は、今は伏せられていた。
へ、とオクトリングは気が抜けた声を漏らす。あんなに美しい横顔は、あんなに儚げな表情は、全てさくらんぼへと向けられたものだったようだ。あまりにも不釣り合いで、あまりにも彼女らしい。やっと喉が音を発する機能を思い出したぐらいには衝撃的なのだけれど。
「……食べられるように品種改良されてないからでしょうか」
「あー、たしかにな」
おそるおそるといった調子で返すと、よく通る声が大きな口から発せられる。先ほど見せた何もかもなど消え去った、すっきりさっぱりといった響きをしていた。
「言ってたら食いたくなってきたな。ザトウ行くか」
「え? あ、はい。そうですね」
振り返って笑うベロニカに、ヒロは少し高い声を漏らす。それもすぐに元通りになり、穏やかでなめらかに言葉を紡いだ。
ヤガラ市場もいいかもしれません。あそこフルーツめっちゃあるもんな。そんな言葉を交わし、少年少女は団地を後にする。桜をまとった風はその背中を押していった。畳む
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