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No.108
書き出しと終わりまとめ9【SDVX】
書き出しと終わりまとめ9【SDVX】
あなたに書いて欲しい物語
でだらだら書いていたものまとめその9。ボ6個。
毎度の如く診断する時の名前がちょくちょく違うのは気にしない。
成分表示:プロ氷1/ニア+ノア+レフ1/烈風刀1/ライレフ(神十字)2/レイ+グレ1
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触れあいを求めて/プロ氷
あおいちさんには「あーあ、言っちゃった」で始まり、「それを人は幸せと呼ぶらしい」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば8ツイート(1120字)以内でお願いします。
あぁ、言ってしまった。
ぎゅっと目をつむる彼女の顔はそう語っていた。俯いた顔は熟れきった赤色で、きゅっと引き結ばれた唇と胸の前で握られた拳はぷるぷると震えている。細い身体は己が身を守るように縮こまっていた。今までの彼女を見ていれば、彼女が持ちうる勇気を全て振り絞っているのだと分かる姿だった。
「ぁ、え…………、いいの? だ、大丈夫?」
だというのに、己の口から漏れ出た言葉はこれなのだから何と間抜けなのだろう。これだけ頑張っている彼女に向けて、何だその呆けた返答は。もっと真摯に向き合え。内なる自分が罵倒する。言い返すことなどできなかった。
「だっ、だいじょうぶ、です。でき、ます」
ぱっと顔を上げ、氷雪は識苑を見上げる。細い身はふるふると震えており、こちらをまっすぐに射抜く川底色の美しい瞳はかすかに潤んでいる。今まで何度も失敗してきたことなのだから怖いのだろう。未知の行為なのだから恐ろしいのだろう。けれども、その色の中にはその恐れを振り払った確かな決意が見えていた。
小さく頷き、朱に染まりきった頬へと手を伸ばす。触れた指先から伝わる温度は火傷しそうなほど熱い。愛おしい温度に、頬が緩んだ。
目閉じて、と声をかける。恥ずかしいほどに掠れた音だった。緊張しているのは己も同じなのだ。仕方無いだろう、愛おしい人と触れあう時が来たのだから。愛する少女に触れることをどれだけ待ちわびたことか。慕う少女に触れるのがどれだけ恐ろしいか。自分でも分からなくなるほどだ。
震えながらも目を閉じ顔を上げたままの少女へと顔を近づける。一センチ。二センチ。のろのろと、しかしながらも確かに離れていた間が縮まっていく。愛おしいかんばせが近づくにつれ、青年の顔も赤らむ。恥ずかしさから目を背けるように瞼を閉じた。
長い時を経て、二人の距離がゼロになる。薄くかさついた唇と、柔らかな小さな唇が重なった。
一秒にも満たない邂逅。それでも、触れあった感触は、熱は、存在は、確かなものだった。
そっと顔を離す。ゼロだった距離が、元通り頭二つ分離れる。恐る恐る目を開けると、翡翠の瞳と視線がかちあった。
「……でき、たね」
「……はい」
相も変わらず間の抜けた言葉に、肯定の語が返される。淡雪のようにすぐ溶けて消えてしまいそうな声だった。しかし、その愛らしい声は己の耳にしかと届いた。
「――よかったぁ……」
へなへなと情けなくその場にしゃがみこむ。張り詰めていた緊張の糸が完全に切れてしまい、どっと疲れが襲ってきた。膝に額を付け、はぁと大きく息を吐く。緊張が消えた心の内に、違うものが満ちていく。温かなそれに涙腺が刺激される。みっともなく緩みそうになるそれを必死に押し込めた。
「だ、だいじょうぶですか?」
「大丈夫だよー。……氷雪ちゃんこそ大丈夫?」
上空から降ってくる問いに手を振って返す。少しの沈黙の後、そっと顔を上げる。見上げた先の小さな顔は逆光で少し薄暗く見えるも、変わらず真っ赤に色付いていることがありありと分かった。
あ、ぅ、と淀んだ声が降り注ぐ。雪色の肌を朱に染めた少女は口元を着物の袖で覆う。口付けという恋人らしい行為に対しての羞恥が見て取れた。
「だ、だい、じょうぶ、です」
あの、えっと、と時折唸りながらも氷雪は言葉を続けようとする。未だしゃがみこんだままの識苑は、彼女が発言しようとする様をじぃと見つめ待っていた。引っ込み思案な彼女がこれだけ頑張って何かを言おうとするなど、珍しいことだ。聞いてあげたいに決まっていた。
「――やっときっ、き、す、できて、うれしかった、です」
長い沈黙の末、少女は拙いながらも言葉を紡ぐ。白銀の髪と同じ色をした眉がへにゃりと下がる。天河石の瞳が緩い弧を描く。その端から、透明な雫が静かに伝った。澄んだそれが悲しみや苦しみによるものではないのは、その幸い色に染まった表情を見れば明らかだった。
「……うん。俺も」
そう言って識苑は笑みを浮かべる。とろけた顔と言うのが相応しい様相だった。彼の顔も、少女と同じく幸い色で満ち満ちていた。
紙にインクが染み渡るように、胸の内に温かなものが広がっていく。今にもはち切れ溢れてしまいそうなこれを、人は幸せと呼ぶのだろう。
果てまで届け/ニア+ノア+レフ
AOINOさんには「ガラス瓶の中に想いを詰め込んだ」で始まり、「そのまま変わらずにいてね」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば5ツイート(700字)以内でお願いします。
ガラス瓶の中に、想いを詰め込んだ便箋を入れる。巻かれたそれは元の形に戻ろうとするが、すぐにガラスの壁に阻まれた。
「手紙だけでいいのですか?」
「貝殻も入れる!」
烈風刀の言葉に、ニアは大きな声で答える。隣で紙を入れるのに四苦八苦している妹の名前を呼ぶ。ちょっと待って、と慌てた声が返ってきた。
「僕が入れましょうか?」
「大丈夫だよっ」
見かねた少年が手を貸そうとするが、片割れは頑なに断る。一人で成し遂げたいのだろう。言い出したのは彼女なのだから。
数日前、ノアが一冊の本を差し出してきた。図書室で借りたらしいそれには、『ボトルレター』というものが登場していた。海の向こうへ想いを渡すそれは、ロマンチストな妹の胸をくすぐったのだろう。これやってみたい、と控えめな彼女にしては珍しくはっきりとした主張に、姉は大仰に頷いたのだった。
そして数日後の放課後、子ども二人きりで海に行こうとしたのを見かねてついてきた烈風刀と共に、砂浜へとやってきたのだ。
ようやく詰め終えた妹の手を取り、浜辺を歩く。両手で抱えられるほどの貝殻を拾い集め少年の元へ戻ると、彼は苦笑した。
「全部入りますかね」
「入れるの!」
揃って言うと、少年はそうですか、と口元を綻ばせた。
クリアな瓶に貝殻を詰め込んでいく。すぐに満たされていくそれに、崩れぬようにどうにか全部詰め込む。おぉ、と驚きと感心の声をあげる碧にふふん、と双子は胸を張った。
手紙と貝をたっぷり抱えた瓶を手に取る。そのまま、本の登場人物のように大きく振りかぶり、二人で一緒に遠くへと投げた。宙高く飛んだそれは、陽の光を浴びてキラリと光り、青い波間へと消えた。
「届くかな?」
「届くよー!」
「届きますよ、きっと」
妹の問いに、碧と蒼は同じことを言う。それがなんだか面白くて、ニアはクスクスと笑った。吊られるように、ノアも控えめな笑みを浮かべる。そんな双子を、烈風刀は穏やかなまなざしで眺めていた。
少女は光り輝く水平線を見やる。このまま、変わらず楽しくいたい。
戒/嬬武器烈風刀
あおいちさんには「また同じ夢を見た」で始まり、「その想いは海に沈めた」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば5ツイート(700字)以内でお願いします。
また同じ夢を見た。
胸元を強く握り締め、烈風刀は荒い息を繰り返す。こめかみを汗が伝う。心臓が痛いほど鼓動する。
己の身体を取り巻く茨が、鮮烈な朱を刺す。光剣が分厚いジャケットを切り裂く。晒された肌を裂く。布地が、紅が宙を散り彩る。
斬りつけて、斬りつけて、斬りつけた。それでも立ち上がり向かってくる彼に地に倒され、そして――
ぐ、と息が詰まる。呼吸が上手くできない。早鐘を打つ胸が痛む。脳の奥が何か叫び声をあげた。
意識的に息を吐き、深く吸いを繰り返す。うるさかった心音がゆっくりと収まっていく。乱れていた呼気もじきに落ち着きを取り戻した。
大丈夫。大丈夫だ。言い聞かせるように、心の中で何度も言葉を繰り返す。大丈夫だ。あんなことはもう二度と無い。あんなことはもう絶対に起こり得ない。あり得てはいけない。もう許されないことなのだ。
そうだ、己は許されない。忘れるな。仲間を、愛しい人を、大切な家族を傷付けた己は許されることはないのだ。優しい彼女がどれだけ良いと言おうとも、頼もしい兄がどれだけ気にするなと言おうとも、己は許されないのだ。
息を大きく吸い、一気に吐く。あれほど大量に湧いて出た汗は引いていた。静かな夜闇を碧が睨む。そこには、確かな意志が浮かんでいた。
許されない。許されるはずがない。許されてはいけない。当たり前の事実を今一度口の中で繰り返す。強い響きが身体に刻まれていく。何年もの歳月をかけて重ねられたそれは、もう消えることなどないものだ。
許されたいだなんて甘い想いは、あの輝かしい海に沈めたのだ。
移ろいゆくもの/神十字
あおいちさんには「みんな変わってしまうんだ」で始まり、「百年も待っていられないよ」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば11ツイート(1540字程度)でお願いします。
「皆変わっちまうんだよなぁ」
窓の外を見やりぽつりと呟く。こぼれた声は存外大きかったようで、少し離れた本棚の前に立つ青年がクスリと笑みを漏らした。
「当たり前ですよ。人間なのですから」
神様と一緒にしないでください、と軽口を叩き、男は手にしていた本を閉じ、棚へと戻した。白い指先がしばし宙を彷徨い、やがて止まる。背表紙に指を引っかけ、新たな本を取り出した。埃の香りがふわりと舞う。
「にしてもあっという間に変わっちまうじゃん。特に子どもはさ。オレの腰ぐらいしかなかったチビがいつの間にか頭一つ分まで迫ってきてんだぜ?」
身振り手振り交えつつ赤髪の男は言葉を紡ぐ。小さな子どもと相違ない様子に、緑髪の青年は密かに口元を緩めた。
「子どもの成長は早いですからね」
そう言って青年は開け放たれた窓の外を見やる。日向の中、幾人もの子どもが駆け回っていた。明確に自我を持ち始めた年頃の子もいれば、そろそろ『子ども』のカテゴリから外れるような年頃の子もいる。ここは『家族』を持たない者たちの集まりだ。様々な歳の子が所属していた。
「おもしれーよなー、子どもってさ」
「貴方は成長しませんものね」
「神がそう簡単に姿形が変わっちゃ困るだろ?」
「そうでしょうか」
「そうだろ。信仰対象がころころ姿変わったら何を信じたらいいか分からなくなっちまう」
「そうでもないと思いますよ。どんな姿であろうと、貴方が貴方であることに変わりはないのですから」
窓の向こうへと目を向けながら、二人は他愛のない応酬を重ねる。子どもたちを眺める眼差しは、親のそれだった。職員である緑髪の男はもちろんであること、それなりの年月をともに暮らした赤髪の男――人ならざる者である神も彼らを実子のように愛していた。
カツン、とヒールの音をたてて、神は青年に近寄る。赤い目が男の頭からつま先までじぃと見る。どうした、と蒼は目で問うた。
「お前は変わんねーよなー」
「それはそうですよ。僕はもう大人なんですよ? これ以上成長することなんてほとんどあり得ません」
そんなもんか、と首を傾げる紅に、そうですよ、と蒼は返す。その口元は穏やかに綻んでいた。
赤い頭が黒い服に包まれた肩に乗せられる。丸い青がぱちりと瞬いた。柔らかな髪が首筋を撫ぜる感覚に、小さな笑声が漏れ出た。
「……変わんないままでいてくれよ」
「それは無理ですよ。人間なのですから」
「さっき変わんねーっつったじゃん」
「それとこれとは別です」
人は絶対に変わってしまうものなのです。
青年――否、青年と呼ぶには幾分か年老いた男は、歌うように言葉を紡ぐ。諦観を孕んだ音色に、神は苦しげな音を漏らした。
「大丈夫ですよ。貴方のことは子どもたちにちゃんと伝え教えてあります。消えることは――」
「そうじゃねぇ!」
穏やかな笑みを浮かべた男の声を、鋭い声が切り裂く。張り詰めた、今にも泣き出しそうな響きだった。怖い夢を見て夜中に起きてしまった子どものそれに似ているように思え、青い瞳がゆるりと綻んだ。
寄り添った頭が離れる。黒い外套が翻る。タン、と地面を蹴る音。勢いに任せ、紅は蒼を強く抱き締めた。苦しいですよ、と男は背を叩くが、逆に力が込められるだけだ。聞き入れられる様子はなかった。
「十年もしたら僕のことなんて忘れますよ。だから、大丈夫」
「大丈夫なわけないだろ……」
子供をあやすように男は黒い背を叩く。絞り出すような低い声が返された。
十年だろうが百年だろうが、ずっと覚えて待っててやっからな。
呟きにも似た重い言葉に、蒼は背を叩くことで返した。
冬、君と共に/ライレフ
AOINOさんには「ぬくもりを半分こした」で始まり、「だから君がいい」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば12ツイート(1680字)以上でお願いします。
冬が来る度、ぬくもりを半分こする。
思ってたより寒いから。暖房代節約したいから。そんな稚拙な嘘を並べ立てて、今日も朱は枕片手に部屋を訪れる。シングルベッドは健康優良児である高校生二人を抱えるには狭いというのに、兄はいつだって屁理屈をこねて己のベッドに潜り込んでくるのだ。どれだけ拒否しようと、素早い動きで冷たい身体を布団に滑り込ませてくるのだから質が悪い。
今日の言い訳は『寒い』の一言だった。シンプルすぎる言葉は、温度計が示す室温を見るに真実であろう。だからといって、この歳にもなって兄弟二人一緒に寝るという選択肢が発生するのは訳が分からないのだけれど。
「烈風刀、もうちょいこっち」
声と同時に背中に手を回され、ぐいと身体を引かれる。それだけで二人の距離はゼロに等しいものとなった。ほんのりと相手の温度が伝わってくる。毛布に包まれた身体は柔らかな温もりで満たされており、優しい眠気を誘うものだ。隣にいる者が静かなら、このまま寝入ってしまってもおかしくない。
「暑いのですけれど」
「マジ? オレはこれでちょうどいいけど」
眇め、闇夜の中の朱を見る。声の調子から、その飴玉のようにまあるい輝く瞳を大きく開いていることが分かる。暑い、と主張したにもかかわらず、少年は布団の主を更に抱き寄せる。足に足が絡みつく。まるで蛸が餌を捕らえるような動きだ。心地良い温度が身体を包み込んでいく。睡魔が瞼をそっと撫ぜた。
「暑いですってば。離れてください」
「オニイチャン、烈風刀が離れたら寒くて眠れなくなっちゃうなー」
ぐいぐいと胸板を押してみるが、効果はほぼ無い。逆に背に回された手に力が入った。
悔しいことに、重力戦争時代に戦闘を主にしていた雷刀の方が己より力が勝っている。それに、睡魔に絆されつつある身体は平時よりも言うことが聞かない。抵抗しても無駄であることは烈風刀も理解していた。それでも、このまま兄の思うがままになるのは癪だ。
「雷刀」
「なぁに」
咎める声で名を呼ぶが、返ってくるのは砂糖を溶かしたような甘ったるい声だ。こつん、と額と額が触れあう。鼻先と鼻先が掠めあう。直接感じる温度と甘やかな呼吸に、浅海色の瞳がぱちりと瞬く。温もりでほのかに色付いていた肌に、ぱっと朱が広がった。反射的に顔を伏せ、首元まで布団に潜り込んでしまう。控えめな笑声が碧い頭に降り注いだ。
『兄弟』という関係から更に先に進んでしまった今、こうやって抱き合って眠るのは少なくない。顔を近づけ合うことだって数え切れないほどだ。それ以上のことだって、もう多分にやっている。けれども、この胸には恋を初めて知った乙女のような恥じらいがいつだって湧き起こるのだ。なんとも情けない。己でもほとほと呆れるが、湧いて出るものはどうしようもなかった。
烈風刀、と甘やかな声が己の名を紡ぎ出す。布団からはみ出た頭に温度が灯る。さらさらとした髪の間を、胼胝の浮かぶ指が流れるように梳いていく。眠れない子どもを安心させようとする親のような手つきだ。心地良くもあり、腹立たしくもあった。普段は初等部の子たちと同じほど子どもっぽいというのに、たまにこうやって兄ぶってくる。今のこれに至っては丸め込むための動きだ。薄い唇がきゅっと引き結ばれた。
「……寒いなら、毛布を増やせばいいではありませんか」
「これ以上毛布増やしたら重すぎて寝れねーって」
「いい加減湯たんぽを買ったらどうですか」
「売ってるのどれもちっさいじゃん。あんなんじゃ足りねぇ」
案を並べ立てるが、のらりくらりと躱されてしまう。どちらも眠りの海に足を浸しているというのに、それらしい言葉を紡ぎ出せてしまうのだから不思議だ。
背に回された手に力がこもる。途端、わずかにあった空白が埋まって、距離がゼロになる。鼓動の音まで聞こえてきそうだ。首筋に温度。肌を呼気が撫ぜる。すん、と息を吸う短い音が耳のすぐ側で聞こえた。そわりと背筋を何かが駆けていく。理解したくない感覚に、少年は美しい碧の瞳を伏せた。
闇の中、自分と違うようで似ている声が耳元で囁く。
だって烈風刀が一番温かい。烈風刀がいい。烈風刀じゃなきゃやだ。
世界がどう在ろうとも/レイ+グレ
あおいちさんには「どうか許さないでください」で始まり、「私は案外欲張りなんだよ」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば3ツイート(420字)以上でお願いします。
許さないでよ。
そう言って、彼女はこちらの胸元を強く掴んだ。崩折れそうなほど震えながらも布地を握り締める姿は、縋り付くと表現した方が正しい。すん、と鼻を啜る音が静かな部屋に落ちる。スピネルのような美しい瞳からしたたる雫が、己の膝に丸いシミを作っていく。生暖かいそれに、彼女が生きてこの場に存在していることを実感する。
泣きじゃくる躑躅色の頭をそっと撫ぜる。悪夢を見て飛び起きたからだろう、癖の強い髪は汗ばんでいた。しっとりとしたそれが愛おしい。
「許しマスヨ」
「やめてよ!」
とびきり優しく告げるが、返ってきたのは叫びだった。悲痛に濡れた、痛苦に塗れた、後悔が色濃く浮き出た音色が夜の空気を切り裂く。彼女の胸に抱える痛みが嫌というほど伝わってくる響きだった。
「許さないでよ……許されないんだから……」
一生許されないのよ。
絞り出すように呟いて、少女は嗚咽を漏らす。昂りすぎた感情に支配された頭は、もう意味のある語を成せないようだ。喉がひくつく音、鼻を啜る音が静寂を上塗りしていく。
悲嘆に暮れる妹を、正面からそっと抱き締める。小さな頭を己の肩に乗せ、ぽんぽんと優しく叩く。大丈夫デスヨ、と囁くと、ゆるゆると形の良い頭が横に振られた。癖のある躑躅が揺れる。
大丈夫、大丈夫。柔い輪郭を描く耳に、優しい囁きを落としていく。まじないのようであり、祈りにも似ていた。
彼女――グレイスは、時折とびきり悪い夢を見る。泣いて飛び起きるため、その内容は多くは語らない。けれども、言葉の端々からはあの闘いの日々に対する強い後悔が見て取れた。今日だってそうだ。許して、とうわごとのように繰り返していたというのに、起きた今は『許さないで』と正反対の言葉を紡ぐのだ。
許してほしい本心と、許されてはならないという強迫観念が彼女の精神を削っていく。どれほど苦しいのだろう。どれほど悲しいのだろう。どれほど願っているのだろう。想像を絶する感情であることぐらいは分かった。
そんな彼女に対して、自分は何ができるのだろうか。今はその頭を、背を撫で、体温を共有し、少しでも落ち着けてやることぐらいしかできなかった。歯痒さに桃色の眉が形を歪める。どれだけの権限を持とうと、己は無力だ。
「大丈夫デス。許されマス。皆、許していマスヨ」
「そんなわけないでしょ。そんなこと、あり得ないんだから」
「あり得マスヨ」
ワタシが何とかしてみせマス。
重力戦争では、多大な被害がネメシスを襲った。それに対して良い感情を抱いていない者はいるだろう。彼女の言う通り、許さないと言う者もいるだろう。けれども、大切な妹がこちらの世界にやってきた時に誓ったのだ。全てを何とかしてみせる、と。世界が彼女を受け入れてくれるよう全力を尽くす、と。
「全部、やってみせちゃいマスカラ。ワタシ、案外欲張りなんデスヨ?」
畳む
#プロ氷
#ニア
#ノア
#嬬武器烈風刀
#ライレフ
#レイシス
#グレイス
#腐向け
#プロ氷
#ニア
#ノア
#嬬武器烈風刀
#ライレフ
#レイシス
#グレイス
#腐向け
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SDVX
2024/1/31(Wed) 00:00
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触れあいを求めて/プロ氷
あおいちさんには「あーあ、言っちゃった」で始まり、「それを人は幸せと呼ぶらしい」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば8ツイート(1120字)以内でお願いします。
あぁ、言ってしまった。
ぎゅっと目をつむる彼女の顔はそう語っていた。俯いた顔は熟れきった赤色で、きゅっと引き結ばれた唇と胸の前で握られた拳はぷるぷると震えている。細い身体は己が身を守るように縮こまっていた。今までの彼女を見ていれば、彼女が持ちうる勇気を全て振り絞っているのだと分かる姿だった。
「ぁ、え…………、いいの? だ、大丈夫?」
だというのに、己の口から漏れ出た言葉はこれなのだから何と間抜けなのだろう。これだけ頑張っている彼女に向けて、何だその呆けた返答は。もっと真摯に向き合え。内なる自分が罵倒する。言い返すことなどできなかった。
「だっ、だいじょうぶ、です。でき、ます」
ぱっと顔を上げ、氷雪は識苑を見上げる。細い身はふるふると震えており、こちらをまっすぐに射抜く川底色の美しい瞳はかすかに潤んでいる。今まで何度も失敗してきたことなのだから怖いのだろう。未知の行為なのだから恐ろしいのだろう。けれども、その色の中にはその恐れを振り払った確かな決意が見えていた。
小さく頷き、朱に染まりきった頬へと手を伸ばす。触れた指先から伝わる温度は火傷しそうなほど熱い。愛おしい温度に、頬が緩んだ。
目閉じて、と声をかける。恥ずかしいほどに掠れた音だった。緊張しているのは己も同じなのだ。仕方無いだろう、愛おしい人と触れあう時が来たのだから。愛する少女に触れることをどれだけ待ちわびたことか。慕う少女に触れるのがどれだけ恐ろしいか。自分でも分からなくなるほどだ。
震えながらも目を閉じ顔を上げたままの少女へと顔を近づける。一センチ。二センチ。のろのろと、しかしながらも確かに離れていた間が縮まっていく。愛おしいかんばせが近づくにつれ、青年の顔も赤らむ。恥ずかしさから目を背けるように瞼を閉じた。
長い時を経て、二人の距離がゼロになる。薄くかさついた唇と、柔らかな小さな唇が重なった。
一秒にも満たない邂逅。それでも、触れあった感触は、熱は、存在は、確かなものだった。
そっと顔を離す。ゼロだった距離が、元通り頭二つ分離れる。恐る恐る目を開けると、翡翠の瞳と視線がかちあった。
「……でき、たね」
「……はい」
相も変わらず間の抜けた言葉に、肯定の語が返される。淡雪のようにすぐ溶けて消えてしまいそうな声だった。しかし、その愛らしい声は己の耳にしかと届いた。
「――よかったぁ……」
へなへなと情けなくその場にしゃがみこむ。張り詰めていた緊張の糸が完全に切れてしまい、どっと疲れが襲ってきた。膝に額を付け、はぁと大きく息を吐く。緊張が消えた心の内に、違うものが満ちていく。温かなそれに涙腺が刺激される。みっともなく緩みそうになるそれを必死に押し込めた。
「だ、だいじょうぶですか?」
「大丈夫だよー。……氷雪ちゃんこそ大丈夫?」
上空から降ってくる問いに手を振って返す。少しの沈黙の後、そっと顔を上げる。見上げた先の小さな顔は逆光で少し薄暗く見えるも、変わらず真っ赤に色付いていることがありありと分かった。
あ、ぅ、と淀んだ声が降り注ぐ。雪色の肌を朱に染めた少女は口元を着物の袖で覆う。口付けという恋人らしい行為に対しての羞恥が見て取れた。
「だ、だい、じょうぶ、です」
あの、えっと、と時折唸りながらも氷雪は言葉を続けようとする。未だしゃがみこんだままの識苑は、彼女が発言しようとする様をじぃと見つめ待っていた。引っ込み思案な彼女がこれだけ頑張って何かを言おうとするなど、珍しいことだ。聞いてあげたいに決まっていた。
「――やっときっ、き、す、できて、うれしかった、です」
長い沈黙の末、少女は拙いながらも言葉を紡ぐ。白銀の髪と同じ色をした眉がへにゃりと下がる。天河石の瞳が緩い弧を描く。その端から、透明な雫が静かに伝った。澄んだそれが悲しみや苦しみによるものではないのは、その幸い色に染まった表情を見れば明らかだった。
「……うん。俺も」
そう言って識苑は笑みを浮かべる。とろけた顔と言うのが相応しい様相だった。彼の顔も、少女と同じく幸い色で満ち満ちていた。
紙にインクが染み渡るように、胸の内に温かなものが広がっていく。今にもはち切れ溢れてしまいそうなこれを、人は幸せと呼ぶのだろう。
果てまで届け/ニア+ノア+レフ
AOINOさんには「ガラス瓶の中に想いを詰め込んだ」で始まり、「そのまま変わらずにいてね」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば5ツイート(700字)以内でお願いします。
ガラス瓶の中に、想いを詰め込んだ便箋を入れる。巻かれたそれは元の形に戻ろうとするが、すぐにガラスの壁に阻まれた。
「手紙だけでいいのですか?」
「貝殻も入れる!」
烈風刀の言葉に、ニアは大きな声で答える。隣で紙を入れるのに四苦八苦している妹の名前を呼ぶ。ちょっと待って、と慌てた声が返ってきた。
「僕が入れましょうか?」
「大丈夫だよっ」
見かねた少年が手を貸そうとするが、片割れは頑なに断る。一人で成し遂げたいのだろう。言い出したのは彼女なのだから。
数日前、ノアが一冊の本を差し出してきた。図書室で借りたらしいそれには、『ボトルレター』というものが登場していた。海の向こうへ想いを渡すそれは、ロマンチストな妹の胸をくすぐったのだろう。これやってみたい、と控えめな彼女にしては珍しくはっきりとした主張に、姉は大仰に頷いたのだった。
そして数日後の放課後、子ども二人きりで海に行こうとしたのを見かねてついてきた烈風刀と共に、砂浜へとやってきたのだ。
ようやく詰め終えた妹の手を取り、浜辺を歩く。両手で抱えられるほどの貝殻を拾い集め少年の元へ戻ると、彼は苦笑した。
「全部入りますかね」
「入れるの!」
揃って言うと、少年はそうですか、と口元を綻ばせた。
クリアな瓶に貝殻を詰め込んでいく。すぐに満たされていくそれに、崩れぬようにどうにか全部詰め込む。おぉ、と驚きと感心の声をあげる碧にふふん、と双子は胸を張った。
手紙と貝をたっぷり抱えた瓶を手に取る。そのまま、本の登場人物のように大きく振りかぶり、二人で一緒に遠くへと投げた。宙高く飛んだそれは、陽の光を浴びてキラリと光り、青い波間へと消えた。
「届くかな?」
「届くよー!」
「届きますよ、きっと」
妹の問いに、碧と蒼は同じことを言う。それがなんだか面白くて、ニアはクスクスと笑った。吊られるように、ノアも控えめな笑みを浮かべる。そんな双子を、烈風刀は穏やかなまなざしで眺めていた。
少女は光り輝く水平線を見やる。このまま、変わらず楽しくいたい。
戒/嬬武器烈風刀
あおいちさんには「また同じ夢を見た」で始まり、「その想いは海に沈めた」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば5ツイート(700字)以内でお願いします。
また同じ夢を見た。
胸元を強く握り締め、烈風刀は荒い息を繰り返す。こめかみを汗が伝う。心臓が痛いほど鼓動する。
己の身体を取り巻く茨が、鮮烈な朱を刺す。光剣が分厚いジャケットを切り裂く。晒された肌を裂く。布地が、紅が宙を散り彩る。
斬りつけて、斬りつけて、斬りつけた。それでも立ち上がり向かってくる彼に地に倒され、そして――
ぐ、と息が詰まる。呼吸が上手くできない。早鐘を打つ胸が痛む。脳の奥が何か叫び声をあげた。
意識的に息を吐き、深く吸いを繰り返す。うるさかった心音がゆっくりと収まっていく。乱れていた呼気もじきに落ち着きを取り戻した。
大丈夫。大丈夫だ。言い聞かせるように、心の中で何度も言葉を繰り返す。大丈夫だ。あんなことはもう二度と無い。あんなことはもう絶対に起こり得ない。あり得てはいけない。もう許されないことなのだ。
そうだ、己は許されない。忘れるな。仲間を、愛しい人を、大切な家族を傷付けた己は許されることはないのだ。優しい彼女がどれだけ良いと言おうとも、頼もしい兄がどれだけ気にするなと言おうとも、己は許されないのだ。
息を大きく吸い、一気に吐く。あれほど大量に湧いて出た汗は引いていた。静かな夜闇を碧が睨む。そこには、確かな意志が浮かんでいた。
許されない。許されるはずがない。許されてはいけない。当たり前の事実を今一度口の中で繰り返す。強い響きが身体に刻まれていく。何年もの歳月をかけて重ねられたそれは、もう消えることなどないものだ。
許されたいだなんて甘い想いは、あの輝かしい海に沈めたのだ。
移ろいゆくもの/神十字
あおいちさんには「みんな変わってしまうんだ」で始まり、「百年も待っていられないよ」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば11ツイート(1540字程度)でお願いします。
「皆変わっちまうんだよなぁ」
窓の外を見やりぽつりと呟く。こぼれた声は存外大きかったようで、少し離れた本棚の前に立つ青年がクスリと笑みを漏らした。
「当たり前ですよ。人間なのですから」
神様と一緒にしないでください、と軽口を叩き、男は手にしていた本を閉じ、棚へと戻した。白い指先がしばし宙を彷徨い、やがて止まる。背表紙に指を引っかけ、新たな本を取り出した。埃の香りがふわりと舞う。
「にしてもあっという間に変わっちまうじゃん。特に子どもはさ。オレの腰ぐらいしかなかったチビがいつの間にか頭一つ分まで迫ってきてんだぜ?」
身振り手振り交えつつ赤髪の男は言葉を紡ぐ。小さな子どもと相違ない様子に、緑髪の青年は密かに口元を緩めた。
「子どもの成長は早いですからね」
そう言って青年は開け放たれた窓の外を見やる。日向の中、幾人もの子どもが駆け回っていた。明確に自我を持ち始めた年頃の子もいれば、そろそろ『子ども』のカテゴリから外れるような年頃の子もいる。ここは『家族』を持たない者たちの集まりだ。様々な歳の子が所属していた。
「おもしれーよなー、子どもってさ」
「貴方は成長しませんものね」
「神がそう簡単に姿形が変わっちゃ困るだろ?」
「そうでしょうか」
「そうだろ。信仰対象がころころ姿変わったら何を信じたらいいか分からなくなっちまう」
「そうでもないと思いますよ。どんな姿であろうと、貴方が貴方であることに変わりはないのですから」
窓の向こうへと目を向けながら、二人は他愛のない応酬を重ねる。子どもたちを眺める眼差しは、親のそれだった。職員である緑髪の男はもちろんであること、それなりの年月をともに暮らした赤髪の男――人ならざる者である神も彼らを実子のように愛していた。
カツン、とヒールの音をたてて、神は青年に近寄る。赤い目が男の頭からつま先までじぃと見る。どうした、と蒼は目で問うた。
「お前は変わんねーよなー」
「それはそうですよ。僕はもう大人なんですよ? これ以上成長することなんてほとんどあり得ません」
そんなもんか、と首を傾げる紅に、そうですよ、と蒼は返す。その口元は穏やかに綻んでいた。
赤い頭が黒い服に包まれた肩に乗せられる。丸い青がぱちりと瞬いた。柔らかな髪が首筋を撫ぜる感覚に、小さな笑声が漏れ出た。
「……変わんないままでいてくれよ」
「それは無理ですよ。人間なのですから」
「さっき変わんねーっつったじゃん」
「それとこれとは別です」
人は絶対に変わってしまうものなのです。
青年――否、青年と呼ぶには幾分か年老いた男は、歌うように言葉を紡ぐ。諦観を孕んだ音色に、神は苦しげな音を漏らした。
「大丈夫ですよ。貴方のことは子どもたちにちゃんと伝え教えてあります。消えることは――」
「そうじゃねぇ!」
穏やかな笑みを浮かべた男の声を、鋭い声が切り裂く。張り詰めた、今にも泣き出しそうな響きだった。怖い夢を見て夜中に起きてしまった子どものそれに似ているように思え、青い瞳がゆるりと綻んだ。
寄り添った頭が離れる。黒い外套が翻る。タン、と地面を蹴る音。勢いに任せ、紅は蒼を強く抱き締めた。苦しいですよ、と男は背を叩くが、逆に力が込められるだけだ。聞き入れられる様子はなかった。
「十年もしたら僕のことなんて忘れますよ。だから、大丈夫」
「大丈夫なわけないだろ……」
子供をあやすように男は黒い背を叩く。絞り出すような低い声が返された。
十年だろうが百年だろうが、ずっと覚えて待っててやっからな。
呟きにも似た重い言葉に、蒼は背を叩くことで返した。
冬、君と共に/ライレフ
AOINOさんには「ぬくもりを半分こした」で始まり、「だから君がいい」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば12ツイート(1680字)以上でお願いします。
冬が来る度、ぬくもりを半分こする。
思ってたより寒いから。暖房代節約したいから。そんな稚拙な嘘を並べ立てて、今日も朱は枕片手に部屋を訪れる。シングルベッドは健康優良児である高校生二人を抱えるには狭いというのに、兄はいつだって屁理屈をこねて己のベッドに潜り込んでくるのだ。どれだけ拒否しようと、素早い動きで冷たい身体を布団に滑り込ませてくるのだから質が悪い。
今日の言い訳は『寒い』の一言だった。シンプルすぎる言葉は、温度計が示す室温を見るに真実であろう。だからといって、この歳にもなって兄弟二人一緒に寝るという選択肢が発生するのは訳が分からないのだけれど。
「烈風刀、もうちょいこっち」
声と同時に背中に手を回され、ぐいと身体を引かれる。それだけで二人の距離はゼロに等しいものとなった。ほんのりと相手の温度が伝わってくる。毛布に包まれた身体は柔らかな温もりで満たされており、優しい眠気を誘うものだ。隣にいる者が静かなら、このまま寝入ってしまってもおかしくない。
「暑いのですけれど」
「マジ? オレはこれでちょうどいいけど」
眇め、闇夜の中の朱を見る。声の調子から、その飴玉のようにまあるい輝く瞳を大きく開いていることが分かる。暑い、と主張したにもかかわらず、少年は布団の主を更に抱き寄せる。足に足が絡みつく。まるで蛸が餌を捕らえるような動きだ。心地良い温度が身体を包み込んでいく。睡魔が瞼をそっと撫ぜた。
「暑いですってば。離れてください」
「オニイチャン、烈風刀が離れたら寒くて眠れなくなっちゃうなー」
ぐいぐいと胸板を押してみるが、効果はほぼ無い。逆に背に回された手に力が入った。
悔しいことに、重力戦争時代に戦闘を主にしていた雷刀の方が己より力が勝っている。それに、睡魔に絆されつつある身体は平時よりも言うことが聞かない。抵抗しても無駄であることは烈風刀も理解していた。それでも、このまま兄の思うがままになるのは癪だ。
「雷刀」
「なぁに」
咎める声で名を呼ぶが、返ってくるのは砂糖を溶かしたような甘ったるい声だ。こつん、と額と額が触れあう。鼻先と鼻先が掠めあう。直接感じる温度と甘やかな呼吸に、浅海色の瞳がぱちりと瞬く。温もりでほのかに色付いていた肌に、ぱっと朱が広がった。反射的に顔を伏せ、首元まで布団に潜り込んでしまう。控えめな笑声が碧い頭に降り注いだ。
『兄弟』という関係から更に先に進んでしまった今、こうやって抱き合って眠るのは少なくない。顔を近づけ合うことだって数え切れないほどだ。それ以上のことだって、もう多分にやっている。けれども、この胸には恋を初めて知った乙女のような恥じらいがいつだって湧き起こるのだ。なんとも情けない。己でもほとほと呆れるが、湧いて出るものはどうしようもなかった。
烈風刀、と甘やかな声が己の名を紡ぎ出す。布団からはみ出た頭に温度が灯る。さらさらとした髪の間を、胼胝の浮かぶ指が流れるように梳いていく。眠れない子どもを安心させようとする親のような手つきだ。心地良くもあり、腹立たしくもあった。普段は初等部の子たちと同じほど子どもっぽいというのに、たまにこうやって兄ぶってくる。今のこれに至っては丸め込むための動きだ。薄い唇がきゅっと引き結ばれた。
「……寒いなら、毛布を増やせばいいではありませんか」
「これ以上毛布増やしたら重すぎて寝れねーって」
「いい加減湯たんぽを買ったらどうですか」
「売ってるのどれもちっさいじゃん。あんなんじゃ足りねぇ」
案を並べ立てるが、のらりくらりと躱されてしまう。どちらも眠りの海に足を浸しているというのに、それらしい言葉を紡ぎ出せてしまうのだから不思議だ。
背に回された手に力がこもる。途端、わずかにあった空白が埋まって、距離がゼロになる。鼓動の音まで聞こえてきそうだ。首筋に温度。肌を呼気が撫ぜる。すん、と息を吸う短い音が耳のすぐ側で聞こえた。そわりと背筋を何かが駆けていく。理解したくない感覚に、少年は美しい碧の瞳を伏せた。
闇の中、自分と違うようで似ている声が耳元で囁く。
だって烈風刀が一番温かい。烈風刀がいい。烈風刀じゃなきゃやだ。
世界がどう在ろうとも/レイ+グレ
あおいちさんには「どうか許さないでください」で始まり、「私は案外欲張りなんだよ」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば3ツイート(420字)以上でお願いします。
許さないでよ。
そう言って、彼女はこちらの胸元を強く掴んだ。崩折れそうなほど震えながらも布地を握り締める姿は、縋り付くと表現した方が正しい。すん、と鼻を啜る音が静かな部屋に落ちる。スピネルのような美しい瞳からしたたる雫が、己の膝に丸いシミを作っていく。生暖かいそれに、彼女が生きてこの場に存在していることを実感する。
泣きじゃくる躑躅色の頭をそっと撫ぜる。悪夢を見て飛び起きたからだろう、癖の強い髪は汗ばんでいた。しっとりとしたそれが愛おしい。
「許しマスヨ」
「やめてよ!」
とびきり優しく告げるが、返ってきたのは叫びだった。悲痛に濡れた、痛苦に塗れた、後悔が色濃く浮き出た音色が夜の空気を切り裂く。彼女の胸に抱える痛みが嫌というほど伝わってくる響きだった。
「許さないでよ……許されないんだから……」
一生許されないのよ。
絞り出すように呟いて、少女は嗚咽を漏らす。昂りすぎた感情に支配された頭は、もう意味のある語を成せないようだ。喉がひくつく音、鼻を啜る音が静寂を上塗りしていく。
悲嘆に暮れる妹を、正面からそっと抱き締める。小さな頭を己の肩に乗せ、ぽんぽんと優しく叩く。大丈夫デスヨ、と囁くと、ゆるゆると形の良い頭が横に振られた。癖のある躑躅が揺れる。
大丈夫、大丈夫。柔い輪郭を描く耳に、優しい囁きを落としていく。まじないのようであり、祈りにも似ていた。
彼女――グレイスは、時折とびきり悪い夢を見る。泣いて飛び起きるため、その内容は多くは語らない。けれども、言葉の端々からはあの闘いの日々に対する強い後悔が見て取れた。今日だってそうだ。許して、とうわごとのように繰り返していたというのに、起きた今は『許さないで』と正反対の言葉を紡ぐのだ。
許してほしい本心と、許されてはならないという強迫観念が彼女の精神を削っていく。どれほど苦しいのだろう。どれほど悲しいのだろう。どれほど願っているのだろう。想像を絶する感情であることぐらいは分かった。
そんな彼女に対して、自分は何ができるのだろうか。今はその頭を、背を撫で、体温を共有し、少しでも落ち着けてやることぐらいしかできなかった。歯痒さに桃色の眉が形を歪める。どれだけの権限を持とうと、己は無力だ。
「大丈夫デス。許されマス。皆、許していマスヨ」
「そんなわけないでしょ。そんなこと、あり得ないんだから」
「あり得マスヨ」
ワタシが何とかしてみせマス。
重力戦争では、多大な被害がネメシスを襲った。それに対して良い感情を抱いていない者はいるだろう。彼女の言う通り、許さないと言う者もいるだろう。けれども、大切な妹がこちらの世界にやってきた時に誓ったのだ。全てを何とかしてみせる、と。世界が彼女を受け入れてくれるよう全力を尽くす、と。
「全部、やってみせちゃいマスカラ。ワタシ、案外欲張りなんデスヨ?」
畳む
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