SDVX[157件](16ページ目)
菓子と貴方【神十字】
菓子と貴方【神十字】
夜中にTL見てぶわっと熱がきたので、朝45mで書いた神十字。投稿ついでに少し修正。
見切り発車なんで設定とか色々ふわっとしてていつも以上にやまもおちもいみもない感じ。
がさがさと草をかき分け道なき道を進む。草原をかき分けて進むのは最初は抵抗があったが、今では慣れてしまった。慣れてしまうほどここに通っているという事実は受け入れがたいが、諦めるしかない。
ほどなくして一つの建物が目に入る。崩れかけといった言葉がとても似合うこの教会が目的の場所だ。こんな古びて朽ち果て機能を果たさなくなった教会がまだ壊されずに残っているのだと常々疑問に思うが答えは見えない。おそらく、彼がなにかをしているのだろう。それくらいのことなど造作なくできる男なのだ。
壊れて役目を放棄したドアが散らばる玄関を潜り抜ける。かつん、と固い音が壊れた長椅子ばかりが並ぶ広い空間に響く。最前列、まだ椅子と判断がつくそこから起き上がる影があった。赤い髪がふわりと舞い、真紅の瞳がこちらを捉え弧を描いた。
「おかえり」
「……また寝ていたのですか」
「だってやることねーし」
けだるげにに答え、ぐっと背伸びする男を見つめる。
『神』と名乗ったこの男と出会ったのはどれほど昔だろうか。最初はそんな馬鹿げた言葉は信じられなかったのだが、時折見せる『力』とやらは彼が人ならぬ高位の存在であることを如実に示していた。疑わしいが、信じざるを得ないのだ。
「んで、今日は何持ってきてくれた?」
「クッキーですよ。子供達に配る為に焼いたものです」
「ふぅん」
長椅子の背もたれから身を乗り出した彼はつまらなそうに目を細めた。どうも自身をついで扱いされたのが気に食わないらしい。見慣れたその姿に呆れながらも言葉を続ける。
「貴方の分は別に焼きましたよ。子供達と同じような動物型のものでは嫌でしょう?」
「別に? お前のなら何でも美味しいし、見た目とかどうでもいい」
ストレートなその言葉に思わず息が詰まる。彼に褒められるのは嬉しいのだけれど、どうもこそばゆい。焦る気持ちを抑えようと鞄からクッキーが詰められた袋を取り出し、彼に手渡した。しかし、いつもならばすぐに食べ始める彼が動く様子がない。どうしたのだろうか、と顔を覗き込むと、にぃといたずらめいた笑みが返ってきた。
「食べさせて」
「は?」
なんでそんなことを、と問うとなんとなく、とやる気のない声が返ってきた。しかしいつもならば明るく透き通った赤い瞳はどこか暗い血のような色に移り変わっており、彼の機嫌の悪さを明確に表している。やはり、先ほどの言葉が気に入らなかったらしい。このまま放置して妙なことをされては自分が困る。はぁ、とわざとらしくため息をつき、彼の手にある袋を開ける。丸いクッキーを一つ取り出し、彼の口元に運んだ。茶色のそれが赤い口内へと消えていく。嬉しそうに咀嚼しごくりと飲み込むと、彼はまた口を開いた。一枚だけでは済まさないつもりらしい。気が済むまで付き合うしかないようだ。
彼の手から袋を取り、クッキーを次々と食べさせていく。まるで親鳥が雛に餌をやっているようだ、と考えて小さく笑みが漏れた。閉じられていた瞳がふわりと開き、一対の赤が不思議そうな色でこちらを見つめた。
「どした?」
「なんでもありませんよ」
はい、と誤魔化すようにまた一枚。促されるまま彼はクッキーを頬張る。子供のようだ、といつも思う。こうやって美味そうに食べてもらえるのだから、作り甲斐があるというものだ。そんな彼だからこそ、長年ここに通い『神への供え物』と称した食べ物を持ってくるようになってしまったのかもしれない。一人で作ってただ食べるよりは、他者のために作って喜んでもらいたい。彼のために見えるこの行為だが、自身のためであるのも事実だ。
そんなことを考えていると、指先に違和感を感じる。驚いて彼の方を見ると、自身の白い指に彼の赤い舌が這わされていた。赤くぬめったそれが自身の白い指を這う。その生暖かい感触と味わったことのない感覚にぞくりと背が震えた。
「な、に、してるんですか!」
急いで手を引く。反応の意味がよく分からないのか、彼はこちらを見て不思議そうに首を傾げた。
「なにって、手に粉いっぱいついててもったいないなーって」
だから舐めた、と言う彼の表情は普段と変わらないものだ。本当にそれだけらしい。付き合いは長い部類に入るが、未だに彼の行動はよく分からない。
「……みっともないからやめてください。ほら、まだありますから」
先ほどの失態を誤魔化すように溜め息をついて、そのまま彼に袋を手渡す。渡されたそれをガサガサと音を立てて開け、食事を続ける。いくらか頬張ったところでこちらを見上げ、嬉しそうに笑った。その顔は子供のそれと一緒だ。
「ん、やっぱ美味い」
「そうですか」
その屈託のない表情にこちらも笑みが零れる。彼が食事をしているときの顔はとても幸せそうで、それを見るのが好きだった。相手がどうであれ――人であれ、神であれ、喜んでもらえるのはやはり嬉しい。
「食べるか?」
ほら、と彼は一枚差し出した。少し悩んだ末、彼と同じく口で受け取る。ふわりと砂糖の甘さが口の中に広がった。
「美味しい?」
「貴方が美味しいというなら、美味しいのでしょう?」
そうだな、と彼は笑う。
壊れた屋根や窓の隙間から差し込む光は柔らかく、二人だけの広い教会を照らしていた。
畳む
例えばのお話【ライレフ】
例えばのお話【ライレフ】
そろそろなんか書かないとなーということで診断メーカーからお題拝借。140字SSのだけど気にしない。
30mで終わらせるつもりが足りず。追加10mで合計40mSS。
貴方はライレフで『たとえばの話』をお題にして140文字SSを書いてください。 http://shindanmaker.com/375517
「例えば、さ」
背もたれによしかかり、椅子の足を浮かせギコギコと揺らしていた雷刀が口を開く。烈風刀は作業する手を止める様子はない。どうせろくでもない話だ、真面目に聞いても仕方がない。
「オレが頭良かったらどうする?」
「どうもしないでしょう」
ありもしないことを、と烈風刀は続ける。冷たい言葉に雷刀はやる気なく声を上げた。酷くつまらなそうだ。
「例えばだって」
「ありえないことを例えてどうするのです」
「あり得ないことだから例えるんだよ。夢がないなー」
笑う雷刀を不機嫌そうに見る烈風刀。雷刀は気にする様子なく、そのまま天井を指すように指を立てた。
「例えば、冷音がずっと雨降った時の性格だったら」
「……赤志君が苦労しそうですね」
「灯色がキレそうだな。『眠れない』って」
「彼ならどれだけうるさくても眠れるでしょう」
授業中はもちろん、野外でもどこでも眠っている灯色だ。確かに睡眠の邪魔をされた時の彼は酷く不機嫌だが、その程度で起きるほど彼の眠りは浅くない。
「例えば」
「例えば?」
「レイシスが妹だったら」
雷刀の言葉に烈風刀の手がぴたりと止まる。どうしたのだろうと顔を窺うと真剣な表情で自身の指先を見つめていた。声をかけるのもはばかられ、彼が口を開くまで待つことになる。
「…………今も、妹みたいなものでしょう。変わりませんよ」
ようやく答えた声は妙に平坦だ。先ほどの表情と相まって本気で考え導き出した答え――いや、その上でぼかしたような答えにしか聞こえない。それがなんだか面白くなくて、雷刀はからかうように問うた。
「そんなに真剣に考える事か?」
「真剣になんて考えていませんよ。ただ想像してみただけです」
「やらしー」
「何がですか」
烈風刀の声に怒りの色が混じる。少し潔癖症の気がある彼をからかうにはどうも悪かったようだ。ごめんごめん、と謝って雷刀は言葉を続ける。
「例えば」
「……例えば」
「オレたちが双子じゃなかったら」
再び烈風刀の手が止まった。どういう意味だ、と訝しげに雷刀を見るが、彼は普段通りの表情でこちらを見ていた。しばらく彼を見つめた後、烈風刀は机の上の書類に目を戻り言葉を紡ぐ。
「きっと、関わることはなかったでしょうね」
「そうか?」
「貴方と私は成績も性格も真逆でしょう。話す機会はあまりないと思いますし、進路も違っていたでしょう」
雷刀の学力と烈風刀の学力には随分と差がある。この学園は雷刀の学力では難しい部類だったが、兄弟である烈風刀と同じ進学先にしたいと努力した結果入学することができた。もし烈風刀がいなければ、雷刀が自身の学力に見合わないこの学園を選ぶことはなかっただろう。
烈風刀の答えに雷刀は首を傾げ、彼の顔を見る。
「そうか? なんかかんか出会ってそうだけど」
「出会っても、こうやってずっと一緒にいるなんてことはありませんよ」
ただのクラスメイトで終わりです、と烈風刀は言う。雷刀は相変わらず不思議そうな表情でいたが、すぐにいつもの明るい表情に切り替わった。
「双子じゃなけりゃこんなことなってなかったと」
「……こんなことって」
どんなことですか、と問おうとして烈風刀は口を閉ざした。きっと茶化すような答えしか返ってこないだろう――もし行動で示されれば、困るのは自分だ。幸い、雷刀は楽しげに笑うばかりで追及する様子はない。
「やっぱ双子でよかったな」
「そうですね」
補色のように正反対の二人。それを繋ぐのは血縁という名の硬い糸。
その他に彼らを繋げるものはあったのだろうかなんて考えても仕方ないのだ。そう結論付けて雷刀は天井を仰いだ。
ふと、ペンを動かす烈風刀の手が止まった。教室に響いていた音がぱたりと止まり、どうしたのだろうとそちらに目をやると積み重ねられた書類を揃える烈風刀姿があった。
「終わりました。早く提出して帰りましょう」
「おう」
雷刀は反動をつけて椅子から立ち上がる。危ないですよ、と諌める烈風刀の声は聞こえていないようだ。
教室を出ようとする烈風刀の手を雷刀が握る。びくりと烈風刀の体が小さく震えた。
「いこうぜ」
雷刀は楽しげに笑って、握った手を引き廊下を駆けだす。突然のことに烈風刀は声を上げる暇もない。ただただ、彼の速度に合わせて足を動かすばかりだ。
こんなことも、双子でなければやることはなかったのだろうな。そもそも、手を握るなんてこともなかったのだろう。
双子だから。兄弟だから。こうやって繋がっているのだ。
そんなことを考えて烈風刀は小さく笑った。
夕暮れ茜色に染まる廊下に繋がった影が走っていく。
畳む
感情論【ライ→レフ→レイ】
感情論【ライ→レフ→レイ】
ぐわっとライ→レフ書きたいのとレフレイ熱が来たのとが合わさった結果。
オニイチャンしか出てこない。
烈風刀がレイシスを好いていること――恋していることを、雷刀は知っている。
彼女に対する弟の態度は明らかに恋をしているそれで、言葉の端々にもよく表れている。何時でも冷静で顔色一つ変えない彼故に他者は気付かないかもしれないが、兄である雷刀にはすぐに分かった。そんな弟の姿を、幼い頃から何度も何度も見ていたのだから嫌でも気付く。
そんな彼が彼女に想いを伝えることはないだろう、と雷刀は確信している。
彼はああ見えて臆病で、きっと関係を壊すのを恐れている。堅実な彼が大きな賭けに出ることはまず無い。だから、ずっとこのままだ。
諦めればいいのに、と雷刀は常々考えている。
恋い焦がれながらも現状維持を望む弟のいじらしい姿は見ていられない、というのもある。けれども、そんなものはただの建前だ。本音は『烈風刀とレイシスが恋仲になること』を恐れているのだ。三人の関係が変わると言うこともあるが、何より烈風刀が好きなのだ。烈風刀がレイシスを好いているように、雷刀も烈風刀を好いていた――もちろん、恋愛感情として、だ。
彼と同じように、自分がこの想いを伝えることはない。血の繋がった弟にそんな感情を抱く兄なんて、気持ち悪くて堪らないだろう。現在の関係も壊れ、彼との繋がりもなくなってしまう。そんなことになるぐらいなら、この想いなど殺してしまえばいい。なのに、殺しきれない。一度芽生えた感情は、そう簡単に消すことなど出来なかった。
自分も大概臆病だ、と雷刀は自嘲した。何て女々しいのだろう。自分らしくもない。
彼が自分とそういう仲になることは絶対にない。けれども、他者に彼を奪われるのは嫌だ。弟が叶える気のない恋をすることすら嫌だった。なんて我が儘なんだろう。
けれども、この醜い考えが消えることはないのだろう。きっと彼が恋をする度こいつは顔を覗かせる。愛する人の不幸を願う、醜く汚ならしい感情が。
『恋』なんてものがなければ。そう考えても仕方がないのに、頭にはそんなことばかり浮かぶ。彼が恋をしなければ。自分が恋をしなければ。
はぁ、と誰にも気づかれぬよう雷刀は嘆息する。
実らない想いは募るばかりで、胸を苛む。
彼がいる限り、この痛みが消えることなどない。
畳む
色づく春【SDVX】
色づく春【SDVX】
新年早々エンドシーンに滾ったので。プロ+氷+桜。
はぁ、とゆっくり吐いた息は白に染まってすぐに消えた。寒さの度合は違えど故郷と同じだ、と氷雪は薄く笑う。
彼女は同じ学園に通う桜子と初詣に来ていた。これだけ人がいればあの方にお会いできるかもしれませんの、と言う桜子に誘われたのだ。
がやがやとうるさいくらい賑やかな人混みの中を歩くのは少し怖い。隣を行く桜子はそんなことは気にしていないようだ。自分より小柄ながらも元気に歩みを進める彼女に続いて人混みを掻き分けていく。
「あ。桜子ちゃん、氷雪ちゃん」
喧噪の中に響いた聞き覚えのある声に二人は振り返る。見上げた先にはひらひらと手を振る識苑がいた。身長の高い彼は人混みの中でも見つけやすい。むしろ、何故小柄な自分達を見つけられたのか不思議だ。
「識苑先生、明けましておめでとうございますですの」
「明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとう」
ぺこりと頭を下げ挨拶をする彼女らに識苑は笑みを返し、真似するように頭を下げて挨拶する。そのまま彼女らと視線を合わすように彼は身を屈めた。普段は白衣姿の識苑だが、流石に寒いからかコートを着ていた。学内での彼しか見たことのない二人にその姿は新鮮に映った。
「二人とも初詣?」
「そうですの。新しいお着物で来たのですの」
「先生も初詣ですか?」
「そうだよ。暇だから行こうと思って」
作業中なんだけどねー、と識苑は笑った。よく見ればコートの裾から白いものが覗いている。何故白衣を脱いでこないのだろうと二人は不思議に思うが、触れないでおこう。
「氷雪さんも新しいお着物なんですの!」
「とっておきの晴れ着を出してもらいました……。ど、どうでしょうか……?」
桜子の紅や山吹の鮮やかな色合いとは反対に、氷雪のものは白を基調とした涼やかなものだった。桜子はすぐさま見抜いたが、普段と同じ物に見られるのではないか、と氷雪は不安に思っていた。
「う~ん、いいねぇ! とってもいいと思うよ!」
そんな氷雪の不安を吹き飛ばすように識苑は嬉しそうに笑った。事実、晴れ着姿の彼女らは非常に可愛らしかった。それこそ、人混みの中でも分かるくらいに鮮やかだ。
「ありがとうございますの!」
「あ、ありがとうございます」
満足げに笑い礼を言う桜子に続き、氷雪も一礼する。微笑ましい姿をにこにこと眺めた識苑だが、少し悩むように顎に手を当てた。
「でも先生はピンクがいいなー。氷雪ちゃんはピンクも似合うと思うよ」
「ピンク、ですか……」
氷雪はちらりと隣の桜子を見やる。元気で温かで可愛らしい彼女を体現するようなその色は、冷淡と言われることもある自分にも似合うのだろうか。
氷雪は何においても白を選ぶことが多い。故郷の雪の色が好きだからというのもあるが、それよりも『雪女』という自分の体質に縛られているようにも思えた。『雪女』だから白。それが自分の意識に根付いてしまっているのだ、と氷雪は度々考えていた。
「白とか青みたいな涼しくて綺麗な色もいいけど、ピンクみたいな暖かい色も似合うと思うよー」
識苑の言葉に氷雪は顔を伏せた。そうしなければ、紅潮した顔を彼に見られてしまうからだ。
『暖かい色が似合う』。そう言われたのは初めてだった。寒く冷たい『雪女』というコンプレックスに縛られた彼女に、その言葉は嬉しくてたまらなかった。
「ワタシはどうですの?」
「桜子ちゃんは黄色みたいな淡い色も似合そうだね。あとあれ、ピンクに紺色の袴とか可愛いよね。尻尾の色が映えそうだな」
「本当ですの?」
「本当だよ」
キラキラと目を輝かす桜子に識苑は優しく返す。その姿はまるで歳の離れた兄妹のようだ。
「そうだ、先生も一緒についていっていいかな? 男一人じゃちょっと寂しいや」
「は、はい!」
「もちろんですの!」
識苑の言葉に氷雪も桜子も喜んで返事する。ありがとう、と礼を言う識苑に、それくらいなんてことありませんの、と桜子はニコニコ笑った。
「じゃあ、早くいきますの!」
そう言って桜子は氷雪の手を握った。冷たくないのだろうか、と氷雪は不安げな表情をするが、桜子は何も気にしていないように彼女の手を引き人混みを掻き分けていく。
先生は、と振り返る氷雪の手を誰かが握る。彼女の小さな手を包むのは識苑の大きな手だ。先生も混ぜて、と彼は笑った。はい、と氷雪も笑う。ふわりと空から舞う雪のように柔らかな笑みだ。
賑やかな人混みの中、ピンクと白が駆けていく。冬の空は冷たくも綺麗に晴れ渡っていた。
畳む
かみさま【SDVX】
かみさま【SDVX】
即興二次小説で気になるお題があったので、同じ設定で挑戦。
ジャンル:SOUND VOLTEX お題:神の経験 制限時間:15分 文字数:695字
「そういやさー」
雷刀は机に肘をつき、窓の外を見て口を開く。向かいに座った烈風刀は眉に皺を寄せる。二人は――正確には雷刀は抱えた課題を解いて、烈風刀がそれを見張っている。
「こないだ、魂が『神様に会った』っつってたんだよ」
「神様?」
「神様」
赤志らしくない、と雷刀と烈風刀は顔を見合わせる。甘党で現実主義な彼が、『神様』なんてファンタジーなことを言うなんて、どんな風の吹き回しだろう。
確かにこの学園には人間以外にも様々な種族がいる。妖精やロボットがいるのだから、神ぐらいいてもおかしくはないかもしれない。けれども『神』という存在があまりに不確かなものに思えて、信じがたい。
「あぁ、そういえば冷音も同じようなことを言ってましたね」
魂と俺と神様とで並んで歩いたんですよ、と言っていた彼を思い出す。普通なら嘘だと切り捨てるところだが、真面目な青雨がそんな荒唐無稽な嘘を言うとは考えられない。
神様ねぇ、と雷刀は呟いて溜め息を吐く。窓の外は鼠色の雲で覆われていて薄暗い。雨でも降りそうだ。そう考えて、『神に会った』という彼を思い出す。表情は前髪で隠れてよく見えなかったが、話す口調は穏やかで嘘をついているようには思えなかった。
「お願いしたら叶えてくれるのかな」
「そんな流れ星じゃあるまいし」
神に願う。信仰心などないが、切迫した状態の時にはいるかいないか分からないあの存在に願ってしまう。都合のいい話だ。
「神様がいるならこの課題を今すぐ消してほしい」
「馬鹿げたことを言っていないで解きなさい」
烈風刀は近くにあった参考書で雷刀の頭を叩く。パァンと教室内に音が響いた。
畳む
11/11【ライレフ】
11/11【ライレフ】
ポッキーの日(3日前)SS。
書き上げたはいいが支部に投げるには微妙だしこっちに投げる。ほも。
帰宅すると、ソファの上に寝転んだ雷刀が目に入った。肘かけの部分に雑誌を立て掛け、身体をべったりとソファに沈ませて見上げるように読んでいる。読みづらくないのだろうか、と不思議に思いながら自室へ向かおうとして、テーブルの上にある真っ赤な箱が目にとまる。近づいて手に取ると、それは馴染みのある菓子の箱だった。
「おかえり」
「ただいま。ポッキー、ですか」
「んー。今日ポッキーの日だったかそんなのだからって魂にもらった」
赤志の甘いもの好きは有名だ。作業中、サーバー室の隅に積み上げられたお菓子の数々を口に放り込んでいる姿は一緒に作業する烈風刀にとって日常的な光景だった。そんな彼が他人に易々と菓子を振舞うのだろうか。
「盗った、の間違いではないのですか?」
「しつれーな。間違えて買ったからってくれたんだよ」
赤志曰く、「極細こそ至高」だそうだ。甘いものにあまり頓着しない烈風刀には違いがいまいち分からないが、甘いもの好きの彼からすれば取り返しがつかないほど大きな違いらしい。他人に菓子を譲るぐらいには重大なのだろう。
「烈風刀も食べるか?」雷刀は起き上がって袋から一本取り出しこちらに向ける。少し躊躇いつつも、口を開き細いそれを一口齧った。プレッツェルの香ばしい香りとそれを包むチョコレートの甘さが口の中に広がる。
「甘いですね」
「嫌い?」
「いえ。このぐらいの甘さなら食べられます」
雷刀は手に持ったそれを指揮棒のように振る。残りも食べろということだろう。チョコレートで包まれていない部分を持って彼の手から奪い取る。
「あーあ」
「あのままでは食べにくいでしょう」
残念そうな声をあげる雷刀にそう返して、烈風刀は残りのそれを食べた。その耳に薄く紅色が差したことに彼は気付いていないのだろう。その姿にいたずらっぽい笑みを浮かべ、雷刀は言葉を続ける。
「ポッキーゲームみたいにできると思ったのに」
「…………したいんですか」
眉間に深く皺を刻み、これ以上にないくらい渋い顔をした烈風刀は呆れたような声で問う。「いやいや」と雷刀は手に持った菓子をメトロノームの針のように振って否定した。
「だって口ん中甘いまましたくないだろ? 物食べてる最中にするのも行儀悪いし」
「雷刀にしてはまともな意見ですね」
至極真面目そうな言葉に、雷刀は「ひっでぇ」と笑った。手に持った箱をテーブルに置いて、ソファから立ち上がり烈風刀の前に立つ。後退りしそうになった烈風刀の頬に優しく手を添えた。それだけで、まるで縫い止められたように身体が動かなくなる。
「つーか、わざわざそんなことしなくてもできるし?」
いたずらを思いついた子供のような顔が視界いっぱいに広がる。反射的に目を逸らすと、空いていた手が腰に回された。更に彼が近づく、たったそれだけで心臓は普段よりも早く駆動する。
「食べたままするのは嫌なのではなかったのですか」
「全部飲み込んだからだいじょーぶだいじょーぶ」
「都合のいいことを」
はぁ、と小さく溜め息をつ吐いて、目の前の彼から逃れるように目を伏せる。肯定と見なしたのか、雷刀は更に腰を引き寄せた。
唇に柔らかい感触。幾度も繰り返されるそれに応えるように薄く口を開き彼を受け入れる。熱い舌と舌が擦れ合う度に、頭の奥にピリピリと甘い痺れが走った。漏れる音を抑えようにも、それを彼は許してくれない。わずかに開かれた口からは、生々しい水音と蕩けたような声ばかりだ。
どちらかともなく重なったそれが離れる。鮮やかな赤色の塊からは細く光る糸が橋がかり、消えるようにぷつりと切れた。
「……あまい」
口の中に広がるチョコレートの香りに、烈風刀は思わず顔をしかめた。二人ともしっかりと飲み込んだのだから、口内には何も残っていなかったはずだ。だが、口の中には先ほどの甘い香りが広がっている。
「残ってたか。ごめん」
「食べ物自体はありませんでしたが……どれだけ食べたのですか」
「一袋とちょっと」
それだけ食べれば嫌でも香りが残るはずだ、と呆れたように顔を渋くする。大体、あまり間食をするなと常日頃から言っているのに何故そんなに食べるのだ。いい加減学習してほしい。
「プリッツのがよかった?」
「そちらはそちらでしょっぱそうです」
「甘いのもあるぞ? ローストなんたらとかそんなやつ」
「変わらないじゃないですか」
彼の言葉にくすりと笑いが漏れる。「あとはじゃがりこぐらいしかないんだけど」と続ける雷刀に「はいはい」と返し、言葉を制する。
「やはり香りがするのは嫌ですね」
「だからごめんってば」
烈風刀は申し訳なさそうに眉を下げる雷刀から、ふぃと目を逸らし顔を伏せる。青みがかった緑の髪の間から覗く頬は、ほんのりと色づいていた。
「だから……また、あとで」
その言葉の意味と烈風刀の反応に雷刀は心底嬉しそうに顔を輝かせる。そのまま目の前の緑をぎゅっと強く抱きしめた。突然のその行動によろけ、慌てて声を上げる。
「ちょっ、と、雷刀っ」
「あとでな! 絶対な! 約束な!」
抱き着く彼は子供のようにはしゃぐ。もし尻尾が生えていれば、ちぎれんばかりに振り回しているだろう。その様子と己の言葉の気恥ずかしさに、烈風刀は逃れるように顔を横に逸らす。晒されたうなじに雷刀は顔を寄せた。彼の髪が肌に触れてこそばゆい。
「あとで、俺の部屋でな」
耳に直接注がれた言葉の意味を理解して、ドキリと心臓が大きく音をたてた。顔が彼の髪と同じ色に染まっていくのが自分でも分かる。
「分かりましたから、離れてください。夕飯が作れません」
「あぁ、ごめんごめん」
そうしてようやく離れた雷刀の顔は酷く緩んでいた。嬉しくて堪らないというその笑顔に、思わずこちらも笑みを零した。あぁ、本当に彼の笑顔は子供のように無邪気で、明るくて、どこか可愛らしい。
「夕飯、何作る?」
「何にしましょうか……。着替えてくるので、冷蔵庫の中を確認しておいてください」
「分かった」と元気に返して、雷刀は上機嫌でキッチンへと消えた。鼻歌でも歌い出しそうなその様子に烈風刀は苦笑し、自室へと向かう。帰りがいつもより遅くなってしまった。夕飯の時間も近い。早く戻らなければ、と足を進める。
ふと唇を撫でる。先程の感覚を思い出して、ぞわりと背筋が甘く痺れた。
「……やっぱり、甘い」
口の中に残る、甘い甘いチョコレートの香りは当分消えそうにない。
畳む
緩やかな眠りの淵と柔らかな温もりの中で【ライレフ】
緩やかな眠りの淵と柔らかな温もりの中で【ライレフ】pixivで非公開にしていたものをサルベージ。キャプションとか諸々全部当時のままです。
ライレフが寝てるだけ。三人称が分からない。
シャワーを終え自室に戻ると、ベッドの上に見知った赤色があった。
隣室――雷刀の部屋のドアが開きっぱなしになっていたので嫌な予感がしていたが、見事に的中してしまった。大方、トイレから戻る際間違ってこちらに来てしまったのだろう。これまでも何度かあったことだ。家具の配置が全く違うというのに何故違和感を覚えないのだろうか、といつも不思議に思うが、彼はどこかの射撃と昼寝の名人ばりに寝つきがいいから気付く暇さえないのだろう。はぁ、と思わず大きく溜め息を吐いた。
いつもならば無理矢理にでも叩き起こして部屋に帰すのだが、今日は近日行われるアップデートの準備や各授業の課題が重なり酷く疲れていた。体が程よく温まったせいか睡魔が背後まで迫っていたのもあり、彼を起こすことすら面倒臭い。もういい、このまま寝てしまおう。
もぞもぞとベッドに潜り込み、雷刀を壁側に押しやりスペースを作る。彼は寝相が悪いから壁の方にやったほうがいい。これも経験則だ。彼がもぐりこんでいたせいか、布団の中は心地よく温まっていた。雷刀は子供のように体温が高いから尚更だ。
そういえば、このように一緒に眠るのは何時振りだろう。不本意ではあるが、現在の関係になってからは一緒の布団で眠ることが増えた。しかし、こうやって何もなく、ただ共に眠るだけというのは何年振りだろう。
子供の頃は親が不在である寂しさに同じ布団で眠ることが幾度かあった。あれはたしか小学生、低学年頃までだっただろうか。ということは、約十年振りか。時が経つのは早い。それとも、自分達が子供めいた行動から脱却するのが早かったのだろうか。
隣で眠る雷刀の寝顔を見る。いつも先に眠ってしまうから――先に眠ってしまうほど疲れさせるのは彼だ――こうやってまじまじと見ることは初めてかもしれない。
下りた瞼は特徴的な赤い瞳を隠し、柔らかに弧を描く。笑顔とは違う曲線のなぞり方のはずなのに、どこか笑っているかのように見えるほど安らいだ表情だ。時折、すぅすぅという寝息と共に鮮やかな赤色の髪がふわりと揺れる。子供のように元気な彼をよく表したあどけない寝顔だ。その幸せそうな表情を見て、くすりと笑った。双子だけれど、やはり彼と自分は全然違う。こんな表情が似合うのは雷刀の方だし、きっと自分にはできない。
眠気が忍び寄り、じわじわと意識を侵蝕していく。隣に眠る雷刀と自分の体温で心地好い暖かさに包まれているはずなのに、なんだか寂しい。子供ではないのに、一人ではないのに何故だろう。ふわりと緩やかに沈んでいく意識の中で考える。――答えはとうに出ていた。
ちらりと再度彼の寝顔を見る。相変わらず下ろされた瞼が開く様子はなく、起きる気配はなさそうだ。思い切ってその体に身を寄せる。大丈夫だ、起きない。それに寝相の悪い彼のことだ、目が覚める頃には離れているはずだ。そう言い聞かせ、せりあがってくる恥ずかしさを誤魔化し抑え込む。
ぎゅっ、と彼の服を握り胸に額を当てる。あぁ、温かい。懐かしい。そして、幸せだ。日頃は気恥ずかしさが勝ってしまい滅多に言わないが、自分だって雷刀に思いを寄せている――顔から火を噴かんばかりに湧き上がる羞恥心を捨てて言うと、愛しているのだ。こうして一緒にいることを、触れ合うことを幸福に思うのは当たり前のことだ。
忍び寄っていた睡魔が優しく瞼を下ろす。ふわふわとしていた意識が、ゆっくりと深い眠りの底まで沈んでいく。
あぁ、今日はよく眠れそうだ。
----
深い暗闇の底まで沈んでいた意識がゆっくりと浮上し、目が開く。
なんだかいつもよりも温かい。寝起きでぼぅっとした頭で胸の中を見下ろすと、そこには見知った緑色がいた。
ドキリ、と心臓が大きく跳ねる。何故烈風刀がここにいるのだ。昨日誘った覚えはない。もちろん、誘われることもなかったはずだ。何より、二人ともちゃんと服を着ている。だったら、一体何故。朝は弱い方だが、驚きと混乱で意識はすっかり覚醒していた。
あわあわと周りを見渡すと、枕元に置かれた時計が目に止まりようやく気付く。ここは烈風刀の部屋か。大方、トイレに行った帰りに間違ってこちらに来てしまったのだろう。今までも何度かあったことだ。だが、その度に無理矢理叩き起こされ部屋から蹴り出されたのに、何故今回は起こされず、しかも日頃触れようとする自分を無理矢理引っぺがすような彼が自分の胸の中で眠っているのだ。
とにかく一旦布団を出ようと身を起こそうとするが、何かに引っ張られるような感覚に動きが止まる。よく見ると、烈風刀が自分の服を掴んでいることに気付く。遠慮がちにそっと抱き付き、胸に収まる姿は小さな子供のようで愛らしい。彼がこのように甘えてくる――普段、彼はこんな積極的に触れ合うことはしないのだ――のは珍しいだけに尚更だ。惜しからむは、こうやって柔らかで安らかな顔で眠っているから手を出せないということか。生殺しだ、と唸りそうになるのをどうにか我慢する。
すっ、とゆっくりと彼の瞼が持ち上げられた。ふわふわと定まらない視線がこちらに向けられる。まだ少し寝ぼけているようだ。
「……おはよう?」
「…………おはようございます」
気まずいながら声をかけると、半分閉じていた目が次第にぱっちりと開いた。状況を把握したのか、眉間に深く皺を刻み苦々しい表情で小さな声で挨拶が返される。その頬はだんだんと赤みを帯びていく。やはり照れているようだ。可愛い。
「珍しいな。烈風刀が甘えてくるなんて」
「甘えてなどいません。蹴り出すのが面倒くさかっただけです」
そういって烈風刀は視線を逸らし、服を掴む手に力をこめた。きゅっと服を握るその姿は甘えているようにしか見えない。寝起きで思考がはっきりしてないからか、自身の行動に気付いていないようだ。そんな彼の様子に思わず頬が緩む。
「烈風刀、かーわいー」
「うるさいです」
褒める言葉に照れを隠すようなふてくされた声。頬が鮮やかな朱色に染まっていることに彼は気付いているのだろうか。愛らしい姿に小さく笑って、胸の中で縮こまる彼を抱きしめた。
「っ、らいと」
「まだ早いし二度寝しよーぜ。オニイチャンまだちょっと眠い」
「眠い」という言葉が嘘だということなど、烈風刀はきっと気付いている。いつもなら二度寝など許さない彼が、何も言わず仕方ないという風に身を寄せてくるのは彼なりの甘え方だろう。素直じゃないな、と気付かれぬように笑う。眠っている時の方がよっぽど素直で愛らしいが、起きている時の素直じゃない姿も微笑ましくて愛おしい。盲目的なのは分かっているけれど、可愛いものは可愛いのだ。
「おやすみ、烈風刀」
「……おやすみなさい」
そう言って彼はすぐに目を閉じる。恥ずかしさでそうしているのだろうが、きっとこのまま眠ってしまうだろう。最近アップデートやら課題やら様々なものが次々と重なっているから疲れているはずだ。周囲の期待に応えようと頑張りすぎる彼は、こうやってゆっくり眠って休むべきなのだ。そう考えると、この状況はちょうどよかったのかもしれない。
胸の中の柔らかな緑にそっと唇を寄せる。おやすみ、と再度囁いて自分も目を閉じた。身を寄せる彼の体温を確かに感じながら、一緒に眠りの底へと沈んでいく。
あぁ、今日はよく眠れそうだ。
畳む
#ライレフ #腐向け