401/V0.txt

otaku no genkaku tsumeawase

TOP
|
HOME

色づく春【SDVX】

色づく春【SDVX】
top_SS04.png
新年早々エンドシーンに滾ったので。プロ+氷+桜。



 はぁ、とゆっくり吐いた息は白に染まってすぐに消えた。寒さの度合は違えど故郷と同じだ、と氷雪は薄く笑う。
 彼女は同じ学園に通う桜子と初詣に来ていた。これだけ人がいればあの方にお会いできるかもしれませんの、と言う桜子に誘われたのだ。
 がやがやとうるさいくらい賑やかな人混みの中を歩くのは少し怖い。隣を行く桜子はそんなことは気にしていないようだ。自分より小柄ながらも元気に歩みを進める彼女に続いて人混みを掻き分けていく。
「あ。桜子ちゃん、氷雪ちゃん」
 喧噪の中に響いた聞き覚えのある声に二人は振り返る。見上げた先にはひらひらと手を振る識苑がいた。身長の高い彼は人混みの中でも見つけやすい。むしろ、何故小柄な自分達を見つけられたのか不思議だ。
「識苑先生、明けましておめでとうございますですの」
「明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとう」
 ぺこりと頭を下げ挨拶をする彼女らに識苑は笑みを返し、真似するように頭を下げて挨拶する。そのまま彼女らと視線を合わすように彼は身を屈めた。普段は白衣姿の識苑だが、流石に寒いからかコートを着ていた。学内での彼しか見たことのない二人にその姿は新鮮に映った。
「二人とも初詣?」
「そうですの。新しいお着物で来たのですの」
「先生も初詣ですか?」
「そうだよ。暇だから行こうと思って」
 作業中なんだけどねー、と識苑は笑った。よく見ればコートの裾から白いものが覗いている。何故白衣を脱いでこないのだろうと二人は不思議に思うが、触れないでおこう。
「氷雪さんも新しいお着物なんですの!」
「とっておきの晴れ着を出してもらいました……。ど、どうでしょうか……?」
 桜子の紅や山吹の鮮やかな色合いとは反対に、氷雪のものは白を基調とした涼やかなものだった。桜子はすぐさま見抜いたが、普段と同じ物に見られるのではないか、と氷雪は不安に思っていた。
「う~ん、いいねぇ! とってもいいと思うよ!」
 そんな氷雪の不安を吹き飛ばすように識苑は嬉しそうに笑った。事実、晴れ着姿の彼女らは非常に可愛らしかった。それこそ、人混みの中でも分かるくらいに鮮やかだ。
「ありがとうございますの!」
「あ、ありがとうございます」
 満足げに笑い礼を言う桜子に続き、氷雪も一礼する。微笑ましい姿をにこにこと眺めた識苑だが、少し悩むように顎に手を当てた。
「でも先生はピンクがいいなー。氷雪ちゃんはピンクも似合うと思うよ」
「ピンク、ですか……」
 氷雪はちらりと隣の桜子を見やる。元気で温かで可愛らしい彼女を体現するようなその色は、冷淡と言われることもある自分にも似合うのだろうか。
 氷雪は何においても白を選ぶことが多い。故郷の雪の色が好きだからというのもあるが、それよりも『雪女』という自分の体質に縛られているようにも思えた。『雪女』だから白。それが自分の意識に根付いてしまっているのだ、と氷雪は度々考えていた。
「白とか青みたいな涼しくて綺麗な色もいいけど、ピンクみたいな暖かい色も似合うと思うよー」
 識苑の言葉に氷雪は顔を伏せた。そうしなければ、紅潮した顔を彼に見られてしまうからだ。
 『暖かい色が似合う』。そう言われたのは初めてだった。寒く冷たい『雪女』というコンプレックスに縛られた彼女に、その言葉は嬉しくてたまらなかった。
「ワタシはどうですの?」
「桜子ちゃんは黄色みたいな淡い色も似合そうだね。あとあれ、ピンクに紺色の袴とか可愛いよね。尻尾の色が映えそうだな」
「本当ですの?」
「本当だよ」
 キラキラと目を輝かす桜子に識苑は優しく返す。その姿はまるで歳の離れた兄妹のようだ。
「そうだ、先生も一緒についていっていいかな? 男一人じゃちょっと寂しいや」
「は、はい!」
「もちろんですの!」
 識苑の言葉に氷雪も桜子も喜んで返事する。ありがとう、と礼を言う識苑に、それくらいなんてことありませんの、と桜子はニコニコ笑った。
「じゃあ、早くいきますの!」
 そう言って桜子は氷雪の手を握った。冷たくないのだろうか、と氷雪は不安げな表情をするが、桜子は何も気にしていないように彼女の手を引き人混みを掻き分けていく。
 先生は、と振り返る氷雪の手を誰かが握る。彼女の小さな手を包むのは識苑の大きな手だ。先生も混ぜて、と彼は笑った。はい、と氷雪も笑う。ふわりと空から舞う雪のように柔らかな笑みだ。
 賑やかな人混みの中、ピンクと白が駆けていく。冬の空は冷たくも綺麗に晴れ渡っていた。

畳む

#プロフェッサー識苑 #氷雪ちゃん #傍丹桜子

SDVX

消夜【ゆかれいむ】

消夜【ゆかれいむ】
top_SS03.png
即興二次小説で気になるお題があったので第二弾。今回は時間制限なし。
ジャンル:東方Project お題:1000の交わり 文字数:952字



 眠りの底から意識が現実へと浮上する。長い睫毛で縁取られた目がふわりとゆっくり開く、まだ頭が働かない。眠気を消すようにごしごしと目をこすり、幾度か瞬きをしてやっと焦点が合い周りを見回すことができた。
 寝転んだ隣を見る。昨晩共に過ごした彼女の姿も、その見た目よりも高い体温も残っておらず、ただ綺麗に整えられた白いシーツがあるばかりだ。いつもと変わらぬその風景を霊夢は冷めた目で見つめた。
 夜を共にした日、紫は自分が眠っている間に必ず消える。何の跡も残さず、夢だったのではないかと錯覚しそうなほど綺麗に姿を消す。いっそ怒りが湧いてくるほどだ。
 紫にとって、自身はただの代替品であることを霊夢は知っている。どんなに優しくされても、どんなに甘い言葉を与えられても、幾度も肌を重ねても、彼女の瞳には霊夢ではない別の誰かが映っている。それが書き換えられることなどないのだろう。それほど瞳の奥の『誰か』の存在は強く見えた。
 きっと彼女はこうやって数々の代替品と夜を過ごしたのだろう。妖怪の生は人のそれとは比較できないほど長い。『誰か』がどれほど前に出会ったものかは知らない。自身と同じ『代替品』が何人いたのかなど想像できない。けれど、自身に与えられてきたそれを他者に与えていないはずがないことぐらいは分かる。同列の存在なのだから当たり前だ。
 知らない『誰か』や『代替品』に嫉妬しているわけではない。紫の瞳に自身ではない『誰か』しか映っていなくとも、八雲紫が博麗霊夢を愛しているという形に変わりはない。形だけのそれでも、霊夢にとっては確かな事実だった。
 ほっそりとした白い指が赤々と下唇をなぞる。そこに彼女の温度はない。けれども、忘れることなどできない数えきれないほど与えられた感覚が霊夢の中にはしっかりと残っている。
「……さむ」
 ふるり、と小さな身体が震える。温かな布団の中にいるのに、どこか寒い。風邪でも引いたのだろうか。あいつ心配するだろうなぁ、と考えて目を伏せる。優しくされるのは嬉しいが、心配されるのは少しうっとおしい。『代替品』なのに、本物の『誰か』のように接するのだから性質が悪い。
 足を折りたたみ、胎児のように身体を丸める。肌をなぞる彼女の感覚が揺らめく意識の中にしっかりと残っていた。

畳む

#ゆかれいむ #百合

東方project

かみさま【SDVX】

かみさま【SDVX】
top_SS01.png
即興二次小説で気になるお題があったので、同じ設定で挑戦。
ジャンル:SOUND VOLTEX お題:神の経験 制限時間:15分 文字数:695字



「そういやさー」
 雷刀は机に肘をつき、窓の外を見て口を開く。向かいに座った烈風刀は眉に皺を寄せる。二人は――正確には雷刀は抱えた課題を解いて、烈風刀がそれを見張っている。
「こないだ、魂が『神様に会った』っつってたんだよ」
「神様?」
「神様」
 赤志らしくない、と雷刀と烈風刀は顔を見合わせる。甘党で現実主義な彼が、『神様』なんてファンタジーなことを言うなんて、どんな風の吹き回しだろう。
 確かにこの学園には人間以外にも様々な種族がいる。妖精やロボットがいるのだから、神ぐらいいてもおかしくはないかもしれない。けれども『神』という存在があまりに不確かなものに思えて、信じがたい。
「あぁ、そういえば冷音も同じようなことを言ってましたね」
 魂と俺と神様とで並んで歩いたんですよ、と言っていた彼を思い出す。普通なら嘘だと切り捨てるところだが、真面目な青雨がそんな荒唐無稽な嘘を言うとは考えられない。
 神様ねぇ、と雷刀は呟いて溜め息を吐く。窓の外は鼠色の雲で覆われていて薄暗い。雨でも降りそうだ。そう考えて、『神に会った』という彼を思い出す。表情は前髪で隠れてよく見えなかったが、話す口調は穏やかで嘘をついているようには思えなかった。
「お願いしたら叶えてくれるのかな」
「そんな流れ星じゃあるまいし」
 神に願う。信仰心などないが、切迫した状態の時にはいるかいないか分からないあの存在に願ってしまう。都合のいい話だ。
「神様がいるならこの課題を今すぐ消してほしい」
「馬鹿げたことを言っていないで解きなさい」
 烈風刀は近くにあった参考書で雷刀の頭を叩く。パァンと教室内に音が響いた。

畳む

#嬬武器雷刀 #嬬武器烈風刀

SDVX

祝う日【わグルま!】

祝う日【わグルま!】
top_SS01.png
ワンドロやりたいけど1時間で絵なんて描けねーよちくしょーってことでSS書いた。突発的なあれなので30m。
リリムと鬼神族がだらだら喋ってるだけの話。
「祝日ムード」ってあったけど祝日って解釈していいのかどうか。解釈して書いたけど。



 穏やかな午後を流れる時間は普段の物よりずっとゆっくりで、皆好き好きに行動している。武器を振るい己の技を磨く者もいれば、柔らかな絨毯に寝転がりだらだらと漫画を読む者、落ち着いた色合いの調度で白く美しい食器を用い茶会を開く者もいる。
 本日は勤労魔王の日。祝日である。ただ一人、魔王を除いて。
「祝日ってもやることねーしなぁ」
「私達も探索しに行かなくていいだけで何にも変わりませんね」
 トンカンと工具をいじる転生悪魔――鬼神族の隣には、リリムが一人。初期から連れ添っている彼女は、時々マスターの隣で行動する。鍛え上げられた肉体と大きな角を持つ鬼神族と、小さな角と羽を持つ小柄なリリムが並ぶ姿はさながら親子のようだ。
「つーか魔王『だけ』働くってのも意味分かんねーな。魔王ってなんだっけ」
「さあ? でも、マスターは働くんですね」
 本日は事実上の祝日ということで、普段探索に出かけて忙しい彼女達にも休みを与えることにした。しかし、マスターである鬼神族の行動はいつも通りのものだ。
「そりゃあ、休みなんだから好きなことするだろ」
「いつも通りじゃないですか」
「やることねーしな。家具作ってるのがいい」
 互いにやる気のない様子で会話する間にも、彼の手は動く。その手にあった木材は様々な道具によって形を変え、家具らしい姿へと変わっていく。その様子を見るのがリリムは好きだった。
「そういや飯どうする? 今日、休みの店多いんだろ?」
 祝日なので休みを取る店も多い。大きな店は開いているだろうが、そこまではかなり距離があった。
「材料は残ってますけど、何にしましょうか」
「もうカップ麺でよくないか。面倒くさいし」
「あー……、ストック足りるか分かりませんね。人数増えましたし」
 確かにカップ麺はいくらか買ってあったはずだが、先日の『衝動買い』で、この家は随分と賑やかしくなったこの家には足りないだろう。
「そういやそうだな」
「どこかの誰かさんのせいで」
「それ、マスターに言う言葉か?」
「どうでしょ」
 彼が魔界に来た時から一緒にいるリリムとの会話は主従関係から離れたようなものも多い。けれども、それは二人にとっての日常であり何ら問題のないことだ。
「まぁ、どれもこれも魔王様様だな」
 魔王という存在があったからこそ、彼はここに存在し、そして彼女もこの暮らしを手に入れた。そして、多くの『家族』と出会えることができた。全ては真っ黒で正体が分からない『魔王』という王の存在があるからこそ、この安らかな日常を過ごすことができるのだ。
「なんか労う方法はねーのかな」
「毎朝おにぎりを持ってきてくださいますし、ポストに手紙でも入れておくとかどうでしょう」
「サンタクロースみたいだな」
 ハハ、と彼は笑う。リリムも穏やかに笑った。
 そんな穏やかな、祝日の午後。

畳む

#わグルま! #リリム #鬼神族

11/11【ライレフ】

11/11【ライレフ】
top_SS01.png
ポッキーの日(3日前)SS。
書き上げたはいいが支部に投げるには微妙だしこっちに投げる。ほも。



 帰宅すると、ソファの上に寝転んだ雷刀が目に入った。肘かけの部分に雑誌を立て掛け、身体をべったりとソファに沈ませて見上げるように読んでいる。読みづらくないのだろうか、と不思議に思いながら自室へ向かおうとして、テーブルの上にある真っ赤な箱が目にとまる。近づいて手に取ると、それは馴染みのある菓子の箱だった。
「おかえり」
「ただいま。ポッキー、ですか」
「んー。今日ポッキーの日だったかそんなのだからって魂にもらった」
 赤志の甘いもの好きは有名だ。作業中、サーバー室の隅に積み上げられたお菓子の数々を口に放り込んでいる姿は一緒に作業する烈風刀にとって日常的な光景だった。そんな彼が他人に易々と菓子を振舞うのだろうか。
「盗った、の間違いではないのですか?」
「しつれーな。間違えて買ったからってくれたんだよ」
 赤志曰く、「極細こそ至高」だそうだ。甘いものにあまり頓着しない烈風刀には違いがいまいち分からないが、甘いもの好きの彼からすれば取り返しがつかないほど大きな違いらしい。他人に菓子を譲るぐらいには重大なのだろう。
「烈風刀も食べるか?」雷刀は起き上がって袋から一本取り出しこちらに向ける。少し躊躇いつつも、口を開き細いそれを一口齧った。プレッツェルの香ばしい香りとそれを包むチョコレートの甘さが口の中に広がる。
「甘いですね」
「嫌い?」
「いえ。このぐらいの甘さなら食べられます」
 雷刀は手に持ったそれを指揮棒のように振る。残りも食べろということだろう。チョコレートで包まれていない部分を持って彼の手から奪い取る。
「あーあ」
「あのままでは食べにくいでしょう」
 残念そうな声をあげる雷刀にそう返して、烈風刀は残りのそれを食べた。その耳に薄く紅色が差したことに彼は気付いていないのだろう。その姿にいたずらっぽい笑みを浮かべ、雷刀は言葉を続ける。
「ポッキーゲームみたいにできると思ったのに」
「…………したいんですか」
 眉間に深く皺を刻み、これ以上にないくらい渋い顔をした烈風刀は呆れたような声で問う。「いやいや」と雷刀は手に持った菓子をメトロノームの針のように振って否定した。
「だって口ん中甘いまましたくないだろ? 物食べてる最中にするのも行儀悪いし」
「雷刀にしてはまともな意見ですね」
 至極真面目そうな言葉に、雷刀は「ひっでぇ」と笑った。手に持った箱をテーブルに置いて、ソファから立ち上がり烈風刀の前に立つ。後退りしそうになった烈風刀の頬に優しく手を添えた。それだけで、まるで縫い止められたように身体が動かなくなる。
「つーか、わざわざそんなことしなくてもできるし?」
 いたずらを思いついた子供のような顔が視界いっぱいに広がる。反射的に目を逸らすと、空いていた手が腰に回された。更に彼が近づく、たったそれだけで心臓は普段よりも早く駆動する。
「食べたままするのは嫌なのではなかったのですか」
「全部飲み込んだからだいじょーぶだいじょーぶ」
「都合のいいことを」
 はぁ、と小さく溜め息をつ吐いて、目の前の彼から逃れるように目を伏せる。肯定と見なしたのか、雷刀は更に腰を引き寄せた。
 唇に柔らかい感触。幾度も繰り返されるそれに応えるように薄く口を開き彼を受け入れる。熱い舌と舌が擦れ合う度に、頭の奥にピリピリと甘い痺れが走った。漏れる音を抑えようにも、それを彼は許してくれない。わずかに開かれた口からは、生々しい水音と蕩けたような声ばかりだ。
 どちらかともなく重なったそれが離れる。鮮やかな赤色の塊からは細く光る糸が橋がかり、消えるようにぷつりと切れた。
「……あまい」
 口の中に広がるチョコレートの香りに、烈風刀は思わず顔をしかめた。二人ともしっかりと飲み込んだのだから、口内には何も残っていなかったはずだ。だが、口の中には先ほどの甘い香りが広がっている。
「残ってたか。ごめん」
「食べ物自体はありませんでしたが……どれだけ食べたのですか」
「一袋とちょっと」
 それだけ食べれば嫌でも香りが残るはずだ、と呆れたように顔を渋くする。大体、あまり間食をするなと常日頃から言っているのに何故そんなに食べるのだ。いい加減学習してほしい。
「プリッツのがよかった?」
「そちらはそちらでしょっぱそうです」
「甘いのもあるぞ? ローストなんたらとかそんなやつ」
「変わらないじゃないですか」
 彼の言葉にくすりと笑いが漏れる。「あとはじゃがりこぐらいしかないんだけど」と続ける雷刀に「はいはい」と返し、言葉を制する。
「やはり香りがするのは嫌ですね」
「だからごめんってば」
 烈風刀は申し訳なさそうに眉を下げる雷刀から、ふぃと目を逸らし顔を伏せる。青みがかった緑の髪の間から覗く頬は、ほんのりと色づいていた。
「だから……また、あとで」
 その言葉の意味と烈風刀の反応に雷刀は心底嬉しそうに顔を輝かせる。そのまま目の前の緑をぎゅっと強く抱きしめた。突然のその行動によろけ、慌てて声を上げる。
「ちょっ、と、雷刀っ」
「あとでな! 絶対な! 約束な!」
 抱き着く彼は子供のようにはしゃぐ。もし尻尾が生えていれば、ちぎれんばかりに振り回しているだろう。その様子と己の言葉の気恥ずかしさに、烈風刀は逃れるように顔を横に逸らす。晒されたうなじに雷刀は顔を寄せた。彼の髪が肌に触れてこそばゆい。
「あとで、俺の部屋でな」
 耳に直接注がれた言葉の意味を理解して、ドキリと心臓が大きく音をたてた。顔が彼の髪と同じ色に染まっていくのが自分でも分かる。
「分かりましたから、離れてください。夕飯が作れません」
「あぁ、ごめんごめん」
 そうしてようやく離れた雷刀の顔は酷く緩んでいた。嬉しくて堪らないというその笑顔に、思わずこちらも笑みを零した。あぁ、本当に彼の笑顔は子供のように無邪気で、明るくて、どこか可愛らしい。
「夕飯、何作る?」
「何にしましょうか……。着替えてくるので、冷蔵庫の中を確認しておいてください」
 「分かった」と元気に返して、雷刀は上機嫌でキッチンへと消えた。鼻歌でも歌い出しそうなその様子に烈風刀は苦笑し、自室へと向かう。帰りがいつもより遅くなってしまった。夕飯の時間も近い。早く戻らなければ、と足を進める。
 ふと唇を撫でる。先程の感覚を思い出して、ぞわりと背筋が甘く痺れた。
「……やっぱり、甘い」
 口の中に残る、甘い甘いチョコレートの香りは当分消えそうにない。

畳む

#ライレフ #腐向け

SDVX


expand_less