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No.100

ぜんぶおくすりのせい【ライレフ/R-18】

ぜんぶおくすりのせい【ライレフ/R-18】
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カヲアシちゃんのお薬(便利な言葉)で大変なことになっちゃった弟君がオニイチャンに大変なことをする話。♡喘ぎと淫語(ごく軽度)の練習。解釈違いとの戦い。

 カチャ、と陶器が擦れる軽い音が薄暗い廊下に響く。慌てて皿とカップの配置を直し、雷刀は今一度手にしたトレーをしっかり掴んだ。面倒臭がって電灯を点けないままで薄暗闇に包まれた廊下を静々と歩く。音が消えたそこは何だか不気味に思えた。
 目的のドアの前に辿り着き、少年は取り付けられた銀のノブをじぃと見つめる。きちんと手入れされたそれは、明かりの下ならば美しく輝くだろう。薄闇に隠された今は、ただただ金属の冷たさを彷彿とさせるだけだ。
 無意識に伏せられていた朱い目が上がり、木目で彩られたドアを眺める。厚いその向こうにいる人物のことを考え、少年は小さく眉をひそめる。強い皺が刻まれたそこには、己の不甲斐なさや情けなさを悔いる苦しげな感情が見えた。
 手にしたトレーを片手で抱え直し、空いたもう片方の手を軽く握る。そのまま、目の前のドアをノックしようとして、手の動きがピタリと止まった。必要以上に無理をしていないかという心配と、一人籠もっているところに干渉していいのかという躊躇が、天秤の上でぐらぐらと揺れる。不安定に揺れ動いていたそれは、抱えた利己的な感情へと判を下した。
「烈風刀ー」
 握った手の甲でドアを軽く叩く。コンコンコンと軽く硬い音の後、部屋の主へと呼びかけた。
 普段ならばすぐに返事が来るのだが、今日返ってくるのは沈黙だけだ。もう寝てしまっているのだろうか。それとも、返事すらできないほど不調なのだろうか。いくつも芽生える不安が募っていく。
 こくりと唾を飲み込む。これ以上思案していても仕方が無い。食事はできるだけ摂るべきだ。今すぐには食べられなくとも、部屋に運んでおけば食事が行動の選択肢の一つに入るはずである。普段人の食生活を気に掛けてくれるあの弟は、自分に関しては案外無頓着だ。こうでもしておかなければ、一食抜かしてしまうに決まっている。
「……入るぞー」
 少し潜めた声で断りを入れ、ドアノブに手をかける。錠の無い扉は、抵抗一つなく開いた。キィ、と蝶番が擦れる高い音が薄闇に響く。
 ドア一つ隔てた先の世界は、廊下と同じ程の闇に包まれていた。ベッドボードに置かれた小さなライトが、ベッド周りだけを柔く照らす。光を煌々と浴びるマットレスの上には、薄い掛け布団だけがあった。丸く膨らんでいることから、その中には何か――部屋の主たる烈風刀がいることが分かる。頭まですっぽり潜る様は、子供の頃を思い起こさせるものだった。
 やはり寝ているのだろうか。起こしてしまわぬように、そっと足を運ぶ。綺麗に片付けられた学習机の上に、持ってきたトレーを音をたてぬよう置いた。机にあった付箋とペンを借り、調子が戻ったら食べるようにという旨のメッセージを書き残す。それをトレーの縁に貼れば、ミッションコンプリートだ。
 寝ているのならば、そっとしておくべきである。長居は禁物だ。再び、慎重な足取りで部屋の中を進んでいく。それでも、ついベッドの傍で足を止めてしまった。さっさと出ていくべきだということは、理性では分かっている。しかし、大切な片割れの様子が気になって仕方なかった。
 憂いに染まった朱が、薄い布団を見つめる。部屋の主が眠っている今、静かな部屋の中には音はないはずだ。しかし、何かの音が鼓膜を震わせる。何だろう、と音の発生源を探すため耳を澄ませる。源は、丸まった布団にあった。
 こんもりと膨らんだ布団の隙間から、はぁ、はぁ、と荒い息が聞こえる。短いそれは震えており、熱に浮かされるような苦しげなものだった。
「烈風刀……?」
 恐る恐る名を呼んでみる。瞬間、丸まった布団がびくりと跳ねた。その姿から寝ているものだと思っていたが、どうやら起きているようだ。答えは返ってこぬものの、隙間からは依然苦しげな喘鳴が漏れ出ている。明らかに様子がおかしい。
「おい、烈風刀」
 潜りこんだままでは、どんな状態にあるのか分からない。具合を確かめるため、すっぽりと被っている掛け布団に手を掛ける。いくらかの抵抗はあったものの、薄いそれはすぐに剥がれた。
 ふわりと何かが香った。嗅いだことがある匂いのはずだが、今はそれが何か思い出せない。そも、思い出す暇などない状況だ。なにせ、目の前には信じられない光景が広がっていたのだから。
 布団の中、烈風刀は胎児のように丸まっていた。まっすぐ姿勢良く眠る彼にしては珍しい体勢だ。しかし、注目すべきはその下半身だ。帰ってきた頃には制服に包まれていた足には何も履いておらず、生まれたままの状態であった。足元には、ボトムスと下着がぐしゃぐしゃになって転がっている。恐らく、布団の中で脱いだのだろう。上半身はジャケットが脱がれ、白いカッターシャツ一枚だけだ。それもボタンが全て外され、大胆にはだけていた。
 更に驚くことに、その顕になった白い肌は濡れていた。熱による汗ではない。粘力のある透明な液が、少年の手と股座――特に臀部を汚している。一部は薄く白が滲んでいた。敷かれたシーツも濡れており、小さなシミをいくつも作っていた。
 身体のほとんどを顕にし、肌を濡らし、喘鳴を漏らす。それは、情事を思い起こさせる光景だった。
「――――ッ!」
 あぁ、この匂いは精液の匂いか。頭にわずかに残った冷静な部分で呑気に考えていると、突如、力強く腕を引かれた。そのまま、目の前のベッドに倒れ込む。ぼふん、とマットレスが沈む音とともに、視界が黒くなる。香る精臭が一層濃くなったように思えた。
 何だ、と目を白黒させていると、今度は肩を掴まれる。力任せに引かれ、うつ伏せの状態から無理矢理仰向けにされる。暗くなった視界に淡い光が差し込む。同時に、腹に何かが乗り上げる感覚。強い負荷に、ぐ、と息が詰まる。全てが突然のことで、状況の何もかもが分からない状態だ。驚きに満ちた脳味噌には、感嘆符を伴う疑問符が多量に浮かんでいた。
「――ご、めんな、さい」
 はぁ、はぁ、と熱に浮かされた吐息と、舌足らずな声が上から降ってくる。見上げた視界には、己の身体に乗り上げた烈風刀の姿があった。その目は、声の幼さに反して険しげに細められている。薄っすらと潤んだそれは、いくつもの感情が渦巻いていた。
「放課後から、身体がおかしくて……。頭が、変で」
 放課後というワードに、雷刀の頭に数時間前の光景が呼び起こされる。
 今日の放課後、運営業務も早く終わり、三人で帰るところだった。たまたま理科室の前を通った際、教室内から爆発音がしたのだ。同時にドアが歪み、そこから正体不明の煙が漏れ始めた。偶然先頭を歩いていた烈風刀は、後方にいたレイシスを庇いその煙をもろに浴びたのだった。
 煙も落ち着き乗り込んだ理科室の中にいたのは、予想通りカヲルとアシタの二人だった。曰く、爆発と煙は新薬開発の失敗によるものだそうだ。詳しい内容は聞きそびれたが、彼女らのことだ、怪しいものを作っていたのであろう。理性的であろうと努力している彼がこんな状態になっているなんて、よほどのことだ。一体何を作っていたのだ、と少年は内心頭を抱えた。
「ら……、っ、雷刀が欲しくて、たまらなくて」
 我慢できなくて。
 一人でシても駄目で。
 酷くなるだけで
 苦しくて。
 寂しくて。
 雷刀じゃなきゃ嫌だと考えてしまって。
「――せ、セックス、したくて、たまらないんです」
 押し倒した兄の服をぎゅうと握りながら、弟は拙く言葉を紡いでいく。丸く輝く藍玉から、ぼろぼろと大粒の涙がこぼれ落ちる。よく見ると、潤んだそこの中央、瞳孔に当たる部分にはピンク色のハートマークが浮かんでいた。何より、その美しい瞳には情欲の炎が燃え盛っていた。
 現在の彼の姿、先程からのらしくもない淫らな発言、そしてとろけきった表情。目の前の男は、たしかに欲情していた。恋人である、自分相手に。
 あの煙は媚薬の類だったのだろう。なんてものを、と心の内で叫ぶが、もう後戻りできないところまで来てしまっているのは明らかだ。
「ごめ……、な、さい」
 全部僕がしますから。
 おねがいします。
 ごめんなさい。
 許して。
 涙声で唱える言葉は、どれも愁哀に満ちていた。神の前で罪を告白する罪人のようだ。自罰的な音色は、聞くこちらの胸も引き裂くような悲しみに満ちていた。
 許すも何もない、落ち着け。宥めようと手を伸ばし口を開くが、声を発することは叶わなかった。
 伸ばした手に、濡れた手が重ねられる。そのまま、指と指との間を埋めるようにぎゅうと握られた。視界が暗くなる。サラサラとした浅葱の髪が、目の前を掠める。水が溢れる翡翠が、目の前に迫った。
「ん、ぅ――!?」
 気付けば、唇を奪われていた。いきなりのことに、身体が硬直する。逃げる余裕も、跳ね返す余裕も、全て驚愕に奪い去られてしまった。
 言葉を発そうと開いた口の隙間から、舌が這入り込んでくる。常ならば恐る恐るといった調子でゆっくりと動くそれが、性急に己の赤を絡め取る。表面を擦り合わせ、潜って付け根をくすぐり、歯列をなぞり、固い口蓋を撫ぜる。一気に与えられる口悦に、少年は翻弄されるがままだ。ぐちぐちと溢れる唾液が掻き混ぜられる音が耳に響く。
 口付けに振り回される間に、腹に違和感を覚える。何か固いものを擦り付けられている感覚だ。布地が濡れていく感触に、それが烈風刀自身であることを理解する。おそらく、欲望が止まらないのだろう。口腔での交わりの間も、彼はひたすらに快楽を求めているようだ。ずり、ずり、と腹の上を先端が往復する。その度に、口の中に甘い吐息が注がれた。
「――は、ァ」
 口内での長い逢瀬が終わり、烈風刀は唇を離す。だらしなく垂れ下がった舌と舌との間に、細く輝く橋が渡る。それも、ちゅるりと飲み干されてしまった。
 口腔を愛し尽くされ、雷刀は荒い息をあげる。休む暇などなくずっと舌を交わらせていたのだ。酸素が足りなくて当然だ。健康な肺は、酸素を取り入れようと懸命に動いた。
「ごめんな、さい」
 ごめんなさい、ごめんなさい、と少年はうわ言のように繰り返す。開く口の端から、透明な唾液がつぅと流れて肌を伝った。
「頑張って、気持ち良くしますから」
 ごめんなさい、と今一度繰り返し、少年は腹の上で後退りする。引き締まった身体が、己の上から去っていく。怒涛の展開に呆然としていると、下腹部に――具体的に言うならば、中心部に何かが触れた。急所への感覚に、反射的に身体が跳ねる。肘を突いて急いで上半身を起こすと、そこには己の足の間に跪き、服に包まれた中心を撫で回す碧の姿があった。
 普段の彼から想像もできぬ光景に、思わず言葉を失う。何をしているのか――見た通りであり何もなどないのだが――と問おうにも、喉が上手く動かない。発声する機能を忘れてしまったかのようだ。
 精液とローションで濡れた手が、頭を撫でるように陰部をくるくると撫で回す。布越しの間接的なものとはいえ、刺激は刺激である。生理現象には敵わず、服の内に秘めたる肉は徐々に硬くなっていった。勃ち上がりはじめた肉茎が、生地を押し上げる。ぅ、と苦しげな、しかし確かな官能を孕んだ声が喉奥から漏れ出た。
 遠慮がちだった手が止まり、今度はボトムスへと伸びる。甘い痺れが脳を焼く雷刀に、その行動を止めることなどできない。隆起した場所を戒めていた布地は、濡れた白い手によって徐々に取り払われた。
「……、ぁっ、らいと、の……♡」
 まろびでた陰茎に、碧の少年は陶然とした声をあげた。未だ潤む目がゆっくりと垂れ下がり、口角が緩く持ち上がる。目の前に馳走を差し出された子どものような顔だ――子どもはこんな情欲に溺れた妖艶な表情などしないのだけれど。
 姿を現した屹立に熱烈な視線を送っていた少年が、かぱりと大きく口を開く。そのまま、緩く勃ち上がった雷刀自身をぱくりと呑み込んだ。
「えっ!? あッ、おい、烈風刀!?」
 突然の口淫に、朱の少年は驚きの声をあげる。否定の意味を含んだそれは伝わらなかったのか、碧は構うことなく頭を動かし始めた。
 芯を持ち始めた欲望の象徴に、温かな口の中でたっぷり唾液をまぶされる。奮い立てるように、窄めた唇が全体を往復し扱いていく。時折、横笛を吹くように横から唇で挟み、なぞるように幹をたどる。ぐぷぐぷと、唾液が泡立つ淫猥な音が鼓膜から脳味噌を犯した。
 口いっぱいに頬張り、少年は硬く張り詰めた頭に唾液を纏いぬめる舌を這わせていく。磨くように全体を舐め回し、傘の段差をくすぐられる。明確な刺激に、思わず腰が跳ねる。喉奥を突く形となってしまったが、碧は小さな官能の声をあげるだけだ。
 すっかりと勇ましい姿を取り戻した欲望の塊を、赤い舌が這う。浮かぶ血管を舌先でなぞるように舐められ、雷刀は断続的に欲の浮かぶ声をあげる。本当ならば、今すぐにでも突き放すのが正解なのだろう。けれど、直接的な快楽を一気に与えられた脳味噌は、反抗することを選ばなかった。否、快楽の波に揉まれ飲み込まれた状態では、物事を選択する余裕など無いのだ。
 しっかりと勃ち上がった竿をざらついた舌の表面で撫で上げ、尖らせた舌で裏筋を突く。そのまま、先走りが溢れる鈴口をぐりぐりと抉られる。柔らかな唇が、先端から根本まで丹念に扱き上げる。幾度も肌を重ね、知り尽くされた弱点を、弟は的確に攻め上げる。もう起き上がっているのが精一杯だった。腰骨を、脊椎を、脳を、強大な快楽信号が駆け抜けていく。頭を力一杯殴られているような心地だ。凄まじい快楽は最早暴力である。
「ァッ、れふっ、れふとッ! も、だめ……! だめだからぁ……!」
 降参の声をあげるも、口淫は止まらない。むしろ、果てを予感したことにより更に激しくなっていった。じゅぷじゅぷと激しい水音が二人きりの部屋に響く。
 弱い部分を、潤んだ唇が、ぬめる舌が、硬口蓋が、頬が、喉壁が攻めたてる。口全てを使われた愛撫に、雷刀は為す術がない。ただ、与えられる快感に喘ぐことしかできなかった。
 先端をぢゅうと思い切り吸い上げられ、ぐぅ、と息が詰まる。限界を超えた刺激に、呑み込まれた雄から白濁が勢いよく放たれた。剛直を咥えたまま、白い喉がうごめく。注ぎ込まれる濁液を飲んでいるのだということが分かる動きだ。美味いなどとはお世辞にも言えぬ欲望の証を、少年はこくりこくりと飲んでいく。先端に健気に吸い付き、尿道に残ったものまで飲み込むおまけ付きだ。
「……ん、ぅ♡ は、ぁ……、らいとの、おいしい……♡」
 たっぷりと注がれたスペルマを飲み下し、烈風刀は幸せそうに破顔する。薄っすら開いた口の中は真っ赤で、精の白は見当たらない。残らず全て飲み干したという何よりの証拠だった。あまりにも淫らな姿に、びくりと腰が跳ねる。夜明け空の瞳が、力を失った雄肉を追った。
 目の前に跪く少年の眦は幸福に垂れ下がり、頬は熱を帯び紅潮し、形の良い細い眉は悩ましげに八の字を描いている。常は涼しげな表情をした、美しさと格好良さを兼ね揃えた弟の顔が情欲に塗れとろけた様子は、毒そのものと言っても過言ではなかった。先程吐き出したばかりだというのに、腹の奥が熱を持つ。力無く倒れ伏せた雄杭に、再び血液が集まっていくのが分かった。
 跪いていた碧がふらふらと身を起こす。ベッドの上に乗り上げ、起き上がった烈風刀は兄の肩を軽く押した。熱烈な奉仕によって心身ともに翻弄され、欲望を思い切り吐き出した疲れに、少年は再びベッドに倒れこむ。すぐさま、腹と胸に重みがかかる。また烈風刀が乗り上げてきたのだと分かったのはすぐだった。
「ごめ……な、さい」
 淫情でどろどろにとろけた顔で、少年はまた謝罪の言葉を口にする。情火を多分に含んだ濡れた声は、淫らさよりも痛苦や悔恨が勝っていた。
「がんばって……、がんばって、きもちよくしますから。ぜんぶ、ぼくがしますから」
 ゆるして。
 赦しを、助けを乞う声が狭い部屋に落ちる。ぽろぽろとこぼれる涙が、己の胸元を濡らしていく。暗い色の布地に、黒い斑点がいくつも浮かび上がった。
 弟の言葉に、表情に、雷刀の身体は硬直する。動けるはずが――身を起こして諭し、拒否できるはずがなかった。ここまで淫情に振り回される愛し人の姿はあまりにも痛々しい。苦しみに悶え、喘ぎ、涙をこぼす様を放っておけるわけがない。この身体を差し出すことで彼を少しでも救えるのならば、己はこのまま倒れているのが正解なのだ。
 ず、ず、と勃ち上がった熱杭に、柔らかなものが擦り付けられる。しとどに濡れたそこは、おそらく烈風刀の臀部――そして奥に秘められた蕾だろう。内に燻る熱を吐き出すための自涜は、雄の器官だけでなく後孔でも行われていたようだ。ローションのぬめりがそれを明確に示していた。
 扱くように上下に動いていた腰が止まる。一点――奥まった、少しへこんだ場所に、先端が宛がわれた。予想される衝撃に、今一度身が硬くなる。ごくりと無意識に唾を飲み込んだ。
 硬さを取り戻した雄の象徴が、柔らかな肉に埋まっていく。恐ろしいほどの熱に包み込まれ、思わず息を呑む。じりじりと焼かれていくような、腰から下を融かされていくような感覚だ。手ずから耕された内部は、異物を難なくと飲み込んでいった。
「あ……♡ あっ、ァ……♡」
 熟れた切っ先が内部を切り込んでいく度、烈風刀はか細い声をあげる。エメラルドの瞳は白い瞼の奥に隠れ、姿は見えない。けれども、そこに情炎が燃えさかっていることは、可哀想なまでに震える身体と声から嫌でも分かった。
 獣欲の証が、括れた位置まで内部に潜り込む。少年はそこで動きを一度止めた。はぁ、はぁ、と荒い息が降ってくる。帰ってからの数時間、ずっと欲望の焔に炙られていたのだ。そこに、先程までの熱烈な口淫だ。疲弊しているに違いない。おそらく、今彼を救えるのはこうやって肌を重ねることだけだ。しかし、このままでは倒れてしまうのではないか。不安が胸を過る。それもすぐさま、消え失せた――消え失せられるほどの衝撃が、身体を襲った。
「――――ァッ!」
 ぐぷん、と鈍い音が聞こえた気がした。脳味噌を、快楽が力一杯殴りつける。神経を焼き切るような刺激に、短い悲鳴が二つ重なる。どちらも、欲に溺れた音色をしていた。
 先程までの行為はあくまで狙いを定めるものであって、照準を合わせた今、そのまま一気に呑み込んだのだ。それを理解できるほど、雷刀の頭は機能していない。当たり前だ、身体の中でも特に敏感な器官に受容しきれないほどの刺激を与えられたのだ。口付けと口淫で欲に煽られた脳味噌が、思考することにリソースを割けるわけがない。
「あ♡ は、ぁ……♡ ぁっ、あっ♡ らいとのおちんちん、ぜんぶはいったぁ……♡」
 甘い吐息をこぼしながら、烈風刀は恍惚とした顔で呟く。背と首をしならせ、快感にふるふると震え、普段ならば絶対に発することのない卑猥な言葉を口にする様は、淫らとしか言いようがなかった。
 鍛えられた胸板に手をつき、碧の少年は腰を持ち上げる。貫く杭を半ばまで抜き、重力に身を任せ一息に呑み込む。抜けそうなほどの浅い位置、張り出した部分で柔らかな淵を擦る。単純な動作ではあるが、生み出す悦楽は凄まじいものだ。腰骨から脊椎を快楽が駆け抜け、脳神経を焼いていく。視界には白い光の粒がいくつも瞬いた。
「ぅ、あっ♡ ん、ぁ♡ あ♡」
 上下する腰が、より内壁に擦り付けるように前後に動く。特に腹側の一点――彼の弱点と思われる位置を楔が抉る度、うちがわはきゅうと締まった。あまりにも強い刺激に、ぐぅ、と鈍い音が喉から漏れ出る。
 ぐちゅん、ぐぷん、と淫靡な音が結合部からあがる。甘ったるい嬌声が、唾液とともにこぼれ落ちる。淫猥な重奏が、聴覚を犯す。脳味噌がとろけてしまいそうな心地だった。
「ぁ、あっ、れふ、と……、れふとぉ……!」
 押し寄せる快楽から逃げるように、雷刀は己の目を片腕で覆う。開いた口から漏れ出るのは、本能が剥き出しになった喘ぎだけだ。ぁ、と安堵したような笑声が、暗い視界に降ってくる。潤んだ鞘が、包み込む熱の剣を強く締め付けた。
「あっ♡ は、ぁ♡ とまらな……ぁ♡」
 ぱちゅん、ぷちゅん、と濡れた肉と肉がぶつかりあう音が、二人きりの部屋に積もっていく。引き締まったその身が止まる様子はない。薬によって獣の本能に支配された彼は、己の身体をコントロールできないようだ。更に奥まで呑み込もうと、腰がぐりぐりと押し付けられる。行き止まりを張り詰めた頭が擦る度、熱を孕む隘路が奥へ誘うように蠕動した。
「ご、め、な……さい……、ごめんな、さい……」
 獣欲のままに腰を動かす中、烈風刀は幾度も謝罪の言葉を繰り返す。兄を欲望の捌け口にしている事実が、未だ彼の胸を苛んでいるのだろう。ごめんなさい、ごめんなさい、と濡れた言葉が朱の上に降り注いだ。
 目を覆っていた腕をどうにか動かし退ける。広がった視界には、涙でぐちゃぐちゃになった弟の姿があった。濡れた頬は紅潮し、閉じることのできない口の端からは唾液が伝っている。水をたっぷりとたたえた蒼玉の奥には、ピンク色のハートマークが煌々と輝いていた。腹に抱えた獣をこれでもかと刺激する姿だ。このまま食い尽くされたい。食い尽くしてしまいたい。騒ぎだす獣を必死に押し込め、雷刀は赤い唇で言葉を形作っていく。
「だいじょぶ、だから……。気にすんな、って……ぅ」
 雫がいくつも線を作る頬に手を伸ばす。びしょびしょになったそこは、浮かぶ色通り強い熱を孕んでいた。濡れることを厭わず、雷刀はその柔らかな場所をそっと撫ぜる。それだけでも快感を拾ってしまうのだろう、乗り上げた身体がびくりと大きく震えた。情欲に塗れた吐息が部屋に落ちた。
「だ、て……だってぇ……」
 兄の言葉に、弟は首を大きく横に振る。柔らかな髪がぱさぱさと音をたてて揺れる。まあるい瞳から更に雫をこぼれた。自罰的な節がある彼だ、薬に振り回され大切な恋人を無理矢理犯す己が許せないのだろう。そんな彼を落ち着かせようと、雷刀は頬を撫でながら言葉を紡いでいく。
「だいじょーぶ……、謝んなくて、いいから。烈風刀の、好きにして、いいから」
 本心であった。確かに驚きはしたものの、全てはあの謎の薬品が悪いのだ。烈風刀に非など無い。むしろ、身を挺し怪しげな薬からレイシスを救ったことは褒められるべきことである。結果的に自分は犯されているが、これは雷刀にとって合意の上の行為である。肌を重ねることで、可哀想なまでに翻弄されている彼を救い出せる。それならば、この身を捧げることぐらい何でもない。
「オニイチャンは、っ……だいじょーぶだから。気にすんな、って」
 な、とどうにか笑いかけると、ひぅ、と短い嬌声があがる。柔らかな内部がきゅんと締まり、雄茎を抱き込む。ソリッドな快感に、鈍い音が喉からこぼれ落ちた。抱き締めた側も、背を走る快楽に小さく喘いだ。
「でも……、ぅ……、ごめ、な、さい……」
「だいじょーぶって、言ってるだろ? オレは、ほんとにだいじょぶだから。烈風刀が、好きなようにして?」
 頬から手を離し、今度は頭を撫ぜる。碧色のさらさらとした髪は、汗ばんで少し湿っていた。乗り上げた身体がびくびくと震える。本能的なものか、引き締まった腰がくねる。与えられる快楽に唇を噛みしめながらも、雷刀は形の良い頭をゆっくりと撫ぜ梳かす。小さな頃、宥める時にやってきた行為だ。
 ハートマークの浮かぶ目がぱちぱちと瞬く。その度に、熱い雫がこぼれ、朱の胸を濡らす。だいじょぶ、ともう一度投げかけると、すん、と鼻を啜る音が返ってきた。
「ほ、とに……、ぅ、あっ……、ほんとに、いいんですか……?」
 大粒の涙をこぼしながら、烈風刀は問いかける。戸惑いの響きの中には、たしかな歓喜があった。理性的な彼を、本能が支配していることの表れだ。
「ほんとーにだいじょーぶ。いっぱい、気持ちよくなりな?」
 そっと目を細め、色欲の炎が揺らめく瞳をじぃと見つめる。柔らかながらも熱を持った視線に、肉の剣を収めた後孔が窄まる。根元を思い切り締め付けられ、雷刀は息を呑む。温かな肉に包まれた雄の部位がビクビクと震えた。
 ごめんなさい、と今一度呟いて、少年はゆっくりと腰を持ち上げる。繋ぎ合わさった部分から、硬く勃ち上がった陰茎が覗く。それもすぐに、狭穴に呑み込まれた。ぷちゅん、と可愛らしくもいやらしい音が響く。
 遠慮がちだった動きが、自然に速度を増していく。気がつけば、また淫猥な水音が部屋いっぱいに満ちていた。上下運動によって生み出される快楽は、二人の脳を焼いていく。理性はどんどんと削れ、本能が大手を振って頭の中を蔓延った。
「ッ、烈風刀、きもちい……っ?」
「あ♡ はっ、はい♡ きもちぃ♡ きもち、いいです♡」
 息を切らしての問いに、烈風刀は鍛えられた身体をくねらせながら答える。涙を流す瞳には、未だハートマークが煌々と輝いている。これが、彼の内に燻る欲望を表しているのだろう。ならば、解消されるまで――彼が存分にきもちよくなるまで付き合うだけだ。
 温かな洞が、咥え込んだ肉槍をきゅうきゅうと締め付ける。ひくつく内壁が、竿を、頭を頬張り、熱心に扱く。快楽が背を駆け脳味噌を殴っていく。神経信号は、愛し人がもたらす愛欲を伝えるだけで精一杯だった。
 あ、あ、とあがる嬌声がどんどんと短くなっていく。常と同じならば、それは彼の限界を示す動作のひとつだ。悦楽の果てに到達しようと、引き締まった腰がくねり、己が内部を嬲っていく。鍛えられた腹の内側を、しゃんとした背の内側を、己では到底暴けない最奥部を、己が意志で、勃ち上がった肉の刃によって蹂躙していく。
 らいと、と嬌声の中で名を呼ばれる。どした、と返す声は熱に溺れていた。弟が自由に動き快楽を貪るのは、兄が快楽を得るのと同義である。次々に生まれ叩き込まれる熱に支配されるのも仕方の無いことだ。
「らいとのっ♡ らいとのせーし♡ ください♡ ぼくのおなか、ぁっ♡ らいとのせーしで♡ いっぱいに、してぇ♡」
 くねくねと身を捩り、烈風刀はねだる。普段の彼から想像もつかない、あまりにも淫らな言葉遣いだった。薬がそうさせるのだろうか。だとしたら、本当になんてものを作ったのだ、あの悪魔は。恨み言を吐こうにも、思考が追いつかない。思考に割くべきリソースは、全て快楽を認識し受容することに使われていた。
 不意に影が差す。何だ、と思うよりも先に、唇を奪われた。随分と長い間離れていた舌が、久方ぶりに邂逅を果たす。熱の塊が、深い場所で擦れ、繋がり合う。唇と唇が合わさるリップノイズと、唾液が混じる水音と、合わさった場所から漏れ出る嬌声が交わる。二人でしか奏でられない、淫猥な合奏だ。
 口吻の最中でも、少年の身体が止まることはない。唇を重ねるために前傾姿勢になったことで、擦れる位置が変わったのだろう。内壁が更にうごめき、雄の象徴を撫で上げていく。洞の縁が、血管のうねる竿を扱きあげる。快感を得るための動きは、愛し人の官能も煽り昂ぶらせていく。隘路を埋め尽くす楔がびくびくと震えた。己の限界も近いのだと、本能が支配する脳味噌でも分かった。
 ぐちゅん、ぐちゅん、と卑猥な水音がどんどんと短くなる。怒張が最奥を勢い良く突いた瞬間、ひゅ、と呼吸のなり損ないのような音が白い喉から漏れた。
「んぅっ、ぁ、あ、ア――!」
 神経が受け止めきれない快楽に、少年は合わさった唇を離し、目一杯背をしならせる。張り詰め涙をこぼす烈風刀自身が、ふるんと震える。夜明け色の髪がばさりと音をたてて乱れた。
 熱塊を抱きこんだ媚肉が、一際強く締まる。熱い柔肉が、硬い幹を勢いよく撫で上げる。奥まった場所にある襞が、熟れた頭を締め付ける。どれも、烈風刀が気をやった証拠だ。同時に、雷刀を攻め立てる最後の動きでもあった。
「ァ、あ、あぁッ!」
 解放され、開きっぱなしになった口から短い嬌声があがる。瞬間、最奥まで埋め込んだ雄の証から、欲望が勢い良く吐き出された。びゅくびゅくと音をたて、欲の奔流がうちがわを白く染め上げていく。目の前のつがいを、内部から征服していく。
「アッ、あ♡ らいとの、せーし♡ あつ、ぃ、ぁ……っ♡」
 白濁が注がれる度、烈風刀は恍惚とした表情で嬌声をあげる。いやらしい言葉は彼自身も煽るのか、口を開く度に雄を抱き込んだ内部がびくびくと震えた。愛する人の精液を求め、うねる内壁が根元から先端まで貪欲に撫で上げる。達したばかりで敏感な欲望の象徴は、従順に濁液を吐き出した。
 はぁ、はぁ、と荒い呼吸が二つ重なる。共に果てたことにより、体力はほとんど消費してしまった。肩で息をするのが精一杯だ。胸部が大きく上下する。肺が目一杯活動している証拠だ。
 ようやく呼吸が落ち着き、雷刀は己を組み敷く恋人を見上げる。その顔は依然紅潮し、とろけたままだった。内部のみで果て、未だ快楽の海から戻れずにいるのだろうか。大丈夫か、と声をかけるより先に、しとどに濡れた唇が音を形作った。
「――ぁ……♡ ごめ、な、さい♡」
 力を失った欲望が埋め込まれたままの窄まりが、ひくひくとひくつき、根本を締め付ける。吐き出した熱を取り戻そうとするように、媚肉がうごめき幹を撫で上げた。特に敏感になっている部位を強く刺激され、朱は苦しげに呻く。過ぎた快楽は、痛苦をもたらすものでもあった。
「だめ、です♡ もっと……♡ もっと、ほしぃ♡ ください♡」
 真紅の瞳を見つめる碧には、未だハートマークがあった。一度気をやったというのに、それはまだ爛々と輝きを放っている。彼の言う通り、まだまだ足りないのだろう――その『もっと』がどれほどであるかは、到底想像がつかないのだけれど。
 重い腕を伸ばし、細い腰を撫ぜる。合意を示すものだった。こうなったら、どこまでも付き合ってやる。弟を救うのは、兄の役目なのだ。
 止まっていた腰が、今一度動き出す。ぱちゅん、と淫らな水音が二人の耳を犯した。





 暗く温かな場所から、意識がゆっくりと浮上していく。現実を認識するより先に、けほ、と咳が漏れ出た。喉が痛みを訴え、意識を現実へと無理矢理引っ張り上げる。水分が不足し渇いた感覚に、雷刀は顔をしかめた。
 鈍い痛覚が、寝起きの頭に前日の記憶を想起させる。そうだ、あの後互いの体力が尽きるまで何度も貪りあったのだ。おかげで後始末も何もしていない。途中まで着ていたはずの服はいつの間にか失せ、今は肌全てを晒した状態だ。べたついて感じるのは、睡眠中の発汗によるものだけでないのは明らかである。
 う゛、と濁った声が隣から聞こえる。鈍い動きで寝返りを打つと、そこには同じく生まれたままの姿の烈風刀がいた。あれだけ嬌声をあげ乱れたのだ、彼の喉にも甚大なダメージがいっているだろう。呻き声は、次第に大きくなっていく。しばしして、孔雀石が白い瞼の裏から薄く顔を覗かせた。
 目の前の熟れた唇が、言葉を紡ごうと動く。それは、喉から込み上げる咳に掻き消された。げほげほと咳き込む姿に、雷刀は内心慌てる。何か水分を摂れないだろうか。そうだ、昨晩食事と一緒にペットボトルに入った水を運んだではないか。救世主の存在に思い至り、兄は急いで上半身を起こす。鈍い痛みが全身を襲う中、最小限の動きを心掛け、どうにか透明なボトルを掴み取る。力の入らない手でもたもたとキャップを開け、咳き込む弟に差し出した。
 渡されたプラスチックボトルをしっかりと握り、烈風刀は横になったまま器用に水を飲む。昨晩反らし薄闇の中晒された白い喉が上下する。ごくごくと音が聞こえるほどのいい飲みっぷりだった。三分の一ほど飲んだところで、ボトルがキャップの所有者の手に返される。同じく喉にダメージを負っている雷刀も、開いたままのそれを思い切り呷った。渇ききった喉を水が潤していく感覚が心地よい。残り四分の一になったところで、少年は口を離す。緩慢な動きでキャップを閉め、ベッドボードに置いた。
 隣に横たわった身体がゆっくりと起き上がる。彼だって自分と同じほど、否、自分以上に疲れているはずだ。寝ていても大丈夫だ、と声をかけるが、少年は言葉を無視して身体を動かした。
 起き上がった身体が、姿勢を正す。何故か、碧はベッドの上で正座をした。どこか間の抜けた光景に、朱はぽかんと口を開け呆ける。兄の様子を気にかけることなく、弟は深々と頭を下げた。
「……申し訳、ありませんでした」
 謝る声はまだ掠れていた。その響きは悲痛なもので、彼の中に渦巻く後悔と苦痛と歯がゆさがはっきりと表れていた。疲弊した身体に鞭を打ってまで謝罪するほど、昨晩のことを悔やみ申し訳なく思っているのだろう。自身に対して厳格な彼らしいことだ。
「いや、謝ることじゃないだろ」
「でも――」
「色々あったけどさ、治ったからいいじゃん? それでおしまい」
 バッと顔を上げ否定の言葉を発しようとする弟を、兄は無理矢理遮って終わらせようとする。ちゃんちゃん、と手を叩きながら漫画のような効果音を口にすると、烈風刀は眉をひそめた。眉間に刻まれた皺は、言葉にできない感情を示している。
「…………はい」
 答えた言葉は歯切れの悪いものだった。どこか含みがあるような、短いながらも複雑な物言いだ。まだ納得ができないのだろうか。それにしては、声色がおかしい。どうしたのだろう、と内心首を傾げる。寝起きの頭でぐるぐると考えて、ふと一つの可能性が浮かび上がる。まさかそんなことあるまい、と脳内で否定するも、口は勝手にそれを発していた。
「……えっと……、もしかして、治ってない……?」
 問うた瞬間、烈風刀はさっと素早く顔を背ける。天河石の瞳は伏せられていた。まるで、そこにある何かを――鮮やかな桃色をしたハートマークを見せないように。
 もはや答えと言ってもいい様子に、サァ、と顔から血の気が失せていく。嘘だろ、という言葉は口の中に溶けて消えた。
「……大丈夫です昨日よりずっと落ち着いています大丈夫です本当に大丈夫ですもう手間はかけません一人で始末できます大丈夫です」
 長い沈黙の後、ようやく口を開いた少年は呪文を唱えるように一息で言い終える。普段は聞き取りやすいようハキハキと喋る彼の姿を知っている者には、明らかに異常に映る。大丈夫、と無理矢理何度も繰り返しているのが拍車をかけていた。
 マジか、と雷刀は思わず天井を仰ぐ。数え切れないほど交わり欲を吐き出したというのに、薬の効果はまだ切れていないだなんて。どれだけ強いものを作ったのだ、あの悪魔は。内心恨み言を吐くが、元凶に届くことはない。うぅ、と情けない呻きが口端から漏れた。
 うー、と呻り声をあげながら、少年は思案する。正直なところ、一晩中まぐわった身体はもう限界に近い。けれども、昨日の様子を見て、彼が言ったように一人で処理しきれるとは到底思えなかった。
 よし、と口の中で呟く。正座し目を逸らしたままの烈風刀に向き直り、その肩をとんと押す。彼の身体も限界に近いのだろう、そのたった少しの衝撃で少年はバランスを崩し、ベッドに倒れ込んだ。のそりと重い身体を動かし、その上に覆い被さる。呆然とした様子の愛しい人を、己が腕の中に閉じ込めた。
「え? は、え? 雷刀?」
「何だっけ。『のしかかったフナ』ってやつ?」
 治るまで付き合うよ、と柔らかに笑いかける。この手で救うと決めたのだ。ならば、最後まで付き合うべきだ。
 兄の優しく温かな声に、浅海色の目がまあるく見開かれる。予想通り、そこには桃色のハートマークが浮かんでいた。昨晩より随分と色が薄いものの、碧の中で輝きはっきりと存在を主張している。未だ存在感はあれど、映る色の薄さを見るに、本当に残り少しで効果は切れるのだろう――だと思いたい。だったら、協力しなくてどうするのだ。
「オニイチャンにまかせとけって!」
 お馴染みの台詞を唱えると、碧の少年の顔が険しげに歪む。苦しげな、今にも泣きそうな表情だ。しかし、その中には薄っらと期待の色が見て取れた。細められた目に浮かぶハートマークが、少し輝いたように見えたのは気のせいではないだろう。
 シーツに放り出された手が緩慢に持ち上がり、己の首に回される。合意を――二人でこの騒動を終わらせようという意志を示す行動だった。
「……ごめんなさい」
「だから謝んなって」
 顔を伏せる弟の額に、口付けを一つ降らせる。それだけで、組み敷いた身体がひくりと震える。ぁ、と甘い声が目の前の赤い口から発せられた。白い肌に、さっと朱が散る。こんな軽い触れ合いだけで感じ入ってしまうことを羞恥しているようだ。
 回された腕に、ぎゅっと力がこもる。抱き寄せられ、互いの肩に互いの頭が埋まる。髪が肌を撫ぜる感覚がくすぐったかった。
 らいと、と耳のすぐそばで己の名を呼ばれる。応えるように、己も愛しい恋人の名を呼んだ。

畳む

#ライレフ #腐向け #R18

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