No.70
favorite THANKS!! グランブルーファンタジー 2024/1/31(Wed) 00:00 edit_note
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枕を二つ【グラ→ルリ】
枕を二つ【グラ→ルリ】くっっっっっっそ寒いから推しカプは一つの布団で互いの体温を感じながら凍える事なくぬくぬくと温かく幸せに寝てくれと言う話。
諸々都合の良い捏造しかない。
あ、え、と意味を成さない音が、間抜けに開いた口からぽろぽろとこぼれる。室内は寒いというのに、顔は真夏の日差しを浴びたように熱い。きっと真っ赤になっているだろうな、と、脳のかろうじて冷静な部分が他人事のように判断を下した。
動揺で頭からつま先まで固まっている少年を見つめ、少女はこてんと小さく首を傾げる。丁寧に手入れされた長い蒼髪が、音もなくさらりと揺れた。
「グラン? どうかしましたか? ……もしかして、具合が悪いんですか?」
「あ、え、いっ、いや。何でもない。何でもないよ。大丈夫。大丈夫だから」
澄んだ丸い青に不安の色が滲んでいくのを見て、グランは異状はないと示すように慌てて手を振った。確かに身体に異常はない。けれど、ルリアが発した言葉は、少年の心と脳を揺さぶるようなものだった。
「えっと……、なん、だっけ?」
「はい。今日はとっても寒いですし、一緒に寝ませんか?」
腕に抱えた枕をぎゅっと抱きしめ、ルリアは今一度少年に問うた。奏でられた声は、たしかにルリア本人のものであり、聞き違いや己の脳が都合よく変換した言葉でないのだと確信する。本当なのか、とグランは胸中で頭を抱え蹲った。
これまで数多の戦いに身を投じてきたグランであるが、実情は無垢で純粋な子供だ。故郷であるザンクティンゼルには同い年の子供はあまりおらず、一緒に寝るなんてことは相棒である小竜のビィ、仲の良い男友達ぐらいとしかしたことがない。そんな彼に、近い年齢の――しかも、他者に向けるそれとは違う、名前の分からない特別な情を抱く少女が『一緒に寝よう』だなんて誘ってきたのだ。年頃の男の子が平静でいられるはずなどない。
「グラン?」
「あー……、そ、そうだ。カタリナさんとじゃなくていいの?」
ルリアはカタリナを家族のように慕っている。その様子は、グランが無意識に嫉妬してしまうほど睦まじいものだ。寒いというだけならば、グランよりもカタリナと一緒に眠る方がルリアも落ち着くだろう。
「その……、こういうこと言うと、カタリナは子供扱いしてくるから」
そう言って、少女は小さく頬を膨らませた。以前にそういう扱いをされて不満に思っているようだ。客観的に見てもルリアはまだ子供であるのだから仕方のないことだが、年頃の少女にとっては譲れないことなのだろう。同じく度々子供扱いされることのある――事実、彼もまだ子供であるが――グランにも、彼女の気持ちは分かった。
「グランは同じぐらいの歳ですし、私のこと子供だなんて言えませんよね!」
にこりと爛漫に笑う姿は、無邪気な子供そのものだ。指摘しては拗ねてしまうだろう、と少年は口を噤む。拗ねた姿も可愛らしいが、今はそんなことを考えている場合ではない。一番納得できるであろう案が否定されてしまったのだ。他に何か言い訳はないものか、と必死に頭を動かしていく。
「寒いなら毛布増やすのは……って、今予備のは無かったな……」
空を旅する中では、様々な気候の島を通ることとなる。寒冷地でも対応できるよう予備の毛布をいくらか用意しているが、つい最近団員が増えたので一時的にそちらに回したのだった。何ともタイミングが悪い。
「あっ、でも、僕よりビィと一緒のがいいんじゃないかな? 僕も冬場によくやってたけど、すごく温かいよ」
小さな相棒はトカゲと呼ばれることが多いが、変温動物ではない。成長した今こそ機会は減ったが、昔は冬場に彼を抱いて眠ることも多かった。小柄な彼は抱きしめるのにぴったりのサイズであり、子供のようにぽかぽかと温かいので、胸に収めればどんなに寒い日でもよく眠れた。その効果は今でも健在だろう。
「でも、ビィさんもう寝ちゃってますよ?」
蒼穹と同じ色の瞳が宙を見上げる。天井から吊るされた大きな籠――ビィがベッドとして利用しているものだ――からは穏やかな寝息が聞こえてくる。小竜は二人より一足先に夢の世界へと飛び立ったようだ。元気いっぱいの彼は日中によく動くためか、グラン達より早く眠ることが常であった。動揺のあまり完全に忘れていた、とグランは内心顔を覆う。
他に何か彼女を諦めさせる言い訳はないものか、と少年は小さな脳味噌をフルで働かせる。その苦悩を彼女に悟られぬよう必死に普段通りの表情を作っているつもりだが、素直な彼はどうしてもその心情が表情や声音に出てしまった。美点であり弱点である度々指摘されるそれを、グランはすっかり忘れていた。苦悩がにじむ少年の顔を見て、蒼の少女はその心を察してか表情を曇らせた。
「あ……、えっと……迷惑、でしたか……?」
「そんなことない!」
後悔に震える声を、大きな声が遮る。今が日の境に近い時間だということを思い出し、少年は慌てて口を手で塞いだ。普段声を荒げることのないグランがこうも強く主張したことに驚いたのか、ルリアはその澄んだ空色の瞳を大きく開いて固まっていた。
「迷惑なんかじゃないよ。迷惑じゃないんだけど……」
驚き固まったままの少女に戸惑いながら、少年は彼女の不安を吹き飛ばすべくどうにか言葉を紡いでいく。けれども、その本心をさらけ出すことは恥ずかしいのか、こぼれる音は淀むばかりだ。前述したとおり、彼は年頃の男の子である。一緒に寝ることを喜び、恥ずかしがっているだなどという格好の悪い事実を、特別な少女に隠そうとするのも仕方が無いことだろう。
「んー……? ぐらん……るりあ……?」
中空から寝ぼけた声が降ってくる。大きなあくびとともに、赤い耳が籠の縁から顔を出した。ごしごしと目元を擦り、ビィは縁に顎を乗せ、二人を見下ろす。起き抜けだからか、つぶらな目にはまだ眠気が膜を張っているようだ。
「どうしたんだぁ……?」
「ビィ、起きたのか」
「ごめんなさい、起こしちゃいましたね……」
助かったとばかりに相棒を見上げるグランと、起こしてしまった罪悪感に床を見るルリア。正反対な二人の様子を見て、ビィは一体何事だ、と首を傾げた。
「二人して何してんだ? もう夜も遅いだろ?」
「あー……いや……、ちょっと、な」
「今日は寒いから、グランと一緒に寝たいなって話してて」
枕を抱え俯く少女の言葉に、小竜は明後日の方向へ視線を逸らす相棒を見る。気まずそうに口を引き結ぶ少年の顔を見て、寝起きのそれとは全く違う半分閉じた目ではぁと溜め息を一つ吐いた。
「別にいいじゃねぇか。一緒に寝るくらい」
何が問題なんだよ、と胡桃色の瞳とともに少年の背に言葉を投げかける。今まで相棒と何度もともに夜を過ごした赤い竜にとって、一つのベッドで眠ることなど何らおかしなことではないのだろう。種族故か、歳故か、いつでも息がぴったりな相棒はその心情を理解できずにいるようだ。
「あっ、そうだ。ビィさんも一緒に寝ませんか?」
二人でも温かいですけど、三人一緒だともっと温かいと思うんです、と少女は言葉を続ける。先ほどグランが温かいと言っていたからか、それともビィも一緒ならば少年も了承してくれるのではないかと思ったのか。その顔には好奇心と期待と少しの不安が浮かんでいた。
「オイラは別にいいけどよぉ、お前はどうなんだ?」
「えっ? あー……、うん、いいと思うよ。三人だともっと温かいもんな、名案だ」
うん、うん、と少年は何度も深く頷く。二人きりでは抵抗感――というよりも羞恥が強いが、ビィと三人ならば胸中に渦巻くこの感情も少し薄まるだろう。少女が示してくれた絶好の逃げ道に喜ぶも、どこか落胆していることには彼は気付いていない。
賛同の言葉に、ビィは伸びをするように羽を広げふわりと籠から飛び立つ。そのままぽすりとグランの胸にその身を預けた。温かな相棒の瞼は半分降りており、今にも眠りの底へと落ちていきそうに見えた。
「さぁ、寝ましょう!」
弾む小さな声に振り向くと、そこにはぎゅうと枕を抱いたルリアの姿があった。その表情から憂いは消え、代わりに喜びがあった。楽しげな少女の姿に、少年はふわりと口元を緩める。あれほど否定し続けたことの罪悪感が胸をチクチクと刺すも、ルリアが笑ってくれることがとても嬉しかった。
自分の枕を置き、ぽすんと柔らかなベッドに飛び込むルリアに続いて、グランもビィを抱えたまま毛布に足を入れる。綺麗に整えられた寝具はひやりと冷たいが、直に三人分の体温でよく眠れる温度になるだろう。胸の中の相棒はそんな冷たさに気付くことなく、一足先にすぅすぅと安らかな寝息をたてていた。
ふふ、とかすかな笑い声。楽しげな音の方へ視線を移せば、そこには嬉しそうに弧を描いた空色があった。
「おやすみなさい、グラン。ビィさん」
「うん。おやすみ、ルリア」
ゆっくりと紡がれる穏やかな音に、少年も柔らかな音を返す。ゆっくりと降りていく瞼は、鮮やかな琥珀と瑠璃を優しく隠していった。
月が空を駆け、夜はどんどんと世界を広げていく。眠りの海に身を任せた子供達の表情は、とても穏やかで幸せそうなものだった。
畳む
#グラルリ