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No.45
見上げた先の【咲霊】
見上げた先の【咲霊】
リハビリ咲霊。この子らは妙に書きやすい。
TLで見たラブコメチックな膝枕咲霊が可愛くて書き始めたはずなのにどうしてこうなった。
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霊夢、と優しげな声が己の名を口にする。声の方へと目をやると、正座をした咲夜が手招きしていた。畳に手を付き、ぺたぺたと這って霊夢は彼女の下へ向かう。何の用だと言いたげに目の前の赤い瞳を見つめると、咲夜は微笑み己の太ももをとんとんと叩いた。誘われるがまま、そこに頭を乗せる。腹に背中を預けるように顔を横に向け頬を付けると、程よい弾力と心地よい熱がほのかに伝わってきた。細い指が頭を撫で、長い髪を優しく梳く。その心地よさに目を伏せた。
「足、痺れないの?」
こてんと仰向けになり、以前から疑問に思っていたことをぶつけた。咲夜の住まう館はテーブルと椅子ばかりで、正座しなければいけないような部屋はなかったはずだ。正座自体あまり慣れていないだろう。それに加え、人の頭を片足に乗せているのだ。足が痺れないわけがない。それでも彼女はいつも涼しげな顔をしているのだから、不思議でならない。
「もう慣れたわ」
こうやって何度もやってるもの、と咲夜は霊夢の前髪をかき上げる。日の当たらない額は僅かな汚れすら見つからないほど白く、黒い髪とは対照的でよく映えた。
「それに練習したのよ。休憩中は正座して過ごしたり、寝る前にベッドの上でやってみたり、すぐに立ち上がれるようにしたり」
「練習してまでやることじゃないでしょ」
指折り数える彼女にそんなに好きなの、と呆れた瞳で問うと、えぇ、と肯定の言葉と柔らかな笑みが返ってきた。物好きなやつだ、と霊夢はその優しい瞳をぼんやり見つめる。赤い目が弧を描き、慈しむような表情がこちらに向けられた。
そんなに楽しいのだろうか、と霊夢は内心首を傾げた。咲夜はよく膝枕をしたがる。彼女はどうも自分の髪を触るのを好むようで、よく自身を引き寄せ長いそれを撫で、時に結ってくれる。それだけなら隣りあって座った方はやりやすいはずだ。だというのに、彼女はこうやって自分を寝転ばせるのだ。一体何が楽しいのだろう。小さな疑問と好奇心が胸の内に湧き出で、どんどんと膨らんでいく。
霊夢が身を起こす。いきなりの行動に、咲夜は不思議そうにその赤い背を見た。そんな彼女を気にすることなく、向き合うように座る。すっと背筋の伸びた美しい姿勢で正座をし、無言で隣に座ったままの彼女を見つめぺしぺしと太ももを叩く。何を意味するのか理解できないのか、咲夜は頬に片手を当て首を傾げた。
「交代」
「え?」
「交代。たまにはやったげるわ」
早く、と急かすように霊夢は目を細める。不機嫌そうなその顔を見て、咲夜は畳に手を付き身を屈め、遠慮がちな様子で示された場所に頭を乗せ横を向いて寝転んだ。白くふわふわとした髪を持つ彼女の頭は存外重く、何故こんな重たいものを率先して乗せろと言ってくるのだろう、とますます疑問が深まる。
邪魔ね、と呟き、霊夢は咲夜のヘッドドレスを外す。動く気配すらなく、されるがままの彼女の頭をそっと撫でる。少し癖のついた髪はふわふわと柔らかな感触がして、触っていて心地よい。三つ編みが解けないように梳いてみる。少し跳ねた銀色は見た目よりずっとさらさらしていた。霊夢は楽しげに銀色の頭を優しく撫でる。咲夜は時折自分の髪を羨ましいというが、彼女の髪も十分に柔らかで滑らかだ。
柔らかな銀色を楽しんでいると、咲夜は仰向けになりこちらを見た。どこかきょとんと呆けたような顔をした彼女は、見上げた先の黒い瞳をじっと見つめた。なんだろう、と不思議に思いつつも、霊夢もじっと見返す。覗き込んだ赤色は井戸水のように澄み切っていた。主人が主人故に『血のようだ』と言われる彼女の瞳だが、どろりとしたあれよりもワインや紅茶といった底の見える透き通る赤だとぼんやり考える。白い髪と肌に浮かぶ赤いガラス玉は、はいつぞや見た赤い月よりも深いそれはとても綺麗で、揺らめいて輝くその色に触れてみたいという衝動に駆られた。
「……される側っていうのも、案外いいものね」
しみじみとした様子でそう呟き、咲夜はふわりと笑った。彼女はそのまま細い腕を伸ばし、霊夢の頬を優しく撫でる。陽の光にも似た柔らかい温かさとほんの少しのくすぐったさに、猫のように目を細めた。
「こうやって貴方を見上げるのも新鮮だわ」
「そういえばそうね」
この膝枕といい抱きかかえた時といい、たしかに彼女はいつも見下ろす側にいた。そう考えるとなんだか気に食わない。不服さが表情に出ていたのか、咲夜は困ったように眉を下げた。そっと頬を撫でる手つきはまるでぐずる子どもをあやすときのそれに似ていて、霊夢は小さくむくれた。
「でも、これだとなんだか遠くに感じるわね」
「そう?」
どこか寂しげな咲夜の声に、霊夢は不思議そうな顔をした。いつもされている時はそう感じない、むしろ近すぎるぐらいに思えた。身長の問題だろうか。いや、咲夜の方がほんの僅かに高いはずだ。何故なのだろう、と更に首を傾げていると、咲夜は苦笑した。
「私にも分からないけれど」
「なにそれ」
変なの、と呟くと、知ってるでしょ、と笑い交じりの声が返ってくる。そのまま、自然な動作で咲夜は立ち上がった。一体なんだ、と己の手から離れた銀色を見つめると、彼女はくるりと綺麗に振り返った。その口元は柔らかく弧を描いており、どこか楽しげだ。
「交代」
「へ?」
「やっぱり、されるよりする方が好きみたい」
さっと手早くスカートをさばき、咲夜は再び正座する。眉を下げ、困ったように笑う銀に誘われるがままに、霊夢も再び彼女に頭を預けた。ほんの少し離れていただけだというのに、布越しの温かさを長らく求めていたように錯覚する。
「……やっぱこっちのがしっくりくるわ」
「でしょ?」
しみじみと、少し悔しげに呟きじぃと天井の方を見る。見上げた先の彼女は楽しげに笑った。普通はされた方が嬉しいだろうに、何故こんなに楽しげなのだろうか。やっぱり変なやつだ、と霊夢は小さく息を吐いた。
「それに、こっちの方が貴方の顔がよく見えるわ」
うんうん、と一人頷いて、咲夜は霊夢の顔を覗き込む。だんだんと近付く赤い月に、霊夢は驚いたように目を見開いた。すぐさま眉間に深く皺を刻み、腕を伸ばし広げた手で彼女の顔を覆うようにしてぐいぐいと押し退けた。
「近い。調子に乗るな」
「あら、残念」
不機嫌そうな声を気にすることなく、咲夜は涼しい顔で姿勢を正す。調子のいいやつめ、と霊夢は目を眇め、ごろりと横を向いた。
「どうする? もうやめる?」
「…………もうちょい」
思案の末のふてくされたような声に、小さな笑い声と温かな手が降ってくる。さらさらと撫でられる感触は温かくて心地よく、安心する。思わず眠ってしまいそうだ。じわじわと姿を現し始めた睡魔に、霊夢は小さく欠伸をした。
「昼寝ばっかりしちゃだめよ」
咎めるような言葉とあやすような手つきは正反対だ。その裏に滲む『寂しい』という感情も、隠すように優しい声音とも正反対で、霊夢は呆れたように溜め息を吐いた。
こてん、と再度転がり、霊夢は咲夜の腹に顔を埋めるように向きを変える。
「寝ないしほっとかないわよ」
安心しなさい、と甘えるように頭を擦り付けると、撫でる手がぴたりと止まった。この体勢では顔を見ることはできないが、きっと彼女はくしゃりといつもの瀟洒な表情を崩し、子どものように笑っているだろう。勝てないわね、と苦笑交じりの声に、当たり前でしょ、と不遜に返した。
柔らかな手と、柔らかな体温と、ほのかに香る彼女の匂い。
やはり、こちらの方が安心できる。ぼんやりと考えて、霊夢は目を伏せた。
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#咲霊
#百合
#咲霊
#百合
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東方project
2024/1/31(Wed) 00:00
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見上げた先の【咲霊】リハビリ咲霊。この子らは妙に書きやすい。
TLで見たラブコメチックな膝枕咲霊が可愛くて書き始めたはずなのにどうしてこうなった。
霊夢、と優しげな声が己の名を口にする。声の方へと目をやると、正座をした咲夜が手招きしていた。畳に手を付き、ぺたぺたと這って霊夢は彼女の下へ向かう。何の用だと言いたげに目の前の赤い瞳を見つめると、咲夜は微笑み己の太ももをとんとんと叩いた。誘われるがまま、そこに頭を乗せる。腹に背中を預けるように顔を横に向け頬を付けると、程よい弾力と心地よい熱がほのかに伝わってきた。細い指が頭を撫で、長い髪を優しく梳く。その心地よさに目を伏せた。
「足、痺れないの?」
こてんと仰向けになり、以前から疑問に思っていたことをぶつけた。咲夜の住まう館はテーブルと椅子ばかりで、正座しなければいけないような部屋はなかったはずだ。正座自体あまり慣れていないだろう。それに加え、人の頭を片足に乗せているのだ。足が痺れないわけがない。それでも彼女はいつも涼しげな顔をしているのだから、不思議でならない。
「もう慣れたわ」
こうやって何度もやってるもの、と咲夜は霊夢の前髪をかき上げる。日の当たらない額は僅かな汚れすら見つからないほど白く、黒い髪とは対照的でよく映えた。
「それに練習したのよ。休憩中は正座して過ごしたり、寝る前にベッドの上でやってみたり、すぐに立ち上がれるようにしたり」
「練習してまでやることじゃないでしょ」
指折り数える彼女にそんなに好きなの、と呆れた瞳で問うと、えぇ、と肯定の言葉と柔らかな笑みが返ってきた。物好きなやつだ、と霊夢はその優しい瞳をぼんやり見つめる。赤い目が弧を描き、慈しむような表情がこちらに向けられた。
そんなに楽しいのだろうか、と霊夢は内心首を傾げた。咲夜はよく膝枕をしたがる。彼女はどうも自分の髪を触るのを好むようで、よく自身を引き寄せ長いそれを撫で、時に結ってくれる。それだけなら隣りあって座った方はやりやすいはずだ。だというのに、彼女はこうやって自分を寝転ばせるのだ。一体何が楽しいのだろう。小さな疑問と好奇心が胸の内に湧き出で、どんどんと膨らんでいく。
霊夢が身を起こす。いきなりの行動に、咲夜は不思議そうにその赤い背を見た。そんな彼女を気にすることなく、向き合うように座る。すっと背筋の伸びた美しい姿勢で正座をし、無言で隣に座ったままの彼女を見つめぺしぺしと太ももを叩く。何を意味するのか理解できないのか、咲夜は頬に片手を当て首を傾げた。
「交代」
「え?」
「交代。たまにはやったげるわ」
早く、と急かすように霊夢は目を細める。不機嫌そうなその顔を見て、咲夜は畳に手を付き身を屈め、遠慮がちな様子で示された場所に頭を乗せ横を向いて寝転んだ。白くふわふわとした髪を持つ彼女の頭は存外重く、何故こんな重たいものを率先して乗せろと言ってくるのだろう、とますます疑問が深まる。
邪魔ね、と呟き、霊夢は咲夜のヘッドドレスを外す。動く気配すらなく、されるがままの彼女の頭をそっと撫でる。少し癖のついた髪はふわふわと柔らかな感触がして、触っていて心地よい。三つ編みが解けないように梳いてみる。少し跳ねた銀色は見た目よりずっとさらさらしていた。霊夢は楽しげに銀色の頭を優しく撫でる。咲夜は時折自分の髪を羨ましいというが、彼女の髪も十分に柔らかで滑らかだ。
柔らかな銀色を楽しんでいると、咲夜は仰向けになりこちらを見た。どこかきょとんと呆けたような顔をした彼女は、見上げた先の黒い瞳をじっと見つめた。なんだろう、と不思議に思いつつも、霊夢もじっと見返す。覗き込んだ赤色は井戸水のように澄み切っていた。主人が主人故に『血のようだ』と言われる彼女の瞳だが、どろりとしたあれよりもワインや紅茶といった底の見える透き通る赤だとぼんやり考える。白い髪と肌に浮かぶ赤いガラス玉は、はいつぞや見た赤い月よりも深いそれはとても綺麗で、揺らめいて輝くその色に触れてみたいという衝動に駆られた。
「……される側っていうのも、案外いいものね」
しみじみとした様子でそう呟き、咲夜はふわりと笑った。彼女はそのまま細い腕を伸ばし、霊夢の頬を優しく撫でる。陽の光にも似た柔らかい温かさとほんの少しのくすぐったさに、猫のように目を細めた。
「こうやって貴方を見上げるのも新鮮だわ」
「そういえばそうね」
この膝枕といい抱きかかえた時といい、たしかに彼女はいつも見下ろす側にいた。そう考えるとなんだか気に食わない。不服さが表情に出ていたのか、咲夜は困ったように眉を下げた。そっと頬を撫でる手つきはまるでぐずる子どもをあやすときのそれに似ていて、霊夢は小さくむくれた。
「でも、これだとなんだか遠くに感じるわね」
「そう?」
どこか寂しげな咲夜の声に、霊夢は不思議そうな顔をした。いつもされている時はそう感じない、むしろ近すぎるぐらいに思えた。身長の問題だろうか。いや、咲夜の方がほんの僅かに高いはずだ。何故なのだろう、と更に首を傾げていると、咲夜は苦笑した。
「私にも分からないけれど」
「なにそれ」
変なの、と呟くと、知ってるでしょ、と笑い交じりの声が返ってくる。そのまま、自然な動作で咲夜は立ち上がった。一体なんだ、と己の手から離れた銀色を見つめると、彼女はくるりと綺麗に振り返った。その口元は柔らかく弧を描いており、どこか楽しげだ。
「交代」
「へ?」
「やっぱり、されるよりする方が好きみたい」
さっと手早くスカートをさばき、咲夜は再び正座する。眉を下げ、困ったように笑う銀に誘われるがままに、霊夢も再び彼女に頭を預けた。ほんの少し離れていただけだというのに、布越しの温かさを長らく求めていたように錯覚する。
「……やっぱこっちのがしっくりくるわ」
「でしょ?」
しみじみと、少し悔しげに呟きじぃと天井の方を見る。見上げた先の彼女は楽しげに笑った。普通はされた方が嬉しいだろうに、何故こんなに楽しげなのだろうか。やっぱり変なやつだ、と霊夢は小さく息を吐いた。
「それに、こっちの方が貴方の顔がよく見えるわ」
うんうん、と一人頷いて、咲夜は霊夢の顔を覗き込む。だんだんと近付く赤い月に、霊夢は驚いたように目を見開いた。すぐさま眉間に深く皺を刻み、腕を伸ばし広げた手で彼女の顔を覆うようにしてぐいぐいと押し退けた。
「近い。調子に乗るな」
「あら、残念」
不機嫌そうな声を気にすることなく、咲夜は涼しい顔で姿勢を正す。調子のいいやつめ、と霊夢は目を眇め、ごろりと横を向いた。
「どうする? もうやめる?」
「…………もうちょい」
思案の末のふてくされたような声に、小さな笑い声と温かな手が降ってくる。さらさらと撫でられる感触は温かくて心地よく、安心する。思わず眠ってしまいそうだ。じわじわと姿を現し始めた睡魔に、霊夢は小さく欠伸をした。
「昼寝ばっかりしちゃだめよ」
咎めるような言葉とあやすような手つきは正反対だ。その裏に滲む『寂しい』という感情も、隠すように優しい声音とも正反対で、霊夢は呆れたように溜め息を吐いた。
こてん、と再度転がり、霊夢は咲夜の腹に顔を埋めるように向きを変える。
「寝ないしほっとかないわよ」
安心しなさい、と甘えるように頭を擦り付けると、撫でる手がぴたりと止まった。この体勢では顔を見ることはできないが、きっと彼女はくしゃりといつもの瀟洒な表情を崩し、子どものように笑っているだろう。勝てないわね、と苦笑交じりの声に、当たり前でしょ、と不遜に返した。
柔らかな手と、柔らかな体温と、ほのかに香る彼女の匂い。
やはり、こちらの方が安心できる。ぼんやりと考えて、霊夢は目を伏せた。
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