401/V0.txt

otaku no genkaku tsumeawase

TOP
|
HOME

No.208

爪の先まで全部全部【ライレフ】

爪の先まで全部全部【ライレフ】
20250415205417-admin.png
Domに尽くすタイプのSubって可愛いじゃないすか(ろくろ回し)
自分で自分をダメにする準備するの可愛いじゃないすか(ろくろ回し)
そんな感じでDom/Subユニバース右左。Dom/Sub要素はだいぶ薄いけど……。
爪切りする右左の話。

 パチン。パチン。小気味良い音がいくつも部屋に落ちていく。目の前に並んだ硬い白に刃が宛がい、握ったテコに力を入れる。パチン、と気持ち良いほど軽快な音と共に白が分かたれた。細かに角度を変えながら繰り返し、伸びてしまった目の前の爪を切っていく。爪切りが仕事する音だけが空気を揺らしていた。
 リズム良く動いていた手が止まる。眼前に持ち上げられた足をそっと支え直し、烈風刀は爪切りを閉じる。今度は傍らに置かれたヤスリを手に取った。切ったばかりの足の爪に添え、少年は細かい動きで柔らかな線になるよう削っていく。刃がどれだけ細かく丁寧に仕事しようとも、直線的に切る以上鋭利な部分はどうしても生じてしまう。そこが皮膚に引っかかって傷を付けてしまったら大変だ。きちんと丸く、美しくせねばならない。己に課された――己が己であるための使命だった。
 かすかな音をたてて爪が削られていく。操る手は薄いガラスを扱うかのような繊細な動きをしていた。ヤスリが皮膚に当たって怪我をさせては本末転倒だ。当然である。丁重に動く手によって、少しばかり見えていた角はどんどんと消え去っていく。柔らかなカーブが足先に戻っていった。表面にも軽く掛けてツヤを出していく。足を人に見せる機会はなかなかないものの、やはり美しいに越したことはない。丁寧に、優しく、細やかに。剣胼胝がまだ残る手が道具を操っていく。
 両足全てを処理し終え、碧は目の前、支えていた足をそっと離す。持ち上げられ続けていた足は優しく床に着地した。
「ありがと」
 いいこ、と雷刀は目の前に座ったパートナーの頭を撫でる。大きな手が、まだ乾かしたばかりでふわふわとした浅葱の海を滑っていく。たったそれだけで、真剣な眼差しをしていた冷たい海色が一瞬でとろけて甘い色を灯した。ん、と鳴き声のような音が紅色で飾られた喉からあがった。
「まだ手が残っていますよ」
 はっと瞠られた目が何度も瞬き、元の澄んだ色に戻っていく。道具一式を手に、烈風刀は床からソファへと移った。へーい、と気の抜けた声と共に目の前に手が差し出される。添えるように握る動きは、恭しさすら感じさせるものだった。
 また爪切りで手の爪を切っていく。パチン、パチン、と軽い音が二人の間に積もっていく。できるだけアーチを描くように切り、時折破片を捨て、少年は伸びたそれを処理していった。
「短めにおねがいな」
「はいはい」
 兄の言葉を、弟は軽くあしらう。毎回言われる、分かりきったことだ。言われずともこなしていた。深爪にならないよう気をつけながら、烈風刀は慣れた手つきで白い部分を切り取っていく。足に比べて薄いそれはすぐに整えられた。今度は足よりも時間を掛けてヤスリをかけていく。身振り手振りの大きな彼のことだ、少しでも尖っていては自分を、他人を引っ掻いてしまうかもしれない。入念に整えるべきであった。
 それに、と碧は手を動かしながら考える。この指は、己のうちがわの柔らかな部分に触れるのだ。引っ掻けるほど長くては、内臓を傷付けてしまう。それは互いに避けたい事態であった。だからこそ毎回『短めに』と言うのだろう。何度も、必ず。
 それだけ想ってくれているという現実に、それだけ身体を重ねているという事実に、少年の頬に色が宿っていく。顔が、腹の奥が熱を持ち始めたのが己でも分かった。小さく深呼吸し、少年は手元に意識を集中させる。邪念を振り払うように手を動かした。
 全ての処理を終え、ようやくヤスリが手から離れていく。少し角張っていた爪は綺麗に整い、明かりを受けてぴかぴかと輝いてすら見えた。達成感と満足感に、知らず知らずの内に結ばれていた口元が綻ぶ。気付かれないよう軽く顔を伏せ、碧は使い捨てのそれと切った爪をティッシュでまとめる。包んだ手は中身がこぼれ落ちないように受け止めながら、白をゴミ箱に捨てた。これで爪切りは全て終わりだ。
「やっぱ烈風刀がやるとキレーだなー」
 電灯に透かすように手を掲げ、雷刀ははしゃいだ様子で爪を見つめる。どうやらきちんと仕事をこなせたようだ。開いて、握って、朱は恋人によって綺麗に整えられた爪を眺める。夜だというのに茜色の瞳は輝いていた。
「烈風刀」
 名を呼ぶ声。視線を向けると、そこにはこちらに向かって腕を大きく広げる兄の姿があった。ん、と機嫌の良い声と共に更に腕が広げられる。目元は穏やかに弧を描きながらも、その奥に光を宿している。どこか陰ったような、ギラつくような、鋭さすら見せる光が。
 誘われるがままに、射貫かれるがままに、弟はソファに乗り上げる。普段ならば行儀が悪いと言ってやらない行動だ。けれども、今ばかりはこうするのが当然だ。求める人に呼ばれて最適解を選ばない理由など無い。
 鍛えられた身体が傾き、広げられた腕の中に飛び込む。すぐさま手が動き、迎え入れたこの身をぎゅうと抱きしめてきた。抱き留めてくれたその身体に碧は腕を回し、少しだけ力を入れて抱き締める。焼けていない肌を飾る首輪が小さく音をたてた。
「いつもありがとな」
 いいこ、いいこ。歌うように、唱えるように、まじなうように雷刀は言葉を繰り返す。あやすように背を叩く手が萌葱の頭に添えられ、なぞるように撫でた。頭を撫でられる感覚が、耳に注ぎ込まれる言葉が、身体を包み込む温度が、隅から隅まで染みこんで己というものを溶かしていく。ん、と鼻にかかった情けない声が漏れ出る。常ならば羞恥を覚えるところだが、今ばかりはどろどろにされるような喜びが勝った。与えられる全てが甘くて、心地よくて、きもちいい。シロップにでも漬け込まれたらこんな心地がするのだろうか、なんて馬鹿なことを考えた。
 えらい。すごい。そんな言葉が耳から脳味噌を溶かしていく。透き通った藍晶石が炙られたようにとろけ、つややかに輝いた。どういたしまして、と烈風刀はなんとか言葉を返す。その声には普段のような芯など無く、やわくとろけた響きをしていた。当然だ、Dom(大好きな主人)褒めら(愛さ)れてまともな頭を保っていられる(幸せにならない)わけがない。
 頭を撫でていた手が自然な動きでうなじへと下っていく。うっすらと水気が残る生え際を撫で、使い込まれてなお輝く首輪を撫で、広い背中を撫でていく。指先が何度も触れるも、爪が当たる痛みなどない。短く切り揃えたそれは誰も傷付けないのだ。だというのに、手が動く度に碧の身体は震える。背筋を電流が駆け上がっていく。だからこそ、雷刀、となんとか咎める音色で名前を呼んだ。
 微細な快楽をもたらすそれが行き着く先がどこなのかなど分かっている。どこに触れて、暴いて、ぐちゃぐちゃにするかなど想像に容易い。けれども、それにはまだ早いのだ。まだテレビが愉快なドラマ番組を流すような時間である。深く触れあうにはまだまだ早い夜だ。そもそも、ここはリビングである。寝室以外で『そういうこと』をすると後が面倒くさいことは二人とも経験しつくしているのだ。時間と場所を限るのは、暗黙のルールのはずである。
 想像に容易い。だからこそ、身体が、うちがわが熱を持つ。この切り揃えられたばかりの手が何をするのか、何をされるのか。いつだって、爪切りが終われば己の全てをつまびらかにされるのだ。知っているからこそ、この行為が好きでたまらない。尽くす喜びも褒められる喜びももちろんだが、頭からつま先まで愛を注がれ支配される未来を確約されるのがたまらなかった。
 へーい、と拗ねた声が耳の真隣で聞こえる。抗議するように、兄は弟の背を何度か叩いた。先ほどまでの艶のある動きは消え、ただただ慈しみとじゃれる幼げだけがある。普段の彼らしい姿であった。
 その手が己を全部開いて晒してめちゃくちゃにするのだと考えて、腹の奥底が疼いた。
畳む

#ライレフ#腐向け

SDVX


expand_less