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No.118
書き出しと終わりまとめ11【SDVX】
書き出しと終わりまとめ11【SDVX】
あなたに書いて欲しい物語
でだらだら書いていたものまとめその11。ボというか嬬武器兄弟6個。毎度の如く診断する時の名前がちょくちょく違うのは気にしない。
成分表示:ライレフ(神十字)5/嬬武器兄弟1
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青空に白を浮かべて/神十字
AOINOさんには「ある晴れた日のことだった」で始まり、「そっと笑いかけた」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば7ツイート(980字)以内でお願いします。
ある晴れた昼下り。神、と愛しい声が己を示す語をなぞる。紙面に落としていた視線を上げる。広がった視界に洗濯かごを抱えた蒼の姿が映った。
「洗濯物干すの手伝ってくれませんか?」
眉尻を少し下げた青年は、手にしたかごを軽く持ち上げる。中にはシーツと思われる白い布がこんもりと山を成していた。きっと、今朝回収したのだろう。これだけ晴れているのだから、シーツのような大きなものを乾かすにはちょうどいい。
いいぜ、と返し、本を棚に戻す。小走りで駆け寄り、洗濯かごをその手から奪った。大丈夫ですよ、と青年は軽く眉を寄せる。いーの、と言って、奪い取られないよう強く抱きかかえた。
「貴方、過保護なところがありますよね」
「そーか? オレの方が力あんだから、オレが持った方がごーりてきじゃん」
どこか呆れた様子の彼に、飄々とした口調で返す。事実ではある。日々子どもの相手をする彼は見た目以上に力があるが、人間誰しも限界がある。働き者の彼が疲労という限界を少しでも迎えないよう気を遣うのは、人を守る存在として――彼に救われ慕う身として当たり前だ。
裏口を開け、庭に出る。晴天という言葉がよく似合う、陽の光と鮮やかな青と緑が眩しい世界だった。絶好の洗濯日和だ。蒼は駆け足で物干し場に向かい、ロープを張る。その後ろを紅はゆったりとした歩調で続いた。
かごを地面に置き、中からシーツを一枚取り出す。大判のそれをバサリと一度振り、皺を伸ばす。広がったそれを、ピンと張られたロープに跨がせる。傍らのかごに入れられた洗濯ばさみで両横を閉じ、手でパンパンと生地を叩く。これで一枚完成だ。
「すっかり様になっていますね」
いつの間にか戻ってきた青年はそう言ってクスクスと笑う。目を細め口元に指をやるその笑みはどこか上品だ。協会周りに咲く、名も知らぬこぶりな白い花が脳裏に浮かんだ。
「洗濯物が様になる神様って何だよ……」
「人に寄り添う優しい優しい神様のことではありませんか?」
頬を膨らませ返すが、相手は気にする様子もない。歌うように言うと、彼もシーツを一枚手に取る。己と同じように広げ、吊るし、止める。そよぐ風が二枚の白い布を揺らせた。
「さ、早く干してしまいましょう」
「おう」
手分けしてどんどんと敷布を干していく。はためく布が二桁を越したところで、かごの中は元の茶色に戻った。
「ありがとうございます。おかげで早く終わりました」
「つかれたー……」
溜め息を吐くようにこぼし、ぐっと背伸びをする。見上げた空は雲一つなく青い。風も適度に吹いているから、きっとすぐに乾くだろう。干したての匂いのするシーツに身を任せる幸せを思い浮かべ、神は口元を緩める。今日の子どもたちは幸せに包まれて眠るのだろう。良いことだ。
「うちのシーツも今日洗えばよかったなー」
「そうですね。これだけ天気が良ければすぐに乾くでしょうし」
「今から帰って洗ってくるか?」
藍玉がぱちりと瞬く。瞬間、ふ、と笑声が緑の草原に落ちた。はは、と青年は大口を開けて笑う。浅葱の睫毛に縁取られた目が、大きく弧を描いた。
「何で笑うんだよ」
「い、いえ、すみません」
突然笑われ、思わず不服げな声を漏らす。善意で言ったというのに、こうも笑われては流石に気分が良くない。すみません、と謝る声は笑みを噛み殺したものだ。ふふ、と笑い声が蒼天に登った。
「すっかり人の生活に馴染みましたね」
はー、と息を吐きながら、蒼は言う。ぱちり、と紅玉の目が瞬いた。
たしかに彼の言う通りだ。昔の――目覚めたての自分ならば、わざわざ洗濯物を気にかけることなどしなかっただろう。すっかり人の生活に慣れた証拠だ――それほど、彼と共に過ごし、生きてきた証拠でもある。喜ばしいことなのだろうか。それとも神として嘆くべきことなのだろうか。
「大丈夫ですよ。神様にそこまでさせられません」
地面に置いたかごを抱え、青年は笑いかけた。ふふ、とまた声を漏らして笑う。よほどツボに入ったらしい。そこまで笑わなくていいだろ、と唇を尖らせる。すみません、と再び謝る声は、やはり笑みを含んだものだ。
「さ、戻りましょう。お茶を用意しますね」
「やった」
「洗濯物を気にかけてくれる優しい神様は労らないといけませんからね」
「……そろそろ怒るぞ」
「すみません」
軽口を叩きながら、二人連れ立って歩く。草が掻き分けられる音が空に響いた。
依然口元が緩んだ横顔を見る。幸せそうなそれは、いつだって己が求めてきたものだ。ヒトの笑顔は尊く素晴らしいものだ。それが、愛する者のものならば尚更だ。
「お茶請け多めで許してやんよ」
茶目っ気たっぷりに言って、人に寄り添う神様は愛しい笑顔にそっと笑いかけた。
夜、二人きり、鼓動重ねて/神十字
AOINOさんには「暗闇なんて怖くなかった」で始まり、「緑が目に眩しかった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば5ツイート(700字)以内でお願いします。
暗闇が怖くないといえば嘘になる。
ヒトと暮らす幸せを思い出してしまった今、再び眠りという闇に包まれるのがほんの少しだけ恐ろしかった。また一人になる。また忘れ去られる。昔は諦観していたそれらは、今では考えただけで怖気がそわりと走るのだ。
「貴方、たまに甘えたになりますよね」
クスクスと笑い声が耳をくすぐる。囁くような声音は、幼い子どもに語りかける時のそれと同じだ。
「いーじゃん、たまになんだから」
濁す言葉は拗ねた響きをしていた。これでは子ども扱いされても仕方がない。己の幼稚さに思わず眉を寄せる。閉じられた口がもにょもにょと動いた。
そうですね、と返し、枕に頭を預けた青年は目を細める。言葉を紡ぐ口元は、依然緩い弧を描いていた。ふふ、と上機嫌な笑声がベッドに落ちる。夜闇の中の翡翠は眠気で潤んで見えた。
ごそごそと布団の中で身体を動かし、目の前の蒼に寄る。腕を伸ばし、そのまま隣に横たわる身を抱き締めた。
ゼロ距離の中、白い首元に顔を寄せる。石鹸の清潔な匂いが鼻孔をくすぐる。服越しに、温かな熱が伝わってくる。とくりとくりと命の脈動が聞こえる。
生きている。ここにいる。存在している。
それを、自らの手で確認できる。
胸の闇を払う幸福に、人ならざる者は小さく息を吐く。白い肌にぐりぐりと頭を擦り付ける。くすぐったいですよ、と笑みを含んだ抗議の声があがった。
トントンと背に触れる手が穏やかなリズムを刻む。幼子を寝かしつける手付きだ。今日はとことん子ども扱いだ。不満だが、心地のいいそれには抗うことができなかった。
「おやすみなさい」
愛しい声が耳をくすぐる。顔を離し、枕に頭を預け、真正面から愛し子を見つめる。紅玉に射抜かれた藍玉はぱちりと瞬き、柔らかに細められた。
カーテンの隙間から差し込む月明かりに照らされた碧が、夜だというのに眩しいぐらいつやめいて見えた。
上手くなるまでいっぱいれんしゅーしよーな/ライレフ
あおいちさんには「呼吸も忘れてしまいそうだった」で始まり、「魔法は3秒で解けました」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば8ツイート(1120字程度)でお願いします。
呼吸なぞ忘れてしまった。
ぬめる舌が口腔を荒らす。歯を、硬口蓋を、頬粘膜を、赤が隅々まで味わっていく。熱が、己のそれを攫って絡みつく。ざらりとした表面を擦り合わせると、背筋を何かが走っていく。肩に添えた手に力が入る。捕らえられた頬をよりがっしりと掴まれ、熱塊が更なる奥へと潜り込んだ。
頭がぼぅと靄がかっていく。口吻による快楽だけではない、酸素が不足しているのだ。バシバシと掴んだ肩を叩く。意図を察してか、重なった唇が離れていく。未練がましく伸ばされた舌と舌との間に、透明な糸が橋がかった。
「烈風刀、ほんとに息継ぎ下手くそだよなー」
余裕綽々といった様子で雷刀は言う。うるさい、と発しようとした声は喉奥に消えた。代わりに、悔しげな呻きが漏れた。
息継ぎが下手であるのは全くの事実だ。快楽に溺れやすい己の身体は、目の前の悦びに身を委ねすぐに呼吸の仕方を忘れてしまう。浅い触れ合いなら何とかなる。けれども、今のような深いものとなると、悦楽に翻弄され息を忘れてしまうのだ。
なんと淫らなのだろう。なんとはしたないのだろう。己でも嫌気が差す。けれども、どれだけ嫌悪を積み重ねようが、兄によって暴かれた本性は変わりようがなかった。むしろ、悪化の一途を辿っている。頭を抱える他ない。
「れんしゅーする?」
赤い舌が伸ばされ、ちろりと唇を舐められる。真正面から見据える紅玉の奥には、炎がきらめいていた。情火燃ゆる瞳に射抜かれ、腹の奥が鳴き声をあげる。気がつけば、はい、と細い声で返していた。
彼の言う『練習』なぞ、口実でしかない。それを理解した上で――理解するより先に本能が返答をしたのだから、己も大概だ。若葉の眉が寄せられる。ちゅ、と眉間に口づけが落とされた。
ちゅ、ちゅ、とリップ音が降りてくる。温かな唇が、己のそれと重なる。刹那、熱は離れた。
「ちょっとずつ長くしてこーなー」
困ったように眉を下げ、兄は笑う。そんな表情をさせるほど、己は浅ましい顔を晒していたようだ。頬に熱が集まる。きゅ、と唇を真横に引き結んだ。
ふ、と笑声。瞬間、また唇が重なる。一秒触れて、離れて、二秒重なって、離れて、三秒交わって、離れて。付いて離れてを繰り返す。ふ、と鼻にかかった音が漏れた。
「そうそう、鼻で息吸って」
言葉とともに、口づけが降ってくる。今度は押し付け合うような長いものだ。声の通り、鼻で呼吸をする。けれども、それもすぐに途切れた。
ぬめる塊が唇を撫でる。反射的に開くと、すぐさま熱い舌が侵入してくる。ちょんと先で突いて、舐めて、絡み合う。重なる度、合わさった場所から甘い息が漏れ出る。呼気が出ていくばかりで、吸気に気を払うことなどできなかった。
兄の言葉など、三秒も経たずに解けて消えた。
笑顔奏でる貴方が/嬬武器兄弟
あおいちさんには「あなたはいつも笑うから」で始まり、「来年の今日もあなたといたい」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば7ツイート(980字)以上でお願いします。
この人はいつも笑うな、と心の底で呟く。
もちろん、相応に怒ったり、悲しんだり、泣いたりする姿も見る。けれども、その顔に一番多く浮かぶのは晴れやかな笑みなのだ。いつだって、彼は世界の全てを楽しむように笑っている。
胼胝の浮かんだ硬い手が、指板の上を素早く駆ける。小さなピックが弦を弾く。様々な機械を通し、音を形作ってステージ上に響いた。攻撃的な音色に混じって、微かな鼻歌が耳に届く。上機嫌なそれは、今演奏中の楽曲だ。女性ボーカルのそれが、オクターブ低い音で奏でられる。
また笑っている。それも、鼻歌なんか歌うくらい楽しそうに。同じくピックを操りながら、烈風刀は横目で兄を見やる。普段からよく動く大きな口は、愉快げに口角を上げていた。手元を覗く瞳も、ぱっちりと開き輝いている。
明日は今年三度のライブステージだ。それも、別世界からのゲストを交えた大きなものである。緊張を覚えるのが普通だ。少なくとも、己は緊張を覚えている。楽器を手にするようになってからまだ日は浅く、ステージに立つようになったのもまだまだ数が少ない。ただでさえ緊張する場面だというのに、加えてゲストを招くなんて普段以上にミスが許されない状況に置かれているのだ。神経が張り詰めてしまうのも仕方の無いことである。
だのに、兄はこんな状況でも笑っているのだ。普段と変わらず笑みを浮かべ、変わらぬ風に軽やかにピックを操り、豊かな音色を奏でる。神経が尖った今の己には、異常にすら映る光景だ。こんな大舞台を前に、常と変わらずにいられるだなんて、どれだけ肝が据わっているのだろう。それとも彼らしく何も考えていないのだろうか、なんて失礼なことを考える。
「どした?」
ギターに吸い込まれていた朱い目がこちらに向かう。無意識に顔までそちらに向いていたようだ。焦りが胸を走る。きゅ、と喉が締まる感覚がした。
「あ、もしかしてミスってた?」
「いえ、合ってますよ」
少しの不安を浮かべた顔に、首を振って返す。事実、雷刀の奏でるメロディは正確なものだった。音はもちろんリズムの狂いすら無いのだから恐ろしい。
よかったぁ、と再び笑顔が咲く。依然明るい、陳腐な表現をすれば向日葵のような大輪の笑みだ。こんな状況でも笑うだなんて。胸の底に何かが渦巻く感覚がした。
「……緊張しないのですか?」
気づけば、言葉が口を突いて出ていた。しまった、と反射的に顔をしかめる。そんなことを聞いても仕方無いということなど分かっているというのに。どうせ『してない』とばっさり切られるのが関の山だ。
「してるぜ?」
きょとりとした表情で雷刀は言う。予想外の返答に、浅葱の瞳がまあるく見開かれる。驚愕を表すように、ぱちぱちと幾度も瞬いた。
「軽音部とかでライブは結構やってるけどさー、これだけ規模でかいのは初めてなんだよな。さすがに緊張する」
ピックを指で擦りながら、兄はへらりと笑う。眉の端が少し下がった、少し頼りがないものだ。『緊張』という言葉が己を安心させるための嘘ではないと言うことを裏付けていた。
「……では、何故そんなに笑っているのですか? 緊張してる人の表情とはとても思えませんよ」
彼の表情はどう見ても普段と同じだ。太陽のように明るい笑顔を浮かべ、心の底から楽しそうに弦を弾く。これが緊張している人間の動きだとは到底思えなかった。
「緊張はしてるけどさ、それと楽しいのは別じゃん? 楽しかったら笑うって」
「そう……でしょうか」
言葉の意味は分かる。大舞台への緊張と、演奏する楽しさは全くの別物だ。けれども、『演奏する』ということ自体に重圧が掛かり、演奏と緊張がイコールで繋がった今、常のような楽しさを覚えるのは難しい。完全に忘れたわけではないが、薄れてしまっているのは確かだ。
「そうだって」
だいじょーぶだいじょーぶ、と元気な声とともに背を叩かれる。力の加減というものを知らない彼のそれは少しの痛みを覚えるものだ。しかし、何故か今はそれが頼もしかった。
「来年も一緒にやってりゃ分かるって!」
どうせ行くならデートで/ライレフ
AOINOさんには「たまには遠回りしてみようか」で始まり、「あーあ、言っちゃった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字)以内でお願いします。
「たまには遠回りしてみねぇ?」
隣を歩いていた兄が一歩前に出て振り返る。肩にかけた鞄の中身がガサと音をたてた。
「嫌ですよ。お肉とお魚が傷むでしょう」
弾んだ銚子の提案を、烈風刀はバッサリ切り捨てる。今日のセールは肉と魚が特に安く、いつもより多く買い込んだのだ。早く帰って生鮮食品を冷蔵庫に入れなければならない。意味も無く遠回りをする余裕など無かった。
それもそっか、と呟き、雷刀は弟の隣へと戻る。珍しく諦めがいい。彼の突飛な思いつきも、大切な日々の食材には敵わないらしい。
「かき氷食いたかったんだけどなー」
「かき氷?」
「こっからちょっと外れたところに和菓子屋? があるんだけどさ、そこのかき氷がうめーらしいんだよ」
そういえば、この間レイシスがそのようなことを話していたことを思い出す。グレイスと行ってきたんデスヨ、と語る彼女の表情は幸福でとろけていた。かき氷のおいしさはもちろん、溺愛する妹と共に過ごせたのが嬉しいのだろう。
「今日行く必要は無いでしょう」
「だってこっちのスーパーに行くことあんまりねーし。それに、こういう時でもねーと二人で一緒に出かけねーじゃん」
たしかに、二人が住む部屋から少しばかり離れたこのスーパーを利用することは少ない。今日訪れたのも、大型のセールが行われていたからだ。学園からも離れ、通学路として利用することのないこの道を通ることはあまりないことだ。
しかし、と烈風刀は横目で兄を見やる。碧の瞳に映る横顔は少しむくれていた。思いつきの提案だと思っていたが、もしかしたら家を出た時から算段を立てていたのかもしれない。それをすげなく却下されたのならばこの反応にも納得だ。
「……かき氷ぐらい、次の休みに食べに行けばいいじゃないですか」
甘味ぐらい、こんな買い物帰りでなくとも普通に二人で出かけて食べに行けばいいではないか。確かに、日々の学業と運営業務で疲れた身体を癒やすために休日は家にいることが多いが、出かけるのが嫌なわけではない。恋人とならば尚更だ。
ぽろりと言葉がこぼれ落ちる。小さなそれは、風に乗って兄の耳まで届いたらしい。えっ、と驚いたような、嬉しそうな声が隣から聞こえた。突然の音に、それが意味することに、少年ははっと目を開く。それもすぐに苦々しげに細められた。
「……うん! そーだな! 次の休みに行こ! 約束な!」
弾みに弾んだ声が耳に飛び込んでくる。視線をやらなくとも、兄が喜色満面の笑みを浮かべているのが分かった。
楽しみだなー、と跳ねる音が前に出る。次の休日への期待に突き動かされているのか、彼はどんどんと歩いて行く。そのまま走り出しそうな勢いだ。あぁもう、とこぼし、烈風刀も歩みを早めた。
あぁ、言ってしまった。もう戻すことなどできない。この言葉も、湧いて出た期待と喜びも。
音にできない五文字/ライレフ
AOINOさんには「たった5文字が言えなかった」で始まり、「少しだけ待っていて」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字)以内でお願いします。
たった五文字すら言えないのか、自分は。
考え、歯噛みする。口の奥で嫌な音が響いた。
は、と息を吐く。す、と息を吸う。呼吸を幾度も繰り返し、ようやく口を開く。薄く開いた唇の隙間から、あ、の一音が漏れ出た。
「あ……あ、ぅ……ぁ、あ」
言葉を発するべき口から出てくるのは、意味を成さない単音ばかりだ。それも、今にも消え入りそうな薄っぺらい音である。あんまりな醜態に、再び奥歯を噛み締める。エナメル質が削れてしまいそうなほど固い音が引き結んだ口から漏れ出た。
トントン、と抱き締められた背を叩かれる。優しいリズムが身体に、心に染みていく。噛み締められた口元がほろりと解けた。
落ち着けって、と宥める声が耳をくすぐる。柔らかなそれは、明らかに己を気遣ってのものだ。『愛してる』なんて簡単な言葉を口にすることができない、愚かな己を。
その事実が心臓を突き刺す。頭の奥底から自身に対する罵倒が沸いて出ては反響する。白い眉間に深い皺が刻まれた。
「無理して言うことじゃねーからな? また今度で――」
「む、無理では、ありません」
反射的に声を遮る。柔らかな言葉を切り捨てる音は、愚かなほどに震えていた。
そうだ、無理ではない。言える。自分だって『愛してる』の五文字ぐらい言えるのだ。そんな短い言葉、言えないはずがないのだ。当たり前のことだ。誰にだって絶対にできることなのだ。
言い聞かせるように心の内で言葉を重ねる。大丈夫、大丈夫、と唱える。それでも、心の臓は己でも驚くほど早鐘を打ち、脳味噌は溶けてしまったかのように思考がまとまらない。喉がきゅうと狭まる感覚がした。
言える。言うんだ。言わなければ。はく、と口を開く。声帯が震え、音を作り出した。
「……も、もう少しだけ、待ってください」
畳む
#ライレフ
#嬬武器雷刀
#嬬武器烈風刀
#腐向け
#ライレフ
#嬬武器雷刀
#嬬武器烈風刀
#腐向け
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SDVX
2024/1/31(Wed) 00:00
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青空に白を浮かべて/神十字
AOINOさんには「ある晴れた日のことだった」で始まり、「そっと笑いかけた」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば7ツイート(980字)以内でお願いします。
ある晴れた昼下り。神、と愛しい声が己を示す語をなぞる。紙面に落としていた視線を上げる。広がった視界に洗濯かごを抱えた蒼の姿が映った。
「洗濯物干すの手伝ってくれませんか?」
眉尻を少し下げた青年は、手にしたかごを軽く持ち上げる。中にはシーツと思われる白い布がこんもりと山を成していた。きっと、今朝回収したのだろう。これだけ晴れているのだから、シーツのような大きなものを乾かすにはちょうどいい。
いいぜ、と返し、本を棚に戻す。小走りで駆け寄り、洗濯かごをその手から奪った。大丈夫ですよ、と青年は軽く眉を寄せる。いーの、と言って、奪い取られないよう強く抱きかかえた。
「貴方、過保護なところがありますよね」
「そーか? オレの方が力あんだから、オレが持った方がごーりてきじゃん」
どこか呆れた様子の彼に、飄々とした口調で返す。事実ではある。日々子どもの相手をする彼は見た目以上に力があるが、人間誰しも限界がある。働き者の彼が疲労という限界を少しでも迎えないよう気を遣うのは、人を守る存在として――彼に救われ慕う身として当たり前だ。
裏口を開け、庭に出る。晴天という言葉がよく似合う、陽の光と鮮やかな青と緑が眩しい世界だった。絶好の洗濯日和だ。蒼は駆け足で物干し場に向かい、ロープを張る。その後ろを紅はゆったりとした歩調で続いた。
かごを地面に置き、中からシーツを一枚取り出す。大判のそれをバサリと一度振り、皺を伸ばす。広がったそれを、ピンと張られたロープに跨がせる。傍らのかごに入れられた洗濯ばさみで両横を閉じ、手でパンパンと生地を叩く。これで一枚完成だ。
「すっかり様になっていますね」
いつの間にか戻ってきた青年はそう言ってクスクスと笑う。目を細め口元に指をやるその笑みはどこか上品だ。協会周りに咲く、名も知らぬこぶりな白い花が脳裏に浮かんだ。
「洗濯物が様になる神様って何だよ……」
「人に寄り添う優しい優しい神様のことではありませんか?」
頬を膨らませ返すが、相手は気にする様子もない。歌うように言うと、彼もシーツを一枚手に取る。己と同じように広げ、吊るし、止める。そよぐ風が二枚の白い布を揺らせた。
「さ、早く干してしまいましょう」
「おう」
手分けしてどんどんと敷布を干していく。はためく布が二桁を越したところで、かごの中は元の茶色に戻った。
「ありがとうございます。おかげで早く終わりました」
「つかれたー……」
溜め息を吐くようにこぼし、ぐっと背伸びをする。見上げた空は雲一つなく青い。風も適度に吹いているから、きっとすぐに乾くだろう。干したての匂いのするシーツに身を任せる幸せを思い浮かべ、神は口元を緩める。今日の子どもたちは幸せに包まれて眠るのだろう。良いことだ。
「うちのシーツも今日洗えばよかったなー」
「そうですね。これだけ天気が良ければすぐに乾くでしょうし」
「今から帰って洗ってくるか?」
藍玉がぱちりと瞬く。瞬間、ふ、と笑声が緑の草原に落ちた。はは、と青年は大口を開けて笑う。浅葱の睫毛に縁取られた目が、大きく弧を描いた。
「何で笑うんだよ」
「い、いえ、すみません」
突然笑われ、思わず不服げな声を漏らす。善意で言ったというのに、こうも笑われては流石に気分が良くない。すみません、と謝る声は笑みを噛み殺したものだ。ふふ、と笑い声が蒼天に登った。
「すっかり人の生活に馴染みましたね」
はー、と息を吐きながら、蒼は言う。ぱちり、と紅玉の目が瞬いた。
たしかに彼の言う通りだ。昔の――目覚めたての自分ならば、わざわざ洗濯物を気にかけることなどしなかっただろう。すっかり人の生活に慣れた証拠だ――それほど、彼と共に過ごし、生きてきた証拠でもある。喜ばしいことなのだろうか。それとも神として嘆くべきことなのだろうか。
「大丈夫ですよ。神様にそこまでさせられません」
地面に置いたかごを抱え、青年は笑いかけた。ふふ、とまた声を漏らして笑う。よほどツボに入ったらしい。そこまで笑わなくていいだろ、と唇を尖らせる。すみません、と再び謝る声は、やはり笑みを含んだものだ。
「さ、戻りましょう。お茶を用意しますね」
「やった」
「洗濯物を気にかけてくれる優しい神様は労らないといけませんからね」
「……そろそろ怒るぞ」
「すみません」
軽口を叩きながら、二人連れ立って歩く。草が掻き分けられる音が空に響いた。
依然口元が緩んだ横顔を見る。幸せそうなそれは、いつだって己が求めてきたものだ。ヒトの笑顔は尊く素晴らしいものだ。それが、愛する者のものならば尚更だ。
「お茶請け多めで許してやんよ」
茶目っ気たっぷりに言って、人に寄り添う神様は愛しい笑顔にそっと笑いかけた。
夜、二人きり、鼓動重ねて/神十字
AOINOさんには「暗闇なんて怖くなかった」で始まり、「緑が目に眩しかった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば5ツイート(700字)以内でお願いします。
暗闇が怖くないといえば嘘になる。
ヒトと暮らす幸せを思い出してしまった今、再び眠りという闇に包まれるのがほんの少しだけ恐ろしかった。また一人になる。また忘れ去られる。昔は諦観していたそれらは、今では考えただけで怖気がそわりと走るのだ。
「貴方、たまに甘えたになりますよね」
クスクスと笑い声が耳をくすぐる。囁くような声音は、幼い子どもに語りかける時のそれと同じだ。
「いーじゃん、たまになんだから」
濁す言葉は拗ねた響きをしていた。これでは子ども扱いされても仕方がない。己の幼稚さに思わず眉を寄せる。閉じられた口がもにょもにょと動いた。
そうですね、と返し、枕に頭を預けた青年は目を細める。言葉を紡ぐ口元は、依然緩い弧を描いていた。ふふ、と上機嫌な笑声がベッドに落ちる。夜闇の中の翡翠は眠気で潤んで見えた。
ごそごそと布団の中で身体を動かし、目の前の蒼に寄る。腕を伸ばし、そのまま隣に横たわる身を抱き締めた。
ゼロ距離の中、白い首元に顔を寄せる。石鹸の清潔な匂いが鼻孔をくすぐる。服越しに、温かな熱が伝わってくる。とくりとくりと命の脈動が聞こえる。
生きている。ここにいる。存在している。
それを、自らの手で確認できる。
胸の闇を払う幸福に、人ならざる者は小さく息を吐く。白い肌にぐりぐりと頭を擦り付ける。くすぐったいですよ、と笑みを含んだ抗議の声があがった。
トントンと背に触れる手が穏やかなリズムを刻む。幼子を寝かしつける手付きだ。今日はとことん子ども扱いだ。不満だが、心地のいいそれには抗うことができなかった。
「おやすみなさい」
愛しい声が耳をくすぐる。顔を離し、枕に頭を預け、真正面から愛し子を見つめる。紅玉に射抜かれた藍玉はぱちりと瞬き、柔らかに細められた。
カーテンの隙間から差し込む月明かりに照らされた碧が、夜だというのに眩しいぐらいつやめいて見えた。
上手くなるまでいっぱいれんしゅーしよーな/ライレフ
あおいちさんには「呼吸も忘れてしまいそうだった」で始まり、「魔法は3秒で解けました」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば8ツイート(1120字程度)でお願いします。
呼吸なぞ忘れてしまった。
ぬめる舌が口腔を荒らす。歯を、硬口蓋を、頬粘膜を、赤が隅々まで味わっていく。熱が、己のそれを攫って絡みつく。ざらりとした表面を擦り合わせると、背筋を何かが走っていく。肩に添えた手に力が入る。捕らえられた頬をよりがっしりと掴まれ、熱塊が更なる奥へと潜り込んだ。
頭がぼぅと靄がかっていく。口吻による快楽だけではない、酸素が不足しているのだ。バシバシと掴んだ肩を叩く。意図を察してか、重なった唇が離れていく。未練がましく伸ばされた舌と舌との間に、透明な糸が橋がかった。
「烈風刀、ほんとに息継ぎ下手くそだよなー」
余裕綽々といった様子で雷刀は言う。うるさい、と発しようとした声は喉奥に消えた。代わりに、悔しげな呻きが漏れた。
息継ぎが下手であるのは全くの事実だ。快楽に溺れやすい己の身体は、目の前の悦びに身を委ねすぐに呼吸の仕方を忘れてしまう。浅い触れ合いなら何とかなる。けれども、今のような深いものとなると、悦楽に翻弄され息を忘れてしまうのだ。
なんと淫らなのだろう。なんとはしたないのだろう。己でも嫌気が差す。けれども、どれだけ嫌悪を積み重ねようが、兄によって暴かれた本性は変わりようがなかった。むしろ、悪化の一途を辿っている。頭を抱える他ない。
「れんしゅーする?」
赤い舌が伸ばされ、ちろりと唇を舐められる。真正面から見据える紅玉の奥には、炎がきらめいていた。情火燃ゆる瞳に射抜かれ、腹の奥が鳴き声をあげる。気がつけば、はい、と細い声で返していた。
彼の言う『練習』なぞ、口実でしかない。それを理解した上で――理解するより先に本能が返答をしたのだから、己も大概だ。若葉の眉が寄せられる。ちゅ、と眉間に口づけが落とされた。
ちゅ、ちゅ、とリップ音が降りてくる。温かな唇が、己のそれと重なる。刹那、熱は離れた。
「ちょっとずつ長くしてこーなー」
困ったように眉を下げ、兄は笑う。そんな表情をさせるほど、己は浅ましい顔を晒していたようだ。頬に熱が集まる。きゅ、と唇を真横に引き結んだ。
ふ、と笑声。瞬間、また唇が重なる。一秒触れて、離れて、二秒重なって、離れて、三秒交わって、離れて。付いて離れてを繰り返す。ふ、と鼻にかかった音が漏れた。
「そうそう、鼻で息吸って」
言葉とともに、口づけが降ってくる。今度は押し付け合うような長いものだ。声の通り、鼻で呼吸をする。けれども、それもすぐに途切れた。
ぬめる塊が唇を撫でる。反射的に開くと、すぐさま熱い舌が侵入してくる。ちょんと先で突いて、舐めて、絡み合う。重なる度、合わさった場所から甘い息が漏れ出る。呼気が出ていくばかりで、吸気に気を払うことなどできなかった。
兄の言葉など、三秒も経たずに解けて消えた。
笑顔奏でる貴方が/嬬武器兄弟
あおいちさんには「あなたはいつも笑うから」で始まり、「来年の今日もあなたといたい」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば7ツイート(980字)以上でお願いします。
この人はいつも笑うな、と心の底で呟く。
もちろん、相応に怒ったり、悲しんだり、泣いたりする姿も見る。けれども、その顔に一番多く浮かぶのは晴れやかな笑みなのだ。いつだって、彼は世界の全てを楽しむように笑っている。
胼胝の浮かんだ硬い手が、指板の上を素早く駆ける。小さなピックが弦を弾く。様々な機械を通し、音を形作ってステージ上に響いた。攻撃的な音色に混じって、微かな鼻歌が耳に届く。上機嫌なそれは、今演奏中の楽曲だ。女性ボーカルのそれが、オクターブ低い音で奏でられる。
また笑っている。それも、鼻歌なんか歌うくらい楽しそうに。同じくピックを操りながら、烈風刀は横目で兄を見やる。普段からよく動く大きな口は、愉快げに口角を上げていた。手元を覗く瞳も、ぱっちりと開き輝いている。
明日は今年三度のライブステージだ。それも、別世界からのゲストを交えた大きなものである。緊張を覚えるのが普通だ。少なくとも、己は緊張を覚えている。楽器を手にするようになってからまだ日は浅く、ステージに立つようになったのもまだまだ数が少ない。ただでさえ緊張する場面だというのに、加えてゲストを招くなんて普段以上にミスが許されない状況に置かれているのだ。神経が張り詰めてしまうのも仕方の無いことである。
だのに、兄はこんな状況でも笑っているのだ。普段と変わらず笑みを浮かべ、変わらぬ風に軽やかにピックを操り、豊かな音色を奏でる。神経が尖った今の己には、異常にすら映る光景だ。こんな大舞台を前に、常と変わらずにいられるだなんて、どれだけ肝が据わっているのだろう。それとも彼らしく何も考えていないのだろうか、なんて失礼なことを考える。
「どした?」
ギターに吸い込まれていた朱い目がこちらに向かう。無意識に顔までそちらに向いていたようだ。焦りが胸を走る。きゅ、と喉が締まる感覚がした。
「あ、もしかしてミスってた?」
「いえ、合ってますよ」
少しの不安を浮かべた顔に、首を振って返す。事実、雷刀の奏でるメロディは正確なものだった。音はもちろんリズムの狂いすら無いのだから恐ろしい。
よかったぁ、と再び笑顔が咲く。依然明るい、陳腐な表現をすれば向日葵のような大輪の笑みだ。こんな状況でも笑うだなんて。胸の底に何かが渦巻く感覚がした。
「……緊張しないのですか?」
気づけば、言葉が口を突いて出ていた。しまった、と反射的に顔をしかめる。そんなことを聞いても仕方無いということなど分かっているというのに。どうせ『してない』とばっさり切られるのが関の山だ。
「してるぜ?」
きょとりとした表情で雷刀は言う。予想外の返答に、浅葱の瞳がまあるく見開かれる。驚愕を表すように、ぱちぱちと幾度も瞬いた。
「軽音部とかでライブは結構やってるけどさー、これだけ規模でかいのは初めてなんだよな。さすがに緊張する」
ピックを指で擦りながら、兄はへらりと笑う。眉の端が少し下がった、少し頼りがないものだ。『緊張』という言葉が己を安心させるための嘘ではないと言うことを裏付けていた。
「……では、何故そんなに笑っているのですか? 緊張してる人の表情とはとても思えませんよ」
彼の表情はどう見ても普段と同じだ。太陽のように明るい笑顔を浮かべ、心の底から楽しそうに弦を弾く。これが緊張している人間の動きだとは到底思えなかった。
「緊張はしてるけどさ、それと楽しいのは別じゃん? 楽しかったら笑うって」
「そう……でしょうか」
言葉の意味は分かる。大舞台への緊張と、演奏する楽しさは全くの別物だ。けれども、『演奏する』ということ自体に重圧が掛かり、演奏と緊張がイコールで繋がった今、常のような楽しさを覚えるのは難しい。完全に忘れたわけではないが、薄れてしまっているのは確かだ。
「そうだって」
だいじょーぶだいじょーぶ、と元気な声とともに背を叩かれる。力の加減というものを知らない彼のそれは少しの痛みを覚えるものだ。しかし、何故か今はそれが頼もしかった。
「来年も一緒にやってりゃ分かるって!」
どうせ行くならデートで/ライレフ
AOINOさんには「たまには遠回りしてみようか」で始まり、「あーあ、言っちゃった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字)以内でお願いします。
「たまには遠回りしてみねぇ?」
隣を歩いていた兄が一歩前に出て振り返る。肩にかけた鞄の中身がガサと音をたてた。
「嫌ですよ。お肉とお魚が傷むでしょう」
弾んだ銚子の提案を、烈風刀はバッサリ切り捨てる。今日のセールは肉と魚が特に安く、いつもより多く買い込んだのだ。早く帰って生鮮食品を冷蔵庫に入れなければならない。意味も無く遠回りをする余裕など無かった。
それもそっか、と呟き、雷刀は弟の隣へと戻る。珍しく諦めがいい。彼の突飛な思いつきも、大切な日々の食材には敵わないらしい。
「かき氷食いたかったんだけどなー」
「かき氷?」
「こっからちょっと外れたところに和菓子屋? があるんだけどさ、そこのかき氷がうめーらしいんだよ」
そういえば、この間レイシスがそのようなことを話していたことを思い出す。グレイスと行ってきたんデスヨ、と語る彼女の表情は幸福でとろけていた。かき氷のおいしさはもちろん、溺愛する妹と共に過ごせたのが嬉しいのだろう。
「今日行く必要は無いでしょう」
「だってこっちのスーパーに行くことあんまりねーし。それに、こういう時でもねーと二人で一緒に出かけねーじゃん」
たしかに、二人が住む部屋から少しばかり離れたこのスーパーを利用することは少ない。今日訪れたのも、大型のセールが行われていたからだ。学園からも離れ、通学路として利用することのないこの道を通ることはあまりないことだ。
しかし、と烈風刀は横目で兄を見やる。碧の瞳に映る横顔は少しむくれていた。思いつきの提案だと思っていたが、もしかしたら家を出た時から算段を立てていたのかもしれない。それをすげなく却下されたのならばこの反応にも納得だ。
「……かき氷ぐらい、次の休みに食べに行けばいいじゃないですか」
甘味ぐらい、こんな買い物帰りでなくとも普通に二人で出かけて食べに行けばいいではないか。確かに、日々の学業と運営業務で疲れた身体を癒やすために休日は家にいることが多いが、出かけるのが嫌なわけではない。恋人とならば尚更だ。
ぽろりと言葉がこぼれ落ちる。小さなそれは、風に乗って兄の耳まで届いたらしい。えっ、と驚いたような、嬉しそうな声が隣から聞こえた。突然の音に、それが意味することに、少年ははっと目を開く。それもすぐに苦々しげに細められた。
「……うん! そーだな! 次の休みに行こ! 約束な!」
弾みに弾んだ声が耳に飛び込んでくる。視線をやらなくとも、兄が喜色満面の笑みを浮かべているのが分かった。
楽しみだなー、と跳ねる音が前に出る。次の休日への期待に突き動かされているのか、彼はどんどんと歩いて行く。そのまま走り出しそうな勢いだ。あぁもう、とこぼし、烈風刀も歩みを早めた。
あぁ、言ってしまった。もう戻すことなどできない。この言葉も、湧いて出た期待と喜びも。
音にできない五文字/ライレフ
AOINOさんには「たった5文字が言えなかった」で始まり、「少しだけ待っていて」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字)以内でお願いします。
たった五文字すら言えないのか、自分は。
考え、歯噛みする。口の奥で嫌な音が響いた。
は、と息を吐く。す、と息を吸う。呼吸を幾度も繰り返し、ようやく口を開く。薄く開いた唇の隙間から、あ、の一音が漏れ出た。
「あ……あ、ぅ……ぁ、あ」
言葉を発するべき口から出てくるのは、意味を成さない単音ばかりだ。それも、今にも消え入りそうな薄っぺらい音である。あんまりな醜態に、再び奥歯を噛み締める。エナメル質が削れてしまいそうなほど固い音が引き結んだ口から漏れ出た。
トントン、と抱き締められた背を叩かれる。優しいリズムが身体に、心に染みていく。噛み締められた口元がほろりと解けた。
落ち着けって、と宥める声が耳をくすぐる。柔らかなそれは、明らかに己を気遣ってのものだ。『愛してる』なんて簡単な言葉を口にすることができない、愚かな己を。
その事実が心臓を突き刺す。頭の奥底から自身に対する罵倒が沸いて出ては反響する。白い眉間に深い皺が刻まれた。
「無理して言うことじゃねーからな? また今度で――」
「む、無理では、ありません」
反射的に声を遮る。柔らかな言葉を切り捨てる音は、愚かなほどに震えていた。
そうだ、無理ではない。言える。自分だって『愛してる』の五文字ぐらい言えるのだ。そんな短い言葉、言えないはずがないのだ。当たり前のことだ。誰にだって絶対にできることなのだ。
言い聞かせるように心の内で言葉を重ねる。大丈夫、大丈夫、と唱える。それでも、心の臓は己でも驚くほど早鐘を打ち、脳味噌は溶けてしまったかのように思考がまとまらない。喉がきゅうと狭まる感覚がした。
言える。言うんだ。言わなければ。はく、と口を開く。声帯が震え、音を作り出した。
「……も、もう少しだけ、待ってください」
畳む
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