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No.224
静かに重ねて【ヒロニカ】
静かに重ねて【ヒロニカ】
鼻歌に鼻歌重ねるいたずらっ子ニカちゃんが見たかっただけ。いたずらっ子ニカちゃんはもっと存在してもいい。
バトルメモリーで反省会するヒロニカの話。
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目の前の端末、鮮やかな色を映し出していた画面が薄暗くなる。バトルメモリーの再生が終わった証に、ベロニカは小さく息を吐く。今しがたまで見返していたのは僅差で敗北を喫したバトルのそれだ、己の不備や改善点を洗い出していく作業はなかなかに苦しく、骨が折れるものだった。けれど、時間を掛けて分析した確かなる結果は手元に、頭にしっかりと残っている。改めるべき行動が、次の勝利に繋げるための立ち回りが、確かなる強さに繋がる経験が。
カコカコとボタンを操作し、アプリを落とす。動画の代わりに待ち受け画面に表示された時計は、まだ夕方にも差し掛からない時間であることを語っていた。昼ご飯を遅くに食べたのもあり、大食らいの腹はまだ大人しく黙ったままだ。手土産としてつまめる菓子を持ってきたものの、活躍する番は少し遠くだろう。
また一つ息を吐き、少女はワイヤレスヘッドホンを外す。細くシンプルで圧迫感の少ないデザインといえど、重みを失うとやはり解放感を覚えた。防護壁を失った耳をくすぐるエアコンの冷たい空気にぶるりと身を震わせる。細い身を折ってしまわないように注意を払いながら、愛用しているそれを膝の上に乗せた。
微かな音が耳を撫ぜる。何だろう、と黄色い目が部屋の中を見回す。音の発生源は斜向かい、ローテーブルの前に座ったヒロだった。どこか鋭さを増した赤い目は抱えたタブレットに一心に注がれている。彼もバトルメモリーを見返しているのだろう。手にしたスタイラスペンが画面を擦るのが見えた。
聞こえる音は真剣そのものの目元からは想像できないほど微かで、柔らかなものだった。鼻歌だ。ほんのりと高い音色が、最近注目を集めているユニットの新曲をなぞっていた。
ヒロは時折鼻歌を歌う。それも無意識なようで、指摘したり自分で気付くと顔を赤らめてすぐに止めてしまうのだ。彼の少し細くて、いつもよりちょっとだけ高くて、どこか可愛らしい音色は好きだった。だから、最近では指摘するのは控えている。好きなものが聞けなくなってしまうようなことを行うほど己は馬鹿ではない――それに、自分で気付いて恥じらう彼の表情は可愛らしいのだから。
爽やかで、けれども確かなる力が宿ったメロディが部屋に漂う。気付かれぬようナマコフォンをいじるふりをしながら、ベロニカはその音色に耳を傾ける。無意識ながらも興が乗っているようで、音は次第に大きくなっていく。愛らしい音が邪魔者を失った耳を満たしていく。
ふと、頭の隅っこで何かが声を発する。ひそめいたそれは、まだ幼さを残す心をくすぐるものだった。少女の口元が緩い孤を描く。蒲公英色の瞳がわずかに細くなった。浮かんだ表情は、まさしくいたずらっ子のそれだ。
口を閉じたまま、ベロニカは喉を震わせる。開放されるべき場所が閉じられた音は、鼻へと抜けて形となった。部屋に流れる少年の鼻歌に、少女の鼻歌が重なる。メインメロディに沿うようなその音色は、美しいハーモニーを奏で出した。密かなその合奏が心地良い。二人で奏でるというのはなかなかにいいものだ、と心の中で小さく笑みを漏らした。
いつしか、音は止んでいた。息が吐き出される音。ペンが置かれる音。プラスチックが擦れる音。机の上に赤いヘッドホンが転がった。どうやらバトルメモリーの分析が終わったようだ。
「あれ、珍しいですね」
「んー?」
きょとりと丸くなった彼岸花の瞳がこちらを見る。見つめ返す菜の花の瞳は依然細くなったままだ。三日月を描いて、少年を見る。何も知らない少年を。
「ベロニカさんが鼻歌歌うことってあんまりないでしょう?」
「たまにはやるって。こないだの新曲良かったしさ」
「あぁ、いいですよね」
不思議そうな色をしていた丸い目がキラキラと輝き出す。ヒロは音楽が好きだ。ギアとしての性能ももちろん考えているが、それでも数多のギアの中から大ぶりなヘッドホンを選んで常に身につけるぐらいには音楽に身を投じていた。バトルだけでなく、曲でも語りあかせる彼との関係は最高の一言に尽きる。
「爽やかな雰囲気が歌声に合ってますよね」
「そうそう。それに楽器の主張がどれも細いようでちゃんとしててさ。かっけーよな」
「いいですよねー」
また新曲出ると嬉しいのですが、とヒロは呟く。流行ってんだから出すって、とベロニカは笑う。語る彼は普段通りの姿だった。つまり、鼻歌を歌っていたことに気付いていない。己がそれに重ねていたことも。
少女は小さく笑みを漏らす。成功した秘密のいたずらは、好きな人と歌う独り占めの幸福は、これ以上無く胸を満たしていた。
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#Hirooooo
#VeronIKA
#ヒロニカ
#Hirooooo
#VeronIKA
#ヒロニカ
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スプラトゥーン
2025/8/31(Sun) 18:51
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目の前の端末、鮮やかな色を映し出していた画面が薄暗くなる。バトルメモリーの再生が終わった証に、ベロニカは小さく息を吐く。今しがたまで見返していたのは僅差で敗北を喫したバトルのそれだ、己の不備や改善点を洗い出していく作業はなかなかに苦しく、骨が折れるものだった。けれど、時間を掛けて分析した確かなる結果は手元に、頭にしっかりと残っている。改めるべき行動が、次の勝利に繋げるための立ち回りが、確かなる強さに繋がる経験が。
カコカコとボタンを操作し、アプリを落とす。動画の代わりに待ち受け画面に表示された時計は、まだ夕方にも差し掛からない時間であることを語っていた。昼ご飯を遅くに食べたのもあり、大食らいの腹はまだ大人しく黙ったままだ。手土産としてつまめる菓子を持ってきたものの、活躍する番は少し遠くだろう。
また一つ息を吐き、少女はワイヤレスヘッドホンを外す。細くシンプルで圧迫感の少ないデザインといえど、重みを失うとやはり解放感を覚えた。防護壁を失った耳をくすぐるエアコンの冷たい空気にぶるりと身を震わせる。細い身を折ってしまわないように注意を払いながら、愛用しているそれを膝の上に乗せた。
微かな音が耳を撫ぜる。何だろう、と黄色い目が部屋の中を見回す。音の発生源は斜向かい、ローテーブルの前に座ったヒロだった。どこか鋭さを増した赤い目は抱えたタブレットに一心に注がれている。彼もバトルメモリーを見返しているのだろう。手にしたスタイラスペンが画面を擦るのが見えた。
聞こえる音は真剣そのものの目元からは想像できないほど微かで、柔らかなものだった。鼻歌だ。ほんのりと高い音色が、最近注目を集めているユニットの新曲をなぞっていた。
ヒロは時折鼻歌を歌う。それも無意識なようで、指摘したり自分で気付くと顔を赤らめてすぐに止めてしまうのだ。彼の少し細くて、いつもよりちょっとだけ高くて、どこか可愛らしい音色は好きだった。だから、最近では指摘するのは控えている。好きなものが聞けなくなってしまうようなことを行うほど己は馬鹿ではない――それに、自分で気付いて恥じらう彼の表情は可愛らしいのだから。
爽やかで、けれども確かなる力が宿ったメロディが部屋に漂う。気付かれぬようナマコフォンをいじるふりをしながら、ベロニカはその音色に耳を傾ける。無意識ながらも興が乗っているようで、音は次第に大きくなっていく。愛らしい音が邪魔者を失った耳を満たしていく。
ふと、頭の隅っこで何かが声を発する。ひそめいたそれは、まだ幼さを残す心をくすぐるものだった。少女の口元が緩い孤を描く。蒲公英色の瞳がわずかに細くなった。浮かんだ表情は、まさしくいたずらっ子のそれだ。
口を閉じたまま、ベロニカは喉を震わせる。開放されるべき場所が閉じられた音は、鼻へと抜けて形となった。部屋に流れる少年の鼻歌に、少女の鼻歌が重なる。メインメロディに沿うようなその音色は、美しいハーモニーを奏で出した。密かなその合奏が心地良い。二人で奏でるというのはなかなかにいいものだ、と心の中で小さく笑みを漏らした。
いつしか、音は止んでいた。息が吐き出される音。ペンが置かれる音。プラスチックが擦れる音。机の上に赤いヘッドホンが転がった。どうやらバトルメモリーの分析が終わったようだ。
「あれ、珍しいですね」
「んー?」
きょとりと丸くなった彼岸花の瞳がこちらを見る。見つめ返す菜の花の瞳は依然細くなったままだ。三日月を描いて、少年を見る。何も知らない少年を。
「ベロニカさんが鼻歌歌うことってあんまりないでしょう?」
「たまにはやるって。こないだの新曲良かったしさ」
「あぁ、いいですよね」
不思議そうな色をしていた丸い目がキラキラと輝き出す。ヒロは音楽が好きだ。ギアとしての性能ももちろん考えているが、それでも数多のギアの中から大ぶりなヘッドホンを選んで常に身につけるぐらいには音楽に身を投じていた。バトルだけでなく、曲でも語りあかせる彼との関係は最高の一言に尽きる。
「爽やかな雰囲気が歌声に合ってますよね」
「そうそう。それに楽器の主張がどれも細いようでちゃんとしててさ。かっけーよな」
「いいですよねー」
また新曲出ると嬉しいのですが、とヒロは呟く。流行ってんだから出すって、とベロニカは笑う。語る彼は普段通りの姿だった。つまり、鼻歌を歌っていたことに気付いていない。己がそれに重ねていたことも。
少女は小さく笑みを漏らす。成功した秘密のいたずらは、好きな人と歌う独り占めの幸福は、これ以上無く胸を満たしていた。
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