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No.134

晴天、陽光、艶事【ライレフ/R-18】

晴天、陽光、艶事【ライレフ/R-18】
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真っ昼間からえっちなことするのえっち。

 あぁ、空が青い。
 開け放たれたカーテン、覗く磨かれたガラス戸の向こうは、目が醒めるほど鮮やかな青が広がっていた。絵の具をそのまま塗りたくったような色の中天に、痛いほど輝かしい太陽がおわす。透明なガラスを通して、広いとは言い難いリビングに陽の光が燦々と差し込む。ローテーブルにソファ、テレビ、そして己たち兄弟の身体を照らし出していた。
「どこ見てんの」
 抜ける青に染められる碧に、朱が差す。常はぴょこりと跳ねる癖のある赤髪は、汗ばみ落ち着いた様相になっていた。健康的な肌に濡れた幾筋かの緋色が張り付く様はどこか妖艶だ。
「べつに」
 問いに返す声は意図せず幼げな響きとなった。舌足らずになった調子に、烈風刀は薄く眉根を寄せる。潤んだ孔雀石が柘榴石から逃げるように逸らされた。寝転がった――押し倒され組み敷かれたソファの下、磨かれたフローリングにぐしゃぐしゃになった衣服が散っているのが映った。
 ふぅん、と雷刀は声を漏らす。不満げな、愉快げな、獰猛な、何とも言い難い響きだ。ただ一つ分かるのは、この捕食者は更に己が身を丁寧に嬲り骨まで食らい尽くすということだ。
 ごちゅん。腰骨と腰骨がぶつかる。硬質な音と痛みを訴えるはずのそこからあがったのは、ぬかるみに手を突っ込んだようにぬめり湿った音だった。骨を伝って響くそれと同時に、悦びが身体を走り抜けていく。このいっときだけ痛覚神経を快楽神経に作り変えられてしまった身は、硬いものがぶつかりあう痛みをきもちがいいものだと脳味噌に信号を送った。
「ぅ、……あッ、ぁ」
 肌を、肉を、骨を、髄を、鋭い快感が走り抜けていく。肉の悦びを知ってしまった身体は、間抜けに開いた口を用いてそれを謳い上げる。持ち主にとってはたまったものではない。けれども、本能が放つものなど制御などしようがなかった。
 ぱちゅ。ぐちゅ。晴天広がり陽光照らす昼下がりに全く相応しくない音が鼓膜を震わせる。濡れた響きは官能を揺らすものだ。揺さぶりに揺さぶって、脳味噌を駄目にしてしまう音だ。思考という機能を失ったそこは、法悦を受容する機関として新たなる使命を果たし始めた。
「ヒ、ぃ……ァ、ん……っ、ぅ」
 クーラーが効いた部屋は、夏であっても快適な温度を保っていた。なのに、今は暑くてたまらない。当たり前だ、まぐわい揺さぶられ肌を重ね合わせ、他者と――愛する人と温度を共有しているのだ。心理的にも、肉体的にも、昂りを覚えないはずがない。空調がどれだけ心地良い室温を保とうとも、熱は蓄積するばかりだ。
「れふと、れふとっ」
 ぬちゅん。ぐちゅん。淫猥な水音がひっきりなしにあがる最中、愛しい音色が己の名を奏でる。興奮しきり掠れた声は、普段の低さをわずかに失い上擦っている。可愛らしくも、背を震わせ脳を痺れさせるような色香があった。
 ぱちゅん、と剣が鞘に納められる。高いカリが、猛々しい幹が、散々耕され柔らかくなったナカを一気に擦り上げていく。狭い内部を割り広げながら刺激され、碧はおんなのように高い声をあげた。
 めいっぱい突きこまれた刀が、ずろろろ、と一気に引き抜かれていく。張り出た傘が、柔い内壁を引っ掻いていく。去っていくそれに泣き縋るように、熟れた肉洞は抱き締め絡みついた。
 突いて、抜いて、突いて、抜いて。何度も行われる抽挿は、快楽を生み出しては脳髄から思考を溶かしていく。聡明な少年の脳は、悦びに染まっていった。
 ごりゅ。熱を帯びふっくらとした柔肉、その一箇所を張り詰めた先端が抉るように突く。刹那、凄まじい快感が脳神経を焼いた。視界に白い粒が幾多も瞬く。ひゅ、と喉が呼吸のなり損ないを漏らした。
「ィッ――アッ、あぁッ!」
 悲鳴のような嬌声をあげ、烈風刀は目を見開く。まあるくなった翡翠の端から、雫が漏れ出る。神経焦がす膨大な快楽を逃がそうとした結果だ――そんな猪口才なことで軽減できるようなものなどではないのだけれど。
 鍛えられ逞しさを伺わせる体躯が弓なりに反る。激しい運動で汗が幾筋も伝う身体が、窓から差し込む陽光に照らされる。昼の最中、汗ばむ白い肌を日の下に晒す姿は卑猥であった。
 喉を晒すほど仰け反り、視界が上下に反転する。これでもかと開いた目が、透明挟んだ向こうの青に染められた。
 あぁ、空が青い。
 本能に食い散らかされ消えたはずの理性が、呑気な感想を漏らす。現実逃避にしては幼稚なものだ。主席を守り続ける悧巧な頭脳であれど、熱に溺れるような行為の最中ではろくに機能しない。まだ考える力が残っていただけ上出来だ。それも、すぐに溶け去ってゆく。
 ぁ、あ、と細い嬌声が無意識に漏れる。悦びを謳うとろけた響きだ。呼吸が荒い。凄まじい衝撃を受けた身体は息をするのがやっとだ。視界が未だチラつく。思考の機能を果たす場所に叩きつけられた快楽は、少年の内側に灯った火に薪をくべた。
 れふと。愛しい声が己を示す音を紡ぐ。縋るようにソファの座面を引っ掻いていた手に、汗で濡れた手が重ねられる。捕らえられたそれ、わずかに開いた指と指の間に、胼胝がある硬い指が差し込まれる。押さえつけ逃さないような、愛しさを肌から注ぎ込むような力と温度をしていた。
 指を絡めたまま、朱は己の首の後ろへと握った手をいざなう。法悦を脳の許容量以上叩き込まれた身体はろくに力が入らず、ただ載せるだけの形となってしまった。汗でしおれた髪が、指先をくすぐる。手のひらから伝わる温度も、感じるうるさいほど速い脈も、肌を撫ぜる髪の柔らかさも、全てが愛しく心地良かった。快楽に殴られ続けた頭に、わずかな凪が訪れる。
「ちゃんと、オレ見て?」
 視界が愛しい色で染まる。情欲の焔が燃え盛る炎瑪瑙が、とろけ潤んだ燐灰石を射抜く。法悦に焼かれた声が生み出したのは乞いであった。同時に、深い嫉妬と不満が顔を覗かせている。どうやら、窓の外へと意識が向いていたことが気に食わないらしい。それもそうだ、深く愛し合っている最中に己以外のものに気を向けられて良い気はするまい。
 座面に放り出したままのもう片腕を緩慢な動作で持ち上げる。異常なまでに重く感じるそれを、目の前の首の後ろへと回す。少しばかり力を込めると、丸い昼空の中に茜空が広がった。らいと、ともつれる舌を動かし愛しい人の名を呼ぶ。雫こぼす藍晶石の奥、光が揺らめく。情火だ。行為が終わるまで消えることなどない、二人でしか消すことができない焔だ。
 こういう時ばかり頭の回る兄である。しっかり意図を理解したのだろう、目を細めふっと笑む。応え求められた喜びを表すものだった。捕食者としての本性が色濃く滲み出たものでもあった。どうであれ、己は骨の髄まで食われることは最初から決定付けられている。今まで味わってきた被食者としての悦びがそわりと背を撫でた。
 ただでさえ近い顔が更に近付く。距離がゼロになる瞬間、雷刀は大きく口を開けた。がぶり、と擬音が聞こえそうなほど、唇全てを覆うようにかぶりつかれる。健康的に色付いた柔らかな粘膜を、犬歯目立つ赤い口がやわやわと食む。それだけで頭の奥が痺れた。
 口という生きる上で重要な器官を食われる最中、烈風刀は唇を薄く開き舌を出す。小さく姿を現したそれで、繋がった先の口内、そこに鎮座する赤を啄むようにちょんと突く。ほんのわずかな接触だというのに、舌先から官能が広がっていった。
 可愛らしいおねだりを彼が見逃すはずがない。すぐさま住まいをこじ開けられ、いたずらっ子な赤を厚いそれで絡め取られた。ぬめる熱と熱が、口腔という劇場でダンスを踊る。唾液が混じり合う卑猥な水音と鼻を抜ける甘い音が、演舞に淫らなアクセントを加えた。
 ざらついた表面を擦り合わせる。なめらかな裏側をくすぐる。尖らせた舌先でつつく。纏う唾液を搾り取るように吸い付く。舌という食事行動に必要不可欠な器官――いのちを保つための器官が、快楽を得るためだけのものへと生まれ変わる。妖しく蠢くそれは、二人の身体を快楽で満たしていった。
「ん、っ、ぅ……」
 ちゅぷちゅぷと可愛らしくもいやらしい音を兄弟で奏でる中、律動が再開される。先ほどまでの勢いは失い、肚の内全てをゆっくりと撫でるような動きへと変わっていた。剛直がふわふわとした肉の道を丁寧に拓いていく。今までの神経を焦がすような官能とは正反対、身をどろどろに溶かす優しく甘やかな悦びに、合わさった口の間からとろけた声がこぼれ落ちた。
 とん、とん、と穏やかな腰使いで兄は組み敷いた弟を愛す。子どもをあやすようなリズムだ。眠気を誘う揺さぶりだが、ぱちゅんという淫猥な音と生み落とされる確かな快感が意識を強く引き留めた。優しく与えられるそれは、腰から下が溶けて無くなってしまいそうな心地良さだ。頭の中身までぐずぐずに溶けて消えてしまうのではないだろうか。穏やかな快楽の海に漂う脳味噌が世迷い言をのたまった。
 酸素不足という無粋なもののせいで、合わさった唇が離れる。名残惜しげに伸ばされた舌と舌が二人分の粘液で繋がる。長い橋はすぐに切れ、寝転がった烈風刀の口内に消えた。外気に触れ冷えたそれはどこか甘く感じた。
「きもちい?」
 唾液で濡れつやめく唇が問いの言葉を紡ぎ出す。わずかに掠れたそれはあからさまに我慢の末に作られた音であるのが分かった。当然だ、彼の内に眠る獣欲がこんなぬるま湯のような緩慢で閑々たる交合で満たされるはずがない。かの獣はきっと咆哮しているだろう。もっと食わせろ、と。
 こくりと小さく頷く。己を慮り愛を注いでくれているのだ、きもちがいいのは当然だ。ただ、物足りなさと申し訳無さを感じているのも事実である。もっと好きにしてほしい。もっと好き放題にされたい。肉から骨まで一つ残らず食らいつくされたい。自分勝手で淫奔な願いが、法悦でぼやける頭に浮かんだ。
 あの、と烈風刀は口を開く。二人分の唾液で濡れた唇が、端からこぼれ落ちた粘つく雫が、降り注ぐ陽の光に照らされる。真昼の最中とは到底思えないほど蠱惑的な姿であった。
「あ、の……、もっと強くしても、大丈夫ですよ?」
 ぱちりと瞬き、少年はどこか幼い音を紡ぐ。声の可愛らしさに反して、その裏に隠された願いはあまりにもいやらしいものだった。相手の欲求を尊重する言葉を装った、己の欲望を満たすためのものだ。浅ましいとは分かっている。はしたないとは分かっている。けれども、内に燻る熱は叫ぶのだ。もっと食らってくれなんて、被虐心丸出しの願いを。
 ぐぅ、と苦しげな音が降ってくる。音と同じ感情を表すように、眼前の紅緋が強く眇められた。朱い頭が項垂れ、汗したたるかんばせが見えなくなる。煽んなよ、と呟く声が聞こえた気がした。
「加減できなかったらごめん」
 謝罪の言葉を奏でる音は欲望に焼かれていた。こちらを射抜く紅玉も、更に輝きを増している。獲物を定めた獣の輝きだ。煌々と光る深緋は、闇の中轟々と燃え上がる炎と同じものだった。
 ずる、と豪槍が潤んだ肉から引き抜かれる。焦らすようにゆっくりと去っていく動きに、思わず息が漏れる。細いそれは熱を帯び高くなっていた。
 中ほどまで下がったところで動きが止まった。追い求めていた刺激が無くなり、肚の中は動揺にぞわぞわと蠢く。いかないで、戻ってきて、とねだるような動きで浅く食んだ雄茎に絡みついた。
 この後何が起こるかなど明白だ。与えられるであろうものを夢想し、鼓動が速くなる。呼吸が浅くなる。頬が紅潮する。ガーネットを見つめるエメラルドには、多大なる期待の色が溢れていた。
 早く、早く、と急かすように日に焼けていない腰が揺らめく。欲望に溺れ素直になった弟の姿に、兄はニィと口角を上げた。
 ぼぢゅん。
 引かれていた腰が素早く前へと動き、熱された雄杭が縁の膨れた挟穴に一気に突き立てられる。鈍く濁った、酷く卑猥な音が交わったそこからあがる。瞬間、背筋を凄まじい電流が駆け上がっていく。光速もかくやのそれは、膨大な快楽を脳に直接叩きつけた。
「ッ――――あッ!」
 数拍置いて、盛大な叫声が二人きりのリビングに響き渡った。声を殺す傾向のある烈風刀からは考えられないほど大きく、強く、高く、艶めいた嬌声だ。その身に注ぎ込まれた快感を高らかに謳い上げたものだった。びくん、と鍛えられた身体が幾度も跳ねる。抱きついた恋人に胸を押し付けるように背を反らせる様は可愛らしくも妖しい色香を醸し出していた。
 すぐ目の前、朱と視線がぶつかる。普段は丸くキラキラとした可愛らしい目は、今は強く眇められていた。わずかに覗く紅玉髄の奥には、依然轟々と焔が燃え上がっている。快楽と嗜虐心と愛情という薪をくべられたそれは、天を衝かんばかりに勢いが増していく。大火を消す術など、一つしかない。その唯一を求め、雄は腰を振りたくった。
 ごぷん。ごりゅん。業物が細鞘に突き立てられる度、剛直が柔肉を抉る度、凄まじい快楽信号が少年の脳髄に送られる。ぶちこむと言うのが正しいほどの量と強烈さだった。頭の奥が痺れ、思考が動きを止め、理知的な頭が使い物にならなくなってゆく。この場では何の問題もない。今ここで一番重要なのは、『きもちよくなること』なのだから。
「ぅあっ! ぁ、ぃ……ッ、あ、アッ!」
 必死に兄にしがみつき、弟は目を見開き涙を流す。恐怖すら覚えるほどの強い法悦に、身体が生理反射を行ったのだ。真ん丸になった天河石は熱い水をたたえ、限界を超えて端からこぼれる。肌を伝い整った顔に透明な線をいくつも描いていく様は、憐憫を誘うもオスを駆り立てる姿だった。
「れふとッ」
 切羽詰まった声が己の名を呼ぶ。掠れた音は明確に獣欲に溺れていた。獣の本能に支配された瞳は、天高くに登った太陽の光よりも強烈な輝きを放っている。どろりと暗く溶け、ギラギラとしたそれは、休日の昼に見せるだなんてとても思えない代物だ。けれども、愛し捕食するけものとして何よりも相応しい色と光を宿していた。
「ぁっ、ア、らいと……らいとぉッ」
 鋭い瞳と声に射抜かれ、被食者はとろけきった音で捕食者を呼ぶ。もっと欲しい、もっと食らってくれ、と懇願する響きだ。淫乱めいた姿に、ぐぅ、と朱い獣は喉を鳴らす。肚に迎え入れた熱塊が更に肥大したように思えた。
 床に服が脱ぎ散らかされる。汗ばんだ身体が重なり合う。嬌声と唸り声、淫らな水音があがる。とても日の高い時間に繰り広げられているとは思えない風景だ。真っ昼間から性行為に及んでいるという背徳感が二人の背筋を撫でる。欲望に溺れ興奮しきった身には、それはただのスパイスでしかない。依然音をたてて燃える情火に燃料を注ぐだけだ。
 狭き場所を切り開き、奥底を暴かんとばかりに雄肉が秘肉に突き立てられる。硬く逞しい欲望が、知り尽くした肚の中を我が物顔で食い荒らす。イイところをこつこつと突かれ、ごりゅごりゅと抉られ、ごりごりと全体を以て擦り上げられる。与えられる人間は、欲望でとろけた甘い声を叫び淫欲に生み出された涙を流すしかない。食われる側にできることなど何もないのだ。あるとすれば、熱く潤む淫肉を蠢かせ悦びを伝えることぐらいだ。
「ぁうっ、あ! ぅ……あッ! あァッ!」
 許容限界を超える快楽信号を叩きつけられ続ける脳味噌は、発声という手段で襲い来るそれを逃がそうとする。そんなの焼け石に水でしかない。おまけに、甘やかで艶やかで猥褻な響きはオスを興奮させるものだ。己を餌たらしめんとする行為でしかなかった。
 発情しきった艶声に煽られ、少年は欲望がままに腰を振りたくる。そこに『加減』なんてものは欠片もない。当たり前だ、目の前にこれ以上にない馳走を用意されて我慢などできるはずがない。食われる本人がもっと食らってくれ、残さず全て食らってくれ、とこの上なく淫らにねだるのだから尚更である。加減する理性など、とうの昔に弾けて消えていた。
 ごちゅん、ごちゅん、と肚の道の行き止まりを強く穿たれる。扉を槌で叩き抉じ開けようとする様に似ていた。実際、閉じきったそこに侵入するには力で抉じ開けるしか術がない。この姿は当然であった。
 すっかりと快楽を拾い上げる弱点と化した場所をめいっぱい刺激され、碧はひたすらに甘美な音を奏でる。きもちいい、こわい、もっと、やだ、すき、きもちいい。様々な言葉が浮かぶも、アウトプットする声帯は意味を成さない単音しか生み出さない。人間らしい発声方法など、もう忘れてしまったようだ。
 猥雑な水音、肌がぶつかり合う高い音、獣めいた唸り声、艷やかな喘ぎ。卑猥極まる四重奏が昼空の下で繰り広げられる。二人暮らしの広くないリビングに響き渡るそれは、獣のようにまぐわい深く愛し合うつがいの情欲を煽るだけだった。
 奥を重点的に突く腰使いが勢いと強さを増していく。このまま奥底に突きこまれ続けたら、腹が破れるのではないか。馬鹿馬鹿しい与太が、津波のように襲い来る淫悦に溺れる頭に浮かぶ。それもすぐ、凄まじい肛悦によって消し飛ばされた。
「ぁ、いと、っ……らい、と」
 思考能力が消え去った脳味噌で、もつれる舌で、赤々とした唇で、どうにか愛しい人を示す音を作り上げる。普段ならすぐになに、どした、と朗らかな声が返ってくるが、今日はそれがない。代わりに、苦痛を――否、襲い来る快感を堪えるために眇められたルベライトが黙ってよこされる。不気味なまでに輝く紅晶がじぃとこちらを見据えた。
 これだけ見つめられて、これだけ射抜かれて、これだけ情火の熱を向けられて、普段の烈風刀ならば顔を背け目を閉じ、苛烈な視線から逃げていただろう。だが、今日は違う。珍しく嫉妬心丸出しで『見て』なんて乞われたのだ、恋人の可愛らしい願いを叶えてやりたかった。
 湧き出る雫に濡れたインディゴライトが、恋し愛す人を見つめる。首に回していた腕にどうにか力を込め、朱い頭を引き寄せる。らいと、と今一度愛しい名を紡ぎ、絶え間なく荒い息をこぼす口に唇を寄せた。
 嬌声を漏らすばかりの口を大きく開け、食い縛るように引き結ばれたそこに思いきりかぶりつく。先ほどの意趣返しであり、獣を更に煽動するためだ。込み上げるはしたない声を抑えることを諦め、浅い呼吸と意味の無い音を吐き出しながらしとどに濡れた粘膜を柔く食む。口の中に誘い込んだ熟れた赤の表面を、性的興奮で粘度を増した唾液纏う舌でそっとなぞる。最後のひと押しとばかりに、合わせ目をノックするように突いた。
 そこまで露骨に煽られて、欲望に至極素直な少年が黙っていられるはずなどない。覆い込む唇を振り解くかのように大きく口が開かれる。いたずらのような、挑発するような行為を向ける小さな舌を逃すまいとばかりに一対の赤で咥えこんだ。ぢゅ、と引きずり出すように強く吸い付かれる。それだけで官能が背筋を走っていった。
 おいでくださいと誘うように、碧い少年は唇を開く。瞬間、熱いものが口内に捩じ込まれた。酷く熱された赤が、同じほどの熱を持つ赤を絡め取る。ざらつく表面を擦り合わせ、唾液湧き出る裏側を舐め回し、つるつるとした硬口蓋を押し付けるように撫でくすぐる。迎え入れた侵入者は、我が物顔で口腔を蹂躙していく。欲望を加減なくぶつけられ、隅々まで捕食される。何よりも求めたものだ、とマゾヒスティックな心が恭悦を高らかに叫んだ。
 口辱の中でも、腰使いが止まることはない。むしろ、激しさを増していた。当たり前だ、快楽を求める身体が口での交合のみで満足できるはずなどない。燃え盛る情火を消す方法など一つしかない。種を植え付け、己のものだと声高に主張する。種を植え付けられ、雄の所有物だと宣言される。腹に渦巻く欲望を吐き出し吐き出されることで、やっと獣は鳴りを潜めるのだ。
 ばちゅん。ずちゅん。肌が、肉が、粘膜が、猥褻な音を紡ぎ出す。浅瀬から奥底まで、雄の象徴が一気に擦り上げ、好む部分を何度も何度も刺激される。髄を駆け抜け脳神経を焼く快楽信号が受容される度、食われる碧は高い声をあげた。それも全て、食らいつくけものの口内へと消えていった。
 蜜こぼす張り詰めた先端が、大きく張り出た傘が、血管浮かぶ幹が、肚の中身を掻き回す。さんざっぱら解し耕され、透明な体液を塗り込められたナカは、侵略の限りを尽くす雄の器官を強く抱き締めた。暴れ回る動きを止めるような、全てを暴かれることをねだるような動きだ。どちらにせよ、捕食者は突き立て、穿ち、抉り、獲物を蹂躙する以外に選択肢はない。被食者も、突き込まれ、穿たれ、隅々まで暴力的な快感で塗り潰されることしか考えていなかった。
「んっ、んぅ…………ッ、は、ぁ、あ!」
 口内隅々まで味わっていた舌が離れ、塞がれた唇が解放される。絡まる赤が解けた途端、喉を登りつめてきた情動が声として発せられる。高いそれは、身を襲う快楽に染まりきっていた。艷やかな音だ。淫らな音だ。何より、雄を誘い煽る音だ。
「ィッ! ひ、ぁ……あ、あっ……ぅあ!」
「れふと、れふと!」
 情欲溢るる声に、切羽詰まった声が重なる。つがいを求め、朱と碧は互いを一心に見つめる。つやめき潤みとろけた瞳の中には、共に淫欲の炎が轟々と燃え盛っていた。
 足りない、とばかりにもう一度口付けが降ってくる。否、口付けなんて可愛らしいものではない。噛み付くように合わせ、舌を絡み合わせ、口端から唾液を垂らす様は、捕食と表現する方が正しかった。
 口で、秘所で、身体を結び合わせる。口が、秘所が、猥雑な音楽を奏でる。口も、秘所も、この上ない法悦を謳い上げる。心が叫ぶ。幸福だ、と。
 柔らかな肉筒が、内部を荒らし回る怒張を舐め回すように蠕動する。痙攣に似た動きで幾度も抱くつくそれを振りほどくように、雄根は引き下がっていく。刹那、泣いて追い縋る肚粘膜に、去ったばかりの聳峙が一気にぶち込まれた。これが欲しかったのだろう、と捕食器官が問う。応えるように、熟れきったナカはきゅうきゅうと絡みつき抱きついた。
「ん、ぅっ…………あぅっ……、あ、あ、アッ」
 燃える紅緋で染まった視界にいくつもの白が瞬く。バチバチと何かが焼き切れそうな音が脳に流れ込む。淫らに雄を迎え入れた肚の奥から何かが迫り上がってくる。果てが近いのだ。つがいに食い尽くされつつある身体は、高みへと至ろうとしていた。
 ヒ、と怯えるような音が喉からあがる。幾度も体験してきた、過ぎた快楽が襲いかかる恐怖。まだ可食部分は山ほどあるのに、行為が終わってしまう悲哀。愛する人を置いて一人飛び立つ寂寥。いつだって人生最大を更新するきもちよさへの期待。全てが混じり合った、複雑な音色していた。原初の欲望に溺れきった、とろけきった響きをしていた。
 ごぢゅん。洞の突き当りを破壊せんばかりに力いっぱい穿たれる。瞬間、視界が白に染まる。無彩色に塗り潰された世界の中、バチン、と何かが勢い良く切れる音が耳のそばで聞こえた気がした。
「ァ――――、あッ!」
 酷く高い法悦の叫びが、白い喉からあがる。引き締まった身体が弓のようにしなり反り返る。縋り付くように、腕の中の赤い頭を搔き抱いた。
 絶頂を迎えた媚肉が、ぎゅうと引き締まる。潤った桃肉がうぞうぞと蠢き、歓待した雄を根本から頭まで強く撫でる。子種をねだる動きだ。早くこの肚にぶちまけてくれ、といやらしく乞う声が聞こえてくるようだった。
 ぐ、と苦しげに息を呑む音が遠くに聞こえる。瞬間、凄まじい感覚が焼き切れたはずの脳神経を伝達した。痛みだ。針を刺すような鋭い痛みが、抱き込んだ頭の下から発生する。暴力的なまでの快楽で飛びそうになった意識が一気に引き戻される。白んだ視界が色を取り戻した。
 ィッ、と悲鳴と呻きが混じった声が反った喉から発せられる。つい先ほどまで恭悦に喘ぎ悦びを謳った口が引きつり結ばれる。見開かれた花緑青が強く歪み、雫を溢れさせた。
 噛まれたのだ、と気付くのはすぐだった。愛し恋する兄は、噛み癖がある。興奮するとつい歯を立ててしまう、とは本人の談だ。反省はしているようだが、直る気配はない。それはそうだ、理性が消し飛ぶような状況下で己をコントロールするなど至難の業である。すぐ本能に支配される彼相手ならば尚更だ。
 引きつった口元が緩む。歪んだ目元が解け、愛おしそうに細められる。は、と吐き出した息は、歓喜と情欲、それらから生まれる熱で染まりきっていた。
 噛まれている。すなわち、愛しい人は興奮しているのだ。性的興奮を覚えているのだ。己相手に感情を高ぶらせ、牙を立てるほど理性を失っているのだ。歓喜以外の何が沸き起ころう。
 薄暗い歓びに、一瞬だけ本来の様相を取り戻した痛覚神経が改めて書き換えられる。痛みといういのちに関わる信号を認識する場所は、それを快楽と解釈する器官へとすっかり改変された。被虐的な心にぴったりの生まれ変わり方だ。あ、あ、と細い声があがる。肉に歯を立てられ肌を食い破られる痛覚は、この上ない快感として英明だった頭に受容された。
 噛まれる最中も腰使いが止まることはない。抜け落ちそうなほど引き、隙間が無くなるほど押し付ける。腹筋浮かぶ固い腹を破らんばかりの勢いだ。逃すまいと噛みつきながら一心不乱に腰を振る様は、交尾をする猫に似ていた。まさに獣そのものだ。
「ぁっ、いッ……や、ぁ! あ!」
 皮膚を、肉を、粘膜を抉られる悦びが、身体中を駆け巡る。中からも外からも与えられる強大な快楽は、達したばかりの身体にはあまりにも辛いものだ。碧はビクビクと震え、高く苦しげに喘ぐ。その響きの中には、確かな幸福があった。
 ふーふーと荒く激しい息が耳をくすぐる。高ぶりに高ぶった、理性などない獣の呼吸だ。生殖本能を丸出しにした、目の前のつがいを孕ませることしか考えていない雄の響きだ。より深く牙を埋めたのか、痛みが強くなる。それもすぐ、頭の奥を痺れさせるきもちよさとして誤認した。
 肩に、首筋に、痛覚を受容する。快楽に変換されたそれが、内部を蹂躙される悦楽とともに神経回路を焼いていく。凄まじい量の快楽信号を叩きつけられる脳味噌には、理性も思考も何もなかった。本能がまま雄を誘う艶声をあげ、本能がままつがいを求め名を呼び、本能がまま欲望に溺れゆく。淫らに乱れる様は、つがいを更に煽るものだ。抽挿が激しくなり、かぶりつく力が強くなる。全て快感を生み出すものだった。食われる悦びに、被食者は歓喜の涙をこぼし続けた。
 招き入れる荒らし回る欲の塊が、どちゅどちゅと奥底を穿つ。その度に、内壁は生理反射のごとく蠢き熱を撫で上げた。ただでさえ狭い肚の道が狭まり、ぴったりと侵入者に身を寄せ締めつける。全て無意識の行動だ。食われる雄は、本能由来の淫乱めいた動きで捕食者たる雄を悦びの頂点へと誘った。
 ごりゅん。
 道の行き止まりが一際強く叩かれ抉られる。全力全身の打撃に、解れきった内肉はぎゅうと食いちぎらんばかりに熱槌を締めつけた。細かな襞が蠕動し、抱き込んだ恋人自身全てを刺激する。ぐぅ、と苦しげな鈍い音が、耳のすぐ隣で聞こえた。
 刹那、肚の奥底が熱を持つ。全てを焼き尽くすような熱が、淫猥にうねるナカを舐め回していく。欲望がままに、生殖本能がままに、肚に射精されたのだ――子種を注ぎ込まれたのだ。
「ぁ、はぁ…………」
 幸福に染まりきり上擦った声が、だらしなく緩んだ口から吐き出される。舌を絡め合わせるのはきもちいい。内部を暴かれるのもきもちいい。肉に牙を立てられるのもきもちいい。だが、種を植え付けられる悦びは格別だ。欲望で煮詰められた熱が敏感な粘膜を焼く心地は、何よりもきもちがいいことだった。
 びゅるびゅると音をたてて獣欲の奔流が内部を侵略していく。からだのうちがわ全てを彼の生んだ白で染められるような心地だ。肚の内、誰にも――愛し人以外の誰にも触れられない場所に、たっぷりとマーキングされる。愛するつがいだと宣言される。なんと幸福なのだろう。熱い吐息が解けきった口から漏れた。
 どれだけ情欲に駆られていようと、終焉は訪れる。肚で蹂躙者が脈打ち射精する感触が弱まってゆく。それでも最後のひとしずくまで植え付けようと、兄はカクカクと細かく腰を動かす。入念に精を塗り込められ、身体の内から全てを支配される感覚に、弟は吐息にも似た細い嬌声を漏らす。欲望の証を咥えこんだ潤む洞は、搾り取るように根本から先端まで襞を蠢かせた。淫情の焔で焼け付いた唸りが鼓膜を震わせる。
 本当に全て吐き出したのだろう、内部の強い脈動と腰使いが止まる。行為が終わったことを悟り、烈風刀は涙膜張ったままの瞳でぼんやりと天井を眺める。望むがまま好き放題食らわれ、達して尚揺さぶられ、腹いっぱい灼熱を注ぎ込まれた身体は疲れ果てていた。中途半端に開いた口からは、喘鳴にも似た呼吸が浅くこぼれていた。
 は、と依然火の灯った呼気が耳をくすぐる。しばしして、首元に立てられていた牙が抜かれた。熱い口内に囚われ唾液をまとったそこが、温度を失い奪われ寒さを覚える。同時に、鈍い痛みがじわじわと広がった。ようやく本来の様相を取り戻した神経回路が、痛覚を正しく脳へと伝えたのだ。何度味わっても慣れぬ疼痛に、形の良い眉が寄せられる。ぅ、と濁った呻きが息整わぬ喉から漏れた。
 酷く荒い呼吸が二人分、光差し込むリビングに積もっていく。鍛えられた胸が大きく上下する度、一糸まとわぬ肌を多量の汗が伝う。開きっぱなしの口から、時折艶めいた細い単音がこぼれる。うららかな陽気に似つかわしくない、酷く退廃的な光景だった。
「あー……ごめん、ゴムすんの忘れた……」
 呼吸落ち着かぬまま、雷刀は申し訳無さそうに謝る。そこにはもうあの獣めいた響きも熱も鳴りを潜めている。理性ある人間としての様相を取り戻していた。
「何を今更」
 わずかに涙をたたえた目を眇め、烈風刀は覆い被さったままの兄を見やる。忘れたも何も、ここは寝室ではない、性に関するものなど一切置いていないリビングだ。そんな場所で衝動がままに事に及んだのだから、そんなものを準備する余裕などどちらも持ち合わせていなかった。そも、受け入れる時点で互いに黙したままだったのだ。合意と同義である。
 ティッシュ、と呟きながら朱はテーブルへと手を伸ばす。ソファから落ちないように、楔が抜け落ちないように注意しながら、机上に置いた箱をどうにか手繰り寄せた。何枚か抜き取って重ね、少年は繋がった場所の下に敷く。抜くな、と一言断り、ゆっくりと腰を引いていった。
 欲の証を吐き終え柔らかくなった雄自身が、緩慢な動きで体内から去っていく。粘膜と粘膜が擦れる感触に、ん、と鼻にかかった息を漏らしてしまう。身体を満たしていた官能はとうに消えたはずだというのに、淫らな肚は切なげに泣き声をあげた。そんなみっともないものなど、聞かないふりをする。こんな淫乱に構っている余裕も体力も残っていないのだ。
 全て抜けた瞬間、ごぷ、と猥雑な音があがる。内部を満たしていた白い種が、隘路を逆流しひくつく孔穴からどろりと溢れ出した。赤く膨れた孔の縁からこぼれ落ちる粘ついた濁液が、上気した身体を白で彩っていく。筆舌尽くしがたいほど卑猥な姿だった。
 腹を満たしていた精虫が漏れ出ていく感覚に、碧は眉をひそめる。はしたなく精をこぼす姿を見せるのも、粘つく液体が未だ過敏な肌を伝っていくのも、大切な熱が勝手に抜け落ちていくのも、全ていい気はしない。兄のおかげでソファを汚すことがないのが幸いだ――そも、こんな場所で性行為をするなという話なのだけれど。
「先シャワー浴びてきな。その……ほら、それとかあるし」
 腹の内の獣を刺激する光景から目を逸らし、朱い少年はもごもごと言葉を紡ぐ。音には気まずさが色濃く滲んでいた。それはそうだ、己が欲望がままに相手に余計な負担を強いたのだ。たとえ普段は機微に欠ける彼でも気にするに決まっている。
 分かりました、と返し、碧い少年は肘を突きゆっくりと身を起こす。こぽ、とまた小さな音があがる。肚にしかと抱え込んだはずの愛しい迸りがどんどんと消えゆく感覚に、小さく息を呑む。堪える音は、まだほのかに甘い響きをしていた。
 早くも空腹を訴え始めたけものから逃げるように、視線を横へと逸らす。視界の端に、ベランダに続くガラス戸が映る。常日頃掃除し美しい透明度を保つガラスの向こう側は、依然晴天が広がっていた。
 あぁ、空が青い。

畳む

#ライレフ #腐向け #R18

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