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No.77

書き出しと終わりまとめ2【SDVX】

書き出しと終わりまとめ2【SDVX】
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あなたに書いて欲しい物語でだらだら書いていたものまとめその2。全部ボ。CPごっちゃごちゃ。大体暗い。毎度の如く診断する時の名前がちょくちょく違うのは気にしない。
成分表示:プロ氷2/はるグレ1/レイ+ライレフ1/奈恋1/レイ+グレ1/ニア+ノア1/ハレルヤ組1/後輩組1

名前の後ろ/プロ→氷
あおいちさんには「それはまるで呪いのよう」で始まり、「当たり前は当たり前じゃなくなった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば12ツイート(1680字)以上でお願いします。


 それはまるで呪いのようだ、と時折馬鹿馬鹿しいことを考える。
 『先生』と己を示す度、呼ばれる度、胸が小さな痛みを訴える。こんなの気のせいだ、と何度も何度も言い聞かせてきた。それでも、この面倒臭い代物は叫び声をあげるのだから嫌になる。
 これがバグか何かならなぁ、と、識苑は青空を眺めて漠然と思考する。自身の専門はハード面だが、ソフト面の知識も十二分にある。ちょっとしたバグなら簡単に処理できる。問題は、自分は機械でなく、生身の人間であることだ。
 はぁ、と溜息一つ、青年は桃の髪を揺らし壁を蹴る。午後の授業の準備をするため、別棟にある技術室へ向かわねばならない。学内を移動するには、廊下を歩くより校舎の壁を伝っていく方が早い。
「あっ、先生」
 聞き慣れた声に、青年は足を止める。少し高度を下げ、足元の開いた窓を覗くと、そこには見知った雪色と桜色がいた。
「こんにちは、氷雪ちゃん。桜子ちゃん」
「先生、こんにちはですの」
「こんにちは、識苑先生」
 挨拶をすると、二人の生徒は礼儀正しく返す。普段ならば赤髪の少女も一緒にいるはずだが、今は姿が見えない。恐らく、昼休みに行われる委員会会議に出席しているのだろう。
「二人は移動教室かな?」
「はい。次の時間は、理科の実験があるので」
 そう言って、氷雪は抱えていた教科書を識苑に見せる。理科実験室は、技術室と同じく特別教室棟にある。授業のある生徒は休み時間中に移動しなければならない。
「遠いから大変だよねー。先生も次の時間授業あるし、あっちの棟に行かなきゃ」
「いつもみたいに壁を走っていくんですの?」
 首を傾げ問う桜子に、識苑はそうだよと軽く返す。ショートカットってやつだね、と言うと、桃と白の耳がぴこぴこと動く。輝く大きな瞳は好奇心で溢れていた。
「あの……先生。危なくはないのですか……?」
 反して、隣に立つ白の少女の瞳は不安に揺れていた。傍から見れば綱一本で宙にぶら下がってる状態だ。心配するのも無理はない。
「大丈夫だよ。これ見た目よりずっと丈夫だし。それに、先生一応プロの高所作業員だからね。これぐらい余裕余裕」
「あっ、そう、でした……」
 ロープを軽く引きつつ答えると、川底色の瞳に安堵が浮かぶ。しかし、それもすぐさま暗く陰った。俯く様を見るに、余計なことを聞いてしまった、と後悔しているのだろう。心優しい彼女らしい。それだけに、暗い顔をさせたくなかった。
「でも、慣れてるからー、って気を抜いてたら危ないもんね。注意するよ。ありがとう」
 不安を吹き飛ばそうとにこやかに礼を言うと、白雪のかんばせがわずかに上がる。未だ自己嫌悪の情が見えるが、先程よりは明るい。よかった、と密かに安堵の溜息を吐いた。
 あ、と桜子が声をあげる。釣られて向けた視線の先、別棟の外面に設置された時計は、予鈴手前の時刻で針が止まっていた。
「もうこんな時間ですの!?」
「本当だ。二人とも、もう行った方がいいね」
「そっ、そうですね」
 失礼します、と少し慌てた声と礼が二人分重なる。微笑ましさに思わず頬が緩んだ。またねー、と手を振り、識苑は彼女らの背を見送る。
「まだ時間あるし、走んなくても大丈夫だよ」
「分かってますの!」
 足早に別棟に向かう二人の背に声を投げかけると、元気な声が返ってくる。真面目な彼女たちに言うことではなかったな、と苦笑していると、真っ白な背がくるりと反転した。宝石のような瞳が、再びこちらを見る。人と話すのが苦手な氷雪だが、今は眼鏡のレンズの奥にある橙をまっすぐに見ていた。
「あの、先生もあまり急がず……、えっと、お気をつけください」
「……うん。ありがとう。気をつけるね!」
 『先生』の四音を聞く度、言う度、心の奥底で何かが悲鳴をあげる。うるさいな、と煩わしいそれを握り潰し、識苑は再び笑顔を浮かべた。
「じゃあ、授業頑張ってねー」
「はい。失礼します」
 再び礼儀正しく礼をして、氷雪は旧友の元へと向かう。草履がぱたぱたと音をたてた。
 軽く壁を蹴り、識苑は校舎の窓から覗くことができない位置に移動する。そのまま、ぐいと首を反らして天を仰いだ。
 雪色の少女の声を思い起こす。可憐な声が呼ぶ己の名の後ろには、必ず『先生』という呪いの言葉がついていた。
「……ほんっと、馬鹿馬鹿しい」
 己と彼女は教師と生徒という関係なのだから、そう呼ぶのは当たり前だ。あの礼儀正しく真面目な少女が、教師を呼び捨てにするなんてあり得ない。分かっているのに、こんな当たり前のことで、馬鹿みたいに苦しくなる。いい歳してこれなのだから、本当に救いようがない。
 はぁ、と重く息を吐く。こんなこと、当然で、至極自然で、当たり前のことだと思っていたのに。いつの間にか、当たり前は当たり前じゃなくなっていた。




躑躅に捧ぐ/はる→グレ
葵壱さんには「こんな世界は嫌いです」で始まり、「満足そうな顔で頷いた」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字)以上でお願いします。


 こんな世界は嫌いだ、と始果は歯を強く噛みしめる。痛苦と憤怒で歪んだ口元から、ギリ、と嫌な音がした。
 こんな、愛しい躑躅色が苦しむような、愛らしい少女が悲しむような、愛するグレイスが消滅を選ぶような世界なんて、好きになるわけなどない。こんな世界、存在する価値などない。彼女が破滅を望んだのだから、壊さねばならない。
 少女の影響でどんどんと増殖していくバグを、細い体内に取り込んでいく。己の中に在る何かが力を増し、額に浮かぶ橙の瞳が強い光を放ちだした。身体を蝕む感覚に、夜空のような目が苦悶に歪む。記憶を維持するため日常的にバグを食らってきたが、今回の量は流石に己の限界値を超えているらしい。増幅する何かに食い殺されぬよう、少年は歯を食いしばる。たとえこの身が壊れようと、与えられた役目を果たせればそれでいい。生き残ったところで、グレイスが消滅した世界に意味などないのだから。
 久方ぶりに現れた双尾がぶわりと毛立つ。ようやく邪魔者が訪れたようだ。髪と同じ色をした狐耳が忙しなく動き、敵を探る。隠れることなく進むそれは簡単に見つかった。
 バグの海を泳ぐ無機質な機体を見下ろす。気配を探るかぎり、相手は一機のようだ。少なくとも五機存在することは確認済みだが、他にそれらしきものは全く感じない。彼女の計画通り、戦力を分散させることに成功したらしい。
 意識を集中し、世界を漂う電子で得物を織る。力を振り絞り、この一帯を制圧できる数を生み出していく。いくらあちら側が研究に研究を重ねた機械であろうとも、全て当たれば無事では済まないだろう――もっとも、相手がそう簡単に散るような者でないことは、いくらか刃を交え理解しているが。
 周囲に苦無と手裏剣を幾重にも展開し、刀と鎖鎌を握る。妙に手に馴染むそれを構え、少年は煌々と輝く金の目を伏せた。
 さぁ、役者は揃った。あとは、あの子の願いを叶えるだけ。
 最期の役目を今一度確認し、双尾の妖狐は満足そうな顔で頷いた。




同一の喜び、相違の楽しみ/ニア+ノア
あおいちさんには「昔読んだ本を思い出した」で始まり、「当たり前は当たり前じゃなくなった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば8ツイート(1120字程度)でお願いします。


 昔読んだ本を思い出した。
 白いステッキをぶんぶんと振り回し、己の名を呼びながらこちらに駆けてくる姉の姿を見て、ノアは記憶の隅に残っていた古びた本をめくる。子供向けのそれは、広大な海を自由に走る海賊たちを描いたものだ。詳しい内容は忘れてしまったが、嵐の中一致団結して突き進み、凶暴な獣が跋扈する宝島を探検し、時には悪い海賊たちと戦う。そんな冒険活劇を、姉妹二人で目を輝かせたことははっきりと覚えている。
 そんな姉は、普段の星空模様の服ではなく、豪奢な衣装を身に纏っていた。
 真っ白なセーラーブラウスに、鮮やかなライトグリーンの大ぶりなタイ。コルセットのついた真っ青なスカートからは、白のソックスと底の厚いブーツが覗いている。少女らしい衣装だ。
 ポニーテールが揺れる小さな頭には、ずり落ちてしまいそうなほど大きな黒い帽子が被さっている。山のような形をしたそれの中央には、錨のマークが輝いていた。昔読んだ本、その表紙に描かれた海賊の大将も同じものを身に着けていたな、と先ほど掘り起こした記憶が語った。
「ノアちゃんすっごく似合ってる!」
「ニアちゃんもとっても似合ってるよー」
 妹の姿を見て、ニアははしゃいだ様子で腕をばたつかせる。いつも通り元気な様を見て、ノアも楽しげに笑った。
「でも、ニアちゃんの方がかっこよくていいなー……。帽子、すごくかっこいいもん」
 まあるい瞳が、己の身を見下ろす。基本的にはニアと同じデザインだが、妹に与えられたのは金の柄を持つ真っ赤な旗と、小さな王冠だ。先程思い出した本の印象もあって、姉の海賊らしい衣装が羨ましい。
「ノアちゃんもいいなー。王冠、ちっちゃくてキラキラして可愛いもん」
 いいなー、と二人は互いの衣装を見比べる。自分が着ているものも素敵だが、ほんの少しの差が酷く羨ましく思えた。可愛いのもいいけれど、かっこいいのもいい。年頃の乙女の心は複雑なのだ。
「じゃあ、後で交換しよう! ニアも王冠つけてみたい!」
 姉の提案に、妹はぱぁと目を輝かせる。双子であり、同じ体格の二人だからできることだ。うん、と大きく頷いて、二人の兎は満足そうに笑う。もうすぐ行われるジャケット撮影と、その後の衣装交換への期待に、少女らの胸は高鳴った。
 姉妹同じだと信じて疑わず、昔からお揃いの服を着るのが当たり前だった。けれども、この世界に深く関わっていく内に、同一であると思っていた自分たちには多くの差異があると気付いてしまった。
 別個であると分かってしまったのは悲しい。けれど、その差異を活かし、別々の服を着るのは楽しかった。服だけでない、髪留めやアクセサリーといった小物を互いに見つけあうのは、お洒落に敏感な年頃の乙女には楽しくて仕方がなかった。
 今まで気づかなかった楽しみを知った青空色の兎は、今日もきゃらきゃらとはしゃぎ飛び回る。おんなじだという双子の当たり前は、当たり前ではなくなった。




照らすスポットライト/奈←恋
あおいちさんには「知らないふりをしていたんだ」で始まり、「想いを伝える術はなかった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば6ツイート(840字)以内でお願いします。


 ずっと知らないふりをしていた。
 眩い舞台、その中央に座る友人を見つめる。七色の美しい瞳は涙で濡れ、華奢な手はナイフを持った少年の手に重ねられていた。物悲しい音楽を背に、二人は言葉を交わす。劇は終盤に近づいているようだ。
 舞台が奏でる音は、客席にいる恋刃の耳には届かない。鮮血のように真っ赤な瞳は、スポットライトを浴びる二人の影を呆然と眺めていた。
 学園祭の演劇に出るの、と人見知りの友人がはにかみながら話したのはいつだったか。練習に励む彼女を応援したのはいつからだったか。舞台袖で震えて出番を待つヒロインを鼓舞したのは何分前だったか。全てが遠い昔のことに感じる。そう錯覚するほど、目の前の光景は少女の心を強く揺さぶるものだった。
 ――私じゃ、あんな風になれない。
 普段ならば、舞台に立つ少年の位置には自分がいる。いつだって奈奈の隣にいるのは恋刃だけで、その手を握るのも互いだけだ。けれども、今ステージに上がっているのは自分ではない。いつもの位置に自分はいない。なのに、これが当たり前の風景に見えた。
 女の自分よりも、男である主人公の方が奈奈の隣にいるのが自然だ。恋刃でなく、別の男の方が奈奈にとって相応しい存在なのだと言われているようだった。
 その認識は劇の役や演出によるものだ、ということは分かっている。けれども、紅の瞳に映る全ては、少女がずっと目を逸らしていたことを容赦なく突きつけた。
 知らないふりをしていた。気付かないふりをしていた。分からないふりをしていた。
 女である私があの位置にずっといることができないなんてこと、知らないままでいたかった。
 ステージに立つヒロインの手から、真っ赤な林檎が落ちる。そのまま、二人の横を転がり舞台袖へと消えていくそれが、まるで己のように思えた。
 目を逸らしてきた感情が胸の内で膨れ上がり、淀み渦巻く。行き場の無い苦しさに、恋刃は己の胸を強く押さえた。
 こんな、こんなに醜く汚らしい、ずっと知らないふりをしてきた想いを誰かに伝える術などなかった。




ひとりとふたり/レイ+ライレフ
葵壱さんには「気付いてしまった」で始まり、「そっと目を閉じた」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば7ツイート(980字程度)でお願いします。


 気付いてしまったのはいつだっただろうか。
 運営用のコンピュータが立ち並ぶデスクから少し離れた場所、一通りの書類や資料をまとめた棚の前で会話する二人を眺め、レイシスはそんなことを考える。
 真剣な顔つきで話す双子は、共に運営業務を行う大切な仲間だ。この電子の世界ができてからずっと一緒にいる、レイシスにとって家族のような存在だだ。二人もそのように思ってくれているのか、よく自分のことを気にかけてくれる――そのことで喧嘩することがあるのは、悲しいのだけれど。
 気質が正反対のためか、二人が言い争う姿は今も昔もよく見かける。級友やレイシスが仲裁に入ることもしばしばだ。かといって、決して兄弟仲が悪いわけではない。むしろ、とても良い方だろう。兄が弟を構い倒す姿は日常風景であり、弟が兄を案じ行動する姿も同じく当たり前の日常だ。
 同じことを同時に口にしたり、いざという時は息がぴったりなのも、きっと互いのことをよく理解している故だ。言葉を交わすことなく相手の思考を瞬時に理解し素早く動く様は、『生まれた時から兄弟』と言うのがよく分かるものだ。
 けれどもいつだったか、その雰囲気が変わっていることに気付いた。
 普段の会話も、小さな言い争いも、どこか柔らかい。触れあう様も、案じる様も、兄弟という括りにしては優しくて甘いものだ。
 あぁ、何か――関係がより深まることがあったのだな、と頭の隅で理解したことを覚えている。同時に、胸に小さく重い言葉が落ちてきたことも、それが未だに残っていることも、はっきり分かっている。
 結局、自分はずっと他人のままなのだ。
 どんなに近くにいても、家族のように触れあっても、『兄弟』という明確な血縁関係を持つ二人の中にレイシスは入れない。それ以上の何かになった二人ならば、尚更だ。そこに他人が挟まる余地などない。たとえ、彼らが強い好意を寄せてくれているとしても、だ。
 羨ましい、と少女は眩しそうに目を細める。家族が、特別な相手がいるのが羨ましい。ナビゲートシステムである自分には手に入れられないものを持つ二人が羨ましい。
 ワタシも血の繋がった家族だったらよかったのに。
 抱える子供じみた嫉妬に呆れ、レイシスはそっと目を閉じた。




花咲く夜を共に/ハレルヤ組
あおいちさんには「去年の花火は綺麗だった」で始まり、「それでも世界は変わらなかった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば7ツイート(980字)以内でお願いします。


「去年の花火も綺麗デシタケド、今年もとっても綺麗デシタネ!」
 上機嫌な様子で、少女は手にした団扇をくるくると回す。今しがた終わった花火大会の興奮がまだ覚めやらないようだ。
「うん……キレイだったな……」
「そうですね……とても綺麗でした……」
 少女を守るように挟んで歩く二人の少年は、肯定の言葉を返す。しかし、その声は震え湿り気を帯びたものだ。時折、鼻をすする音が聞こえる。顔を俯け、目元を抑える姿も見える。どこか挙動不審な兄弟の様子に、レイシスはこてんと首を傾げた。
「二人共、そんなに感動したンデスカ?」
「……うん。すっげー感動した」
「はい。美しすぎて言葉も出てきません」
 双子は感極まったという様子で答える。ズ、と鼻をすする音と、ぅ、とえづく音が同時に響く。地域の小さい花火大会を見ての反応としては、いささか大袈裟だ。
 それもそのはず。兄弟は花火に感動しているわけでない。『再びレイシスと花火を見ることができた』という、今この日に感涙しているのだ。
 一緒に海に行こうと画策してはや数年。そちらの目標は未だ達成できていないものの、昨年はようやく『三人で花火を見る』ことができたのだ。
 その場の勢いで来年も見に行こうと約束づけたのが、昨年の帰り道。そして、それをしっかりと覚えてくれていた少女は、今年も花火大会へ行きマショウ、と誘ってくれたのだ。あまりの喜びに、兄弟揃ってその場で崩れ落ち咽び泣きになったのは秘密だ。
 そうして花火大会当日。浴衣と甚平に身を包んだ三人は、隣りあい思う存分夜空に咲く火の花を堪能したのだった。泣くほど喜ぶのも無理はない。
「来年もまた見たイデスネ」
 ふふ、と団扇で口元を隠しながら、レイシスは弾んだ声で言う。『来年』という言葉に、兄弟の鼻奥が更に痛みを訴えた。
「はい。来年も、是非」
「ぜってー行きたい! 約束なっ!」
 目元を袖口で拭う烈風刀と、一思いに鼻をすすった雷刀が、ようやくまともな声をあげる。調子が戻った様子に、少女はクスクスと笑う。目元に紅が残る少年らも、つられたように笑った。カランコロンと弾む軽やかな足音が三つ分、静かな帰り道に響く。
 光の花で彩られた非日常な闇夜が、何もかを塗り潰すような日常の色へと戻っていく。それでも、三人を包む優しい世界は変わらない。




ゆるして/レイ+グレ
葵壱さんには「優しい彼女は夢を見る」で始まり、「また一から始めよう」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば11ツイート(1540字程度)でお願いします。


 優しい彼女は夢を見る。それも、とびきり酷い悪夢を、何度も何度も繰り返す。
 隣から聞こえる痛々しい呻き声に、レイシスは苦しげに目を細める。形のいい桃の眉が悔しげに寄せられる。可愛らしい唇は普段のように柔らかな弧を描かず、真一文字に結ばれていた。
 重力戦争が終結してもうすぐ一年経つ。終結と共にネメシスに迎え入れられたグレイスは、もうすっかりこの温かな世界に馴染んでいた。
 初めは補助されながら必死に行っていた運営業務も、今では一人でこなせるようになった。一年遅れのハンデがある勉学も、懸命な努力を重ねどんどんと成績を上げている。最初は拭いきれない警戒心で険しかった表情も、最近では柔らかになり、少しずつだが笑顔を見る機会が増えた。
 躑躅の少女は日々成長し、電子の世界で元気に生きている。
 その姿をすぐ隣で見てきたレイシスは、幸せで堪らなかった。生きたいと願い手を伸ばしてくれた少女が、今この世界で生を謳歌している。これ以上の幸せなどない。
 そんな愛しい妹は、己の横で眠っている。深い夢の世界に溺れ沈むグレイスは、華奢な身を縮こまらせていた。苦しげな呻きと細い呼吸に混じり、かすかな嗚咽が聞こえる。固く閉じた少女の目から、漏れ出るように淡い涙が流れた。あまりにも痛ましい姿に、レイシスはぎゅうと掛け布団を握った。
 優しい彼女は夢を見る。終わりを迎え、過ぎ去ったはずの闘いの日々の夢を見て、恐怖と罪悪感に押し潰されている。
 この様子を初めて見たのは、グレイスがこちらに来て一ヶ月経った頃だったろうか。夜中にふと目が覚めると、隣に眠る小さな妹が苦悶の表情を浮かべていて酷く驚いたことを覚えている。
 ごめんなさい。ゆるして。いやだ。きえたくない。いきたい。ごめんなさい。ごめんなさい。
 呻きにも似た寝言は、あの闘いの日々が未だに彼女を苛んでいると如実に語っていた。
 たしかに、市街を襲い、人々をバグで操り、世界を壊そうとした二年間をすぐに忘れることは難しいだろう。けれど、それらは全て無事に修復し終わり、既に元の姿を取り戻している。初めは『敵』だと警戒されていたが、今までは皆彼女を『仲間』として受け入れていた。もう、グレイスが苦しむ必要などないのだ。
 だというのに、悪夢は度々少女を襲う。深く重いそれは、彼女の中から消えることのない罪の日々を突きつける。抵抗する術など無い少女は、痛みと苦しみに喘ぐことしかできない。
 本当ならば起こしてしまいたい。この悪夢からすくいあげたい。けれど、それは逆効果だということは既に学んでいた。あの日、錯乱状態に陥り、一晩中震え泣きじゃくった彼女の姿を思い返すだけで、今でも胸が酷く痛む。今できるのは、暖かい毛布をかけ、溢れる涙を拭い、震える身を抱きしめてやることぐらいだ。
 己の無力さに、少女は歯噛みする。皆を守ると誓ったのに、妹を悪夢から守ってやることすらできない。悔しくて、苦しくて、こちらまで泣きそうになる。けれども、一番辛いのは夢に溺れる彼女なのだ。泣くことなんて、少女自身が許さない。感情を抑え込むように、桜色の瞳が固く閉じられた。
 ごめんなさい、と腕の中の少女が細い声で喘ぐ。閉じた目を開け、痛ましい音を奏でる度に溢れる涙を袖で拭い、レイシスは硬く縮こまった身体を優しく抱きしめた。ずっと温かな布団の中にいたはずなのに、その細い身は芯から冷え切っているように思えた。
 涙を流す躑躅の額に、薔薇色は己のそれを合わせる。決して許されないと頑なに思い込んでいる妹へ向けて、姉は言い聞かせるように囁いた。
「……大丈夫デス。ミンナ、アナタのことを許してマスヨ。ミンナと一緒ニ、また一から始めマショウ」




空模様心模様/後輩組
葵壱さんには「永遠なんてない」で始まり、「明日はきっと元通り」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば12ツイート(1680字)以上でお願いします。


「永遠なんてないのは分かってるよ……」
「当たり前だろ。永遠に梅雨のままとかあり得ねーよ」
 窓に片手をつけ、悲壮に満ちた表情で空を見上げ呟く瑠璃紺を横目に、魂は疎ましげな声で吐き捨てる。よく磨かれ透き通るガラスの向こう側は、空を埋め尽くしていた真っ黒な雲が薄れ、色の薄い空と穏やかな光が顔を覗かせていた。
 梅雨入りしてもう随分と経った今日は、雨に世界を支配されていた。降る勢いはそれほど激しくないが、傘を差さねば外を出歩くことは難しく、地面は水で薄く覆われ歩きにくい程度には面倒だ。中途半端に高い気温と相まって、不快指数は上がるばかり。ただでさえ気が滅入るというのに、雨の日は性格が豹変する友人が一日中騒がしいのだから嫌になる。腐れ縁と称するのが相応しいほど長く共にいるのだから彼の奇行には慣れているが、うるさいことには変わりない。憂鬱になるのも仕方のないことだ。はぁ、と重い溜め息とともに、二色一対の目が不機嫌そうに細まった。
「でも、ずっと雨の方が楽しいでしょ?」
「楽しいのは冷音だけでしょ……」
 必死に同意を求めようとする少年の言葉を、眠たげな声が切り捨てる。壁にもたれかかり眠っていた灯色がようやく目を覚ましたようだ。まだ半分瞼が降りたままの目には、眠気だけでなく呆れも見えた。
 友人らの指摘に、冷音は押し黙る。反論できずに俯く彼の表情は、群青の髪で隠れ見ることは叶わない。けれど、その瞳が悲しみで伏せられていることぐらい、容易に想像できる。うぅ、と小さな唸り声が、悲しげに歪んだ口から漏れ出た。
「もう梅雨明け近いんだし、さっさと諦めろよ」
「分かってるよ。……でも、雨の日が減るのは悲しいよ」
 投げやりな言葉に、冷音は唇を尖らせる。もう子供ではないのだから、永遠に雨が続くわけがないことぐらい承知だ。それでも、雲が消えるほど晴れ渡る日々が待つ夏に向かうのは、雨を愛する少年にとっては憂鬱でしかない。
 嫌だなぁ、と未練がましい声が、雨音の消えた部屋に落ちる。毎年のことだ、反応しても意味は無い。悲痛な声を漏らす友人を無視し、魂は口に含んだ飴玉を噛む。溶けて小さくなった砂糖の塊が砕ける音が骨を伝って聞こえた。
 まるで悲劇のヒロインのように窓ガラスに手を付け空を見上げる友人を尻目に、灯色は立ち上がることなく魂の方へとぺたぺたと這っていく。曰く、キーボードを叩く音は心地良よく、よく眠ることができるから聞いていたいらしい。今回は、晴天で湿った呟きから逃げる意図もあるのだろう。
 友人の邪魔にならないよう、少年は彼が作業している机のいくつか隣、コンピューターが置かれていない簡素な机の下に潜り込む。眠たげな目をゆっくりと瞬かせ、少年は再び冷たい床に身体を横たわらせた。
 ずっとモニタと向かい合う中、二色の瞳がちらりと横目で窓辺を見やる。晴れ渡る空と街を切り取ったガラスの真下には、深い群青の塊があった。胸を蝕む悲哀が頂点に達し、半ば鬱状態になった冷音だ。えっぐえっぐ、と大げさな泣き声が、タイプ音と機械類の駆動音が支配する部屋の床に落ちて消えた。
「……ほんと、懲りないよね」
 寝転がっていた胡桃色がもぞりと動き、同じく窓辺へと顔を見ける。眠気でふわふわとした声には、呆れを通り越して関心すら見えた。
「いつもああだよ。構ってもしょーがねーし、落ち着くまでほっとくのが一番」
「魂が言うと説得力あるね……」
「当たり前だろ。何年付き合わされてると思ってんだ」
 呑気な声に、うんざりとした声が返される。モニタの青白い明かりに照らされた顔は、英数字が踊る液晶画面を見つめたままだ。
 互いに『腐れ縁』と称する程度に共に過ごしてきたのだ。雨色の彼のことなど、嫌というほど理解している。雨雲が消え、晴れた直後の冷音が湿っぽくて非常に面倒臭いことなど、魂の中では当たり前の知識だ。その対処法も、誰よりも分かっている。
 大体さぁ、と心底辟易した声を漏らし、少年はパーカーのポケットに放り込んでいた携帯端末を取り出す。小型のそれを片手で器用に操り、地面に寝転がったままの灯色の眼前に突きだす。手のひらサイズの画面に映し出された文字列を見て、眠たげな少年の口から、うわぁ、と小さな声が漏れた。
 青白く光るそれの中、開かれたページには、大きな傘のマークと降水確率示す数字があった。午前と午後に分かれたその欄には、どちらも九〇パーセントという高い数字が赤字で刻まれていた。ご丁寧に『傘を忘れずに!』とほぼ意味のない注意書きまで添えられている。
 どこか沈んだ灯色の声に、魂も同じ調子で溜め息をつく。すぐに来るであろう明日をことを考えて、疲労が蓄積された頭が鈍い痛みを訴える。色鮮やかな眼鏡を外し眉間を揉みながら、少年は嘆息するように重苦しい声を漏らした。
「明日にはきっと元通りだ……」




音の数と意味の数/プロ氷
葵壱さんには「たった5文字が言えなかった」で始まり、「月が綺麗ですね」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば13ツイート(1820字)以内でお願いします。


 たった五文字が言えないことに、氷雪は酷く罪悪感を覚えていた。
 愛する人は、夕陽のようなまあるい瞳を柔らかに細め、愛しさに満ち溢れた五文字を幾度も与えてくれる。だというのに、己は羞恥に固まってしまうか、動揺でろくに言葉を発せなくなるだけで、応えられた試しがない。与えられるばかりで何も返せない罪悪感と、いつまで経っても慣れない不甲斐なさに、少女の心は押し潰されるばかりだ。
 自分よりもずっと大人な彼は、気にしなくていい、見てるだけで十分伝わってくる、と言ってくれる。その優しさに甘えてしまっている自分が、嫌でたまらなかった。与えられた愛を同じぐらい伝えたいのに、羞恥心を言い訳にする身勝手さに、胸の奥がじくじくと痛む。苦しくて、悔しくてたまらなかった。
 低い声が奏でる五文字を聞くだけで、少女の心は喜びと温かさでいっぱいになる。きっと、識苑もそうだ。己の言葉で彼の心をほんの少しでも満たせれば、と考え、氷雪は嘆息する。そう考えて、もう随分と経つのに、未だに上手くいかないのだから不甲斐ない。桜色の唇から、今一度深い溜め息がこぼれた。
「氷雪ちゃん?」
 落ち着いた調子の声が、己の名前を紡ぐ。軽く屈み、わざわざ視線を合わせてこちらを覗き込む識苑に気づき、氷雪の意識が現実へと引き戻される。心配そうに下がった眉を見て、胸に小さな痛みが走る。どうに平常を装い、少女は急いで笑みを浮かべた。
「い、いえ。ちょっと、考え事をしていて」
「……そっか」
 無理に作った硬い笑顔と言葉に、識苑は普段通りの笑みを浮かべる。聡い彼から見れば己の姿は明らかに不自然だろうに、追求しないのは優しさによるものだろう。また迷惑をかけてしまった、と、少女は学生鞄の持ち手をぎゅうと握った。草履と安全靴が奏でる足音が、宵闇に溶けていく。
 帰宅しようと下駄箱に向かう途中、たまたま出会ったのが陽が地平線へと沈みゆく頃。気分転換したいし寄宿舎まで散歩しようかな、と二人で玄関を出て、今に至る。本来ならば、学園に隣接して作られたそこにはすぐに着くのだが、二人の足は自然と遠回りになる道を選んでいた。
 人通りが少ないここには、氷雪と識苑の二人しかいない。久々の二人きりの時間なのに、暗い考えに思考が傾いてしまう自分に嫌悪感が募っていくばかりだ。
 姿勢を正し、識苑は伸びをするように後ろで手を組み、空を見上げる。陽光が薄く残る空には、点のような星が姿を表していた。
「テスト近いしねー。課題とか増えるし、色々考えることあって大変でしょ?」
「そうですね。けれど、桜子さんや恋刃さんが教えてくれるので、いつもより不安は少ないです」
「そっか。良い友達を持ったね」
 穏やかな言葉に、少女は、はい、と嬉しそうに返す。ようやく見せた明るい表情に、青年はつられるように笑みを浮かべた。
 事実、試験前に催している勉強会のおかげで、成績は少しずつ上がっていた。学力の向上はもちろんだが、何より『友達と一緒に勉強会をする』ということが、氷雪にとってはとても嬉しいことだった。
 そういえば、と勉強会中の会話を思い出す。現代文の課題を一通りこなし、一度休憩した時、桜子がうっとりとした表情で語った話だ。それは確証のない作り話だ、とすぐさま恋刃に切り捨てられていたが、ロマンチックなそれは氷雪の頭の隅に残っていた。
 真似するように、少女も夜空を見上げる。太陽と入れ替わりに姿を表した黄金色を見上げ、白い少女はこくりと息を呑んだ。
「あ、の……、識苑先生」
 少し掠れた声で、愛する名前を口にする。なぁに、と落ち着く優しい声が耳をくすぐった。
 静かに深呼吸をし、少女はぐいと顔を上げる。雪とすれ違いに咲く梅の色に染まった顔が、月色の瞳を見上げた。
 呼ばれた青年はおどけるように小さく首を傾げる。しかし、その目は引っ込み思案な恋人の言葉をしっかりと受け止めようとする真摯なものだ。
 震える唇を叱咤し、雪色は拙く舌を動かす。どうか聡明な彼に伝わりますように、と祈りながら、五音と同義の九音を紡いだ。
「つっ、月が、綺麗です……、ね」

畳む

#ライレフ #プロ氷 #はるグレ #奈恋 #レイシス
#グレイス #ニア #ノア #ハレルヤ組 #後輩組 #腐向け

SDVX


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