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No.44

熱いものにはご注意を【咲霊】

熱いものにはご注意を【咲霊】
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キスの日にリハビリにと書こうとして放置してた咲霊仕上げた。
二人でのんびりお茶飲んでるだけの話。
キス要素? そんなものほとんどないよ?

  湯を注ぐとふわりと白い湯気と香りが宙を漂う。その瞬間は心地よいものだ。咲夜は小さく笑みを浮かべ、ティーポットの蓋を閉じた。白い指が陶器を撫でる様を霊夢はじぃと見つめていた。どうやら霊夢は自分の指にご執心らしい。貴方の指も綺麗よ、と以前言ったのだが、咲夜のじゃなきゃいや、と返された。可愛らしいものだ。
 頃合いをみて、用意したカップの上にポットを傾ける。透き通った明るい琥珀色が白い陶器を満たしていく。色も香りも十分だ。ソーサーに乗せたそれを、隣でもそもそとマフィンを頬張る霊夢の前に差し出す。口の中のそれを飲み込み、彼女は礼を言ってカップに手を付けた。小さく息を吹きかけて冷ます様子はいつ見ても愛らしい。本当ならば飲みやすい温度まで冷ました状態で出したいのだが、やはりお茶はどの種類に置いても熱い方が美味しい。何より温ければ温いで彼女は怒るのだ。自分でちょうどいい温度にするのがいいらしい。難儀なものだ。
 こくりと透き通ったそれを飲み、霊夢は満足気に小さく溜め息を吐いた。どうやらお気に召したらしい。
「紅茶、美味しいわね」
「あら、緑茶派ではないの?」
「緑茶派だけど過激派ではないもの。美味しいものにはちゃんと美味しいっていうべきよ」
 すました顔でそう言って、霊夢はまた一口紅茶を飲む。緑茶のようにすすらずに飲むようになったのは何時頃だっただろうか。諦めずに注意し続けてよかった、と咲夜は小さく笑みを浮かべる。悪いことではないのだが、少し行儀が悪い。できれば両手でカップを持つ癖も直してほしいのだけれど、これはこれで可愛らしいので強く注意するつもりは今のところない。
 そんな彼女の様子を眺め、咲夜も紅茶を飲む。色も香りもちょうどよいが、今日は少しばかり熱く感じる。どうやら湯の温度管理を少しばかり間違えたようだ。自分もまだまだだ、気を付けなければ、と考えてマフィンを口にする。こちらは問題ない甘さと焼き加減だ。
「あっ、つぅ……」
 突然、驚いたように霊夢が小さく声を上げた。どうしたのだろうと彼女を見ると、先程の上機嫌な表情はどこへやら、どこぞの雨傘のように舌をべろりと出して顔をしかめていた。
「あら、火傷?」
「みたい」
 うぅ、と霊夢は恨めしそうな声を上げる。両手で抱えてたカップを覗き込むと、少なくなっていたはずの中身は九分目あたりまで増えていた。どうやら自分で注いだらしい。時間も経ち既に程よく冷めていると思いそのまま飲んだ結果、うっかり火傷を負ったのだろう。
「貴方、いつも熱いお茶飲んでるのに火傷することなんてあるのねぇ」
「油断してたのよ」
「ごめんなさいね」
「……咲夜が悪いって言ってるわけじゃないわ」
 それでも痛いものは痛いのか、霊夢はうーうーと不機嫌そうに呻く。自身の些細なミスへの怒りも含まれているのか、その表情は少し悔しそうにも見えた。
「口の中は治りが早いっていうし、少しの我慢よ」
「そんなこと言ったって痛いものは痛いのよ」
 宥める咲夜を霊夢は恨めしそうに見る。べろりと外に出された舌は赤々としており健康的だ。火傷を負うと大抵その部位は赤くなるのだが、これでは分からないな、などと考えじぃとそれを見るめる。
「なによ」
 見つめる視線に不機嫌な声が投げかけられる。自身の過失をじっと見られるのがお気に召さないらしい。痛みで動かし辛いのか、どこか舌足らずで可愛らしい。そんなことを言ったら問答無用で札なりなんなりが飛んでくるだろう。沈黙は金である。
「傷は舐めると治るというけど」
「こんなとこどうやって舐めるのよ」
 思わずこぼれた言葉に霊夢はきょとんとした表情をする。反して咲夜はいたずらめいた笑みを浮かべた。すっと立てた指でその赤を指差す。ほんの少し動かせば触れてしまうような距離だ。
「人に舐めてもらえばいいのよ」
「ばっちい」
 咲夜の言葉に霊夢は更に顔をしかめた。切り捨てる言葉に、今度は咲夜がきょとんと首を傾げる番だった。
「たまにしてるじゃない」
「あれは別よ」
 ふざけてするようなことじゃないわ、と霊夢は言う。その声音は突っぱねるようであるが、しっかりと芯の通った真面目なものだ。
 つまり、普段そのようなことをする時はおふざけではなく真面目に対してくれているということか。咲夜は嬉しそうに笑みを浮かべた。その笑みが気に入らないのか、霊夢は更に眉に皺を寄せた。そんなに皺を寄せたら痕が残っちゃうわよ、と眉間をつつく。彼女はむぅ、と不服そうに唸って咲夜を睨むが、飽きたのかぺたりと畳に手をつき追い払うかのように手をひらひらと動かした。
「あーもー、そんなこと言ってないで水持ってきてよ」
「はいはい」
 子供らしい姿に咲夜は苦笑し、湯呑に水を汲んで彼女に手渡す。いきなり出てきたそれを気にすることなく、霊夢は湯呑を傾け口に含んだ。ようやく落ち着いたのか、はぁと疲れたように息を吐く。冷たいそれのお陰か、痛みは軽く引いたようだ。
「火傷したんじゃこういうお菓子は食べ辛いわね」
 机の上に並べられた菓子はどれも水分が少なくぱさぱさとしている。舌を火傷した状態でも食べやすいとは言えないものばかりだ。咲夜の言葉に霊夢は残念そうに俯く。じっと菓子達を見つめる視線は寂しげだ。
「咲夜のお菓子が食べられないだなんて」
「食べやすいものを作るわ。最近暑くなってきたし、プリンなんてどうかしら」
「プリンって、あの黄色い水羊羹?」
「……まぁ、そんなところね」
 洋菓子に疎い彼女の言葉に咲夜は諦めたように返事した。プリンと水羊羹は全く違うものだが、きっと違いを説明しても美味しいならそんなことはどうでもいい、と切り捨てられるだろう。実際、原材料や制作の過程を知らなくても美味しいものは味わえるのだから反論し辛い。
 冷たい菓子に思いを馳せる霊夢にすっと片手を伸ばし、撫でるようにその頬に触れる。いきなりの行動に、彼女は驚いたように目を見開きこちらを見た。そんな表情にくすりと笑い、頬を撫でそのまま唇を指で撫でる。
「火傷したんじゃ、キスしにくいわね」
「……唇だけなら、痛くないし……大丈夫」
 でしょ、と上目遣いで見つめられる。彼女らしい肯定の示し方にふわりと破顔し、その頬を両手で包む。手つきの柔らかさと優しい温度に霊夢は気持ちよさそうに目を細めた。
 優しく触れた柔らかなそれからは、菓子のそれとは違う甘い香りがした。

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#咲霊 #百合

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