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No.42

届【ハレルヤ組】

届【ハレルヤ組】
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pixivで非公開にしていたものをサルベージ。キャプションとか諸々全部当時のままです。

七夕のお話。初等部とか中等部とか高等部の皆がだらだら話してるだけ。
例により呼称は公式参考にしつつ捏造。

 風の動きに合わせて細い緑の葉が揺れる。そこに吊るされた色とりどりの飾りもつられて揺れ、さらさらと軽やかな音を奏でた。
 七夕も近いから、と数日前に学園の玄関に設置された笹の周りには、たくさんの生徒が集まっていた。少し離れた位置には短冊を詰め込んだ箱と油性ペンが用意された机が複数設置されており、皆ここで願い事を書いていた。己の願いをこめたそれを手にし、すっと上へ上へと葉を伸ばすしなやかな枝に括り付ける。始めは緑一色だったそれは日に日に色を増し、今ではとても賑やかで華やかな色合いになっていた。
「これでよし、っと」
 キュッと油性ペンが軽やかな音を立てる。雷刀は手にしたそれを元の場所にしまい、顔を上げ真っ赤な短冊を手にしひらひらと振る。インクは既に乾いているのだが、そうやって振ってしまうのは人のサガというものだろう。
「ワタシもできマシタ!」
 同じく隣でペンを滑らせていたレイシスも顔を上げた。彼女は胸に抱えるように淡い桃色の短冊を両手で持った。薄い折り紙でできた短冊の裏にはペンのインクがにじんでいるが、はっきりと読むのは難しい。
「雷刀は何をお願いしたんデスカ?」
 レイシスの問いに雷刀はフフフ、と不敵に笑い、手にした短冊を彼女の目の前に掲げた。鮮やかな赤の上には力強い黒が勢いよく放たれていた。
「『成責がよくなりますように』だ!」
「『せき』の字が違いますよ」
 切り捨てるような鋭い声がすぐ隣から飛んでくる。雷刀が気まずそうな顔でそちらを見ると、予想通り呆れを色濃く浮かべた翡翠の瞳でこちらを睨んでいた。
「成績の『せき』は糸偏です。大体、そんなことを願う前に居眠りせずに授業を聞きなさい」
 怒りを露わにした指摘に雷刀は逃げるように視線を逸らした。毎度毎度のそれが気に入らないのか、烈風刀の目が更に細められる。ジトリとした暗いその瞳はどこか怖い。ゆるりと重くなった空気に、レイシスが慌てたように口を開く。
「れっ、烈風刀はなんて書いたのデスカ?」
 ひょこり、とレイシスは烈風刀の手元を覗き込む。彼女が見やすくなるよう、烈風刀は短冊を傾けた。幾許か遅れて雷刀も浅い緑色のそれを覗き込む。若葉色の紙の上には、スラリとした美しい文字が四つ並んでいた。
「むびょー、いき……いき?」
「『むびょうそくさい』、デスネ」
「正解です」
 流石ですね、と微笑む烈風刀に、レイシスは嬉しそうに笑った。反面、雷刀は拗ねたように口を尖らせた。ツッコミすらされず、放っておかれるのが気に入らないらしい。
「もっと他にないのかよ。こう、『野菜が美味しくできますように』とか」
「自分のことよりも皆のことを考える方が有益です。……個人的な願い事がいまいち思いつかなかった、というのもありますけど」
「でも、烈風刀らしいデス」
 つまらなそうな雷刀の声に烈風刀はさらりと返すが、その声はどこか自信なさげだ。他人をよく観察し考えて行動する彼らしい、とレイシスは小さく笑った。その笑みが何だか恥ずかしくて、烈風刀は気まずげに視線を逸らす。
「レイシス姉ちゃんだー!」
 パタパタとコンクリートの地面を駆ける音。レイシスが声の方へ身体を向けると、その胸にニアが飛び込んできた。少し遅れてノアもニアの背に抱き付くように止まる。三人はその胸の中できゃいきゃいと楽しげにはしゃぐ彼女たちを見た。
「ニアたちも短冊書きにきたのか?」
「うん!」
「さっき書いたから、飾りにきたの」
 二人は手にした短冊を頭上に掲げ、雷刀に見せる。ひらひらと揺れるおそろいの青い短冊には、『みんなといっぱい遊べますように』と丸っこい可愛らしい文字で書かれていた。彼女らの純粋で真っ直ぐな願いに、微笑ましい、とレイシスたちは頬を緩める。明るく元気いっぱいの彼女たちならば必ず叶う願いだろう。
「きっと叶いますよ」
 烈風刀は二人に笑いかける。彼女らは嬉しそうにえへへ、と笑った。ふと、二人がつけたカチューシャのリボンが兎の耳のようにぴんと立ち上がる。深海のように深くきらきらと光る二対の青は、レイシスたちの手元に目を奪われていた。
「レイシス姉ちゃんたちも書いたの?」
「はい。しっかり書きマシタ」
 ニアの言葉に、レイシスは手に持った短冊を見せる。二人は桜色のそれを覗き込むが、漢字が読めないのか、うーん、と首を傾げていた。
「ねぇ、レイシス姉ちゃんたちのもノアたちと一緒に飾る?」
「はわ、いいのデスカ?」
 うん、とニアとノアは元気よく頷く。むしろみんなと一緒に飾りたい、とのことだ。ありがとうございマス、と礼を言い、レイシスは三人分の短冊を彼女らに渡した。二人は手を繋ぎ、せーの、と声を合わせ、ぴょんと勢いよく飛び上がる。青い髪と緑がかった黄色のリボンが風を受けてふわりと揺れる。二人は空へと伸びる笹のてっぺんに近い位置に五人分の短冊を器用に結んだ。とん、と彼女らは同時に足を付き、体操選手のように両手を上に伸ばしポーズを決めた。繋いだ手を高く上げる姿は可愛らしい。
「これでよーし!」
「ありがとな」
「有難うございます」
「れふとたちのお願いも叶うといいね」
 礼を言う烈風刀と雷刀に、ノアはそう言って笑った。だな、と雷刀も笑顔で返す。自分のものはともかく、烈風刀やニアたちのものはきっと叶うだろう。どちらも彼らならば努力し成し遂げることができることなのだ。
「あ、れふとおにーちゃんだ」
「れふとおにーちゃん、こんにちは」
「……こんにちは」
 パタパタと三人分の小さな足音。名を呼ばれた彼が視線をやると、そこには短冊片手に駆けてくる雛、桃、蒼の三人がいた。三色の耳が、嬉しそうにぴょこんと立ち上がった。
「こんにちは。皆さんもお願い事をしにきたのですか?」
 烈風刀の問いに、うん、と三人分の元気な声が答える。見て見て、と雛は己が持つ短冊を差し出す。淡い黄色のそれは『もっといっぱいあそべますように』とクレヨンで書かれていた。きっと教室で書いてきたのだろう。わたしも、と差し出した桃と蒼の短冊にも同じことが書いてある。仲がいいな、と烈風刀は微笑んだ。
「みんなのも高いとこに飾る?」
「ノアたちが飾ってくるよ」
 二人の申し出に、雛たちは嬉しそうに声を上げる。ニアノアおねーちゃん、おねがいします、と三人は声を揃えて短冊を差し出した。しっかりと受け取ったニアたちは、地面を蹴り上げ空へと飛び上がる。青空に浮かぶ二人を見て、三人の子猫は楽しげに笑う。楽しそうでなによりだ、と烈風刀はその姿を見て顔を綻ばせた。隣にいる二人もきっと同じ表情をしているだろう。楽しげにはしゃぐ彼女らの姿は、愛らしいという言葉がよく似合う。
「あら、皆さんおそろいですの?」
 よく通る高い声が後ろから上がる。はしゃぐ彼女らの後ろには、普段通り鴇色の着物に身を包んだ桜子がいた。その後ろには氷雪もいる。白い着物を身にまとった彼女は不思議そうな顔をしていた。
「これだけ人が集まっているのは珍しいですね」
「気付いたらみんな集まっていまシタ」
 氷雪の声にレイシスは楽しげに答える。まだ多くの人と話すことに慣れていないのか、氷雪は桜子の後ろに隠れるように立っている。それでも自ら声をかけることができるようになったのだ、人との関わりをあまり持っていなかった彼女にとっては大きな進歩だろう。
「二人も短冊を飾りにきたのデスカ?」
「そうですの」
 レイシスの問いに桜子は手にした短冊を彼女に示した。すぐハッとした表情になり、見ちゃだめですの、と慌てて己の背に濃い桃色の紙を隠した。大丈夫、見ていまセン、とレイシスはぱたぱたと手を横に振る。きっといつも通り『あの方』に関する願いなのだろう。彼女の想いは、きっと空の上、星の川の畔で夫のことを想う織姫にも負けない。
「そっ、そういえば、氷雪さんはなんて書いたのですの?」
 くるりと振り返り、桜子は後ろにいた氷雪に問いかける。自分に振られるとは思っていなかったのか、氷雪はビクリと身体を震わせた。あわわ、と深い河の底のような美しい緑の瞳が辺りを泳いだ。
「えっと……、これ、です」
 氷雪は恥ずかしげに俯き、そっと短冊を二人に差し出した。白にも似た水色のそれには、細く麗しい文字で『もっと皆さんとお話しできますように』と書かれていた。
「わたし、まだ皆さんと上手くお話しできなくて……。早く打ち解けて仲良くなりたいのですけれど、上手く言えなくて……」
「大丈夫デス!」
 不安の色をにじませながら頬を赤く染める氷雪の手に、レイシスは己の手を重ねた。ひくり、と氷雪の肩が揺れる。驚く彼女を気にせず、レイシスは彼女の手をぎゅっと握った。冷たいですよ、と声を上げそうになる氷雪だが、レイシスの朗らかな笑みは己の冷たさを打ち消すような温かさをしていた。
「いつも頑張っているデショウ? だから大丈夫デス! きっと叶いマスヨ!」
 ニコニコと笑い励ますレイシスに、少し強張っていた氷雪の表情が緩む。だといいですね、と困ったように笑う氷雪に、レイシスは再度大丈夫、と励ます。傍にいた桜子も二人の手に己のそれを重ね、大丈夫ですの、と声を上げた。二人分の温かさに、ツンと鼻の奥が痛む。ここは泣くところではない、ときゅっと口を引き結び、氷雪は小さな声でありがとうございます、と呟いた。その細い声は二人にちゃんと伝わったようで、桃と浅葱の瞳がふわりと弧を描いた。
「あれ、先輩たちどうしたんですか?」
 不思議そうな声に雷刀と烈風刀は振り返る。赤と緑の二対の目の先には、深い青の髪で目元を隠した後輩がいた。いつもならば友人の魂や灯色がいるのだが、今日は珍しく一人で行動しているらしい。
「冷音も短冊飾りにきたのか?」
「いえ、これを飾りにきたんですけど……」
 これ、と冷音が取り出したのはてるてる坊主だった。しかし、通常の物とは違い、天地が逆さまになっている。雨を降らせてくれ、というのが彼の願いなのだろう。短冊に書くより分かりやすい。これ自体の効果も期待もできる、というのも合理的だ。
「……止めといたほうがよさそうですね」
 ハハ、と冷音は力なく笑う。さすがになぁ、と雷刀は苦笑した。三人の視線の先には、笹の下で楽しげに話すレイシスたちや、さらに飾り付けるニアや桃がいた。あれだけはしゃぐ彼女らの姿を見て、これを吊るすのは憚られた。
 もったいないので屋上にでも吊るしてきます、と冷音は踵を返し校舎へと入っていった。吊るす事自体を止めてほしいが、既に遅い。普段は大人しい彼だが、雨に関する物事への執着は強くそう簡単に止めさせることはできないだろう。長い付き合いのある魂ですら勝率は五割なのだ。
 子どもたちの声が響く中、レイシスはふと空を見上げた。雲一つなく晴れ渡る青空へと背を伸ばす笹は青々としており、育ち盛りの子どものように伸びやかだ。さらさらと揺れ心地よい音を立てる葉や飾り、そして多く吊るされた短冊は、皆の願いを受けて輝いているようにも見えた。
「……七夕が過ぎると、撤去しちゃうんデスヨネ」
 寂しげなレイシスの声に、雷刀たちは目を伏せた。七夕は一日限りだ。そして、このような大きいものをいつまでも飾っておくことなどできない。回避することができない事実ではあるが、彼女のその言葉を肯定することは双子にはできなかった。
「レイシス姉ちゃん知らないの?」
 きょとんとした顔でニアとノアがレイシスたちを見上げた。何の事だろうか、と三人は顔を見合わせる。その場にいた皆も不思議そうに口をつぐんだ。
「七夕の笹と飾りはね、終わったら燃やすんだよ」
「も、もやしちゃうのですか……?」
 ニアの言葉に、後ろで話を聞いていた桃が怯えたような声を上げる。雛や蒼、桜子に氷雪も酷く驚いた顔をしていた。当たり前だ、いきなり『燃やす』だなんて物騒な言葉が小さな彼女の口から飛び出したのだ。
「だいじょうぶだよ」
 不安げに震える桃の頭をノアが撫でる。その声は優しく、心配そうな色を浮かべた桃は少しばかり落ち着いた。それでも納得いかないのか、依然不思議そうな表情を浮かべている。彼女だけではない、どういうことなのだろう、とその場にいた全員が思っているようだ。
「笹を燃やして、煙が空に昇って彦星と織姫にお願い事を届けてくれるんだって。みんなのお願い事を、煙が運んでくれるんだよ」
 だからだいじょーぶ、とニアとノアは空へと両手を広げ笑った。二人の言葉にレイシスと雛はキラキラと目を輝かせる。彼女らの話を聞いた烈風刀と雷刀はほぅ、と関心の声を上げた。
「そんなこと初めて聞いたな。すげー」
「どこかで聞いた覚えはありますが……、よく知っていましたね」
「すごいでしょー!」
「ニアちゃんと一緒に読んだ本に書いてあったんだ」
 感心する二人の声に、ニアたちはえへんと胸を張る。すげー、と雷刀が両手を上げ喜ぶとニアとノアもぱたぱたと両手を空へと掲げ笑った。きゃっきゃとはしゃぐ三人を見てレイシスはふふ、と楽しげに笑った。その笑顔には先程の寂しそうな色など無く、いつもの柔らかな温かみに溢れていた。
「ちゃんと届くといいデスネ」
「えぇ」
 大丈夫ですよ、と言う烈風刀の言葉に、レイシスは嬉しそうに顔を綻ばせた。
「そういえば、レイシスは何をお願いしたんだ?」
 ニア達とじゃれていた雷刀がくるりと振り返り問うてきた。そう言えば、自分の願いは見せたが彼女のそれはまだ聞いていなかった、と双子はじっと見つめる。レイシスはにこりと笑い、空を見上げる。彼女の桃色の瞳の先には、先ほどニアたちが括り付けてくれた薄桃色の短冊があった。
「『みなサンにより良いサービスが提供できマスヨウニ』、デス!」
 レイシスの言葉に、双子はくすりと笑う。心優しい彼女らしい、素敵な願いだ。
「レイシスも、自分の事ではないのですね」
「やさしーレイシスらしいけどな!」
「ハイ、みなサンの幸せが、ワタシの幸せですカラ」
 だから叶ってほしいデス、とレイシスは再び空を仰ぐ。
 真っ青な空には、若い緑と輝かしい願いが広がっていた。

畳む

#レイシス #嬬武器雷刀 #嬬武器烈風刀 #ハレルヤ組

SDVX


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