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No.49
夏模様【ハレルヤ組】
夏模様【ハレルヤ組】
pixivで非公開にしていたものをサルベージ。キャプションとか諸々全部当時のままです。
お題:理想的なつるつる
即興二次小説で書いたのを加筆修正。昨年夏のエンドシーンネタ。ハレルヤ組かわいいってだけの話。
実際に書いたのは秋というのは内緒。
本文を読む
太陽は空の頂点に立ち、憎らしいまでに陽の光を降り注がせる。強いそれにより気温は上昇の一途を辿り、全国各地で新記録を叩き出していた。季節が巡り、夏がやってきたのだ。
『暑い』という感覚を身をもって体験せねばならないこの季節を苦手とする者は多い。日々ゲームの運営に駆けずり回る三人も、もちろん例外ではない。むしろ、日頃寒く思うほど冷房の効いた部屋で運営業務に励む彼女らにとって、陽の光で何もかも熱せられた外は他者よりも辛く感じるものだ。
けれども、そんな暑さの真っ只中、三人が浮かべている表情は涼しげで穏やかなものだ。
「冷たい飲み物、幸せデス」
「クーラー涼しい、幸せだ」
ほぅ、と幸せそうに息を吐いて、レイシスと雷刀は呟いた。手足を伸ばしだらしなくソファに倒れこむ雷刀に、背筋をしっかりと伸ばし姿勢よく座りお茶を飲むレイシス、烈風刀の二人。どんなに強い日差しが窓から差し込み彼女らを照らしても、それは文明の利器によりすぐさま熱を失う。真夏の暑い日にクーラーの効いた涼しい部屋で過ごす時間は、まさに幸せの一言に尽きた。
「そうだ、五月に植えたスイカが食べ頃です。冷蔵庫で冷やしてあるのでみんなで食べましょうか」
「スイカ!?」
「スイカデスカ!」
烈風刀の言葉に、雷刀は素早く身を起こしレイシスは茶を飲む手を止める。カラン、と氷がグラスにぶつかる涼やかな音が冷えた部屋に響いた。夏といえばスイカだ。けれども、店頭でよく見かける、けれども少しばかり高く手が出し辛いそれを食べる機会などないだろう、と二人とも半ば諦めていたのだ。それだけに喜びは大きい。好奇心と喜びで輝く二色二対の瞳は、烈風刀をまっすぐ見つめた。
「つーか、いつの間にそんなの作ってたんだ」
「貴方が作ろうと言ったのではないですか」
二人ともTAMA猫と間違えていましたけれど、と烈風刀は苦々しい顔をする。雷刀の表現力が壊滅的だったということもあるが、さすがに生き物と間違えるのはどうなのだ、と彼は内心呆れたものだ。純粋でどこか天然なレイシスと思ったことをすぐ口にする雷刀が組むと、ツッコミが追いつかないほどのボケを生み出すのだから大変だ。
「見ていいか? いいよな? いいよなっ!」
「ワタシも見たいデス!」
返事も待たずにソファから飛び起きキッチンへ駆ける雷刀に、レイシスも楽しげな表情で続く。子どもようにはしゃぐ二人の姿を見て、烈風刀は小さく苦笑し同じくキッチンへと足を向けた。
パタパタと響く二つの足音はキッチンの隅に置かれた冷蔵庫の前でぴたりと止まる。期待を色濃く浮かべた桜と茜は、その扉を勢いよく開けた。蛍光灯で白く照らされた箱の中には、小ぶりなスイカが静かに佇んでいた。おぉー、とレイシスと雷刀は揃って感嘆の声を上げる。人工的な光に照らされたそれを見つめる二人の背後に、追いついた烈風刀が険しげな表情で立った。
「冷蔵庫を開けっ放しにするのはやめなさい」
「はわわ、ごめんなサイ」
「いえ、全ては雷刀が悪いのです」
「いくらなんでもそれはひどくないか?」
眉を八の字に下げ申し訳なさそうに謝るレイシスに、烈風刀は優しく声をかける。理不尽な言葉に対する兄の抗議は、彼女を一心に見つめる弟には届かないようだ。いつも通りである。
一旦二人を冷蔵庫の前から退け、烈風刀は冷えたそこからスイカを取り出しまな板の上に置く。雷刀とレイシスは、その脇から丸くつややかなそれを見つめた。
「個人で作ることができる程度なので、あまり大きくないのですけれど」
「すごいデス!」
「烈風刀スゲー!」
少し申し訳なさそうな様子で言う烈風刀に、二人は澄んだ瞳を向ける。その表情は心底嬉しそうで、楽しそうで、太陽のように明るく輝いていた。これほど喜んでくれるとは、と烈風刀もなんだか嬉しくなる。
「TAMA猫みたいデスネ。すべすべデス」
「だなー。つるつるだ、つるつる」
感心するように声を漏らし、二人はスイカを撫でる。その姿はTAMA猫に対するそれと同じだ。つるつるとしたその表面の触り心地は彼女らを魅了したらしい。冷蔵庫から取り出したばかりで冷たくて気持ちいいということもあるのだろう。
そうだ、と何かひらめいたような顔をして、雷刀は走ってキッチンを出ていく。その様子を烈風刀とレイシスは不思議そうに眺めた。また何かおかしなことを考えているのでは、と烈風刀の顔には懐疑の色も浮かんでいる。日頃兄の思い付きに振り回されている彼には、すっかり警戒する癖がついてしまったようだ。
ほどなくして、楽しげな笑みを浮かべた雷刀が戻ってきた。その手にはごく普通の油性マジックが握られている。二人をスイカの前から退け、勢いよくキャップを外し彼は何かを始めた。キュッキュッとペンが滑る音がキッチンに響く。険しげな表情でその背を見る烈風刀に、一体何なのだろうと興味津々な様子で赤髪を見つめるレイシス。二つの正反対な視線を気にすることなく、彼は手を動かした。
「――これでよし、っと」
「ワァ!」
小さく呟き、雷刀は満足げな表情で顔を上げた。その手元を覗き込んだレイシスは感激の声を上げる。まな板の上に座る黒と緑の縞々には、歪ながらも顔と小さな手のようなものが書かれており、見知った真ん丸へと姿を変えていた。
「TAMA猫デス!」
「こうしたら尚更似てるだろ?」
「はい、可愛いデス!」
ニコニコと笑ってレイシスはTAMA猫、もといスイカを撫でる。レイシスの方が可愛いですよ、と烈風刀は彼女に聞こえないように呟く。だな、と隣にいる雷刀がすぐさま返した。真逆と言われることの多い双子だが、彼女に関してはいっそ美しいほど意見が一致する。
「しかし、これでは食べるときに手にインクがつくのではないですか?」
「あ……」
「そうデスネ……」
烈風刀の言葉に雷刀とレイシスは固まり、しゅんとしょげたような顔をする。怒られるのでは、という不安も窺えた。
「……まぁ、あとで手を洗えばいいでしょう。さぁ、切りますよ」
フォローするような烈風刀の言葉に、二人の表情がぱぁっと明るくなる。やったー、と両手を上げる桃と赤を見て、緑は笑った。ころころと表情が変わる彼女らは見ているだけで楽しい。
スイカに包丁を当て、力を込め割れ目を作る。そこにぐっぐっと刃を押し当てていくと、真ん丸だったそれはだんだんと形を崩し、半円へと姿を変えた。それを更に半分に切り、皮目を下にしてとんとんと切り分けてるといくつもの三角形が出来上がった。その姿を見て二人はおぉー、と声を上げる。丸いそれが変化する度に、二人の表情は期待に輝いていった。
「切れましたよ。食べましょう」
烈風刀は切り終えたそれを盆に載せ、リビングへと向かった。ハイ、おう、と元気に返事をして、雷刀とレイシスは先を行く彼の背に続く。その姿は仲のいい家族のそれと同じだ。
手を拭くためのタオルと種を入れるためのボウルを用意し、三人はソファに座る。綺麗に切り分けられたスイカを手に取る。いただきます、と声を揃えて言い、赤と白と緑の三角形にかぶりついた。
「んめー!」
「はわー、甘いデス! 美味しいデス!」
「それは良かった」
雷刀とレイシスは幸せそうな表情でスイカを頬張る。見ている者が幸せになるような、明るく可愛らしい笑顔だ。頑張って作った甲斐があったものだ、と烈風刀は小さく微笑んだ。趣味で作ったものとはいえ、これだけ喜んでくれるのはやはり嬉しいものだ、と考えて彼も赤いそれを口にする。程よい甘みが口の中に広がった。
「烈風刀、ありがとな!」
「ありがとうございマス!」
「へ?」
両隣に座る二人から向けられた笑顔と感謝の言葉に、烈風刀はきょとんとした顔をする。なんのことだろう、と不思議そうに二人を見る彼に、彼女らはニコニコと満面の笑みを向けた。
「だってオレらが言ったから作ってくれたんだろ? すっげーうまいし、ほんとにありがとな!」
「そうデス! 烈風刀のおかげでこんなに美味しいスイカが食べれたんですカラ。烈風刀、本当にありがとうございマス!」
嬉しそうな彼らの笑みと言葉に、烈風刀は頬を少し染めた。こちらこそ、とはにかむ彼に、二人は嬉しげに笑った。
明るい陽光が差し込む涼しい部屋に、三人の賑やかしい声がこぼれた。
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#レイシス
#嬬武器雷刀
#嬬武器烈風刀
#ハレルヤ組
#レイシス
#嬬武器雷刀
#嬬武器烈風刀
#ハレルヤ組
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SDVX
2024/1/31(Wed) 00:00
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夏模様【ハレルヤ組】
夏模様【ハレルヤ組】pixivで非公開にしていたものをサルベージ。キャプションとか諸々全部当時のままです。
お題:理想的なつるつる
即興二次小説で書いたのを加筆修正。昨年夏のエンドシーンネタ。ハレルヤ組かわいいってだけの話。
実際に書いたのは秋というのは内緒。
太陽は空の頂点に立ち、憎らしいまでに陽の光を降り注がせる。強いそれにより気温は上昇の一途を辿り、全国各地で新記録を叩き出していた。季節が巡り、夏がやってきたのだ。
『暑い』という感覚を身をもって体験せねばならないこの季節を苦手とする者は多い。日々ゲームの運営に駆けずり回る三人も、もちろん例外ではない。むしろ、日頃寒く思うほど冷房の効いた部屋で運営業務に励む彼女らにとって、陽の光で何もかも熱せられた外は他者よりも辛く感じるものだ。
けれども、そんな暑さの真っ只中、三人が浮かべている表情は涼しげで穏やかなものだ。
「冷たい飲み物、幸せデス」
「クーラー涼しい、幸せだ」
ほぅ、と幸せそうに息を吐いて、レイシスと雷刀は呟いた。手足を伸ばしだらしなくソファに倒れこむ雷刀に、背筋をしっかりと伸ばし姿勢よく座りお茶を飲むレイシス、烈風刀の二人。どんなに強い日差しが窓から差し込み彼女らを照らしても、それは文明の利器によりすぐさま熱を失う。真夏の暑い日にクーラーの効いた涼しい部屋で過ごす時間は、まさに幸せの一言に尽きた。
「そうだ、五月に植えたスイカが食べ頃です。冷蔵庫で冷やしてあるのでみんなで食べましょうか」
「スイカ!?」
「スイカデスカ!」
烈風刀の言葉に、雷刀は素早く身を起こしレイシスは茶を飲む手を止める。カラン、と氷がグラスにぶつかる涼やかな音が冷えた部屋に響いた。夏といえばスイカだ。けれども、店頭でよく見かける、けれども少しばかり高く手が出し辛いそれを食べる機会などないだろう、と二人とも半ば諦めていたのだ。それだけに喜びは大きい。好奇心と喜びで輝く二色二対の瞳は、烈風刀をまっすぐ見つめた。
「つーか、いつの間にそんなの作ってたんだ」
「貴方が作ろうと言ったのではないですか」
二人ともTAMA猫と間違えていましたけれど、と烈風刀は苦々しい顔をする。雷刀の表現力が壊滅的だったということもあるが、さすがに生き物と間違えるのはどうなのだ、と彼は内心呆れたものだ。純粋でどこか天然なレイシスと思ったことをすぐ口にする雷刀が組むと、ツッコミが追いつかないほどのボケを生み出すのだから大変だ。
「見ていいか? いいよな? いいよなっ!」
「ワタシも見たいデス!」
返事も待たずにソファから飛び起きキッチンへ駆ける雷刀に、レイシスも楽しげな表情で続く。子どもようにはしゃぐ二人の姿を見て、烈風刀は小さく苦笑し同じくキッチンへと足を向けた。
パタパタと響く二つの足音はキッチンの隅に置かれた冷蔵庫の前でぴたりと止まる。期待を色濃く浮かべた桜と茜は、その扉を勢いよく開けた。蛍光灯で白く照らされた箱の中には、小ぶりなスイカが静かに佇んでいた。おぉー、とレイシスと雷刀は揃って感嘆の声を上げる。人工的な光に照らされたそれを見つめる二人の背後に、追いついた烈風刀が険しげな表情で立った。
「冷蔵庫を開けっ放しにするのはやめなさい」
「はわわ、ごめんなサイ」
「いえ、全ては雷刀が悪いのです」
「いくらなんでもそれはひどくないか?」
眉を八の字に下げ申し訳なさそうに謝るレイシスに、烈風刀は優しく声をかける。理不尽な言葉に対する兄の抗議は、彼女を一心に見つめる弟には届かないようだ。いつも通りである。
一旦二人を冷蔵庫の前から退け、烈風刀は冷えたそこからスイカを取り出しまな板の上に置く。雷刀とレイシスは、その脇から丸くつややかなそれを見つめた。
「個人で作ることができる程度なので、あまり大きくないのですけれど」
「すごいデス!」
「烈風刀スゲー!」
少し申し訳なさそうな様子で言う烈風刀に、二人は澄んだ瞳を向ける。その表情は心底嬉しそうで、楽しそうで、太陽のように明るく輝いていた。これほど喜んでくれるとは、と烈風刀もなんだか嬉しくなる。
「TAMA猫みたいデスネ。すべすべデス」
「だなー。つるつるだ、つるつる」
感心するように声を漏らし、二人はスイカを撫でる。その姿はTAMA猫に対するそれと同じだ。つるつるとしたその表面の触り心地は彼女らを魅了したらしい。冷蔵庫から取り出したばかりで冷たくて気持ちいいということもあるのだろう。
そうだ、と何かひらめいたような顔をして、雷刀は走ってキッチンを出ていく。その様子を烈風刀とレイシスは不思議そうに眺めた。また何かおかしなことを考えているのでは、と烈風刀の顔には懐疑の色も浮かんでいる。日頃兄の思い付きに振り回されている彼には、すっかり警戒する癖がついてしまったようだ。
ほどなくして、楽しげな笑みを浮かべた雷刀が戻ってきた。その手にはごく普通の油性マジックが握られている。二人をスイカの前から退け、勢いよくキャップを外し彼は何かを始めた。キュッキュッとペンが滑る音がキッチンに響く。険しげな表情でその背を見る烈風刀に、一体何なのだろうと興味津々な様子で赤髪を見つめるレイシス。二つの正反対な視線を気にすることなく、彼は手を動かした。
「――これでよし、っと」
「ワァ!」
小さく呟き、雷刀は満足げな表情で顔を上げた。その手元を覗き込んだレイシスは感激の声を上げる。まな板の上に座る黒と緑の縞々には、歪ながらも顔と小さな手のようなものが書かれており、見知った真ん丸へと姿を変えていた。
「TAMA猫デス!」
「こうしたら尚更似てるだろ?」
「はい、可愛いデス!」
ニコニコと笑ってレイシスはTAMA猫、もといスイカを撫でる。レイシスの方が可愛いですよ、と烈風刀は彼女に聞こえないように呟く。だな、と隣にいる雷刀がすぐさま返した。真逆と言われることの多い双子だが、彼女に関してはいっそ美しいほど意見が一致する。
「しかし、これでは食べるときに手にインクがつくのではないですか?」
「あ……」
「そうデスネ……」
烈風刀の言葉に雷刀とレイシスは固まり、しゅんとしょげたような顔をする。怒られるのでは、という不安も窺えた。
「……まぁ、あとで手を洗えばいいでしょう。さぁ、切りますよ」
フォローするような烈風刀の言葉に、二人の表情がぱぁっと明るくなる。やったー、と両手を上げる桃と赤を見て、緑は笑った。ころころと表情が変わる彼女らは見ているだけで楽しい。
スイカに包丁を当て、力を込め割れ目を作る。そこにぐっぐっと刃を押し当てていくと、真ん丸だったそれはだんだんと形を崩し、半円へと姿を変えた。それを更に半分に切り、皮目を下にしてとんとんと切り分けてるといくつもの三角形が出来上がった。その姿を見て二人はおぉー、と声を上げる。丸いそれが変化する度に、二人の表情は期待に輝いていった。
「切れましたよ。食べましょう」
烈風刀は切り終えたそれを盆に載せ、リビングへと向かった。ハイ、おう、と元気に返事をして、雷刀とレイシスは先を行く彼の背に続く。その姿は仲のいい家族のそれと同じだ。
手を拭くためのタオルと種を入れるためのボウルを用意し、三人はソファに座る。綺麗に切り分けられたスイカを手に取る。いただきます、と声を揃えて言い、赤と白と緑の三角形にかぶりついた。
「んめー!」
「はわー、甘いデス! 美味しいデス!」
「それは良かった」
雷刀とレイシスは幸せそうな表情でスイカを頬張る。見ている者が幸せになるような、明るく可愛らしい笑顔だ。頑張って作った甲斐があったものだ、と烈風刀は小さく微笑んだ。趣味で作ったものとはいえ、これだけ喜んでくれるのはやはり嬉しいものだ、と考えて彼も赤いそれを口にする。程よい甘みが口の中に広がった。
「烈風刀、ありがとな!」
「ありがとうございマス!」
「へ?」
両隣に座る二人から向けられた笑顔と感謝の言葉に、烈風刀はきょとんとした顔をする。なんのことだろう、と不思議そうに二人を見る彼に、彼女らはニコニコと満面の笑みを向けた。
「だってオレらが言ったから作ってくれたんだろ? すっげーうまいし、ほんとにありがとな!」
「そうデス! 烈風刀のおかげでこんなに美味しいスイカが食べれたんですカラ。烈風刀、本当にありがとうございマス!」
嬉しそうな彼らの笑みと言葉に、烈風刀は頬を少し染めた。こちらこそ、とはにかむ彼に、二人は嬉しげに笑った。
明るい陽光が差し込む涼しい部屋に、三人の賑やかしい声がこぼれた。
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