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No.52

蜜を辿る【ライレフ】

蜜を辿る【ライレフ】
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はちみつの日らしいと色々言ってたら出来上がったのがこちらになります。相変わらず嬬武器弟が可哀想なだけ。
無心でガリガリ書いてたら訳の分からない方向に突っ走っていって酷く困惑している。

 砂糖の甘い香りがキッチンにふわりと漂う。綺麗な円状に焼けたそれを真っ白な皿に乗せると、柔らかな湯気が揺らめいた。均一な狐色に染まったそれを見て、烈風刀は満足気に頷いた。
「んー? なになに、なに作ってんの?」
 雷刀はフライパンを持つ烈風刀の肩越しから手元を覗き込む。危ないでしょう、と烈風刀が諌めると大人しく離れた。懲りずに続ければ、自分だけその美味しそうな菓子を食べられなくなることは明白である。彼の料理を好む、否愛すほどの雷刀にとってそれは避けるべき事態であった。
「牛乳と卵が余っていたのでホットケーキを作りました」
「久しぶりだな」
 料理を趣味とする彼は時折菓子も作る。レシピをきちんと遵守し作られたそれらはどれも美味しく好評だ。もちろん雷刀もそれを好み、常々楽しみにしていた。普段ならばそれらを使った夕食が作られるが、今日はどうやら菓子作りの方へと気が向いたらしい。
「ほら、できましたよ。フォークなり用意してください」
「分かった!」
 雷刀は嬉しそうに笑って食器をしまった引き出しを探る。カチャカチャと金属が擦れ合う音を背に、烈風刀は二人分の皿を持ちキッチンを後にした。
 ダイニングテーブルの定位置に皿を置く。程なくして、二人分のフォークとはちみつを抱えた雷刀がキッチンから出てきた。席に着き、烈風刀にそれを手渡す。いただきます、と手を合わせ、二人は柔らかなそれにフォークを立てた。
「うまい!」
「それはよかった」
 笑顔で頬張る雷刀に烈風刀は柔らかく微笑んだ。やはり、自分が作ったものを美味しく食べてくれる人がいるのは嬉しいことだ。感情を素直に伝えてくれる彼の『美味しい』という言葉と笑顔は何よりの対価だ、と烈風刀は考える。自分のそれを小さく切り分け一口。ほのかなバターの香りと砂糖の優しい甘さが口の中に広がり、彼は思わず頬を緩めた。
「なーなー、はちみつかけてもいい?」
「お好きにどうぞ」
 返事を聞いてから、雷刀は手にしたボトルを逆さにする。細い注ぎ口からとろりとした琥珀色の液体がこぼれおち、狐色の生地に染み込み細い跡を残す。ぐるりと一周分かけ、雷刀は再度切り分けたそれを口に運んだ。足された甘さに彼は満足気に笑った。その笑顔がとても魅力的に思え、烈風刀も容器を手に取り輝くそれをかける。口に入れると、先ほどとは別の甘さと香りが舌を楽しませる。たまには甘いものもいいものだ、と烈風刀は小さく頷いた。
 ふと顔を上げる。視線の先の赤色はニコニコと笑っているが、その手は何故か蛍光灯の光を受け輝いている。きっと余分にかけたはちみつがフォークを伝い、手を汚したのだろう。その光景に烈風刀は眉をひそめた。
「ちょっと、手がべたべたではないですか」
「んー? ……あ、ほんとだ」
「貴方は食べ方が下手すぎますよ……。ほら、ちゃんと拭いてください」
「別に舐めりゃいいじゃん」
 そう言って雷刀はフォークを置き、己の指をべろりと舐めた。意地汚い、と咎め、烈風刀は身を乗り出しティッシュでその指を拭う。フォークを取って皿に置き、根元の水かきの部分までしっかりと拭う。ティッシュがべたべたとした指に貼りつきなかなか上手くいかない。
「別にいいのに」
「よくありませんよ。みっともない」
「てか烈風刀もついてるじゃん」
 そう言って雷刀は手を振りほどき、烈風刀の口元に伸ばす。立てた人差し指で口の端をなぞると、きらりと光る何かが彼の指に移った。口の端にはちみつがついていたのだろう。
 すぃ、と雷刀はその指を烈風刀の口元に差し出した。一体何のつもりだ、と睨むが、彼は気にする様子なくニコニコと笑っている。舐めろ、と暗に言っているのだろう。浅葱の瞳が更に細められ、視線が鋭くなる。それでも茜色の瞳は愉快そうに弧を描いたままなのだから、こんなやり取りはもう慣れてしまっているということがよく分かる。
 雷刀、と咎めるように名を呼ぶと、指が更に突きつけられる。血のように濃い赤に染まる瞳はじっとこちらを見つめたままだ。こうなってはもう引くつもりはないのだろう。はぁ、とわざとらしく溜め息を吐く。これぐらいのことでもしなければやっていられない。早々に諦め折れるのは、常に烈風刀の方なのだ。
 小さく口を開き、烈風刀は目の前の指に舌を伸ばす。指の腹にそっと触れると、強い甘みが舌を刺激した。直接的な甘味に少し顔をしかめ彼を見るが、その瞳は依然澄んだ水のような瞳をじっと見据えたままだ。まだ足りない、ということなのだろう。諦め、その先端をゆっくりと口に含む。やはり甘い。どれほどこぼしたのだ、と思わず眉を寄せた。少しずつそれを口の中に迎え入れる。固い節が舌に触れ、少しの息苦しさに翡翠の瞳が不快そうに細められた。
「――っ、ぅ!?」
 ぐぷ、と湿った音が突如耳に響いた。同時に舌の上を何かが滑る感覚。指が深くまで突き込まれたのだと気付くまでたっぷり数秒かかった。
「っ、ぁ、らい…………ぃ、あ」
 何のつもりだ、と問おうと口を開くが、それは追加された指によって阻まれた。反射的に口を強く閉じようとするが、一度認識してしまったそれを噛むことを無意識に避けてしまった。結果、侵入者は好き放題に口腔内をうごめきまわる。
「ぁ……ぅあ、は、ゃ…………あ、い……」
 抗議するように名を呼ぼうとも、舌を押さえつけられ上手く言葉が発せない。指に邪魔されたそれは意味のない音へと変化するばかりで、意味を成すものなど作れず意思を伝える手段を全て奪われてしまった。抵抗などできぬそれにゾクリと背筋に悪寒が走った。
 ずるりと舌の上を指が滑る。弾力に富むその感触を味わうように、血液の塊にも似たそれを弄ぶように、指がぐにぐにと舌を押す。根元に近い場所を押されると、吐き気に似た何かがこみあげてくる。普段触れられることなどないそこを突かれる感覚は、口を塞がれた状態でなくとも言葉にすることなど不可能であった。
 二本の指が舌を挟む。厚いそれを引きずり出すように動くが、唾液でぬめるそれは逃げる一方でただ扱くように熱の塊を擦るだけだ。それでも指は躍起になってそれを求め続ける。指の腹で、側面で、固い節で、つややかな爪で舌を撫でられる感覚に、背筋にぴりりと訳の分からない刺激が走る。
「やっ……ぁ、あっ…………ん、んぅっ…………ぃ、っあ――」
 呼吸が上手くできない。口は普段以上に大きく開かれているというのに、酸素が上手く取り込めない。息苦しさに視界がジワリとにじんだ。抗議する手段すら奪われた今、烈風刀の胸の内は恐怖と混乱の二つで埋め尽くされていた。
 口の端からは飲み切ることができないだらだらとこぼれる。汚い、はしたない、そう思えど口を閉じることはいくつも突き込まれた指が許してくれなかった。蜜で汚れていたはずのそれからはもう何も味は感じられない。指にまとわりついていた甘い蜜は、既に烈風刀の唾液に塗り変えられていた。
 ずる、と気持ちの悪い音をたてて指が引き抜かれる。一気に酸素が肺になだれこみ、烈風刀は大きく咳き込んだ。ぼろぼろと涙がこぼれ、机の上に小さな水たまりが生まれる。
「…………な、ぁ……なんですか…………貴方は……」
「なんとなく?」
「っぁ……ふざけるのも、大概にしてください……」
 目の端に涙を湛えぜーぜーと苦しげに息をする烈風刀を見て、雷刀は普段通りに笑う。どこか満足気なその表情が憎らしくてたまらなかった。その笑みも、余裕綽々といった声の調子も、息苦しさにこぼれる涙も、何もかもが不愉快だ。烈風刀はぎろりと目の前の赤を力いっぱい睨みつける。涙で潤んだその瞳では何の効果もないことに彼はまだ気づいていない。
「甘かった?」
 にやにやと不愉快な笑みを浮かべる彼に、近くにあったはちみつのボトルを力いっぱい投げつける。固いプラスチックでできたそれは雷刀の顔に見事命中し、鈍い音をたてた。気持ちがいいまでのクリーンヒットである。
「っ……ぃ、ってぇ……」
「ばか」
 烈風刀は顔を押さえ机に突っ伏す兄を冷え切った目で見下す。いい気味だ、と彼は自分の食器を持ってキッチンへと向かった。せっかく焼いたホットケーキは既に冷めてしまっていた。あんなことをされた直後では、さすがに食べる気が起きない。あまりよくないが、ラップをして冷蔵庫にしまうことにしよう。
 けほ、と小さく咳き込む。ずっと開いていたせいか、口の中は乾き喉が少し痛む。あれほど唾液がこぼれていたというのに不思議だ、と考えて、烈風刀は口の端に垂れたままになっていたそれを手の甲で拭った。行儀が悪いが、濡れた冷たさが先ほどの事を思い出させるようで嫌だったのだ。
 散々弄ばれた舌の上には、まだあの強い甘みが残っているように思えた。

畳む

#ライレフ #腐向け

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