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No.212
洗濯日和、二度寝日和【神十字】
洗濯日和、二度寝日和【神十字】
毎年恒例五月十日はGottの日!
ということで神十字。なんかごちゃごちゃ言ってるけど雰囲気で読んでください。
洗濯物をする神様と人間の話。
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青を背に白が広がる。四角いそれは、まるで空の色をハサミで切り取ってしまったかのようだった。うっすらと熱をまとった風が世界を吹き抜ける。春に芽吹き育った草木とともに、広大な白は羽ばたきのようにひらひらと身を翻した。
眼前に広がる美しい白に、クロワは小さく頷く。空とはまた違う碧い目は普段よりも輝きを増し、口元は綻びつつも力が宿っている。洗濯物が入っていた大かごを前にした背中はどこか誇らしげだった。
今日は朝から良い天気だった。一足先に夏が来たかのような深い青広がる、雲一つ無い晴天が世界を包んでいたのだ。昇った太陽は美しいまでに輝き、風は晴れ模様にはしゃぐように駆け抜けている。絶好の洗濯日和だ。特に、シーツのような大物を洗うにはこれ以上ない条件が揃っている。
そうやって朝から洗濯に精を出し、まっさらに洗い上げ、まっすぐに干し終えた身体は満足感でいっぱいだった。それはそうだ、たとえ時間がかかっても綺麗に洗えた洗濯物がそよぐ様はこの上なく気持ちの良いものなのだから。
「くろわぁ……」
後ろから輪郭がどこかにいってしまったかのような声。ほぼ同時に、背中に小さな衝撃が加えられた。青年が振り返るより先に、その腹に腕が回される。袖がまくり上げられ剥き出しになった腕は、少し硬い腹をゆるく抱きしめた。寝惚けて蹴っ飛ばした毛布をたぐり寄せる時とよく似ていた。
「ねみぃ……」
「……珍しいですね」
「あんな早くに叩き起こされたらさすがにねみぃって……」
寝言のようにやわく言葉を紡ぐ青年――否、
Gott
(
神
)
に、クロワは穏やかに返す。戻ってきたのはやはり寝惚けたような声だった。本当に眠いのだろう。
確かに、シーツ洗濯したいがためだけに、不敬極まりなく早くに彼を起こしたのは事実である。その上、興味を示した崇める存在は二度寝することなく手を貸してくれたのだ。疲労も相まって尚更眠いのだろう。大物の洗濯は重労働なのだ。
しかし、こうも眠気を主張してくるのは本当に珍しい。何しろ、相手は神である。人間ではない、人の理など通用しない――睡眠を取る必要も、食事を摂る必要も無い、何もかもを超越した存在なのだ。人間のように『眠い』なんて言い出すようになったのはここ最近のことである。
人間のように寝て、人間のように起きて、人間のように食べて、人間のように働く。すぐに異物を排除しようとする人間たちに馴染むためには必要なことだ。けども、それは外で表面を取り繕っていればいいだけの話である。本当に人間のように腹を空かせたり、疲れたり、眠たげにする必要は無い――人間のように変化する必要などない。なのに。
弱っているのだろうか。満足げに輝いていた碧い目に、瞼の影が落ちる。陰った瞳の奥は、どんどんと暗さを増していく。沈みゆく色は、夜明けにはまだ遠い空を思わせる。
最近は子どもたちにも『お伽噺』は広まり、神の存在を認知し、信じる者は増えてきたはずだ。わずかながらとはいえ信仰は増したのだから力が戻ることはあっても、衰える可能性は低い。けれど、現実はヒトに近づきつつ――衰え、人間風情と同じ場所に立ってしまっていて。
己の信仰心が薄れているのか。否、そんなことはない。誰よりも彼を崇め、誰よりも彼に尽くしてきた。その力を取り戻さんと奔走してきた。強固になるならまだしも、薄れゆくはずなどない。けど、現実は。全てを示す彼の身体は。
「くろわぁ」
今にもとろけ落ちてしまいそうな声が自身を示す音をなぞる。首だけで振り返ると、茜空が広がった。活力に満ちた朱は瞼でわずかに姿を隠している。山の向こうに落ち行く夕陽のような光景だ。真ん丸でぱっちりとした、可愛さすら感じさせる目はどこか輪郭を失っているように見える。眠気が鮮やかな色をぼやけさせるように色を塗っていた。
「抱き心地悪い。硬い」
「それはそうでしょう」
「そーじゃねー」
むくれた声とともに、肩にぐりぐりと頭を擦り付けられる。全てお見通しなのだろう。分かりきった現実に、全てを見通す存在に、青年は密かに息を吐いた。無意識に身体が強張っていたことなど、触れる彼に隠せるはずがない。神が人間如きの思考をなぞることなど容易いに決まっている。
深呼吸するように息を吐き出し、強張っていたからだから力を抜いていく。吐き切るとほぼ同時に、腹に回った腕に力が込められた。袖をまくった腕が、剥き出しの腕が、薄布一枚隔てた腹に沈み込む。柔らかな肉の感触。うっすらと感じる骨の硬さ。生きている、穏やかなぬくもり。どれも手放したくない、失いたくないもの。
「こないだのシーツまだある?」
「あー……、切ってしまいましたね」
問う神に、クロワは眉を八の字にした。以前片付ける際に引っかけて盛大に破れてしまったシーツは、修繕を諦めて掃除に使ってしまったのだ。ベッドを覆うほどの布地は残っていない。無理をしてでも繕えばよかったか、と今更後悔が湧き上がってくる。そもそも、駄目になった時点で買い足すべきだったのだ。先延ばしにしたツケが崇める存在を蝕んでいる。こんなこと、あってはならないのに。
「じゃあ、タオルある?」
「ありますけど、ベッドを覆えるほどのものはありませんよ」
「何枚も敷きゃいいだろー」
朱い頭が硬い肩に擦り付けられる。少し痛むが、拒絶する権利など無い。全て己の不手際が招いたのだ。そもそも、崇め奉る存在にその身を委ねられて拒否する人間などこの世に存在するはずがないのだ。
「一緒に寝よ」
「台所の掃除が残っているので」
えー、とむくれた、今にも眠ってしまいそうな声があがる。腹を抱きしめる腕の輪が更に縮まった。それでも苦しさを覚えない程度なのだから明確に加減をしているのが分かる。じゃれる動きだ。脆い人間に合わせる、慈悲深い動きだ。
「用意しますから」
腹に回った手をノックするように軽く叩く。えー、とまた輪郭が柔らかな声があがった。渋々といった調子で、ゆっくりと腕が去って行く。確かに感じていた温もりが去っていく。肩に残る頭の重みが、彼がまだ存在している証明だった。
眠ってほしくない。そんなわがままを言うなどあり得ない。人間如きが神を動かそうとするなどあり得てはならない。けれど、聞き分けの悪い脳味噌は口から言葉を吐き出させようと回転する。残った理性が全てをもってして、その醜い動きを封じ込めた。
だって、また目覚めてくれる保証なんてないのに。
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#ライレフ
#腐向け
#ライレフ
#腐向け
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SDVX
2025/5/10(Sat) 23:26
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ということで神十字。なんかごちゃごちゃ言ってるけど雰囲気で読んでください。
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青を背に白が広がる。四角いそれは、まるで空の色をハサミで切り取ってしまったかのようだった。うっすらと熱をまとった風が世界を吹き抜ける。春に芽吹き育った草木とともに、広大な白は羽ばたきのようにひらひらと身を翻した。
眼前に広がる美しい白に、クロワは小さく頷く。空とはまた違う碧い目は普段よりも輝きを増し、口元は綻びつつも力が宿っている。洗濯物が入っていた大かごを前にした背中はどこか誇らしげだった。
今日は朝から良い天気だった。一足先に夏が来たかのような深い青広がる、雲一つ無い晴天が世界を包んでいたのだ。昇った太陽は美しいまでに輝き、風は晴れ模様にはしゃぐように駆け抜けている。絶好の洗濯日和だ。特に、シーツのような大物を洗うにはこれ以上ない条件が揃っている。
そうやって朝から洗濯に精を出し、まっさらに洗い上げ、まっすぐに干し終えた身体は満足感でいっぱいだった。それはそうだ、たとえ時間がかかっても綺麗に洗えた洗濯物がそよぐ様はこの上なく気持ちの良いものなのだから。
「くろわぁ……」
後ろから輪郭がどこかにいってしまったかのような声。ほぼ同時に、背中に小さな衝撃が加えられた。青年が振り返るより先に、その腹に腕が回される。袖がまくり上げられ剥き出しになった腕は、少し硬い腹をゆるく抱きしめた。寝惚けて蹴っ飛ばした毛布をたぐり寄せる時とよく似ていた。
「ねみぃ……」
「……珍しいですね」
「あんな早くに叩き起こされたらさすがにねみぃって……」
寝言のようにやわく言葉を紡ぐ青年――否、Gottに、クロワは穏やかに返す。戻ってきたのはやはり寝惚けたような声だった。本当に眠いのだろう。
確かに、シーツ洗濯したいがためだけに、不敬極まりなく早くに彼を起こしたのは事実である。その上、興味を示した崇める存在は二度寝することなく手を貸してくれたのだ。疲労も相まって尚更眠いのだろう。大物の洗濯は重労働なのだ。
しかし、こうも眠気を主張してくるのは本当に珍しい。何しろ、相手は神である。人間ではない、人の理など通用しない――睡眠を取る必要も、食事を摂る必要も無い、何もかもを超越した存在なのだ。人間のように『眠い』なんて言い出すようになったのはここ最近のことである。
人間のように寝て、人間のように起きて、人間のように食べて、人間のように働く。すぐに異物を排除しようとする人間たちに馴染むためには必要なことだ。けども、それは外で表面を取り繕っていればいいだけの話である。本当に人間のように腹を空かせたり、疲れたり、眠たげにする必要は無い――人間のように変化する必要などない。なのに。
弱っているのだろうか。満足げに輝いていた碧い目に、瞼の影が落ちる。陰った瞳の奥は、どんどんと暗さを増していく。沈みゆく色は、夜明けにはまだ遠い空を思わせる。
最近は子どもたちにも『お伽噺』は広まり、神の存在を認知し、信じる者は増えてきたはずだ。わずかながらとはいえ信仰は増したのだから力が戻ることはあっても、衰える可能性は低い。けれど、現実はヒトに近づきつつ――衰え、人間風情と同じ場所に立ってしまっていて。
己の信仰心が薄れているのか。否、そんなことはない。誰よりも彼を崇め、誰よりも彼に尽くしてきた。その力を取り戻さんと奔走してきた。強固になるならまだしも、薄れゆくはずなどない。けど、現実は。全てを示す彼の身体は。
「くろわぁ」
今にもとろけ落ちてしまいそうな声が自身を示す音をなぞる。首だけで振り返ると、茜空が広がった。活力に満ちた朱は瞼でわずかに姿を隠している。山の向こうに落ち行く夕陽のような光景だ。真ん丸でぱっちりとした、可愛さすら感じさせる目はどこか輪郭を失っているように見える。眠気が鮮やかな色をぼやけさせるように色を塗っていた。
「抱き心地悪い。硬い」
「それはそうでしょう」
「そーじゃねー」
むくれた声とともに、肩にぐりぐりと頭を擦り付けられる。全てお見通しなのだろう。分かりきった現実に、全てを見通す存在に、青年は密かに息を吐いた。無意識に身体が強張っていたことなど、触れる彼に隠せるはずがない。神が人間如きの思考をなぞることなど容易いに決まっている。
深呼吸するように息を吐き出し、強張っていたからだから力を抜いていく。吐き切るとほぼ同時に、腹に回った腕に力が込められた。袖をまくった腕が、剥き出しの腕が、薄布一枚隔てた腹に沈み込む。柔らかな肉の感触。うっすらと感じる骨の硬さ。生きている、穏やかなぬくもり。どれも手放したくない、失いたくないもの。
「こないだのシーツまだある?」
「あー……、切ってしまいましたね」
問う神に、クロワは眉を八の字にした。以前片付ける際に引っかけて盛大に破れてしまったシーツは、修繕を諦めて掃除に使ってしまったのだ。ベッドを覆うほどの布地は残っていない。無理をしてでも繕えばよかったか、と今更後悔が湧き上がってくる。そもそも、駄目になった時点で買い足すべきだったのだ。先延ばしにしたツケが崇める存在を蝕んでいる。こんなこと、あってはならないのに。
「じゃあ、タオルある?」
「ありますけど、ベッドを覆えるほどのものはありませんよ」
「何枚も敷きゃいいだろー」
朱い頭が硬い肩に擦り付けられる。少し痛むが、拒絶する権利など無い。全て己の不手際が招いたのだ。そもそも、崇め奉る存在にその身を委ねられて拒否する人間などこの世に存在するはずがないのだ。
「一緒に寝よ」
「台所の掃除が残っているので」
えー、とむくれた、今にも眠ってしまいそうな声があがる。腹を抱きしめる腕の輪が更に縮まった。それでも苦しさを覚えない程度なのだから明確に加減をしているのが分かる。じゃれる動きだ。脆い人間に合わせる、慈悲深い動きだ。
「用意しますから」
腹に回った手をノックするように軽く叩く。えー、とまた輪郭が柔らかな声があがった。渋々といった調子で、ゆっくりと腕が去って行く。確かに感じていた温もりが去っていく。肩に残る頭の重みが、彼がまだ存在している証明だった。
眠ってほしくない。そんなわがままを言うなどあり得ない。人間如きが神を動かそうとするなどあり得てはならない。けれど、聞き分けの悪い脳味噌は口から言葉を吐き出させようと回転する。残った理性が全てをもってして、その醜い動きを封じ込めた。
だって、また目覚めてくれる保証なんてないのに。
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