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No.51
隠し色【ライレフ】
隠し色【ライレフ】
設定も説明もクソも訳が分からない、ただただ自分が書いてて楽しいだけの文章。貧乏性なので投げる。
ちょっとだけ頼りないオニイチャンとちょっとだけかっこいい弟君が書きたかっただけ。
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「れーふーとー」
シャワーを終えキッチンで茶を飲んでいると、間延びした声がリビングの方から飛んできた。コップを手にしたまま、烈風刀は声の方へと頭を動かす。視線を移した先には、ソファに座りニコニコと笑みを浮かべた雷刀がいた。彼は広げた足の間に手を付き、片手でそこをぺしぺしと叩いている。ここに座れ、と言っているのだろう。
コップの中身を飲み干し、烈風刀は大人しく兄の下へと向かう。少しばかり躊躇いつつも、その手が示す場所に浅く腰掛けた。後ろからごく自然な動きで腕が回される。ゆっくりと抱きしめられ、否応なしに二人の距離が縮まる。熱と熱とが重なり合う。普段ならば文句の一つや二つ飛ぶのだが、今日の彼は借りてきた猫のように大人しくしていた。抱き寄せたその背に、雷刀はこつんと額をつけた。
「烈風刀、あったけー」
「お風呂あがりなのだから当たり前でしょう」
それに加え、兄弟の平熱は人よりも少しばかり高い。それでも肌を触れ合わせると、熱さよりも心地よさや安心感が胸の中にじわりと広がっていくのから不思議だ。背から伝わる熱に、烈風刀は小さく息を吐いた。身じろぎもせず、ただただ抱きしめ抱きしめられたまま時計の針は進んでいく。カチ、カチ、と秒針が時の道を歩く音が静かな部屋に響いた。
抱きしめる雷刀の腕にゆっくりと力がこめられる。骨で守られていない柔らかな箇所を圧迫され、少しの息苦しさと鈍い痛みがじわじわと広がっていく。その感覚に、烈風刀は小さく顔をしかめた。
「ちょっと雷刀、苦しい――」
「んー、もうちょい」
彼は苦しさを訴えるが、雷刀が手を離す様子はない。むしろ逃がさんと言わんばかりに更に強く抱きしめられ、二人の身体がひたりと密着する。内臓を潰されるような感覚は決してよいものではない。どうにか引きはがし腕から逃れようと、烈風刀は腹に回された手に己のそれを重ねる。掴んだそれは想像していたよりもずっと冷たく、烈風刀は悔しげに顔を歪めた。
思い切り力を入れ、烈風刀は抱き寄せる腕を無理矢理引きはがす。そのままくるりと身体を反転させる。透き通った緑青の瞳の先には、疲れを誤魔化すような、深い傷を隠すような表情をした兄がいた。彼への、そしてなにより自分への強い苛立ちに烈風刀は眉間に深い皺を刻む。そのまま鮮やかな深緋に彩られた頭を思い切り胸に寄せ、抱きつくように抱きしめた。
「烈風刀?」
「疲れてるなら――辛いなら、ちゃんと言ってください」
先程のお返しだと言わんばかりに、烈風刀はふつふつと湧いてくる怒りを込めて強く抱きしめる。少し跳ねた真っ赤な髪がくしゃりと崩れた。
「……バレた?」
「分かりますよ」
どこかバツが悪そうな雷刀の声に、烈風刀は怒りを色濃くにじませた声を返した。胸に顔を埋めたままでは息苦しいだろうに、腕の中の赤色は何も言わず大人しく抱かれたままだ。彼らしくないその様子に、抵抗する力すらないのではないかいう不安が烈風刀の胸をじわじわと侵蝕していく。
ここ最近はアップデートの頻度が高く、楽曲データの生成や管理および照合、プレーヤーデータへの反映など普段以上の業務が要求され、運営に関わる者は文字通り忙殺される日々を過ごしていた。あまりにも膨大な量に、細かいことを不得手とするため普段は別作業を担当している雷刀まで駆り出されるほどだ。しかも、その忙しさを突いてきたバグの侵入を許してしまい、退治のために彼は学園中を何度も何度も駆け回っている。慣れない作業で頭と精神をすり減らし、加えてバグ退治で肉体まで酷使しているのだ。いくら体力に自信がある雷刀でも、疲れ果てるのは当たり前である。
しかし、彼はそれをひた隠そうとしていた。心配をかけるのが嫌なのだろう、疲れていないかと問われれば、普段通りの笑顔で大丈夫だと答えていた。けれども、その瞳に沈む疲れの色はを風刀には隠し通すことなどできない。十数年も離れることなく隣にいるのだ、些細な嘘など互いに通じるわけなどなかった。
無理に行動させていたこと。いつも自分に『隠すな』という癖に、己のそれを隠そうとしたこと。一人だけで解決しようとしていたこと。そして何より、一切頼られなかったこと。様々な怒りと悔しさが烈風刀の中で渦巻いていた。
「貴方は僕のことをよく分かっているのでしょう? だったら、僕だって同じです。貴方のことぐらい、全部知っています」
当たり前でしょう、と烈風刀が言うと、くすりと小さな笑みが聞こえた。そのまま、その背にわずかばかり温度を取り戻した手が回される。今度は添える程度の優しい手つきだった。
「大体、僕に無理するなと言う癖に、何故貴方は溜め込むのですか」
「あー……うん……」
責める声に、雷刀は気まずそうに言葉を濁す。弱々しいその音に、烈風刀は目を伏せ抱きしめた頭を優しく撫でた。ふわふわとした柔らかな髪を指で梳くと、落ち着いた呼吸が彼の耳に届いた。
「もっと頼ってください。僕もレイシスも、迷惑だなんて思ってませんから。むしろ、本当に大丈夫なのか心配しているのですよ? だから、一人で無理をするのはやめてください」
いつも雷刀が自分に言い聞かせる言葉を、烈風刀は口にする。その声には強い熱が宿っていた。
彼もこんな気持ちで言っていたのだろうか、と烈風刀はぼんやりと考えた。たしかに、こうやって無理をしている姿を見るのは心臓にも精神にもあまりよろしくない。今度からもっと上手く隠さねば、とその思考は間違った方向へと捻じれた。
無理をして倒れられた方が迷惑です、と照れたように付け加えると、はは、と気の抜けた笑い声が聞こえた。腹に息がかかって少しくすぐったい。
「ん、分かった」
とんとん、と、雷刀は己を抱きかかえる弟の背中を優しく叩く。これではまるで自分があやされているようだ、と烈風刀は少し拗ねたように顔をしかめた。くすり、とまた笑う声。腕の中に納まる兄からは己の顔など見えるはずがないというのに、全て見透かされているように思えた。これも双子故だろうか、と考えて、ふわふわとした赤を優しく撫でる。
「なぁ、烈風刀」
「なんですか」
「オニイチャン、さっきの体勢のがいいなー。烈風刀あったかいし、抱きしめてると落ち着く」
「嫌です」
おどけたような声をきっぱりとした声が否定する。えー、と不服そうな声が上がるが、烈風刀は黙ったままだ。幾許かして、小さく息を飲む音が雷刀の耳に落ちてくる。薄い唇が開かれ、紅梅を抱きしめた若草は、その胸の内を音へと変えていく。
「……先程の体勢では、『僕が』抱きしめられないでしょう」
たまには黙って抱きしめられていてください、と少し拗ねたような音がぽつりとこぼれた。
思えば、烈風刀はいつも雷刀に抱きしめられてばかりで己から動くことは少ない。だからこそ、今日ばかりは自分から抱きつきたい。抱きしめ、肌を触れ合わせ、体温を共有することは心地よく、安心する。その安心感を、今度は自分が彼に与えたいのだ。
「そっか」
じゃあ仕方ないな、と機嫌のよさそうな兄の声に、そうですよ、と開き直って返す。すり、と雷刀は目の前の胸に額を擦り付けた。可愛らしい姿と少しのくすぐったさに、烈風刀は小さく笑みを浮かべる。応えるように、燃える緋色をゆっくりと撫でた。
あぁ、温かい。
体温を取り戻した手から伝わる熱が、腕の中で優しく笑むその熱が、この上なく心地よかった。
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#ライレフ
#腐向け
#ライレフ
#腐向け
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SDVX
2024/1/31(Wed) 00:00
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隠し色【ライレフ】設定も説明もクソも訳が分からない、ただただ自分が書いてて楽しいだけの文章。貧乏性なので投げる。
ちょっとだけ頼りないオニイチャンとちょっとだけかっこいい弟君が書きたかっただけ。
「れーふーとー」
シャワーを終えキッチンで茶を飲んでいると、間延びした声がリビングの方から飛んできた。コップを手にしたまま、烈風刀は声の方へと頭を動かす。視線を移した先には、ソファに座りニコニコと笑みを浮かべた雷刀がいた。彼は広げた足の間に手を付き、片手でそこをぺしぺしと叩いている。ここに座れ、と言っているのだろう。
コップの中身を飲み干し、烈風刀は大人しく兄の下へと向かう。少しばかり躊躇いつつも、その手が示す場所に浅く腰掛けた。後ろからごく自然な動きで腕が回される。ゆっくりと抱きしめられ、否応なしに二人の距離が縮まる。熱と熱とが重なり合う。普段ならば文句の一つや二つ飛ぶのだが、今日の彼は借りてきた猫のように大人しくしていた。抱き寄せたその背に、雷刀はこつんと額をつけた。
「烈風刀、あったけー」
「お風呂あがりなのだから当たり前でしょう」
それに加え、兄弟の平熱は人よりも少しばかり高い。それでも肌を触れ合わせると、熱さよりも心地よさや安心感が胸の中にじわりと広がっていくのから不思議だ。背から伝わる熱に、烈風刀は小さく息を吐いた。身じろぎもせず、ただただ抱きしめ抱きしめられたまま時計の針は進んでいく。カチ、カチ、と秒針が時の道を歩く音が静かな部屋に響いた。
抱きしめる雷刀の腕にゆっくりと力がこめられる。骨で守られていない柔らかな箇所を圧迫され、少しの息苦しさと鈍い痛みがじわじわと広がっていく。その感覚に、烈風刀は小さく顔をしかめた。
「ちょっと雷刀、苦しい――」
「んー、もうちょい」
彼は苦しさを訴えるが、雷刀が手を離す様子はない。むしろ逃がさんと言わんばかりに更に強く抱きしめられ、二人の身体がひたりと密着する。内臓を潰されるような感覚は決してよいものではない。どうにか引きはがし腕から逃れようと、烈風刀は腹に回された手に己のそれを重ねる。掴んだそれは想像していたよりもずっと冷たく、烈風刀は悔しげに顔を歪めた。
思い切り力を入れ、烈風刀は抱き寄せる腕を無理矢理引きはがす。そのままくるりと身体を反転させる。透き通った緑青の瞳の先には、疲れを誤魔化すような、深い傷を隠すような表情をした兄がいた。彼への、そしてなにより自分への強い苛立ちに烈風刀は眉間に深い皺を刻む。そのまま鮮やかな深緋に彩られた頭を思い切り胸に寄せ、抱きつくように抱きしめた。
「烈風刀?」
「疲れてるなら――辛いなら、ちゃんと言ってください」
先程のお返しだと言わんばかりに、烈風刀はふつふつと湧いてくる怒りを込めて強く抱きしめる。少し跳ねた真っ赤な髪がくしゃりと崩れた。
「……バレた?」
「分かりますよ」
どこかバツが悪そうな雷刀の声に、烈風刀は怒りを色濃くにじませた声を返した。胸に顔を埋めたままでは息苦しいだろうに、腕の中の赤色は何も言わず大人しく抱かれたままだ。彼らしくないその様子に、抵抗する力すらないのではないかいう不安が烈風刀の胸をじわじわと侵蝕していく。
ここ最近はアップデートの頻度が高く、楽曲データの生成や管理および照合、プレーヤーデータへの反映など普段以上の業務が要求され、運営に関わる者は文字通り忙殺される日々を過ごしていた。あまりにも膨大な量に、細かいことを不得手とするため普段は別作業を担当している雷刀まで駆り出されるほどだ。しかも、その忙しさを突いてきたバグの侵入を許してしまい、退治のために彼は学園中を何度も何度も駆け回っている。慣れない作業で頭と精神をすり減らし、加えてバグ退治で肉体まで酷使しているのだ。いくら体力に自信がある雷刀でも、疲れ果てるのは当たり前である。
しかし、彼はそれをひた隠そうとしていた。心配をかけるのが嫌なのだろう、疲れていないかと問われれば、普段通りの笑顔で大丈夫だと答えていた。けれども、その瞳に沈む疲れの色はを風刀には隠し通すことなどできない。十数年も離れることなく隣にいるのだ、些細な嘘など互いに通じるわけなどなかった。
無理に行動させていたこと。いつも自分に『隠すな』という癖に、己のそれを隠そうとしたこと。一人だけで解決しようとしていたこと。そして何より、一切頼られなかったこと。様々な怒りと悔しさが烈風刀の中で渦巻いていた。
「貴方は僕のことをよく分かっているのでしょう? だったら、僕だって同じです。貴方のことぐらい、全部知っています」
当たり前でしょう、と烈風刀が言うと、くすりと小さな笑みが聞こえた。そのまま、その背にわずかばかり温度を取り戻した手が回される。今度は添える程度の優しい手つきだった。
「大体、僕に無理するなと言う癖に、何故貴方は溜め込むのですか」
「あー……うん……」
責める声に、雷刀は気まずそうに言葉を濁す。弱々しいその音に、烈風刀は目を伏せ抱きしめた頭を優しく撫でた。ふわふわとした柔らかな髪を指で梳くと、落ち着いた呼吸が彼の耳に届いた。
「もっと頼ってください。僕もレイシスも、迷惑だなんて思ってませんから。むしろ、本当に大丈夫なのか心配しているのですよ? だから、一人で無理をするのはやめてください」
いつも雷刀が自分に言い聞かせる言葉を、烈風刀は口にする。その声には強い熱が宿っていた。
彼もこんな気持ちで言っていたのだろうか、と烈風刀はぼんやりと考えた。たしかに、こうやって無理をしている姿を見るのは心臓にも精神にもあまりよろしくない。今度からもっと上手く隠さねば、とその思考は間違った方向へと捻じれた。
無理をして倒れられた方が迷惑です、と照れたように付け加えると、はは、と気の抜けた笑い声が聞こえた。腹に息がかかって少しくすぐったい。
「ん、分かった」
とんとん、と、雷刀は己を抱きかかえる弟の背中を優しく叩く。これではまるで自分があやされているようだ、と烈風刀は少し拗ねたように顔をしかめた。くすり、とまた笑う声。腕の中に納まる兄からは己の顔など見えるはずがないというのに、全て見透かされているように思えた。これも双子故だろうか、と考えて、ふわふわとした赤を優しく撫でる。
「なぁ、烈風刀」
「なんですか」
「オニイチャン、さっきの体勢のがいいなー。烈風刀あったかいし、抱きしめてると落ち着く」
「嫌です」
おどけたような声をきっぱりとした声が否定する。えー、と不服そうな声が上がるが、烈風刀は黙ったままだ。幾許かして、小さく息を飲む音が雷刀の耳に落ちてくる。薄い唇が開かれ、紅梅を抱きしめた若草は、その胸の内を音へと変えていく。
「……先程の体勢では、『僕が』抱きしめられないでしょう」
たまには黙って抱きしめられていてください、と少し拗ねたような音がぽつりとこぼれた。
思えば、烈風刀はいつも雷刀に抱きしめられてばかりで己から動くことは少ない。だからこそ、今日ばかりは自分から抱きつきたい。抱きしめ、肌を触れ合わせ、体温を共有することは心地よく、安心する。その安心感を、今度は自分が彼に与えたいのだ。
「そっか」
じゃあ仕方ないな、と機嫌のよさそうな兄の声に、そうですよ、と開き直って返す。すり、と雷刀は目の前の胸に額を擦り付けた。可愛らしい姿と少しのくすぐったさに、烈風刀は小さく笑みを浮かべる。応えるように、燃える緋色をゆっくりと撫でた。
あぁ、温かい。
体温を取り戻した手から伝わる熱が、腕の中で優しく笑むその熱が、この上なく心地よかった。
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