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No.124
冬空に昇る願い【ライレフ】
冬空に昇る願い【ライレフ】
書き初め。ライレフが初詣行こうとする話。
昨年はお世話になりました。今年もよろしくお願いいたします。
本文を読む
ふわふわと温もりの中を漂っていた身を、冷気が覆い被さり無理矢理包み込む。刺すようなそれに、深い深い眠りの底から一気に意識が引き上げられる。足下から、襟元から、裾から、寝間着の隙間という隙間から冷えた空気が入り込み、ぬくまった身体を冷やしていく。普段ならば重たげにゆっくりと持ち上げられる瞼がカッと素早く開いた。冷気という外敵から身を守ろうと、少年は反射的に手足を折り曲げ丸まる。寝起きの必死の抵抗は、ほとんど効果を成さなかった。
「朝ですよ。起きてください」
耳慣れた声が起き抜けの鼓膜と意識を震わせる。これでもかとすくめた首をどうにか動かし、音の方へと視線を向ける。冷やされても尚眠気が薄く膜張る朱い瞳に、鮮やかな碧と愛用の布団、毛布が映った。
「なんだよ……やすみだろ……」
不機嫌さを隠すことなく、雷刀は愛しい愛しい寝具たちを剥ぎ取った弟に抗議をする。寝起きの低く掠れた声には、どこか迫力があった。しかし、相手は居すくまることなく真っ向から受け止める。猫のように丸まる片割れを見つめる若草色には、同じほどの気迫に満ちていた。棘のあるその声を跳ね返すような雰囲気すらある。
今は冬休み真っ只中、それも休日である正月だ。運営作業も年末年始は休みで、毎日仕事に駆け回っている四人も今日ばかりは丸一日フリーだ。どれだけだって寝ていても許されるはずである。大切な休みに惰眠を貪るのは、この世にある贅沢の一つだ。誰にも迷惑を掛けない贅沢をして、怒られる筋合いなど無い。
縮めた身をのろのろと動かし、寝起きでまだ動きの鈍い腕で掛け布団と毛布を奪い取る。刺すような寒さから身を守るべく、しっかりと握って奪ったそれで急いで身体をまるごと包み込む。少しばかり冷たくなった彼らに、思わずふるりと震えた。冷えは次第に消え失せ、体温と布地が柔らかな温もりをもたらしはじめる。冬の清澄な空気に追い出された睡魔がまた手を差し伸べた。
はぁ、とわざとらしいほど大きな溜め息が分厚い綿と布越しに降ってくる。頭から布団に潜り込んでいるため顔は見えないが、きっと音の主は呆れた表情をしているだろう。重苦しい響きが抱える感情全てを表していた。
「初詣に行くのでしょうが」
はつもうで。初詣。睡魔に誘われ沈み始めた思考に、その五音節が染みこんでくる。ワードの端に引っかかっていた記憶の糸をのろい動きで手繰り寄せる。そういえば、夜中にそんなことを話した気がする。だから早く寝ろ、と言われたところまで引っ張り出された。
しかし、初詣程度でこんな布団を引っ剥がし、実の兄弟を極寒の下に放り出さなくてもいいではないか。そこまで初詣が大切なのだろうか。考えて、鈍く動く頭に何かが引っかかる。思い出すべきである何かは、寝起きでとっちらかった記憶たちに紛れて姿が分からなくなっていた。
「まぁ、好きにすればいいのではないですか。僕はレイシスと二人で行ってきますから」
また溜め息一つ。『レイシス』『二人』の部分が殊更ゆっくりなぞられたそれは、呆れの中にわずかな優越感がにじんでいた。おやすみなさい、と突き放すような眠りへの挨拶とともに、カーペットの上にかすかな足音が奏でられた。
わざとらしく強調された二つのワードに、寝起きで動きの鈍る頭がゆっくりと回転を始める。正月。冬休み。初詣。レイシス。二人。微睡み重くなりつつある意識に降ってきた単語を、どうにか脳味噌の中で組み立てていく。並べ立てた語たちが結びつき、少年は作った闇の中大きく目を見開く。同時に、散らばっていた記憶の中から大切なものを引っ張り上げた。
そうだ、思い出した。今年も四人で初詣に行こう、と昨日レイシスからグループメッセージが来たのだ。同時に来た通知、小さな液晶に映った短い文に兄弟二人同時に賛同の返事をしたのを覚えている。寝坊しないように早く寝なさい、とだらだらとテレビを見ていた己の背に声がぶつけられた記憶も一緒に掘り起こされた。
あれだけ愛ししがみついていた布団と毛布を跳ね飛ばし、朱は充電ケーブルに繋がった携帯端末の電源を入れる。ガラスフィルム越しの画面は、約束の時間まであと一時間と少しであると告げていた。待ち合わせの神社には、歩いて二十分もかからない。時間はまだあるが、余裕とは言い難い。すぐにだらけてしまう自分のことだ、すぐさま用意をしなければ遅刻してしまうだろう。
「オレも行く!」
急いで布団をはねのけ、雷刀はベッドから転げ落ちるように身を下ろす。再び冷気が肌を刺し、粟立つ。しかし、怯んでなんていられない。大切な女の子を待たせることなど、何があっても回避せねばならぬ事項だ。
冷えたカーペットから顔を上げると、扉の前で立ち止まった烈風刀が映った。早朝の空のように澄んだ碧い瞳には、呆れの色が多分に浮かんでいる。小ぶりな口の端はわずかに下がっていた。最初から起きてくださいよ、とうんざりした重い声が飛んできた。
「早く用意してください。レイシスたちを待たせるわけにはいかないでしょう」
「へーい」
ドアを開け部屋を出る弟に続き、兄も廊下へと足を踏み出す。氷のように冷え切ったフローリングの感覚に、ぶるりと身体を震わせる。防寒効果の薄い寝間着のまま長時間過ごすのは自殺行為だ。さっさと準備してしまわねば。さっむ、と細い呟きを落としながら、少年は小走りで進んだ。
凍ってしまいそうな冬の水に耐えながら手早く顔を洗い、急いで部屋に戻り着替える。迫り寄る焦燥にもつれながらも何とか着替えを終え、コートを肩に引っかけて玄関に向かう。二人暮らしで狭い底には、既にコートとマフラー、ブーツを装備した兄弟の姿があった。己が眠っている間に全て準備していたのだろう。優秀な彼はいつだって用意周到だ。
「朝ご飯は食べないのですか?」
「レイシスたち待たせたらダメだろ」
片割れの問いにブーツを履きながら答える。朝食を摂るべきであるのは分かっているが、今はそんな時間など無い。約束した少女たちを待たせてしまう可能性は極力排除するべきだ。初詣程度の時間ならば、腹の虫を押さえつけ無視することも簡単だろう。帰ってから昼飯をたくさん食べればいいのだ。
だったら早く起きてください、と真っ当な言葉が頭上から心を刺す。う、と濁った響きが喉から漏れた。そう言う烈風刀は寝坊することなく早くに起き、きちんと普段通り朝食を終え、寝転けていた己を起こすほど余裕を持って行動しているのだ。言い返しようがない。
立ち上がり、トントンとつま先を地面に軽く打ち付ける。手早くコートを着ていると、ガチャリ、と重い音の後、玄関ドアが開かれた。目の前の鈍色が、あっという間に空色に塗り替えられる。
二人で廊下に出、碧は手慣れた様子で鍵を掛ける。カチャン、と錠が落ちる音とノブを回しても開かないことを確認し、エントランスへと足を進めた。冬の穏やかな陽光に照らされた廊下に足音が二つ分落ちていく。
エントランスの自動ドアをくぐり抜ける。ガラスドアの向こう側、広がる空は冬の朝らしい澄み渡った色をしていた。少し淡い青を、太陽の光と薄雲の白が彩る。小春日和とはこのような様をいうのだろう。普段ならば聞こえるはずの車の音も、子どもの声もない。正月休み、それもまだ朝なのだから当たり前だろう。
「さっみぃ……」
冷え切った空気が身体を包み込む。部屋で布団を剥ぎ取られた時、否、それ以上の寒さだ。冬の風が吹き抜ける外なのだから当然である。つい先ほどまで布団でぬくまっていた身体にはあまりにも酷な温度だった。絞り出すように声を漏らした口から、白いものが生まれ空へと昇っていく。この調子では雪でも降るのではないか、などと考える。これだけ晴れ渡った青空からしてあり得ないのだけれど。
さっみぃ、ともう一つ呟いて、首をこれでもかとすくめコートの襟に口元を埋める。剥き出しの指を凍らせるような外気から逃れるように、ポケットに手を突っ込んだ。冷えた分厚い生地が大きな手を包んだ。
「冬なのだから当たり前でしょう」
すぐ隣から当然だといった調子の声が飛んでくる。そうだけどさぁ、とくぐもった音で返し、横を見やる。寒さなど平気だ、といった音色を奏でたその弟も、コートのポケットに片手を入れていた。危ないからポケットから手を出せ、なんて普段は言うくせに、自分だってやっているではないか。それほど寒さを感じているのに平然としているのだから、何だか気に入らない。思わず唇を尖らせた。
そもそも、グレイスもいることを知っていて『レイシスと二人で初詣に行く』などと嘘を吐いたことも少しばかり不服だ。己を起こそうとしてのものとはいえ、あまりにも質が悪い。起き抜けの頭とはいえ、すっかり騙された自分も悪いのだけれど。
さむ、と拗ねたようにこぼし、肩を縮こまらせて少しでも冷気から身を守ろうとする。襟元に埋めた口、そこから吐かれた呼気は依然白へと姿を変えていく。冬らしい光景だ。寒さが厳しいことの証でもある。
「カイロ、持ってこなかったのですか?」
「あー……。忘れた」
持ってくればよかった、と今更になって後悔が湧き上がる。しかし、今朝の調子ではそんなことに頭が回るはずがない。起き抜け、しかもレイシスを待たせまいと慌てて用意をしたのだから、カイロなんてものに意識が向くわけがなかった。
手を出してください、と声。いつもの説教だろうか。にしては、音は柔らかなものだ。やっと包み始めた温もりに名残惜しさを覚えながらも、素直にポケットから手を抜きだし隣へと差し出す。刹那、広げた手の平に何かが乗せられた。それが降り立った場所から、温もりが肌の上を広がっていく。白に黒がうっすらと透ける角の丸い長方形は、普段から使っている使い捨てカイロだ。
「えっ、いいの?」
「二つ持ってきましたから」
貴方のことですから忘れていると思ってましたよ。辛辣な言葉が白く色付き、空に消える。棘があるものだが、芯は柔らかで温かだ。彼の気遣いがよく分かる。やっぱり、この弟はいつだって用意周到で優しいのだ。
さんきゅ、と弾んだ声で礼を言う。突っ込みっぱなしだったもう片手を引き抜き、両の手で小さなカイロを包み込む。血の色を失い始めていた指先に、柔らかな温もりが宿った。
「あったけー……」
はぁ、と満足げな溜め息が漏れ出る。冷やされた身体にカイロの温もりはまさに救いだった。じんわりと広がっていく温度が、縮こまっていた身体をゆっくりと解いていく。本当に単純ですね、と隣から飛んできた呆れた呟きは聞こえなかったことにする。
「レイシスたち、今年も着物着てくるかな」
「そうなのではないですか。少なくとも、グレイスには着せたがるでしょうし」
カイロの温もりにより少しばかりの余裕ができた頭が、他愛も無いことを考える。こぼれた音はすくいあげられ、また返された。たしかに、とゆるく笑みをこぼした。
この世界を担う可愛らしく愛しい少女は、新たにできた妹を溺愛している。イベント事では様々な衣装を作っては着せているほどだ。正月のような『晴れ着』という滅多に着る機会の無い衣装を着せられるイベントを逃すはずがないだろう。妹も、最近では様々な衣服を着ることを楽しんでいるように見える。今頃、姉の手によって手際よく着付けられているだろう。
楽しみだなー、と口角を上げ浮かれた声をあげる。そうですね、と珍しく素直な声が返ってきた。愛する少女の着物姿は、兄弟にとっての初詣の楽しみの一つであった。大好きな女の子のハレの華やかな姿を見ることができる。それは年明け最初の幸せと言っても過言では無い。
「そーいや烈風刀はもうお願い事決めた?」
「あぁ……、まだですね」
覗き込むように隣を見て、兄は問う。全く考えていなかったのだろう、少し呆けたような音が返ってきた。顎に指を添え、弟は宙空を見上げる。うーん、と悩ましげな響きが色の薄くなった唇の隙間から漏れた。
「決まったら教えて! 知りたい!」
「そういうことは人に言ってはいけないというでしょう」
弾んだ声を、冷静な声がすっぱりと切り裂く。えー、と再び前を向いた翡翠を眇目で見やる。すぐ隣の片割れは、どこ吹く風といった様子で姿勢良く歩いていた。にべもない。
他人に問うてみたものの、実のところ己も明確には決まっていなかった。願いたいことなど山ほどあるのだ。レイシスが元気に過ごせますように。成績がマシになりますように。今年こそレイシスと海に行けますように。バグが発生しませんように。ヘキサダイバーがまともに遊べるようになりますように。少し考えただけでも泉のように願い事が湧き上がってくる。絞り込むことなど至難の業だ。うーん、と喉が鳴るような音が白い息とともに蒼天へと昇った。
「……お願い事って何個までしていいんだっけ?」
「一個に決まっているでしょう」
欲張るんじゃありません、と咎める声。想定通りの優等生な返答に、ちぇー、と不満げな声をあげた。
そんなことを言われても、大量の願い事の中から一つだけを選ぶことなど不可能だ。ただ生きているだけで、叶えたいことも願いたいこともこの手で数えられないほど生まれてくる。人よりも欲深い自覚があり、あれもこれもと目移りしてしまう己ならば尚更だ。
どうしようか、と縮こめていた首を伸ばし、空へと目をやる。ルビーレッドにスカイブルーがにじんだ。やはり願うならば自分のことだろうか。けれども、運営業務やレイシスに抱えているあれそれも大切で早く叶えたいことだ。弟に対してもそうだ。大切な人のことはいつだって願っていたい。
烈風刀、と考え、一つの願いが頭をよぎる。常日頃考えていることであり、自力で叶えようと己から動いていることだ。最近では叶いつつあるのだから、神に願うほどのことではない。けれども、これを弟に言ったらどうなるのだろう。好奇心がむくむくと湧き上がる。冬の冷気に冷めつつあった心に、いらずらの灯がともった。ニィ、と無意識に口角が上がる。明らかに怪しいそれは、コートの襟に隠れて気付かれることはない。
「じゃあ、『烈風刀ともっといちゃいちゃできますように』にしよっかなー」
「はぁ?」
いたずらげな声に素っ頓狂な声が重なる。静かな正月の朝の空間によく響く高さと大きさだった。エメラルドグリーンの瞳はこれでもかと鋭く眇められ、赤い口はぽかんと間の抜けた様子で開いている。冷えて色を失い始めた頬に、ぱっと朱が散った。
「神様にそんな馬鹿馬鹿しいことを願うんじゃありません」
「バカバカしくねーし。じゅーだいだし」
愛する人と睦まじく過ごしたい。これは愛しい人を持つ人間ならば当然の願いであり、何もおかしな事ではないはずだ。少なくとも、雷刀にとってはこの上なく重大事項である。日々それに努め色々と画策するぐらいには大きな願いだ。馬鹿馬鹿しいだなんて切り捨てるのは酷である。
ただ、言葉選びが悪い自覚はあった。否、わざとこの表現を選んだ。恋愛事に関しては恥ずかしがり屋で少々奥手な彼は、こんな言い方をすればきっと意識するだろう。今日一日この言葉を忘れられないぐらいには、脳に焼き付いてしまうはずだ。参拝中も、家に帰ってからも、己の言葉は彼の頭にこびりついて離れないだろう。恋人のことばかり考えてしまうだろう。そうなってしまえ、と意地の悪い部分が笑みを浮かべた。
「新年早々何を言っているのですか、本当に」
「お願い事決めてるだけだぜ?」
「……人に言うものではないと言っているでしょう」
なぁ、とゆっくりとした調子で隣を窺うが、愛し人はふいと顔を背けてしまった。逸れた頭、白のマフラーと浅葱の髪の隙間から覗く耳は、ほんのりと血の色を浮かべていた。寒さ故の赤か、はたまた。考え、ふふ、と呼気のような笑みが漏れた。
ブーツの硬い靴音がアスファルトの上に響く。晴れ着でその可愛らしい身を着飾っているであろう少女らが待つ神社へは、まだまだかかる。
畳む
#ライレフ
#腐向け
#ライレフ
#腐向け
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THANKS!!
SDVX
2024/1/31(Wed) 00:00
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冬空に昇る願い【ライレフ】
冬空に昇る願い【ライレフ】書き初め。ライレフが初詣行こうとする話。
昨年はお世話になりました。今年もよろしくお願いいたします。
ふわふわと温もりの中を漂っていた身を、冷気が覆い被さり無理矢理包み込む。刺すようなそれに、深い深い眠りの底から一気に意識が引き上げられる。足下から、襟元から、裾から、寝間着の隙間という隙間から冷えた空気が入り込み、ぬくまった身体を冷やしていく。普段ならば重たげにゆっくりと持ち上げられる瞼がカッと素早く開いた。冷気という外敵から身を守ろうと、少年は反射的に手足を折り曲げ丸まる。寝起きの必死の抵抗は、ほとんど効果を成さなかった。
「朝ですよ。起きてください」
耳慣れた声が起き抜けの鼓膜と意識を震わせる。これでもかとすくめた首をどうにか動かし、音の方へと視線を向ける。冷やされても尚眠気が薄く膜張る朱い瞳に、鮮やかな碧と愛用の布団、毛布が映った。
「なんだよ……やすみだろ……」
不機嫌さを隠すことなく、雷刀は愛しい愛しい寝具たちを剥ぎ取った弟に抗議をする。寝起きの低く掠れた声には、どこか迫力があった。しかし、相手は居すくまることなく真っ向から受け止める。猫のように丸まる片割れを見つめる若草色には、同じほどの気迫に満ちていた。棘のあるその声を跳ね返すような雰囲気すらある。
今は冬休み真っ只中、それも休日である正月だ。運営作業も年末年始は休みで、毎日仕事に駆け回っている四人も今日ばかりは丸一日フリーだ。どれだけだって寝ていても許されるはずである。大切な休みに惰眠を貪るのは、この世にある贅沢の一つだ。誰にも迷惑を掛けない贅沢をして、怒られる筋合いなど無い。
縮めた身をのろのろと動かし、寝起きでまだ動きの鈍い腕で掛け布団と毛布を奪い取る。刺すような寒さから身を守るべく、しっかりと握って奪ったそれで急いで身体をまるごと包み込む。少しばかり冷たくなった彼らに、思わずふるりと震えた。冷えは次第に消え失せ、体温と布地が柔らかな温もりをもたらしはじめる。冬の清澄な空気に追い出された睡魔がまた手を差し伸べた。
はぁ、とわざとらしいほど大きな溜め息が分厚い綿と布越しに降ってくる。頭から布団に潜り込んでいるため顔は見えないが、きっと音の主は呆れた表情をしているだろう。重苦しい響きが抱える感情全てを表していた。
「初詣に行くのでしょうが」
はつもうで。初詣。睡魔に誘われ沈み始めた思考に、その五音節が染みこんでくる。ワードの端に引っかかっていた記憶の糸をのろい動きで手繰り寄せる。そういえば、夜中にそんなことを話した気がする。だから早く寝ろ、と言われたところまで引っ張り出された。
しかし、初詣程度でこんな布団を引っ剥がし、実の兄弟を極寒の下に放り出さなくてもいいではないか。そこまで初詣が大切なのだろうか。考えて、鈍く動く頭に何かが引っかかる。思い出すべきである何かは、寝起きでとっちらかった記憶たちに紛れて姿が分からなくなっていた。
「まぁ、好きにすればいいのではないですか。僕はレイシスと二人で行ってきますから」
また溜め息一つ。『レイシス』『二人』の部分が殊更ゆっくりなぞられたそれは、呆れの中にわずかな優越感がにじんでいた。おやすみなさい、と突き放すような眠りへの挨拶とともに、カーペットの上にかすかな足音が奏でられた。
わざとらしく強調された二つのワードに、寝起きで動きの鈍る頭がゆっくりと回転を始める。正月。冬休み。初詣。レイシス。二人。微睡み重くなりつつある意識に降ってきた単語を、どうにか脳味噌の中で組み立てていく。並べ立てた語たちが結びつき、少年は作った闇の中大きく目を見開く。同時に、散らばっていた記憶の中から大切なものを引っ張り上げた。
そうだ、思い出した。今年も四人で初詣に行こう、と昨日レイシスからグループメッセージが来たのだ。同時に来た通知、小さな液晶に映った短い文に兄弟二人同時に賛同の返事をしたのを覚えている。寝坊しないように早く寝なさい、とだらだらとテレビを見ていた己の背に声がぶつけられた記憶も一緒に掘り起こされた。
あれだけ愛ししがみついていた布団と毛布を跳ね飛ばし、朱は充電ケーブルに繋がった携帯端末の電源を入れる。ガラスフィルム越しの画面は、約束の時間まであと一時間と少しであると告げていた。待ち合わせの神社には、歩いて二十分もかからない。時間はまだあるが、余裕とは言い難い。すぐにだらけてしまう自分のことだ、すぐさま用意をしなければ遅刻してしまうだろう。
「オレも行く!」
急いで布団をはねのけ、雷刀はベッドから転げ落ちるように身を下ろす。再び冷気が肌を刺し、粟立つ。しかし、怯んでなんていられない。大切な女の子を待たせることなど、何があっても回避せねばならぬ事項だ。
冷えたカーペットから顔を上げると、扉の前で立ち止まった烈風刀が映った。早朝の空のように澄んだ碧い瞳には、呆れの色が多分に浮かんでいる。小ぶりな口の端はわずかに下がっていた。最初から起きてくださいよ、とうんざりした重い声が飛んできた。
「早く用意してください。レイシスたちを待たせるわけにはいかないでしょう」
「へーい」
ドアを開け部屋を出る弟に続き、兄も廊下へと足を踏み出す。氷のように冷え切ったフローリングの感覚に、ぶるりと身体を震わせる。防寒効果の薄い寝間着のまま長時間過ごすのは自殺行為だ。さっさと準備してしまわねば。さっむ、と細い呟きを落としながら、少年は小走りで進んだ。
凍ってしまいそうな冬の水に耐えながら手早く顔を洗い、急いで部屋に戻り着替える。迫り寄る焦燥にもつれながらも何とか着替えを終え、コートを肩に引っかけて玄関に向かう。二人暮らしで狭い底には、既にコートとマフラー、ブーツを装備した兄弟の姿があった。己が眠っている間に全て準備していたのだろう。優秀な彼はいつだって用意周到だ。
「朝ご飯は食べないのですか?」
「レイシスたち待たせたらダメだろ」
片割れの問いにブーツを履きながら答える。朝食を摂るべきであるのは分かっているが、今はそんな時間など無い。約束した少女たちを待たせてしまう可能性は極力排除するべきだ。初詣程度の時間ならば、腹の虫を押さえつけ無視することも簡単だろう。帰ってから昼飯をたくさん食べればいいのだ。
だったら早く起きてください、と真っ当な言葉が頭上から心を刺す。う、と濁った響きが喉から漏れた。そう言う烈風刀は寝坊することなく早くに起き、きちんと普段通り朝食を終え、寝転けていた己を起こすほど余裕を持って行動しているのだ。言い返しようがない。
立ち上がり、トントンとつま先を地面に軽く打ち付ける。手早くコートを着ていると、ガチャリ、と重い音の後、玄関ドアが開かれた。目の前の鈍色が、あっという間に空色に塗り替えられる。
二人で廊下に出、碧は手慣れた様子で鍵を掛ける。カチャン、と錠が落ちる音とノブを回しても開かないことを確認し、エントランスへと足を進めた。冬の穏やかな陽光に照らされた廊下に足音が二つ分落ちていく。
エントランスの自動ドアをくぐり抜ける。ガラスドアの向こう側、広がる空は冬の朝らしい澄み渡った色をしていた。少し淡い青を、太陽の光と薄雲の白が彩る。小春日和とはこのような様をいうのだろう。普段ならば聞こえるはずの車の音も、子どもの声もない。正月休み、それもまだ朝なのだから当たり前だろう。
「さっみぃ……」
冷え切った空気が身体を包み込む。部屋で布団を剥ぎ取られた時、否、それ以上の寒さだ。冬の風が吹き抜ける外なのだから当然である。つい先ほどまで布団でぬくまっていた身体にはあまりにも酷な温度だった。絞り出すように声を漏らした口から、白いものが生まれ空へと昇っていく。この調子では雪でも降るのではないか、などと考える。これだけ晴れ渡った青空からしてあり得ないのだけれど。
さっみぃ、ともう一つ呟いて、首をこれでもかとすくめコートの襟に口元を埋める。剥き出しの指を凍らせるような外気から逃れるように、ポケットに手を突っ込んだ。冷えた分厚い生地が大きな手を包んだ。
「冬なのだから当たり前でしょう」
すぐ隣から当然だといった調子の声が飛んでくる。そうだけどさぁ、とくぐもった音で返し、横を見やる。寒さなど平気だ、といった音色を奏でたその弟も、コートのポケットに片手を入れていた。危ないからポケットから手を出せ、なんて普段は言うくせに、自分だってやっているではないか。それほど寒さを感じているのに平然としているのだから、何だか気に入らない。思わず唇を尖らせた。
そもそも、グレイスもいることを知っていて『レイシスと二人で初詣に行く』などと嘘を吐いたことも少しばかり不服だ。己を起こそうとしてのものとはいえ、あまりにも質が悪い。起き抜けの頭とはいえ、すっかり騙された自分も悪いのだけれど。
さむ、と拗ねたようにこぼし、肩を縮こまらせて少しでも冷気から身を守ろうとする。襟元に埋めた口、そこから吐かれた呼気は依然白へと姿を変えていく。冬らしい光景だ。寒さが厳しいことの証でもある。
「カイロ、持ってこなかったのですか?」
「あー……。忘れた」
持ってくればよかった、と今更になって後悔が湧き上がる。しかし、今朝の調子ではそんなことに頭が回るはずがない。起き抜け、しかもレイシスを待たせまいと慌てて用意をしたのだから、カイロなんてものに意識が向くわけがなかった。
手を出してください、と声。いつもの説教だろうか。にしては、音は柔らかなものだ。やっと包み始めた温もりに名残惜しさを覚えながらも、素直にポケットから手を抜きだし隣へと差し出す。刹那、広げた手の平に何かが乗せられた。それが降り立った場所から、温もりが肌の上を広がっていく。白に黒がうっすらと透ける角の丸い長方形は、普段から使っている使い捨てカイロだ。
「えっ、いいの?」
「二つ持ってきましたから」
貴方のことですから忘れていると思ってましたよ。辛辣な言葉が白く色付き、空に消える。棘があるものだが、芯は柔らかで温かだ。彼の気遣いがよく分かる。やっぱり、この弟はいつだって用意周到で優しいのだ。
さんきゅ、と弾んだ声で礼を言う。突っ込みっぱなしだったもう片手を引き抜き、両の手で小さなカイロを包み込む。血の色を失い始めていた指先に、柔らかな温もりが宿った。
「あったけー……」
はぁ、と満足げな溜め息が漏れ出る。冷やされた身体にカイロの温もりはまさに救いだった。じんわりと広がっていく温度が、縮こまっていた身体をゆっくりと解いていく。本当に単純ですね、と隣から飛んできた呆れた呟きは聞こえなかったことにする。
「レイシスたち、今年も着物着てくるかな」
「そうなのではないですか。少なくとも、グレイスには着せたがるでしょうし」
カイロの温もりにより少しばかりの余裕ができた頭が、他愛も無いことを考える。こぼれた音はすくいあげられ、また返された。たしかに、とゆるく笑みをこぼした。
この世界を担う可愛らしく愛しい少女は、新たにできた妹を溺愛している。イベント事では様々な衣装を作っては着せているほどだ。正月のような『晴れ着』という滅多に着る機会の無い衣装を着せられるイベントを逃すはずがないだろう。妹も、最近では様々な衣服を着ることを楽しんでいるように見える。今頃、姉の手によって手際よく着付けられているだろう。
楽しみだなー、と口角を上げ浮かれた声をあげる。そうですね、と珍しく素直な声が返ってきた。愛する少女の着物姿は、兄弟にとっての初詣の楽しみの一つであった。大好きな女の子のハレの華やかな姿を見ることができる。それは年明け最初の幸せと言っても過言では無い。
「そーいや烈風刀はもうお願い事決めた?」
「あぁ……、まだですね」
覗き込むように隣を見て、兄は問う。全く考えていなかったのだろう、少し呆けたような音が返ってきた。顎に指を添え、弟は宙空を見上げる。うーん、と悩ましげな響きが色の薄くなった唇の隙間から漏れた。
「決まったら教えて! 知りたい!」
「そういうことは人に言ってはいけないというでしょう」
弾んだ声を、冷静な声がすっぱりと切り裂く。えー、と再び前を向いた翡翠を眇目で見やる。すぐ隣の片割れは、どこ吹く風といった様子で姿勢良く歩いていた。にべもない。
他人に問うてみたものの、実のところ己も明確には決まっていなかった。願いたいことなど山ほどあるのだ。レイシスが元気に過ごせますように。成績がマシになりますように。今年こそレイシスと海に行けますように。バグが発生しませんように。ヘキサダイバーがまともに遊べるようになりますように。少し考えただけでも泉のように願い事が湧き上がってくる。絞り込むことなど至難の業だ。うーん、と喉が鳴るような音が白い息とともに蒼天へと昇った。
「……お願い事って何個までしていいんだっけ?」
「一個に決まっているでしょう」
欲張るんじゃありません、と咎める声。想定通りの優等生な返答に、ちぇー、と不満げな声をあげた。
そんなことを言われても、大量の願い事の中から一つだけを選ぶことなど不可能だ。ただ生きているだけで、叶えたいことも願いたいこともこの手で数えられないほど生まれてくる。人よりも欲深い自覚があり、あれもこれもと目移りしてしまう己ならば尚更だ。
どうしようか、と縮こめていた首を伸ばし、空へと目をやる。ルビーレッドにスカイブルーがにじんだ。やはり願うならば自分のことだろうか。けれども、運営業務やレイシスに抱えているあれそれも大切で早く叶えたいことだ。弟に対してもそうだ。大切な人のことはいつだって願っていたい。
烈風刀、と考え、一つの願いが頭をよぎる。常日頃考えていることであり、自力で叶えようと己から動いていることだ。最近では叶いつつあるのだから、神に願うほどのことではない。けれども、これを弟に言ったらどうなるのだろう。好奇心がむくむくと湧き上がる。冬の冷気に冷めつつあった心に、いらずらの灯がともった。ニィ、と無意識に口角が上がる。明らかに怪しいそれは、コートの襟に隠れて気付かれることはない。
「じゃあ、『烈風刀ともっといちゃいちゃできますように』にしよっかなー」
「はぁ?」
いたずらげな声に素っ頓狂な声が重なる。静かな正月の朝の空間によく響く高さと大きさだった。エメラルドグリーンの瞳はこれでもかと鋭く眇められ、赤い口はぽかんと間の抜けた様子で開いている。冷えて色を失い始めた頬に、ぱっと朱が散った。
「神様にそんな馬鹿馬鹿しいことを願うんじゃありません」
「バカバカしくねーし。じゅーだいだし」
愛する人と睦まじく過ごしたい。これは愛しい人を持つ人間ならば当然の願いであり、何もおかしな事ではないはずだ。少なくとも、雷刀にとってはこの上なく重大事項である。日々それに努め色々と画策するぐらいには大きな願いだ。馬鹿馬鹿しいだなんて切り捨てるのは酷である。
ただ、言葉選びが悪い自覚はあった。否、わざとこの表現を選んだ。恋愛事に関しては恥ずかしがり屋で少々奥手な彼は、こんな言い方をすればきっと意識するだろう。今日一日この言葉を忘れられないぐらいには、脳に焼き付いてしまうはずだ。参拝中も、家に帰ってからも、己の言葉は彼の頭にこびりついて離れないだろう。恋人のことばかり考えてしまうだろう。そうなってしまえ、と意地の悪い部分が笑みを浮かべた。
「新年早々何を言っているのですか、本当に」
「お願い事決めてるだけだぜ?」
「……人に言うものではないと言っているでしょう」
なぁ、とゆっくりとした調子で隣を窺うが、愛し人はふいと顔を背けてしまった。逸れた頭、白のマフラーと浅葱の髪の隙間から覗く耳は、ほんのりと血の色を浮かべていた。寒さ故の赤か、はたまた。考え、ふふ、と呼気のような笑みが漏れた。
ブーツの硬い靴音がアスファルトの上に響く。晴れ着でその可愛らしい身を着飾っているであろう少女らが待つ神社へは、まだまだかかる。
畳む
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