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No.99
晴れ空の下、君と【レイ+グレ+嬬武器】
晴れ空の下、君と【レイ+グレ+嬬武器】
新年っぽい話が書きたかったのと手を繋いでほしかっただけの話。
明けましておめでとうございました。本年もよろしくお願いいたします。
本文を読む
地域唯一故地元の人間が来るからか、訪れた神社は想像以上に混んでいた。年始の挨拶を交わす者、おみくじを読んではしゃぐ者、賽銭箱の前で真剣に祈る者。学生らしき若人を中心に、境内は人で溢れていた。
「あけましておめでとうございマス!」
真っ赤な鳥居の前に、一際元気で可憐な声が響く。ピンクを基調とした晴れ着を纏ったレイシスは、相対する二人の少年に満面の笑みを咲かせた。
「あけおめー!」
「明けましておめでとうございます」
簡略な言葉とともに笑顔で手を振る雷刀、丁寧な言葉とともに軽く一礼する烈風刀。常と変わらぬ様子の二人に、少女は嬉しそうに笑みを深めた。
「あけましておめでと」
桃の隣に立つ躑躅が、一足遅れて新年の挨拶を贈る。少年二人は同じように祝いの言葉を返した。改まった調子に気恥ずかしさを覚えたのか、グレイスは少しだけ顔を伏せ視線をふぃと逸らす。小さな白い手が、髪と同じ色をした巾着の紐をいじった。
「ネェネェ、見てくだサイ! グレイス、着物似合ってるデショ? 可愛いデスヨネ!」
弾んだ声とともに、レイシスはグレイスの両肩に手を添える。そのままその黒い晴れ着に包まれた細身を引き寄せ、嬬武器の兄弟に見せびらかすように向きを変える。ニコニコと人好きする可愛らしい顔は、妹への愛で満ち溢れていた。
「何回言うのよ」
今日何度目か分からぬ言葉に、グレイスは眉をひそめる。なにせ、朝寄宿舎に訪れ自らの手で着付けてから、人に会う度にこうなのだ。褒められるのは面映ゆく感じるも悪い気はしないが、こう何度も言われてはうんざりしてくるものである。
それでも嬉しそうに言葉を紡ぐレイシスの様子に、躑躅の少女はすっと目を細める。姉はこうやって似合う、可愛らしい、と言ってくれるが、妹はその言葉を信じ切ることができずにいた。小物まで選んでくれた彼女のセンスを疑っているわけではない。彼女の性格上、世辞なんかではないことも分かっている。それでも、本当に似合っているのか、こんな上等なものを自分なんかが着ていいのか、姉の期待通りになっているのか。そんな憂慮が、少女の心にのしかかるのだ。
レイシスが似合うと言ってくれたのなら、と素直に自信が持てればどれほど良かったのだろうか。小さな口がきゅっと横一文字に引き結ばれた。
「えぇ、似合っていますよ」
「うんうん。グレイスって本当に黒が似合うよなー」
妹の晴れ姿に目を輝かせる桃の言葉に、兄弟二人も賛辞の言葉を投げかける。途端、躑躅の頬にさっと朱が広がった。こうもストレートに褒められると、やはり照れが真っ先に来る。長い間一人で過ごしていて、褒められる機会などほぼ無かった彼女なら尚更だ。
次いで、安堵が胸に広がる。レイシスの見立ては、言葉は正しいものだったのだ、と二人が肯定してくれた。少しだけ、不安で陰った心に光が差した。
幾許かして、ありがと、と小さな声が返される。ふふ、と嬉しそうな笑声三つが蒼天に昇った。
「さ、混む前に行こーぜ」
そう言って、雷刀は遠くにある本殿を指差す。新たなる年の光に照らされた社、その入り口に置かれた賽銭箱の前には、何組もの人が並んでいた。昼も近くなってきたからか、人が増えてきたようにも見える。彼の言う通り、混む前に並んでしまうのが吉だろう。
「あっ、雷刀。待ちなさい」
少年は一人鳥居を潜り抜け、軽い足取りで指差した場所へと向かおうとする。その手を烈風刀が制止の言葉とともに引っ掴む。しかし、朱は先に並んどいた方がいいだろ、と言うばかりだ。
「だいじょぶだって」
「そう言っていつも一人はぐれるでしょう」
弟の言葉に、前だけ見つめていた兄は突如ぱっと振り返る。その唇はむぅと尖っていた。この歳にもなって迷子になることを心配されるのが不服なのだろう。しかし、烈風刀からすればその心配は当然のものだった。幼い頃から一人で突っ走り、そのまま迷子になるのが彼なのだ。今だって例外ではない。自由奔放な兄を引き留めるのは、弟にとって自然なことだった。
真紅の瞳がパチリと瞬く。掴まれていた手がスッと動き、そのまま自然な動きで振り解く。解かれ放り出された烈風刀の手に、雷刀の手のひらがひたりと当てられる。ニィといたずらげに笑った朱は、そのままぎゅっと握る。二人の指が固く絡まりあった。
「これならはぐれねーだろ」
「そう、ですけれど」
子どもじゃあるまいし、と出かけた言葉を碧は飲み込む。先に子ども扱いしたのは烈風刀の方だ。彼を咎めることは憚られた。それに、こうやって幼い頃のように手を繋げば、多少は兄の行動をコントロールできる。一応は合理的な判断だった。この歳の男兄弟で、わざわざ人混みで手を繋ぐのは恥ずかしいということを除けば。
「じゃ、オレたち先に並んで待ってるから」
弟が抗議の声をあげるより先に、雷刀はそう言ってひらひらと空いた手を振る。そのまま、軽やかな足取りで本殿へと駆けていった。目立つ朱と碧は、賑やかな人混みの中に混じり消えた。
「……ワタシたちも繋ぎましょうか?」
「いっ、いいわよ!」
ハイ、と差し出されたレイシスの手を、グレイスは身を反転させ背を見せることで拒否する。わざわざ腕を組んで手を塞ぐおまけ付きだ。
「嫌デスカ……?」
しょんぼりとした声が、少女の背中越しに聞こえてくる。きっとすぐ後ろには、しゅんとした表情でやり場のなくなった手を力なく下ろす姉の姿があるだろう。罪悪感が胸を刺す。うぐ、と喉が何ともいえない音を上げた。
「いやじゃない……けど……」
子どもじゃないんだから、と躑躅は唇を尖らせる。実年齢はどうであれ、二人とも高校生なのだ。はぐれないように手を繋いで歩くなど、さすがに恥ずかしい。そもそも、若干混んでいるとはいえ、相手を見失うほど敷地は広くなければ、人も多いわけではない。当たり前のように受け入れるあの兄弟がおかしいのだ。
「嫌じゃないならいいじゃないデスカ!」
「そういう問題じゃないわよ!」
えー、と不満げな声とともに、桃は頬を膨らます。彼女には、家族というものに憧れがある。そして、家族として一番身近なケースはあの兄弟だ。彼らと同じように、姉妹のように、大切な人と手を繋いで歩いてみたい。少女の中の欲求は強いものだった。
不満を表すかのように、胸の前でぎゅっと拳を握るレイシスの姿は可愛らしいものだ。あの兄弟ならば即座に手を差し出したことだろう。しかし、躑躅は目を眇めて反抗した。
「ちょっとだけですから……。ダメ、ですか……?」
ラズベリルがスピネルを真正面から見つめる。桃色の形の良い眉は、不安そうに八の字に垂れていた。
う、とグレイスの細い喉から気まずげな音があがる。彼女のこの顔に、声に弱いことは、少女自身嫌というほど分かっている。そして、姉と同じぐらい、彼女に対して甘いことも自覚していた。
「………………ちょっとだけよ。並ぶまで、本当にちょっとだけ」
ちょっとだけなんだから、と念押しし、躑躅は組んでいた腕をゆっくりと解く。少しの迷いで小さな手は揺れるも、少女は姉に向かって白いそれをそっと差し出した。
己の願いが叶ったという事実を認識し、薔薇の少女はぱぁと表情を明るくする。先程まで悲しみに陰っていた顔が、歓喜に満たされた。
「ハイ!」
元気な声をあげ、少女は差し出された手を己の両の手で優しく包み込む。それじゃ歩けないじゃない、と至極当然の指摘に、ハワ、と動揺の声を漏らす。常識よりも嬉しさが勝り、行動に表れてしまったのだ。えへへとはにかみ、レイシスは今度こそグレイスの右手に己の左手を重ね、優しく握る。一拍置いて、妹もその手を握り返す。姉妹の手は、解けないようにしっかりと繋がれた。
「行きマショウ!」
「……えぇ」
喜びを表すかのように繋いだ手を振り、桃は空いた手で本殿を指差す。せっかく雷刀たちが先に並んでくれているのだ、早く行くべきだろう。あまりに遅くなり、彼らが先に済ませてしまうことになるのも申し訳がない。
けれども、せっかく繋いだ手が早々に解けてしまうのも寂しいことだった。自然と、二人の足取りはゆっくりとしたものになる。レイシスに合わせているのだから仕方ない、と躑躅は己に言い聞かせる。妹の心情を知ってか知らずか、桃は繋いだ手を優しく振った。
桃と黒の美しい晴れ姿が、鳥居を潜り抜け、人混みへと溶けていった。
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#レイシス
#グレイス
#嬬武器雷刀
#嬬武器烈風刀
#レイシス
#グレイス
#嬬武器雷刀
#嬬武器烈風刀
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SDVX
2024/1/31(Wed) 00:00
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晴れ空の下、君と【レイ+グレ+嬬武器】
晴れ空の下、君と【レイ+グレ+嬬武器】新年っぽい話が書きたかったのと手を繋いでほしかっただけの話。
明けましておめでとうございました。本年もよろしくお願いいたします。
地域唯一故地元の人間が来るからか、訪れた神社は想像以上に混んでいた。年始の挨拶を交わす者、おみくじを読んではしゃぐ者、賽銭箱の前で真剣に祈る者。学生らしき若人を中心に、境内は人で溢れていた。
「あけましておめでとうございマス!」
真っ赤な鳥居の前に、一際元気で可憐な声が響く。ピンクを基調とした晴れ着を纏ったレイシスは、相対する二人の少年に満面の笑みを咲かせた。
「あけおめー!」
「明けましておめでとうございます」
簡略な言葉とともに笑顔で手を振る雷刀、丁寧な言葉とともに軽く一礼する烈風刀。常と変わらぬ様子の二人に、少女は嬉しそうに笑みを深めた。
「あけましておめでと」
桃の隣に立つ躑躅が、一足遅れて新年の挨拶を贈る。少年二人は同じように祝いの言葉を返した。改まった調子に気恥ずかしさを覚えたのか、グレイスは少しだけ顔を伏せ視線をふぃと逸らす。小さな白い手が、髪と同じ色をした巾着の紐をいじった。
「ネェネェ、見てくだサイ! グレイス、着物似合ってるデショ? 可愛いデスヨネ!」
弾んだ声とともに、レイシスはグレイスの両肩に手を添える。そのままその黒い晴れ着に包まれた細身を引き寄せ、嬬武器の兄弟に見せびらかすように向きを変える。ニコニコと人好きする可愛らしい顔は、妹への愛で満ち溢れていた。
「何回言うのよ」
今日何度目か分からぬ言葉に、グレイスは眉をひそめる。なにせ、朝寄宿舎に訪れ自らの手で着付けてから、人に会う度にこうなのだ。褒められるのは面映ゆく感じるも悪い気はしないが、こう何度も言われてはうんざりしてくるものである。
それでも嬉しそうに言葉を紡ぐレイシスの様子に、躑躅の少女はすっと目を細める。姉はこうやって似合う、可愛らしい、と言ってくれるが、妹はその言葉を信じ切ることができずにいた。小物まで選んでくれた彼女のセンスを疑っているわけではない。彼女の性格上、世辞なんかではないことも分かっている。それでも、本当に似合っているのか、こんな上等なものを自分なんかが着ていいのか、姉の期待通りになっているのか。そんな憂慮が、少女の心にのしかかるのだ。
レイシスが似合うと言ってくれたのなら、と素直に自信が持てればどれほど良かったのだろうか。小さな口がきゅっと横一文字に引き結ばれた。
「えぇ、似合っていますよ」
「うんうん。グレイスって本当に黒が似合うよなー」
妹の晴れ姿に目を輝かせる桃の言葉に、兄弟二人も賛辞の言葉を投げかける。途端、躑躅の頬にさっと朱が広がった。こうもストレートに褒められると、やはり照れが真っ先に来る。長い間一人で過ごしていて、褒められる機会などほぼ無かった彼女なら尚更だ。
次いで、安堵が胸に広がる。レイシスの見立ては、言葉は正しいものだったのだ、と二人が肯定してくれた。少しだけ、不安で陰った心に光が差した。
幾許かして、ありがと、と小さな声が返される。ふふ、と嬉しそうな笑声三つが蒼天に昇った。
「さ、混む前に行こーぜ」
そう言って、雷刀は遠くにある本殿を指差す。新たなる年の光に照らされた社、その入り口に置かれた賽銭箱の前には、何組もの人が並んでいた。昼も近くなってきたからか、人が増えてきたようにも見える。彼の言う通り、混む前に並んでしまうのが吉だろう。
「あっ、雷刀。待ちなさい」
少年は一人鳥居を潜り抜け、軽い足取りで指差した場所へと向かおうとする。その手を烈風刀が制止の言葉とともに引っ掴む。しかし、朱は先に並んどいた方がいいだろ、と言うばかりだ。
「だいじょぶだって」
「そう言っていつも一人はぐれるでしょう」
弟の言葉に、前だけ見つめていた兄は突如ぱっと振り返る。その唇はむぅと尖っていた。この歳にもなって迷子になることを心配されるのが不服なのだろう。しかし、烈風刀からすればその心配は当然のものだった。幼い頃から一人で突っ走り、そのまま迷子になるのが彼なのだ。今だって例外ではない。自由奔放な兄を引き留めるのは、弟にとって自然なことだった。
真紅の瞳がパチリと瞬く。掴まれていた手がスッと動き、そのまま自然な動きで振り解く。解かれ放り出された烈風刀の手に、雷刀の手のひらがひたりと当てられる。ニィといたずらげに笑った朱は、そのままぎゅっと握る。二人の指が固く絡まりあった。
「これならはぐれねーだろ」
「そう、ですけれど」
子どもじゃあるまいし、と出かけた言葉を碧は飲み込む。先に子ども扱いしたのは烈風刀の方だ。彼を咎めることは憚られた。それに、こうやって幼い頃のように手を繋げば、多少は兄の行動をコントロールできる。一応は合理的な判断だった。この歳の男兄弟で、わざわざ人混みで手を繋ぐのは恥ずかしいということを除けば。
「じゃ、オレたち先に並んで待ってるから」
弟が抗議の声をあげるより先に、雷刀はそう言ってひらひらと空いた手を振る。そのまま、軽やかな足取りで本殿へと駆けていった。目立つ朱と碧は、賑やかな人混みの中に混じり消えた。
「……ワタシたちも繋ぎましょうか?」
「いっ、いいわよ!」
ハイ、と差し出されたレイシスの手を、グレイスは身を反転させ背を見せることで拒否する。わざわざ腕を組んで手を塞ぐおまけ付きだ。
「嫌デスカ……?」
しょんぼりとした声が、少女の背中越しに聞こえてくる。きっとすぐ後ろには、しゅんとした表情でやり場のなくなった手を力なく下ろす姉の姿があるだろう。罪悪感が胸を刺す。うぐ、と喉が何ともいえない音を上げた。
「いやじゃない……けど……」
子どもじゃないんだから、と躑躅は唇を尖らせる。実年齢はどうであれ、二人とも高校生なのだ。はぐれないように手を繋いで歩くなど、さすがに恥ずかしい。そもそも、若干混んでいるとはいえ、相手を見失うほど敷地は広くなければ、人も多いわけではない。当たり前のように受け入れるあの兄弟がおかしいのだ。
「嫌じゃないならいいじゃないデスカ!」
「そういう問題じゃないわよ!」
えー、と不満げな声とともに、桃は頬を膨らます。彼女には、家族というものに憧れがある。そして、家族として一番身近なケースはあの兄弟だ。彼らと同じように、姉妹のように、大切な人と手を繋いで歩いてみたい。少女の中の欲求は強いものだった。
不満を表すかのように、胸の前でぎゅっと拳を握るレイシスの姿は可愛らしいものだ。あの兄弟ならば即座に手を差し出したことだろう。しかし、躑躅は目を眇めて反抗した。
「ちょっとだけですから……。ダメ、ですか……?」
ラズベリルがスピネルを真正面から見つめる。桃色の形の良い眉は、不安そうに八の字に垂れていた。
う、とグレイスの細い喉から気まずげな音があがる。彼女のこの顔に、声に弱いことは、少女自身嫌というほど分かっている。そして、姉と同じぐらい、彼女に対して甘いことも自覚していた。
「………………ちょっとだけよ。並ぶまで、本当にちょっとだけ」
ちょっとだけなんだから、と念押しし、躑躅は組んでいた腕をゆっくりと解く。少しの迷いで小さな手は揺れるも、少女は姉に向かって白いそれをそっと差し出した。
己の願いが叶ったという事実を認識し、薔薇の少女はぱぁと表情を明るくする。先程まで悲しみに陰っていた顔が、歓喜に満たされた。
「ハイ!」
元気な声をあげ、少女は差し出された手を己の両の手で優しく包み込む。それじゃ歩けないじゃない、と至極当然の指摘に、ハワ、と動揺の声を漏らす。常識よりも嬉しさが勝り、行動に表れてしまったのだ。えへへとはにかみ、レイシスは今度こそグレイスの右手に己の左手を重ね、優しく握る。一拍置いて、妹もその手を握り返す。姉妹の手は、解けないようにしっかりと繋がれた。
「行きマショウ!」
「……えぇ」
喜びを表すかのように繋いだ手を振り、桃は空いた手で本殿を指差す。せっかく雷刀たちが先に並んでくれているのだ、早く行くべきだろう。あまりに遅くなり、彼らが先に済ませてしまうことになるのも申し訳がない。
けれども、せっかく繋いだ手が早々に解けてしまうのも寂しいことだった。自然と、二人の足取りはゆっくりとしたものになる。レイシスに合わせているのだから仕方ない、と躑躅は己に言い聞かせる。妹の心情を知ってか知らずか、桃は繋いだ手を優しく振った。
桃と黒の美しい晴れ姿が、鳥居を潜り抜け、人混みへと溶けていった。
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#レイシス #グレイス #嬬武器雷刀 #嬬武器烈風刀