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otaku no genkaku tsumeawase

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No.217, No.216, No.215, No.214, No.213, No.212, No.2117件]

勝者:早起きさん【ヒロニカ】

勝者:早起きさん【ヒロニカ】
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何でも負けず嫌いで変なとこでも競い合ってるヒロニカは存在してほしいという願望。面倒見のいいニカちゃんも存在してほしいという願望。付き合ってる。
朝ご飯を作るヒロニカの話。

 ぼやけた世界が輪郭を取り戻していく。黒い瞼が風になびくように小さく動いた。ゆっくりと持ち上がったそれの向こうから蒲公英色の瞳が姿を現す。それもまた輪郭が曖昧でどこかとろけたものだった。
 真っ暗だった世界に光が差し込む。境目が分からなかった世界に色彩といった標が現れた。長い休暇を取っていた喉が鈍い呻きをあげる。込み上げるがまま大きなあくびを漏らし、ベロニカはベッドから身を起こした。寝る前に閉めたカーテンは薄いミラーカーテン一枚になっていて、朝日を和らげながらも室内に取り込んでいる。遠く、ドアの向こうからで小さな音が聞こえる。少しだけ高いそれ、続けざまに機能した嗅覚が捉えたのは肉が焼ける油たっぷりの香りだ。ほんのりと香ばしい、それでいて落ち着くコーヒーの香りも一緒に流れてくる。つまり、誰かが調理している。朝ご飯を作っている。
 現実を認識した少女の顔が一気に常の快活な様を取り戻す。それもすぐにしかめ面に歪んでしまった。うぅ、と濁った音が細い喉から漏れる。
 昨晩は一緒の時間に眠ったはずだ。ナマコフォンのアラームもきちんとセットしたはずだ。だのに、彼よりも遅くに起きてしまった。負けてしまった。敗北が起き抜けの胸を満たしていく。エスプレッソよりも苦いそれは、大きな口を真一文字に結んでしまうようなものだった。
「あっ、おはようございます」
「……はよ」
 扉が開く音。隙間から現れたのは、部屋の主であるヒロだった。器用なもので、両手には平皿を持っている。ベーコンであろう芳しい、胃を刺激する香りがぶわりと部屋に広がった。ぐぅ、と腹から声があがる。起き抜け、空きっ腹にはてきめんの匂いだ。
 泊まった日は早く起きた方が朝ご飯を作る。それが二人で決めたルールだった。そうでもなければ何から何までヒロが全てを負担しようとするからだ。だからこそ早起きしたいのだが、現状勝率は四割である。寝汚い方ではないはずだというのになかなか勝てないのだから悔しいったらない。おかげでせっかく作ってもらったというのに不貞腐れた声と顔を晒してしまう始末である。なんとも情けない有様だった。
「今日は僕の番になりましたね」
 ローテーブルに皿を並べながらヒロは言う。まるで動きに合わせた曲のようななめらかな口ぶりだった。腹が立つほどに。
「煽ってんのか?」
 口角をひくりと震わせながらベロニカは問う。刺々しい、爽やかな朝には相応しくない強い響きをしていた。『今日は』と言うが、前回も朝食を準備したのは――勝者はヒロである。負けず嫌いの己にかける言葉にしては随分なものだ。鳴き声をあげる胃の腑が熱を持つぐらいには。
 そんなわけないでしょう、と笑みを漏らしながらヒロは食器を並べていく。その笑みすら勝者の余裕に見えるのだから腹立たしい。被害妄想であるのは分かっていれども、悔しさに満たされた脳味噌は現実を歪んで認識してしまうのだ。鈍い音がほっそりとした喉から漏れ出た。そんな間にも、小さな音をたてて食卓に姿を変えたテーブルの上に皿が、マグカップが並んでいく。あっという間に朝ご飯の準備ができあがってしまった。
「食べましょう」
「おう」
 対面に座り、ヒロは言う。その手は胸の前で合わせられていた。あぐらを掻いて座り、ベロニカも同じように胸の前で手を合わせる。トースト、ベーコンエッグ、キャベツの千切り、コーヒー。己にとっては贅沢なほどの朝ご飯を前に、また腹が細い声をあげた。
「いただきます」






 闇に包まれていた世界が晴れてゆく。黒い瞼が痙攣するように小さく動いた。ゆっくりと持ち上がったそれの奥から薔薇色の瞳が姿を現す。常は鮮烈な色は今はまだけぶった色をしていた。
 真っ暗だった世界に光が差し込む。自己の内側と外側のあわいが曖昧だった世界に明暗という標が現れた。長らく動きを止めていた声帯が震えて鈍い声を漏らす。小さくあくびをし、ヒロはベッドから身を起こした。寝る前にきっちり閉めた二枚のカーテンは遮光性の高い一枚が開かれていて、朝の光を柔らかに取り込んでいた。遠くで、ドアの向こうから小さな音が聞こえる。チン、と高く短い音は耳慣れたものだ。同時に、嗅覚が香ばしい匂いを認識する。パンが焼ける香り、そしてコーヒーの香りだ。つまり、誰かが調理している。朝ご飯を作っている。
 現実を認識した少年の顔が常の穏やかな色を取り戻す。それもすぐにしかめ面に歪んでしまった。う、と低い音がまだ細い喉から漏れる。
 昨晩は一緒に眠ったはずだ。ナマコフォンのアラームもまだ鳴っていないはずだ。だのに、遅くに起きてしまった。負けてしまった。敗北が起き抜けの頭を侵蝕していく。焦げたベーコンよりも苦いそれは、ぱっちりとした目を強く眇めて鋭くしてしまうようなものだった。
「おそよう」
「……おはようございます。まだ七時ですよ」
 扉が開く音。隙間から現れたのは、部屋の主であるベロニカだった。器用なもので、片手にはマグが二つ握られている。香ばしい、それでいてどこか安心するコーヒーの香りが胃の腑を刺激する。敗北の味が少しだけ薄らいだ気がした。気休めでしかないが。
 泊まった日は早く起きた方が朝ご飯を作る。それが二人で決めたルールだった。本当ならば日頃世話になっている分己が作ってしまいたいのだが、ベロニカはそれを是としないのだ。お前ばっかにやらせてたまるか、と吠えた彼女の姿はまだ記憶の浅い部分に残っている。けれども、やはり負担は負担である。だからこそ早起きをしたいし、いつもしている。それでも勝率は六割ほどなのだから彼女も大概強情だ。そして、今日は久々に敗北を喫したのだ。おかげでせっかく作ってもらったというのに苦い顔をしてしまう始末である。なんとも不躾な有様であった。
「ヒロにしては遅い方だろ」
 いつも六時には起きてんじゃん、とベロニカは言う。まるで歌うようなご機嫌な口ぶりだった。悔しさを更に刺激するほどには。
「世間一般には早起きですよ」
 逃げるように瞼を下ろしてヒロは言う。明らかに強がり、負け惜しみでしかない苦く拗ねた響きをしていた。前回、前々回は己が朝食を準備した――勝者であったというのに、今日は完全に負けてしまった。それを分かっているからこそ、負け越している彼女だからこそこんな発言を飛ばしてくるのだろう。悔しいが、事実なので言い返しようが無い。特段疲れていたはずでもないのにこれなのだから尚更だ。
 そうだな、と笑みを漏らしながらベロニカは食器を並べていく。その笑みすら勝ち誇った、余裕綽々のものに見えてしまうのだから悔しいったら――腹立たしさすら覚えるったらない。被害妄想、八つ当たりであるのは分かっていれども、久々の敗北の味を叩きつけられた頭は全てを歪んで受け入れてしまう。鈍い音が健康的な色をした喉から漏れ出た。そんな間にも、カチャカチャと音をたてて食卓に早変わりした折りたたみ式ローテーブルに食器が並べられていく。あっという間に朝ご飯の準備ができてしまった。
「食べようぜ」
「……はい」
 対面に座り、ベロニカは言う。その手は胸の前で合わされていた。正座をして、ヒロも同じように胸の前で手を合わせる。トースト、ウィンナー、目玉焼き、コーヒー。オーソドックスで胃の腑を刺激する素敵な朝ご飯を前に、また腹が小さな声をあげた。
「いただきます」
畳む

#Hirooooo #VeronIKA #ヒロニカ

スプラトゥーン

煽動と欲望【コロイカ/R-18】

煽動と欲望【コロイカ/R-18】
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煽るしある程度積極的だしぐちゃどろにされるバイカーシェードくん(仮)が見たかっただけ。情けなく喘ぐマルノミ君が見たかっただけ。捏造しかない。口調も名前も分かりません助けてください。
名前はXマッチのコールサイン参考で捏造。判明次第タグ付けるし本文加筆修正するかもしれない。
煽る子と煽られるし仕返す子の話。

 あ、と思わず音が漏れてしまったほど大きく口を開ける。第三者が見れば、きっと口蓋垂まで見せつけた無様な有様だろう。しかし、こればかりは仕方ないのだ。カラストンビが当たって怪我をするなんて間抜けな事態は避けなければいけない。充血した器官に鋭利なものを当ててどうなるかなど、想像するに容易い。男として想像もしたくないことである。
 これでもかと開いた口を、バイカーシェードは両の手で捕らえた――支えた屹立に向かってゆっくりと近づける。自然と垂れ下がっていた舌が、一足先に硬い雄にひたりと当たった。瞬間、凄まじい味が味蕾を刺激する。相当ヒトを選ぶ味だ。端的に言えばまずい。普通に暮らしていてはまず知ることのない味であり、知るべきではない味だ。だというのに、身体は歓喜を表すようにゾクリと震える。ぁ、とまた漏れた音は、鼓膜を破りたくなるようなものだった。
 最悪と言っても過言でない味を――これ以上無く本能を刺激する味を受け入れながら、少年は握り込んだ欲望の塊を口内に収めていく。血が巡りきった雄肉は、口腔粘膜を焼き尽くしてしまいそうなほど熱い。不愉快なはずなのに、胸の内にはどんどんと充足感が広がっていった。反面、腹の底は飢えを訴える。みっともなく泣き叫ぶ本能を抑え込み、バイカーシェードは頭を引いていく。くぷ、とやけに可愛らしい音が己の口から漏れるのが聞こえた。
 頷くように頭を往復させ、雄の証を扱く。色の薄い唇で、ピンク色の舌で、ぬめった硬口蓋で、柔らかな頬肉で、興奮しきった恋人自身を刺激する。ぐぷ、じゅぷ、と卑猥な音をたてて舐めしゃぶる。はしたない、なんて言葉では済まされない姿だ。けれども、今はこれが何よりも正しい姿なのである。コトを進めるためには。
 先端を咥え、張り出た部分を、先走りを漏らす孔を舐め回して刺激する。支える手を上下に動かし、幹にも刺激を与える。さすがに敏感な部分だからだろう、短い嬌声が上から降ってきた。もっと引きずり出してやりたくて、あちらも無様な姿を晒してやりたくて、手にも舌にも熱が入る。尖らせた舌で先端を浅くほじり、緩急織り交ぜ己の唾液でぬめった幹を扱き上げる。必死に堪えた吐息が何度も聞こえてきた。
 味が、熱が、粘膜を通して脳味噌を溶かしていく。じゅぶ、ぬぷ、と淫猥な音が己から発せられる。平時の己が見たならば卒倒する、否、すぐさま叩き潰してインクに還してやるようなものである。だのに、やめられない。淫らな姿を晒してでも、いつでも飄々としていけ好かないこいつに一矢報いたくて――己がきもちよくなりたくて仕方が無いのだ。
 吸い付きながら引き抜き、一度口を離す。じゅぽん、と猥雑な音が、ぐぁ、と濁った嬌声があがった。昂ぶり越しにちらりと上を見やる。室内灯で逆光になった恋人――マルノミはこれ以上に無いしかめ面をしていた。眉根は強く寄せられ、目は睨みつけるように眇められ、口は食い縛って牙を剥き出しにしている。だが、柔らかな輪郭を描く頬は赤く染まっている。彼が性的興奮を覚えている、快楽を覚えている証拠である。己の手によって追い詰められている証左である。無様極まりない光景に、バイカーシェードは思わず鼻を鳴らす。悟られぬよう、すぐさま次の行動に移った。
 だらりとみっともなく舌を垂れ下げ、シールでも貼り付けるように竿にべったりと付ける。ゆっくりとピンクの粘膜で雄の器官を撫で上げていった。手で扱いたことにより少し乾いてしまったそこに、新たに唾液をまぶしていく。まるでマーキングだ――匂いと味でマーキングされているのはこちらだが。
 柔らかでしなやかな筋肉で撫で上げられるのは随分と効いたらしい。呼吸を殺す音が何度も降ってくる。けれども、これではきもちよさよりももどかしさを覚えるはずだ。口淫に比べれば、こんなの児戯に等しい。粘膜を押しつけた剛直も、足りないと訴えるようにビクビクと跳ねた。
 頭に感覚。大きな何かが、ツヤツヤとした頭の形を確認するようにゆっくりと動く。その動きは、愛おしげ、という言葉が一番近いような気がした。
 口淫を施す時、マルノミはよく頭を撫でてくる。時たま、ええ子やな、なんてふざけた言葉まで飛んでくる始末である。そんなの、ただの強がりでしかないなどとうに分かっている。雄の弱点をめいっぱい刺激されて感じ入る情けない自身を誤魔化すための行為でしかないのだ。襲い来る快感を逃がすための愚策でしかないのだ。分かっているからこそ――限界が見えている証だからこそ、やる気が満ち満ちてくるというものである。
 厚い桃色粘膜を幹から離す。またはしたなく大口を開け、怒張を口の中に迎え入れた。頭に乗せられた手がビクン、と跳ねるのを感じる。心を満たしていく優越感に身を任せ、何度も頭を往復させる。先ほどのように舌を竿全体に当てて舐め回す。時折角度を変え、先端を硬口蓋に擦りつける。ハミガキをするように頬肉に押しつける。支える手で握り締め、ゴシゴシと根元まで丁寧に扱く。唾液をまぶしたことによって、摩擦力は低下している。だからこそ、直接的な快楽だけを与えてやれる。咥えこんだ雄はビクビクと震えるばかりだ。淫靡な音が鳴り響く中、ぐぅ、と喉が絞られる音が落ちるのが分かった。
「も、ええから」
 頭上から平静を装いきれていない声が降ってくる。降伏の声であり、敗北を認めた声だ。もう達しそうだという言外の主張だ。そんな弱みを見せて、止める道理などない。更に吸い付き、唇で、口腔粘膜で、指で煮えたぎる欲望を扱きたてる。ええて、と悲鳴に近い情けない声が降ってきた。つまり、限界が近い。
 トドメとばかりに、じゅう、と音が鳴るほど強く吸い付く。あッ、と鋭い嬌声が部屋に響くのが分かった。瞬間、口内で熱が爆発した。マルノミが射精したのだ。先ほどとは比較にならないほど酷い味が舌の上を広がっていく。精液を口内に排泄されるなんて最悪極まりない状況だというのに、興奮しきった心は、とろけきった脳は高らかに快哉を叫んだ。待ち望んだものだ、と腹の奥底が悦びに脈動する。呼吸をしているだけのはずの鼻から甘ったるい音が漏れたのはきっと気のせいだろう。
 舌を、喉を動かして、最低の液体を飲み下していく。少量だというのに、どろりとしたそれは粘膜にへばりつくようで上手く流れていかない。何度も吸い付いて――精虫を根こそぎ吸い出して、なんとか全て飲み込む。白濁を通した喉が何とも言えない感覚を訴えた。毎度のことであり、いつまで経っても慣れないことである――慣れても仕方が無いのだけれど。
 口全体を使って舐め上げるようにゆっくりと引き抜いていく。自然と垂れた舌とまだ形を保っている先端の間に細い橋が架かった。すぐにほつれたそれが垂れて、顎を濡らす。拳で拭い、視線を上へと向ける。逆光の中見えたのは、頬どころか肌全てを朱に染め、荒い息を漏らすマルノミの顔だ。眦に光る何かが見えたのは、きっと気のせいではない。あまりにも情けない――淫らな容貌に、思わず笑みが音となってこぼれ落ちた。
「早漏」
「誰がや」
 まだおかしな感覚がする喉で言葉を紡ぎ出す。嘲るそれを、すぐさま声が切り裂く。いつもの鋭さのなど失った、まだ輪郭が曖昧な音だ。当然だ、達したばかりなのにいつも通りでいられる方が珍しいだろう。それがまた間抜けに映って、妙に可愛らしく思えて、バイカーシェードは笑みを漏らす。ぺちん、と力の入っていない手で頭を叩かれた。
「てか、何でそないめっちゃ上手いねん。どこで覚えたんや」
 赤らんだ顔のまま、マルノミは唇を尖らせる。想定外に早く高みへと至った悔しさと、不安を孕んだ懐疑の音色をしていた。拗ねているようにも聞こえる。こんな行為など到底似合わない、子どもめいた姿だった――股ぐらの楔はまだ勃ち上がっているのだからシュールである。
「これだけやってれば嫌でも覚えるだろ」
 お前が悪い、と吐き捨て、バイカーシェードは拳で口元を拭う。口淫など、もう互いの両の手足を使っても数え切れないほど行ってきた。好むやり方や弱い部分なんてもう把握しきっている。ならば、そこを重点的に刺激してやればいいだけだ。敏感な部位はそれだけですぐに精を吐き出すのだから単純である。
 ふぅん、とマルノミは鼻を鳴らす。尖っていた唇が解け、今度は憎たらしい笑みを作り出す。細くなった目元には、喜悦が浮かんでいた。そぉかぁ、と満足げな声と共に、彼の両手が頭を包んで撫で回す。まだ濡れた拳で弾き飛ばした。
 立ち上がり、少年は恋人が縁に腰掛けるベッドへと乗り上げる。そのまま、枕に頭を預けてごろりと横たわった。太い弦を掴み、サングラスを片手で取って脇に放り投げる。黒いそれは音もなくシーツの上に転がった。
「続きやるぞ」
 お前だけきもちいいとかおかしいだろうが、とバイカーシェードは吐く。音が少し上擦ったものになっていたのはきっと気のせいだ。精を飲み下した喉がまだ上手く機能していないだけだ。誤魔化すように瞬きするのと、ベッドが鈍い鳴き声をあげたのはほぼ同時だった。
 レギンスの縁に手を掛ける。コトを終わらせるには――きもちよくなるためにはこんなものは邪魔でしかない。さっさと脱ぎ捨てるのが最善だ。力を入れるより先に、ずるりと肌を布が撫でていく感触がした。指先からは布が消え、代わりに視界の端っこに下着ごと引き抜かれたレギンスが見えた。どうやら脱がされたらしい。こいつは脱がしたがりなのだ。
 引き抜いた他者の下穿きを乱雑に放り投げ、マルノミはベッドの下を漁る。ローションを探しているのだろう。その間に、シャツのボタンを外してしまう。こちらもまた、行為の上では邪魔者である。上半身を起こし脱ぎ捨てようとしたところで、ぐっと下半身から負荷がかかった。そのまま、肩が、上半身がベッドに押しつけられる。反して、下半身は持ち上げられていた。鍛えられた足を掴んだ手が、そのままベッドに縫い付ける。背は中途半端に丸まり腰は持ち上がるという、まるで後転をし損ねたような形だ。は、と思わず疑問符が付いた声が漏れる。
「おい」
「黙っとき」
 不服の申し立ては短い言葉で斬り捨てられた。舌噛むで、と降ってきた声は何だか楽しげだ。ろくなことを考えていない証拠である。おい、と先ほどより強く声を放つ。同時に、肌に冷たいものがぶちまけられた。ボトルから直接垂らされるローションが、これから暴く場所だけではなく締まった尻や勃ち上がった己自身を濡らしていく。冷えてぬめった感覚は数えるのも面倒臭いほど体験しているが、未だに慣れずにいる――慣れてしまうのもそれはそれで問題だが。
 秘められるべき場所に、まだ硬い窄まりに指が触れる。出そうになった音を必死に潰し、息を呑み込んだ。触れたそれは皺のある縁をくるくるとなぞるばかりだ。労るような動きでもあり、宣言の一種にも思えた。今からここに挿入れるぞ、と。
 窄まった中心に指がひたりと宛てられる。身を固くするより先に、表面の硬いそれが這入ってきた。侵入者はおそるおそるといった調子で進んでいく。その度、じゅぶ、ずぶ、と猥雑極まりない音があがった。己の肉体から発せられているとは考えたくないそれに、バイカーシェードは身を捩る。足を押さえつける力が強くなった。
「危ないて。痛いんやなくて、きもちよぉなりたいんやろ?」
 笑みを含んだ声が、けれども切羽詰まったような響きが降ってくる。確かにきもちよくなりたいのは事実だ。でなければ排泄器官を舐めるなんて馬鹿げたことをやるはずがない。けれども、こんなおかしな姿勢を取る必要など無いではないか。訴えるより先に、ゆっくりと、確かに、マルノミの指が更にナカへと這入ってくる。根元まで埋まる頃には、息はすっかりと熱を孕んだ情けないものになってしまっていた。押し殺すも、浅くなる呼吸はみっともない音をたてるばかりだ。上から短い笑声が降ってくる。先ほどの意趣返しと言いたげなものだった。舌打ちをするより先に、緩慢な動きで指が抜かれていく。少しだけ曲げられたそれが内壁を擦り、胼胝が柔らかな部位を刺激する。薄く開いてしまった口から、ぁっ、と高い声があがった。
 ゆっくりと、腹が立つほどゆっくりと、マルノミは指を動かす。ただ突き入れるだけと思えば、鉤のように曲げた先端で擦り、広げるようにナカでくるくると円を描く。その度に神経は脳味噌に信号をぶち込んでくる。快楽と名の付いた信号をぶちこんで、思考を溶かしていく。身体に命令を送る役割を放棄させていく。気がついた頃には、口からは耳を削ぎ落としてしまいたいほどみっともない声が漏れていた。
「ぁ……ぅ、あっ」
 緩慢な指が増援を呼び、侵入者が二本に増える。うちがわをごりごりと強く擦られ、思わず嬌声が飛び出た。ガールのように高いそれがあまりにも情けなくて、肉をほじくられるのがあまりにもきもちよすぎて、目頭に熱を覚える。ぎゅっと閉じることでそれを押さえつけようとするも、這入り込んだ存在が許してくれなかった。ぐっぐっと二本の指が腹の中身を押す。瞬間、凄まじい感覚が頭を殴った。
「アッ! ぃ、あっ、あ……!」
「ここ、好きよなぁ」
 思わず開いた目、視界の中にマルノミが映る。蹴っ飛ばしてやりたいような笑みを浮かべた彼の顔も、指を突き入れられ従順に咥えこんだ秘所も、刺激していないのに先走りを漏らす己自身も、全て白色灯の下に晒されていた。この目にはっきりと映った。己の浅ましさ極まりない姿を、鮮明に認識してしまった。途端、心臓が跳ね上がる。指を咥えこんだ孔がきゅうと窄まる。ヒ、と悲鳴めいた声が部屋に響いた。
 しがみついてくるそれを振りほどくように、宥めるように、侵入者はうちがわを撫でていく。カリカリと引っ掻いて、きまぐれにあの場所をノックして、バタ足をするように開いて閉じて、ヒトの中身をめちゃくちゃにしていく。その度に脳味噌が形を失っていく。声帯が身勝手に震えて変な音を作り出す。腹の底で燻っていた炎が轟々と燃え上がっていく。もう何かを制御することも、何かを考えることもできなくなっていた。ただただ与えられる快楽を享受するだけだ。
 ずる、と聞きたくもない音をたてて指が去っていく。は、と安堵に漏れた息はすっかりと熱を帯びていて、嬌声とほぼ変わりない音をしていた。抱き締める相手を失った後孔がひくひくとはしたなく収縮する。求めていたものを失った腹が泣き声をあげる。同時に、心臓は動きを早めた。だって、指がいなくなったら、次に何が来るかなんて分かりきっていて。
 衣擦れの音。しばしして、また孔に何かが宛がわれた。指とは違う熱。指とは違う硬さ。何より、目の前にあらわになったその凶悪な形。待ち望んでいたものに、腹の底がきゅうと切ない声をあげる感覚が襲った。愚かしいそれを否定する思考力など、もう残っていない。ぁ、と期待に満ちた喘ぎを漏らすことしかできなかった。
 硬い先端が、解しに解した孔へと挿入っていく。ぐっと押しつけ、ずぷずぷと押し入り、熱で粘膜を焼いていく。その光景が全て光の下に晒され、見せ付けるように己の眼前で繰り広げられていく。腹からもたらされる快楽に羞恥を煽る光景。最高と最悪がぐちゃぐちゃになって、全部まぜごぜになって。視覚情報と触覚情報を受け止めた脳味噌は、最後の最後には法悦を叫んだ。まるで押し出されるように、喉からみっともない声が何度も吐き出される。己のものだと信じたくない細く高い声が乱れたシーツの上を転がっていった。
 マルノミの動きが止まる。昂った彼自身はまだ半分も這入っていない状態だ。一体どうしたのだろうか。何で這入ってこないのだろうか。何で、きもちよくなろうとしないのだろうか。続きをねだるように内壁が蠢き、ちょっとしか掴んでいない雄の象徴を撫で上げる。息の詰まる音、ナカで跳ねる肉。足を押さえつける手が更なる負荷を掛けてくる。ぼやけつつある視界の中、大きな口、その口角が不気味なまでに吊り上がるのが見えた。
 ばちゅん。
「――アッ!? ぃ、いっ……、あァ!」
 湿った大きな音が鼓膜を震わせる。瞬間、脳味噌の中身がバチバチと音をたてる心地がした。びくん、と驚愕と快感に身体が跳ねる。マルノミが一気に突き入れたのだ、と気付く頃には、淫猥な音が目の前で鳴り響いていた。
「ぅあっ! お、ま……、あ、ァ、ッア…………!」
 ばちゅん、ぼちゅん、と卑猥な音が部屋中に響く。その度にうちがわは快楽信号を脳味噌に叩きつけた。受容したそれは頭の中を揺さぶり、べったりと桃色に塗り潰していく。きもちいいことしか考えられないように作り変えていく。おかげで声を押し殺す機能など忘れてしまったようだ。喉は空気を押し出し、声帯は勝手に震え、甘ったるい声を口から吐き出させる。耳を斬り落としてでも聞きたくない、己のものとは絶対に認めたくない情けない声だ。けれど、制御機能を失った身体は本能に任せて悦びを謳い上げた。
 硬いモノがすっかりと柔らかくなったうちがわを突き進み、拓いていく。張り出たカリでうねる肉を耕し、太い幹で隘路を押し広げ、ヒトの中身を暴いていく。奥底に叩きつけるように突き入れたと思えば、小刻みに動かし指で散々いじくった部分をこね回す。しとどに流れる先走りを塗り込めるように先端を媚肉に擦りつける。その度に、神経は丁寧に快楽を拾い上げて頭へと伝達する。信号を受け止めた脳味噌は、どんどんと形を失っていった。ただただ情報を――もたらされる淫悦を受け止めるだけの存在へと成り下がっていく。
 性行為などもう数え切れないほどしている。しかし、今回は特別きもちがいい。何しろ、普段は届かない場所まで雄杭が穿ってくるのだ。垂直に突き立てる体勢によるものだろう、なんて考える暇は無い。ァ、ぅあ、と浅ましい声が口を突いて出る。開閉機能を忘れた口は開きっぱなしになり、絶えず嬌声と唾液を漏らしていた。肉が肉を耕す音と合わさって、この上なく卑猥な合奏が部屋中を満たしていく。
 突如、声が止む。空気と声を吐き出す口が苦しさを覚える。ナカだけではなく、口まで熱を感じる。ぬめる何かが舌を絡め取る。口付けされているのだ――否、食われると言った方が正しい。唇全てがマルノミの口の中に収められていた。
 呼吸の音が、唾液がこねられる音が、猥雑なハーモニーを更にいやらしいものにしていく。腹のナカだけでなく、耳まで犯していく。凜々しい目元がどろりと溶けるように垂れ下がった。
 口付けの最中でも、マルノミがじっとしているはずがない。穿つように腰を垂直に押しつけ、しなやかな内臓を押し広げて形を変えさせていく。舌と舌が擦れて、肉と肉が擦れて、多大なる快楽を生み出す。頭の中にはもう『きもちいい』の五音節だけが浮かんでいた。それも肛悦が全て蹴散らしていくのだけれど。
 ばちゅばちゅと腰つきが早くなる。ローションが大太刀でこねられる音もどんどんと鋭さを増していった。口が解放されると同時に、動きはどんどんと激烈なものとなっていった。ぐちゃぐちゃのどろどろになった脳味噌が一つの事実を理解する。果てが近いのだ。この腹に子種をぶちまけようとしているのだ。一番きもちいいことをしようとしているのだ。びくびくと身体が跳ね、口は相変わらず悦びの声をあげる。唾液にまみれた口元に、薄い笑みが浮かんだ。
 早くちょうだいと言わんばかりに内壁が蠢く。ぎゅうぎゅうと抱き締めて、刺激して、縋りつく。必死なそれを振りほどき、大業物は何度も抜いては突き入れてを繰り返す。互いに最高の瞬間を求めての動きだ。淫猥極まりない音の中に、嬌声が二つ混ざっていく。短いそれらは、やはり果てを意味するものだった。
 ごちゅん、と腹の一番奥で音が聞こえた気がした。
 瞬間、ぼやける視界に火花が散る。とろけた脳味噌がバチバチとショートする。法悦の涙を流していた腹の中身がこれ以上に無い叫びをあげた。悦びの叫びを。
「――ぅっ、ぐ、ぅ!」
 ビクン、とバイカーシェードの身体が一際大きく跳ねる。あれだけあげていた高い嬌声は、詰まったものに変わった。あまりの肉の悦びに、喉は息を吐き出すことすらできなくなったのだ。一拍置いて、顔に熱。揺さぶられて揺れる己自身から精が吐き出されたのだ、と認識するより先に、ァ、と上擦った声が頭上から聞こえた。
 ぼぢゅん、と淫らな音が下半身からあがる。同時に、うちがわを熱が焼き尽くしていった。マルノミもまた達したのだ。吐き出された子種が腹の中身を蹂躙していく。どぷどぷと注ぎ入れて、ナカにマーキングしていく。これは自分のものなのだ、と主張し染めていく。ただ熱を注ぎ込まれているだけだというのに、最高にきもちいい。達したばかりの頭が、快楽を認識してまたバチバチと火花を散らす。もう弾けて無くなってしまいそうな心地だった。きっと、それすらもきもちいいのだろう。
 達したばかりだというのに、マルノミは腰を動かす。精巣の中身を全て吐き出し、塗り込めているのだ。きもちいいことを求めて、無意識の所有欲を剥き出しにして、少年は小刻みに動く。その度にうちがわに欲望が流れ込んできて、脳を焼いていく。開きっぱなしの口は、突かれる度に短い悦びを吐き出した。
 ようやく動きが止まる。ずるり、なんて音が聞こえてきそうなほどゆっくり、萎びた肉茎が肉の道から抜き出された。ほぼ同時に、足を押さえつける力が無くなる。ドサ、と隣から鈍い音が聞こえた。
 ようやく無理な姿勢から解放され、意識がまともな形を取り戻し、バイカーシェードは大きく息を吐く。サングラスはとうの昔に放り出したというのに、視界がぼやけて悪いったらない。瞬きをすると、眦を何かが垂れゆく感覚がした。目元も口元だけでなく、鼻や頬のあたりまで妙な冷たさを感じる。重い腕を動かし触れてみると、ぬるりとした感触が指を伝った。離れた指先を眺める。紅潮した末端には、薄い白が付着していた。
 そうだ、己の精液だ。無理な姿勢で行為をしたせいで、顔に精をぶちまけてしまったのだ。腰や足、尻にじわじわと痛みが広がっていく感覚。無理矢理押さえつけられ曲げられた場所が、加減無しに打ち付けられた場所が不満を噴出しだしたのだ。
「ふ、ざける、なよ、おまえ」
 なんとか手を持ち上げ、バイカーシェードは真隣へと腕を下ろす。ばちん、と重い音。いったぁ、と疲れ果てた声があがった。
「ええやん。よかったやろ?」
 問う声はこの上なく満足げなものだった。それはそうだ、ヒトの身体を好き放題にもてあそび、子種全てを吐き出したのだから満足していないわけがない。それが腹立たしくて――事実を突きつけられて、不愉快で仕方が無い。否定の言葉を返そうにも、あれだけ喘いだ喉は痛みを訴えてまた機能しない。舌打ちをするのがやっとだった。
「またやろな」
「やらん」
 ウキウキなんて擬音が似合う声でマルノミは言う。ざらついた声が短く切り捨てた。
 またなんてごめんだ。こんな無理な体勢など、顔に欲望を吐き出してしまうような体位など、きもちよすぎて何もかも分からなくなるような行為など、当分はやりたくない。
畳む

#腐向け #R18

スプラトゥーン

大事にするしかなくなるじゃねぇか!【ヒロニカ】

大事にするしかなくなるじゃねぇか!【ヒロニカ】
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独占欲強めでニカちゃんに贈り物しちゃうヒロ君見たくね?気付かないまま愛用してたけど気付いた瞬間顔真っ赤にして叫ぶニカちゃん見たくね?というオタクの末路がこちら。戦略については薄目で見てください。
最強ペア決定戦に出ようとするヒロニカの話。

「水持ってくる」
 タブレット、ノート、雑誌。様々なものが広げられたローテーブルに手をつき、ベロニカは言葉短く立ち上がった。お構いなく、と必要な資料をリュックから取り出しながらヒロは言う。しなやかな指は卓上にコップの居場所を作っている最中だった。鼻を鳴らすように返し、家主である少女は台所に続く扉の向こうへと消えていった。
 タブレットを操作し、少年は今日のためにまとめてきたフォルダを開いていく。『yagura_masaba.jpg』と書かれた画像ファイルをタップすると、簡略化されたステージマップが大画面に広がった。書き込めるよう編集アプリに送り、カバーを折り畳んで机上に立たせて置く。液晶画面を走らせるスタイラスペン、白無地のノートを彩る三色ボールペンが机に転がった。
 バンカラ街では不定期にイベントマッチが開催される。ランダムで配布されたブキでバトルする、ヤグラやカーリングボムが巨大化する、スペシャルウェポン使い放題。内容は何でもありのハチャメチャなものばかりだ。まさにイベント、まさにお祭りである。
 今月頭に発表された予定表には、五つのイベントマッチが書かれていた。ウルトラハンコ祭り、、最強スピナー決定戦、塗りダッシュバトル、最強ペア決定戦、ツキイチ・イベントマッチ。それを見て、顔を合わせ頷きあったのは記憶に新しい。
 最強ペア決定戦。
 通常ならば四人チームで行うガチヤグラを二人ペアで戦うイベントマッチだ。調整されてはいるものの、少人数で戦うため普段より試合展開が早いのが特徴だ。また、『最強ペア』を謳うだけあって、事前に友人知人を誘って参加する者が多い。練度が高く息の合った二人組と当たる確率は他のイベントマッチに比べて格段に上がっていた。相性によっては一分足らずで終わるほどのスピード感、そして実力勝負、ひいてはコンビネーションが存分に発揮されるイベントである。
 ベロニカとチーム――二人で戦うようになって久しい。今では暇さえあれば一緒に潜って戦うほどの仲だ。こんな『最強ペア』を決めるイベントに出ない理由など無い。
 出るには勝ちたい。具体的には、上位五パーセント入賞が目標だ。ガチヤグラにおいて.96ガロンとトライストリンガーは特別相性が悪いわけではない。しかし、今回のイベントマッチは中後衛の二人だけで凌ぎ、オブジェクトを進めなければならないのだ。研究を重ねるのは必然であった。
 ナマコフォンにガチヤグラの情報を出しながら、ヒロは目の運動をするように部屋を見回す。赤い目に、青いタコ――正確にはデフォルメされたタコ型のクッションが映った。座布団のように床に投げ出されたそれにステッチされた目は、虚無めいて天井を見つめている。
 子どもの顔ほどあるクッションは、タコらしい丸い輪郭のハリを失いなんだかくたびれている。ふわふわとした生地は汚れは目立たないものの、少ししんなりしているように見えた。中の綿が潰れているのか、薄くなって萎びている。ベランダで日干しをしているインクリングの姿を思い起こさせる姿だ。
 一目で使い込まれたことが分かるそれに、オクトリングの少年は口元を綻ばせる。何しろ、このクッションは己が贈ったものである。彼女の種族であるインクリングではなくオクトリングのデザインを、黄色ではなく青色の品を選んだのは、少しの下心と独占欲だ。いつでもそばに置いてほしい。彼女が持つものが己の色であってほしい。そんな欲望がにじんでしまったものの、当の本人は無邪気に喜んで受け取ってくれた。どうやら気付いていないらしい。愛しい彼女らしいとは思うものの、後ろ暗い欲望が露見しなかった安堵はあるものの、どこか寂しさを覚えたのだからこの心はわがままで面倒だ。いつだったか友人に借りた漫画曰く『恋とは面倒くさいもの』らしいが。
 愛おしさを込めて贈った品がくったくたになるほど使い込まれているという事実は、言葉にしがたい嬉しさを湧き起こす。使わずに取っておいてくれるのも十分に嬉しいが、やはり使い倒されている方が個人的には喜ばしい。それだけ彼女と一緒にいるということなのだから。
「おまたせー」
 ノブが回る音と軽やかな声が飛び込んでくる。視線を音の方へ移すと、足でドアを閉めているベロニカの姿があった。手には空のマグカップ二つと一・五リットルのペットボトル、そしてお菓子のバラエティパックがあった。作戦を立て議論を繰り広げるのだ、水も糖も必須である。ペットボトルごと持ってきたのは何度も汲みに行くのが手間だからだ。ちょっとの手間は積み重なって、結果的に時間を多大に無駄にしてしまう。
 地面にペットボトルと腰を下ろし、少女はクッションを引き寄せる。そのまま、あぐらを掻いた足の間に青いそれを置いた。小麦色の腕がくたびれた青に回され、ぎゅうと抱き締める。あまりにも自然な動きに――当然のように抱き締める姿に、少年の肩がびくりと跳ねた。
「……そのクッション」
 おそるおそる、好奇心に突き動かされるまま少年はクッションを指差す。ふわふわとした表面をなぞる指が動きを止め、黄色い瞳がタブレットから赤い瞳へと移った。ん、と機嫌の良い声が細い喉からあがる。
「あぁ、ヒロがくれたやつ。ふわふわですげーいいわ。抱えてたら腹冷えねーしな」
 あんがとな。黄色い目が細まって、カラストンビ覗く勝ち気な口が柔らかく弧を描いて、まろい頬が柔らかく形を変える。爛漫という言葉がよく似合う、眩しいほどの笑顔だった。少なくとも、下心を自覚している少年の目を、心を焼くほどには。
「……気に入っていただけて何よりです」
 痛みを覚える心臓を押さえつけながら、ヒロは笑みを作る。必要以上にならないよう抑える、と言った方が正しかった。だらしなく緩みそうになる頬の筋肉を引き締め、人並みのまともな笑みを浮かべなければならない。いくら恋人とはいえ――否、恋人だからこそ、彼女の前では良い格好をしたいのだ。スマートで大人びたヒトでありたいのだ。
「キレイな青だよなー。ヒロの色そっくり……」
 クッションを掲げたベロニカは、ふわふわとしたそれと恋人の顔を交互に見比べる。その視線が、言葉が、不自然なほど急に途切れる。急ブレーキを踏んだかのようだった。蒲公英の目がパチリと瞬く。その意味を察し、少年の頭に警鐘が鳴り響く。浅黒い肌が青くなるのと、小麦の肌が赤くなるのは同時だった。
「わー!!」
 部屋中に、下手をすればアパート中に響きそうな叫声が少女の口からあがった。近所迷惑など一切頭にない声量だった。少年も悲鳴をあげるように口を大きく開く。しかし、そこから音が飛び出ることはなかった。喉は引き絞られて音を発するどころか息を肺に送ることすらできなくなっていた。酸素が途絶えた苦しさを覚える暇も無く、少年は目を見開く。すっかり変わった顔色と正反対の紅玉の瞳には、絶望と表現するのが相応しい陰が差していた。
 掲げられていたクッションが宙を舞う――否、ラインマーカーめいてまっすぐに突き進んでいく。青い触腕を掠めそうになるほどの剛速球は、ぽすんと可愛らしい音をたてて壁にぶつかった。壁紙を撫でるように落ちていったそれが起きたままのベッドの上に着地する。ドン、と壁の向こう側から鈍い音が聞こえた。
「おま、お前、まさか」
 わなわなと震えながら、ベロニカはどうにか声を発する。言葉を紡ぎ出す唇も、まっすぐに見据える顔も、インクを浴びたかのように色付いていた。クッションの代わりに掲げられた角張った人差し指が、青くなったヒロの顔をまっすぐに差す。まるで探偵が犯人を追い詰めるような姿だ。秘密を暴いてしまったのだから実質同じである。
「い、いえ? 偶然じゃないですか?」
 しどろもどろになりながら、見苦しさなど完全に忘れて、オクトリングはとぼけ声を吐き出した。いつでもヒトの顔を見つめる赤い視線はうろうろと宙を揺らめいている。鋭い黄色の瞳と差す指が視界の端に映る。それを真ん中に収める勇気など、今のところ持ち合わせていない。
 どうしよう。いやどうしようもない。けど。少年の頭を言葉がぐるぐる回る。ぐちゃぐちゃにもつれたそれは塊となって、意味の無い塊となって転がっていく。それが巡らせるべき思考を塞ぎ止めるように頭の中身を硬直させた。
「嘘吐くんじゃねー!!」
 すぐさまインクリングは否定の言葉を叫ぶ。バトル中に報告するときのそれと大差ない声量だった。つまりは、狭い部屋を震わせるほどの爆音である。カラストンビを剥き出しにする様は、審判子猫が威嚇する時の姿とよく似ていた――段違いに恐ろしいものだが。
 ドン、とまた鈍い、更に強い音が壁の向こうから鳴り響く。隣人の訴えだった。つまり、近所迷惑なことを巻き起こしている証拠である。必然的に二人同時に口を噤む。それでもまだ言い足りないのか、少女の口元はわなわなと震えていた。
「……っざけたことしやがって」
「気付いてなかったんだからいいじゃないですか」
 吐き捨てる少女に、少年はいけしゃあしゃあと返す。完全に吹っ切れた声だった。暴かれてしまったのならば仕方ない。謝ったところで取り返しが付かないのだから、もう開き直るしかなかった。格好付けるには、スマートな様を取り繕うにはもう何もかも遅いのだ。
「気付いたら使いにくいだろうが」
 あー、と濁った声を吐き出して、ベロニカは天井を仰ぐ。落ちていった言葉から、濃く色付いた耳から、まだ彼女が己のことを強く意識していることが窺えた。それが胸に染みこんでいって、少年の胸にほのかな熱を宿す。腹の奥底に落ちていって何かを満たす感覚がした。
 沈黙が部屋に落ちる。壁を殴られるほどの騒がしさはもうどこにもなかった。あるのは赤い顔と色を取り戻した顔、そしてベッドを転がる青いクッションぐらいだ。ふぅ、とオクトリングは細く息を吐き出す。机の上に転がったスタイラスペンを手に取った。
「……えっと、ペア決定戦ですが」
「この状況でその話し出すとかマジかよ……」
 沈黙を破った少年に、少女は呆れ果てた声を漏らす。ドン引き、と表現するのに相応しい音色だった。そんなことを言ったって、有限である時間は過ぎていくばかりなのだ。午前中にある程度の戦略を立て、午後のスケジュールで立ち回りを確認する予定を立てているのだ。話は早く進めるに限る。
「もうどうしようもないじゃないですか」
「開き直ってんじゃねぇよ」
 タブレットを操作する青を、細くなった黄が睨みつける。うー、と細い喉から濁った音が漏れ出るのが聞こえた。
「ちゃんと持って帰りますから」
 平静の音を作り出して、ヒロは短く告げる。知られてしまった以上、彼女があのクッションを持ち続けるのは不可能だろう。クッションに罪はないのだから、捨てるのはあまりにも忍びない。回収して己の部屋の押し入れにしまいこむのが一番だ。本当なら役目を全うさせてやりたいが、彼女が使い倒した物を己が使う豪胆さは生憎持ち合わせていない。大人びようと頑張ってはいるものの、まだまだ心は青少年のそれのままなのだ。
「……いらねぇよ」
 ダン、と机に手を突いて、ベロニカは立ち上がる。鍛えられた足が大きく歩んでいって、少年の後ろ――ベッドへと辿り着く。種族特有の大きな手が、白いシーツの上に転がるクッションをむんずと掴んだ。足早に戻ってきて、少女はまたあぐらを掻いて座る。その足の間には、くたびれたクッションが鎮座していた。
 紅の瞳が丸くなる。それが何を意味するかなど、そんな都合が良い現実が繰り広げられるなど、青春真っ只中の脳味噌は処理しきれずフリーズを起こす。尖った指からペンが落ち、机の上を転がっていった。
「ペア杯だったら高台取るより降りて右行った方がいいよな」
 机上を駆けゆくペンを四角い指が捕らえる。そのまま、タブレットの画面をなぞった。自陣坂道下に彼の目のように赤い丸が描かれる。白黒の画像の上に、白紙だった計画の上にやっと色が乗る。
「……はい。見晴らしが良いので狙われやすいですが、ミストを投げれば少しは対応できるかと」
「敵高……よりも坂道のが良さそうだな。それか箱のとこ」
「ルート絞りたいですしね。どっちにしましょうか……」
 先ほどまでの騒がしさが嘘のように、少年少女は議論を重ねる。少女の赤い耳と毛並みが乱れたクッションが、騒ぎが現実であることを語っていた。
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#Hirooooo #VeronIKA #ヒロニカ

スプラトゥーン

めくるめくめくりめくり【ス腐ラトゥーン】

めくるめくめくりめくり【ス腐ラトゥーン】
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いっぱい着てるの脱がせていくのエロいよね……というヘキが爆発したもの。イカ×イカ。便宜上名前がある。
不服ながらも脱がされるイカ君とウッキウキで脱がすイカ君の話。

 布と肌が擦れる音が己の腹の上から響いてくる。音が鳴るのと同じだけ肌寒さを覚えていった。皮膚の上を服が滑る感覚など、服が脱げる感覚など、肌が晒されていく感覚など、生きていれば毎日味わうものだ。嫌というほど、否、嫌と思う暇すら無いそれだというのに、今ばかりは心拍数を上げていく。跳ねる心臓がそのまま胸部を盛り上がらせてしまうのではないか、なんて馬鹿げた考えが輪郭を失いつつある頭をよぎった。
 服を押し上げる手は胸の下で動きを止めた。布を放り出した手がわざとらしく腹の上をゆっくりと滑っていく。年頃の割には鍛わった腹が一瞬硬くなった。息を吐き損ねた喉が変な音をたてる。
 ハーフパンツのウエストに角張った指が差し込まれる。引っ掻くようなそれに、また身体中の筋肉が強張る。指の主は気にする様子無く、もう片方の手もハーフパンツにかけた。しかと掴んだそれが、バトル中でも食らいついて身体を守る布地を引きずり下ろしていく。外壁の下から現れたのは肌ではない、鮮やかなグリーンの線が走る黒い布地だ。スパッツはまだ持ち主の身体を守ろうと健気に仕事をこなしていた。
「……なぁ」
 こちらを呼んでいるであろう声に、エンは視線で返す。いつの間にか細くなっていた視界の中、恋人であるカラはじぃと腹――というよりも、脱がしたばかりの股ぐらを見つめていた。行為中とはいえあまりにも露骨なそれに、覆い被さるその身体をつま先で軽く蹴る。いてぇって、と微塵も思っていないであろう言葉が飛んできた。
「いっつも思うんだけどさ」
 種族特有の大きな手が、スパッツの丈夫な布越しに太ももを撫でる。一枚の壁があるというのに、熱を持ち始めた肌はやけに鋭敏にその存在を感じとった。擦れる度にぞわぞわと何かが神経を駆け巡っていく。くすぐってぇ、と言葉にして訴えることでその正体を無理矢理確定させた。
「何枚も脱がしてくのってエロいよな」
「……は?」
 降ってきた言葉に、組み伏せられた少年は間抜けそのものの声を漏らす。何を言ってるんだこいつは。懐疑たっぷりの視線でカラの顔を見る。言葉の主は至極真剣な顔で股ぐらを眺め、毛布を品定めするようにスパッツに包まれた足を依然撫でていた。紫の瞳の中、いつもの掴み所のない色は鳴りを潜めている。代わりに、燃え盛るような揺らめきと輝きがあった。手が動いて、擦れた皮膚が神経を通して感覚を脳味噌にぶちこむ。先ほど『くすぐったい』と自ら定義付けたはずなのに、信号を受けとった頭は違うと大声で捲し立てた。
「いやさ、なんか焦らしてく感じでエロいじゃん」
「訳分かんねーこと言ってんじゃねーよ」
 相変わらず理解しがたい理論を並べ立てていくカラに、エンは赤い目をこれでもかというほど眇める。恋人が独自の感性で意味の分からない理論を言い出すのはいつものことだが、ベッドの上では勘弁してほしい。そーゆー雰囲気にしてきたくせに、と心の中でごちる。付き合いは長いが、こういう部分は未だに理解ができないままであった。
 腕をつき、少年はシーツに放り出された――好き放題されていた足を動かして起き上がろうとする。熱でぼやけ始めた思考はすっかりと元のソリッドな輪郭を取り戻していた。こんな状態で続きをするなど無茶だ。はぁ、と呆れにも諦めにも似た溜息を吐くと同時に、肩に何かが触れた。掴まれたのだと気付いた頃には、再びマットレスに身を委ねていた。疑問形の息が薄く開いた口から漏れる。
 たくし上げられたシャツがわだかまる胸を、ほんの数分前に剥き出しにされた腹を、まだ城壁一枚残した足を、やけに温度がある手が撫でていく。熱が移動する度、皮膚が擦れる度、おもちゃのように小さく身体が跳ねる。たったそれだけの刺激で沈めたはずの炎に火が再び灯っていく。
「オモムキがあんじゃん。ワビサビってやつ?」
「意味分かんねーこと言ってんじゃねーよ!」
 触れられていない方の足を曲げ、エンは覆い被さる恋人の腹を力いっぱい蹴っ飛ばす。詰まって濁った音が上から落ちてきた。いってぇ、と震える声が続けて降ってくる。それでも、太ももにかけた手は離れることはない。むしろ支えにするように強く押してくる。それすらも毛羽立つ感情を刺激する。
「ヤる時に言うことかよ!」
「思っちまったからしかたねーだろ!」
「なくねーよ! いい加減口閉じること覚えろ!」
 組み伏せ、組み伏せられた少年たちは互いに引くことなくぎゃあぎゃあと喚き立てる。先ほどまで二人を包んでいたどこか薄暗い、何だか悪いことをしているような、けれども魅力的で甘ったるい空気など、全て粉々になって霧散していった。蜃気楼か何かだったのかと疑うほど、もう欠片一つ残っていない。日常が戻ってきてしまっていた。
 あー、と濁った大声をあげエンは身を起こす。足に半分引っかかっていたボトムスに手を伸ばした。もう一度カラの腹を蹴り飛ばし、空間を作る。少年は狭いスペースの中で器用に履いていく。は、と溜め息にも似た疑問形の音が降ってきた。
「何で着てんの?」
「こんな状態でヤってられっかよ」
 訝しげに、ともすれば咎めるようにカラは言う。棘たっぷりの言葉で返事してやった。はぁ、と半分裏返った声とともに、起こした身が勢いよく倒れていく。何度も重い身体を叩きつけられたマットレスが鈍い抗議の声をあげた。
「ヤれるだろ。ヤんねーと収まんねーよ」
 下品極まりない言葉と正反対、腹立たしくなるような可愛らしくむくれた顔で恋人は告げる。眉を寄せるとほぼ同時に、手を取られ引っ張られる。導かれた先で手のひらに感じたのは、膨れた硬い何かと布越しでもはっきりと分かる熱だ。少年の眉間に刻まれた皺が更に深く、はっきりとしたものになる。
「何で萎えてねーんだよ。馬鹿か?」
「馬鹿はそっちだろ。勝手に終わらせんな」
 正気を疑うと言わんばかりの視線を向ける。刺すようなそれを浴びる当人は、同じように眉を寄せ、カラストンビを剥き出しにした。街中で大きい方の猫を狙う小さい方の猫を彷彿とさせるものだ。つまり、覇気があるようでどこか間抜けだ。
「こうやってさ」
 いたずらげな声とともに、中途半端に履いたボトムスに再びカラの手がかかる。汗が肌を伝うのと同じ速度で指が動いていく。すっかり萎びた中心に引っかかることなく、するすると音をたてて布が剥がされていく。あっという間に足の守護者はスパッツ一枚だけになってしまった。蹴り飛ばしてやろうにも、ボトムスは先ほどと違い足を動かしづらい位置まで引きずり下ろされていた。明らかに故意である。独特の思考を持つ脳味噌にはちゃんと学ぶ機能は備わっているようだ。これ見よがしに舌打ちをした。
 布一枚になった太ももを、また手が這い回っていく。ぞわぞわと肌が粟立って、神経がそわだつ。くすぐってぇっつってんだろ、と己に言い聞かせるように吐くも、頭はこれを待ちわびていたものだと訴えた。気にする様子無く、恋人の手は布の上を我が物顔で這っていく。筋肉の形を確認するように、まだ柔さが残る肉を楽しむように、手は、指は、足を撫で回す。たったそれだけだというのに、腰の周りに、腹の奥底に何かが宿っていく。消し飛んだはずの炎がだんだんと姿を現し、やわい刺激を燃料に燃え盛っていく。ただ呼吸しただけのはずなのに、吐き出した息は不自然なほど短くなってしまった。
 太もも全てを味わっていた手が、するすると上がって腰の辺りで止まる。張り付くスパッツ、そのウエスト部分に指がかけられた。思わず飲み込んだ息が喉に引っかかって変な音をたてる。気にすることなく、カラはゆっくりと布を引きずり下ろしていく。焦らすような、嬲るような動きだった。ゆっくりと、確実に、常に守られて日に焼けていない健康的な肌が、機能美に満ちた――つまりは色気の一つも無い下着が、朱を帯び始めた昼の光の下に晒される。てめぇ、と反射的に悪態を吐く。
「何枚もゆーっくり脱がしていくのってエロいじゃん? これからエロいことすんのが強調されてくっつーか」
 返事はろくなものではなかった。その上、鼻歌でも歌い出しそうなご機嫌な調子である。また一撃加えてやろうとするが、ボトムスとスパッツの二枚で押さえられた状態では蹴り上げることは難しかった。クソが、と鋭く言葉を吐く。
「……知るかよ」
 呟くように、溜め息のように吐き出して、エンは天井を仰ぐ。エロい云々は分からない。ただ、焦らされているのも、これから何が起こるのかを告げてくるのも、全部一連の動きで理解してしまった。理解できてしまった。理解などしたくないのに、情欲の炎に炙られた身体はお行儀良く学んでしまったのだ。クソが、とまた吐き捨てる。今度は先ほどより勢いの無い、どこか切羽詰まった響きをしていた。それが腹立たしくて仕方が無い。聞こえてくる笑声が火に油を注いだ。
 今度から短パンだけにする。エンは心の中で強く宣言する。もう恋人の訳の分からない感性に振り回されるのはごめんだ。こんな焦らしプレイもどきに付き合わされるなど勘弁だ。何より、こんなことを何度もされては着替える時に意識してしまいそうなのが嫌だった。風呂の度にこいつのことを思い出すなど考えたくもない。
 ようやく、下着に――中心にシルエットが浮かびつつある下着に指がかかる。散々嬲られおあずけをされていた脳味噌が快哉を叫ぶのが聞こえた気がした。
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#オリイカ#腐向け

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身支度はお家で済ませましょう【ライレフ】

身支度はお家で済ませましょう【ライレフ】
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髪の毛いじる推しカプはどれだけあってもいいとされている。ということで髪をいじくり回す右左。
寝坊したオニイチャンときちんと起きた弟君の話。

 しばし落ち着きを取り戻していた自動ドアが薄く音をたて開いていく。細っこい隙間に滑り込むように、人影が飛び込んでくる。ダン、と力強く地面を踏みしめる音が朝の教室に響いた。
「セーフ!」
 大口開けて影は――嬬武器雷刀は叫ぶ。一瞬音が途切れた教室は、すぐさま元の賑やかしさを取り戻した。
「ギリギリセーフデスネ」
 肩で息をしながら席に着く少年に、レイシスは時計を見て笑む。黒板の上に設置されたアナログ時計は、授業開始八分前を指し示していた。校門が開いているギリギリの時間だ。ほんの数分違いとはいえ予鈴もまだ鳴っていないのだから、彼の言う通りセーフはセーフである。
「何で起こしてくれなかったんだよー」
「二回は起こしましたよ。貴方が覚えていないだけでしょう」
 背もたれに腕を預けて振り返り、兄は汗が一筋伸びる顔をしかめる。後ろの席の主――一緒に暮らす双子の弟である嬬武器烈風刀は、涼しい顔で返すだけだ。そんなことねぇって、と朱い少年は唇を尖らせる。糾弾される弟は、実の兄など一瞥もせず鞄からノートを取り出す始末である。
 彼を何度も起こしたのは事実だ。揺さぶって、布団を引っ剥がして、遅刻すると言っても、片割れは身を捩るだけで起きる気配が無かった。そんなのに構っていては自分まで遅刻してしまう。そもそも、もう高校二年生なのに家族に起こされなければ目覚めないだなんて、いくらなんでも甘ったれている。自分にまで被害が及ばぬよう見捨てていくのは、烈風刀にとって当然の行動であった。いつもの行動でもあった。兄も分かっているだろうに。
 はわ、と可愛らしい声が予鈴が鳴る教室に落ちる。鮮やかな桃のまあるい目が、不貞腐れたように頬を膨らませる横顔を見つめた。
「雷刀、寝癖すごいデスヨ……」
「え?」
 レイシスの声に、雷刀は自身の頭へと手をやる。指摘通り、彼の髪はそこかしこが跳ねて乱れていた。普段はセットして跳ねさせている紅緋の髪の毛は、意図せず何カ所もぴょんと飛び出ていた。草刈り前で雑草がのびのびとしている芝生を彷彿とさせる有様だ。触れてやっと気付いたのか、髪の持ち主はうわぁ、と沈んだ声を漏らした。遅刻しかけたのだ、髪をセットする暇などなかったのだろう。当然であり、自業自得だ。
「寝坊するからこうなるんですよ」
「んなこと言っても仕方ねーだろ」
 背を刺す弟の言葉に、兄は眇目で返す。理屈が通った反論ができないあたり、自身の非を理解しているのがよく分かる。うっわぁ、と朱は何度も跳ねた髪を押さえて引っ込めようと試みる。勝者は寝癖であった。
「ブラシでなんとかならナイデショウカ」
 ポーチから小ぶりなブラシを取り出し、レイシスは席から身を乗り出す。頼んだー、と呑気な顔した当事者は声をあげて頭を少しだけ下げた。任せてクダサイ、と元気の良い声とたおやかな指が朱い髪へと伸びていく。触れるより先に、硬さの見える大きな手が白と朱の間に割って入って壁を作った。え、と声が二つ重なる。
「レイシス、必要ありません。寝坊した雷刀が悪いのですから」
 きょとりと目を瞬かせるレイシスに、烈風刀は笑みを浮かべて穏やかに告げる。声の柔らかさに反して、手は惑う少女の手に合わせて動いて行く手を阻む。気配すら触れさせまいという気概に溢れた姿をしていた。
 にこやかな横顔に、朱い視線が突き刺さる。少女へと向けられた碧い目が、一瞬だけ動いてそれに立ち向かう。視線の主は、つい数秒前のことなど忘れたかのように笑みを消していた。整った眉は寄せられ、まっさらだった眉間に小さく皺を刻んでいる。人より長い睫に縁取られた目は眇められ、鋭い光を宿していた。柔らかさを見せていたはずの頬はどこか強張り、八重歯がチャームポイントの口元はへの字に曲げられている。水を差すな、邪魔をするな、と言いたげな顔をしていた。よほどレイシスに手入れしてもらいたかったのだろう。弟にだって気持ちは痛いほど分かる。だからこそ、手を出し声を出したのだ。こんなことで兄だけが彼女の寵愛を受けるなどあってはならない。
「じゃあ、烈風刀やってくれよ」
「人の話聞いてました?」
 もはや不貞腐れて頬杖を突く朱を、碧は一言で切り捨てる。会話をするつもりなど毛頭無いと言わんばかりだ。瞼の陰で深くなった夕暮れ空の瞳が、眠気など欠片も無い端正な横顔を睨みつける。昼空色の瞳が一度だけ鋭く返す。火花散るようなそれは、ブラシを持って首を傾げる少女には到底見せない、見せてはいけないような眼光をしていた。ハッ、と鼻を鳴らす短い音が少しずつ静かになってきた教室に落ちる。
「レイシス、ブラシ借りていい? 自分でやっからさ」
「いいデスヨ」
 弟への険しい顔つきはどこへやら、ぱっと明るく表情を変えて雷刀は言葉を投げかける。まだ少しだけ不思議そうな顔をしたレイシスは、快諾の言葉と共にヘアブラシをその手に渡した。あんがと、と弾んだ声。
 硬さが見える手がブラシを操り、少年は寝癖と闘う。根元から押さえ込んで梳かし、跳ねを内側に潜り込ませるように撫でつけ、いっそのこといつもの形になるように整え。様々な手を尽くしているようだが、自由な朱髪は抑圧をはねのけその身を気ままに弾ませた。少女が持って見せている鏡を道標に格闘するが、まともな形などほど遠い有様である。当然だ、整髪料はおろか水も無しでちゃんと整えられるはずがない。
 ブラシの動きが止まる。角度を変えては活躍しようとしていた彼は机へと下ろされた。跳ね毛だらけの頭がゆっくりと動く。数秒前まで鏡が映し出していた真剣な目元は、眉も目尻も垂れ下がった情けないものとなっていた。
「れふとー……」
 しょんぼりという表現がぴったりなぐらい沈んだ声で、兄は隣に座った弟の名を呼ぶ。目つきも声もしょげた哀れみすら感じさせるものだというのに、先ほどよりも胸の真ん中が痛みを覚えた。全ては自業自得だというのに。寝坊したのも、寝癖が付いたまま外に出たのも、寝癖を直せないのも全て兄が悪いのだと分かっているのに、良心というものは余計な勘違いをして勝手に痛み出すのだ。れふとぉ、ともう一度名を呼ばれる。追撃と言わんばかりだった。結ばれていた口から出たのは、重い溜め息一つだけ。
「……レイシス、借りてもいいですか」
 どこか投げやりな調子な言葉と共に、烈風刀は手を差し出す。下がっていた眉も瞼も持ち上がり、ぱぁと効果音が聞こえてきそうなほど表情が明るくなった。おう、と打って変わった元気な声とブラシが手の中に飛び込んでくる。持ち主じゃないくせに、という言葉は面倒なので飲み込んだ。
 鞄から小容量の整髪料を取り出し、少年は席を立つ。かしこまったつもりで背筋を伸ばす兄の後ろに立った。手で跳ねた毛を解し、ブラシで梳かし、指先に少量取った整髪料で形を作っていく。あっという間に自由人の跳ね毛は姿を消し、普段よりも落ち着いた朱い頭ができあがった。はわー、と可愛らしい歓声があがる。
「さんきゅー!」
 鏡で一通り頭を眺めた少年は、振り返って片割れへと笑みを向ける。季節一足先に向日葵が咲いたかのようだった。感謝の言葉を投げかけられた烈風刀は、受け止めるのを躊躇うように渋い顔をする。表情筋を解してから、ありがとうございます、と少女にブラシを返す。すぐさま険しい顔に戻り、呑気な顔をした遅刻未遂へと冷えた視線を向けた。
「次からは自分でやってくださいよ」
「でも烈風刀がやるのが一番キレーじゃん」
 突き放す言葉に、雷刀は悪びれる様子も無く言い放つ。それが唯一の真実だ、と言わんばかりの調子であった。反省の色など欠片も無い。浅葱の目がどんどんと冷たさを増していく。そんな目を向けられる兄はどこ吹く風といった様子だが。
「やっぱり烈風刀って器用デスヨネェ」
 鏡とブラシを片付けたレイシスは、感心した様子で寝癖など影も形も無くなった頭を眺める。彼女もかなり癖の強い髪を持っている。きっと毎朝整えるのに苦労しているのだろう。だからこそ、その手腕に息を漏らしているのだ。
「まぁ、いっつもやってくれてっしな」
「そうなんデスカ?」
「そんなわけないでしょう。適当なこと言わないでください」
 自分のことでもないのにどこか誇らしげに朱は言う。桃はぱちりと目を瞬かせた。すぐさま碧は否定する。袈裟斬りにするような勢いと強さがあった。漫画なら擬音でも付きそうなほど鋭く素早く、弟は呑気顔を睨みつける。察したのか、兄は一瞬口角を上げてからソーデスネ、ととぼけ声で言った。あまりにもわざとらしい、怪しさしかないしらばっくれた音色である。視線が鋭さを増す。逃げるように、整えられた頭がくるんと回ってそっぽを向いた。
 いつもではない。ごくたまにだ。朝たまたま気付いて、たまたま時間があった時にやってやる程度だ。あんまりにも酷くて彼の手に負えない時だけ、乞われた時だけやってやる程度だ。それでも他人の頭に施すのが慣れるほどやっているという事実はこの指先が語っているのだから、たちが悪いったらない。
 電子音が教室に響き渡る。時計を見ると、いつの間にか本鈴の時間になっていた。たかが寝癖一つに、しかも他人の寝癖にこんなに振り回されるだなんて。波打ち際のような目が眇められ、日に焼けていない眉間にはっきりと皺が寄る。ガタガタと椅子たちの鳴き声の中に、重苦しい息が落ちていった。
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#ライレフ#腐向け

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洗濯日和、二度寝日和【神十字】

洗濯日和、二度寝日和【神十字】
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毎年恒例五月十日はGottの日!
ということで神十字。なんかごちゃごちゃ言ってるけど雰囲気で読んでください。
洗濯物をする神様と人間の話。

 青を背に白が広がる。四角いそれは、まるで空の色をハサミで切り取ってしまったかのようだった。うっすらと熱をまとった風が世界を吹き抜ける。春に芽吹き育った草木とともに、広大な白は羽ばたきのようにひらひらと身を翻した。
 眼前に広がる美しい白に、クロワは小さく頷く。空とはまた違う碧い目は普段よりも輝きを増し、口元は綻びつつも力が宿っている。洗濯物が入っていた大かごを前にした背中はどこか誇らしげだった。
 今日は朝から良い天気だった。一足先に夏が来たかのような深い青広がる、雲一つ無い晴天が世界を包んでいたのだ。昇った太陽は美しいまでに輝き、風は晴れ模様にはしゃぐように駆け抜けている。絶好の洗濯日和だ。特に、シーツのような大物を洗うにはこれ以上ない条件が揃っている。
 そうやって朝から洗濯に精を出し、まっさらに洗い上げ、まっすぐに干し終えた身体は満足感でいっぱいだった。それはそうだ、たとえ時間がかかっても綺麗に洗えた洗濯物がそよぐ様はこの上なく気持ちの良いものなのだから。
「くろわぁ……」
 後ろから輪郭がどこかにいってしまったかのような声。ほぼ同時に、背中に小さな衝撃が加えられた。青年が振り返るより先に、その腹に腕が回される。袖がまくり上げられ剥き出しになった腕は、少し硬い腹をゆるく抱きしめた。寝惚けて蹴っ飛ばした毛布をたぐり寄せる時とよく似ていた。
「ねみぃ……」
「……珍しいですね」
「あんな早くに叩き起こされたらさすがにねみぃって……」
 寝言のようにやわく言葉を紡ぐ青年――否、Gott()に、クロワは穏やかに返す。戻ってきたのはやはり寝惚けたような声だった。本当に眠いのだろう。
 確かに、シーツ洗濯したいがためだけに、不敬極まりなく早くに彼を起こしたのは事実である。その上、興味を示した崇める存在は二度寝することなく手を貸してくれたのだ。疲労も相まって尚更眠いのだろう。大物の洗濯は重労働なのだ。
 しかし、こうも眠気を主張してくるのは本当に珍しい。何しろ、相手は神である。人間ではない、人の理など通用しない――睡眠を取る必要も、食事を摂る必要も無い、何もかもを超越した存在なのだ。人間のように『眠い』なんて言い出すようになったのはここ最近のことである。
 人間のように寝て、人間のように起きて、人間のように食べて、人間のように働く。すぐに異物を排除しようとする人間たちに馴染むためには必要なことだ。けども、それは外で表面を取り繕っていればいいだけの話である。本当に人間のように腹を空かせたり、疲れたり、眠たげにする必要は無い――人間のように変化する必要などない。なのに。
 弱っているのだろうか。満足げに輝いていた碧い目に、瞼の影が落ちる。陰った瞳の奥は、どんどんと暗さを増していく。沈みゆく色は、夜明けにはまだ遠い空を思わせる。
 最近は子どもたちにも『お伽噺』は広まり、神の存在を認知し、信じる者は増えてきたはずだ。わずかながらとはいえ信仰は増したのだから力が戻ることはあっても、衰える可能性は低い。けれど、現実はヒトに近づきつつ――衰え、人間風情と同じ場所に立ってしまっていて。
 己の信仰心が薄れているのか。否、そんなことはない。誰よりも彼を崇め、誰よりも彼に尽くしてきた。その力を取り戻さんと奔走してきた。強固になるならまだしも、薄れゆくはずなどない。けど、現実は。全てを示す彼の身体は。
「くろわぁ」
 今にもとろけ落ちてしまいそうな声が自身を示す音をなぞる。首だけで振り返ると、茜空が広がった。活力に満ちた朱は瞼でわずかに姿を隠している。山の向こうに落ち行く夕陽のような光景だ。真ん丸でぱっちりとした、可愛さすら感じさせる目はどこか輪郭を失っているように見える。眠気が鮮やかな色をぼやけさせるように色を塗っていた。
「抱き心地悪い。硬い」
「それはそうでしょう」
「そーじゃねー」
 むくれた声とともに、肩にぐりぐりと頭を擦り付けられる。全てお見通しなのだろう。分かりきった現実に、全てを見通す存在に、青年は密かに息を吐いた。無意識に身体が強張っていたことなど、触れる彼に隠せるはずがない。神が人間如きの思考をなぞることなど容易いに決まっている。
 深呼吸するように息を吐き出し、強張っていたからだから力を抜いていく。吐き切るとほぼ同時に、腹に回った腕に力が込められた。袖をまくった腕が、剥き出しの腕が、薄布一枚隔てた腹に沈み込む。柔らかな肉の感触。うっすらと感じる骨の硬さ。生きている、穏やかなぬくもり。どれも手放したくない、失いたくないもの。
「こないだのシーツまだある?」
「あー……、切ってしまいましたね」
 問う神に、クロワは眉を八の字にした。以前片付ける際に引っかけて盛大に破れてしまったシーツは、修繕を諦めて掃除に使ってしまったのだ。ベッドを覆うほどの布地は残っていない。無理をしてでも繕えばよかったか、と今更後悔が湧き上がってくる。そもそも、駄目になった時点で買い足すべきだったのだ。先延ばしにしたツケが崇める存在を蝕んでいる。こんなこと、あってはならないのに。
「じゃあ、タオルある?」
「ありますけど、ベッドを覆えるほどのものはありませんよ」
「何枚も敷きゃいいだろー」
 朱い頭が硬い肩に擦り付けられる。少し痛むが、拒絶する権利など無い。全て己の不手際が招いたのだ。そもそも、崇め奉る存在にその身を委ねられて拒否する人間などこの世に存在するはずがないのだ。
「一緒に寝よ」
「台所の掃除が残っているので」
 えー、とむくれた、今にも眠ってしまいそうな声があがる。腹を抱きしめる腕の輪が更に縮まった。それでも苦しさを覚えない程度なのだから明確に加減をしているのが分かる。じゃれる動きだ。脆い人間に合わせる、慈悲深い動きだ。
「用意しますから」
 腹に回った手をノックするように軽く叩く。えー、とまた輪郭が柔らかな声があがった。渋々といった調子で、ゆっくりと腕が去って行く。確かに感じていた温もりが去っていく。肩に残る頭の重みが、彼がまだ存在している証明だった。
 眠ってほしくない。そんなわがままを言うなどあり得ない。人間如きが神を動かそうとするなどあり得てはならない。けれど、聞き分けの悪い脳味噌は口から言葉を吐き出させようと回転する。残った理性が全てをもってして、その醜い動きを封じ込めた。
 だって、また目覚めてくれる保証なんてないのに。
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#ライレフ#腐向け

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降りこめる本能【ライレフ/R18】

降りこめる本能【ライレフ/R18】
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雨で薄暗い中暑いのも忘れて致す右左が見たかっただけ。

 ぬかるみに足を突っ込んだような粘ついた音が鼓膜にへばりつく。現実は違う。そんな無邪気な子どものような動きによるものではない。粘膜と粘膜が擦れあい、潤滑油ではしたなく濡れそぼった穴がみっともない声をあげているのだ。身体が動く度、粘り気のある液体がこねくられる湿った音が、引き締まった肉と肉がぶつかりあう乾いた音が薄暗い部屋に響く。日常とはかけ離れた淫らな合奏が部屋を満たしていた。
 業務も課題も無い休日で。テストは終わったばかりで急いで勉強する必要性も薄くて。有り体に言えば暇で。外は雨で。二人きりで長く過ごせるのは久しぶりで。
 互いにごく普通の、年齢相応に健全な男子高校生だ。つがいを求める欲望など、つがいと触れあう欲望など、腹の底にずっと抱えている。見ないふりをしているだけで、いつだって燻っている。暇な土曜日の昼下がりにそれが燃え上がり爆発して発露することは必然的とも言えた。
 そうやって時間も場所も常識も捨て去りソファに雪崩れ込んで、行儀が悪いと指摘するのも馬鹿らしく服を脱ぎ捨て、肌と肌とを直接触れあわせて、粘膜と粘膜で繋がる今に至る。
 ぐじゅ、ぶちゅ、と濁った淫猥な音があがる。耳を塞ぎたくなるような響きが鼓膜を震わす度、凄まじい勢いで脊髄を電気信号が駆け抜けていく。快楽と命名されたそれは、脳味噌をぶん殴り烈風刀のまともな思考を奪っていった。ゴリゴリと常識ぶった部分が削れていく頭は、『きもちいい』の五音節を理解することで手一杯だ。
 きもちよくて、きもちよすぎて、閉じる機能を忘れた口から声が漏れる。上擦ったそれは、少女のものだと勘違いされても仕方が無い響きをしていた。恥ずかしいと思う機能すら失われた頭は、我慢することを忘れた脳味噌は、本能が赴くままに甘い声を――今まさに繋がっている恋人の情欲を煽る音色を奏でた。
 肉の悦びから逃れるようにぎゅっと閉じられていた目が薄く開いていく。涙をたたえた瞳は、大切に手入れされ澄み切った池を思い起こさせた。こんこんと湧いて出て溢れる水が、紅潮した肌に透明な線を引いていく。熱に浮かされとろけきった瞳は、本能に炙られて色付いた肌は、整ったかんばせを塗らす涙は、耳をも溶かすような嬌声をあげる口は、欲望の炎に薪をどんどんとくべていく。獣の本能に支配されつつ雷刀は、衝動がままに腰を打ちつけた。同じく獣欲に蝕まれる弟も、湧き出る衝動がままに甘ったるい声をあげた。
 目の前の首に回した腕、汗ばんだ肌と肌がくっつきあって何とも言い難い感触を生み出す。雨で気温が下がって涼しいから、と今日は冷房を消していたのを頭のまともな部分がかろうじて思い出す。雲で隠れて日が差さないとはいえ、部屋は生ぬるい空気で満たされているだろう。その上激しく動いているのだから、汗を掻くのは必然であった。普段ならば暑いだなんだと文句を垂れる口は、意味を持たない音をこぼすだけだ。耐えられずリモコンを取るであろう手は、己の腰をがしりと掴んで離そうとしない。汗と体液で濡れた肌は、今は不快感を遙かに上回る快感と幸福感を生み出した。
 涙でけぶった視界の中、ギラつく鮮やかな唐紅だけが浮き上がる。恋人の象徴である色。恋人が目の前に存在しているという事実。恋人が己だけを見つめているという証左。全てが馬鹿みたいに拍動する胸の奥に、愛する人を迎え入れた腹の底に更なる火を灯す。ぁッ、とソリッドな声が部屋に落ちた。
 耳障りな水っぽい音が、赤みを増した耳に、淫悦でとかされた脳味噌に叩きつけられる。常ならば表現し難いほどの羞恥を覚えるはずのそれは、ひたすらに本能を煽って身体を昂ぶらせていく。悦びを謳い上げる口が、らいと、らいと、と愛する人の名をどうにか形作る。きもちよさに支配された脳味噌は、大好きな人を求める声を発せさせた。愛を抱えた心も飢えた身体も満たされているはずなのに、碧い少年は足りないとばかりに拙く音を紡いでいく。それがつがいにこれ以上無く効くことなど知らずに。
 れふと、と吼えるような声。同時に、ごちゅん、と身体全てに響き渡るような衝撃。情欲を煽られた朱い少年は、丁寧に解され柔らかになった内部に一気に自身を突き入れる。閉じた肉を掻き分けられ、めいっぱいに刺激され、快楽信号がキャパシティオーバーになりそうなほど叩きつけられ、烈風刀は悲鳴めいた嬌声をあげた。それもまた、雷刀の腹に秘めたる獣欲を煽る。エナメル質が軋む高い音が卑猥な合奏の中に落ちた。
 ぁ、あ、と突き上げられる度に掠れた細い声が開きっぱなしの口から吐き出される。まるでちゃちいおもちゃのようだ。おもちゃめいた単純な動作しかできないほど、少年の身体は快楽に支配されていた。ただひとつ、腹の中身を除いて。
 ぐっ、と雄肉が這入ってくる。突き進むそれを逃すまいと、もっと奥へと誘わんと、ナカはぐねぐねとうねる。快楽を、子種をねだるようにまとわりついて絡みつく。まだ果てまいと、もっとつがいを貪らんと、更なる快楽を求めんと、剛直はそれを振り切り去っていく。まだ足りない、なんてわがままを通そうと、肉色の粘膜が蠢いてすがりつく。全ての動作がはしたないピンク色の悦びを生み出し、幾重にも重なった理性の皮を剥がして本能だけを剥き出しにしていく。雨天で陰った部屋に獣めいた声がどんどんと積もっていく。
 腹の奥底を小突かれる度、身体から力が抜けていく。快楽ばかりを受容して言うことを聞かない脳味噌は、筋肉にもろくに指令を出さずにいた。汗ばんでうっすらと濡れた腕が、同じく汗ばんだ首をなぞるようにして解けて落ちる。上手く着地できなかった右腕が、だらりとソファの座面から垂れた。普段ならばすぐに上げて戻すが、今ばかりはそんな余裕がなど無い。腹の底から響き渡る法悦を味わうのに必死な身体は、ろくに動くことができなかった。
 ハ、ぁっ、と呼吸なのか声なのか分からないものだけが口から漏れる。腕から伝わる温もりが無くなった分、腹が切なくてたまらない。欲しくて、触れたくて手を伸ばしたいのに、快楽に浸りきった脳味噌は能動的に筋肉へ電気信号を送ることなどとうに諦めていた。突かれる度、落ちて垂れた腕が揺れる。ソファの生地が擦れては心地良さなど覚えないはずだというのに、今ばかりはそれすらも快感を生んだ。腹の奥に突き込まれたものに全身を作り変えられてしまったようだ、なんて馬鹿げたことが頭の隅に浮かぶ。突かれた瞬間、それは弾け飛んで消えた。
 ごちゅん、なんて漫画めいた音が聞こえるほど、行き止まりを強く穿たれる。瞬間、世界が止まった。
「――ァっ、あっ!」
 一拍遅れて、凄まじい情報が――快楽が全身を駆け巡る。どうやら、許容量を超えたそれは脳味噌を焼け付かせたらしい。受容しきれぬそれを逃がすように、組み敷かれた身体が大きく跳ねる。喉仏が浮かぶ首がぐっとしなって、形の良い頭が固く作られているはずのソファの肘掛けに沈み込んだ。濃い布の上に鮮やかなが若葉が散る。額に張り付いていたそれも、衝撃のあまりに宙に浮かんでまた落ちた。
 ままならない呼吸の合間、囀るように目の前の愛し人を呼ぶ。さいこうにきもちいいのに、おなかが寂しくて、腕が寂しくて、ぬくもりが足りなくて。けれども、快楽に融かされてろくに動かない身体は声を発するので精一杯だ。言葉だけでも兄を掴もうと、兄に縋りつこうと、弟は何度も名前を繰り返す。三度目を発するところで、ひぁ、という己自身の高い声が遮った。声も身体もどろどろに融けて、彼に融かされて、形を成さなくなっていく。それがきもちよくてたまらない。
 腰の右側をひやりと空気が撫ぜる。代わりに、左頬に温かなものが訪れた。頬に触れられているのだと気付くより先に、唇に熱。口内に熱。触れる度に痺れるようなそれに、はしたない声が際限なく湧いて出てくる。全て、雷刀の口内に吸われてくぐもったものになってしまった。
「ァ、う……、ッ、ゥ……」
 絡もうとする舌はどちらも溢れるほど唾液をたっぷりまとっていて、捕らえられることができない。それでも、ぬめる表面を熱いものが掠めていく感覚は腰を重くするには十分な刺激だった。痺れを切らしたように舌が離れていく。追いかけてだらしなく伸ばされた己のそれが、温かなものに包まれる。ぢゅう、と行儀の悪い音。同時に、凄まじい電気信号がシナプスを殴った。舌を吸われ扱かれる快楽が、その間も絶えずナカを穿たれる快楽が、脳味噌をダメにしていく。食らわれる碧にできることなど、もう甘ったるい――つがいを煽り、焚きつけ、昂ぶらせる声を漏らすぐらいだ。
 張り出した傘がゴリゴリと内部を削るように去っていく。追いかけるように締め付ける内壁を、見事な先端が勢いよく突き進んだ。熱ときもちよさでとろけた肉は、張り裂けんばかりに法悦を叫んだ。連動するように、弟の口からも淫悦に染まりきった嬌声があがる。垂れ下がった目元から透明なものが流れて赤く染まった頬を静かに彩る。
 ずるぅ、とされるがままだった己の舌が愛しい人の口から力無く抜ける。元の場所にしまわれるはずのそれは、喘ぎ声とともに突き出され天を向いた。興奮で湧いて出る唾液が口から溢れて、肌をしとどに濡らしていく。赤く熟れた粘膜が濡れてつやめくのはあまりにも刺激的な光景だ。食らう者が短く低く喘ぐぐらいには。
 きもちよすぎて、もう口を動かすだけで精一杯だ。脳味噌は快楽を受け取るばかりで肉体を動かす信号を送ることなどとうに忘れていた。また愛しい人に触れたいのに、腕はもう指一本動かす余裕など無い。代わりと言わんばかりに、兄の腰に軽く回された足がしがみつくように、抱き締めるように絡みついた。本能に支配されているのだろう、振りほどかんばかりに突き出されるその身体に、烈風刀は鍛えられた足で縋りつく。汗ばんだ肌同士ではすぐに滑り落ちてしまうだろうに、外でも中でも恋人を抱き締めた。とうの昔に肉欲に溺れてダメになった脳味噌を本能が動かしてたのだ。
 腰を掴まれる力が強くなる。ただでさえ激しかった腰つきが更に早まり、大胆な、重いものになる。上から降り注ぐ獣めいた吐息が唸りめいた嬌声へと変わっていく。何度も見てきた光景だ。何度も体験してきた動きだ。だからこそ、それが何を意味するかなどすぐさま分かる。この腹に精を吐き出し、種を植えつけようとしているのだ。は、ァッ、と艶めいた声が、どこか笑みを含んだ声が漏れる。だって、そんなの最高に決まっているではないか。期待が声に表れないわけがない。
 れふと、と名を呼ばれる。ぼやけた視界の中に映るのは、険しげに眉を寄せ、目を細め、こわばったように口を開く恋人の顔だ。どれもが肉の悦びにとろけていて、どれもが己の欲望を焚きつけるものだった。視線に、声に、雄を迎え入れた腹が反応する。みっともなく大口開いて咥えこんだ場所が、きゅうと収縮するのが己でも分かった。あ、と濁った、熱で焼けた声が落ちてくる。彼がきもちよくなっている証拠だ。それが嬉しくて、また腹が勝手に蠢く。諫めるように一発ぶちこまれた。悲鳴めいた喘ぎが仰け反った喉から奏でられる。
 暗い部屋のはずなのに、視界に白いものがちらつく。細かなパーティクルが何度も散る様は、己の限界を――頂点に上り詰めつつあることを示していた。腹に渦巻く熱を吐き出したくて、一番きもちいいところに行きたくて、内部は雄肉を煽るように細かに締めては撫でてを繰り返す。全くの無意識であるが、効果はてきめんだったようだ。腹を穿つ動きが更に重いものになった。
 ぐ、ぁ、と降ってくる嬌声が数を増していく。ごちゅん、と耳に、骨に音が響く。掠れた短い音が聞こえた瞬間、腹の中で熱が爆発した。一番奥から熱いものが広がっていく。内臓全部を融かしてしまいそうな凄まじい温度に、目の前で、頭の中で、何かが弾けた。
「――ッ、ぅ、あっ!」
 ビクン、と身体が跳ねて背が反る。頭が反る。盛大な、艶やかな、とろけた声がみっともなく開かれた口から跳ね出る。部屋に喜悦溢るる嬌声を響かせる。瞠られた目から涙が弾け飛んでソファの生地を濡らす。
 腹の中も外も熱い。どちらも精によるものだ。どちらもきもちよくてたまらないものだ。ねだるように、達したばかりの内部がうねって硬度を失いつつある剛直を撫でて回る。うぁ、と上擦った声が聞こえた。更に腹の中に熱いものが――精が、種が、愛が注ぎこまれる。何もかもを焼きつくすその感覚に、横たわった身がまた大きく震えた。あ、ぁ、とはしたない、悦びに満ち満ちた声が開きっぱなしになったままの口から漏れる。熱に浮かされたそれは、腹を満たす欲望と同じほどどろりとしていた。
 腹に、胸に、腕にぬくもり。耳の横を少し湿った柔らかなものが掠めていく。その感覚は分かれど、達したばかりの身体は反応する余裕すらなかった。あー、と少しだけ上擦った、満足げな声が耳朶を撫でる。兄が覆い被さってきたのだと気付くには随分と時間を要した――天上まで放り上げられた頭ですぐに状況を理解しろという方が無理なのだ。
 短く、どこか甘さの残る呼吸が次第に落ち着いてく。やっとまともな量の酸素を取り入れた頭は、ゆっくりと現実の輪郭を辿り寄せていった。のしかかり触れる身体が重い。汗ばんで湿った肌が触れて気持ちが悪い。空調が効いていない部屋が暑い。貪るようにまぐわっていた間は快楽でしかなかったそれらは、今は不快感しか生み出さない。常人の思考回路を取り戻した脳味噌は快不快を正常に認識しだしたのだ。
 パタパタ。軽い音が荒い呼吸の間を縫って部屋に落ちる。雨はまだ止んでいないようだ。朝から降っているのに。どれほど降り続くのだろう。明日には晴れるだろうか。洗濯物が。現実に足を付けた頭の中を所帯じみた考えが巡っていく。
 そうだ、洗濯しなければいけないのだ。雨で部屋干しをするしかないのだから数は少ない方が良いに決まっているのに、何故わざわざ洗濯物を増やすようなことをしてしまったのだろう。しかもソファなんて後始末が大変なところで。冷静さを取り戻しつつある少年の頭の中に後悔ばかりが降り積もっていく。それほどまで溜まっていたのだ、なんて片割れが使いそうな言い訳がちょっとだけ動きの鈍い思考の底から湧いて出てくる。あまりにも稚拙すぎる言い様に、自己嫌悪は募っていくばかりだ。
「れふとー?」
 頬に柔らかな、温かな感触。いつの間にか閉じていた目を開けると、そこにはこちらを覗き込むように見つめる兄の姿があった。涙というフィルターが消え失せた視界の中、朱い瞳がうっすらと部屋に差し込む光を映して輝く。つい数分前までは獣めいてギラついていたというのに、今はすっかりと穏やかな、けれどもまだ熱が残って輪郭がとろけたものになっていた。興奮で溢れた唾液でつやめく唇がゆっくりと動く。
「だいじょぶ?」
「だいじょうぶです」
 同じほどの調子で弟は返す。声を出すことで、ようやく長く息を吐き出すことを思い出した。音が聞こえそうなほど深く呼吸を繰り返す。キックと同じほど重く響いていた鼓動はだんだんと速度を落とし、普段のものへと戻っていく。一気に押し寄せてきた疲労に、はぁ、と重く深い嘆息が漏れ出た。
 互いに汗やらなんやらでどろどろだ。シャワーを浴びなければ。閉め切って運動したから身体も部屋も暑い。もう冷房を点けてしまった方がいいだろう。放り出した服をまとめておかねば。ソファの後処理も早い内にしないと。ほんの数秒考えただけでタスクがどんどんと積み上がっていく。どれも疲れ切った身体でこなすにはあまりにも重労働だった――全て自業自得なのは重々承知なのだけれど。
 パタパタ。バタバタ。サァ。ザァ。窓ガラス一枚隔てて鈍くなった音が静かな部屋に転がっていく。雨の日の湿ったぬるい空気が二人を包んでいた。
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