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No.106
書き出しと終わりまとめ8【SDVX】
書き出しと終わりまとめ8【SDVX】
あなたに書いて欲しい物語
でだらだら書いていたものまとめその8。ボ6個。
毎度の如く診断する時の名前がちょくちょく違うのは気にしない。
成分表示:はるグレ1/嬬武器兄弟1/レイシス1/プロ氷1/ライレフ2
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一年越しの約束投げつけ/はるグレ
葵壱さんには「消えたがる君を引き止めたかった」で始まり、「そんな怖い顔しないでよ」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば8ツイート(1120字程度)でお願いします。
消えたがる君を引き止めた。
男女の差、それも闘いから身を引いて久しい者と長期間の戦闘経験を積んだ者では、もちろん後者が勝つ。反射的に握った細腕は、限界まで引き伸びたところで止まった。否、止まる外無かった。
「な、によ」
「これ、チョコレートですよね……?」
腕を握っていない方の手、そこにある小さな箱を見る。リボンでラッピングされた薄めの箱からは、ほのかに甘い香りが漂っていた。
始果が口にした語に、グレイスの身体がギクリと強ばる。再び地を蹴り駆け出そうとするが、未だ己を掴む少年によって阻まれた。
「……だったら何よ」
告げる声は細く硬い。羞恥、はたまた怒りを孕んでいるのか、可愛らしい声は震えていた。
必死に顔を背けていた彼女が振り返る。白いかんばせは朱に染まり、まあるい瞳の端にはわずかに涙が溜まっていた。
「あんたが『くれ』って言ったから作ってきたんじゃない! 悪い!?」
廊下全体に響かんばかりに少女は叫ぶ。怒りが見て取れた。それも全て照れ隠しなのは、その顔を見れば明らかだ。
グレイスの言葉に、少年はふと口元を緩める。
チョコレートが欲しい、とねだったのは昨年のことだ。それを忘れずにいてくれた。しかも、律儀に守ってくれた。それだけで、胸の内に温かなものが広がっていく。心が何かでぎゅうぎゅうに満たされる。彼女といると、いつもこうだ。不思議と、苦しさはなかった。
どこか悔しげに歯を食いしばりこちらを睨めつけるグレイスに、始果は眉端を微かに下げる。細められたイエローが、マゼンタを正面から見据えた。
「そんな怖い顔しないでください……。ありがとうございます」
手を取り闇を/嬬武器兄弟
AOINOさんには「暗闇なんて怖くなかった」で始まり、「謎は謎のままがいい」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば12ツイート(1680字)以上でお願いします。
「く、くくっ、暗闇なんて怖くねーし」
薄暗闇に声が響く。引きつった口から発されたそれは、哀れなほど震えていた。強がりであることが否応なしに分かる。
「だっ、たら、手を離したらどうなのですか」
裏返った声に、硬い声が返される。平静を装っているが、彼らしくもなくところどころ詰まる様やかすかに震える響きからそれもハリボテであるのは明らかだ。
ボルテ学園にて年に一回行われる学園祭。その出し物の一つである『お化け屋敷』に嬬武器の双子は訪れていた。特別教室二つを繋げただけで行われているはずなのに、順路は妙に長く感じる。無意識に普段の歩調の半分以下で進んでいるのだから先に当たり前だ。序盤は先に入った桃と躑躅の姉妹の声が薄っすらと聞こえてきたが、今は音はない。静寂と闇が兄弟二人を包んでいた。
「れ、烈風刀が掴んでんじゃん!?」
「ぼっ、僕は何もしていませんよ」
隣り合わせに歩く二人は、いつの間にか手を握っていた。どちらとも力が込められており、肌の一部が白くなっている。容易に剥がせそうにないだろう。言葉に反して振り切る様子は互いに無いのだけど。
「ほ、ら。進むぞ。行くぞ」
「え、えぇ。あまり遅くては、後続の人に迷惑ですからね」
短い応酬の後、双子は歩みを進める。会話というよりも、己に言い聞かせるようなものだった。
ザリ、と足音がたつ。ビクリと二つの肩が同時に跳ねる。足元から、おどろおどろしい音楽が這い寄る。ありきたりでチープなものだが、雰囲気が完成されたこの薄暗い室内では、何よりも自然な音に聞こえた。
ワッ、と短い声が二人の横から飛んでくる。同時に、長い黒髪を前に垂らし白装束に身を包んだ女性が碧と朱の視界に飛び込んできた。
「うわああああああああ!?」
「ヒッ――!」
耳をつんざかんばかりの叫び声を上げる雷刀。短く細い悲鳴と共に息を止める烈風刀。二者二様の反応が薄闇を裂く。あまりの驚愕に、繋いだ手に更に力が込められる。爪が刺さらんばかりの強さだ。それを咎めることは互いに無い。そんな余裕など無いのだ。
「れっ、れふと!」
「らいと!」
互いに名を呼び安否を確認し、二人は同じタイミングで順路を駆けていく。走らないで、と言う女子生徒の声は双子の耳には届かなかった。
区切られた道を二人で走る。順路を一直線に走っていく二人の様子に手出しをできる者はおらず、その背を見送るだけだ。駆けて逃げていく者の想定はしていたが、ここまでの速度となると止めようがない。お化け役の生徒はどうしよう、と近場の者に目配せすることしかできなかった。
薄くかかった薄暗い音楽を背に、双子は駆け抜けていく。いくつめかの角に貼られた『出口』のポスターを目にし、二人の顔からようやく強張りが抜けた。
「出口!」
「はい!」
暗闇の終わりめがけて双子は足を動かす。最後、一条の光差す暗幕が二人の前に現れる。闇の終焉を示すそれ目掛けて、二人で足を踏み出した。
「――あっ!?」
あと少しで出口だというところで、烈風刀が声をあげる。突然足が止まり、グラリとその体躯が傾く。そのまま、勢いよく地面に倒れ伏した。もちろん、手をしっかりと握っていた雷刀も同じ運命を辿る。びたーん、と騒々しい音が闇に響き渡った。
「な、んだよぉ……」
痛みを堪えながらも、雷刀は立ち上がる。しかし、隣に倒れた弟が起き上がる気配が無い。どうした、とそちらを見やると、そこには己の足元を見つめ絶句する彼の姿があった。
どうしたのだろう、と兄は碧の視線を追う。その先、弟の足首には、小さな白い手がまとわりついていた。それも、ふたつも。
ひ、と喉が引きつった音をたてる。もう叫ぶ余裕すら残されていなかった。叫びすら抑えられるほど異常で異様な光景だった。人の手が足を掴む。ホラー映画で幾度も見てきた光景だ。恐怖が脳を侵食していく。
れふと、と音にならない声で弟を呼ぶ。呆然とした――否、恐怖に硬直した烈風刀は動く気配すら無い。浅葱の瞳は見開かれ、足元をいつまでも見つめていた。
「烈風刀っ!」
弟の名を叫び、兄は握った手を強く引く。無理矢理身を起こされ姿勢がずれたせいか、まとわりついていた手はすっと消えてしまった。好機だ、と覚束ない様子の彼をどうにか立たせ、出口まで引っ張っていく。どうにか二人揃って暗幕をくぐり抜けた。
暗闇色の布を超えた先は、光と人で溢れていた。日常に戻ってきた証拠だ。はぁ、と大きく溜め息を吐き、双子は床にへたり込んだ。
「二人とも、やっと終わったんデスネ」
「悲鳴すごかったわよ。そんなに怖かったの?」
にこやかな笑みを浮かべるレイシスと、意地の悪い笑みを浮かべるグレイスが二人を出迎える。姉妹の言葉を聞く余裕など、今の二人には無い。ただぜぇはぁと喘鳴をあげるのみだ。
「いやー、お疲れ様ー」
四人の元に、看板を持った少女が寄ってくる。白装束に身を包んだ彼女は、このお化け屋敷を担当したクラスの委員長だ。顔見知りと元凶の登場に、烈風刀は何とも言えない表情をした。
「二人とも悲鳴すごかったね。いい宣伝になるよ」
はは、と悪びれず笑う彼女に、双子はじとりとした視線を返す。ここまで出来の良いお化け屋敷を作った彼女らへの賞賛と、この年にもなってみっともなく叫んだ羞恥がごちゃまぜになった視線だ。
「す……、素晴らしい出来でしたが、最後のはどうかと思いますよ。怪我の恐れがあります」
「そーだぜ。オレたち思いっきり転んだんだからな!」
どうにか心を鎮めたて、二人は最後の部分への不満をぶつける。顔から地面へとダイブした二人からすれば真っ当な意見だ。
最後、と言って、クラス委員長は首を傾げる。なんのことやら、といった調子だ。
「最後、足を掴んでくるところがあるではないですか。危険ですよ」
「えっ? そんなの無いよ?」
危ないじゃん、と言う少女の顔に偽りや誤魔化しは見えない。事実のようだ。
「そんなのありませんデシタケド……」
「最後だけなんにもなかったじゃない」
先にアトラクションを終えていた姉妹も、同じことを口にする。彼女らが嘘を吐くメリットはない。こちらも事実だろう。
では、確かに見たあの手は何だったのだ?
兄弟二人で顔を見合わせる。丸く瞠られた目には、たしかにあの光景を見たということがはっきりと書かれていた。
うん、と一つ頷き、二人は息を吐く。何も見ていない、とぶつぶつとした呟きが双子の間に落とされた。
謎は、謎のままがいい。
少女と世界生命/レイシス
あおいちさんには「みんな変わってしまうんだ」で始まり、「それを人は幸せと呼ぶらしい」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば7ツイート(980字)以上でお願いします。
皆変わってしまうのだ、とレイシスは内心呟く。当たり前のことだというのに、その言葉は胸に重く落ちた。
彼女の目の前にあるモニタには、歴代のユーザー変移が表示されていた。ありがたいことにユーザー数は増加の一途を辿るばかりだが、減少していないわけではない。BOOTHからプレーしていたデータが、今作はまだ移行が完了していない。つい最近まで毎日プレーしていたデータが、もう二週間も更新されていない。些細な、けれどもナビゲーターとしてこの世界を導く彼女にとって、その数字の変移は寂寞の情を駆り立てるのには十分だ。
アーケードゲームという、限られた場所でしかプレーできないものである以上、環境や時流の変化によってプレーヤー数は移ろうものだ。頭では分かっているが、幼い彼女の感情は割り切れない。なめらかな肌には似つかわない、深い皺がその眉間に刻まれた。
レイシスにとって、ゲームの世界が己の全てだ。その住民が減っていくのは、まるで己の世界を否定されているようにも思えた。実際はそんなことなどないと分かっている。けれども、確かに記録されている去る者の数は、世界からの離脱を明確に示している。否定しようがない事実だ。
データが書き連ねられたウィンドウを閉じ、少女ははぁと大きな溜息を吐く。考え過ぎだと分かっている。けれども、ゲームの存在であるレイシスにとって、その命運を左右するユーザーの変移は重要事項だ。この世界の維持には、トラックコンプリートによるネメシスの自浄作用が不可欠なのだ。
もし、トラックコンプリートする者がいなくなったら。
考えただけで、強烈な寒気が背筋を走る。明確な恐怖だ。プレイヤーの減少は、世界を維持する者がいなくなるのと同義である。それすなわち、世界の崩壊だ――己の生きている世界の消滅を示しているのだ。
少女はぎゅ、と手を握る。何かに縋ろうにも、辺りにあるのは無機質なモニタと机ぐらいだ。心細さでいっぱいになった彼女が助けを求められるものなどない。
けど、けど、とレイシスはかぶりを振る。桃色の髪が大きく揺れる。整えられた桃色がバサバサと広がる様は、彼女の胸の内を表しているようだった。
ユーザーは増加している。それは事実だ。増加値が減少値を上回っているのだから、それは確実なものである。マッチング機能も連日盛況だ。遊んでくれる者たちは、確かにいる。彼らを信用せず、何を信用しようか。
遊んでくれる者がいる。世界を維持してくれる者がいる。そうして、自分たちは生きていける。ようやく生きることができるのだ。
どうやら、人はこれを幸せと呼ぶらしい。
浮かぶコンプレックス/プロ氷
AOINOさんには「あなたはいつも笑うから」で始まり、「月が綺麗ですね」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字)以上でお願いします。
あなたはいつも笑うから、自分までつられて笑みを浮かべてしまう。笑い慣れておらず表情筋などろくに動かない不格好な笑顔だろうに、彼はそんな己を見て幸せそうに破顔するのだ。
不可思議であり、申し訳のないことだった。何故こんな拙い笑顔で、彼はあんなにも喜び笑みを浮かべるのだろう。何故自分はこんなに不格好な表情しかできないのだろう。何故こんなにも己は不器用なのだろう。笑顔を浮かべる度、自己嫌悪が胸に募る。もっとうまく笑えたらいいのに、と。
氷雪ちゃん、と頭上から声がする。耳慣れた声に視線を上に向けると、そこには安全帯を身に着け壁に張り付いた識苑の姿があった。太いロープがするすると音をたてる。トン、と壁を蹴る音とともに、青年は地に足をつけた。下から風を浴びた白衣が膨らみはためく。
先生、と上空から現れた彼を呼ぶ。学園転入時から世話になっている教師であり、今は所謂恋人である識苑だ。今まさに思い浮かべていた人の登場に、少女の頬に朱が浮かんだ。
「今帰り? だいぶ遅いけど大丈夫?」
「あ、はい。えっと、大丈夫、です」
ほのかな不安を浮かべた瞳で真正面から見つめられ、氷雪は反射的に俯く。つかえつかえに吐き出す声はどんどんと萎んでいき、相手にきちんと聞こえるか己でも疑問に思ってしまうものとなってしまった。
関係を結んでから随分経つというのに、まだこんな調子なのだから呆れてしまう。いつ呆れられてしまってもおかしくない、失礼な態度である。それでも、人との関わりをほとんど持っていなかった少女には、まだこれが精一杯だった。
自己嫌悪に陥る少女に、そっかー、と柔らかな声が返される。青年は膝を曲げ、少女と同じ視点に立つ。
「ねぇ、一緒に帰らない?」
「え……?」
突然の言葉に、氷雪は顔を上げる。真正面に夕日色の瞳があった。まあるいそれが、地平線に消えゆくようにそっと細められる。
「今ので点検一通り終わったし、ちょうど帰るところなんだ。今から準備するからちょっと時間かかっちゃうけど、途中まで一緒に帰ってくれたら嬉しいなーって」
だめかな、と識苑は頭を掻く。髪と同じ色をした眉はゆるい八の字を描いていた。
下校時刻がとっくに過ぎた今、世界はどんどん闇に包まれていた。中学生、それも女子を一人で暗い夜道を歩かせるのに不安を覚えたのだろう。恋人なのだから尚更だ。
けれども、と少女はきゅっと唇を引き締める。氷雪の身を寄せる寄宿舎と識苑の住まうアパートとはほとんど正反対だ。『一緒に帰る』のではなく、『送ってもらう』と言う方が正しい。気を遣われ、負担を強いてしまうのが申し訳なくて仕方ない。けれども、『好きな人と一緒に帰ることができる』という喜びが、胸の内に広がって収まってくれない。葛藤に、小さな口から、ぅ、と声が漏れた。
「……やっぱ学園外で一緒にいるの苦手?」
「そっ、そんなことありません」
不安げな声を、思わず大きな声で遮ってしまう。はしたなさに、少女はさっと顔を赤くする。
「……に、苦手なんかじゃ、なくて……、う、ぅ……」
嬉しいです、と消え入りそうな声でどうにか言葉を紡ぐ。闇夜に溶けてしまいそうな音は相手にきちんと届いたようで、細められていた橙がぱぁと見開かれた。
そっか、と識苑ははにかむ。恋人が己と共に過ごすことを厭うていないという事実が嬉しくてたまらないのだろう。端正な顔は喜びにふにゃりと緩んでいた。
あまりに幸せそうな表情に、氷雪の口元が少しばかり緩む。それは、微笑みを模っていた。
「じゃあ、一緒に帰ってもいい?」
「……は、い」
今一度の問に、少女はこくりと頷く。少し俯いた白い頭に、大きな何かが乗る。何度も触れられているのだから分かる。識苑の手だ。大きくて骨ばったそれが、被衣ごしに小さな頭を撫でる。優しいそれの心地良さに、少女はほぅと詰めていた息をゆるく吐き出した。
「すぐ用意してくるから、待ってて! すぐに戻ってくるから!」
タンッ、と地を蹴る音。ロープが引っ張られる音とともに、識苑は手慣れた様子で外壁を登っていった。張り巡らされたロープとロープを渡り、はためく白衣は瞬く間に消えてしまった。
優しい彼のことだ、本当にすぐに帰ってきてくれるだろう。共に帰ることができる。共に過ごすことができる。その事実に、心が少しそわついた。
ぺた、と頬に手を当てる。己の拙い言葉に、彼は喜びを満面に笑顔を咲かせていた。反して自分はどうだろう。この胸に沸き立つ喜びを、共に在る喜びを表情として表せなかったではないか。いつだってそうだ。己は感情の発露が下手くそだ。こんな調子だから、先ほどのように彼に不安げな顔をさせてしまうのだ。
湧き起こる自己嫌悪から逃れようと、少女は空を見上げる。闇の帳には小さな星々と愛し人の瞳のような月が描かれていた。
今夜は月が綺麗だ。
オサソイ/ライレフ
あおいちさんには「あーあ、言っちゃった」で始まり、「それも多分夢だった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば10ツイート(1400字程度)でお願いします。
あぁ、言ってしまった。
すぐさま後悔が押し寄せてくる。自らの意思で口にしたというのに、何故言ってしまったのかと自責の念ばかりが湧いて出る。けれども、口に出してしまったことはもう取り消すことなどできない。どれだけ悔やもうとも、意味など無いのだ。
「あ、え…………え?」
動揺に満ちた声が部屋に落ちる。顔を伏せた現状見ることは叶わないが、きっと兄は呆けた顔をしているだろう。可愛らしくも大きな口をぽかんと開け、困惑に揺れる瞳でこちらを見ている姿がありありと想像できた。
「あ、え、烈風刀、今、なんて」
言葉の端々に意味の無い単音がいくつも挟まっている。よっぽど驚いているのだろう。当たり前だ、突然誘いを持ちかけたのだから。
「い、え。何でもありません。すみません。気にしないでください」
誤魔化す言葉は無意識に早口になっていた――否、誤魔化すも何もない。言い訳にも満たない、無理矢理話を断ち切るための自分勝手な言葉だ。
急いでソファから立ち上がる。こんな愚かな姿、いつまでも見せるわけにはいかない。早くこの場を去らねば。即座に足を踏み出すが、それよりも先にがしりと腕を掴まれ強く引かれた。ぐらりと身体が揺れる。そのまま、尻餅をつくように再びソファに腰を下ろす形になってしまった。
烈風刀、と名を呼ばれる。耳慣れているはずの声は、どこか切羽詰まったものだった。伏せていた顔を少しだけ上げる。視界に映ったのは、ぱくぱくと開閉を繰り返す口だった。八重歯の覗くそこから音にならない音が漏れ出るのが聞こえる。
「おっ、オレも、セックスしたい!」
しばしの沈黙の後に紡がれた言葉は、ストレートなものだった。否、今日に限っては己も直接的な物言いをした。『セックスがしたいです』と。
「いや、ちょっとびっくりしたっていうか……。烈風刀からそう言ってくれると思わなくて」
「……言いますよ。僕だって、人間なのですから」
人間、それも思春期真っ只中の高校生なのだ。性欲は人並みにある。愛しい人と身体を繫げたいと思うのは自然なことだろう――性にあけすけな兄だってそうなのだから。
未だ掴まれたままの腕を強く引かれる。バランスを崩し、そのまま二人でソファに倒れ込む。図らずして、兄を押し倒す形となってしまった。
輝く朱がこちらを見上げる。八重歯がチャームポイントな口元は、どこか意地悪げに釣り上がっていた。
「じゃ、二人ともどーいしたことだし。シよ?」
な、と問いかける瞳の奥には炎が宿っていた。情欲の焔だ。己の言葉一つで兄がこれほどまで姿を変えた。それがどこか愉快だった。
そうですね、と想定外に緩んだ声で返す。きっと、己の碧の中にも同じものが燃え上がっているだろう。何せ、健全な高校生なのだから。
腰に腕が回る。すり、と服越しに撫でられただけで、背筋に電流が走った。小さく息を呑む。愉快げな笑声が下から聞こえた。
烈風刀、と名を呼ばれるとともに頬を撫でられる。それが何を示すかだなんて、もう分かりきったことだ。
顔と顔が近付く。鼻先が擦れ合う。視線が交錯する。ふふ、と二人で笑みをこぼし、そのまま目を閉じる。しばしして、唇と唇が交わった。
幸福感が胸を満たす。こんなの、まるで夢のようだ。
いつかの響きと今の熱/神十字
AOINOさんには「懐かしい声が聞こえた」で始まり、「謎は謎のままがいい」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字)以上でお願いします。
懐かしい声が聞こえた気がした。己を呼ぶ声だ。何十年、下手をすれば百年かそれ以上前に聞いた響き。
「お腹、冷やしてしまいますよ」
上空から声が降ってくる。睡魔が張り付き重い瞼を上げる。朱い瞳に、青空を背景にこちらを覗き込む青年の姿が映った。
「……冷やさねーって。ニンゲンじゃねーんだから」
「分かりませんよ。人間と同じ形を取っているのですから」
はい、という声とともに、バサ、とはためく音がたつ。寝転がった己の腹に、薄手の布が掛けられた。
「寝るならそれを掛けて寝てください。見ている方が寒いので」
薄く笑みを浮かべる青年を見上げ、紅い神は唇を尖らせる。こちらの服装は春だというのに詰め襟にスキニー、ガッチリとしたブーツにおまけに分厚いロングコートを羽織っている。寒さなど微塵も感じさせない服装だ。明らかに子ども扱いされている。
数え切れないほどの年月を過ごしてきた己が、四半世紀も生きていない人間に子ども扱いされる。不服ではあるが不快ではない。そこに彼なりの愛というものがあるのがはっきりと分かるからだ。
愛される。慕われる。敬われる。どれも信仰というもので成り立っている己には必要不可欠なものだ。それを惜しみなく降り注いでくれる彼に、感謝こそすれ文句を言うことはない――否、やっぱり子ども扱いは訂正させてほしいが。
それにしても、と欠伸をしながら夢を反芻する。内容はさっぱり覚えていない。しかし、あの声だけは耳に残っていた。愛しい人の声。随分と昔に別れた声。今はいない彼の声。
人は声から忘れ去られていく、と愛しい彼は言っていた。だのに、未だに声を思い出すのだから不思議なものである――現在進行形で似た、否、『そのもの』である声を聞いているのだから、当たり前かもしれないのだけれど。
もしかしたら、勘違いなのかもしれない。寝ている間に話しかけてきた彼の声を、夢現な己が『彼』の声と混同してしまっただけなのかもしれない。あり得る。最近は平和も平和で、随分とボケている自覚があった。
寝返りを打ち、横を向く。青と緑で埋め尽くされていた視界に、白と蒼が飛び込んでくる。パン、と布地が勢いよく開かれる音と、バサ、と広がる音。小気味の良い響きが、晴れ空の下に響き渡る。洗濯物を干す蒼い青年の姿は、平和を体現したようなものだった。
しばらくの思案。体勢を元に戻し、腹筋だけで起き上がる。腹に掛けられていた薄布が皺を作る。後で見つかって怒られるより前に、手早く畳んで己がいた場所に置いた。
立ち上がり、大股で歩き出す。ザ、ザ、と硬い靴底が若い草を鳴らす。高く張られたロープに向かう背を目指す。手にしたものを干し終えた瞬間を狙って、後ろから蒼に抱き付いた。
わ、と小さな声があがる。抱き付いた身体が硬直する。それもすぐに弛緩し、彼は首だけで振り向く。うつくしい海色が、燃えるような緋色を見つめた。
「どうしたのですか?」
「なーんにも」
不可思議そうに小首を傾げる蒼を無視し、紅はその肩に顔を埋める。いつもの彼の匂いに石鹸の香りが混じっている。先ほどまで洗濯をしていたからだろうか。そんな些末なことを考える。
あぁ、温かい。ここにいる。ここに存在している。確かなこの温もりは、彼が間違いなく活きている証拠だ。
「嘘でしょう」
「まぁいいじゃん」
誤魔化すようにケラケラと笑うと、眉間に刻まれた皺が更に深くなる。普段は鈍いというのに、こういう時だけ妙に鋭いのだから、彼は『彼』のままなのだろう。懐かしさが胸をよぎる。そっと湧いて出たそれをすぐさま掻き消した。
同年代よりしっかりとした肩に顎を置き、紅はいたずらげにニカリと笑った。
「謎は謎のままのがおもしれーだろ?」
畳む
#はるグレ
#嬬武器雷刀
#嬬武器烈風刀
#レイシス
#プロ氷
#ライレフ
#腐向け
#はるグレ
#嬬武器雷刀
#嬬武器烈風刀
#レイシス
#プロ氷
#ライレフ
#腐向け
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SDVX
2024/1/31(Wed) 00:00
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葵壱さんには「消えたがる君を引き止めたかった」で始まり、「そんな怖い顔しないでよ」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば8ツイート(1120字程度)でお願いします。
消えたがる君を引き止めた。
男女の差、それも闘いから身を引いて久しい者と長期間の戦闘経験を積んだ者では、もちろん後者が勝つ。反射的に握った細腕は、限界まで引き伸びたところで止まった。否、止まる外無かった。
「な、によ」
「これ、チョコレートですよね……?」
腕を握っていない方の手、そこにある小さな箱を見る。リボンでラッピングされた薄めの箱からは、ほのかに甘い香りが漂っていた。
始果が口にした語に、グレイスの身体がギクリと強ばる。再び地を蹴り駆け出そうとするが、未だ己を掴む少年によって阻まれた。
「……だったら何よ」
告げる声は細く硬い。羞恥、はたまた怒りを孕んでいるのか、可愛らしい声は震えていた。
必死に顔を背けていた彼女が振り返る。白いかんばせは朱に染まり、まあるい瞳の端にはわずかに涙が溜まっていた。
「あんたが『くれ』って言ったから作ってきたんじゃない! 悪い!?」
廊下全体に響かんばかりに少女は叫ぶ。怒りが見て取れた。それも全て照れ隠しなのは、その顔を見れば明らかだ。
グレイスの言葉に、少年はふと口元を緩める。
チョコレートが欲しい、とねだったのは昨年のことだ。それを忘れずにいてくれた。しかも、律儀に守ってくれた。それだけで、胸の内に温かなものが広がっていく。心が何かでぎゅうぎゅうに満たされる。彼女といると、いつもこうだ。不思議と、苦しさはなかった。
どこか悔しげに歯を食いしばりこちらを睨めつけるグレイスに、始果は眉端を微かに下げる。細められたイエローが、マゼンタを正面から見据えた。
「そんな怖い顔しないでください……。ありがとうございます」
手を取り闇を/嬬武器兄弟
AOINOさんには「暗闇なんて怖くなかった」で始まり、「謎は謎のままがいい」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば12ツイート(1680字)以上でお願いします。
「く、くくっ、暗闇なんて怖くねーし」
薄暗闇に声が響く。引きつった口から発されたそれは、哀れなほど震えていた。強がりであることが否応なしに分かる。
「だっ、たら、手を離したらどうなのですか」
裏返った声に、硬い声が返される。平静を装っているが、彼らしくもなくところどころ詰まる様やかすかに震える響きからそれもハリボテであるのは明らかだ。
ボルテ学園にて年に一回行われる学園祭。その出し物の一つである『お化け屋敷』に嬬武器の双子は訪れていた。特別教室二つを繋げただけで行われているはずなのに、順路は妙に長く感じる。無意識に普段の歩調の半分以下で進んでいるのだから先に当たり前だ。序盤は先に入った桃と躑躅の姉妹の声が薄っすらと聞こえてきたが、今は音はない。静寂と闇が兄弟二人を包んでいた。
「れ、烈風刀が掴んでんじゃん!?」
「ぼっ、僕は何もしていませんよ」
隣り合わせに歩く二人は、いつの間にか手を握っていた。どちらとも力が込められており、肌の一部が白くなっている。容易に剥がせそうにないだろう。言葉に反して振り切る様子は互いに無いのだけど。
「ほ、ら。進むぞ。行くぞ」
「え、えぇ。あまり遅くては、後続の人に迷惑ですからね」
短い応酬の後、双子は歩みを進める。会話というよりも、己に言い聞かせるようなものだった。
ザリ、と足音がたつ。ビクリと二つの肩が同時に跳ねる。足元から、おどろおどろしい音楽が這い寄る。ありきたりでチープなものだが、雰囲気が完成されたこの薄暗い室内では、何よりも自然な音に聞こえた。
ワッ、と短い声が二人の横から飛んでくる。同時に、長い黒髪を前に垂らし白装束に身を包んだ女性が碧と朱の視界に飛び込んできた。
「うわああああああああ!?」
「ヒッ――!」
耳をつんざかんばかりの叫び声を上げる雷刀。短く細い悲鳴と共に息を止める烈風刀。二者二様の反応が薄闇を裂く。あまりの驚愕に、繋いだ手に更に力が込められる。爪が刺さらんばかりの強さだ。それを咎めることは互いに無い。そんな余裕など無いのだ。
「れっ、れふと!」
「らいと!」
互いに名を呼び安否を確認し、二人は同じタイミングで順路を駆けていく。走らないで、と言う女子生徒の声は双子の耳には届かなかった。
区切られた道を二人で走る。順路を一直線に走っていく二人の様子に手出しをできる者はおらず、その背を見送るだけだ。駆けて逃げていく者の想定はしていたが、ここまでの速度となると止めようがない。お化け役の生徒はどうしよう、と近場の者に目配せすることしかできなかった。
薄くかかった薄暗い音楽を背に、双子は駆け抜けていく。いくつめかの角に貼られた『出口』のポスターを目にし、二人の顔からようやく強張りが抜けた。
「出口!」
「はい!」
暗闇の終わりめがけて双子は足を動かす。最後、一条の光差す暗幕が二人の前に現れる。闇の終焉を示すそれ目掛けて、二人で足を踏み出した。
「――あっ!?」
あと少しで出口だというところで、烈風刀が声をあげる。突然足が止まり、グラリとその体躯が傾く。そのまま、勢いよく地面に倒れ伏した。もちろん、手をしっかりと握っていた雷刀も同じ運命を辿る。びたーん、と騒々しい音が闇に響き渡った。
「な、んだよぉ……」
痛みを堪えながらも、雷刀は立ち上がる。しかし、隣に倒れた弟が起き上がる気配が無い。どうした、とそちらを見やると、そこには己の足元を見つめ絶句する彼の姿があった。
どうしたのだろう、と兄は碧の視線を追う。その先、弟の足首には、小さな白い手がまとわりついていた。それも、ふたつも。
ひ、と喉が引きつった音をたてる。もう叫ぶ余裕すら残されていなかった。叫びすら抑えられるほど異常で異様な光景だった。人の手が足を掴む。ホラー映画で幾度も見てきた光景だ。恐怖が脳を侵食していく。
れふと、と音にならない声で弟を呼ぶ。呆然とした――否、恐怖に硬直した烈風刀は動く気配すら無い。浅葱の瞳は見開かれ、足元をいつまでも見つめていた。
「烈風刀っ!」
弟の名を叫び、兄は握った手を強く引く。無理矢理身を起こされ姿勢がずれたせいか、まとわりついていた手はすっと消えてしまった。好機だ、と覚束ない様子の彼をどうにか立たせ、出口まで引っ張っていく。どうにか二人揃って暗幕をくぐり抜けた。
暗闇色の布を超えた先は、光と人で溢れていた。日常に戻ってきた証拠だ。はぁ、と大きく溜め息を吐き、双子は床にへたり込んだ。
「二人とも、やっと終わったんデスネ」
「悲鳴すごかったわよ。そんなに怖かったの?」
にこやかな笑みを浮かべるレイシスと、意地の悪い笑みを浮かべるグレイスが二人を出迎える。姉妹の言葉を聞く余裕など、今の二人には無い。ただぜぇはぁと喘鳴をあげるのみだ。
「いやー、お疲れ様ー」
四人の元に、看板を持った少女が寄ってくる。白装束に身を包んだ彼女は、このお化け屋敷を担当したクラスの委員長だ。顔見知りと元凶の登場に、烈風刀は何とも言えない表情をした。
「二人とも悲鳴すごかったね。いい宣伝になるよ」
はは、と悪びれず笑う彼女に、双子はじとりとした視線を返す。ここまで出来の良いお化け屋敷を作った彼女らへの賞賛と、この年にもなってみっともなく叫んだ羞恥がごちゃまぜになった視線だ。
「す……、素晴らしい出来でしたが、最後のはどうかと思いますよ。怪我の恐れがあります」
「そーだぜ。オレたち思いっきり転んだんだからな!」
どうにか心を鎮めたて、二人は最後の部分への不満をぶつける。顔から地面へとダイブした二人からすれば真っ当な意見だ。
最後、と言って、クラス委員長は首を傾げる。なんのことやら、といった調子だ。
「最後、足を掴んでくるところがあるではないですか。危険ですよ」
「えっ? そんなの無いよ?」
危ないじゃん、と言う少女の顔に偽りや誤魔化しは見えない。事実のようだ。
「そんなのありませんデシタケド……」
「最後だけなんにもなかったじゃない」
先にアトラクションを終えていた姉妹も、同じことを口にする。彼女らが嘘を吐くメリットはない。こちらも事実だろう。
では、確かに見たあの手は何だったのだ?
兄弟二人で顔を見合わせる。丸く瞠られた目には、たしかにあの光景を見たということがはっきりと書かれていた。
うん、と一つ頷き、二人は息を吐く。何も見ていない、とぶつぶつとした呟きが双子の間に落とされた。
謎は、謎のままがいい。
少女と世界生命/レイシス
あおいちさんには「みんな変わってしまうんだ」で始まり、「それを人は幸せと呼ぶらしい」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば7ツイート(980字)以上でお願いします。
皆変わってしまうのだ、とレイシスは内心呟く。当たり前のことだというのに、その言葉は胸に重く落ちた。
彼女の目の前にあるモニタには、歴代のユーザー変移が表示されていた。ありがたいことにユーザー数は増加の一途を辿るばかりだが、減少していないわけではない。BOOTHからプレーしていたデータが、今作はまだ移行が完了していない。つい最近まで毎日プレーしていたデータが、もう二週間も更新されていない。些細な、けれどもナビゲーターとしてこの世界を導く彼女にとって、その数字の変移は寂寞の情を駆り立てるのには十分だ。
アーケードゲームという、限られた場所でしかプレーできないものである以上、環境や時流の変化によってプレーヤー数は移ろうものだ。頭では分かっているが、幼い彼女の感情は割り切れない。なめらかな肌には似つかわない、深い皺がその眉間に刻まれた。
レイシスにとって、ゲームの世界が己の全てだ。その住民が減っていくのは、まるで己の世界を否定されているようにも思えた。実際はそんなことなどないと分かっている。けれども、確かに記録されている去る者の数は、世界からの離脱を明確に示している。否定しようがない事実だ。
データが書き連ねられたウィンドウを閉じ、少女ははぁと大きな溜息を吐く。考え過ぎだと分かっている。けれども、ゲームの存在であるレイシスにとって、その命運を左右するユーザーの変移は重要事項だ。この世界の維持には、トラックコンプリートによるネメシスの自浄作用が不可欠なのだ。
もし、トラックコンプリートする者がいなくなったら。
考えただけで、強烈な寒気が背筋を走る。明確な恐怖だ。プレイヤーの減少は、世界を維持する者がいなくなるのと同義である。それすなわち、世界の崩壊だ――己の生きている世界の消滅を示しているのだ。
少女はぎゅ、と手を握る。何かに縋ろうにも、辺りにあるのは無機質なモニタと机ぐらいだ。心細さでいっぱいになった彼女が助けを求められるものなどない。
けど、けど、とレイシスはかぶりを振る。桃色の髪が大きく揺れる。整えられた桃色がバサバサと広がる様は、彼女の胸の内を表しているようだった。
ユーザーは増加している。それは事実だ。増加値が減少値を上回っているのだから、それは確実なものである。マッチング機能も連日盛況だ。遊んでくれる者たちは、確かにいる。彼らを信用せず、何を信用しようか。
遊んでくれる者がいる。世界を維持してくれる者がいる。そうして、自分たちは生きていける。ようやく生きることができるのだ。
どうやら、人はこれを幸せと呼ぶらしい。
浮かぶコンプレックス/プロ氷
AOINOさんには「あなたはいつも笑うから」で始まり、「月が綺麗ですね」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字)以上でお願いします。
あなたはいつも笑うから、自分までつられて笑みを浮かべてしまう。笑い慣れておらず表情筋などろくに動かない不格好な笑顔だろうに、彼はそんな己を見て幸せそうに破顔するのだ。
不可思議であり、申し訳のないことだった。何故こんな拙い笑顔で、彼はあんなにも喜び笑みを浮かべるのだろう。何故自分はこんなに不格好な表情しかできないのだろう。何故こんなにも己は不器用なのだろう。笑顔を浮かべる度、自己嫌悪が胸に募る。もっとうまく笑えたらいいのに、と。
氷雪ちゃん、と頭上から声がする。耳慣れた声に視線を上に向けると、そこには安全帯を身に着け壁に張り付いた識苑の姿があった。太いロープがするすると音をたてる。トン、と壁を蹴る音とともに、青年は地に足をつけた。下から風を浴びた白衣が膨らみはためく。
先生、と上空から現れた彼を呼ぶ。学園転入時から世話になっている教師であり、今は所謂恋人である識苑だ。今まさに思い浮かべていた人の登場に、少女の頬に朱が浮かんだ。
「今帰り? だいぶ遅いけど大丈夫?」
「あ、はい。えっと、大丈夫、です」
ほのかな不安を浮かべた瞳で真正面から見つめられ、氷雪は反射的に俯く。つかえつかえに吐き出す声はどんどんと萎んでいき、相手にきちんと聞こえるか己でも疑問に思ってしまうものとなってしまった。
関係を結んでから随分経つというのに、まだこんな調子なのだから呆れてしまう。いつ呆れられてしまってもおかしくない、失礼な態度である。それでも、人との関わりをほとんど持っていなかった少女には、まだこれが精一杯だった。
自己嫌悪に陥る少女に、そっかー、と柔らかな声が返される。青年は膝を曲げ、少女と同じ視点に立つ。
「ねぇ、一緒に帰らない?」
「え……?」
突然の言葉に、氷雪は顔を上げる。真正面に夕日色の瞳があった。まあるいそれが、地平線に消えゆくようにそっと細められる。
「今ので点検一通り終わったし、ちょうど帰るところなんだ。今から準備するからちょっと時間かかっちゃうけど、途中まで一緒に帰ってくれたら嬉しいなーって」
だめかな、と識苑は頭を掻く。髪と同じ色をした眉はゆるい八の字を描いていた。
下校時刻がとっくに過ぎた今、世界はどんどん闇に包まれていた。中学生、それも女子を一人で暗い夜道を歩かせるのに不安を覚えたのだろう。恋人なのだから尚更だ。
けれども、と少女はきゅっと唇を引き締める。氷雪の身を寄せる寄宿舎と識苑の住まうアパートとはほとんど正反対だ。『一緒に帰る』のではなく、『送ってもらう』と言う方が正しい。気を遣われ、負担を強いてしまうのが申し訳なくて仕方ない。けれども、『好きな人と一緒に帰ることができる』という喜びが、胸の内に広がって収まってくれない。葛藤に、小さな口から、ぅ、と声が漏れた。
「……やっぱ学園外で一緒にいるの苦手?」
「そっ、そんなことありません」
不安げな声を、思わず大きな声で遮ってしまう。はしたなさに、少女はさっと顔を赤くする。
「……に、苦手なんかじゃ、なくて……、う、ぅ……」
嬉しいです、と消え入りそうな声でどうにか言葉を紡ぐ。闇夜に溶けてしまいそうな音は相手にきちんと届いたようで、細められていた橙がぱぁと見開かれた。
そっか、と識苑ははにかむ。恋人が己と共に過ごすことを厭うていないという事実が嬉しくてたまらないのだろう。端正な顔は喜びにふにゃりと緩んでいた。
あまりに幸せそうな表情に、氷雪の口元が少しばかり緩む。それは、微笑みを模っていた。
「じゃあ、一緒に帰ってもいい?」
「……は、い」
今一度の問に、少女はこくりと頷く。少し俯いた白い頭に、大きな何かが乗る。何度も触れられているのだから分かる。識苑の手だ。大きくて骨ばったそれが、被衣ごしに小さな頭を撫でる。優しいそれの心地良さに、少女はほぅと詰めていた息をゆるく吐き出した。
「すぐ用意してくるから、待ってて! すぐに戻ってくるから!」
タンッ、と地を蹴る音。ロープが引っ張られる音とともに、識苑は手慣れた様子で外壁を登っていった。張り巡らされたロープとロープを渡り、はためく白衣は瞬く間に消えてしまった。
優しい彼のことだ、本当にすぐに帰ってきてくれるだろう。共に帰ることができる。共に過ごすことができる。その事実に、心が少しそわついた。
ぺた、と頬に手を当てる。己の拙い言葉に、彼は喜びを満面に笑顔を咲かせていた。反して自分はどうだろう。この胸に沸き立つ喜びを、共に在る喜びを表情として表せなかったではないか。いつだってそうだ。己は感情の発露が下手くそだ。こんな調子だから、先ほどのように彼に不安げな顔をさせてしまうのだ。
湧き起こる自己嫌悪から逃れようと、少女は空を見上げる。闇の帳には小さな星々と愛し人の瞳のような月が描かれていた。
今夜は月が綺麗だ。
オサソイ/ライレフ
あおいちさんには「あーあ、言っちゃった」で始まり、「それも多分夢だった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば10ツイート(1400字程度)でお願いします。
あぁ、言ってしまった。
すぐさま後悔が押し寄せてくる。自らの意思で口にしたというのに、何故言ってしまったのかと自責の念ばかりが湧いて出る。けれども、口に出してしまったことはもう取り消すことなどできない。どれだけ悔やもうとも、意味など無いのだ。
「あ、え…………え?」
動揺に満ちた声が部屋に落ちる。顔を伏せた現状見ることは叶わないが、きっと兄は呆けた顔をしているだろう。可愛らしくも大きな口をぽかんと開け、困惑に揺れる瞳でこちらを見ている姿がありありと想像できた。
「あ、え、烈風刀、今、なんて」
言葉の端々に意味の無い単音がいくつも挟まっている。よっぽど驚いているのだろう。当たり前だ、突然誘いを持ちかけたのだから。
「い、え。何でもありません。すみません。気にしないでください」
誤魔化す言葉は無意識に早口になっていた――否、誤魔化すも何もない。言い訳にも満たない、無理矢理話を断ち切るための自分勝手な言葉だ。
急いでソファから立ち上がる。こんな愚かな姿、いつまでも見せるわけにはいかない。早くこの場を去らねば。即座に足を踏み出すが、それよりも先にがしりと腕を掴まれ強く引かれた。ぐらりと身体が揺れる。そのまま、尻餅をつくように再びソファに腰を下ろす形になってしまった。
烈風刀、と名を呼ばれる。耳慣れているはずの声は、どこか切羽詰まったものだった。伏せていた顔を少しだけ上げる。視界に映ったのは、ぱくぱくと開閉を繰り返す口だった。八重歯の覗くそこから音にならない音が漏れ出るのが聞こえる。
「おっ、オレも、セックスしたい!」
しばしの沈黙の後に紡がれた言葉は、ストレートなものだった。否、今日に限っては己も直接的な物言いをした。『セックスがしたいです』と。
「いや、ちょっとびっくりしたっていうか……。烈風刀からそう言ってくれると思わなくて」
「……言いますよ。僕だって、人間なのですから」
人間、それも思春期真っ只中の高校生なのだ。性欲は人並みにある。愛しい人と身体を繫げたいと思うのは自然なことだろう――性にあけすけな兄だってそうなのだから。
未だ掴まれたままの腕を強く引かれる。バランスを崩し、そのまま二人でソファに倒れ込む。図らずして、兄を押し倒す形となってしまった。
輝く朱がこちらを見上げる。八重歯がチャームポイントな口元は、どこか意地悪げに釣り上がっていた。
「じゃ、二人ともどーいしたことだし。シよ?」
な、と問いかける瞳の奥には炎が宿っていた。情欲の焔だ。己の言葉一つで兄がこれほどまで姿を変えた。それがどこか愉快だった。
そうですね、と想定外に緩んだ声で返す。きっと、己の碧の中にも同じものが燃え上がっているだろう。何せ、健全な高校生なのだから。
腰に腕が回る。すり、と服越しに撫でられただけで、背筋に電流が走った。小さく息を呑む。愉快げな笑声が下から聞こえた。
烈風刀、と名を呼ばれるとともに頬を撫でられる。それが何を示すかだなんて、もう分かりきったことだ。
顔と顔が近付く。鼻先が擦れ合う。視線が交錯する。ふふ、と二人で笑みをこぼし、そのまま目を閉じる。しばしして、唇と唇が交わった。
幸福感が胸を満たす。こんなの、まるで夢のようだ。
いつかの響きと今の熱/神十字
AOINOさんには「懐かしい声が聞こえた」で始まり、「謎は謎のままがいい」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字)以上でお願いします。
懐かしい声が聞こえた気がした。己を呼ぶ声だ。何十年、下手をすれば百年かそれ以上前に聞いた響き。
「お腹、冷やしてしまいますよ」
上空から声が降ってくる。睡魔が張り付き重い瞼を上げる。朱い瞳に、青空を背景にこちらを覗き込む青年の姿が映った。
「……冷やさねーって。ニンゲンじゃねーんだから」
「分かりませんよ。人間と同じ形を取っているのですから」
はい、という声とともに、バサ、とはためく音がたつ。寝転がった己の腹に、薄手の布が掛けられた。
「寝るならそれを掛けて寝てください。見ている方が寒いので」
薄く笑みを浮かべる青年を見上げ、紅い神は唇を尖らせる。こちらの服装は春だというのに詰め襟にスキニー、ガッチリとしたブーツにおまけに分厚いロングコートを羽織っている。寒さなど微塵も感じさせない服装だ。明らかに子ども扱いされている。
数え切れないほどの年月を過ごしてきた己が、四半世紀も生きていない人間に子ども扱いされる。不服ではあるが不快ではない。そこに彼なりの愛というものがあるのがはっきりと分かるからだ。
愛される。慕われる。敬われる。どれも信仰というもので成り立っている己には必要不可欠なものだ。それを惜しみなく降り注いでくれる彼に、感謝こそすれ文句を言うことはない――否、やっぱり子ども扱いは訂正させてほしいが。
それにしても、と欠伸をしながら夢を反芻する。内容はさっぱり覚えていない。しかし、あの声だけは耳に残っていた。愛しい人の声。随分と昔に別れた声。今はいない彼の声。
人は声から忘れ去られていく、と愛しい彼は言っていた。だのに、未だに声を思い出すのだから不思議なものである――現在進行形で似た、否、『そのもの』である声を聞いているのだから、当たり前かもしれないのだけれど。
もしかしたら、勘違いなのかもしれない。寝ている間に話しかけてきた彼の声を、夢現な己が『彼』の声と混同してしまっただけなのかもしれない。あり得る。最近は平和も平和で、随分とボケている自覚があった。
寝返りを打ち、横を向く。青と緑で埋め尽くされていた視界に、白と蒼が飛び込んでくる。パン、と布地が勢いよく開かれる音と、バサ、と広がる音。小気味の良い響きが、晴れ空の下に響き渡る。洗濯物を干す蒼い青年の姿は、平和を体現したようなものだった。
しばらくの思案。体勢を元に戻し、腹筋だけで起き上がる。腹に掛けられていた薄布が皺を作る。後で見つかって怒られるより前に、手早く畳んで己がいた場所に置いた。
立ち上がり、大股で歩き出す。ザ、ザ、と硬い靴底が若い草を鳴らす。高く張られたロープに向かう背を目指す。手にしたものを干し終えた瞬間を狙って、後ろから蒼に抱き付いた。
わ、と小さな声があがる。抱き付いた身体が硬直する。それもすぐに弛緩し、彼は首だけで振り向く。うつくしい海色が、燃えるような緋色を見つめた。
「どうしたのですか?」
「なーんにも」
不可思議そうに小首を傾げる蒼を無視し、紅はその肩に顔を埋める。いつもの彼の匂いに石鹸の香りが混じっている。先ほどまで洗濯をしていたからだろうか。そんな些末なことを考える。
あぁ、温かい。ここにいる。ここに存在している。確かなこの温もりは、彼が間違いなく活きている証拠だ。
「嘘でしょう」
「まぁいいじゃん」
誤魔化すようにケラケラと笑うと、眉間に刻まれた皺が更に深くなる。普段は鈍いというのに、こういう時だけ妙に鋭いのだから、彼は『彼』のままなのだろう。懐かしさが胸をよぎる。そっと湧いて出たそれをすぐさま掻き消した。
同年代よりしっかりとした肩に顎を置き、紅はいたずらげにニカリと笑った。
「謎は謎のままのがおもしれーだろ?」
畳む
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