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No.105

無機質なコイビトとの付き合い方【ライ←レフ/R-18】

無機質なコイビトとの付き合い方【ライ←レフ/R-18】
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片思いをこじらせまくった弟君がとうとうバイブに手を出して一人で致す話。
すけべの練習のつもりだったけどあんまりえろくならなかった。反省。

 無意識に唾を飲み込む。目の前にあるのはただのありふれたダンボール箱だというのに、情けないほど圧倒されていた。
 否、圧倒されているのはその箱の中に鎮座する小箱に、だ。毒々しさを感じさせるほど派手な色で彩られたそれは、薄暗い部屋の中だというのに恐ろしいほどの存在感を放っている。森にぽつりと生えた毒キノコを思わせる風景だ。
 ごくん、と白い喉が動く。少しの深呼吸の後、少年は不気味なまでに鮮やかな小箱に手を伸ばす。手入れされた手は震えていた。未知のものに触れる緊張と怯え、そして確かな期待が乗せられていた。
 いっそ恭しさを思わせる手付きで、両の手で持ち小箱を取り出す。ベッドの上、正座した膝の上に載せ、まじまじとパッケージを見る。ビビッドな色の中に踊る文字はポップな書体だが、書いてあることは可愛らしさとは真逆のものだ。
 初心者向け。感度開発。絶頂。パワフル回転。多種の振動。ナカイキ必至。
 日常ではまず見ないような文字列ばかりだ。そんなものが書かれている――そんなことを売りにしている代物を今手にしている、という非現実な事実が今更ながら押し寄せてくる。紙とプラスチックで構成された箱に少し指が食い込んだ。
 とうとうやってしまった、という後悔が胸をよぎる。同時に、ようやく手に入った、という満足感がふわりと沸き起こる。様々な感情を抱えた心の臓は昂ぶり、大きく鼓動をしていた。
 少年――嬬武器烈風刀は恋をしている。ただの恋とは言い難い。何せ、その対象は実の兄である嬬武器雷刀なのだから。
 青春真っ只中の高校生だ、性欲は人並みにある。欲望を一人処理をするのも多々あることだ。ただ、愛しい彼を想い処理する内に欲求が湧いてきたのだ――抱かれたい、と。
 烈風刀は男だ。生憎子宮や膣といった雄を受け入れる器官は持ち合わせていない。しかし、世には男性同士で恋愛関係を築いている者、肉体関係を持っている者は多くいる。手段があるのは確かだった。
 電子の海を検索してみれば、男同士でのまぐわり方など十秒足らずで手に入れられた。受け入れる部位、その準備、本番の手はず。全てが液晶モニタに並べ立てられ、映し出された文字列が聡明な頭へとインプットされていく。見かけによらず好奇心旺盛な己が該当部位へと手を出すには少しの時間を要したが、ゆっくりと、しかし確かに身体は開発されていった。今では指の二本は楽に受け入れられてしまうほど、この身体は作り変わってしまった。
 こんなに入念に『準備』をするほど『抱かれたい』という強い欲望はありながらも、少年はこの恋が実ることなど無いと確信している。何しろ、兄にはレイシスというとても可愛らしい想い人がいるのだ。彼女を最優先に思考し行動する彼が、その感情を己に向けてくれるだなんて露ほども思わない。あり得ないのだ。あの一途な彼が、彼女以外を視界に入れることなど。
 分かっていながらも、不定期に昂る身体は言うことを聞いてくれなかった。兄を想い、男が受け入れる部位を指で穿つ。雌のそれへと作り変えられつつある場所は、次第に泣き言を言い始めた。こんなものでは足りない、もっと大きなものが欲しい、雄を受け入れたい、と。
 だから、少年は一つの選択をした。所謂バイブ――男根を模した張り型を買おう、と。
 もちろん、葛藤はした。未成年である自分がアダルトグッズなど手にしていいのか。抱かれたいという願望はあるとはいえここまでやる必要はないのではないか。そもそも買ったところでどこに隠すのだ。問題点は山のようにある。全ての解決方法など、学年主席である彼の脳をもってしても弾き出せなかった。
 しかし、世界中に繋がる電子の海では、誰相手だろうが指先一本で何もかもが手に入ってしまう。その手軽さと、無意識に追い詰められた肉欲と、多大な好奇心が後押しし、気付けば決済を済ませていたのだった。
 その結果が現在である。
 息を呑む。もう何度目か分からない。それほどに緊張し、目の前のバイブレーターに気圧されていた。当たり前だ、こんなものを手にするのは人生初めてなのだ。これが己の体内に入る。それを目的とし買ったというのに、全く想像ができない。この指以上の質量を受け入れられることなど、本当にできるのだろうか。今更になって不安まで湧いてきた。
 とにかく、このまま持っているだけでは何も始まらない。すっと息を吸い、ふっと吐く。よし、と大きく頷き、烈風刀はパッケージ上面、取り出し口である部分へと手をかけた。カコ、と指が入り込んだ部分が歪む。
 紙箱の中から商品本体を守る大きなプラスチックケースをずるりと引き抜く。現れたのは、販売ページで見たものそのままだった。つまり、男根だ。
 パッケージはビビッドな色で構成されていたが、本体は薄桃色のパステルカラーで彩られている。しかし、その造形は確かにペニスそのものだった。楔のような頭、大きく張り出したエラ、少し反り返った幹、そこにうねる血管の数々。初心者向けと謳われるだけあって少し小さいが、形は精巧だ。ファンシーな色合いと恐ろしいほどのリアリティが混ざりあい、いっそ禍々しさすら感じさせる。思わず、ぅ、と小さな呻き声をあげた。
 説明書を広げ、指示の通り付属の電池を入れる。使用前に洗浄すること、とあったが、これを水場に持っていくなど不可能だ。もう寝静まっている時間帯とはいえ、万が一同居している兄に見つかっては気まずいどころではない。仕方がないので、除菌効果のあるウェットティッシュで血管の溝まで丁寧に拭き上げた。
 準備が終わったそれを握り、今一度見つめる。色合いは全く違うとはいえ、何度見てもペニスである。つまり、男の股ぐらに生えているもの――兄も有する器官である。ゆるく反り返ったフォルムは、興奮し血が集まりそそり立つそれと同じだ。偽物とはいえ、あまりに緻密なそれは兄のそれがいきり立つ姿を連想させるのは容易なものだった。
 とくりとくりと心臓が脈打つ。偽りの雄を前に、胸が高鳴る。緊張や不安、恐怖は確かにある。けれども、それ以上に期待が上回っていた。これが己の体内に這入る。指では届かない――男根でなければ穿てない場所を刺激する。想像するだけで唾液が湧いてくる。じゅわりと口内に広がるそれを、急いで飲み込んだ。
 さて、これを使うには、受け入れるには準備が必要だ。デリケートな粘膜と触れ合うものだ、身体に合うか合わないかは即座に判断しなければならない。試すなら早く済ませてしまった方がいいに決まっている。
 立ち上がり、ベッドにバスタオルを二枚重ねて敷く。クローゼットに箱を押しやり、代わりにこぶりなボトルを取り出す。男同士での行為を知った頃から愛用している潤滑油だ。受け入れることを想定していない内臓にモノを侵入させるには必要不可欠な代物だ。
 少しの逡巡の末、身に纏っていた衣服を全て取り払う。上は着ていてもいいかもしれないが、万一汚れては面倒だ。片付けは簡潔に、最小限で済ませたい。
 浅ましいことに、下着の中に戒められた己自身は既に兆していた。偽りの雄根を目の前にし興奮するなど、なんて淫らなのだろう。けれど、兄を想う身体はすっかりオスに屈服する悦びを夢想していた。
 肌寒さに震えながらベッドに寝転がる。臀部をバスタオルの上に乗せ、横を向く。もう馴染みきってしまった体位だ。雄の部位だけでなく、雌の代わりになる部位を悦ばせるための姿勢である。最初は羞恥と違和感を覚えていたというのに、今ではもう疑問に思うことなどなくなってしまった。
 枕元に転がしたローションを手に取る。透明なそれを手に広げる。ぬるりとした感覚とひんやりした温度が触覚を刺激した。
 しばらく放置し、冷たいそれを体温で温める。冷たいままでも問題はさほどないが、温めた方がきもちがいいことは学習済みだ。
 生温くなったことを確認し、下半身へと手を伸ばす。まずは雄の部分だ。いきなり後ろを暴くより、前を昂らせてからの方がきもちがいい。これもとっくに学習済みだ。聡い彼はすぐさま知識を吸収し従順にこなすのだ。
 ぬるりとしたものが幹に触れる。背を走る甘い感覚に小さく息を呑む。そのまま、手をゆっくりと上下に動かす。緩慢で単調な動きだが、念願のバイブを手にし昂ぶった身体は普段以上に快楽を拾う。ぬるつく手が幹をなぞる度、脊髄を電気が走り抜けていく。脳の奥の方がピリピリと痺れる。自慰特有の感覚だ。今日は、それが何倍にも増幅されている。
 ぁ、ぅ、とか細い声が漏れ出る。普段なら息を詰めるばかりで声など出さないというのに、普段以上に興奮した身体は声帯を震わせる。急いで空いている方の手で口を塞ぐ。壁一枚隔てた向こうでは兄が寝ているのだ。もし聞かれては大問題だ。
 口を押さえ声を殺すものの、己自身を追い詰める手からはぐちぐちといやらしい音が鳴る。少量の液体がたてる音だ、小さなもののはずである。だというのに、いやに大きく耳に響いた。聞こえてしまわないだろうか。いや、これぐらいはいつものことだ。大丈夫。大丈夫。言い聞かせ、手の動きを早めていく。音が鳴る頻度が増した。
 スナップをきかせ、竿全体を擦り上げる。輪を作り、張り出た部分を刺激する。蜜をこぼす先端を親指でぐりぐりと撫でる。手を動かす度、敏感なる器官は多大な快楽信号を脳味噌に叩きつける。受容器官がバチバチと音をたてる。ふ、と押さえつけた口元から熱い吐息が漏れ出た。
 一人寂しい己を慰めるつもりが、白い手は追い詰めるように動きを早める。血管を潰すように幹を強く握り擦る。先走りをこぼす鈴口を咎めるように抉る。ぐちゅぐちゅと卑猥な音が静かな部屋に響いた。
 視界が白む。目の前で細かな光がスパークする。絶頂が近いのだ。悟った烈風刀はかすかに残っていた理性を総動員し、急いで己自身から手を離した。部屋にこだましていたいやらしい水音がすっと失せる。快楽に浸りきった脳味噌がどうして、と涙声をあげた。答えは簡潔だ。前だけで出さずに我慢した方がきもちがいい。
 胎児のようにぐっと身体を丸める。べとべとの手にローションを継ぎ足し、再び下半身へと伸ばす。先ほどまで弄んでいた雄の部分を通り過ぎ、奥に秘められた蕾へと向かう。生温い粘液が触れた瞬間、蕾はきゅんと窄まった。
 怯え身を竦めたそこをあやすように、縁をゆっくりとなぞっていく。時折、ノックするように指先でつつく。ぬるぬると粘液を塗り込められたそこは、次第にはくり、はくり、と口を開け始めた。期待のこもった仕草だ。ここにおいでください、と誘うような動きだった。
 すっかり従順になったそこに、指を一本宛がう。くぱと物欲しげに広がった瞬間を見計らい、そのまま中に潜り込んだ。白い指が、艷やかな赤い粘膜に包まれる。グロテスクだが、淫靡な光景だった。
 侵入者を察知した内部が、ぎゅうと縮こまる。傷つけないようにゆっくりと動かし、走る緊張をほぐしていく。きゅんきゅんと指を強く締め付ける内部には、いつの間にか第二関節まで這入り込んでいた。鈎のように第一関節を折り曲げ、内壁を細かく擦る。すっかり開発されたうちがわは、それだけで快楽を拾い上げた。雄を弄った時とはまた違う電気信号が背骨を走っていく。ぐ、と柔らかな壁を押す。鋭い感覚が脳髄を焼いた。
 は、ふ、と押さえた口元から抑えきれない吐息が漏れ出る。快楽にとろけ細まった目は、悦びを表すように涙をたたえていた。二人目の侵入者が訪れた途端、ぁう、とくぐもった声が手の隙間からこぼれ落ちる。バタ足をするようにばらばらと指を動かすと、うぅ、と呻きが漏れる。昂ぶりきった身体は最早声帯を制御しきれずにいた。それでも必死に声を殺そうと口を強く押さえ込む姿は健気で愚かであった。
 ちゅぷん、と卑猥な音をたてて指が内部から去っていく。身体の内はすっかりとほぐれきっていた。普段ならもっと奥まで責め立て雄の部位と共にそのまま果てるのだが、今日のこれはまだ前菜だ。メインディッシュまで腹を空かせておかねばならない。
 枕元、ローションの隣に転がしていたバイブを手に取る。何度目かの唾を呑み込む。エメラルドグリーンの瞳は、パステルピンクの機械をじぃと見つめていた。熱烈な視線だった。まるで、想い人を陰から伺う恋い焦がれた乙女のようだ。
 ローションを手の平に継ぎ足す。冷えたそれを再び手で温め、意を決して張り型に塗り込めた。表面に浮かぶ血管が手を刺激する。ただそれだけで頭にピリリと電流が走った。雄を慰め、雌としての準備を済ませた身体は、そんな些細な刺激すら快楽だと認識した。
 ベッドボードに取り付けられた照明が、両手で持った機械を照らし出す。ローションをたっぷりまとったそれは、オレンジ色の光を受けぬらぬらと輝いていた。グロテスクな男根が光る姿は、まるで怪談に出てくる妖怪だ。それでも、少年の胸はドキドキと高鳴った。腹の奥がきゅうと鳴き声をあげる。早くそれをくれ、奥底まで穿ってくれ、と。
 ゆっくりと、おそるおそるぬめるそれを股ぐらへと誘う。鼓動が耳のすぐ側で聞こえる。唾液が湧き出る。はぁ、と熱のこもった吐息がこぼれる。薄桃色を追う翡翠は、期待と涙で濡れていた。
 長い時間をかけ、張り型がようやく窄まりに到達する。たっぷりと濡れた蕾と剣が触れ合った瞬間、ぷちゅ、と音があがった。あまりにもいやらしい音色に、思わず身体が跳ねる。バクバクと心臓が早鐘を打つ。小さな音だ、この部屋に落ちてすぐに消えてしまった。だのに、隣の部屋に聞こえていないかと不安で仕方がなかった。だって、こんな淫らな音、どうやったって誤魔化せない。
 すー、はー、と深呼吸。大丈夫だ、と自らに言い聞かせる。大丈夫だ、兄はもう寝ている。いくら壁は厚くないとはいえ、こんな小さな音聞こえるはずがない。大丈夫。だから、早く。早くこれを。ナカに。
 ふぅ、と息を吐き出し、身体から力を抜く。反して、腕には力を込める。十二分に解され綻んだ秘所に、無機質な生殖器がゆっくりと這入っていく。
「――ぁ、は、……ぁ、あッ、んぁっ」
 尖った部分が狭い内部を切り開いていく。張り出したエラが内壁をゴリゴリと擦っていく。初めての感覚だった。こんなもの、指なんて細くてまっすぐなものでは絶対に味わえない。指なんかよりずっと太い、逞しいモノが隘路を無理矢理割り開いていく。想定外の異物を受け入れる苦しさは確かに感じる。しかし、それ以上の性感が脳味噌に一気に叩き込まれた。
 塞ぐことができない口から、甘い嬌声がとろとろと漏れ出る。受容しきれない快楽をどうにか逃がそうと身体が動いた結果だ。そんなもの、焼け石に水でしかなかった。柔らかなうちがわを大きな存在で抉られる初めての快楽からは逃げることなどできなかった。それでもどうにか抵抗しようと、烈風刀は唇を噛む。声は抑えられたものの、熱を孕んだ吐息はどうしようもない。ふ、ふ、と苦しげな、それでいて甘さを感じさせる呼気が唇の間から漏れた。
 ゆっくり、ゆっくりと偽物の雄が少年の内部に飲み込まれていく。幾許かして、返しになっている部分が尻たぶに当たる。つまり、全てを飲み込んだという証左だ。
 今一度深呼吸をする。心臓は相変わらず壊れてしまいそうなほど早鐘を打っている。多大なる刺激を受けたせいか、意識はどこか靄がかっている。それでも、肚に受け入れた張り型の形だけははっきりと分かった。
 は、は、と浅い息が吐き出される。頭がグラグラと揺れる。興奮しすぎたことによって酸素が足りていないのだろう。それでも、淫欲に溺れつつある思考は呼吸することより先に動き出し始めた。
 全て這入ったはいい。凝らされた造形による凹凸が内部を擦るのはとてもきもちがよかった。けれども、これはただの張り型ではない。バイブレーターだ。もちろん、バイブレーション機能が備わっている。事前に電池を装填した今、スイッチひとつで動かすことができる状態だ。
 挿入れただけでこの有様だというのに、動かしたらどうなってしまうのだろう?
 不安と恐怖が――そしてそれを凌駕する好奇心と欲望が胸の内に湧いて出る。穿たれたい。暴かれたい。乱されたい。卑猥な欲望が脳味噌を埋め尽くしていく。丁寧に下準備をし昂ぶりに昂ぶった身体には最早理性など残っていない。あるのは本能――快楽を求めるこころだけだ。
 鼓動がうるさい。呼吸が苦しい。手が震える。強張った身体に反して、その口元は緩んでいた。これから己の身を襲うであろう快楽への渇望が表れたものだ。
 バイブレーターの端、備わったスイッチへと手を伸ばす。説明書によれば、電源スイッチを入れた後、揉もう一つのボタンを押す度に動きが変わるそうだ。一つ目はどう動くのだろうか。好奇心が背中をグイグイと押す。猫をも殺すそれにされるがままに、烈風刀は根本にあるスイッチを押した。
 ヴィイン、と低いモーター音が部屋に落ちる。同時に、パステルピンクの機械がぐねぐねと身を捩り始めた。
「ッ、ひ、あっ、あッ!」
 心の準備は済ませたつもりだった。だが、そんなものこいつの前では通用しなかった。だって、こんなにも激しく動くなんて、こんなにも奥を抉られるなんて、こんなにも内部を蹂躙されるだなんて思ってもみなかった。荒波に揉まれているかのような気分だ。違うのは、もたらされるのは苦しみではなく悦びだということだ。
 どうせ安物だ、と甘く見ていたのが間違いだった。良い意味でも悪い意味でも想像以上の代物だ。どちらも気持ちが良すぎる、という点で。
 指しか知らないおぼこがこんなもので肚を嬲られて耐えられるわけがない。必死に呼吸をし開いていた口から、甘ったるい悲鳴が飛び出る。潤んでいた瞳から、涙がボロボロとこぼれ落ちる。本能に支配された身体はろくに抵抗などできない。全てされるがままだ。
「ぅあっ、やっ、あ、ア……ひぃっ、ァあッ」
 強力なモーターが唸る中、少年は快楽の津波に飲み込まれていた。先端が指なんかでは届かない奥を抉る。張り出した部分が内壁を掻き回す。うねる幹が浅い場所にあるイイところを押し潰す。肚の内の弱い部分全てを嬲られ、まともでいられるはずがなかった。ビクビクと身体が痙攣する。背が丸まる。防衛本能だ。突如襲ってきた快楽から己を守るための行動だ――そんなもの、欠片も意味が無いのだが。
 いけない。これでは声が聞こえてしまう。こんな淫らな声が兄の耳に入ってしまう。欠片だけ残った理性が必死に警鐘を鳴らす。ひ、と恐怖に引きつった音が喉から漏れる。それもすぐに喘ぎに掻き消された。
 バイブレーターを握っていた手を離し、頭の下に伸ばす。汚れることも気にかけず、枕を取って顔に押し当てた。呼吸が苦しい。それでも、今声を殺すにはこれぐらいしか手段が無い。先ほどのように唇を噛む程度で耐えられるようなものではないのだ。
 男根を模した器具が、規則的な音をたてて粘膜を嬲っていく。返しが当たるほど深く挿入れたというのに、蠢く無機物はまだ奥へと潜ろうとしていた。返しになった部分が肉付きの良くない尻を擦る。シリコンが肌に擦れ不快なはずなのに、快楽に破壊された脳味噌はそれすらもきもちがいいと電気信号を受け取った。
 閉じることができない口から嬌声と唾液がこぼれる。全て枕の綿に吸収されていった。常ならば唾液まみれのそれに不快感と忌避感を覚えるはずだが、今はそんな余裕などない。脳のリソースはほとんど快楽を受容することに割かれていた。
 偽物のペニスに蹂躙される。それがこんなにもきもちがいいだなんて想像すらできなかった。悦びの涙が頬を伝う。いくつもの透明な筋が白い肌に描かれていた。
 ペニス。
 そうだ、これはペニスなのだ。シリコン製の偽物であっても、形は雄だけが有しているそれだ――つまり、兄のそれと言っても過言ではないはずだ。
「ッ、っ……ぅ、ぁっ!」
 あの鮮烈な朱が、兄の顔が脳裏に浮かぶ。瞬間、無機物の雄を咥え込んだ蕾がきゅんと強く窄まった。枕に押し付けた口から、一際高い声があがる。悦楽に染まった響きをしていた。
 兄のそこにあるものを受け入れている。兄と同じものを受け入れている。兄を受け入れている。兄に抱かれている。
 快感で濁る意識が、現実を歪めていく。普段ならば馬鹿馬鹿しい妄想だ、とすぐさま切り捨てるだろう。けれども、快感の海に溺れた脳味噌は、今己を犯しているものが兄のそれであると間違った認識をした。
 無機物が奏でるモーター音など耳に入らない。鼓膜を震わすのは、結合部から響くぐちゅぐちゅという水音と、己が漏らすはしたない喘ぎばかりだ。それがまた現実を捻じ曲げる。犯されているのだ、と。
「ッ、ァッ、らいと……、らいとッ」
 顔と枕の隙間から、兄を呼ぶ声が漏れる。押し殺されくぐもったそれは、隣の部屋で眠る彼に聞こえることはないだろう。烈風刀も本人に届けるために口にしているわけではない。ただ、閉じた瞼の裏側、己を犯す兄の姿を夢想し、少年は愛しい朱の名を何度も繰り返した。
 苦しい。枕に顔を押し付けた体勢では、興奮状態にある己が必要とする量の酸素を十分に摂取することができなかった。ただでさえグラついている意識が揺れる。このままでは生命維持に関わるだろう。生存本能は、声を殺すために必要不可欠な枕を手放すことを選択した。
「ひ、あ……、はッ、ア、ぅあぁ……」
 途端、塞がれていた口から悲鳴のような喘ぎ声が飛び出た。音量調整機能がバカになった喉から漏れるのは、部屋全体に響き渡るようなものだった。
 まずい。聞こえる。聞こえてしまう。こんな浅ましい声を兄に聞かれてしまう。ほんの少しだけ残っていた頭のまともな部分が声高に喚起する。少年は両の手で己の口を急いで塞いだ。ローションでベトベトになっているが、そんなの構っていられない。この声が兄に伝わってしまわないようにすることが最優先だ。
 鼻が開放されたため、呼吸は幾分かマシになった。けれども、意識は未だグラグラと揺れる。酸素不足によるものではない、下半身からもたらされる快楽によってだ。低い唸り声をあげるバイブレーターが、敏感な粘膜を抉り刺激していく。その度に、神経は快楽という名の鋭い電気信号を送るのだ。脳の許容量を超え叩き込まれるそれは最早暴力であった。溢れ出んばかりの快感が脳を、意識を殴るのだ。まともに意識を保つことなどできるはずがなかった。
 目の前がチカチカと瞬く。脳内が白く塗り潰されていく。絶頂の予兆だ。何度もお預けを食らった身体が、ようやく高みに至ろうとしている。待望の感覚に、薄い肚が悦びにひくつく。同時に、大きな恐怖が少年の胸を襲った。
 後ろで己を慰めたことは数え切れないほどある。けれども、達する時はいつだって雄の部位を刺激しているのだ。いくら開発が進んでいるとはいえ、内部の刺激だけで達したことなど一度も無い。今、その瞬間が訪れようとしているのだ。
 雄と一緒に弄ってようやく至れる場所に、雌の代替品だけで上り詰めようとしている。未知の体験だ。どんなことが起こるか、想像すらすることができない。知らないものに恐怖するのは当たり前のことだ。
 しかし、今の彼にその絶頂に至る道を引き返す術など持ち合わせていない。うちがわを刺激し続けるバイブレーターは、電源スイッチを押す、あるいは無理矢理抜き出さないかぎり蹂躙する手を止めないだろう。どちらを行うにも、暴れるそれに手を伸ばす必要がある。だが、今の烈風刀は声を出すまいと必死に手で口を塞いでいる。張り型に触れる余裕など一ミリも持ち合わせていない。止めることなど不可能なのだ。少年はただ、無機質な雄がもたらす悦楽を受け止める――こんな強大なものを受け止めることなど到底不可能だが――しか選択肢が無かった。
 視界が白む。脳味噌がショートする。腹の奥で燃え上がり続けた焔が天を衝く。バチン、と何かが破裂する音が聞こえた気がした。
「――――ッ、ふ、ンぅ!!」
 だらだらと涎をこぼしていた雄から、白い液が吐き出される。必死に塞いだ口、手の隙間から甘ったるい悲鳴があがる。淫らな肚が法悦を叫んだ。
 ビクンビクン、と陸に打ち上げられた魚のように身体が痙攣する。頭が動かない。身体が言うことを聞かない。初めて内部の刺激のみで気をやったのだ、今まで経験したことの無い膨大な快楽を叩き込まれた脳味噌がろくに働くはずなどない。仕方のないことだった。肩で息をするのがやっとである。
「――ぃっ、ア、あっ!?」
 そんな烈風刀のことなど関係ないとばかりに、バイブレーターは入力された回路の通り動く。高みに至り、未だ蠢くそれを強く抱き締める内部を変わらず嬲り虐げていく。絶頂を味わったばかりの身体には、拷問のような刺激だった。
「やっ……、も、むり……! や、だぁ……!」
 駄目だ。これ以上は無理だ。これ以上続けられたら死んでしまう。生命の危機すら感じる快楽に、少年は引き締まった身体をよじる。姿勢が変わった拍子に、偽りの生殖器が突く場所が変わる。新たなる刺激に、少年はひ、と息を呑んだ。
 絶頂を味わったばかりで鈍い身体を無理矢理動かし、烈風刀は後孔へと手を伸ばす。秘所から突き出た部分を握り、一気に機械を引き抜いた。大きく張った部分が、ゴリュゴリュと内部を擦り上げていく。その強い性感に、少年は再び法悦の悲鳴をあげた。
 にゅぽん、と淫らな音をたて、バイブレーターが体内から去る。ようやく身体中を荒らし乱した悦楽が消えた。
 モーター音と喘鳴が部屋に落ちては積もってゆく。あれだけ甘さを孕んでいた呼吸音は、非常にか細く浅い。見ている者を不安にさせるほどのものだ。人生で最大の快楽を叩きつけられたのだ、これほどまで消耗しきってしまうのも納得である。現状では、指先一本動かすことすら難しい。
 時計の針がしばらく歩みを進めた頃、烈風刀はようやく大きく息を吐いた。そのままゆっくり吸って吐いてを繰り返す。はぁ、と大きな溜め息一つ。その拍子に涙が頬を伝った。透明な雫が、シミがいくつもできたシーツに吸い込まれる。
 気だるい身体に鞭を打ち、どうにか身を起こす。重い腕を持ち上げ、ヴゥンと駆動音をあげ蠢き続けるバイブレーターに伸ばす。掴んだそれを緩慢な動きで手繰り寄せ、端に備え付けられた電源スイッチを押す。途端、音と動きが止んだ。征服者が今回の役目を終えた証拠である。
 はぁ、と溜め息もう一つ。少年は浅海色の目を伏せる。潤んだ瞳から、また涙が一筋こぼれ落ちた。
 大変だった。それはもう大変だった。こんな地獄と天国を行き来するような体験、二度とごめんだ。
 こんなことになるとは思ってもみなかった。これはもう封印するしかなかろう。不透明な袋にでも入れてクローゼットの奥底にでもしまっておけばいつか存在も忘れるはずだ。
 しかし、と烈風刀は手にしたバイブレーターを今一度まじまじと見つめる。パステルピンクの本体は、潤滑油と腸液でベトベトになり、不気味な様相をしていた。
 こんなものを兄自身だなんて妄想し、それをオカズにするなど頭が悪いにも程というものがある。津波のような快楽に押し流されていたとはいえ、あまりにも馬鹿らしい思考だ。我ながらほとほと呆れる。思わず嘆息を漏らした。
 視界を下に向ける。下半身に敷いていたバスタオルはもう散々な有様だった。潤滑油を用いる自慰は何度も行っているが、これほどまで広範囲が深く濡れているのは初めてだ。念の為二枚敷いておいてよかった、と内心胸を撫で下ろす。シーツはまだしも、マットレスに被害が及んではたまったものではない。
 今日何度目か分からぬ溜め息。ぬらぬらと輝く張り型をバスタオルの上に放り出し、烈風刀はベッドボードに置いたティッシュ箱に手を伸ばす。何枚か抜き取り、後孔に宛がう。空いた手を秘部に潜り込ませ、中に残ったローションを掻き出す。生温かい液が体内から吐き出される感覚は、いつまで経っても慣れない。しかし、後処理を怠って苦しむのは自分だ。やるしかなかった。
 ローションでぐっしょりと湿ったティッシュをゴミ箱に放り込み、烈風刀は今一度ベッドに倒れ込む。枕を手繰り寄せようとしたところで止まる。涙と涎でぐちゃぐちゃになった顔をあれだけ押し付けたのだ、こちらも酷い有様になっているだろう。当分は使い物にならないな、と柔らかなそれから手を引いた。
 身体がだるい。今までにない快楽を叩き込まれた身体はすっかりと疲弊していた。時間もあってか睡魔が忍び寄ってくるが、このまま寝るわけにはいかない。汚れた身を清め、ぐちゃぐちゃになった洗濯物を片付け、件の代物を封印せねばならないのだ。
 時計に目をやる。丸い文字盤は、日付が変わってから二時間が経過したことを示していた。コトを始めたのは一時を過ぎた頃だったろうか。随分と長い時間法悦に身を浸していたようだ。時間を忘れるほど乱れた己を恥じる。初体験ばかりの今日は仕方がないかもしれないが、普段ならばあってはいけないことだ。もっと己をコントロールせねばならない。
 とにかく、早く処理せねばならない。この時間なら兄はすっかり夢の中だろう。シャワーを浴びても物音で起きることはないはずだ。
 重い腰を上げ、ベッドから立ち上がる。椅子の上に畳んでおいた上着を被る。本当ならば下も履くべきだが、面倒だった。こんなベトベトの状況で履いても、汚れるだけだ。洗い物が増えてしまうのも避けたい。広げていたバスタオルを手早く畳む。少しの逡巡の末、バイブレーターも手に取る。粘膜に直接触れた代物だ、さすがに洗うべきだろう。パッケージには防水仕様と書いてあったので、水洗いをしても大丈夫なはずだ。
 手にしたそれに視線が吸い込まれる。薄桃色のそれはベトベトで、目にして不快感を覚えるようなものだ。しかし、浅葱の瞳はぽぅと呆けた様子で不気味なそれを見つめていた――まるで、恋する少女のように。
 はっと我に返る。何をしているのだ、自分は。何故封じるべきものをこんなにも熱烈に見つめているのだ。訳の分からぬ己の行動に動揺しつつ、烈風刀はローションと体液で濡れたそれを拭い隠すようにバスタオルの間に突っ込む。これなら床を汚すこともないだろう。ベトベトになった枕カバーも取り外し、タオルと重ねた。
 腰が重い。腹の奥が重い。しかし、頭は幾分かスッキリとしていた。あの恐ろしいまでの快楽から解き放たれたからだろう。脳髄を焼く鋭く甘い感覚が想起され、ふるりと震える。何によるものかは明らかだった。
 とにかく、シャワーを浴びよう。冷水でも浴びればこのピンクに染まった頭も元に戻るはずだ。バイブレーターも、早く洗わなければ雑菌が繁殖してしまう。もう二度と使うことはないとはいえ、清潔な状態を保っておくべきである。
 二枚のバスタオルと枕カバー、その奥に忍ばせたバイブレーターを小脇に抱え、烈風刀は扉へ向かう。音が鳴らぬようノブを回し、少しだけ顔を覗かせ廊下を確認する。廊下とそこに続く部屋部屋は暗闇に包まれていた。兄はもう寝ているという証左である。ほっと胸を撫で下ろし、少年は音もなく廊下に出る。目指すは風呂場だ。
 音をたてることなく、扉が閉まる。淫靡な音で満ちていた部屋は、すっかりと静まり返っていた。

畳む

#ライレフ #腐向け #R18

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