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No.8
菓子と貴方【神十字】
菓子と貴方【神十字】
夜中にTL見てぶわっと熱がきたので、朝45mで書いた神十字。投稿ついでに少し修正。
見切り発車なんで設定とか色々ふわっとしてていつも以上にやまもおちもいみもない感じ。
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がさがさと草をかき分け道なき道を進む。草原をかき分けて進むのは最初は抵抗があったが、今では慣れてしまった。慣れてしまうほどここに通っているという事実は受け入れがたいが、諦めるしかない。
ほどなくして一つの建物が目に入る。崩れかけといった言葉がとても似合うこの教会が目的の場所だ。こんな古びて朽ち果て機能を果たさなくなった教会がまだ壊されずに残っているのだと常々疑問に思うが答えは見えない。おそらく、彼がなにかをしているのだろう。それくらいのことなど造作なくできる男なのだ。
壊れて役目を放棄したドアが散らばる玄関を潜り抜ける。かつん、と固い音が壊れた長椅子ばかりが並ぶ広い空間に響く。最前列、まだ椅子と判断がつくそこから起き上がる影があった。赤い髪がふわりと舞い、真紅の瞳がこちらを捉え弧を描いた。
「おかえり」
「……また寝ていたのですか」
「だってやることねーし」
けだるげにに答え、ぐっと背伸びする男を見つめる。
『神』と名乗ったこの男と出会ったのはどれほど昔だろうか。最初はそんな馬鹿げた言葉は信じられなかったのだが、時折見せる『力』とやらは彼が人ならぬ高位の存在であることを如実に示していた。疑わしいが、信じざるを得ないのだ。
「んで、今日は何持ってきてくれた?」
「クッキーですよ。子供達に配る為に焼いたものです」
「ふぅん」
長椅子の背もたれから身を乗り出した彼はつまらなそうに目を細めた。どうも自身をついで扱いされたのが気に食わないらしい。見慣れたその姿に呆れながらも言葉を続ける。
「貴方の分は別に焼きましたよ。子供達と同じような動物型のものでは嫌でしょう?」
「別に? お前のなら何でも美味しいし、見た目とかどうでもいい」
ストレートなその言葉に思わず息が詰まる。彼に褒められるのは嬉しいのだけれど、どうもこそばゆい。焦る気持ちを抑えようと鞄からクッキーが詰められた袋を取り出し、彼に手渡した。しかし、いつもならばすぐに食べ始める彼が動く様子がない。どうしたのだろうか、と顔を覗き込むと、にぃといたずらめいた笑みが返ってきた。
「食べさせて」
「は?」
なんでそんなことを、と問うとなんとなく、とやる気のない声が返ってきた。しかしいつもならば明るく透き通った赤い瞳はどこか暗い血のような色に移り変わっており、彼の機嫌の悪さを明確に表している。やはり、先ほどの言葉が気に入らなかったらしい。このまま放置して妙なことをされては自分が困る。はぁ、とわざとらしくため息をつき、彼の手にある袋を開ける。丸いクッキーを一つ取り出し、彼の口元に運んだ。茶色のそれが赤い口内へと消えていく。嬉しそうに咀嚼しごくりと飲み込むと、彼はまた口を開いた。一枚だけでは済まさないつもりらしい。気が済むまで付き合うしかないようだ。
彼の手から袋を取り、クッキーを次々と食べさせていく。まるで親鳥が雛に餌をやっているようだ、と考えて小さく笑みが漏れた。閉じられていた瞳がふわりと開き、一対の赤が不思議そうな色でこちらを見つめた。
「どした?」
「なんでもありませんよ」
はい、と誤魔化すようにまた一枚。促されるまま彼はクッキーを頬張る。子供のようだ、といつも思う。こうやって美味そうに食べてもらえるのだから、作り甲斐があるというものだ。そんな彼だからこそ、長年ここに通い『神への供え物』と称した食べ物を持ってくるようになってしまったのかもしれない。一人で作ってただ食べるよりは、他者のために作って喜んでもらいたい。彼のために見えるこの行為だが、自身のためであるのも事実だ。
そんなことを考えていると、指先に違和感を感じる。驚いて彼の方を見ると、自身の白い指に彼の赤い舌が這わされていた。赤くぬめったそれが自身の白い指を這う。その生暖かい感触と味わったことのない感覚にぞくりと背が震えた。
「な、に、してるんですか!」
急いで手を引く。反応の意味がよく分からないのか、彼はこちらを見て不思議そうに首を傾げた。
「なにって、手に粉いっぱいついててもったいないなーって」
だから舐めた、と言う彼の表情は普段と変わらないものだ。本当にそれだけらしい。付き合いは長い部類に入るが、未だに彼の行動はよく分からない。
「……みっともないからやめてください。ほら、まだありますから」
先ほどの失態を誤魔化すように溜め息をついて、そのまま彼に袋を手渡す。渡されたそれをガサガサと音を立てて開け、食事を続ける。いくらか頬張ったところでこちらを見上げ、嬉しそうに笑った。その顔は子供のそれと一緒だ。
「ん、やっぱ美味い」
「そうですか」
その屈託のない表情にこちらも笑みが零れる。彼が食事をしているときの顔はとても幸せそうで、それを見るのが好きだった。相手がどうであれ――人であれ、神であれ、喜んでもらえるのはやはり嬉しい。
「食べるか?」
ほら、と彼は一枚差し出した。少し悩んだ末、彼と同じく口で受け取る。ふわりと砂糖の甘さが口の中に広がった。
「美味しい?」
「貴方が美味しいというなら、美味しいのでしょう?」
そうだな、と彼は笑う。
壊れた屋根や窓の隙間から差し込む光は柔らかく、二人だけの広い教会を照らしていた。
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#ライレフ
#腐向け
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SDVX
2024/1/31(Wed) 00:00
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ほどなくして一つの建物が目に入る。崩れかけといった言葉がとても似合うこの教会が目的の場所だ。こんな古びて朽ち果て機能を果たさなくなった教会がまだ壊されずに残っているのだと常々疑問に思うが答えは見えない。おそらく、彼がなにかをしているのだろう。それくらいのことなど造作なくできる男なのだ。
壊れて役目を放棄したドアが散らばる玄関を潜り抜ける。かつん、と固い音が壊れた長椅子ばかりが並ぶ広い空間に響く。最前列、まだ椅子と判断がつくそこから起き上がる影があった。赤い髪がふわりと舞い、真紅の瞳がこちらを捉え弧を描いた。
「おかえり」
「……また寝ていたのですか」
「だってやることねーし」
けだるげにに答え、ぐっと背伸びする男を見つめる。
『神』と名乗ったこの男と出会ったのはどれほど昔だろうか。最初はそんな馬鹿げた言葉は信じられなかったのだが、時折見せる『力』とやらは彼が人ならぬ高位の存在であることを如実に示していた。疑わしいが、信じざるを得ないのだ。
「んで、今日は何持ってきてくれた?」
「クッキーですよ。子供達に配る為に焼いたものです」
「ふぅん」
長椅子の背もたれから身を乗り出した彼はつまらなそうに目を細めた。どうも自身をついで扱いされたのが気に食わないらしい。見慣れたその姿に呆れながらも言葉を続ける。
「貴方の分は別に焼きましたよ。子供達と同じような動物型のものでは嫌でしょう?」
「別に? お前のなら何でも美味しいし、見た目とかどうでもいい」
ストレートなその言葉に思わず息が詰まる。彼に褒められるのは嬉しいのだけれど、どうもこそばゆい。焦る気持ちを抑えようと鞄からクッキーが詰められた袋を取り出し、彼に手渡した。しかし、いつもならばすぐに食べ始める彼が動く様子がない。どうしたのだろうか、と顔を覗き込むと、にぃといたずらめいた笑みが返ってきた。
「食べさせて」
「は?」
なんでそんなことを、と問うとなんとなく、とやる気のない声が返ってきた。しかしいつもならば明るく透き通った赤い瞳はどこか暗い血のような色に移り変わっており、彼の機嫌の悪さを明確に表している。やはり、先ほどの言葉が気に入らなかったらしい。このまま放置して妙なことをされては自分が困る。はぁ、とわざとらしくため息をつき、彼の手にある袋を開ける。丸いクッキーを一つ取り出し、彼の口元に運んだ。茶色のそれが赤い口内へと消えていく。嬉しそうに咀嚼しごくりと飲み込むと、彼はまた口を開いた。一枚だけでは済まさないつもりらしい。気が済むまで付き合うしかないようだ。
彼の手から袋を取り、クッキーを次々と食べさせていく。まるで親鳥が雛に餌をやっているようだ、と考えて小さく笑みが漏れた。閉じられていた瞳がふわりと開き、一対の赤が不思議そうな色でこちらを見つめた。
「どした?」
「なんでもありませんよ」
はい、と誤魔化すようにまた一枚。促されるまま彼はクッキーを頬張る。子供のようだ、といつも思う。こうやって美味そうに食べてもらえるのだから、作り甲斐があるというものだ。そんな彼だからこそ、長年ここに通い『神への供え物』と称した食べ物を持ってくるようになってしまったのかもしれない。一人で作ってただ食べるよりは、他者のために作って喜んでもらいたい。彼のために見えるこの行為だが、自身のためであるのも事実だ。
そんなことを考えていると、指先に違和感を感じる。驚いて彼の方を見ると、自身の白い指に彼の赤い舌が這わされていた。赤くぬめったそれが自身の白い指を這う。その生暖かい感触と味わったことのない感覚にぞくりと背が震えた。
「な、に、してるんですか!」
急いで手を引く。反応の意味がよく分からないのか、彼はこちらを見て不思議そうに首を傾げた。
「なにって、手に粉いっぱいついててもったいないなーって」
だから舐めた、と言う彼の表情は普段と変わらないものだ。本当にそれだけらしい。付き合いは長い部類に入るが、未だに彼の行動はよく分からない。
「……みっともないからやめてください。ほら、まだありますから」
先ほどの失態を誤魔化すように溜め息をついて、そのまま彼に袋を手渡す。渡されたそれをガサガサと音を立てて開け、食事を続ける。いくらか頬張ったところでこちらを見上げ、嬉しそうに笑った。その顔は子供のそれと一緒だ。
「ん、やっぱ美味い」
「そうですか」
その屈託のない表情にこちらも笑みが零れる。彼が食事をしているときの顔はとても幸せそうで、それを見るのが好きだった。相手がどうであれ――人であれ、神であれ、喜んでもらえるのはやはり嬉しい。
「食べるか?」
ほら、と彼は一枚差し出した。少し悩んだ末、彼と同じく口で受け取る。ふわりと砂糖の甘さが口の中に広がった。
「美味しい?」
「貴方が美味しいというなら、美味しいのでしょう?」
そうだな、と彼は笑う。
壊れた屋根や窓の隙間から差し込む光は柔らかく、二人だけの広い教会を照らしていた。
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