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No.177
酔いどれ酔いふけ酔いさめ【すりみ連合】
酔いどれ酔いふけ酔いさめ【すりみ連合】
某所に提出したやつ。
酔いどれ絡み酒フウカちゃん見たいねって話から。すりみの口調はバンカラジオログ漁ったりググったりしたりしたけどあれがそれでこれなので雰囲気で読んでくんなまし。
酔いどれサメと酔い醒めウツボとアルコール耐性馬鹿高マンタの話。
本文を読む
ほの甘い米の香りが、塩っ辛い魚肉の香りが、甘ったるい果実の香りが、むせ返るようなアルコールの香りが部屋を漂う。ぐちゃまぜにミックスされたそれは頭をぐらりと揺さぶるようなものだ。
手元のコップを傾ける。中身は水だというのに、ちょっと前まで注いでいた酒の匂いがこびりついているからかまだ呑んでいるような気分になる。ぐびりぐびりと飲み干し、ペットボトルからミネラルウォーターを注ぎ入れる。また豪快に飲み干し、ウツホははぁ、と息を吐いた。
「いい呑みっぷりやねぇ」
寄ってくるふわふわとした音色に眉をひそめ、インクリングは隣へと視線をやる。山吹色の瞳に赤ら顔が映る。普段以上に赤みを増したなめらかな紅の指先が、つまんだ猪口をゆるりと振った。陶器の表面に描かれたエイがゆらゆらと揺れて宙を泳ぐ。
「ほら、もっと呑みぃ」
手近な酒瓶を引っ掴み、フウカは旧友へと寄っていく。スリムなボトムスが、紅緋に染まった指先が、フローリングの床の上をずりずりぺたぺたと進んでいく。目標は己の手にあるガラスコップなのは明白だった。
「ワシはもういい。十分呑んだ」
「はぁ? 何言っとるん。まだ呑めるやろぉ」
手で押しやりコップを遠のけると、瞼で半分隠れた赤い瞳が更に瞼の奥に隠れていく。睨めつけるような視線に普段の鋭さはない。酩酊が切れ長な目元を包んでいた。
「呑んだ呑んだ。フウカの酒は十分呑んだ」
「呑んでへん。なーんも呑んでへんわぁ」
ほらぁ、と酔っぱらいは酒瓶を押し付けてくる。このままではコップを割る勢いだ。そればかりは避けねばならない。酔っぱらい三人――二人はもう酔いは醒め気味だが――で割れたガラスを処理するなど考えたくもない。わかったわかった、とウツホは透明なコップを傾ける。んふふ、と上機嫌そのものな笑い声。遠慮せず呑みぃやぁ、とフウカは瓶を傾けた。どぼどぼと品のない音をたて、コップの中に勢いよく酒が注がれていく。溢れるより先に、紫の指先が瓶を正常な姿勢へと戻した。
アルコールの臭いが鼻をつく。ほんの少し前までは心を躍らす心地良い香りだったというのに、今では苦しさを覚えるほどの臭気に思えた。ほーら、と酔いどれは手を叩いて囃したてる。腹をくくり、コップに口を付けた。ゆるく傾け、もうぬるくなったアルコールを胃の腑に流し込む。酒の温度に反して、内臓がカァと強い熱を持つのが分かった。いい呑みっぷりやねぇ、とフウカはコロコロ笑う。へにゃだれた声は彼女の身体と脳味噌をアルコールが支配していることをよく表していた。
「ほら、呑みぃ。どんどん呑みぃ。これ、ウツホのために買ってきたんやでぇ」
「呑んどる。せっかくのフウカの酒じゃぞ、ゆっくり呑まんともったいないじゃろ」
コップを無理矢理傾けんとする指を払い、ウツホは身をよじって酔いどれタコから逃れる。せやねぇ、と方便を素直に受け取った友人はすっと通った目元をゆるりと下げた。普段なら飛んでくるはずの鋭いツッコミも、嘘やろという冷静な判断も何も無い。言葉をそのまま受け止め子どものように喜ぶ姿に、良心が痛みを覚える。ブンブンと頭を振り、ちびちびと酒を呑み下していった。
「こないだのフェスもよかったなぁ。マンタローのアレンジ、ほんとよかったわぁ」
「エイ!?」
突如矛先を向けられ、マンタローは悲鳴めいた声をあげる。大きなヒレの先からアルミ缶が落ちる。柔らかな金属が硬い床と合唱をした。酔いが完全に醒めた彼は、既に宴の片付けをしていたようだ。
「ウツホの踊りもよかったしなぁ」
再び矛先が己に向けられる。視界の端で旧友が露骨に胸を撫で下ろすのが見えた。普段ならば何逃げとんじゃ、と唾飛ばさんところだが、今回は見逃してやろう。場を提供し、甲斐甲斐しくも片付けまで行っている家主にまで被害を拡大しては後が大変なことぐらい酔いが回った頭でも分かる。
「指先のキレが良くてなぁ。こう、ガッと」
踊りには似つかわしくない擬音とともに、フウカは指先を操る。ぬるりとしたような、もたりとしたような、何とも言い難い動きだ。普段の彼女のなめらかなるもよく決まったダンスからは想像ができないほどの動きだった。酔っぱらいの動きにキレを求めるほうが無茶だが。
んふふ、と切れ長で涼し気な目元がとろりととろけた。うつほ、と呼ぶ声に普段のような芯は無い。どろどろになって、形が無くなって、酩酊に身を委ねた音色だ。有り体に言うなら酔っぱらいの声である。
「もっかい踊ってみぃ。ほら、マンタロー歌いやぁ」
赤ら顔のオクトリングは無茶を言う。名を呼ばれた昔馴染は、エイ、と呟いて何とも言い難い顔をした。酔っぱらいに絡まれたのだ、こんな表情になるのも仕方がないだろう。ほーら、と急かす声。赤い指先が、紅で色付いた手の平が叩き合わさって音をたてる。エイ、エイ、と狼狽した声が酒臭い部屋に落ちた。
歌わんならウチが歌うわ、としびれを切らしたフウカが口を開く。みゅはな、といつもの歌い出しは調子が外れたものだった。気分がいいのか、手拍子まで始める始末である。酒精の匂い立ち込める部屋に輪郭を失いつつある歌声とぱちぱちとどこか稚気な音が響いた。
酔っぱらいをこのまま放っておくわけにもいかない。コップを床に置き、ウツホは手を動かす。普段の踊りとは似ても似つかない、ふにゃけた動きだ。それでも満足したのか、ハズレ調子の歌声が笑声へと変わった。
「フウカ」
「なにぃ?」
渋い声で名を呼ぶ。青い旧友は上がり調子の声で返した。まだ酔いは醒めていないようだ。当たり前だ、彼女の手には先程から酒瓶と酒の入った猪口しかないのだ。
「水を飲め。明日が大変じゃぞ」
「はぁ? 何言っとるん。今日は呑み会やでぇ? 水なんて飲んでどうするん」
フェスも終わって一週間、週末の今日は慰労会と言う名の呑み会が行われていた。酒につまみに菓子にと好きなものを持ち寄り、呑み、食い。日付が変わった時分まで続いた会はこの始末である。
三人とも、アルコールには強い方だ。けれども、フウカ――と己も――は時折馬鹿みたいに呑んで馬鹿みたいに酔うのだ。今のように。
フウカはこうなると面倒だ。オクトリングらしく絡んで離さない。子どものように駄々をこねて離さない。可愛げはあるが、根本は酔っぱらいである。酒臭くて面倒臭くてたまらなかった。旧友でなければ、普段面倒を見てもらっていなければ見放す程度には面倒だ。家主であるマンタローに任せっぱなしというのも申し訳がないから、大抵の場合己が面倒を見てやっている。マンタローの時より面倒臭い絡まれ方をしているのは気のせいだということにしておこう。
「もっと呑みぃや。これ、ウツホのために買ってきたんやでぇ」
酒瓶をゆらゆらと揺らめかせ、フウカはつい先程と同じ言葉を繰り返す。酔っている証拠であった。はぁ、と酒臭い息を吐き、ウツホは背を向ける。空いたコップをひったくるように手を取り、身体で隠しながらミネラルウォーターをどぼどぼと注ぎ入れる。なみなみと注がれたそれをずいと差し出した。
「フウカこそ、ワシの酒が呑めんのか?」
「呑むに決まっとるやろぉ」
大振りなガラスコップを受け取ったフウカは上機嫌に笑う。口を付け、大きく傾け、彼女はごくごくと音をたてて呑んでいく。どうやら水ということはバレていないようだ。かなり酔っている証拠である。
「ほら、もっと飲め。いっぱい飲め。もったいないじゃろ」
「そんな急かさんといてぇ。呑むからぁ」
んふふ、と笑い、赤い指先が空になったコップを差し出す。無視して、ウツホは別のマグカップに水を注ぎ入れた。相手は酒を呑んでると思いこんだ酔っぱらいなのだ、水のペットボトルを見せるわけにはいかない。空のものと交換し、マグを差し出す。普段なら情緒ってもんがないわぁ、と文句を言う彼女は、嬉しそうに飲み干した。ほらほら、とわんこそばのようにどんどんと水を飲ませていく。
「もうお腹いっぱいやわぁ」
「おう。よく呑んだなぁ。さすがフウカじゃ」
「せやろぉ? ウツホの酒やからなぁ。特別やでぇ?」
にへへ、と緩みきった笑みを浮かべてフウカは床に寝転んだ。周りに転がるビニール袋やアルミ缶をさっと避けてやる。すぐさまマンタローが回収してゴミ袋に入れた。すまん、と視線を送ると、早く寝かせてあげて、と大きなヒレがひらひらと揺れた。
部屋の隅からマフラータオルを引っ張り出し、寝転んだフウカの腹に掛ける。三人――というより己のフウカの二人の格好は薄手のTシャツだ。このまま床で寝られては腹を冷やしてしまう。本当ならば動けるうちに絨毯の上にでも運んでしまいたいが、そんなことをすれば寝ない、まだ呑める、と駄々をこねるのが目に見えていた。今はこのまま寝るのを待つほかない。
「うつほぉ。まんたろぉ」
「なんじゃ」
「エイ?」
ビクリと震え、二人は返す。視線の先、紅ではない赤で彩られた目元がとろりととろけたのが見えた。
「ふぇす、おつかれ」
「……おう、お疲れ様じゃ」
「エイー」
お疲れ様、とマンタローも言う。二人の言葉に満足げに頷き、赤い瞳が色付いた瞼の奥に隠れていく。ほどなくして、すぅすぅと穏やかな寝息が聞こえてきた。
はぁ、と二人で盛大に溜め息を吐く。酔っぱらいを寝かせるのは毎度ながら大仕事だ。絡み酒のフウカの時は殊更である。お疲れ、エイ、と言葉を交わす。どちらの声も宴会の場には相応しくないほど下がり調子だった。
床に置いたコップを手に取り、机の上に置く。しばし沈黙。小さく頷き、ウツホは再びコップを手に取る。ぐっと煽り、中身を飲み干していく。エイ、と驚愕に満ちた声が部屋に響いた。
本当ならばもう呑まない方がいいに決まっている。けれども、これはフウカが己のために買ってきた、己のために注いでくれた酒だ。このまま流しに捨てるわけにはいかない。呑むのが義理というものだ。
ぷはぁ、とウツホは酒臭い息を吐く。一気に流し込んだからか、頭がぐるぐると回る。視界がぐらぐらと揺れる。手の感覚も、足の感覚も、身体の感覚もふわふわとして何もかもが分からない気分だ。雲に座ればこんな感じなのだろうか、などとふざけた考えがぐらつく頭をよぎった。
「……マンタロー」
「エイ」
分かってるよ、とマンタローは諦め顔で呟く。すまん、と手を振り、ウツホはフローリングの床へと思いっきり倒れた。耳のすぐそばで、ふふ、と上機嫌な寝惚け声が聞こえた気がした。
畳む
#フウカ
#ウツホ
#マンタロー
#すりみ連合
#フウカ
#ウツホ
#マンタロー
#すりみ連合
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スプラトゥーン
2024/8/29(Thu) 20:17
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酔いどれサメと酔い醒めウツボとアルコール耐性馬鹿高マンタの話。
ほの甘い米の香りが、塩っ辛い魚肉の香りが、甘ったるい果実の香りが、むせ返るようなアルコールの香りが部屋を漂う。ぐちゃまぜにミックスされたそれは頭をぐらりと揺さぶるようなものだ。
手元のコップを傾ける。中身は水だというのに、ちょっと前まで注いでいた酒の匂いがこびりついているからかまだ呑んでいるような気分になる。ぐびりぐびりと飲み干し、ペットボトルからミネラルウォーターを注ぎ入れる。また豪快に飲み干し、ウツホははぁ、と息を吐いた。
「いい呑みっぷりやねぇ」
寄ってくるふわふわとした音色に眉をひそめ、インクリングは隣へと視線をやる。山吹色の瞳に赤ら顔が映る。普段以上に赤みを増したなめらかな紅の指先が、つまんだ猪口をゆるりと振った。陶器の表面に描かれたエイがゆらゆらと揺れて宙を泳ぐ。
「ほら、もっと呑みぃ」
手近な酒瓶を引っ掴み、フウカは旧友へと寄っていく。スリムなボトムスが、紅緋に染まった指先が、フローリングの床の上をずりずりぺたぺたと進んでいく。目標は己の手にあるガラスコップなのは明白だった。
「ワシはもういい。十分呑んだ」
「はぁ? 何言っとるん。まだ呑めるやろぉ」
手で押しやりコップを遠のけると、瞼で半分隠れた赤い瞳が更に瞼の奥に隠れていく。睨めつけるような視線に普段の鋭さはない。酩酊が切れ長な目元を包んでいた。
「呑んだ呑んだ。フウカの酒は十分呑んだ」
「呑んでへん。なーんも呑んでへんわぁ」
ほらぁ、と酔っぱらいは酒瓶を押し付けてくる。このままではコップを割る勢いだ。そればかりは避けねばならない。酔っぱらい三人――二人はもう酔いは醒め気味だが――で割れたガラスを処理するなど考えたくもない。わかったわかった、とウツホは透明なコップを傾ける。んふふ、と上機嫌そのものな笑い声。遠慮せず呑みぃやぁ、とフウカは瓶を傾けた。どぼどぼと品のない音をたて、コップの中に勢いよく酒が注がれていく。溢れるより先に、紫の指先が瓶を正常な姿勢へと戻した。
アルコールの臭いが鼻をつく。ほんの少し前までは心を躍らす心地良い香りだったというのに、今では苦しさを覚えるほどの臭気に思えた。ほーら、と酔いどれは手を叩いて囃したてる。腹をくくり、コップに口を付けた。ゆるく傾け、もうぬるくなったアルコールを胃の腑に流し込む。酒の温度に反して、内臓がカァと強い熱を持つのが分かった。いい呑みっぷりやねぇ、とフウカはコロコロ笑う。へにゃだれた声は彼女の身体と脳味噌をアルコールが支配していることをよく表していた。
「ほら、呑みぃ。どんどん呑みぃ。これ、ウツホのために買ってきたんやでぇ」
「呑んどる。せっかくのフウカの酒じゃぞ、ゆっくり呑まんともったいないじゃろ」
コップを無理矢理傾けんとする指を払い、ウツホは身をよじって酔いどれタコから逃れる。せやねぇ、と方便を素直に受け取った友人はすっと通った目元をゆるりと下げた。普段なら飛んでくるはずの鋭いツッコミも、嘘やろという冷静な判断も何も無い。言葉をそのまま受け止め子どものように喜ぶ姿に、良心が痛みを覚える。ブンブンと頭を振り、ちびちびと酒を呑み下していった。
「こないだのフェスもよかったなぁ。マンタローのアレンジ、ほんとよかったわぁ」
「エイ!?」
突如矛先を向けられ、マンタローは悲鳴めいた声をあげる。大きなヒレの先からアルミ缶が落ちる。柔らかな金属が硬い床と合唱をした。酔いが完全に醒めた彼は、既に宴の片付けをしていたようだ。
「ウツホの踊りもよかったしなぁ」
再び矛先が己に向けられる。視界の端で旧友が露骨に胸を撫で下ろすのが見えた。普段ならば何逃げとんじゃ、と唾飛ばさんところだが、今回は見逃してやろう。場を提供し、甲斐甲斐しくも片付けまで行っている家主にまで被害を拡大しては後が大変なことぐらい酔いが回った頭でも分かる。
「指先のキレが良くてなぁ。こう、ガッと」
踊りには似つかわしくない擬音とともに、フウカは指先を操る。ぬるりとしたような、もたりとしたような、何とも言い難い動きだ。普段の彼女のなめらかなるもよく決まったダンスからは想像ができないほどの動きだった。酔っぱらいの動きにキレを求めるほうが無茶だが。
んふふ、と切れ長で涼し気な目元がとろりととろけた。うつほ、と呼ぶ声に普段のような芯は無い。どろどろになって、形が無くなって、酩酊に身を委ねた音色だ。有り体に言うなら酔っぱらいの声である。
「もっかい踊ってみぃ。ほら、マンタロー歌いやぁ」
赤ら顔のオクトリングは無茶を言う。名を呼ばれた昔馴染は、エイ、と呟いて何とも言い難い顔をした。酔っぱらいに絡まれたのだ、こんな表情になるのも仕方がないだろう。ほーら、と急かす声。赤い指先が、紅で色付いた手の平が叩き合わさって音をたてる。エイ、エイ、と狼狽した声が酒臭い部屋に落ちた。
歌わんならウチが歌うわ、としびれを切らしたフウカが口を開く。みゅはな、といつもの歌い出しは調子が外れたものだった。気分がいいのか、手拍子まで始める始末である。酒精の匂い立ち込める部屋に輪郭を失いつつある歌声とぱちぱちとどこか稚気な音が響いた。
酔っぱらいをこのまま放っておくわけにもいかない。コップを床に置き、ウツホは手を動かす。普段の踊りとは似ても似つかない、ふにゃけた動きだ。それでも満足したのか、ハズレ調子の歌声が笑声へと変わった。
「フウカ」
「なにぃ?」
渋い声で名を呼ぶ。青い旧友は上がり調子の声で返した。まだ酔いは醒めていないようだ。当たり前だ、彼女の手には先程から酒瓶と酒の入った猪口しかないのだ。
「水を飲め。明日が大変じゃぞ」
「はぁ? 何言っとるん。今日は呑み会やでぇ? 水なんて飲んでどうするん」
フェスも終わって一週間、週末の今日は慰労会と言う名の呑み会が行われていた。酒につまみに菓子にと好きなものを持ち寄り、呑み、食い。日付が変わった時分まで続いた会はこの始末である。
三人とも、アルコールには強い方だ。けれども、フウカ――と己も――は時折馬鹿みたいに呑んで馬鹿みたいに酔うのだ。今のように。
フウカはこうなると面倒だ。オクトリングらしく絡んで離さない。子どものように駄々をこねて離さない。可愛げはあるが、根本は酔っぱらいである。酒臭くて面倒臭くてたまらなかった。旧友でなければ、普段面倒を見てもらっていなければ見放す程度には面倒だ。家主であるマンタローに任せっぱなしというのも申し訳がないから、大抵の場合己が面倒を見てやっている。マンタローの時より面倒臭い絡まれ方をしているのは気のせいだということにしておこう。
「もっと呑みぃや。これ、ウツホのために買ってきたんやでぇ」
酒瓶をゆらゆらと揺らめかせ、フウカはつい先程と同じ言葉を繰り返す。酔っている証拠であった。はぁ、と酒臭い息を吐き、ウツホは背を向ける。空いたコップをひったくるように手を取り、身体で隠しながらミネラルウォーターをどぼどぼと注ぎ入れる。なみなみと注がれたそれをずいと差し出した。
「フウカこそ、ワシの酒が呑めんのか?」
「呑むに決まっとるやろぉ」
大振りなガラスコップを受け取ったフウカは上機嫌に笑う。口を付け、大きく傾け、彼女はごくごくと音をたてて呑んでいく。どうやら水ということはバレていないようだ。かなり酔っている証拠である。
「ほら、もっと飲め。いっぱい飲め。もったいないじゃろ」
「そんな急かさんといてぇ。呑むからぁ」
んふふ、と笑い、赤い指先が空になったコップを差し出す。無視して、ウツホは別のマグカップに水を注ぎ入れた。相手は酒を呑んでると思いこんだ酔っぱらいなのだ、水のペットボトルを見せるわけにはいかない。空のものと交換し、マグを差し出す。普段なら情緒ってもんがないわぁ、と文句を言う彼女は、嬉しそうに飲み干した。ほらほら、とわんこそばのようにどんどんと水を飲ませていく。
「もうお腹いっぱいやわぁ」
「おう。よく呑んだなぁ。さすがフウカじゃ」
「せやろぉ? ウツホの酒やからなぁ。特別やでぇ?」
にへへ、と緩みきった笑みを浮かべてフウカは床に寝転んだ。周りに転がるビニール袋やアルミ缶をさっと避けてやる。すぐさまマンタローが回収してゴミ袋に入れた。すまん、と視線を送ると、早く寝かせてあげて、と大きなヒレがひらひらと揺れた。
部屋の隅からマフラータオルを引っ張り出し、寝転んだフウカの腹に掛ける。三人――というより己のフウカの二人の格好は薄手のTシャツだ。このまま床で寝られては腹を冷やしてしまう。本当ならば動けるうちに絨毯の上にでも運んでしまいたいが、そんなことをすれば寝ない、まだ呑める、と駄々をこねるのが目に見えていた。今はこのまま寝るのを待つほかない。
「うつほぉ。まんたろぉ」
「なんじゃ」
「エイ?」
ビクリと震え、二人は返す。視線の先、紅ではない赤で彩られた目元がとろりととろけたのが見えた。
「ふぇす、おつかれ」
「……おう、お疲れ様じゃ」
「エイー」
お疲れ様、とマンタローも言う。二人の言葉に満足げに頷き、赤い瞳が色付いた瞼の奥に隠れていく。ほどなくして、すぅすぅと穏やかな寝息が聞こえてきた。
はぁ、と二人で盛大に溜め息を吐く。酔っぱらいを寝かせるのは毎度ながら大仕事だ。絡み酒のフウカの時は殊更である。お疲れ、エイ、と言葉を交わす。どちらの声も宴会の場には相応しくないほど下がり調子だった。
床に置いたコップを手に取り、机の上に置く。しばし沈黙。小さく頷き、ウツホは再びコップを手に取る。ぐっと煽り、中身を飲み干していく。エイ、と驚愕に満ちた声が部屋に響いた。
本当ならばもう呑まない方がいいに決まっている。けれども、これはフウカが己のために買ってきた、己のために注いでくれた酒だ。このまま流しに捨てるわけにはいかない。呑むのが義理というものだ。
ぷはぁ、とウツホは酒臭い息を吐く。一気に流し込んだからか、頭がぐるぐると回る。視界がぐらぐらと揺れる。手の感覚も、足の感覚も、身体の感覚もふわふわとして何もかもが分からない気分だ。雲に座ればこんな感じなのだろうか、などとふざけた考えがぐらつく頭をよぎった。
「……マンタロー」
「エイ」
分かってるよ、とマンタローは諦め顔で呟く。すまん、と手を振り、ウツホはフローリングの床へと思いっきり倒れた。耳のすぐそばで、ふふ、と上機嫌な寝惚け声が聞こえた気がした。
畳む
#フウカ #ウツホ #マンタロー #すりみ連合