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No.48
足並み揃えて【ハレルヤ組】
足並み揃えて【ハレルヤ組】
弟君PURおめでとーやっとだねーとかそういう感じでうわーってネタが湧いてきて書き始めたら朝になったでござるの巻。とりあえずtumblrに投げ。
ハレルヤ組可愛いってだけのあれ。
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失礼しました、と一礼し、烈風刀は静かに引き戸を閉める。済ませるべき用事を一つ終わらせ、彼は普段の仕事に戻るため廊下を歩み始めた。さて、今日はアップデートについて何かあると聞いていたはずだ。先月から楽曲追加だけでなく様々なイベントやアイテムを用意しているが、今回はその類のことはあるのだろうか。先日はバグが忍び込み多大な被害を受けたが、次はどう対策しようか。そんなことをぼんやりと考えながら、彼は己が戻るべき部屋へと足を動かす。
パタパタと軽やかな足音が空間に響く。背後から聞こえるそれはだんだんと近付き、そこに聞き覚えのある声が混ざる。普段行動を共にする二人を思い浮かべ、烈風刀はくるりと振り返った。
「烈風刀! やりマシタ! やりマシタヨー!」
「やったぞ烈風刀ー! やったー!」
彼の予想通り、そこにはレイシスと雷刀がいた。二人は上げた手をぶんぶんと振り、満面の笑みで己の名を叫びこちらへと走ってくる。元から元気のいい二人だが、今日はあまりにも元気がよすぎる。あまりのテンションの高さに、烈風刀はビクリと身体を震わせた。どうしたのだろう、と考えている内に、二人は彼の目の前でぴたりと足を止めた。息の揃った動きだった。
「烈風刀! これ見てくだサイ!」
レイシスは興奮した様子で烈風刀に端末を差し出した。彼女の勢いに押されるも、彼はそれを受け取り液晶画面に沈む文章を目で追う。どうやら、次回のアップデート内容を記したものらしい。楽曲の追加、曲数、難易度、解禁手順、必要ブロック数などが書かれている、普段のそれと何ら変わりないものだ。だというのに、彼女は何故ここまで興奮しているのだろう。烈風刀は小さく首を傾げた。
「ここだよ! ここ!」
横から覗き見ていた雷刀がペタペタと画面を指差した。邪魔だとその手を退けさせ、示した部分をじっくりと読む。『PUR』『ネメシスクルー』と並ぶ文字を見るに、ジェネシスカードに追加があるようだ。目玉であるPURとネメシスクルーは先月も実装したはずだが、またなにか新しいものがあるらしい。次は誰だろうか、と続く文字を緑の瞳が追っていく。ある単語を認識し、烈風刀の動きが止まった。その個所には、『嬬武器烈風刀』と彼自身の名が書かれていた。
「烈風刀のPURがとうとう実装されマス!」
「ネメシスクルーもな! おめでとー!」
両手を上にあげニコニコと笑う二人は祝いの言葉を幾度も述べた。まるで己の事のように喜ぶレイシスと雷刀だが、反して当人である烈風刀の表情はどこか呆けた、心ここにあらずといったようなものだ。どうしたのデスカ、とレイシスは不思議そうな表情で彼を見る。緑を見つめる桃の瞳には、騒がしすぎたのだろうか、と少しの不安の色が浮かんでいた。あぁ、いえ、と、烈風刀は慌てて顔を上げる。しかしその表情は依然晴れず、思案するかのように口元に手を当てた。
「なんだか実感が湧かなくて……」
PUR。ネメシスクルー。どちらも追加アップデートの際にいつも関わっていたし、レイシスたちがその任に就いたときは心の底から祝った。けれども、自分がそうなるというのは全く想像が出来ない。己がそのような立場になることを考えたことが無いわけではない。しかし、いざ現実となるとまるで自分の事ではないように感じた。不思議な感覚だ、と烈風刀は目の前の二人をぼんやりと見つめた。彼らしからぬ、ふわふわと気の抜けた声に、二人は本当なのだと訴えかける。
「本当デス! ちゃんと現実デスヨ!」
「そーそー現実現実! 最後になっちゃったけど、やっとだな!」
「……この前のイベントも、僕は最後でしたしね」
雷刀の言葉に、烈風刀はぽつりと呟いた。小さな声には寂しさにも似たなにかがにじんでいるように聞こえた。
以前イベントでとある機種と楽曲を交換した際も、烈風刀がジャケットを担当した楽曲のみかなり後になってからの配信となった。開催期間が不定期なのだから、そういう順番だから仕方ない、とは思うが、また最後なのか、という気持ちもたしかにある。不満とは違う何かが胸の中に陰を作った。
「あ……、なんか、ごめん……」
「ごめんなサイ……」
その色に気付いた二人はしゅんと表情を曇らせる。責めているわけではないのだ、と烈風刀は慌てて手と首を横に振った。彼女らを悲しませたいわけではないのに、何故あのようなことを言ってしまったのだろう。己の考えのなさを悔やむ。
「なにはともアレ! 烈風刀、改めておめでとうございマス!」
切り替えるように明るい声で祝いの言葉を述べぱっと顔を上げたレイシスは、烈風刀の手を己の両手でぎゅっと包み込んだ。彼を見上げる彼女の瞳は虹のように美しい弧を描いており、はしゃぎ上気した頬は健康的な紅が浮かんでいる。晴れやかで華やかなその笑みに、烈風刀の顔はどんどんと赤く染まっていった。好いている女性に手を握られ、笑顔で見上げられたのだ。奥手な彼にとっては非常に強い刺激であった。その柔らかく温かな手を意識するだけで、烈風刀の心臓は破裂してしまいそうなほど強く脈を打つ。手を伝って、それどころか大きすぎる己の心音がそのまま彼女の耳に届いてしまうのではないかという不安に駆られた。その不安も、先程胸の内にできた陰も、湧き上がってくる様々な感情にすぐ上書きされたのだが。
「あ、えっ、はっ、はい、あ、ありがとう、ございます」
驚きと喜びと恥ずかしさに、烈風刀の声は自然と固くなる。いつもはなめらかに言葉を紡ぐ唇も、今ではカクカクと一世代前のロボットのように軋んでいた。つかえつかえ出す声もどこか上ずっている。普段はクールで落ち着いた弟のそんな年相応に可愛らしい姿を見て、雷刀は密かに笑みを浮かべた。
「オレもオレも! おめでとー!」
負けじと言わんばかりに雷刀が横から抱き付く。すっかり固まってしまった烈風刀が勢いづいたそれを止められるはずもなく、彼の身体がぐらりと斜めに傾く。その手を握っていたレイシスもバランスを崩し、三人まとめて床に倒れた。かシャン、と端末が硬い床に落ちる音が遠くで聞こえた。
「はわわっ、大丈夫デスカ?」
「え、あ、はい。大丈夫です。ら、雷刀っ、重いです! どいてください!」
ごめんごめん、と謝る雷刀だが、その手を離す気配はない。むしろ、より腕を伸ばし烈風刀の身体を包もうとしているように見えた。その顔は心底嬉しそうな笑みで溢れていた。巻き込まれて倒れたレイシスも心配そうな声を上げるが、その表情には不安の色など全くなく、澄んだ晴れやかな笑みで彩られている。何故自分の事でもないのにこれほど笑えるのだろうか、と烈風刀は冷たい床に転がったまま考えた。
「ほら、そろそろ準備をしましょう。アップデートに遅れが出たら大変ですよ」
ようやく心が落ち着き、烈風刀は普段通りの冷静な声で元気のいい二人を諭す。その耳は未だに赤く染まっていることに彼は気付いていない。言わないでおこう、とレイシスたちは密かに視線を交わし決めた。
ハイ、わかった、と二つの素直な声が重なり、烈風刀の身に追加された重みが消える。依然床に倒れ込んだままの烈風刀に、先に立ち上がった二人は手を差し出していた。きょとんとした顔の彼に、さぁ、とふたつの笑顔と声がかけられる。緑色の目がゆっくりと柔らかな弧を描き、半分ずつの手を取った。
「さ、行こうぜ」
「いきまショウ」
「えぇ」
二人は取ったその手を握ったまま廊下を駆ける。いきなり強く手を引かれ烈風刀は驚いた顔をしたが、どうにか体勢を立て直し前を行く桜と赤についていく。二色の髪が風を受けてふわふわと揺れた。
PUR。ネメシスクルー。どちらに関しても未だに実感は湧かない。
けれども、二人がこうやって自分のことのように喜んでくれるのが、嬉しくてたまらなかった。
ようやく自覚した喜びが胸から溢れ、烈風刀はくしゃりと笑った。年相応の、少年らしいその笑みは、振り返ることなく走り続ける二人には見えない。
足取りを速め、翡翠は先を行く撫子と茜空に並ぶ。自ら隣まで歩んできてくれた彼を見て、レイシスと雷刀の二人も嬉しそうに笑った。
三人分の賑やかな声が放課後の廊下に響き渡った。
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#レイシス
#嬬武器雷刀
#嬬武器烈風刀
#ハレルヤ組
#レイシス
#嬬武器雷刀
#嬬武器烈風刀
#ハレルヤ組
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SDVX
2024/1/31(Wed) 00:00
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足並み揃えて【ハレルヤ組】
足並み揃えて【ハレルヤ組】弟君PURおめでとーやっとだねーとかそういう感じでうわーってネタが湧いてきて書き始めたら朝になったでござるの巻。とりあえずtumblrに投げ。
ハレルヤ組可愛いってだけのあれ。
失礼しました、と一礼し、烈風刀は静かに引き戸を閉める。済ませるべき用事を一つ終わらせ、彼は普段の仕事に戻るため廊下を歩み始めた。さて、今日はアップデートについて何かあると聞いていたはずだ。先月から楽曲追加だけでなく様々なイベントやアイテムを用意しているが、今回はその類のことはあるのだろうか。先日はバグが忍び込み多大な被害を受けたが、次はどう対策しようか。そんなことをぼんやりと考えながら、彼は己が戻るべき部屋へと足を動かす。
パタパタと軽やかな足音が空間に響く。背後から聞こえるそれはだんだんと近付き、そこに聞き覚えのある声が混ざる。普段行動を共にする二人を思い浮かべ、烈風刀はくるりと振り返った。
「烈風刀! やりマシタ! やりマシタヨー!」
「やったぞ烈風刀ー! やったー!」
彼の予想通り、そこにはレイシスと雷刀がいた。二人は上げた手をぶんぶんと振り、満面の笑みで己の名を叫びこちらへと走ってくる。元から元気のいい二人だが、今日はあまりにも元気がよすぎる。あまりのテンションの高さに、烈風刀はビクリと身体を震わせた。どうしたのだろう、と考えている内に、二人は彼の目の前でぴたりと足を止めた。息の揃った動きだった。
「烈風刀! これ見てくだサイ!」
レイシスは興奮した様子で烈風刀に端末を差し出した。彼女の勢いに押されるも、彼はそれを受け取り液晶画面に沈む文章を目で追う。どうやら、次回のアップデート内容を記したものらしい。楽曲の追加、曲数、難易度、解禁手順、必要ブロック数などが書かれている、普段のそれと何ら変わりないものだ。だというのに、彼女は何故ここまで興奮しているのだろう。烈風刀は小さく首を傾げた。
「ここだよ! ここ!」
横から覗き見ていた雷刀がペタペタと画面を指差した。邪魔だとその手を退けさせ、示した部分をじっくりと読む。『PUR』『ネメシスクルー』と並ぶ文字を見るに、ジェネシスカードに追加があるようだ。目玉であるPURとネメシスクルーは先月も実装したはずだが、またなにか新しいものがあるらしい。次は誰だろうか、と続く文字を緑の瞳が追っていく。ある単語を認識し、烈風刀の動きが止まった。その個所には、『嬬武器烈風刀』と彼自身の名が書かれていた。
「烈風刀のPURがとうとう実装されマス!」
「ネメシスクルーもな! おめでとー!」
両手を上にあげニコニコと笑う二人は祝いの言葉を幾度も述べた。まるで己の事のように喜ぶレイシスと雷刀だが、反して当人である烈風刀の表情はどこか呆けた、心ここにあらずといったようなものだ。どうしたのデスカ、とレイシスは不思議そうな表情で彼を見る。緑を見つめる桃の瞳には、騒がしすぎたのだろうか、と少しの不安の色が浮かんでいた。あぁ、いえ、と、烈風刀は慌てて顔を上げる。しかしその表情は依然晴れず、思案するかのように口元に手を当てた。
「なんだか実感が湧かなくて……」
PUR。ネメシスクルー。どちらも追加アップデートの際にいつも関わっていたし、レイシスたちがその任に就いたときは心の底から祝った。けれども、自分がそうなるというのは全く想像が出来ない。己がそのような立場になることを考えたことが無いわけではない。しかし、いざ現実となるとまるで自分の事ではないように感じた。不思議な感覚だ、と烈風刀は目の前の二人をぼんやりと見つめた。彼らしからぬ、ふわふわと気の抜けた声に、二人は本当なのだと訴えかける。
「本当デス! ちゃんと現実デスヨ!」
「そーそー現実現実! 最後になっちゃったけど、やっとだな!」
「……この前のイベントも、僕は最後でしたしね」
雷刀の言葉に、烈風刀はぽつりと呟いた。小さな声には寂しさにも似たなにかがにじんでいるように聞こえた。
以前イベントでとある機種と楽曲を交換した際も、烈風刀がジャケットを担当した楽曲のみかなり後になってからの配信となった。開催期間が不定期なのだから、そういう順番だから仕方ない、とは思うが、また最後なのか、という気持ちもたしかにある。不満とは違う何かが胸の中に陰を作った。
「あ……、なんか、ごめん……」
「ごめんなサイ……」
その色に気付いた二人はしゅんと表情を曇らせる。責めているわけではないのだ、と烈風刀は慌てて手と首を横に振った。彼女らを悲しませたいわけではないのに、何故あのようなことを言ってしまったのだろう。己の考えのなさを悔やむ。
「なにはともアレ! 烈風刀、改めておめでとうございマス!」
切り替えるように明るい声で祝いの言葉を述べぱっと顔を上げたレイシスは、烈風刀の手を己の両手でぎゅっと包み込んだ。彼を見上げる彼女の瞳は虹のように美しい弧を描いており、はしゃぎ上気した頬は健康的な紅が浮かんでいる。晴れやかで華やかなその笑みに、烈風刀の顔はどんどんと赤く染まっていった。好いている女性に手を握られ、笑顔で見上げられたのだ。奥手な彼にとっては非常に強い刺激であった。その柔らかく温かな手を意識するだけで、烈風刀の心臓は破裂してしまいそうなほど強く脈を打つ。手を伝って、それどころか大きすぎる己の心音がそのまま彼女の耳に届いてしまうのではないかという不安に駆られた。その不安も、先程胸の内にできた陰も、湧き上がってくる様々な感情にすぐ上書きされたのだが。
「あ、えっ、はっ、はい、あ、ありがとう、ございます」
驚きと喜びと恥ずかしさに、烈風刀の声は自然と固くなる。いつもはなめらかに言葉を紡ぐ唇も、今ではカクカクと一世代前のロボットのように軋んでいた。つかえつかえ出す声もどこか上ずっている。普段はクールで落ち着いた弟のそんな年相応に可愛らしい姿を見て、雷刀は密かに笑みを浮かべた。
「オレもオレも! おめでとー!」
負けじと言わんばかりに雷刀が横から抱き付く。すっかり固まってしまった烈風刀が勢いづいたそれを止められるはずもなく、彼の身体がぐらりと斜めに傾く。その手を握っていたレイシスもバランスを崩し、三人まとめて床に倒れた。かシャン、と端末が硬い床に落ちる音が遠くで聞こえた。
「はわわっ、大丈夫デスカ?」
「え、あ、はい。大丈夫です。ら、雷刀っ、重いです! どいてください!」
ごめんごめん、と謝る雷刀だが、その手を離す気配はない。むしろ、より腕を伸ばし烈風刀の身体を包もうとしているように見えた。その顔は心底嬉しそうな笑みで溢れていた。巻き込まれて倒れたレイシスも心配そうな声を上げるが、その表情には不安の色など全くなく、澄んだ晴れやかな笑みで彩られている。何故自分の事でもないのにこれほど笑えるのだろうか、と烈風刀は冷たい床に転がったまま考えた。
「ほら、そろそろ準備をしましょう。アップデートに遅れが出たら大変ですよ」
ようやく心が落ち着き、烈風刀は普段通りの冷静な声で元気のいい二人を諭す。その耳は未だに赤く染まっていることに彼は気付いていない。言わないでおこう、とレイシスたちは密かに視線を交わし決めた。
ハイ、わかった、と二つの素直な声が重なり、烈風刀の身に追加された重みが消える。依然床に倒れ込んだままの烈風刀に、先に立ち上がった二人は手を差し出していた。きょとんとした顔の彼に、さぁ、とふたつの笑顔と声がかけられる。緑色の目がゆっくりと柔らかな弧を描き、半分ずつの手を取った。
「さ、行こうぜ」
「いきまショウ」
「えぇ」
二人は取ったその手を握ったまま廊下を駆ける。いきなり強く手を引かれ烈風刀は驚いた顔をしたが、どうにか体勢を立て直し前を行く桜と赤についていく。二色の髪が風を受けてふわふわと揺れた。
PUR。ネメシスクルー。どちらに関しても未だに実感は湧かない。
けれども、二人がこうやって自分のことのように喜んでくれるのが、嬉しくてたまらなかった。
ようやく自覚した喜びが胸から溢れ、烈風刀はくしゃりと笑った。年相応の、少年らしいその笑みは、振り返ることなく走り続ける二人には見えない。
足取りを速め、翡翠は先を行く撫子と茜空に並ぶ。自ら隣まで歩んできてくれた彼を見て、レイシスと雷刀の二人も嬉しそうに笑った。
三人分の賑やかな声が放課後の廊下に響き渡った。
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