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No.67

二匹の獣【陸海/R-18】

二匹の獣【陸海/R-18】
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LegenD.赤AA乗りました。
お察しください。
ぶち犯すとか言ったけど普通に和姦。

 夜の底に呻き声にも似た声がこぼれては消えていく。取り付けられた窓から差し込む明かりは、月がもたらす淡いものだ。ほっそりと空に浮かぶそれが雲に潜る度、埃臭い部屋は闇に侵される。それでも、二対の瞳は黒に埋もれることなくギラギラと輝いていた。
 下半身から溢れる水音と、肉と肉がぶつかる鈍い音が耳を犯す。聞き飽きた音だというのに、身体は馬鹿正直に快感を拾い上げていくのだから腹立たしい、と烈風刀は心底不快そうに目を眇めた。歯を食いしばり、迫り上がっってくる声を喉に押し込める。人前でよがり声をあげるなど、何千、何万の兵の上に立つ者として――何よりも自身のプライドが許さない。たとえ相手が幾度も夜を共にした人間であっても、だ。
 燃える瞳が交錯し、火花を散らす。暗闇すら焦がすようなそれを、空がまた陰らせた。








 戦を終え、海軍大将である嬬武器烈風刀は今しがた王女が治める国へと足をつけた。帰るべき城を見上げると、忠誠を誓いこの身全てを捧げる王女の顔が思い浮かぶ――のが常であったが、今回は様子が違った。
 先の戦は、わずかに刃を交えただけであっさりと終結してしまった。あまりにも呆気なさすぎて、わざわざ軍を動かす必要があったのかと疑問が残るほどだ。手応えなど皆無と言って差し支えのない戦は、彼の高ぶった気を抑えるにはあまりにも不十分だった。
 闘いと血を求め燻る熱はなかなか消えない。臓腑を焼くそれは飢えにも似ていた。何もかもが満たされない苦しみ、苛立ち。足りない、と叫び暴れる本能は己が肉を食い散らかさんばかりの勢いで身体を駆け巡る。自身を食い尽くしたところで、その飢えが満たされるはずもないというのに。
 こんなことではろくに行動できない。無理矢理押さえ込み必要なこと済ませるよりも、燻る胸の内を処理してしまった方がよほど合理的だ。
 仕方がない、と烈風刀は外套を乱雑に脱ぎ捨て、近くにいた者に簡単なものだけでも処理しておくよう指示する。いきなりのそれに何か言いたげに顔を上げた兵は、彼の瞳を見て石のように固まった。海の底を彷彿とさせる蒼に、荒く蹴立てる波飛沫のような白が浮かぶそれは、不気味なほど煌々と輝いている。死を誘う鬼火のように冷たく、何もかもを焼き尽くしていくような焔がはっきりと見て取れた。
 スゥと細められた目に、矮小なそれは弾かれたように返事をした。あの光に殺されては堪らない、と震える手で作業に取り掛かる。そんな塵芥など気にもかけず、烈風刀は部屋を出た。
 壁にぽつりぽつりと取り付けられた灯が、暗闇に逆らおうとその命を燃やす。それでも夜を支配する黒に勝てるはずなどなく、長い廊下は仄暗い様相をしていた。足早にならぬよう意識し、静かに歩を進める。バタバタとうるさく走り回る兵らは、彼のことを一切気に留めることなく仕事をこなしていた。否、絶対に触れまいと皆一様に必要以上距離を取り行き交っているのだ。海を統べる彼が、どれほどその駒に畏怖の念を持たれているか如実に分かる。
 揺らめく灯、愛しい王女のドレスのように鮮やか赤い絨毯を敷き詰めたその道を進むにつれ、向かう先の紅が脳裏にちらつく。何もかもを見下し、全てを征服せんばかりに口角を釣り上げるあの腹立たしい顔に、烈風刀は無意識に鋭く舌打ちをした。奴を利用するのは癪だが、合理性から考えるとそれが最適解だった。己の為に利用するだけだ、と言い聞かせ、どんどんと歩みを進める。奥へと向かうにつれ、騒がしい人影は宵闇に溶けていった。
 角を曲がると同時に、烈風刀の視界に見知った色が飛び込んできた。
 王女が纏うそれよりもずっと深い、凝固した血液のように濁った紅。見たくもない色――そして今、探し求めていた色だ。
 あちらも気づいたのか、視線と視線がぶつかる。細められた二対の瞳はそれだけで容易く人を殺せるほどの鋭さがあった。それでも互いに臆することなく相対しているのは、二人が同格である証拠である。事実、目の前の紅は己と対を成すような陸地を征く兵を統べる大将であった。そんな大将様が、こんな時間に敵地と言っても過言ではない海軍管轄の施設ににいるなど、あまりにも不自然である。
 陸軍も陸軍で、本日に戦を終え帰還したと聞き及んでいた。だから、予感はしていたのだ。
 奴――双子の兄であり、陸軍大将を務める嬬武器雷刀も、この飢えを抱え込んでいるのではないか、と。
 烈風刀の予感は的中したようだ。カッチリと着こなすべき軍服は外套を失い、ジャケットも袖を通さず羽織っている。首元には緩められたネクタイが所在なさげに揺れていた。その表情は不機嫌さを全く隠すことないもので、光る紅玉には轟々と燃え盛る昏い焔が沈んでいた。
 ちらりと、烈風刀は長く続く壁を見やる。幸か不幸か、二人のちょうど間にはドアが一つぽつりと佇んでいた。たしか、戦には関係のない雑多な荷物を一時的に保管している倉庫のような部屋だったはずだ。機密に触れるような重要なものは別所に保管してあることもあり、誰でも整理できるよう鍵はかけず開けたままにしていたことは記憶している。
 再び視線が交錯する。蒼瞳の意図を理解したのか、赤い口がわずかに釣り上がったのが見えた。
 紅が足早に距離を詰め、ぐい、と烈風刀の腕を強く引く。掴んだそれを気遣う様子などまるでなく、雷刀はそのまま目的のドアへと向かっていった。引かれる蒼は、珍しく文句一つ言わずされるがままでいる。ここで抵抗するのも面倒だ、さっさと済ませてしまうことが先決である、と静かな瞳が語っていた。
 乱暴な音をたてて扉が開かれ、二人の身体を飲み込んで閉まる。カチ、と内鍵がかかる音が耳に届いた。手際のいいことだ、と烈風刀は侮蔑するように白い手袋に包まれたその手を眺める。
 人の出入りはそこまで多くないのか、埃の匂いがわずかに鼻をつく。その割には片付けられており、床や棚には綺麗なものだ。申し訳程度には取り付けられた窓は嵌め殺しの簡素なもので、カーテンなどはかけられていない。明かりを灯す器具もないこの部屋唯一の光源だ。
 力任せに腕を引かれ、月明かりなど掻き消してしまいそうな暗闇を進む。数歩進んだ部屋の奥には、人一人が何とか寝転がれる程度の空間があった。なんともまあ都合の良いことだ、と考えていると、がくんと首に衝撃が走る。ネクタイを掴まれ、手綱のように引かれたのだ。首が締まる息苦しさとともに、唇が塞がれる。噛みつくようなそれは、烈風刀の薄い唇を食い千切ってしまいそうな勢いだった。余裕のないことだな、と内心嘲り、与えられる熱に集中する。甘噛みするように幾度も降り注ぐそれを享受し、反撃だと言わんばかりに離れようとする唇を食む。逃げ追いかけを繰り返す様子は幼い子供がじゃれあう姿のようだ――ただし、二対の瞳はどちらも鋭く眇められ、射殺さんばかりの気迫に満ちているが。
 擬似的な捕食の応酬が落ち着くと、ネクタイを引く手が離される。そのままトン、と軽く押され、烈風刀は重力に身を任せ倒れた。容易に予測できた行動に、受け身を取りそのまま床に背を預ける。ほんのりと埃のむず痒い匂いが鼻をくすぐった。深いこの青が汚れた灰にけぶることに思わず眉をひそめるが、この後の行為を思うとその程度の汚れは些事でしかない。
 バサリ、とジャケットが地に落ちる音とともに、すぐさま紅が覆い被さり再び唇を食らう。いくらかの殺伐としたじゃれあいの後、合わさったそこからぬめる塊が遠慮なく這入ってくる。厚く熱いそれが擦れる度、腹の奥に熱が蓄積されていく。燻る炎にいくつもの薪がくべられ、高らかに燃え上がり勢いを増していく。それは相手も同じようで、口と口が離れる度に漏れる吐息は酷く熱い。互いに燃え盛る炎に思考を焼かれ始めていた。
 あぁ、満たされる。
 燃え上がる欲に反し、蒼い心は凪いでいくようにすら思えた。あれだけ内を食い破らんばかりに暴れていた飢えが満たされていく――けれども、猛る炎はまだまだ足りないと勢いを増すばかりだった。
 兄は随分と『人気』があるようだが、それでも弟を『利用』しているあたり、飢えを満たしてくれるほどの『餌』は見つかっていないようだ。当たり前だ、こんな猛獣を満足させるほどの『餌』がそこらに転がっているわけがない。屑肉が何十、何百とあろうが、この獣を満足させ、飼い慣らすことなどできないに決まっている。そして、それは弟も同じだ。そこらに転がる餌で飢えが満たされるはずがない。簡単に飼い慣らせるほど、安い存在ではないことなど、よっぽどの節穴でもなければ一目で理解できる。
 だからこそ、兄弟は互いを『利用』する。己すら食い散らかさんばかりの凶悪な飢えを満たせるのはこいつしかいない、と双方理解していた。そんな屈辱的な事実を口に出すことは一生無いけれど。
 唾液に濡れた赤と赤が絡みあう。擦り寄り、離れ、食み、潜り、自在に動く様は、まるで踊っているかのようだった。即興なれど息の合った美しいダンスは、月明かりに照らされてらてらと輝いていた。口内に溢れる唾液は掻き混ざり、もはやどちらのものかなど分からない。飲み下す度、欲が満たされ、更に渇きを覚える。燃えたぎる炎は快楽という名の安寧を求め、貪欲に相手を食らおうと、黒に包まれた手が乱れたシャツの襟元を引き掴む。そのまま自ら距離を詰め、噛みつくように口を寄せた。荒い呼吸はどちらのものか、それとも互いのものか。そんな瑣末なことを考える。とうの昔に放り出された理性が思考を動かすことはない。脳味噌の中身など、既に本能によって支配されていた。
 手袋に包まれた指先が、するすると深い海色の布を滑っていく。汚れの見当たらない白は慣れた手つきで装飾を乱雑に解き、分厚い布を剥いでいく。肌を撫でる夜の冷たい空気にそわりと粟立つ。それもすぐに交わる熱に上書きされた。
 踊るように戯れていた舌と舌が離れる。睨みつけた先の紅は、情欲に煮え滾っていた。そうでなくては、と掴んでいた布から手を離し、蒼は口角を釣り上げる。この程度で満足するような獣に、凶暴で気高い獣の相手が務まるはずもない。
 そう、獣だ。本能に身を任せ暗く薄汚れた空間で盛りまぐわうのは、大将の地位に就く人間でなく、ただの飢えた獣だった。人間の尊厳を捨て去り、貪欲に快楽を求め互いを食らいあう姿は、理性など持ち合わせていない動物と同じだ。
 日が沈みきる直前の空のように赤々とした口に、白い指が這入り込む。鋭い牙を使い、雷刀は力任せに手袋を脱ぎ捨てた。剥き出しになった指は節くれだち、硬い印象を焼き付ける。剣を振るい闘う者の手だ。
 咥えた白を頭の動きのみで適当に放り、開いた口に硬い指が潜り込む。先程まで絡めあっていた舌が、まとめて差し入れられた指の隙間を割っていく。根本まで唾液に塗れ、窓から差し込む月明かりでてらてらと輝く様は淫靡の一言に尽きた。
 指の腹を舐め上げるような動きで舌が離れる。空いていた片手が深い蒼を纏った膝裏に差し入れられ、ぐいと足を持ち上げられる。薄暗い部屋の中、日常生活では決して人に見せることのない奥に秘めたる箇所が月明かりに照らされた。本当に必要最低限、肉と肉が繋がりあうために要する部位のみ露出された様子は淫猥である。これも、飢えた獣の欲を煽り満たすための演出だ。もちろん、実用性も十二分にある。いちいち厳かなこの衣装を全て脱ぎ、行為により体力を消費しきった身体でのろのろと着直すのは酷く面倒である。この程度ならば容易に終わるのだから効率的だ。どうせ戦場を駆け抜けた後の衣服は洗うのだから、汚れを気にする必要もない。それでも、目の前の紅は分厚いジャケットを解き、白で染まるであろう腹部を包む箇所も剥ぎ、律儀に捲りあげるのだ。この関係は既に周囲に――流石に愛おしき王女には気づかれないよう徹底的に情報を排除している――暗黙の了解として共有されているのだから、汚してしまっても何ら問題はないというのに、と蒼は常々疑問に思う。その真意を尋ねるつもりなどは無い。
 そろそろと過剰なほど慎重な手つきで濡れた指が後孔に添えられる。雷刀のそれが、ゆっくりとその表面を撫でる。皺を伸ばすような動きに、烈風刀は強く眉を寄せた。互いに飢えを満たすためだけに『利用』しているというのに、この男は必要以上に優しく『準備』を行う。愛撫という言葉がよく当てはまるそれは、海色の神経を搔き乱す。腹立たしさに、ギリ、と歯噛みした。
 その感情を察したのか――この男のことだ、今までの行動は意図的なものだった可能性が高い――ゆるゆると円を描くように淵をなぞっていた指が、窄まったそこにひたりと宛てがわれる。そのまま、節のある硬い指が洞の中へと潜った。第一関節まで進み、爪の根元まで戻る。緩慢な動きで繰り返されるそれに、肉が悦ぶように痙攣した。理性ではコントロールできないそれに気を良くしたのか、雷刀は少しずつ指を埋めていく。第一関節から第二関節、第二関節から根本まで、段階を踏んで挿し込んでいくその動きは壊れ物を扱うかのようなものだった。烈風刀にとっては不愉快でしかない。荒立つ海のような瞳が苛立ちに眇められた。
 侵入した指の腹が内壁をなぞる。細かな動きで擦られ、ぞわりと背筋を快感が走っていく。浅い抽挿を繰り返し、ずるずると深く抜き、またゆっくりと全体を使ってうねる壁を擦る。動く度に、内に宿した炎がどんどんと勢いを増し、轟々と高く昇っていく。音を漏らすまいと引き結んだ口から、焔に焼かれた吐息がわずかにこぼれた。好む場所を柔く突かれ、反射的に身体をよじる。しかし、中途半端に脱いだ服は枷として機能し、それを許してくれなかった。そういう点は不便である。否、兄から見れば利点なのかもしれない、と弟は快楽が押し寄せる脳味噌で考える。いちいち動かれるのも手間だ、拘束しておいた方が楽である。
 唾液を追加しつつ、紅の硬い指がぴっちりと閉じたそこを解していく。二色のみ存在する閉鎖空間に小さな水音が響き積もる。欲で燃え盛る炎にどんどんと薪をくべるようだった。それが発する熱が出口を探し、雄としての器官に集中する。一切の刺激も与えられていないというのに、そこは反り返るほど血液で膨張していた。己がこぼした蜜で濡れ、快楽を求め時折震えるそれは淫らで蠱惑的だ。それでも、そちらの肉へと手が伸ばされることはない。雷刀が欲を満たすために必要なのは後孔のみである。そちらに触れ相手を満たす必要性など、彼は持ち合わせていなかった。烈風刀も同様である。たしかに肉体はそこへの刺激も強く求めているが、今この場、兄がこちらを注視している時に自らそこに触れ、一人慰める姿など死んでも見せるわけにはいかない。それに、幾度も行為を繰り返したこの身体は、秘所を暴かれることばかりを好むようになってしまった。とんだ変態、汚らしい淫乱である、と己を罵倒する。けれども、事実が変わることはない。心の底から飢えを満たすためには、硬く熱されたあの楔を解れ潤んだ己の鞘に納めるしかなかった。
 何度も月が雲の影に身を隠すほどひたすらに時間をかけ、ようやく二本目を根本まで咥え込んだ頃には、そこは既に剛直を受け入れる場所としての役割を思い出していた。それでも、内を暴く指は止まらない。身体的な機能として残された硬さすらも解し溶かそうとするようなそれは、蒼の中に燻る熱と苛立ちを強く刺激する。視線の先、相手の髪よりもずっと深い紅の衣装の一部は、痛々しいほど膨れ上がっていた。早く済ませれば良いものの、何故ここまで時間をかけるのか。理解するつもりも、わざわざ問う予定も持ち合わせていない。
 肘をつき、烈風刀は身を起こす。入念に『準備』をするそこから顔を上げた紅と視線が交わった。交錯したそれはそのまま、空いた手を膨れ上がった箇所へと伸ばす。硬度を増したそれに、黒い薄布に包まれた細い指を一本宛てがった。
「さっさとしたらどうなのですか」
 根本から頂点へと、焦らすようにゆっくりとなぞっていく。たったそれだけで、覆い被さった身体が大袈裟なほど震えた。ハッ、と侮蔑と挑発を込め嘲笑う。行為の意味も手段も知らぬ無垢な子供のような反応は、肉欲に飢えぎらつく瞳とは正反対で酷く愉快に思えた。
 交わった先、情欲に燃え上がる赤目が愉快そうに細められる。とん、と先端を軽く突いた黒を絡め取り、雷刀はそれを床へと縫い止めた。指と指を絡めあいぎゅうと強く握るそれは、恋人同士が行うそれに似ている。もちろん、そんな甘さなど欠片も含んでいない。余裕を装いきれず、急かすそれに応えただけだろう。
 ニィ、と牙の覗く口が醜く釣り上がる。赤々とした唇は、溢れ出る愉快さと、浅ましさへの嘲りと、抑えきれぬ情欲とが混ざりあった色で彩られていた。
 ズルリと内部を占領していた指が性急に引き抜かれる。勢いよくうねる壁を擦り上げられ、快感が脊椎を直接駆けていく。制御しきれず跳ねた蒼の身体を見てか、短い嘲笑が漏れたのが聞こえた。
 金属と布が擦れる音の後、唾液で濡れそぼった孔に硬いものが宛てがわれる。指とは全く違う硬度と質量を持ったそれに、ひくひくと淫らな肉が期待に震えた。
「痛いからって泣くなよ? 大将サン」
 何を、と海の将は嘲笑に嘲笑で返す。数多の戦場を駆け、この身で闘う人間に言う言葉ではない。そして、その手で過剰なほど丁寧に解した癖に、痛みを感じるなどとよく宣えたものだ。
 焦らすような緩慢な動きで、熱塊が洞の中へと進んでいく。ゆっくりと内部を焼かれる感触は未だに慣れることができない。処女であるまいに、と呆れるも、細い道を質量が増した器官でみちみちと音をたてて割り広げられると、どうしても苦しさが迫り上がってくるのだった。闘いで味わう、外から強く与えられるそれではなく、うちがわからじわじわと染めていくそれは、日常生活では到底得ることのできない、まず味わうことのないものである。
 熟れた先端が先陣を切り、続いて浅黒い幹がひくつく肉を割っていく。空白が埋め尽くされていく感覚に、脳髄に鋭い電気信号が叩き込まれた。ぐ、と、烈風刀は喉奥から迫り上がってくる嬌声を歯を食いしばり殺す。互いに本能をさらけだし身体を貪る関係を持っているとはいえ、相手は実の兄かつ敵対していると言っても過言ではない集団の頂点に立つ者である。そんな人間に、女があげるような高い声を聞かせるわけにはいかなかった。
 長い時間をかけ、ようやく欲望の塊が柔らかな内部に納められる。渇き喘ぎ叫ぶ飢えがゆっくりと治まっていくのが分かった。唇を合わせ、舌を擦り合わせた程度では決して得ることのない充足感に、心の底から悦びが湧き出る。歓喜に満ちゆく情意を、落ち着いたはずの飢渇が食らっていく。隙間無くぎゅうぎゅうに埋め尽くされているというのに、快楽に貪欲な孔はもっと欲しいと訴えるようにはくはくとうごめいた。強く締め付けるそれにか、欲に潤む赤い瞳が苦しげに細められる。初めて行為を経験する若人のような反応に、青い瞳が愉快そうに細められた。
 暗闇の中、紅と蒼の視線が再びぶつかりあう。どちらの色も、欲望に満ちた光で煌々と輝いていた。両者とも、床の上で交えた手を固く握る。互いを強く抱き締めあう白と黒の姿は、獲物を逃すまいと乗り上げ押さえつける獣のそれだった。
 溶けて接合してしまうのではないかと錯覚するほど長い停滞の後、ようやく埋め込まれた楔が動き出す。ゆっくりと退き、また同じ速度で奥へと進む。緩慢な刺激に、包み込む鞘が乞うようにうごめいた。熱いそれが動く度、強く抱き締める度に快楽がちりちりと心を焼いていく。飢えを満たすはずのそれは、燻る炎に燃料を与え更に燃え上がらせようとするものだった。与えられる自分ですらこの調子なのだ、相手もこの程度では渇くばかりだろう。本能に身を任せ動けば良かろうに、と寒さを孕む瞳が憎しげに細められた。
 烈風刀は空いた手を伸ばし、覆い被さる雷刀の頬に触れる。意識がこちらに向いたことを確認してから、抱え込んだそれを搾り取るように締め付けた。ぐ、と息を呑む鈍い音とともに、内を広げる欲望がびくりと震える。さっさとしろ、という無言の要求に、陸の将は牙を見せ笑みを浮かべる。愉快さではなく嗜虐の色に染め上がったそれは、まさしく獣の容貌をしていた。
 壁全体を擦るように時間をかけて抜かれた熱塊が、柔い洞を一気に突き進んでいく。望んだ通り衝動に身を任せた動きに、強い快感が全身を駆け抜けた。迫り上がる声を殺すと、喉が醜い音をたてる。痛みをこらえるような響きをしているが、実際は真逆、悦びを隠すものだ。とうの昔に理解している紅は、それを引き出そうと動く。先程までの無駄な遠慮や配慮は既に消え失せていた。それでいい、と蒼は密かに口角を上げる。求めているのは欲望を満たす衝動なのだ。それ以外のものなど不必要、排除すべき障害でしかない。
 結び交わった箇所から粘ついた水音が漏れる。本能に染め上げられた思考は、鼓膜を震わすそれすらも快感と判断して拾っていく。内だけでなく、外からも犯されるようだった。駆け巡るそれが発する声を必死に殺すも、身体はそうはいかない。快感を伝える電気信号が、そのまま筋肉に命令を下す。身体が震え、跳ね、しなり、ひくひくと物欲しげに獣欲を抱き締める。拠り所を求めるかのように、烈風刀は繋いだ手を強く握る。子供のような仕草にか、上空から嘲りが含まれた吐息が降ってきた。余裕など欠片もない、床に縫い付けんばかりにこの手を握る人間がする反応ではない。非難に満ちた視線に、何を勘違いしたのか、雷刀は牙を見せ酷く愉快そうに笑った。
 暗闇を走る細い月明かりに、獣が獣を食らう姿が照らし出される。








 獣欲に猛る剣と情動に潤む鞘が擦れる度、ぐちゅぐちゅと淫猥な水音が響く。時折、熱と欲に浮かされた息を吐き出す音が混ざる。合奏のようなそれが闇夜に溶けていく。
 入念に解され、涎をこぼす欲望の象徴を何度も受け入れた細い道は、はちきれんばかりに膨れ上がったそれを難なく飲み込めるほど柔らかくなっていた。うねる壁で侵入者をきゅうきゅうと抱き締める。甘えるようなそれに、這入り込んだ塊が応えるように好む場所を幾度も穿つ。全身に走る鋭い快感に、海をたたえた目が大きく開かれた。唇を噛み、烈風刀は必死に声を殺す。その姿が気に入らないのか、それとも嗜虐を煽る様子を気に入ったのか、雷刀は細やかな動きでそこを刺激する。びりびりと頭の奥が痺れた。数え切れないほどの悦びの信号が、脳髄を焼き切らんばかりに叩きつけられた。ギリ、と鈍い音が引き結ばれた口から漏れ、薄い唇が歪む。耐えるように力いっぱい噛んだそこからは、冷たい青を見つめる瞳よりもずっと明るい赤が滴り落ちた。
 闇夜に浮かび上がる鮮烈な紅が眇められる。何を思ってか、雷刀はぐいと身を乗り出した。その拍子に肉と肉とが重なりあう面積が増え、びくりと蒼に浮かぶ白い身体が跳ねる。近付いてきた兄が、べろりと血で化粧された唇を舌でなぞる。溢れ出る鮮血を止めんと幾度も舐めとるそれは、犬が水を飲むようだった。人の血液を食らうなど、悪趣味極まりない。冷気すら感じる海色が侮蔑に歪んだ。飢えに喘ぐ茜空は、口を開けと言うように歪なそれを見つめ、依然血がこぼれ染められた唇を舐める。時折軽く吸われ、背筋に寒気が走る。血を吸われるなど、流石に嫌悪感が勝る。それが己の欲求に無理矢理従わせようとする稚拙な策略ならば尚更だ。拙い策により抗議の声すらあげることができず、烈風刀は射殺さんばかりに鋭い視線を兄へと向ける。弟のそんな姿など露も気にせず、雷刀はひたすらに唇を寄せ、悪趣味な愛撫を続けた。
 血液が止まらない様子に諦めたのか、それとも単純に飽きたのか、唇が離れていく。どれほど経ったか認識できないほど長く舐め尽くされたそこが、わずかな寒さを覚えた。べろり、と目の前の赤の舌が、唾液に濡れた自身の唇を舐める。そこに残った血液を全て舐めとるような、獣が馳走を前に目を輝かせるような動きだった
 突然、止まっていた抽挿が再開される。いきなり内をごりごりと擦り上げられ、目の前に火花が散った。身体が法悦の声をあげる度、白い光がいくつも瞬く。闇に染め上げられたこの部屋が星空に変わったようだった。実際はそんなロマンチックで可愛らしいものではない。思考全てを消し飛ばすような衝撃だ。
 血液で彩られた唇から、歯が砕けてしまいそうなほど強い音が響き渡る。流石というべきか、不意打ちのようなそれでも烈風刀が声を漏らすことはなかった。チッ、と小さな舌打ちが快楽の海に落ちるのが聞こえる。それもすぐに互いの身体が生み出す音に掻き消された。
 律動に合わせ、肌と肌、肉と肉が鈍い音を奏でる。熱に浮かされた吐息が交ざりあい、埃舞う空気に溶け込んでいく。設備も何もない、ただ闇に包まれた冷たい空気が満ちているはずなのに、どちらの身体も心も熱に溺れていた。薄暗い部屋の中、二対の瞳は相対するそれを貫かんばかりに睨み合う。欲望の炎が轟々と燃え盛るそれは、夜が支配する中でもまるで恒星のように力強く光っていた。満たされ渇きを繰り返す内なる獣と同じ輝きをしていた。
 ぼたぼたと溢れる唾液が床を、服を、身体を汚していく。烈風刀の胸元は激しい行為による汗と、雷刀がこぼす唾液でじっとりと湿っていた。際限なく漏れ出るそれは、彼の興奮の度合いを如実に表していた――そんなものを見なくとも、依然睨み合っている兄弟は互いのことなど全て理解しているのだけれど。
 痛いほど張り詰めた自身が、鍛え上げられた筋肉に包まれた腹を汚す。突き上げられるとともに己の肌に擦られるそこは、淫欲の印で濡れていた。それでも決定的な刺激を与えられず、絶頂を求めるそこはただただ粘つく液をにじませるだけだ。内部が隙間無く満たされる悦びと、欲望の頂点が全く見えない苦しみに、青の心は凪と暴を繰り返す。
 覆い被さる赤の手に、更に強い力が込められる。腰に回されたそれも、薄い肉を引きちぎり骨を砕かんばかりに強く掴んだ。打ち付ける衝撃がより大きくなる。乱雑なその動きは、欲望の果てが差し迫っていることを表していた。指では到底届かない深い場所を幾度も突かれ、反射的に白い身体が跳ね、勢いを増していく快楽に震える。数え切れないほど脳髄に送り込まれる電気信号は、刃物のような鋭さをしていた。鋭利なそれが思考を切り裂いていく。その後ににじむのは、身体があげる悦びに満ちた声だ。
 荒々しく暴かれる秘所が、深くまで咥え込んだそれを締め付ける。はくはくと淫らにひくつき剛直を愛おしげに抱き締める姿は、まるでまだ足りないとねだるようなものだった。当たり前だ、まだ内なる獣は飢えに酷く喘ぎ、欲望に猛る炎は消える気配すら見せないのだ。満たされるまで食らいつくに決まっている。
 その望みを叶えるように、己が抱えた獣を満たすために、熱せられた欲望が勢いよくうちがわを擦り上げる。硬いそれが好む箇所を容赦なく抉り、烈風刀の背が弓のようにしなった。過ぎた快楽が身体中を殴りつける。逃げようにも、掴み押さえつけ縫い止める手が許してくれない。声を殺し続ける喉がおかしな音を漏らした。そんなこと欠片も気にすることなく、雷刀はひたすらに欲望を打ち当てる。どちらも既に人間らしさなど消え失せた、本能に従い行動する獣の姿をしていた。
 再び目の前にいくつもの火花が散る。不規則な明滅を繰り返すそれは、果てが近いことを示していた。内部の感覚ばかりが鮮明になる。熟れきった柔らかな内壁は、突き立てられる楔の形を覚えようと――否、もう覚えきってしまっているというのに必死に絡みついた。
 互いに重なった箇所は、間に何も入れることなどできないほど密着し、交わり奏でられる音が身体を直接伝わってくる。その凄まじい感覚に、今まで相手から逸らすことなどなかった海色の目がぎゅうと固く伏せられた。これ以上にないほど眉間に皺を寄せ歯を食いしばる姿は、その凶悪さとは正反対の怯える子供のようなものに見えた。
 熱塊が肉洞の最奥に到達する。剛直が奥の奥に秘めた襞を突き破った刹那、視界全てが白に染まった。稲妻が落ちたような衝撃と快感が身体を、思考を、意識を強制的に塗り潰していく。恐怖すら覚えるそれに見開かれた海色の瞳とは正反対に、潤み甘え絡みつく内部は食い千切らんばかりに獣欲の象徴を締め付けた。
 熱い、という言葉では到底表現しきれないほどの迸りが、快楽に震え高らかに法悦の声をあげる身体に直接注ぎ込まれる。腹の奥底まで焼かれ溶かされるような感覚。その強烈な温度に、頂点に至る刺激を求め涙を流していた己自身も、溜め込み膨れ上がった欲望を吐き出したのを頭の片隅で認識した。内部を蹂躙されただけで達した浅ましい身体が、襲い来る様々な情で断続的に震える。後孔がひくひくと悦びに喘ぐ度、上空から痛苦と快楽の混ざった音が降ってきた。もう一つの繋がった場所、絡みあい縫い付けられた手は、離すまい――離れまいと互いを抱き締めていた。手袋の薄い布越し、必死に相手を掴むその姿は、孤独を恐れ他者に縋り付くようだった。
 うちがわを埋め尽くさんばかりの欲の奔流がようやく止まる。唇に突き立てていた牙を外し、烈風刀は口を開く。快感に加減なく殴られた身体は、酸素を貪欲に求めていた。は、とようやく吐き出した息は酷く重く、普段の彼からは想像できないほどの甘さで潤んでいた。それは覆い被さる雷刀も同じである。肉食獣めいた鋭い牙が覗く口からは、快楽のあまり塞き止めきれずにいる唾液と甘やかな呼気が流れ出ていた。
 じわり、と胸の奥に充足感が広がっていく。吐き出された欲望が身体中に染み渡り、渇きと飢えを癒やしていくようだった。天すら貫かんばかりに燃え上がっていた焔がゆっくりと勢いを失っていく。ようやく、凶暴な獣を抱えた心にわずかながら凪が訪れた。
 押し倒し押し倒され向かい合わせ、荒く甘やかな吐息が絡みあい、闇夜に踊り消えていく。見上げた頬を伝う汗が、わずかばかりに差し込む月明かりに照らされ光るのが見えた。
 再び赤い視線が降ってくる。その瞳と同じほど赤々とした舌が依然流れる血をべろりと舐め、啄むように唇を重ねる。吐き気がするほど甘ったるいそれに顔をしかめながらも、烈風刀は同じく舌を差し出した。奥深くまで潜るそれからは仄かに己の血の味がした。求めあい寄せ合う赤が、湧き上がる唾液を纏いぬるりと表面を滑る。望む刺激が得られず、紅と蒼は更に身を寄せた。粘膜が触れ合う度、弱々しくなった炎にどんどんと薪がくべられていく。放り込まれた燃料に、煌々と輝くそれが勢いを増していくのが分かった。
 先程満たされたのはたしかに事実だ。渇きに荒れた心が凪いだのも、紛れもない事実である。
 けれど、この程度で抱え込んだ飢えが完全に満たされるわけがない。
 腹は十全に満たされていない。目の前にはまだまだ餌が転がっている。ならば、十二分に満足するまで食らいつくのは必然的だ。飢えた獣はどこまでも貪欲なのだから。
 黒い手袋に包まれた指が、雷刀の頬にそっと添えられる。緩慢な動きで肌をなぞるその仕草は、愛撫とよく似た形をしていた。這入り込んだ赤色がより動きを強める。対抗するように、口腔を蹂躙せんと忍び込ませた己のそれを更に奥へと伸ばした。
 数え切れないほどの応酬の末、ようやくじゃれあい絡んだ赤が身を離す。舌先から繋がりを求める銀が姿を現すが、すぐに闇に掻き消された。荒い呼気、溢れ出る唾液、そして、熱を増していく肉。粘膜の触れ合いを終えた二色の中には、既に恐ろしいほど音をあげ燃え盛る炎が宿っていた。
 歪な赤い三日月が闇夜に浮かぶ。心底愉快そうな、しかし余裕など欠片も存在していない一対の紅玉髄を眺め、同じ様子を浮かべた水宝玉も三日月を作った。
 かちあう視線が火花を散らす。再び目を醒ました獣が、高らかに遠吠えをあげたのがはっきりと分かった。

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#ライレフ #腐向け #R18

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