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No.222
涼しさは一緒に【ライレフ】
涼しさは一緒に【ライレフ】
一緒に寝る右左が見たかっただけなどと供述しており。やっぱ夏は電気代節約しなきゃだからね(?)
クーラーを賭けた右左の話。
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赤い唇が白い縁に寄せられる。薄く汗を掻いたマグカップは、持ち主によって大きく傾いた。薄く上気した喉が盛大に動く。しばしして、息を吐く音が部屋に響いた。共鳴するように、低い唸り声が部屋に落ちる。夏の生命線であるエアコンは、今日も元気に役目を果たしていた。シャワーを浴びて火照った身体に冷風と冷水。これ以上無い幸福が嬬武器雷刀の身体を満たしていく。
夏の間、己は昼も夜もリビングで過ごすことが多い。というのも、自室の冷房の動きが鈍く感じるからだ。日中熱しに熱された空気を冷やすのに時間を要するのは頭では理解できるものの、どうにももどかしい。ならば、既に涼しくなっているリビングで過ごすのが快適で合理的だ――こちらも眠る前には消さなければならないのだけど。
大きな手に携帯端末が握られる。ロックを外した液晶画面、端っこに鎮座するニュースサイトのウィジェットには『熱中症注意報』の文字が鮮やかに輝いていた。つまり、明日も暑くて湿っていて息苦しくて過ごしにくい。うへぇ、と情けない声とともに、赤い眉が小さく寄せられ八の字を描く。
インターネットでは『冷房は冷やす時に一番電気を食う』『つけっぱなしの方が電気代がかからない』なんてまことしやかに囁かれているが、どうにももったいない気持ちの方が強い。並外れた暑さの中帰ってきてすぐに涼しい空気に飛び込めるのはこれ以上無く魅力的であるが、やはり四六時中つけっぱなしというのは気が引ける。珍しく、兄弟で意見が一致した部分だ。
飲み干したカップを洗い、朱はエアコンの電源を消す。夏一番の功労者は音も無く口を閉じた。後ろ髪を引かれながらドアを開けた途端、熱気が正面からぶつかってくる。空調など存在しない暗い空間は、夜になっても随分と熱がこもってじっとりとしていた。眉が八の字を、口がへの字を描く。
早足で廊下を進み、自室に身を滑り込ませる。素早くクーラーを点けて、再び廊下へと戻った。そのまま、数歩進んで隣のドアを開く。途端、涼しい空気が身体を撫ぜた。険しげな表情が解け、普段の柔らかで朗らかなものへと戻る。
「何ですか、こんな時間に」
「涼ませて」
部屋の主――嬬武器烈風刀の声に、雷刀は軽い調子で返す。椅子の背もたれに腕を掛けて振り返った彼の顔は、就寝前には相応しくない険しいものとなっていた。健康的な色をした唇が一本の線を描き、解けて息を吐き出す。
「またですか」
呆れ、怒り、諦め。色んなものが混ざった声を正面から飛んでくる。気にすること無く、兄はベッドに腰を下ろした。だって、その声にはほのかな明るさがあったように思えたから。
「いいじゃん。あっつい部屋にいて熱中症になったらやばいじゃん?」
「そんな簡単にはなりませんよ」
ほんの数分でしょう、と弟は眉をひそめる。その数分が地獄なんだって、と兄は笑った。眉間に刻まれた皺が更に深みを増す。
「そんなに暑いならリビングで寝たらどうですか」
「さっき電源消しちゃったからもう暑くなってるって。死ぬ死ぬ」
あぐらを掻いて振り子のように揺れながら、冗談めかして返す。実は、既に考えた案だった。けれども、『みっともない』とかなんとかで弟に却下されるに間違いないと思い黙っていたのだ。けれど、今さっき彼の口からその提案が出た。言質を取れた。これで明日から涼しい空間ですぐに眠ることができるだろう。ふふん、と鼻歌めいた息が漏れ出た。
「それか、こっちで寝るとか」
「へ?」
ご機嫌に弧を描いていた口がぽかんと開く。八重歯が覗く赤いそこは、随分と間抜けな形をしていた。机に向かい直した背中から言葉が聞こえた言葉は、脳の処理を一時停止させるには十分なものなのだから仕方が無い。
「え? いいの?」
「本気にしないでくださいよ」
思わず上擦った声に、げんなりとした声が返される。再びこちらを向いた烈風刀の顔は、やはり釣り眉で眇目でへの字口だ。けれども、その頬にほんのりと紅が散っているのは部屋のライティングのせいではないだろう。もちろん、シャワーを浴びたせいでも。
「分かった! 枕取ってくる!」
「本気にしないでくださいよ! やめてください!」
ベッドの上に大人しく座っていた身体がすくりと立ち上がる。体育の徒競走もかくやという動きで、雷刀は駆け出した。背中に慌てきった声が飛んでくる。先に言ったのは烈風刀じゃん、と扉を開けると同時に叫んだ。
「――来客用の布団一式持ってきてください! 貴方寝相悪いんですから!」
開けっぱなしの扉から、深夜という事実を忘れた大声が飛んでくる。諦めきった、呆れきった、受け入れきった言葉に、分かった、とこれまた夜を忘れた声が返された。
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#ライレフ
#腐向け
#ライレフ
#腐向け
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SDVX
2025/8/30(Sat) 14:40
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クーラーを賭けた右左の話。
赤い唇が白い縁に寄せられる。薄く汗を掻いたマグカップは、持ち主によって大きく傾いた。薄く上気した喉が盛大に動く。しばしして、息を吐く音が部屋に響いた。共鳴するように、低い唸り声が部屋に落ちる。夏の生命線であるエアコンは、今日も元気に役目を果たしていた。シャワーを浴びて火照った身体に冷風と冷水。これ以上無い幸福が嬬武器雷刀の身体を満たしていく。
夏の間、己は昼も夜もリビングで過ごすことが多い。というのも、自室の冷房の動きが鈍く感じるからだ。日中熱しに熱された空気を冷やすのに時間を要するのは頭では理解できるものの、どうにももどかしい。ならば、既に涼しくなっているリビングで過ごすのが快適で合理的だ――こちらも眠る前には消さなければならないのだけど。
大きな手に携帯端末が握られる。ロックを外した液晶画面、端っこに鎮座するニュースサイトのウィジェットには『熱中症注意報』の文字が鮮やかに輝いていた。つまり、明日も暑くて湿っていて息苦しくて過ごしにくい。うへぇ、と情けない声とともに、赤い眉が小さく寄せられ八の字を描く。
インターネットでは『冷房は冷やす時に一番電気を食う』『つけっぱなしの方が電気代がかからない』なんてまことしやかに囁かれているが、どうにももったいない気持ちの方が強い。並外れた暑さの中帰ってきてすぐに涼しい空気に飛び込めるのはこれ以上無く魅力的であるが、やはり四六時中つけっぱなしというのは気が引ける。珍しく、兄弟で意見が一致した部分だ。
飲み干したカップを洗い、朱はエアコンの電源を消す。夏一番の功労者は音も無く口を閉じた。後ろ髪を引かれながらドアを開けた途端、熱気が正面からぶつかってくる。空調など存在しない暗い空間は、夜になっても随分と熱がこもってじっとりとしていた。眉が八の字を、口がへの字を描く。
早足で廊下を進み、自室に身を滑り込ませる。素早くクーラーを点けて、再び廊下へと戻った。そのまま、数歩進んで隣のドアを開く。途端、涼しい空気が身体を撫ぜた。険しげな表情が解け、普段の柔らかで朗らかなものへと戻る。
「何ですか、こんな時間に」
「涼ませて」
部屋の主――嬬武器烈風刀の声に、雷刀は軽い調子で返す。椅子の背もたれに腕を掛けて振り返った彼の顔は、就寝前には相応しくない険しいものとなっていた。健康的な色をした唇が一本の線を描き、解けて息を吐き出す。
「またですか」
呆れ、怒り、諦め。色んなものが混ざった声を正面から飛んでくる。気にすること無く、兄はベッドに腰を下ろした。だって、その声にはほのかな明るさがあったように思えたから。
「いいじゃん。あっつい部屋にいて熱中症になったらやばいじゃん?」
「そんな簡単にはなりませんよ」
ほんの数分でしょう、と弟は眉をひそめる。その数分が地獄なんだって、と兄は笑った。眉間に刻まれた皺が更に深みを増す。
「そんなに暑いならリビングで寝たらどうですか」
「さっき電源消しちゃったからもう暑くなってるって。死ぬ死ぬ」
あぐらを掻いて振り子のように揺れながら、冗談めかして返す。実は、既に考えた案だった。けれども、『みっともない』とかなんとかで弟に却下されるに間違いないと思い黙っていたのだ。けれど、今さっき彼の口からその提案が出た。言質を取れた。これで明日から涼しい空間ですぐに眠ることができるだろう。ふふん、と鼻歌めいた息が漏れ出た。
「それか、こっちで寝るとか」
「へ?」
ご機嫌に弧を描いていた口がぽかんと開く。八重歯が覗く赤いそこは、随分と間抜けな形をしていた。机に向かい直した背中から言葉が聞こえた言葉は、脳の処理を一時停止させるには十分なものなのだから仕方が無い。
「え? いいの?」
「本気にしないでくださいよ」
思わず上擦った声に、げんなりとした声が返される。再びこちらを向いた烈風刀の顔は、やはり釣り眉で眇目でへの字口だ。けれども、その頬にほんのりと紅が散っているのは部屋のライティングのせいではないだろう。もちろん、シャワーを浴びたせいでも。
「分かった! 枕取ってくる!」
「本気にしないでくださいよ! やめてください!」
ベッドの上に大人しく座っていた身体がすくりと立ち上がる。体育の徒競走もかくやという動きで、雷刀は駆け出した。背中に慌てきった声が飛んでくる。先に言ったのは烈風刀じゃん、と扉を開けると同時に叫んだ。
「――来客用の布団一式持ってきてください! 貴方寝相悪いんですから!」
開けっぱなしの扉から、深夜という事実を忘れた大声が飛んでくる。諦めきった、呆れきった、受け入れきった言葉に、分かった、とこれまた夜を忘れた声が返された。
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