401/V0.txt

otaku no genkaku tsumeawase

TOP
|
HOME

No.72

雁字搦め【ライレフ/R-18】

雁字搦め【ライレフ/R-18】
top_SS32.png
解釈違いの自分を捩じ伏せて書いた趣味の塊でしかない文章。
つまぶきらいとくんがつまぶきれふとくんにひどいことするだけのはなし。

 ぴちゃ、くちゅ、と日常ではあまり聞かない音が、静かな部屋に落ちては積もっていく。それに比例するように腹の奥に熱が生まれ広がっていく感覚に、寝転んだ背がふるりと震えた。わずかな恐怖と多大な渇求を乗せて、烈風刀は覆い被さる兄の袖に手を伸ばす。普段ならば皺になると気が咎めるが、今はそんなことを考える余裕などない。非日常めいた水音と粘膜から直に感じる他者の体温に、理性がガリガリと削れ失せていく。代わりに、獣めいた本能が冷静だと評される少年の頭を染めていった。
 そっと忍び込み口内を蹂躙していった赤が、同じように静かに去っていく。追いかけ無意識に舌を伸ばすと、再び熱と熱が逢瀬を果たす。待ち望んだ刺激に、細い指が白いシャツをぎゅうと握った。ねだるように腕を引き寄せられ、雷刀もまた相手を求めるように唇を寄せる。触れ合い繋がった部分がより密着し、互いに更に奥深くへと潜り込んだ。
 ぬめる赤たちが口内で踊る間に、硬さが目立ち始めた手が器用にネクタイを緩めシャツのボタンを外していく。はだけられたそこから覗く肌に、朱は恐々と触れた。重なるそこから伝わる温度に、烈風刀は小さく声を漏らす。体温は同じぐらいだというのに、今触れる彼のそれはずっと高いもののように思えた。火傷してしまいそうだ、と益体のないことを考える。そんなことはあり得ないと分かっているのに、どこかそれを望む己がいるように思えた。
 直に伝わった音に気を良くしたのか、雷刀も小さく笑声をこぼす。潜り込ませた熱をざらりと擦り合わせ、歯の一本一本を確かめるようにゆっくりと沿っていき、上顎を愛しそうに突く。同じように、腹に乗った手がゆっくりと肌を伝っていく。脇腹をくすぐり、肋を超え、筋肉でわずかに盛り上がった胸へと手のひらで撫でゆく。そのまま、朱はその頂にそっと指を伸ばした。柔らかなそこに直に触れられ、烈風刀の身体がびくりと跳ねる。弟の様子などお構いなしに、兄はふにふにとしたそこに指を押しつけ、擦るように撫でる。先程までの壊れ物を扱うような手つきが嘘のような動きだ。捏ねるように擦り、くすぐるように円を描き、時折いたずらするかのように爪で掻く。じわじわと与えられる刺激に、柔らかだった粒はどんどんと硬さを増していった。主張し始めたそこを咎めるようにわずかに爪が立てられる。背筋を走る得も言われぬ感覚に、碧の背が大きくしなった。
 胸部から広がる快楽と、口を塞がれ続ける酸素不足で頭の中がぐらぐらと揺れ始める。危機感を持った脳味噌が司令を出し、助けを求めるように掴んだシャツをぐいぐいと引いた。察したのか、朱はゆっくりと唇を離す。名残惜しそうに伸ばされたままの舌と舌が細い糸を紡いだ。
「っ、あっ、ぅあ、っ……」
 酸素を取り込もうとした口が、意思に反して声をあげる。久しぶりに発した音は、己でも驚くほど甘ったるいものだった。快楽を如実に表したそれに、目の前の紅玉が嬉しそうに細められる。常ならば陽の光の下澄んできらめく紅の中には、どこか仄暗い明かりが灯っていた。あてられたかのように、潤む蒼の中にも炎が灯る。どちらも、内で盛る熱でとろりととろけていた。
 指が離れ、今度は手のひらが心臓の真上の肌を包み込む。鍛えられた筋肉の上、健康的についた肉を、包み込んだそれが捏ねるようにやわやわと揉む。優しくも淫らな手つきに、烈風刀はまた小さな嬌声を漏らした。男のくせに女のような声を出すなんて。悦び媚びるような音を漏らすなんて。削れたはずの理性が咎め、羞恥を呼び起こす。苦しくなるほどのそれに従い、少年は咄嗟に空いている手の甲を口に押し付けた。声帯が震え奏でるいやらしい音を漏らすまいと、ぎゅうと目をつむり必死に押し当て塞ぐ。ガリ、と薄い肉に噛みついたところで、胸部に奉仕していた手が止まった。胸部を焼く熱が去り、ギシ、と男子高校生二人分の体重を受け止めたシングルベッドが悲鳴をあげる。頭の横のマットレスが沈む感覚に、碧が瞼の下からおそるおそる姿を現した。
「声、我慢すんなって言ってるだろ」
 不服そうな声と共に、雷刀は口に押し当てた弟の腕を掴む。指が食い込みそうなほど手首をしっかりと握られている光景を見て、今の自分では振りほどくことなどできないと悟る。己の声を殺す手段を失い、烈風刀は不安そうに眉尻を下げた。
「だって、みっとも、ない、ですし」
「そんなことねーって」
 逃げるように視線を逸らす碧の姿に、朱はむくれたように頬を膨らます。彼が口にした評価は、烈風刀の理性が評したものと正反対だ。この場で自身の判断を捨て相手の主張を信じられるほど、少年の中の羞恥心は薄いものではない。ちがう、と抗議する声はあまりにもかすかで、朱色の髪に隠れた形の良い耳に届かぬまま消えた。
「あぁもう、噛んじゃってるし。傷つくからダメだって言ってるだろー」
 あーあ、と呆れたように雷刀は声を漏らす。そのまま掴んだ手首を引き寄せ、甲に浮かぶ赤い歯型をべろりと舐めた。肌を這うぬめった感触に、小さな口がまた媚びる音色を発する。聞かせたくないと反射的に口を塞ごうとするが、やはり掴まれた腕が動くことはなかった。
 不機嫌さを表すように眇められた柘榴石が突然パチリと開く。弟の腕を強く掴んだ手から力が抜ける。そのまま捕らえていたそれを解放し、兄は目の前の首へと手を伸ばした。ひくりと動く喉の真横、先程解いた学園指定の青いネクタイを掴む。しゅるりとかすかな衣擦れの音の後、雷刀は引き抜いたそれを皺を伸ばすようにピンと張った。
 一体何だ、と熱に潤む水宝玉が訝しげに紅玉髄を睨む。にぃと口端が歪に持ち上がる様を見て、欲に沈みつつあった頭が警鐘を鳴らす。逃げようと烈風刀が身を捩るより先に、つい先程までネクタイを握っていたはずの雷刀の手が素早く伸びる。どこか華奢にすら見える手首を片手でまとめて掴み、蒼髪の真上のシーツに押し付けた。そのままもう片方に握っていた青い布で、手首から腕の中頃までぐるぐるに巻き上げる。食い込みそうなほど強く締めたそれの真ん中に、いくつも固結びを作っていく。一体何だ、と碧は混乱に身じろぐが、がっちりとまとめ縛られた腕は動かすことすら困難だった。
「オニイチャンの言うことぜーんぜん聞かない悪い烈風刀にはー」
 おしおき、ってやつ?
 楽しげな声と共に、兄は可愛らしく小首を傾げる。発した言葉の凶悪さとの酷い落差に、弟の頭は思考することを一時的に停止した。困惑に開いたままの口から、間の抜けた声が漏れた。
 たっぷり十数秒の沈黙。ようやく己が置かれた状況を理解したのか、組み敷かれた少年の顔がその頭髪よろしく真っ青に染まる。あまりの事態に、白い喉がおかしな音をあげた。
「なっ、何を馬鹿なことを言っているのですか!  早く外しなさい!」
「ダーメ。言っただろ? おしおき、って」
 細められた緋の瞳は、声や表情とはまた別種の愉快さに輝いていた。こんなこといつの間に覚えたのだ。漫画の読みすぎだ。誰だそんな内容のもの貸したのは。強い危機感を覚えるこの状況から逃避するように、少年の頭の中には些末な疑問ばかりが浮かぶ。全ては再び腹に添えられた熱に霧散した。ひゃ、と驚きの声があがる。咄嗟に口を塞ごうとするが、でたらめに縛られた腕はびくともしなかった。
「ちょ、っと、雷刀!」
 予想される行為に、烈風刀は静止を望む声をあげる。焦りが強く滲むそれを無視して、雷刀は再び白い肌に手を這わせた。
 腹筋が薄く浮かぶ腹を撫で、柔らかな脇腹をなぞり、浮かぶ肋の段差をくすぐり、熱の塊のような手がまた心臓の真上に辿りつく。ゆっくりと曲げられた人差し指の腹が、芯を失った頂に乗せられる。そのまま、ぐにりと力任せに潰した。
「ッ――ひ、あっ、ぁ!」
 直接的な鋭い刺激に、烈風刀は目を見開き声をあげた。組み敷かれた身体が跳ねる度、ギシギシとスプリングが抗議の音をたてる。そんなことなど露程も気にせず、胸部に乗り上げた手は覆ったそこを好き放題に弄くる。粘土でも弄ぶようにぐにぐにと押し潰し、勃ち上げるように二本の指で挟んで捏ね、きゅうと引っ張る。だんだんと強く主張しだしたそこを、今度は爪でかりかりと引っかき、痕を残さんばかりに強く突き立てる。痛みすら覚えるそれに、碧は困惑と焦燥の混じった嬌声をあげた。浅ましいそれを抑えようとするも、自由を奪われた手は込み上げる羞恥心を救うことなどできなかった。
「ぁ、あっ、やっ……嫌、だ、雷刀っ、外して――」
「おしおきって言っただろ」
 懇願を切り捨てる声は、普段よりもずっと低い。ぞわり、と恐怖とよく分からない何かが混じったものが胸中を撫で、弟の身体が硬直する。その間に、兄の両の手が眼下の薄い胸に這わされた。
「ひッ……、あ、ぁっ、や、ぁっ…………ぅ、あ」
 硬い筋が浮かぶ手が、薄くついた柔肉を揉む。指と指の間に粒を挟まれ、そのまま肉全体をぎゅうと掴まれると、理解したくない感覚が腹の底に火を灯した。どんどんと勢いを増していくそれに比例して、漏れる声も甘さを増していく。漏らすまいと唇を噛んで抑えようとするも、与えられる快楽が抵抗する力を全て奪っていった。口の端からだらだらと唾液が垂れていくのが分かる。肌を生温かい液体が伝っていくのは不快でしかないが、拭う術など今の彼は持ち合わせていなかった。
 恥ずかしい。みっともない。はしたない。浅ましい。愚かだ。消え行きつつある理性が最後の叫びをあげる。それを押しのけて、本能がきもちいいと声高に主張した。こんな、こんな胸を揉まれるなんて、腕を縛り上げられるなんて、あまりにもおかしいことなのに、常識から逸脱した行為なのに、脳味噌は法悦の声をあげる。神経器官に叩きつけられる快楽を処理できず、烈風刀は喉はただただ艶めいた声を奏でた。
 本能に従いつつある弟を愉快そうに見やり、兄はその胸部から手を離した。とろけた蒼玉がわずかに光を取り戻す。困惑と失望が交じるその色を一瞥し、雷刀は再び薄い腹に手を当てる。今度は逆方向、太腿の方へと焦らすようにゆっくりと這わせた。予測される行動に、碧は我に返り引きつった悲鳴を漏らした。嫌だと駄々をこねる子供のように幾度も呟くも、朱は手を止めることなどしない。そのまま、制服の青い下衣が寛げられた。太ももを合わせ必死に抗おうとするが、両足の間には既に兄の身体が座している。目的とは正反対、離れまいとするように腰に絡めるような形になってしまった。
 ずるり、と、雷刀は下着ごと弟の下衣を全て剥ぎ取る。役目を放棄したそれを乱雑に投げ捨て、兄は胸につくほど腿を押し上げる。顕になった雄の証は既にゆるく勃ち上がっていた。己の身体の反応に、烈風刀は信じられないとばかりに首を横に振る。うそ、と呟いた言葉は彼の口の中で消えた。
「ぁ、あッ!?」
 突如、己自身が異常なまでに熱を持つ。違う、これは内から発するものではない、と脳が否定する。いきなりの感覚に戸惑いつつ、烈風刀は己の下肢へと視線を下ろしていく。そこに見えたのは、鮮やかな赤だけだった。薄暗闇の中、ただ燃えるような緋色がふわりと揺れるばかりで、顔も何も見えない。理解が追いつかないまま呆然とそれを眺めていると、頭が動くのと同時に下半身に強い快楽が叩き込まれた。口で愛撫されているのだ、とようやく理解し、碧は普段ならば決して聞かせることのない高い悲鳴をあげた。
「やだっ、やだ、らいとっ! やめっ、ぅ……ぁ……っ、ゃ、だ!」
 熱い口内から逃れようと必死に腰をひねるが、押し上げられた足ごとがしりと押さえつけられては動くことすら難しかった。普段ならばその頭を力いっぱい押し引き剥がすが、両腕を縛り上げられたこの状況ではそれが叶うはずなどなかった。やだ、とひたすらに抗議の声をあげるが、朱が動きを止めることはない。むしろ、じゅぷじゅぷとわざとらしくはしたない音をたてて行為を続けた。
 少し前に互いに擦り合わせたあの赤が、今度は己自身を擦り上げている。そう考えて、腹の底に灯った炎が音をたてて燃え上がったのが分かった。熱くぬめったものが幹を撫で上げ、張り出した境目をぐるりとなぞる。裏筋を舌全体で舐め上げられ、脳味噌が感電したかのようにびりびりと痺れた。
「らいとっ、はなれ、……ぅ、あっ、ァ!」
 意思に反して腰が跳ねる度、兄の喉奥へと自身を突き入れる形となってしまう。突き上げるタイミングに合わせてじゅうと強く吸われ、白い喉がのけ反る。細いそこから、快楽に溺れた音が奏でられた。
 健康的に色付いた唇が、硬度を増していく竿を撫であげる。引き抜けそうなほど扱きあげ、喉奥限界まで呑み込み戻っていく。また先端まで吸い上げ、奥深くへと潜り込む。ゆっくりとした動きのはずなのに、伝達される快感は神経を焼き切ってしまいそうなほど鋭い。少年の口から漏れるのは、最早意味を成さない単音と飲み込みきれない唾液ばかりだ。
 膨れ上がった頭を磨くように舐め回され、窪んだ箇所を尖らせた舌で抉られる。次々と叩き込まれる快感に、翡翠の目から大粒の涙がいくつも零れ落ちた。水が膜張る視界はぼやけ、映すものを歪ませる。滲む視界の中でも、朱は相変わらず頭を動かしていることは分かった。
 腹の奥が熱い。内に燃え盛る炎が限界を主張し始めたのが、靄がかる意識の中でも分かる。奥底から昇ってくる何かに、断続的に怯えた高い声があがる。融けた翡翠が、逃げるように固く瞑られた。
 途端、下肢から送られ続けた強い感覚が止まる。突然のそれに、唾液でしとどに濡れた唇からぇ、と困惑の音が零れた。吐き出そうとした熱が、来た道を戻りまた奥底でぐずぐずと燻る。何で、と物欲しげな問いが漏れ出るより先に、鋭い快感が髄を駆け上った。
「えっ、あッ、なっ……なに…………ぃ、ぁッ」
 再び自身を這う舌の感覚に、烈風刀の声帯が戸惑いと悦びの混じった音を奏でる。高みに上り詰めかける度に兄は動きを止め、少し落ち着くと口淫を再開する。弟の好む場所を熟知した動きと、わざと気をやらせないよう焦らす行為に、拘束された少年は涙し嬌声をあげることしかできなかった。泣いて喚いて懇願しても終わることのないこの状態は、烈風刀にとって地獄と形容するのが相応しいものだ。
「ぅ…………あ、ぁ……?」
 容赦なく絞り上げていた口の動きが少しばかり緩む。やっと終わったのか、という碧のわずかな希望は、内腿を這う手に粉々に砕かれた。つつ、と見た目よりも柔らかな腿を辿り、奥の奥、決して暴かれることなどないはずの秘めた場所に指がそっと添えられる。溢れた唾液と先走りでぬめる秘所を、節が浮き始めたそれが縁をなぞるように円を描く。まるで行為の始まり、熱塊が媚肉を割り開くべく狙いを定めるようなその動きに、少年の身体が端から端、爪先までぴぃんと硬直した。
「え、ァ……、ま、まって……、まって、くだ、さ……」
 雄の場所を好き放題にされただけで狂ってしまいそうなほどきもちがいいのに、雌の役割を与えられつつある場所まで弄られるだなんて。それも、きっと二つ同時に容赦なく蹂躙されるだなんて。容易に想像できる未来に、引きつった口元から慄く音が零れる。多大な快楽を期待する色と過剰な快楽に恐怖する色が混ぜごぜになったそれは、兄の胸に潜む何かを煽るのに十分だったようだ。怯えぎこちなく首を横に振る弟など視界にすら入れず、朱は奥まったそこを暴くべく、押さえた片足を横に押し退けた。
「ひ、ぃ…………ぃ、あ、あ……ッ」
 形を確かめるように外周をなぞっていた指が止まる。少しばかり太いそれがようやく狙いを定め、浅く沈んだ部分に宛てがわれた。二人の体液でたっぷりと濡れた孔穴に、つぷり、と淫らな音をたてて指が這入っていく。慣らし始め、ほんの浅い場所を擦られただけだというのに、烈風刀の背が弓のようにしなる。喉が奏でる音はもう意味など欠片も持たず、意思伝達に使うはずのその役割は、受容限界を超える快楽を逃がすためのものに塗り替えられつつあった。
 秘めたる孔が、食いちぎらんばかりに侵入者を締めつける。脳味噌は快楽に恐怖しているというのに、淫肉は奥へと誘うようにひくついた。ぎゅうと拳を握る。怯えから逃れるため何かに縋ろうにも、頭の真上に縛られた手に届くものなど何も無い。心細さが胸を蝕む。縋るものがないだけで、こんなにも恐ろしいだなんて知りたくなかった。浅海色の瞳からぼろぼろと涙が零れては紅潮した肌を濡らした。
 浅く挿し込まれた指がそっと引いていく。爪の中頃まで抜かれ、また奥へと進み第一関節まで埋め込む。指の腹が内壁を優しく撫でる度、甘い声が涙と同じくぽろぽろと零れる。抑え込む理性はとうの昔に消え失せ、残るのは肉欲に溺れつつある本能だけだ。己と同じ場所まで沈みつつある弟の姿に、兄は密かに笑みを漏らした。埋め込んだものはそのまま、未だ口腔に迎え入れられた昂ぶりを強く吸い上げられる。嬌声と涙が乱れたシーツの上に零れ落ちた。
 ゆるゆると抜き差しされる指が、奥を目指してどんどんと歩みを進める。節の部分が、熱に潤む肉を耕すように侵入する。硬いものが内部を擦る感覚に、窄まりがきゅうと縮こまった。早く去ってくれと必死に願うも、身体は意思に反して侵入者を強く抱きしめる。その度に這入ったそれの形を意識してしまい、日に焼けていない体躯がびくびくと震えた。
「っ、ぅ、ぁ……ご、ごめ、な、さい…………ごめんな、さ、ぁっ……」
 ごめんなさい、ごめんなさい、と、烈風刀はひたすらに謝罪の言葉を繰り返す。恥も外聞もなく涙を流し、必死に許しを乞うその表情はどこか幼く、反面嗜虐心を煽るような淫猥さがあった。
 いいつけをまもらなかったぼくがわるい。らいとがおこるのはあたりまえだ。わるいことをしたのだからあやまらなければならない。快楽で朦朧とする頭が、理不尽な罰を受け入れる。ごめんなさい、と幾度も繰り返す声はとろけきっており、雄を誘うような音色に移り変わっていた。
 舐め上げるかのように唇がゆっくりと幹を辿り、ちゅぽんとわざとらしく音をたてて欲の塊が口腔から抜け落ちる。ようやく熱から解放された安堵に、碧は浅い息を吐いた。許容限度を超える快楽を叩き込まれた身体が弛緩する。瞬間、内部に埋め込まれたものの存在を思い出し、肉洞が食むように収縮した。きゅうきゅうと甘え抱きしめる内部から、指が逃れ戻っていく。ずるりと引き抜かれ、甘美な痺れが腹の底を刺激した。
 足を押しつけ割り開いていた手が離れる。しばしして、涙の跡がいくつも走る頬にそっと汗ばんだ手が触れる。水が張りぼやける視界の中、紅玉が藍玉を覗き込んでいるのが見えた。
「もう噛んだりしない?」
 雷刀の問いに、烈風刀はこくこくと首肯する。ごめんなさい、と今一度謝る声に、兄は困ったように眉端を下げた。澄んだ雫が零れ続ける眦を、親指が優しく拭う。早く外してくれ、と強い訴えを乗せ、翠玉は覆い被さる朱を見上げる。浮かべる表情は穏やかだが、その瞳には未だ燃え盛る炎が宿っていた。
 肉付きの薄い内腿を濡れた手が再び辿る。戸惑いの声があがるより先に、ぐにゅと柔らかな音をたてて隘路が割り開かれた。
「えっ、え、ゃ……、やっ、な、で」
「だから、おしおき」
 混乱に陥る碧を見下ろし、朱は唇を舐める。心底愉快そうに口端を吊り上げる様は、肉食獣が獲物を見定めたそれに似ていた。
 許す気など欠片も無いのだと悟り、組み敷かれた身体が恐怖に大きく震えた。どうにか逃れようと、烈風刀は必死に身を捩る。知らぬ間に更に奥へと潜り込んだ指が、宥めるように腹側の壁を押した。弱い箇所を直に刺激され、海に似た瞳が目いっぱいに見開かれる。悲鳴にも似た嬌声が薄暗い部屋に響いた。
「あッ、あっ! だっ、だ、め……、らいと、そこ、だめ、でっ……ぅ、ぁッ!」
 神経を焼き切るような鋭い快感に、烈風刀はいやいやと首を横に振る。浅葱の髪が白いシーツの上に踊る様子はどこか淫らなものだ。脊髄を走り抜ける快楽から逃れようにも、既に足は取り押さえられており動くことは困難だった。何より、肉洞は奥深くを暴く侵入者を逃すまいというように強く締め付けていた。あまりにも浅ましい己の身体に、藍玉の埋まる目元から溢れる水量が増す。だめ、やだ、とほんのわずかに残った思考がうわ言のように否定の言葉を並べ立てる。聞き入れられることのないそれは、内壁を擦り上げる指に掻き消された。
「ぅあ、ッ……ら、いと…………ァ、らいと、らいとっ……!」
 縋るように兄の名前を呼ぶ度、ぞくぞくと背筋を何かが撫でていく。彼こそが全ての元凶だというのに、暴力的なまでの快楽に翻弄され朦朧とした頭は愛する者に泣き縋ることしか選択できなかった。
 もーちょい待って、と宥める声がぼやける意識に降ってくる。余裕ぶってはいるが、明らかに切羽詰った響きをしていた。己の欲望を押さえつける理性から獣の欲がにじむそれに、心のやわらかな部分がふるりと震える。らいと、らいと、と雛鳥のように囀る度、褒美とばかりに好む場所をとんとんと柔く突かれる。許容量以上に伝わる法悦を示す電気信号に、脳髄が痛いほど痺れる。思考力をガリガリと削り落としていくそれに、烈風刀は最早涙を流し喘ぐことしかできなかった。
 浅い場所まで退いた指が増援を呼び、再び潤む肉を拓いていく。ばらばらに動くそれが、柔らかなうちがわを擦り耕す度、奥底に燻る熱が薪をくべた炎のように盛っていく。何かを求めて、腹の底がきゅうきゅうと甘い声をあげた。根本まで咥え込み、指では届かないほど奥へ誘うようにひくひくとうごめく。もっととねだるように食む様は、淫らの一言に尽きた。
 ちゅぷり、と淫靡な音をたて、二人の侵入者が狭い洞から抜け出す。浅ましい肉孔が寂しげにはくはくと収縮するのが己でも分かった。羞恥する余裕もなく、はぁはぁと細く甘い吐息を漏らす碧を眺め、紅の目が苦しげに細められる。暗い色の奥に灯る火は、轟々と音をたてて燃え盛っていた。
 小さな金属音の後、かすかな衣擦れの音が情欲の海に揺蕩う浅葱の意識を現実へと引き戻す。未だひくつく孔口に、熱く硬いものが触れた。疲弊し弛緩しきった烈風刀の身体が、いっそわざとらしいほど大きく跳ねる。ばくばくと懸命に動く心臓が、苦しさを覚えるほど一際大きく鼓動した。
 本能がが待ちわびていた熱に、無意識に腰が揺れる。早く早く、と丁寧に耕されぷくりとした孔穴が、先走りで濡れた赤黒い先端に擦りつくように動く。その姿は淫乱と評するのが相応しいものだ。ぐぅ、と苦しげな唸りが聞こえる。食いしばる朱の口から漏れた音は、獣欲の支配に抗うものだ。淫情に濡れた藍晶が、ひとを保とうとする雄を見上げる。獣としての本能で濁る意識が、愛し人を示す響きを舌足らずに奏でる。幾度もつがいを求める声に、炎瑪瑙の中にかろうじて残るひととしての意識が消し飛ぶのが見えた。獣の唸りをあげ、雷刀は膝裏に挿し込んだ手に指の痕がつくほど力を込める。
 ずちゅん、と重く粘ついた音をたて、熱塊が解れきった肉洞に突き立てられる。容赦なく内壁を擦り上げられる感覚に、少年の背が限界までしなった。
「――――ァ、ッあ、ぁッ!!」
 本能が求め続けていた感覚に、烈風刀は高い法悦の声をあげた。感電したかのように目の前にバチバチと強い光が輝く。衝撃と共に、奥底に渦巻いていた熱が一気に迫り上がる。刹那、二人分の体液でてらてらとした肉茎から勢いよく欲望が吐き出された。熱杭が突き入れられる度びゅくびゅくと溢れ出るそれが、色情で薄く色付いた肌に濁った白を塗り重ねる。
 雄の象徴が力任せに隘路を突き進む。ごりゅごりゅと加減無しに擦り上げられ、声帯が悦びの音を奏でた。うちがわから脊髄を砕くような快楽が際限なく与えられる。薄い肉に硬い腰骨がごつんと鈍い音をたてて打ち付けられる。腕を縛り上げるネクタイがギチギチと抗議の音をたてた。痛覚はとっくに麻痺し、その衝撃すら甘美なものとして脳に電気信号を送った。スプリングが軋む音、肉が打ちつける音、粘液が泡立つ音、欲に溺れきった悲鳴。淫らな重奏が薄暗い部屋に響く。
 熟れた硬い先端が、烈風刀が好む箇所を幾度も抉る。弱点を容赦なく穿たれ、薄い身体が痙攣するように跳ねた。開きっぱなしの口から溢れる唾液と際限なく湧く涙が、上気した少年の顔を彩る。ぐちゃぐちゃと言って差し支えない面様は、この場においては酷く扇情的なものだった。頭の上に縛り上げられた腕が非日常感を演出し、組み敷く獣に眠る本能を煽る。
 濃い妖艶な香りに誘われ、雷刀は艶めくその唇を覆うように噛みつく。ぬめる赤との邂逅に、海の底に似た青が愛おしそうに細められた。息をするのもやっとだというのに、再びの逢瀬に悦び、彼は舌を伸ばして相手を求める。普段ならば、つい先程まで己を咥えていたそれと再び合わさることはあまり好まないというのに、今ばかりは違った。溢れ送られてくる唾液は甘露のように美味で、もっとと求めるように自ら奥深くへと進む。口腔での邂逅の間も腰使いは止まらない。力任せに揺さぶられ、粘膜が擦れる度、合わさった箇所から甘ったるい音が漏れる。わずかなそれすら逃すまいと、朱は唇を殊更強く押しつけた。飲み込みきれない二人分の唾液がぐぷぐぷと淫猥な音をたてる。
 酸素を補給せよと脳が司令を下したのか、ようやく唇が離れる。名残惜しげに繋がる糸は、下から突き上げる衝撃にすぐさま失せた。生きるために必要なものを取り込みたいのに、揺さぶられる身体は悦楽を拾うことを優先する。開かれたままの口から細かな甘奏が溢れた。
 奥の奥まで潜り込んだ剛直が、こつこつと腹の底を突く。子宮を持つ女ならまだしも、男である己の内部に行き止まりなど存在しないはずだ。だというのに、熟れきった硬い先端が存在し得ない壁を突き破ろうと一心不乱に突き上げる。勢い良く奥まで突きこみ、抜け落ちてしまいそうなほど戻っていく。柔らかな洞を焼けた楔で耕す度に内壁が蹂躙され、快楽が脳を殴る。いっとう好む場所を強く擦り上げられ、悲鳴とほぼ同義の嬌声があがった。
 不規則に明滅する小さな光が面積を増し、少年の思考が無彩色に塗り潰されていく。欲に溺れギラつく紅玉、獣めいた吐息、足に食い込む爪の感触、内部を抉る雄の形。果てが近い意識が、兄のことばかり認識する。熱い迸りを求め、情欲が燃え盛る腹の奥が疼いた。
「ぃっ、ぁ……あっ、あッ、ア――――」
 あるはずのない最奥を熱杭が穿つ。腹を突き破られるような衝撃に、丸い翡翠が限界まで見開かれた。脳髄がバチと激しい音をたてる。神経全てを焼き切る悦びが身体中を駆け巡る感覚は、暴力と言って差し支えないものだった。欲望の証を咥え込んだ場所が、痙攣するように収縮する。意思でコントロールできないそれは、内部を蹂躙する兄自身を食いちぎらんばかりに抱き締めた。高みに昇り詰めたはずなのに、勃ち上がりきった雄は涙をこぼすことなく、ただびくびくと震えるばかり。代わりに、疼いていた腹の底が恭悦を叫んだ。
 必死に抱きつく柔肉から逃れるように、雷刀は勢いよく腰を引き、抜け落ちる直前でまた突き上げナカを満たす。身体全てを揺さぶる衝撃に、碧の宝玉からぼろぼろと涙が溢れる。腕を厳重に拘束され、足を掴まれ固定され、何一つ抵抗できない獲物を獣が食らっていく。当初覚えた恐怖は既に消え失せ、どこか悦ぶ声が頭の片隅から聞こえた。芽生え始めたマゾヒスティックな快楽に、烈風刀は甘い鳴き声を何度もあげた。
 ごつん、と骨と骨とがぶつかる音。一際大きく打ち付けられ、繋がった部分が限界まで密着する。肉が肉を叩く高い音に紛れ、ぁ、と朱のか細い声が部屋に落ちた。数拍の後、絶頂で未だ攣縮する内部に獣欲の迸りが勢いよく注ぎ込まれた。劣情で煮え滾った濁流が、指では届かない奥深くを舐めていく。身体の内から焼き尽くされるような感覚に、碧の背がぴぃんとまっすぐに伸びる。固結びにされたネクタイの悲鳴と、悲鳴になり損ねた歓喜の声が薄闇に溶けた。
 おなかがあつい。うでがいたい。きもちいい。きもちいい。身体の奥深くまで埋める熱と悦が、痛覚が訴える信号を好むべきものだと塗り替えていく。異常でしかないというのに、快楽に支配された脳はそれを簡単に条件付けした。
 ぜぇはぁと疲労が濃く浮かぶ息遣いの中、ひとのものとは思えない低い唸りが落ちる。溜まった涙が流れ落ち少しばかりクリアになった視界に、燃える赤が浮かぶ。荒い呼吸の中、組み敷いた深碧の瞳を紅緋が射抜く。眇められた赤の中、淫情が業火のように燃え盛るのが見えた。恐怖すら覚えるそれに碧は大きく震える。先程条件付けを終えたばかりの身体は、恐ろしさでなくこれから与えられる愉楽への期待で揺らめいた。
 熱をたっぷりと受け止めた肉鞘が、さらなる糧を求めてひくひくとうごめく。淫欲の海へ誘う動きに、埋められた刃がびくりと反応した。大きな脈動と共に、己を貫く肉槍が更に肥大する。欲望を欲する場所が満たされる感覚に、烈風刀は無意識に笑みを浮かべた。涙を湛えた浅葱の瞳はとろりととろけ、同じ色の細い髪が汗ばむ肌に散り、浅く開いた口から真っ赤に熟れた舌が覗く。雄を惑わす蠱惑的な姿だった。
 ギシリとスプリングが音をたてる。いくつもの染みができたシーツの海に、幸福に満ちた嬌声が落ちた。










 そろりと手を伸ばし、雷刀は白の布越しに烈風刀の腹に触れる。布が肌に擦れる感覚にか、上から小さな笑い声が聞こえた。可愛らしい声がもっと聞きたくて、いたずらするように服の上から撫でる。くすぐったいです、と咎める楽しげな声が飛んできた。
 音の方へ笑みを向け、そのままそろそろと手を下ろしていく。すぐに辿り着いたシャツの裾から、中へと潜り込んだ。撫であげるのと同期して、指定の制服も身体に沿って胸の方へと進んでいく。直接触られる感覚に、今度は堪えるような声が耳をくすぐった。
 するすると衣擦れの音と共に、日に焼けていない白い肌が顕になる。肉の薄い腹、浅く小さな臍、淡く浮かぶ肋骨、そして平坦に見えて筋肉でわずかに盛り上がった胸。健康的、けれどどこか艶めかしい身体つきに、雷刀は赤い唇を舐める。組み敷いた弟がふるりと震えたのが手の平越しに分かった。
 なだらかな丘を、壊れ物を扱うかのようにそっと撫でていく。節の見える指が頂に辿り着いた瞬間、怯えるように息を呑む音が聞こえた。鼻にかかった響きには、この先にあるものへの期待がはっきりと見てとれた。応えるように、触れたそこを指の腹で優しく撫でる。擦るように細かく動かすと、柔らかな粒がすぐに芯を持ち始める。その存在を持ち主に知らしめるように外周をなぞる。スプーンでコーヒーをかき混ぜるようにくるくると指を動かすと、薄い胸が小さく震えた。
 赤い瞳が捲れ上がった白を辿り、上へと視線を移していく。いつも目にする綺麗な碧は瞼の下に身を潜めていた。ふ、と溢れ出そうな感情を堪える音が、懸命に閉じようとする唇から漏れる。我慢しなくてもいいと常々言っているが、意外と強情な彼はこうやっていつも湧き出る声を殺すのだ。見下ろす紅玉が不服そうに細められる。その口を開かせるべく、ぷくりと膨れた頂点を爪で軽く引っ掻いた。いきなりの強い刺激に、ひ、と甘さを含んだ小さな悲鳴が響く。期待通りの反応に、朱の唇がゆるく弧を描く。日頃見せる明るく朗らかなものとは正反対、暗く意地の悪い笑みだ。
 ばっ、とシーツに投げ出されていた烈風刀の左手が素早く持ち上がる。そのまま、彼は手の甲で己の口を塞いだ。こうやって組み敷かれた時点で艶めいた声を漏らしてしまうことは分かっていただろうに、往生際の悪いことだ、と雷刀は内心嘆息する。けれども、この強情な弟の心を暴き、徹底的に乱すことを彼は無意識に楽しんでいた。
 優しく引っ掻いていた尖りを、今度はぐにりと押し潰す。そのまま円を描くように捏ねると、薄い身体が幾度も跳ねた。塞がれた口元から熱い吐息が漏れ出すのが聞こえる。指先のそれを楽しげに弄んでいると、ガリ、と何かをかじるような音が鼓膜を震わせた。痛々しい響きに、朱の眉がピクリと動く。胸部に置いた手を離し、雷刀は持ち主の口を必死に塞ぐ腕を掴んだ。
「だーかーらー、噛むなって何回も言ってるだろー?」
 不満げな声と共に、掴んだ腕を弟の口元から取り払う。くるりと裏返し当てていた甲の方を見ると、そこには並びのいい歯型が薄く浮かんでいた。はぁ、と呆れたように息を吐く。苛立ちの浮かぶ嘆息に怯えてか、瞼の下から丸い碧がおそるおそる姿を現した。紅玉髄が咎めるように孔雀石を見つめる。兄の鋭い視線に、烈風刀はぅ、と気まずげな声を漏らした。再び覗いた碧の目が不安げに泳ぐ。幾度も朱を見上げては逸らすその様子に、少年は小さく首をひねった。何か言いたげに見えるが、彼がここまで言い淀むことはあまりない。一体どうしたのだろうか、と眺めていると、ようやく翡翠が柘榴石を見据える。常ならば澄んで涼やかな色をしたそれは、既に熱で柔くとろけていた。
「あ、の」
 小さく開いた口から響く声はか細い。あの、えっと、とつっかえるように何度も繰り返し、決心したように烈風刀は己の首元に手を伸ばす。綺麗に結ばれたネクタイを自ら解き、その片端をゆるく握った。
「あの、えっと…………く、癖とはいえ、また、悪い事をしてしまいましたし……」
 おしおき、しますか?
 甘さの漂う声が怯えるように問う。わずかに震える声音とは裏腹に、上目遣いに見上げ手にした青を差し出す姿は期待で満ちていた。
 予想外の問いかけに、雷刀は目を見開く。あまりの驚愕に、覆い被さった身体がビシリと硬直した。投げかけられた言葉を頭の中で何度も何度も噛み砕き、飲み込み、反芻する。長い時間をかけて言葉の意図をしっかりと理解し、驚きに真一文字に結ばれていた口の端がにぃと醜く釣り上がった。一対の紅玉が鈍く光る。そこには、暗い欲望が姿を現し始めていた。
 そーだなー、と間延びした声で悩むような言葉を紡ぐ。装った音は明らかな偽りで、心は既に決まっていた。うーん、とわざとらしく呟いた後、朱は多大な期待に揺れる碧にニコリと笑いかけた。非常に楽しそうなその表情は、普段の彼を知る者が見れば目を疑うであろうほど歪んでいた。
「そーだよなー。烈風刀はオニイチャンの言う事聞かない悪い子だもんなー。じゃあ、おしおきしないとな」
 おしおき、の部分を殊更ゆっくり言うと、碧の瞳が嬉しそうに輝く。淡い願いが叶い歓喜するその頬はすっかりと上気していた。
 差し出されたネクタイをしゅるりと取り上げ、雷刀は投げ出された弟の両腕を片手でまとめる。いつぞやは抵抗されたが、今回はあっさりと捕まった。協力的にすら見えたのはきっと気のせいではないだろう。そのまま海色の頭の上に軽く縫い付け、掴んだ両手首を深青の布でぐるぐると巻き上げる。幾重にも重なる青を彩るように、最後に固結びを一つ作る。ぎゅっと縛る音に、熱を孕んだ吐息がこぼれたのが聞こえた。自ら進んで罰を望み、被虐を期待する姿は淫らとしか表現できない。
 早くと言わんばかりに身を捩る烈風刀の姿に、雷刀の胸の内に暗い欲求が湧き上がる。可愛い。虐めたい。愛しい。泣かせたい。愛でたい。抱き潰したい。正反対に見えて表裏一体の感情がぐらぐらと腹の底に煮える。被虐を望む碧に、朱の加虐心が強く刺激された。
 は、と艶めいた吐息を漏らす口を見やる。薄闇の中、ちらつき輝く淫靡な赤に誘われ、朱は噛みつくように愛し人の唇に己のそれを合わせた。

畳む

#ライレフ #腐向け #R18

SDVX


expand_less