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No.90
青に魅せられて【はるグレ】
青に魅せられて【はるグレ】
文章リハビリにはるグレ。書きたいところだけ書いたのでオチがない。
推しカプ推しコンビ皆水族館に行ってくれ……。
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照明が落とされた空間の中、壁の一面だけが淡い光を放っていた。横長に切り取られた枠内を、空から降り注ぐ光に照らされた水の中を魚たちが泳いでいく。尾びれが水を切る度起きる小さな泡が、ライトの輝きを受けてきらめいていた。
非現実的な美しさを有す水槽を前に、グレイスは立ち尽くした。躑躅色の瞳は、青に染められた世界に釘付けになっていた。
華奢な足が一歩踏み出し、吸い寄せられるように大きなアクリルガラスへと向かう。少しでも世界に近づこうと手を伸ばそうとしたところで、その動きがピタリと止まる。己が触れてしまって、この美しい世界を壊してしまうのではないか、という不安が少女の中に芽生えていた。
呆然と大きく見開かれた目のすぐ前を、魚の群れが素早く泳いでいく。細かな銀色がキラキラと輝いて水中を駆る様は、まるで流れ星のようだ。立ち止まらず一心不乱に水の中を切り進んでいく星たちは、その体躯以上の壮大な生命力に溢れていた。
「すご……」
「すごい……」
グレイスが思わず漏らした感嘆の言葉に、始果も同じ言葉を返す。少女に応えるというよりも、彼自身の心の奥底から同じ感情が溢れた結果なのだと分かる声色をしていた。事実、月色の瞳は愛おしい躑躅ではなく、その先にある蒼を見つめていた。
柘榴石と琥珀が、きらめく錫色を追っていく。ゆったりと泳ぐ姿に見惚れ、素早く駆けてゆく様に目を瞠り、ふわりと水面へと上っていく様子を眩しそうに見上げる。少女らの意識は、切り取られた海の中深くを潜っていた。
水槽の端から端を泳いでいく魚たちに誘われるように、二人は順路を歩いていく。途中途中、壁に埋め込まれた小さな四角い海を見つける度、言葉を交わさずとも立ち止まって並んで眺める。たくさんの魚で作り上げられた道を歩いていく姿は、海の中をゆったりと泳ぐ魚のそれによく似ていた。
長い時間をかけ、少女と少年はようやく水槽の群れを抜けた。薄暗い通路の先、青色に照らされた場所を目指し歩みを進める。しばらくして、その色のすぐ前に辿り着いた。
薄暗闇に包まれた通路の先には、大きく開けた空間が広がっていた。今まで通ってきた展示室とは比較にならないほど広々とした部屋の大きな一面に、アクリルガラスがはめこまれている。十数メートル先の天から降り注ぐ光が、薄闇に水の色を映し、世界を青に染める。自分たちも水槽に入ってしまったのではないかと錯覚してしまいそうになる空間だった。
視界いっぱいを埋める水槽の中を、色とりどりの魚が泳いでいく。赤、黄、青、銀、黒。多種多様な色が、水の中を舞い踊る。大小様々な影の黒がアクセントのように散っていた。
輝かしい世界を目の前に、二人は息を呑む。細い二対の足は、地に縫い付けられたように止まっていた。すごい、と溜め息のような細い声がどちらともなくあがる。返事をする者などいない――こんな光景を目の前にして、返事をすることなど不可能だった。
タン、と少女は一歩踏み出す。今の今まで走らぬよう気を付けていたことを忘れ、グレイスは軽やかな足取りでガラスの前まで駆けていく。それほどまで、彼女はこの水槽が産み出した空間に魅せられていた。
「始果! 見て見て! すっごい大きい!」
弾んだ声で少年の名を呼び、少女は己の遥か上を指差す。山吹茶の視線が指の先へと吸い込まれると共に、大きな影が二人を覆う。グレイスが指差した先には、水中を悠々と泳ぐ大きな魚があった。堂々たる姿は、この水槽の主であることを思わせるものだった。
「そうですね……! 何という魚なのでしょう」
大きく目を見開き、始果も弾んだ声で返す。普段は表情の変化に乏しい彼だが、今この瞬間は高揚していることがよく分かる声と表情をしていた。
二人で水槽の下部を見回し、内部の魚について書かれたプレートを探す。二人の少し右、水槽内の光を受け鈍く光る板には、鮮やかな写真と共にサメの一種だという解説が細かな字で記されていた。さめ、とふたつの小さな声が重なる。創作物でよく見る凶暴な姿と、今目の前を雄大に泳いでいく姿は、同じ名を冠するものとは到底思えなかった。
ゆったりと泳ぐ主の脇を、ひらひらと何かが飛んでいく。先ほどの解説の隣に書いてあったことから、エイの一種だと分かった。ふわりふわりと薄いひれを動かし泳ぐ姿は、空を飛び舞う鳥を思わせるものだった。
「あ、これ知ってる。ライオットが釣ってくるやつね」
泳ぐ小さな魚の群れの一つを指差し、グレイスは言う。こんな非現実的な世界の中に身近な存在がいたのが嬉しいのだろう、どこか得意げな響きをしていた。
「……そうなのですか?」
「そうでしょ。あんたも前に釣ってきたじゃない」
こてんと首を傾げる始果に、少女は一転して不満げな声を漏らす。言葉の意味と何故関わってしまった声の調子に、少年は今一度首を傾げた。以前、早朝ライオットに捕まり釣りに出掛けた記憶はあるが、どんなものを釣ったかなどさっぱり忘れていた。そも、今日この時まで魚に興味など無かったのだから覚えているはずなどない。
「この小さいのがイワシでしょ。で、あっちのちょっと大きいのがアジ」
どっちもあんたが釣ってきたんじゃない、と呆れる躑躅に、狐は小さく笑みをこぼす。己の記憶は曖昧でぼやけたものだが、彼女が己以上に己のことを覚えていてくれたことが嬉しいのだろう。何笑ってんのよ、と唇を尖らせるグレイスに、始果はいえ、と一言返す。ふん、と拗ねたように鼻を鳴らし、少女は再びアクリルガラスの向こう側を見上げた。
「……本当に綺麗」
ほぅ、と桜色の唇から溜め息が漏れる。感動の熱がこもった幸せな響きをしていた。少女の声に、少年もは、と息を吐く。同じく、幸に彩られた響きだった。
二人並んだまま、水槽内を視線で泳いでいく。スピネルとアンバーに映し出される世界は、彩る魚たちによってくるくると表情を変える。その度に、二つの小さな口から感激の声が漏れた。
「ねぇ、次! あっち!」
たっぷり十数分。広い広い水の世界を堪能したグレイスは、始果の袖をくいくいと引っ張り暗闇を指差す。すぐ近くには順路の文字と矢印記号が書かれたプレートがかかっていた。大きな尖晶石の目をキラキラと輝かせはしゃいだ声をあげる愛しい人の姿に、少年は幸に満ちた笑みを浮かべた。
えぇ、と返し、今にも走り出してしまいそうな少女に引かれるままに始果は歩み出す。彼の足取りも、普段よりずっと軽やかで弾んだものだった。
青に照らされる薄闇を進む中、不意に少女は振り返る。先ほど見た鮮やかな長い尾びれのように、マゼンタの癖の強い髪がふわりと舞った。青に照らされるそれは、彼女の瞳とよく似た色合いに姿を変えていた。
「始果も楽しそうでよかった」
そう言って、グレイスはふわりと笑う。ああやってはしゃいでいたが、自分ばかり楽しんでいて大丈夫なのかと不安だったのだろう。先ほどの少年の笑みを見て、やっと安堵したのだ。同じしあわせを共有している喜びがそこにあった。
「……えぇ。とても」
普段通りゆっくりとした調子で返す狐に、モルガナイトの瞳が柔らかな弧を描く。つられて、ヘリオドールの瞳もそっと細められた。どちらも、幸福の色を映していた。
軽やかな足音を立て、少年と少女は少し急いだ調子で歩く。ふたつの小さな影が、たくさんの水槽で彩られた光る通路に吸い込まれていった。
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SDVX
2024/1/31(Wed) 00:00
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青に魅せられて【はるグレ】文章リハビリにはるグレ。書きたいところだけ書いたのでオチがない。
推しカプ推しコンビ皆水族館に行ってくれ……。
照明が落とされた空間の中、壁の一面だけが淡い光を放っていた。横長に切り取られた枠内を、空から降り注ぐ光に照らされた水の中を魚たちが泳いでいく。尾びれが水を切る度起きる小さな泡が、ライトの輝きを受けてきらめいていた。
非現実的な美しさを有す水槽を前に、グレイスは立ち尽くした。躑躅色の瞳は、青に染められた世界に釘付けになっていた。
華奢な足が一歩踏み出し、吸い寄せられるように大きなアクリルガラスへと向かう。少しでも世界に近づこうと手を伸ばそうとしたところで、その動きがピタリと止まる。己が触れてしまって、この美しい世界を壊してしまうのではないか、という不安が少女の中に芽生えていた。
呆然と大きく見開かれた目のすぐ前を、魚の群れが素早く泳いでいく。細かな銀色がキラキラと輝いて水中を駆る様は、まるで流れ星のようだ。立ち止まらず一心不乱に水の中を切り進んでいく星たちは、その体躯以上の壮大な生命力に溢れていた。
「すご……」
「すごい……」
グレイスが思わず漏らした感嘆の言葉に、始果も同じ言葉を返す。少女に応えるというよりも、彼自身の心の奥底から同じ感情が溢れた結果なのだと分かる声色をしていた。事実、月色の瞳は愛おしい躑躅ではなく、その先にある蒼を見つめていた。
柘榴石と琥珀が、きらめく錫色を追っていく。ゆったりと泳ぐ姿に見惚れ、素早く駆けてゆく様に目を瞠り、ふわりと水面へと上っていく様子を眩しそうに見上げる。少女らの意識は、切り取られた海の中深くを潜っていた。
水槽の端から端を泳いでいく魚たちに誘われるように、二人は順路を歩いていく。途中途中、壁に埋め込まれた小さな四角い海を見つける度、言葉を交わさずとも立ち止まって並んで眺める。たくさんの魚で作り上げられた道を歩いていく姿は、海の中をゆったりと泳ぐ魚のそれによく似ていた。
長い時間をかけ、少女と少年はようやく水槽の群れを抜けた。薄暗い通路の先、青色に照らされた場所を目指し歩みを進める。しばらくして、その色のすぐ前に辿り着いた。
薄暗闇に包まれた通路の先には、大きく開けた空間が広がっていた。今まで通ってきた展示室とは比較にならないほど広々とした部屋の大きな一面に、アクリルガラスがはめこまれている。十数メートル先の天から降り注ぐ光が、薄闇に水の色を映し、世界を青に染める。自分たちも水槽に入ってしまったのではないかと錯覚してしまいそうになる空間だった。
視界いっぱいを埋める水槽の中を、色とりどりの魚が泳いでいく。赤、黄、青、銀、黒。多種多様な色が、水の中を舞い踊る。大小様々な影の黒がアクセントのように散っていた。
輝かしい世界を目の前に、二人は息を呑む。細い二対の足は、地に縫い付けられたように止まっていた。すごい、と溜め息のような細い声がどちらともなくあがる。返事をする者などいない――こんな光景を目の前にして、返事をすることなど不可能だった。
タン、と少女は一歩踏み出す。今の今まで走らぬよう気を付けていたことを忘れ、グレイスは軽やかな足取りでガラスの前まで駆けていく。それほどまで、彼女はこの水槽が産み出した空間に魅せられていた。
「始果! 見て見て! すっごい大きい!」
弾んだ声で少年の名を呼び、少女は己の遥か上を指差す。山吹茶の視線が指の先へと吸い込まれると共に、大きな影が二人を覆う。グレイスが指差した先には、水中を悠々と泳ぐ大きな魚があった。堂々たる姿は、この水槽の主であることを思わせるものだった。
「そうですね……! 何という魚なのでしょう」
大きく目を見開き、始果も弾んだ声で返す。普段は表情の変化に乏しい彼だが、今この瞬間は高揚していることがよく分かる声と表情をしていた。
二人で水槽の下部を見回し、内部の魚について書かれたプレートを探す。二人の少し右、水槽内の光を受け鈍く光る板には、鮮やかな写真と共にサメの一種だという解説が細かな字で記されていた。さめ、とふたつの小さな声が重なる。創作物でよく見る凶暴な姿と、今目の前を雄大に泳いでいく姿は、同じ名を冠するものとは到底思えなかった。
ゆったりと泳ぐ主の脇を、ひらひらと何かが飛んでいく。先ほどの解説の隣に書いてあったことから、エイの一種だと分かった。ふわりふわりと薄いひれを動かし泳ぐ姿は、空を飛び舞う鳥を思わせるものだった。
「あ、これ知ってる。ライオットが釣ってくるやつね」
泳ぐ小さな魚の群れの一つを指差し、グレイスは言う。こんな非現実的な世界の中に身近な存在がいたのが嬉しいのだろう、どこか得意げな響きをしていた。
「……そうなのですか?」
「そうでしょ。あんたも前に釣ってきたじゃない」
こてんと首を傾げる始果に、少女は一転して不満げな声を漏らす。言葉の意味と何故関わってしまった声の調子に、少年は今一度首を傾げた。以前、早朝ライオットに捕まり釣りに出掛けた記憶はあるが、どんなものを釣ったかなどさっぱり忘れていた。そも、今日この時まで魚に興味など無かったのだから覚えているはずなどない。
「この小さいのがイワシでしょ。で、あっちのちょっと大きいのがアジ」
どっちもあんたが釣ってきたんじゃない、と呆れる躑躅に、狐は小さく笑みをこぼす。己の記憶は曖昧でぼやけたものだが、彼女が己以上に己のことを覚えていてくれたことが嬉しいのだろう。何笑ってんのよ、と唇を尖らせるグレイスに、始果はいえ、と一言返す。ふん、と拗ねたように鼻を鳴らし、少女は再びアクリルガラスの向こう側を見上げた。
「……本当に綺麗」
ほぅ、と桜色の唇から溜め息が漏れる。感動の熱がこもった幸せな響きをしていた。少女の声に、少年もは、と息を吐く。同じく、幸に彩られた響きだった。
二人並んだまま、水槽内を視線で泳いでいく。スピネルとアンバーに映し出される世界は、彩る魚たちによってくるくると表情を変える。その度に、二つの小さな口から感激の声が漏れた。
「ねぇ、次! あっち!」
たっぷり十数分。広い広い水の世界を堪能したグレイスは、始果の袖をくいくいと引っ張り暗闇を指差す。すぐ近くには順路の文字と矢印記号が書かれたプレートがかかっていた。大きな尖晶石の目をキラキラと輝かせはしゃいだ声をあげる愛しい人の姿に、少年は幸に満ちた笑みを浮かべた。
えぇ、と返し、今にも走り出してしまいそうな少女に引かれるままに始果は歩み出す。彼の足取りも、普段よりずっと軽やかで弾んだものだった。
青に照らされる薄闇を進む中、不意に少女は振り返る。先ほど見た鮮やかな長い尾びれのように、マゼンタの癖の強い髪がふわりと舞った。青に照らされるそれは、彼女の瞳とよく似た色合いに姿を変えていた。
「始果も楽しそうでよかった」
そう言って、グレイスはふわりと笑う。ああやってはしゃいでいたが、自分ばかり楽しんでいて大丈夫なのかと不安だったのだろう。先ほどの少年の笑みを見て、やっと安堵したのだ。同じしあわせを共有している喜びがそこにあった。
「……えぇ。とても」
普段通りゆっくりとした調子で返す狐に、モルガナイトの瞳が柔らかな弧を描く。つられて、ヘリオドールの瞳もそっと細められた。どちらも、幸福の色を映していた。
軽やかな足音を立て、少年と少女は少し急いだ調子で歩く。ふたつの小さな影が、たくさんの水槽で彩られた光る通路に吸い込まれていった。
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