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No.210
雨と横顔【ライレフ】
雨と横顔【ライレフ】
横顔に見とれるシチュが好きなんすよというヘキ。顔面と思考が一致してないのが好きなんすよというヘキ。
雨の日の右左の話。
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窓が揺れる。強風を受けガタガタと震えつつもしかと立つ様は頼もしいものである。それでも、凄まじい音をたてる暴風を前にしては割れてしまうのではないか、倒れてしまうのではないか、とほんの少しの不安が残る。杞憂だと分かっていても、このゴウゴウとかビュウビュウとか激しく低い自然の呻り声を聞くと心の隅っこには暗いものが残るのだ。
健気に雨風を防ぐ窓ガラスの向こうを眺め、雷刀は小さく息を吐く。薄い板一つ隔てた外は、台風一歩手前の暴風雨が我が物顔で駆け回っていた。空は墨めいた黒で埋め尽くされ、太陽など陰すら無い。視界いっぱい、世界いっぱいに広がる様を見るに、今日一日中はこの調子だろう。
ただでさえ横殴りの酷い雨だというのに、子ども程度なら吹き飛ばしそうな勢いの風まであっては、せっかく咲いた桜は全て散ってしまうだろう。花見は先週して正解だったようだ。だけども、やはりあれだけの美しいものが蹴散らされてしまうのはわずかに心が痛む。綺麗なものは傷つけられぬままでいてほしいのだ。やだなぁ、と思わず沈んだ声が漏れた。
暗い世界から、淀む思考から視線を外し、弟を横目で見やる。同じように窓の向こうを眺める瓜二つの横顔は、普段と少し違った表情をしていた。
穏やかな曲線を描く整えられた眉は、今は少し鋭い角度になっている。寄せられたその間には、薄く皺が刻まれていた。いつだって目の前をはっきり見通す碧の目は、今は眠気に抗うように細められている。そこに宿る色は陰っていて、けれども普段よりもはっきりとしているように見えた。すっと通った鼻、その下に佇む口は直線を描くように結ばれている。まるで何かを堪えているかのようだ。普段はまろく柔らかな頬は、今はどこか強張っているように見える。固く閉じた口元がその印象を強めていた。
キレーだ。兄はぼんやりと考える。子どもたちやレイシスに接する時の柔らかな表情も綺麗で可愛らしいが、今のような険しさがよく見える表情も端正で美しい。惚れたフィルターもかかっているだろうが、やはりどんな表情でも恋人は素敵なのだ――たとえ何を考えていようとも。
「コインランドリー行けばいいじゃん」
「この暴風雨で外に出れるわけがないでしょう」
呆れた調子の朱の言葉に、碧は溜め息まじりに返す。腕の中に抱えられた洗濯物かごが彼の身体に食い込むのが見えた。山盛りの衣服がバランスを崩しかけるも、鍛えられた手によってすぐさま押し止められ中に押し込まれた。
「明日にすればいいだろー」
「バスタオルは早めに洗ってしまいたいんですよ」
じゃあバスタオルだけ洗えばいいのに、と出かけた言葉を飲み込む。ベランダが隔絶された今、バスタオルのような乾きにくいものを部屋干しにすれば臭いが付いてしまうのは交代制で家事を担当する己もよく分かっていた。除湿機とサーキュレーターがどれだけフル稼働しようも、最近の洗剤がどれだけ臭わないことを謳っていても、うっすらと湿った臭いが残ってしまうのだから面倒なものである。毎度ながら乾燥機、もしくはドラム式洗濯機が欲しくなる。置く場所も無ければ手が届かない値段の代物なのだから、永劫に叶うことはないが。
はぁ、と烈風刀はまた一つ溜め息をこぼす。どれだけ溜息を吐こうが天気は回復しないと分かっているだろうが、そうでもしなければやってられないことは痛いほど伝わってきた。己が同じ立場だったら同じかそれ以上にごちゃごちゃと言っていただろう。
険しげな、恨めしげな横顔から視線を外し、雷刀は携帯端末を取り出す。光る液晶を指で撫で、ニュースアプリを起動する。天気のタブ一面に表示されているのは傘のマークだけだ。どの時間帯にも鎮座しているそれの上には、八〇だとか九〇だとかの高い数字が書かれている。これでは今日中に洗濯するなど不可能だろう。つまり、洗濯物を余計に増やすような行動はできないのだ。
はぁ、と溜め息が二つ重なる。風を必死に受け止める窓の悲鳴が、小さなそれをかき消した。
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SDVX
2025/4/22(Tue) 20:42
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雨の日の右左の話。
窓が揺れる。強風を受けガタガタと震えつつもしかと立つ様は頼もしいものである。それでも、凄まじい音をたてる暴風を前にしては割れてしまうのではないか、倒れてしまうのではないか、とほんの少しの不安が残る。杞憂だと分かっていても、このゴウゴウとかビュウビュウとか激しく低い自然の呻り声を聞くと心の隅っこには暗いものが残るのだ。
健気に雨風を防ぐ窓ガラスの向こうを眺め、雷刀は小さく息を吐く。薄い板一つ隔てた外は、台風一歩手前の暴風雨が我が物顔で駆け回っていた。空は墨めいた黒で埋め尽くされ、太陽など陰すら無い。視界いっぱい、世界いっぱいに広がる様を見るに、今日一日中はこの調子だろう。
ただでさえ横殴りの酷い雨だというのに、子ども程度なら吹き飛ばしそうな勢いの風まであっては、せっかく咲いた桜は全て散ってしまうだろう。花見は先週して正解だったようだ。だけども、やはりあれだけの美しいものが蹴散らされてしまうのはわずかに心が痛む。綺麗なものは傷つけられぬままでいてほしいのだ。やだなぁ、と思わず沈んだ声が漏れた。
暗い世界から、淀む思考から視線を外し、弟を横目で見やる。同じように窓の向こうを眺める瓜二つの横顔は、普段と少し違った表情をしていた。
穏やかな曲線を描く整えられた眉は、今は少し鋭い角度になっている。寄せられたその間には、薄く皺が刻まれていた。いつだって目の前をはっきり見通す碧の目は、今は眠気に抗うように細められている。そこに宿る色は陰っていて、けれども普段よりもはっきりとしているように見えた。すっと通った鼻、その下に佇む口は直線を描くように結ばれている。まるで何かを堪えているかのようだ。普段はまろく柔らかな頬は、今はどこか強張っているように見える。固く閉じた口元がその印象を強めていた。
キレーだ。兄はぼんやりと考える。子どもたちやレイシスに接する時の柔らかな表情も綺麗で可愛らしいが、今のような険しさがよく見える表情も端正で美しい。惚れたフィルターもかかっているだろうが、やはりどんな表情でも恋人は素敵なのだ――たとえ何を考えていようとも。
「コインランドリー行けばいいじゃん」
「この暴風雨で外に出れるわけがないでしょう」
呆れた調子の朱の言葉に、碧は溜め息まじりに返す。腕の中に抱えられた洗濯物かごが彼の身体に食い込むのが見えた。山盛りの衣服がバランスを崩しかけるも、鍛えられた手によってすぐさま押し止められ中に押し込まれた。
「明日にすればいいだろー」
「バスタオルは早めに洗ってしまいたいんですよ」
じゃあバスタオルだけ洗えばいいのに、と出かけた言葉を飲み込む。ベランダが隔絶された今、バスタオルのような乾きにくいものを部屋干しにすれば臭いが付いてしまうのは交代制で家事を担当する己もよく分かっていた。除湿機とサーキュレーターがどれだけフル稼働しようも、最近の洗剤がどれだけ臭わないことを謳っていても、うっすらと湿った臭いが残ってしまうのだから面倒なものである。毎度ながら乾燥機、もしくはドラム式洗濯機が欲しくなる。置く場所も無ければ手が届かない値段の代物なのだから、永劫に叶うことはないが。
はぁ、と烈風刀はまた一つ溜め息をこぼす。どれだけ溜息を吐こうが天気は回復しないと分かっているだろうが、そうでもしなければやってられないことは痛いほど伝わってきた。己が同じ立場だったら同じかそれ以上にごちゃごちゃと言っていただろう。
険しげな、恨めしげな横顔から視線を外し、雷刀は携帯端末を取り出す。光る液晶を指で撫で、ニュースアプリを起動する。天気のタブ一面に表示されているのは傘のマークだけだ。どの時間帯にも鎮座しているそれの上には、八〇だとか九〇だとかの高い数字が書かれている。これでは今日中に洗濯するなど不可能だろう。つまり、洗濯物を余計に増やすような行動はできないのだ。
はぁ、と溜め息が二つ重なる。風を必死に受け止める窓の悲鳴が、小さなそれをかき消した。
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