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No.96
書き出しと終わりまとめ5【SDVX】
書き出しと終わりまとめ5【SDVX】
あなたに書いて欲しい物語
でだらだら書いていたものまとめその5。ボ7個。
毎度の如く診断する時の名前がちょくちょく違うのは気にしない。
成分表示:プロ氷3/ライレフ3/ニア+ノア1
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触れあいニアミス→リベンジ/プロ氷
葵壱さんには「精一杯背伸びをした」で始まり、「今なら伝えられる」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば13ツイート(1820字)以内でお願いします。
精一杯背伸びをした。厚い下駄の上、滑りそうになる足で爪先立ちをし、頭一つ以上高い位置にある頬に唇を寄せる。それでも足りない身長では、唇の横に触れるのが精一杯だった。
刹那の触れあい。バランスを崩さぬよう戻った己の顔は、きっと夕焼け色に染まっているだろう。やってしまった、という後悔と、やっとできた、という歓喜が、少女の胸の内をぐるぐると巡る。いずれにせよ、もう取り返しのつかないことなのは確かだ。
突然の口づけに、識苑はぼうっとした様子で宙空を見る。ようやく先程の行為が何であったのか理解して、青年の身体がビクリと大きく跳ねた。病的なほど白い肌が、みるみる内に真っ赤に染まっていく。あ、う、と吐き出す声は、どこか上ずっていた。
「…………え? ぁ? ひっ、ひゆき?」
ようやくたった今起こったことを理解できたのだろう、識苑は唇の主の名を呼ぶ。その声は情けないほどひっくり返ったものだ。彼女の前では特別大人であろうと努める彼にしては珍しい様相であった。
「あ、の、……いっ、いつも、識苑さんからばかり、なので……」
たまには、私からしてみたかったんです。
口元を袖で隠し、少女は消え入りそうな声で言葉を紡ぐ。愛しい人の声を逃さなかった識苑は、再び固まる。氷雪が、あの氷雪がである。ここ最近積極性が増してきたとはいえ、口付けだなんて大胆なことをするなど考えたこともなかった。
「さっ、最初はほっぺたにと思ったのですが…………、身長が足りませんでしたね」
えへへ、と笑う顔は依然朱に染まっている。いきなり唇は無謀、というよりもはしたないのでまずは頬から、と思ったのだが、頭約二つ分違う身長差では、背伸びをしても届かなかった。結果、ほぼ唇に近い位置に口付けるという、なんとも大胆な行動となってしまったのである。
「あ、の……、きもち、わるかったでしょうか……」
依然固まったままの識苑を見上げ、氷雪は不安げに尋ねる。水底色の瞳は微かに水を湛え、髪と同じ色の細い眉は端が下がりきっていた。喜んでもらえるかもしれない、と頑張って行動に移したが、やはりいきなりは良くなかっただろうか。そもそも、自身からの口付けなどはしたなく、悪印象を植え付けたのではないだろうか。少女の胸を不安が侵蝕していく。じわじわと広がり小さな心を食い荒らそうとしたそれは、いや、という一言で止められた。
「あ、い、や、えっと……、めちゃくちゃ嬉しい……」
嬉しすぎて頭が追いつかない、と識苑は指紋がつくことを厭わず眼鏡ごと片手で顔を隠す。その頬は、氷雪と同じほど赤に染まっていた。恋人からの口付けを気持ち悪いだなんて思うはずがない。ただ、あまりの驚きに脳のキャパシティが溢れ、思考が止まっただけだ。噛み砕き、飲み込んだ今は、青年の胸は歓喜で満たされていた。
「ほっ、本当ですか……?」
「本当に嬉しい……」
涙を湛えた瞳が交錯する。方や不安、方や歓喜で濡れた正反対の瞳は、交わることでようやく安堵を得たようだった。ほ、と少女は小さく息を吐いた。
「氷雪」
名を呼ばれ、少女はぱっと顔を上げる。すぐ目の前には、愛おしい夕焼け色があった。ほんのりと朱が刷かれた顔、その片頬を青年はそっと指差しへらりと笑う。その笑みは、普段より少しだけ硬いように見えた。
「あの……えっと……、もっかい、……は、ダメ?」
そう言って、識苑は小さく首を傾げる。珍しいおねだりに、氷雪はパチパチと瞬いた。もっかい。もう一回。指差す先は、頬。青年の質問の意図を理解し、再び少女は顔を赤らめた。
「……だ、め……じゃ、ない、です」
十数秒の沈黙の後、少女は吐息のような細い声で肯定の語を呟いた。溶けて消えてしまいそうな声は、しっかりと届いたのだろう。目の前の愛し人はふわりと破顔した。
「あの、目、瞑っていただければ……」
氷雪の申し出に、青年はうんと頷いて目を閉じる。まあるい橙の瞳は、真っ白な瞼の奥に姿を隠した。
白い頬に小さな手を添え、雪色はじぃと愛し人の顔を見つめる。整った眉、今は姿を隠した琥珀の瞳、眼鏡の痕が少し残る目元、すっと通った鼻梁、見た目よりも柔らかな頬、少しかさついた唇。どれも愛おしくて仕方が無い。愛する人の姿に、胸の内が温かなもので満たされていった。
こくん、と息を呑み、少女はそうっと顔を寄せていく。溢れ出る感情をこの唇に乗せてた今なら、愛を伝えられるはずだ。
躾直し/ライレフ
AOINOさんには「傷口には触れないで」で始まり、「また一から始めよう」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば12ツイート(1680字)以内でお願いします。
「っ……、傷口には触れないでください」
顔を歪め、烈風刀は愛する人の手を振り払う。普段より弱々しいそれは、指を少し退けるだけで精一杯のものだった。
傷口、と雷刀は復唱する。己がつけてしまった噛み痕をなぞり労っていたつもりだったのだが、逆効果だったらしい。よくよく考えなくとも、皮膚が破けうっすらと血がにじむ場所は紛うことなき傷である。そこに触れるなど、文字通り傷口をえぐる行為だ。
ごめん、と謝り、少年はすぐさま手を引く。やり場のなくなった手が、宙空を彷徨う。ふらふらと揺れるそれは頼りないものだった。
白い肌に散る赤い痕は、全て己がつけてしまったものだ。情事の衝動に身を任せ噛みついた結果、いつも愛する人の肩口や首元には半月状の傷がたくさん生まれてしまっていた。たくさん怪我をさせてしまった申し訳無さと、衝動を我慢できない己のふがいなさと、この番は己のものだと主張する印に対する征服欲が胸の内に渦巻く。声にならない呻きを漏らした。
「ごめんなぁ」
「毎回そう言いますけど、結局噛むではありませんか」
眉端を下げ謝る雷刀に、烈風刀は溜め息とともに返す。呆れた言葉に反して、声は柔らかいものだった。
烈風刀がこの噛み癖を嫌っている訳ではないことは、薄ら察していた。噛まれた瞬間あげる声も、残された痕を眺める瞳も、ほのかに熱を孕んだ甘やかなものなのだ。時折見せる、暗い赤を愛おしそうに眺める姿はどこか妖艶で、どきりとすることがある。
しかし、それとこれとは別である。嫌がられていなかろうと、己の征服欲が満たされようとも、怪我をさせるだなんて許されないことだ。性行為とは、双方が満たされるべきものである。そこに瑕疵は――それも欲望を制御できずに生まれた傷なんてものなど、あってはならないのだ。獣の欲望に負け相手にだけ負担を強いるだなんて、最低である。
兎にも角にも、この噛み癖は改めなければいけない。うぅ、と情けない声が漏れる。以前のように衝動を抑えられるよう、また一から我慢を始めなければ。
涙色の幸せ/プロ氷
AOINOさんには「大人は泣かないものだと思っていた」で始まり、「そんな君がただ愛しかった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば12ツイート(1680字)以上でお願いします。
大人は泣かないものだと、ずっと思っていた。いつだって明るく、太陽のように輝く笑顔を湛えている彼ならば、尚更。
「せ、んせ、い」
涙声で、氷雪は愛しい人を呼ぶ。消えかけのそれは、大粒の涙を流す彼には届かなかない。ただただ低い嗚咽が人気のない放課後の廊下に響いた。
逡巡の末、氷雪は愛し人の白衣の裾をきゅっと握る。頭二つ分高い彼を見上げ、せんせ、ともう一度濡れた声で呼ぶ。やっと気づいたのか、ずび、と鼻を啜る音とともに、夕日色の瞳が姿を表す。普段ならば楽しげに輝いているそれは、夕焼けに照らされた海のように滲んで揺らめいていた。
「ご、めん、…………嬉しく、て」
俺を、『識苑』を好きと言ってくれたのが、嬉しくて。
好きでいることを許されたのが、嬉しくて。
こみ上げる嗚咽を無理矢理抑えながら、識苑はどうにか言葉を紡ぐ。濡れた声は己のそれと同じで、今だけは自分とおんなじ子どものように見えた。つられて、翡翠の瞳からも雫がひとつ、ふたつとこぼれ落ちる。澄んだ雫が床に落ちる微かな音だけが、二人の空間に響いていく。
「……ごめん。みっともないとこ、見せちゃったね」
目元を白衣の袖で乱暴に擦り、識苑はへらりと笑う。赤くなった目元と鼻先、未だ涙が伝う眦と頬、下がった形の良い眉がそのままな笑顔は、明らかに作られたもので、酷く痛々しく見えた。きっと、まだまだ幼い『子ども』の自分の前で、いつものかっこいい『大人』としてあろうとしているのだろう。無理をさせている事実に、きゅうと胸が痛んだ。
共に顔を上げた氷雪を見て、識苑は目を丸くする。ぱちりと瞬き一つ。溢れた涙が、また一筋二人の頬に透明な線を作った。
「なっ、泣かないで! 大丈夫! 大丈夫だから!」
大げさなほど慌てふためき、青年は少女の頬を白衣の袖で撫でる。考えるより先に、身体が動いてしまったらしい。一拍置いて、ごめん、汚かったね、と上ずった謝罪の声があがった。拭ってもらったばかりだというのに、翡翠の瞳からはとめどなく雫が湧き上がり流れた。
「いえ……、わたしも、うれ、しく、て……」
ずっと、叶わないと思ってたから。
わたしを、『氷雪』だけを見てくれることなんて無いと思っていたから。
だから、嬉しくて、叶ったのが、嬉しくて。少女は嗚咽混じりに必死に言葉を紡ぐ。泣くだなんてこどもっぽい、みっともないだなんて考える余裕などなかった。彼に比べてずっと幼い自分では、溢れ出る感情をコントロールできない。止められない涙はぽろぽろとこぼれ、少女の白い肌を濡らすばかりだ。
はしたないと分かりつつも、着物の袖で目元を拭う。厚く白い布地が水を吸い、かすかに暗くなった。ぽとぽとと、涙の粒が更に袖を濡らす。ぅ、と喉がみっともなく鳴った。
そっと、小さな頭に大きな手が乗せられる。ゆっくりと下ろし、戻りをぎこちなく繰り返し、青年はどうにか少女の頭を撫でる。被衣を隔てているというのに、その手が、動きが、更に涙が湧き出るほど温かく感じた。
「……俺も、氷雪ちゃんが喜んでくれて、嬉しい」
普段のように柔らかく、いつもの彼らしくもない震える声が、少女の鼓膜を揺らす。そっと顔を上げ、見上げた先には、涙の跡を残した愛おしい人がいた。溢れていた涙は既に止まっているが、その頬には、未だ透明な涙の道筋がいくつも走っていた。
ず、と鼻を啜る音一つ。緊張で失った色を取り戻しつつある唇が、はくはくと動く。う、あ、と低く小さな声が、人のいない廊下に落ちて積もった。
「えっと……、あの、その…………」
これから、よろしく、お願い、します。
片言のようにつかえつかえになりながら、識苑はどうにか声で言葉を形作る。気恥ずかしいのか愛おしい少女から少しだけ視線を逸らし、小さく頭を下げた。その仕草はぎこちなく、それ故にどこか愛らしさがあった。
「……はい。よろしく、おねがいします」
涙をもう一筋流し、氷雪はふわりと破顔する。涙に濡れた頬を染める姿は、雪のように儚く可愛らしいものだった。
子どもの自分と同じように涙を流し、同じぐらい頬を紅に染め、ぎこちなく動き、言葉を紡ぎ出す。そんな大人の貴方が、ただ愛おしかった。
歩いて帰ろう/ライレフ
葵壱さんには「たまには遠回りしてみようか」で始まり、「だから綺麗に忘れてください」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば12ツイート(1680字)以内でお願いします。
「たまには遠回りしてみよ?」
くるりと振り返り、雷刀は笑みを浮かべそう言う。肩に掛けたナイロンバッグが小さな音をたてた。
突然の言葉に、烈風刀はぱちりと瞬きをする。兄の言葉を口の中で一度転がし、少年は顎に手を当てた。翡翠の瞳には、懐疑に満ちていた。
「……何か買い漏らしがありましたか?」
普段の帰り道から少し逸れた位置に、一軒小さなスーパーがある。買い漏らしがあるのならば、来た道を戻るよりもそちらに寄った方が近い。わざわざ遠回りをして帰る理由など、それぐらいしか思い浮かばなかった。その場合、『たまには』という言葉が引っかかるのだが。
「そうじゃなくてさー……」
弟の返答に、兄は小さく呟く。唇を尖らせる子どもめいた仕草を見るに、どうやら違うらしい。では、そちらの店舗にしか取り扱っていない商品があるのだろうか。それともどこか他に寄りたい場所でもあるのだろうか。浅葱の頭に疑問符が浮かんでいく。答えの見えない問いに、整えられた頭が軽く傾いだ。
先を歩いていた雷刀は大股で一歩、二歩、と進む。そのまま烈風刀の隣へと並んだ。少し屈み、紅玉が蒼玉を下から覗き込む。鮮やかな紅緋には、不満げな色が浮かんでいた。
「たまには二人きりで散歩でもしたいなーって」
言葉尻が萎んでいく様子は、拗ねているようにも恥じらっているようにも聞こえた。
あまりにも単純な解に、碧はまたぱちりと大きく瞬きをする。二人きりで散歩など、買い出しが終わり帰り道を歩く今と同じではないか。わざわざ誘うようなことではない。
「だってさぁ、最近ゆっくりする時間なんてなかったし……」
むにゃむにゃと尻すぼみになりながら、雷刀は小さく頬を膨らます。子どもめいた仕草に反し、その表情には寂寞の色が浮かんでいた。
確かに、と烈風刀は内心頷く。最近はアップデートおよび大会準備でゆっくりする暇などほぼ無かった。帰宅は常に夜遅く、疲れ果てた身体では自分の世話だけで手一杯だ。怒濤のアップデートが終わりいくらか経った今だからこそ、二人連れ添って買い出しに行く余裕が出来たのだった。彼の言う通り、ちゃんと二人きりで過ごすことは久方ぶりのことである。
顎に手を当て一考。しばらくの逡巡の末、渇いた喉がかすかに掠れた音を紡いだ。
「……いいですよ」
へ、と間の抜けた声があがる。了承など得られないだろうと思っていたのが丸わかりの音だ。この手の提案、というよりも思いつきにに烈風刀が乗ることは少ないのだ。仕方がないことだろう。
「最近座り仕事続きでしたからね。適度に運動するべきです」
そう言って、烈風刀は住宅街から少し離れた河原の方へと足を向ける。数拍の後、大きな足音が広くはない路地に鳴り響いた。ガサリ、とナイロンバッグが鈍い音をあげた。
二人で会話も無く歩いて行く。あたりに河原の先、赤く燃える陽が沈み行く。夕陽が放つ赤い光が、二人の横顔を照らした。まぶし、と雷刀は目を細める。一対の夕陽色も、瞼の地平線へと隠れようとした。
歩いていくうちに、身を寄せるように互いの距離が縮まる。ふと触れあった手が、幾度かの接触と躊躇いの後、柔く繋がれた。ひくりと白い手が震える。珍しく振り解こうとは思わなかった。人通りが少ない場所だからか、はたまた久しぶりの温度が惜しいのか。そんなこと、自分でもよく分からなかった。分からないまま、与えられる柔らかな温度を享受する幸せを味わった。
ふふ、と隣から笑声が漏れる。小さく漏れ出たそれは幸に満ちたもので、とろけた響きをしていた。
「どうしたのですか」
「いやー。久しぶりのデートだなー、って」
幸福を噛み締めはにかむ兄を見て、弟の足がピタリと止まる。訝しげに名を呼ぶ兄の声は、彼に届くことがなかった。
デート。
言われてみれば、恋人二人で出掛けることはデートと呼んでもおかしくはない行為だ。しかし、こんなのただの買い出しで、ただの散歩だ。デートなど、そんな、大層なものでは。
繋いでいた手がバッと勢いよく離される。振り解いた手は宙を彷徨い、肩に掛けたナイロンバッグの取っ手に着地した。力を込められた細い取っ手が大きな皺を作った。
「え? 何? どした?」
突然の行動に、朱は困惑の声をあげる。なんでもありません、と返す声は、動揺と羞恥と幸福がぐちゃぐちゃに混ざった音色をしていた。
「もしかして、烈風刀も今更そう思ったってこと?」
「違います!」
「違ってたら手離さないじゃん!」
夕暮れの河原に、男子高校生二人の声が響く。じゃれあうというには騒がしいものだ。かといって、諍いにしては甘さを含んだ音色をしていた。
かわいー、と揶揄い交じりの声が飛んでくる。恐らく底楽しげに笑っているであろう兄から、ふいと目を逸らした。そんな表情を見て、憎たらしさ以外の覚えるはずなどない。
都合良く解釈する彼に、都合良く解釈してしまった自分に対しての言葉にならない感情がふつふつと湧き上がる。こんなくだらないもの、さっさと忘れて無かったことにしてしまいたかった。
「……あぁもう、うるさい! 早く綺麗に忘れてください!」
喧嘩の後には/ニア+ノア
葵壱さんには「泣き虫が笑った」で始まり、「ここが私の帰る場所」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば7ツイート(980字)以内でお願いします。
泣き虫がやっと笑った。
などと言えばまた泣き出してしまうだろう。思わず思い浮かんだ言葉が漏れないよう、ニアはきゅっと唇を結ぶ。腕を伸ばし、目の前、妹の目元に浮かぶ涙を長い袖でそっと拭った。
「もう大丈夫?」
「……だいじょう、ぶ……」
顔を覗き込み、努めて優しく尋ねる。憂慮が見える姉の言葉に、ようやく和らいだ妹の表情が再び薄く曇り始めた。心づけようとしたのだが、逆に不安を煽ってしまったようだ。どんどんと陰る蒼瞳に、焦燥が少女の胸を襲う。再びまあるい瞳に水が膜張る前に、俯きゆく頭に急いで手を伸ばした。
「大丈夫だよ!」
今度こそ元気づけようと、ニアは声を張り上げる。そのまま衝動に身を任せ、小さな頭を力いっぱい撫で回した。言葉も重要だが、行動で示した方が彼女にはよく伝わるだろう。もう大丈夫、と励ましの気持ちを小さな手に目一杯載せ、少女は愛しい妹を撫でた――撫でるというよりは、髪をかき乱すような激しさなのだけれど。
ぐしゃぐしゃになっちゃうよぉ、と抗議の声があがる。微かなそれは未だ涙に濡れていたが、数分前に比べてずっとはっきりとした響きをしていた。ごめんね、と謝り、少女はバッと手を離す。強く撫で回した頭は、ノアの言った通り、なめらかな蒼髪が絡み合いくしゃくしゃになってしまっていた。あわわ、と焦りつつ、さっさっと手ぐしで整える。すん、と鼻をすする音と、ふぇ、と小さな嗚咽が涙でふやけた部屋に落ちた。
「ノアちゃんにはニアがいるからね。大丈夫だよ」
だいじょうぶ、だいじょうぶ、と歌うように囁きながら、ニアは愛しい妹の頭を撫でる。丁寧に撫でる小さな手には、慈しみが表れていた。
「……泣かせたのはニアちゃんでしょ」
すん、と小さく鼻を啜り、ノアは不貞腐れた声で呟く。ジトリと向けられた視線に、う、と苦しげに喉が鳴った。確かに少し強く言って泣かせてしまったのは自分だ。こればかりは言い訳しようがない。ごめんね、と謝る声は呟きのような小さく細いものだった。
「でも、ノアもいっぱい酷いこと言っちゃったよね……。ごめんなさい」
「ニアも酷いこと言っちゃったもん。あいこだよ」
大丈夫、と今一度妹の頭を撫でる。今度は髪を梳くような、優しく柔らかな手つきだ。心地よい感覚に、ノアはゆっくりと目を細める。目尻に残っていた涙が頬を静かに伝った。
頭に乗せた手を離し、ノアちゃん、と妹の名を呼ぶ。なぁに、と不思議そうに問うノアの目の前で、ニアは腕を目一杯に広げた。意図を察して、キョトンとした表情が柔らかく解ける。同じく手を広げ、ノアは姉の胸へと飛び込んだ。
互いに背に回した腕に力を込め、ぎゅうと抱き締める。苦しいよ、と二人でクスクスと笑いあう。そこにはもう、涙の色はなかった。
大好きな妹と触れあい笑いあえる。ここが私の帰る場所なのだ。
笑顔咲かせ/プロ氷
あおいちさんには「花が咲くように」で始まり、「不器用でごめんね」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば7ツイート(980字程度)でお願いします。
花が咲くように笑う人だ、と彼の笑顔を見る度に考える。
「あっ、氷雪ちゃん」
廊下の角を曲がった先、技術室の扉から桃色の頭が覗く。少し硬い桃髪の奥に隠された橙が、ゆっくりと細められた。
この人はいつだって満開の花のように笑み、からからと心底楽しそうに大きな笑声をあげる。太陽の陽を浴び堂々と咲く夏の花を思わせる姿だ。
けれど、普段と違う笑顔を見られるのは自分だけだ、と考え、氷雪は頬を赤らめる。思い上がりも甚だしい。けれど、あの人があんな風に笑う姿を他に見たことがないのだ。朝日を受けた花がふわりと花弁を綻ばせるような、あんなに優しくて、あんなに愛おしそうな笑みを浮かべるのは、決まって自分の前だけだ。少なくとも、自分の観測上は。
「氷雪ちゃん?」
恋人の声に、現実に意識が浮上する。己の姿を見て駆け寄ってきてくれたのだろう、いつの間にか目の前には識苑がいた。桜色の頭は不思議そうに傾いでいた。
あの愛おしい笑顔に見惚れていたのだと気付き、少女の頬に朱が散る。いえ、と返す言葉は上ずっていた。
「えっと……、あの、……先生の笑顔は、いつも素敵だな、と思って……」
ぽそりぽそり、つかえながらも言葉を紡いでいく。恥ずかしいことを言っていると自覚したのは、全て声で形作ってしまった後だった。少女の頬が更に朱に染まる。
「えっ、そう?」
驚きの声をあげ、識苑はぺたぺたと己の頬を触る。褒められた喜びとかすかな羞恥にか、彼の頬にも淡く朱が浮かんだ。
「そっかー……。ありがとう」
そう言い、青年はえへへ、とはにかむ。喜びにとろけた笑顔は、やはり自分の前でしか見せない特別なものだ。その柔らかな表情に、無意識にまた目を奪われた。
「氷雪ちゃんの笑顔もとっても素敵だよ」
突然の言葉に、ふぇ、と思わず呆けた声が漏れる。彼の真似をするように、氷雪も己の頬をぺたぺたと触る。柔らかなそこは確かな熱を持っており、顔が赤らんでいることが容易に想像できた。
笑顔が素敵だなんて、今まで一度も言われたことがなかった。感情を上手く表現できず表情に乏しい己をそう評する人がいるだなんて。それも、愛している人が言ってくれるだなんて。驚きと喜びに、きゅうと胸が詰まる。ぁう、と呼吸をしそこなった音が小さな口からこぼれた。
彼のように笑顔を浮かべようとする。しかし、表情筋は硬く強張り、頬は引きつるばかりで口角は一向に上がらない。ひく、と持ち上げようとした頬が変に震えた。
一向に上手くいかず、嫌悪感が胸を埋めていく。せっかく素敵と言ってもらえたのだから、見せてあげたいのに。あぁ、何故自分はこうも駄目なのだろう。一人胸の内で呟く。
不器用でごめんなさい。
君にはきっと届かない/ライ←レフ
葵壱さんには「ひとつ願いが叶うのなら」で始まり、「月が綺麗ですね」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば8ツイート(1120字)以内でお願いします。
「一つ願いが叶うなら、ですか」
思わず復唱すると、そそ、と短い返事が飛んでくる。問いの主は毛布でぎゅっと身を包み、宙空を見上げた。
「流れ星にはお願いするもんだろ? 烈風刀ならどんなお願いするのかなーって」
二人の視線の先、紺碧に染まった空を幾本もの線が駆け抜けていく。ネットニュースにあった通り、今がピークの時間のようだ。朱と碧の瞳は空を走る光の筋を眺めていた。
願い事、と烈風刀は口の中で呟く。レイシスが健やかに過ごせますように。兄がもっとまともな成績をとれますように。ゲーム運営が更に安定しますように。様々な願いが脳内に浮かんでは消える。日常の幸せを願うそれらの片隅に、何かが声高に主張をし始めた。
気づかれぬよう、横目で隣の朱を見やる。毛布に包まり空を見上げる横顔は華やかに綻んでおり、キラキラとした瞳は純粋無垢を形にしたような輝きをしていた。
好いている人に想いを届けたい。成就なんて贅沢は言わない。ただ、この心の内をはっきりと打ち明けられるようになりたい。
可愛らしい横顔に、愛おしさと醜い願いが湧き出る。蓋をして閉じ込めて沈めておきたいものなのに、厄介なことにこいつは時折存在を主張するのだ。
恋を星に願うなど、女々しいにも程がある。分かっていても、何かに縋りたくなるぐらいこの想いは苛烈に燃えていた。
願い事一つ叶うなら。そもそも、今すぐにでも叶えられる願いなのだ。星に願う必要などない。口を動かせば、すぐに叶うのだから。
ごくりと唾を飲み込む。今から口にするのは普通の言葉だ。ただ、人によっては意味が変わる不思議な言葉――どうせ、こういう類のものには興味の無い彼にとっては、ただただ普通の他愛のない言葉だ。
そんな予防線を張り、烈風刀は今一度空を見上げる。丸い月の光が、走りゆく星々を照らしているようだった。
「……月が綺麗ですね」
畳む
#プロ氷
#ライレフ
#ニア
#ノア
#腐向け
#プロ氷
#ライレフ
#ニア
#ノア
#腐向け
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THANKS!!
SDVX
2024/1/31(Wed) 00:00
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書き出しと終わりまとめ5【SDVX】
書き出しと終わりまとめ5【SDVX】あなたに書いて欲しい物語でだらだら書いていたものまとめその5。ボ7個。
毎度の如く診断する時の名前がちょくちょく違うのは気にしない。成分表示:プロ氷3/ライレフ3/ニア+ノア1
触れあいニアミス→リベンジ/プロ氷
葵壱さんには「精一杯背伸びをした」で始まり、「今なら伝えられる」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば13ツイート(1820字)以内でお願いします。
精一杯背伸びをした。厚い下駄の上、滑りそうになる足で爪先立ちをし、頭一つ以上高い位置にある頬に唇を寄せる。それでも足りない身長では、唇の横に触れるのが精一杯だった。
刹那の触れあい。バランスを崩さぬよう戻った己の顔は、きっと夕焼け色に染まっているだろう。やってしまった、という後悔と、やっとできた、という歓喜が、少女の胸の内をぐるぐると巡る。いずれにせよ、もう取り返しのつかないことなのは確かだ。
突然の口づけに、識苑はぼうっとした様子で宙空を見る。ようやく先程の行為が何であったのか理解して、青年の身体がビクリと大きく跳ねた。病的なほど白い肌が、みるみる内に真っ赤に染まっていく。あ、う、と吐き出す声は、どこか上ずっていた。
「…………え? ぁ? ひっ、ひゆき?」
ようやくたった今起こったことを理解できたのだろう、識苑は唇の主の名を呼ぶ。その声は情けないほどひっくり返ったものだ。彼女の前では特別大人であろうと努める彼にしては珍しい様相であった。
「あ、の、……いっ、いつも、識苑さんからばかり、なので……」
たまには、私からしてみたかったんです。
口元を袖で隠し、少女は消え入りそうな声で言葉を紡ぐ。愛しい人の声を逃さなかった識苑は、再び固まる。氷雪が、あの氷雪がである。ここ最近積極性が増してきたとはいえ、口付けだなんて大胆なことをするなど考えたこともなかった。
「さっ、最初はほっぺたにと思ったのですが…………、身長が足りませんでしたね」
えへへ、と笑う顔は依然朱に染まっている。いきなり唇は無謀、というよりもはしたないのでまずは頬から、と思ったのだが、頭約二つ分違う身長差では、背伸びをしても届かなかった。結果、ほぼ唇に近い位置に口付けるという、なんとも大胆な行動となってしまったのである。
「あ、の……、きもち、わるかったでしょうか……」
依然固まったままの識苑を見上げ、氷雪は不安げに尋ねる。水底色の瞳は微かに水を湛え、髪と同じ色の細い眉は端が下がりきっていた。喜んでもらえるかもしれない、と頑張って行動に移したが、やはりいきなりは良くなかっただろうか。そもそも、自身からの口付けなどはしたなく、悪印象を植え付けたのではないだろうか。少女の胸を不安が侵蝕していく。じわじわと広がり小さな心を食い荒らそうとしたそれは、いや、という一言で止められた。
「あ、い、や、えっと……、めちゃくちゃ嬉しい……」
嬉しすぎて頭が追いつかない、と識苑は指紋がつくことを厭わず眼鏡ごと片手で顔を隠す。その頬は、氷雪と同じほど赤に染まっていた。恋人からの口付けを気持ち悪いだなんて思うはずがない。ただ、あまりの驚きに脳のキャパシティが溢れ、思考が止まっただけだ。噛み砕き、飲み込んだ今は、青年の胸は歓喜で満たされていた。
「ほっ、本当ですか……?」
「本当に嬉しい……」
涙を湛えた瞳が交錯する。方や不安、方や歓喜で濡れた正反対の瞳は、交わることでようやく安堵を得たようだった。ほ、と少女は小さく息を吐いた。
「氷雪」
名を呼ばれ、少女はぱっと顔を上げる。すぐ目の前には、愛おしい夕焼け色があった。ほんのりと朱が刷かれた顔、その片頬を青年はそっと指差しへらりと笑う。その笑みは、普段より少しだけ硬いように見えた。
「あの……えっと……、もっかい、……は、ダメ?」
そう言って、識苑は小さく首を傾げる。珍しいおねだりに、氷雪はパチパチと瞬いた。もっかい。もう一回。指差す先は、頬。青年の質問の意図を理解し、再び少女は顔を赤らめた。
「……だ、め……じゃ、ない、です」
十数秒の沈黙の後、少女は吐息のような細い声で肯定の語を呟いた。溶けて消えてしまいそうな声は、しっかりと届いたのだろう。目の前の愛し人はふわりと破顔した。
「あの、目、瞑っていただければ……」
氷雪の申し出に、青年はうんと頷いて目を閉じる。まあるい橙の瞳は、真っ白な瞼の奥に姿を隠した。
白い頬に小さな手を添え、雪色はじぃと愛し人の顔を見つめる。整った眉、今は姿を隠した琥珀の瞳、眼鏡の痕が少し残る目元、すっと通った鼻梁、見た目よりも柔らかな頬、少しかさついた唇。どれも愛おしくて仕方が無い。愛する人の姿に、胸の内が温かなもので満たされていった。
こくん、と息を呑み、少女はそうっと顔を寄せていく。溢れ出る感情をこの唇に乗せてた今なら、愛を伝えられるはずだ。
躾直し/ライレフ
AOINOさんには「傷口には触れないで」で始まり、「また一から始めよう」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば12ツイート(1680字)以内でお願いします。
「っ……、傷口には触れないでください」
顔を歪め、烈風刀は愛する人の手を振り払う。普段より弱々しいそれは、指を少し退けるだけで精一杯のものだった。
傷口、と雷刀は復唱する。己がつけてしまった噛み痕をなぞり労っていたつもりだったのだが、逆効果だったらしい。よくよく考えなくとも、皮膚が破けうっすらと血がにじむ場所は紛うことなき傷である。そこに触れるなど、文字通り傷口をえぐる行為だ。
ごめん、と謝り、少年はすぐさま手を引く。やり場のなくなった手が、宙空を彷徨う。ふらふらと揺れるそれは頼りないものだった。
白い肌に散る赤い痕は、全て己がつけてしまったものだ。情事の衝動に身を任せ噛みついた結果、いつも愛する人の肩口や首元には半月状の傷がたくさん生まれてしまっていた。たくさん怪我をさせてしまった申し訳無さと、衝動を我慢できない己のふがいなさと、この番は己のものだと主張する印に対する征服欲が胸の内に渦巻く。声にならない呻きを漏らした。
「ごめんなぁ」
「毎回そう言いますけど、結局噛むではありませんか」
眉端を下げ謝る雷刀に、烈風刀は溜め息とともに返す。呆れた言葉に反して、声は柔らかいものだった。
烈風刀がこの噛み癖を嫌っている訳ではないことは、薄ら察していた。噛まれた瞬間あげる声も、残された痕を眺める瞳も、ほのかに熱を孕んだ甘やかなものなのだ。時折見せる、暗い赤を愛おしそうに眺める姿はどこか妖艶で、どきりとすることがある。
しかし、それとこれとは別である。嫌がられていなかろうと、己の征服欲が満たされようとも、怪我をさせるだなんて許されないことだ。性行為とは、双方が満たされるべきものである。そこに瑕疵は――それも欲望を制御できずに生まれた傷なんてものなど、あってはならないのだ。獣の欲望に負け相手にだけ負担を強いるだなんて、最低である。
兎にも角にも、この噛み癖は改めなければいけない。うぅ、と情けない声が漏れる。以前のように衝動を抑えられるよう、また一から我慢を始めなければ。
涙色の幸せ/プロ氷
AOINOさんには「大人は泣かないものだと思っていた」で始まり、「そんな君がただ愛しかった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば12ツイート(1680字)以上でお願いします。
大人は泣かないものだと、ずっと思っていた。いつだって明るく、太陽のように輝く笑顔を湛えている彼ならば、尚更。
「せ、んせ、い」
涙声で、氷雪は愛しい人を呼ぶ。消えかけのそれは、大粒の涙を流す彼には届かなかない。ただただ低い嗚咽が人気のない放課後の廊下に響いた。
逡巡の末、氷雪は愛し人の白衣の裾をきゅっと握る。頭二つ分高い彼を見上げ、せんせ、ともう一度濡れた声で呼ぶ。やっと気づいたのか、ずび、と鼻を啜る音とともに、夕日色の瞳が姿を表す。普段ならば楽しげに輝いているそれは、夕焼けに照らされた海のように滲んで揺らめいていた。
「ご、めん、…………嬉しく、て」
俺を、『識苑』を好きと言ってくれたのが、嬉しくて。
好きでいることを許されたのが、嬉しくて。
こみ上げる嗚咽を無理矢理抑えながら、識苑はどうにか言葉を紡ぐ。濡れた声は己のそれと同じで、今だけは自分とおんなじ子どものように見えた。つられて、翡翠の瞳からも雫がひとつ、ふたつとこぼれ落ちる。澄んだ雫が床に落ちる微かな音だけが、二人の空間に響いていく。
「……ごめん。みっともないとこ、見せちゃったね」
目元を白衣の袖で乱暴に擦り、識苑はへらりと笑う。赤くなった目元と鼻先、未だ涙が伝う眦と頬、下がった形の良い眉がそのままな笑顔は、明らかに作られたもので、酷く痛々しく見えた。きっと、まだまだ幼い『子ども』の自分の前で、いつものかっこいい『大人』としてあろうとしているのだろう。無理をさせている事実に、きゅうと胸が痛んだ。
共に顔を上げた氷雪を見て、識苑は目を丸くする。ぱちりと瞬き一つ。溢れた涙が、また一筋二人の頬に透明な線を作った。
「なっ、泣かないで! 大丈夫! 大丈夫だから!」
大げさなほど慌てふためき、青年は少女の頬を白衣の袖で撫でる。考えるより先に、身体が動いてしまったらしい。一拍置いて、ごめん、汚かったね、と上ずった謝罪の声があがった。拭ってもらったばかりだというのに、翡翠の瞳からはとめどなく雫が湧き上がり流れた。
「いえ……、わたしも、うれ、しく、て……」
ずっと、叶わないと思ってたから。
わたしを、『氷雪』だけを見てくれることなんて無いと思っていたから。
だから、嬉しくて、叶ったのが、嬉しくて。少女は嗚咽混じりに必死に言葉を紡ぐ。泣くだなんてこどもっぽい、みっともないだなんて考える余裕などなかった。彼に比べてずっと幼い自分では、溢れ出る感情をコントロールできない。止められない涙はぽろぽろとこぼれ、少女の白い肌を濡らすばかりだ。
はしたないと分かりつつも、着物の袖で目元を拭う。厚く白い布地が水を吸い、かすかに暗くなった。ぽとぽとと、涙の粒が更に袖を濡らす。ぅ、と喉がみっともなく鳴った。
そっと、小さな頭に大きな手が乗せられる。ゆっくりと下ろし、戻りをぎこちなく繰り返し、青年はどうにか少女の頭を撫でる。被衣を隔てているというのに、その手が、動きが、更に涙が湧き出るほど温かく感じた。
「……俺も、氷雪ちゃんが喜んでくれて、嬉しい」
普段のように柔らかく、いつもの彼らしくもない震える声が、少女の鼓膜を揺らす。そっと顔を上げ、見上げた先には、涙の跡を残した愛おしい人がいた。溢れていた涙は既に止まっているが、その頬には、未だ透明な涙の道筋がいくつも走っていた。
ず、と鼻を啜る音一つ。緊張で失った色を取り戻しつつある唇が、はくはくと動く。う、あ、と低く小さな声が、人のいない廊下に落ちて積もった。
「えっと……、あの、その…………」
これから、よろしく、お願い、します。
片言のようにつかえつかえになりながら、識苑はどうにか声で言葉を形作る。気恥ずかしいのか愛おしい少女から少しだけ視線を逸らし、小さく頭を下げた。その仕草はぎこちなく、それ故にどこか愛らしさがあった。
「……はい。よろしく、おねがいします」
涙をもう一筋流し、氷雪はふわりと破顔する。涙に濡れた頬を染める姿は、雪のように儚く可愛らしいものだった。
子どもの自分と同じように涙を流し、同じぐらい頬を紅に染め、ぎこちなく動き、言葉を紡ぎ出す。そんな大人の貴方が、ただ愛おしかった。
歩いて帰ろう/ライレフ
葵壱さんには「たまには遠回りしてみようか」で始まり、「だから綺麗に忘れてください」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば12ツイート(1680字)以内でお願いします。
「たまには遠回りしてみよ?」
くるりと振り返り、雷刀は笑みを浮かべそう言う。肩に掛けたナイロンバッグが小さな音をたてた。
突然の言葉に、烈風刀はぱちりと瞬きをする。兄の言葉を口の中で一度転がし、少年は顎に手を当てた。翡翠の瞳には、懐疑に満ちていた。
「……何か買い漏らしがありましたか?」
普段の帰り道から少し逸れた位置に、一軒小さなスーパーがある。買い漏らしがあるのならば、来た道を戻るよりもそちらに寄った方が近い。わざわざ遠回りをして帰る理由など、それぐらいしか思い浮かばなかった。その場合、『たまには』という言葉が引っかかるのだが。
「そうじゃなくてさー……」
弟の返答に、兄は小さく呟く。唇を尖らせる子どもめいた仕草を見るに、どうやら違うらしい。では、そちらの店舗にしか取り扱っていない商品があるのだろうか。それともどこか他に寄りたい場所でもあるのだろうか。浅葱の頭に疑問符が浮かんでいく。答えの見えない問いに、整えられた頭が軽く傾いだ。
先を歩いていた雷刀は大股で一歩、二歩、と進む。そのまま烈風刀の隣へと並んだ。少し屈み、紅玉が蒼玉を下から覗き込む。鮮やかな紅緋には、不満げな色が浮かんでいた。
「たまには二人きりで散歩でもしたいなーって」
言葉尻が萎んでいく様子は、拗ねているようにも恥じらっているようにも聞こえた。
あまりにも単純な解に、碧はまたぱちりと大きく瞬きをする。二人きりで散歩など、買い出しが終わり帰り道を歩く今と同じではないか。わざわざ誘うようなことではない。
「だってさぁ、最近ゆっくりする時間なんてなかったし……」
むにゃむにゃと尻すぼみになりながら、雷刀は小さく頬を膨らます。子どもめいた仕草に反し、その表情には寂寞の色が浮かんでいた。
確かに、と烈風刀は内心頷く。最近はアップデートおよび大会準備でゆっくりする暇などほぼ無かった。帰宅は常に夜遅く、疲れ果てた身体では自分の世話だけで手一杯だ。怒濤のアップデートが終わりいくらか経った今だからこそ、二人連れ添って買い出しに行く余裕が出来たのだった。彼の言う通り、ちゃんと二人きりで過ごすことは久方ぶりのことである。
顎に手を当て一考。しばらくの逡巡の末、渇いた喉がかすかに掠れた音を紡いだ。
「……いいですよ」
へ、と間の抜けた声があがる。了承など得られないだろうと思っていたのが丸わかりの音だ。この手の提案、というよりも思いつきにに烈風刀が乗ることは少ないのだ。仕方がないことだろう。
「最近座り仕事続きでしたからね。適度に運動するべきです」
そう言って、烈風刀は住宅街から少し離れた河原の方へと足を向ける。数拍の後、大きな足音が広くはない路地に鳴り響いた。ガサリ、とナイロンバッグが鈍い音をあげた。
二人で会話も無く歩いて行く。あたりに河原の先、赤く燃える陽が沈み行く。夕陽が放つ赤い光が、二人の横顔を照らした。まぶし、と雷刀は目を細める。一対の夕陽色も、瞼の地平線へと隠れようとした。
歩いていくうちに、身を寄せるように互いの距離が縮まる。ふと触れあった手が、幾度かの接触と躊躇いの後、柔く繋がれた。ひくりと白い手が震える。珍しく振り解こうとは思わなかった。人通りが少ない場所だからか、はたまた久しぶりの温度が惜しいのか。そんなこと、自分でもよく分からなかった。分からないまま、与えられる柔らかな温度を享受する幸せを味わった。
ふふ、と隣から笑声が漏れる。小さく漏れ出たそれは幸に満ちたもので、とろけた響きをしていた。
「どうしたのですか」
「いやー。久しぶりのデートだなー、って」
幸福を噛み締めはにかむ兄を見て、弟の足がピタリと止まる。訝しげに名を呼ぶ兄の声は、彼に届くことがなかった。
デート。
言われてみれば、恋人二人で出掛けることはデートと呼んでもおかしくはない行為だ。しかし、こんなのただの買い出しで、ただの散歩だ。デートなど、そんな、大層なものでは。
繋いでいた手がバッと勢いよく離される。振り解いた手は宙を彷徨い、肩に掛けたナイロンバッグの取っ手に着地した。力を込められた細い取っ手が大きな皺を作った。
「え? 何? どした?」
突然の行動に、朱は困惑の声をあげる。なんでもありません、と返す声は、動揺と羞恥と幸福がぐちゃぐちゃに混ざった音色をしていた。
「もしかして、烈風刀も今更そう思ったってこと?」
「違います!」
「違ってたら手離さないじゃん!」
夕暮れの河原に、男子高校生二人の声が響く。じゃれあうというには騒がしいものだ。かといって、諍いにしては甘さを含んだ音色をしていた。
かわいー、と揶揄い交じりの声が飛んでくる。恐らく底楽しげに笑っているであろう兄から、ふいと目を逸らした。そんな表情を見て、憎たらしさ以外の覚えるはずなどない。
都合良く解釈する彼に、都合良く解釈してしまった自分に対しての言葉にならない感情がふつふつと湧き上がる。こんなくだらないもの、さっさと忘れて無かったことにしてしまいたかった。
「……あぁもう、うるさい! 早く綺麗に忘れてください!」
喧嘩の後には/ニア+ノア
葵壱さんには「泣き虫が笑った」で始まり、「ここが私の帰る場所」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば7ツイート(980字)以内でお願いします。
泣き虫がやっと笑った。
などと言えばまた泣き出してしまうだろう。思わず思い浮かんだ言葉が漏れないよう、ニアはきゅっと唇を結ぶ。腕を伸ばし、目の前、妹の目元に浮かぶ涙を長い袖でそっと拭った。
「もう大丈夫?」
「……だいじょう、ぶ……」
顔を覗き込み、努めて優しく尋ねる。憂慮が見える姉の言葉に、ようやく和らいだ妹の表情が再び薄く曇り始めた。心づけようとしたのだが、逆に不安を煽ってしまったようだ。どんどんと陰る蒼瞳に、焦燥が少女の胸を襲う。再びまあるい瞳に水が膜張る前に、俯きゆく頭に急いで手を伸ばした。
「大丈夫だよ!」
今度こそ元気づけようと、ニアは声を張り上げる。そのまま衝動に身を任せ、小さな頭を力いっぱい撫で回した。言葉も重要だが、行動で示した方が彼女にはよく伝わるだろう。もう大丈夫、と励ましの気持ちを小さな手に目一杯載せ、少女は愛しい妹を撫でた――撫でるというよりは、髪をかき乱すような激しさなのだけれど。
ぐしゃぐしゃになっちゃうよぉ、と抗議の声があがる。微かなそれは未だ涙に濡れていたが、数分前に比べてずっとはっきりとした響きをしていた。ごめんね、と謝り、少女はバッと手を離す。強く撫で回した頭は、ノアの言った通り、なめらかな蒼髪が絡み合いくしゃくしゃになってしまっていた。あわわ、と焦りつつ、さっさっと手ぐしで整える。すん、と鼻をすする音と、ふぇ、と小さな嗚咽が涙でふやけた部屋に落ちた。
「ノアちゃんにはニアがいるからね。大丈夫だよ」
だいじょうぶ、だいじょうぶ、と歌うように囁きながら、ニアは愛しい妹の頭を撫でる。丁寧に撫でる小さな手には、慈しみが表れていた。
「……泣かせたのはニアちゃんでしょ」
すん、と小さく鼻を啜り、ノアは不貞腐れた声で呟く。ジトリと向けられた視線に、う、と苦しげに喉が鳴った。確かに少し強く言って泣かせてしまったのは自分だ。こればかりは言い訳しようがない。ごめんね、と謝る声は呟きのような小さく細いものだった。
「でも、ノアもいっぱい酷いこと言っちゃったよね……。ごめんなさい」
「ニアも酷いこと言っちゃったもん。あいこだよ」
大丈夫、と今一度妹の頭を撫でる。今度は髪を梳くような、優しく柔らかな手つきだ。心地よい感覚に、ノアはゆっくりと目を細める。目尻に残っていた涙が頬を静かに伝った。
頭に乗せた手を離し、ノアちゃん、と妹の名を呼ぶ。なぁに、と不思議そうに問うノアの目の前で、ニアは腕を目一杯に広げた。意図を察して、キョトンとした表情が柔らかく解ける。同じく手を広げ、ノアは姉の胸へと飛び込んだ。
互いに背に回した腕に力を込め、ぎゅうと抱き締める。苦しいよ、と二人でクスクスと笑いあう。そこにはもう、涙の色はなかった。
大好きな妹と触れあい笑いあえる。ここが私の帰る場所なのだ。
笑顔咲かせ/プロ氷
あおいちさんには「花が咲くように」で始まり、「不器用でごめんね」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば7ツイート(980字程度)でお願いします。
花が咲くように笑う人だ、と彼の笑顔を見る度に考える。
「あっ、氷雪ちゃん」
廊下の角を曲がった先、技術室の扉から桃色の頭が覗く。少し硬い桃髪の奥に隠された橙が、ゆっくりと細められた。
この人はいつだって満開の花のように笑み、からからと心底楽しそうに大きな笑声をあげる。太陽の陽を浴び堂々と咲く夏の花を思わせる姿だ。
けれど、普段と違う笑顔を見られるのは自分だけだ、と考え、氷雪は頬を赤らめる。思い上がりも甚だしい。けれど、あの人があんな風に笑う姿を他に見たことがないのだ。朝日を受けた花がふわりと花弁を綻ばせるような、あんなに優しくて、あんなに愛おしそうな笑みを浮かべるのは、決まって自分の前だけだ。少なくとも、自分の観測上は。
「氷雪ちゃん?」
恋人の声に、現実に意識が浮上する。己の姿を見て駆け寄ってきてくれたのだろう、いつの間にか目の前には識苑がいた。桜色の頭は不思議そうに傾いでいた。
あの愛おしい笑顔に見惚れていたのだと気付き、少女の頬に朱が散る。いえ、と返す言葉は上ずっていた。
「えっと……、あの、……先生の笑顔は、いつも素敵だな、と思って……」
ぽそりぽそり、つかえながらも言葉を紡いでいく。恥ずかしいことを言っていると自覚したのは、全て声で形作ってしまった後だった。少女の頬が更に朱に染まる。
「えっ、そう?」
驚きの声をあげ、識苑はぺたぺたと己の頬を触る。褒められた喜びとかすかな羞恥にか、彼の頬にも淡く朱が浮かんだ。
「そっかー……。ありがとう」
そう言い、青年はえへへ、とはにかむ。喜びにとろけた笑顔は、やはり自分の前でしか見せない特別なものだ。その柔らかな表情に、無意識にまた目を奪われた。
「氷雪ちゃんの笑顔もとっても素敵だよ」
突然の言葉に、ふぇ、と思わず呆けた声が漏れる。彼の真似をするように、氷雪も己の頬をぺたぺたと触る。柔らかなそこは確かな熱を持っており、顔が赤らんでいることが容易に想像できた。
笑顔が素敵だなんて、今まで一度も言われたことがなかった。感情を上手く表現できず表情に乏しい己をそう評する人がいるだなんて。それも、愛している人が言ってくれるだなんて。驚きと喜びに、きゅうと胸が詰まる。ぁう、と呼吸をしそこなった音が小さな口からこぼれた。
彼のように笑顔を浮かべようとする。しかし、表情筋は硬く強張り、頬は引きつるばかりで口角は一向に上がらない。ひく、と持ち上げようとした頬が変に震えた。
一向に上手くいかず、嫌悪感が胸を埋めていく。せっかく素敵と言ってもらえたのだから、見せてあげたいのに。あぁ、何故自分はこうも駄目なのだろう。一人胸の内で呟く。
不器用でごめんなさい。
君にはきっと届かない/ライ←レフ
葵壱さんには「ひとつ願いが叶うのなら」で始まり、「月が綺麗ですね」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば8ツイート(1120字)以内でお願いします。
「一つ願いが叶うなら、ですか」
思わず復唱すると、そそ、と短い返事が飛んでくる。問いの主は毛布でぎゅっと身を包み、宙空を見上げた。
「流れ星にはお願いするもんだろ? 烈風刀ならどんなお願いするのかなーって」
二人の視線の先、紺碧に染まった空を幾本もの線が駆け抜けていく。ネットニュースにあった通り、今がピークの時間のようだ。朱と碧の瞳は空を走る光の筋を眺めていた。
願い事、と烈風刀は口の中で呟く。レイシスが健やかに過ごせますように。兄がもっとまともな成績をとれますように。ゲーム運営が更に安定しますように。様々な願いが脳内に浮かんでは消える。日常の幸せを願うそれらの片隅に、何かが声高に主張をし始めた。
気づかれぬよう、横目で隣の朱を見やる。毛布に包まり空を見上げる横顔は華やかに綻んでおり、キラキラとした瞳は純粋無垢を形にしたような輝きをしていた。
好いている人に想いを届けたい。成就なんて贅沢は言わない。ただ、この心の内をはっきりと打ち明けられるようになりたい。
可愛らしい横顔に、愛おしさと醜い願いが湧き出る。蓋をして閉じ込めて沈めておきたいものなのに、厄介なことにこいつは時折存在を主張するのだ。
恋を星に願うなど、女々しいにも程がある。分かっていても、何かに縋りたくなるぐらいこの想いは苛烈に燃えていた。
願い事一つ叶うなら。そもそも、今すぐにでも叶えられる願いなのだ。星に願う必要などない。口を動かせば、すぐに叶うのだから。
ごくりと唾を飲み込む。今から口にするのは普通の言葉だ。ただ、人によっては意味が変わる不思議な言葉――どうせ、こういう類のものには興味の無い彼にとっては、ただただ普通の他愛のない言葉だ。
そんな予防線を張り、烈風刀は今一度空を見上げる。丸い月の光が、走りゆく星々を照らしているようだった。
「……月が綺麗ですね」
畳む
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