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No.9

辿る水【ゆかれいむ】

辿る水【ゆかれいむ】
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ほも書いたら反動で百合書きたくなったのでゆかれいむ。毎度の如く30m。

ゆかれいむへのお題は『君の涙の味』です。http://shindanmaker.com/392860

 くぁ、と大きく口を開けると間の抜けた声と大きく息が吐き出される。口を閉じる頃には目の端にはじわりと涙がにじんだ。
「あくびばっかりねぇ」
 隣に座る紫が呆れたように言った。自身の前に置かれた湯呑には手を付ける様子はなく、ただ机に両肘をつき指を組み、そこに顎を乗せてこちらを見ていた。うるさいな、という目で彼女を見る。
「仕方ないじゃない、眠いのよ」
「あら、冬眠でもする?」
「しないわよ。あんたじゃないんだから」
 くすくすと笑う紫が気に入らなくて、目を眇め睨む。膨大な時間を過ごしてきた彼女には小娘のそんな視線は痛くもかゆくもないようだ。それがまた気に入らない。
 す、と紫の指がこちらに伸ばされた。なんだ、と身を固くする。白く細い指は自身の目元をなぞり、目の端ですくいあげるかのように指を曲げた。す、と離れた彼女の指先は仄かに濡れていた。わざわざ涙を拭ってくれたらしい。
「なによ」
「何でもないわ。ただ、気になっただけ」
 ふふ、と彼女は微笑み、その指を――すくいあげた霊夢の涙をぺろりと舐めた。訳の分からない行動にぞくりと肌が泡立つ。
「うん、しょっぱいわね」
「な、に……やってんのよ! 馬鹿!」
 ありったけの札を懐から取り出し力いっぱい投げつける。幾多の札が彼女の肌に張り付くが、特に効果はないらしい。妖怪退治用の札でも大妖には効かないようだ。それが悔しくて、先ほどの行為がいまさらになって恥ずかしくなって、わなわなと震える。そんな霊夢に構うことなく紫は再度指を舐める。まるで指についた涙を全て舐めとるように。
「なによ、なんなのよ、訳分かんないわよ」
「貴女の涙ってどんな味かと思って」
 最近お茶ばかりでちゃんとご飯を食べてないでしょう、と紫は言う。確かに最近は眠さに負けてろくに食事を取っていなかった。おにぎりなどで必要最低限は食べているはずだが、三食一汁一菜しっかり食べない姿が気に入らなかったようだ。紫は微笑んだ。その眼はどこか怖い。
 彼女の腕がこちらに伸びる。細い指が頬を撫で、その手のひらで顔を上に向かせる。決して強い力ではないのに、それに抗うことはできなかった。それは妖怪故か、それとも紫だからなのか、彼女に意識を支配されたこの状況では分からない。
 彼女の顔が近づく。普段ならば『そういうこと』をする時はしっかりと目を閉じるのだが、今は瞼すら動かせないように錯覚する。人外めいた美しさを持つ彼女の顔を間近で見るのは久しぶりで、柄にもなく心臓がどきりと大きく音を立てた。
 紫は大きく口を開いた。食われる、と錯覚したのは相手が妖怪だからだろう。動けなかった身体がようやく言うことを聞くようになったのか、反射的にぎゅっと目を閉じた。
 べろり、と赤い舌が霊夢の肌を――目元を這う。初めて味わうその感覚に体が大きく跳ねた。
「ゆか、り」
 名前を呼ぶが普段ならばすぐに返事をする彼女は黙ったままだ。口を開け、霊夢の肌を舐めているのだから当たり前だ。
 涙の溜まった目元を、瞼を赤い舌が這う。終わると瞼に小さくキスを落として、もう片方へと向かう。全てを舐めつくすようなその動きは恐ろしかった。
 どれほど経っただろうか。紫の手が頬から離れる。ゆっくりと目を開くと、そこには微笑んだ紫がいた。距離が近く、また舐められる、食われるのではないかと身体が硬直した。
「やっぱりしょっぱいだけね。お茶の味がすると思ったのだけれど」
「……なんなのよ、ばか、へんたい」
 じわりと涙がにじむ。また舐められるのではないか、と抑えようとするがどうにもならない。久しぶりに味わった妖怪の恐怖と、目を舐められるという初めての感覚に脳がついていけなかった。
 ごめんなさいね、と紫はまた涙を拭った。その指はそのまま霊夢の口元に持っていかれる。舐めろ、ということなのだろうか。
 恐る恐る小さく口を開き、彼女の指を舐める。仄かな塩気が舌の上に広がった。
「……しょっぱい」
「でしょ?」
 紫はくすくす笑った。へんたい、と呟くが彼女は依然笑うだけだ。それが悔しかった。

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#ゆかれいむ #百合

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