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No.135
クリームソーダとケーキと空色と【ニア+ノア+レフ】
クリームソーダとケーキと空色と【ニア+ノア+レフ】
ニアノアちゃんお誕生日おめでと~!
にかこつけてニアノアレフ。お誕生日にケーキを食べるニアノアちゃんと弟君の話。
皆ちょいちょいCafe VOLTE行ってたら可愛いね。
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「もっ、もうちょっと! もうちょっとだけ待って!」
手にしたメニューをぎゅっと握り、ニアは叫ぶように乞う。表情も声も、いつだって元気でまっすぐな彼女らしからぬ焦りに駆られたものだ。瑠璃色の視線がラミネートコーティングされた紙の上を滑っていく。色とりどりの写真を追いかける目には焦燥と混乱がぐるぐると渦巻いていた。
「にーあーちゃーんー……」
隣に座ったノアが姉を呼ぶ。可憐な唇は不満げに尖っており、視線が右往左往する片割れを見る目もどこか冷たさを孕んでいた。掴むように机の端に乗せられた手がぱたぱたと上下する。猫が苛立ちを表すそれを思い起こさせる動きだ。どれもこれも、大人しい彼女にしては珍しいものである。当然だ、かれこれ姉の悩みに五分は付き合い待たされているのだから。
悩ましげに唸りながらメニューとにらめっこする姉兎と頬を膨らませる妹兎の姿に、対面に座る烈風刀は小さく笑みを漏らす。愛おしさがにじみ広がる温かな微笑みだ。真剣に悩み退屈に待つ二人には悪いが、じゃれあうような風景は可愛らしいと表現するのが相応しいものだった。
「先に飲み物だけでも頼みましょうか」
メニュー立てに戻した冊子を再び手に取り、少年はドリンク類のページを開いて二人に差し出す。ケーキの写真に釘付けになっていた青い目が二対、碧の手元に寄せられた。
「ノア、このクリームソーダがいい! 青いのすっごくきれい!」
ドリンク一覧の中央を飾る写真を指差し、少女はキラキラと目を輝かせる。普段控えめで甘えることを苦手とする彼女にしては積極的な様子だ。よっぽど、この澄み渡る青に惹かれたのだろう。
「えっと……、ニアもノアちゃんと同じのがいい!」
しばし悩む様子を見せながらも、ニアも妹の指と並ぶように写真を指す。クリームソーダという子どもに大人気なメニュー、それも自分たちと同じ深く鮮やかな青色をしたものがあれば興味を示すのも当然だ。分かりました、と柔らかに笑み、碧い少年は軽く手を上げ店員を呼ぶ。空色クリームソーダ二つとホットカフェラテ一つお願いします。かしこまりました。短いやりとりが少女らの頭上を渡っていく。
上機嫌な様子で宝石めいた鮮やかさの飲み物たちの写真を眺めるノアの隣で、ニアは依然強く眉根を寄せ真剣な目つきでメニュー表を睨む。うーん、と少女らしからぬ重苦しい音が細い喉からあがった。
明日はお誕生日ですね。よければケーキでも食べに行きませんか。
そんなお誘いを受けたのが昨日のこと。兄のような存在である烈風刀の提案に、双子兎はパァと表情を輝かせ、両手を天へと大きく伸ばして元気よく返事をした。ケーキが食べられる上に、大好きなお兄ちゃんと一緒に過ごせるのだ。これ以上嬉しいことなどない。お誕生日とっても楽しみだね、と帰って二人で笑い合ったものだ。
そうして六月十日、ニアとノアの誕生日。放課後に三人でCafe VOLTEを訪れたのが八分前。ノアと烈風刀がケーキを選んだのが六分前。ニアが呻きながらメニューと真剣に相対しているのが現在だ。
どうしよう。どれにしよう。定番の可愛らしいいちごショートも美味しそうだし、重厚で大人な色をしたチョコレートケーキも美味しそうだ。シンプルなチーズケーキはベイクドもレアもきっと濃厚な風味が舌を満たしてくれるし、フルーツをふんだんに使ったタルトは目をも楽しませてくれる。季節限定と大きく謳われたレモンケーキも鮮やかな色合いで目を引いた。
「全部食べたい……」
「お誕生日ですから、二つまでならいいですよ」
「二個も食べたら晩ご飯食べられなくなっちゃうよ。だめだよ」
思わず漏れ出た心の声に、優しい声が返される。ほんと、と顔を上げる前に、厳しい言葉が甘い希望を切り捨てた。うぅ、と泣き出しそうな声が潤った唇からこぼれ落ちる。妹はいつだって優しくて、いつだってしっかり者で、控えめながらも奔放な自分をそっと諫めてくれるのだ。とっても頼りになる自慢の妹だ。今日ばかりはそれが辛くて仕方ないのだけれど。
「どれと迷っているのですか?」
「えっと……、ショートケーキと、フルーツタルトと、レモンケーキのどれにしようかなって」
少年は軽く身を乗りだし、姉兎の手元を覗く。可愛らしいかんばせを俯けたニアは、色鮮やかな写真を三つ順番に指差した。どれも美味しそうですし悩んでしまいますね、とかすかに笑みを含んだ同意の言葉が降ってくる。でしょっ、と頭を必死に回転させる少女は思わず大きな声をあげた。静かにだよ、と少し慌てた妹の声が隣から飛んでくる。わわっ、と姉は急いで口元を押さえた。愛らしい姿に、少年の口元に再び笑みが浮かぶ。
「ノア、レモンケーキにしようか? そしたらニアちゃんに分けたげれるよ?」
「だっ、大丈夫だよっ! ノアちゃん、お誕生日ぐらい好きなもの食べてよぉ」
魅力的な提案を、青い兎はぎゅっと目を瞑って断る。その声は言葉に反して苦しげで、涙がにじむような響きをしていた。すぐさま飛びつきたいほどの申し出だが、こんな時まで大切な片割れに気を遣わせたくない。この可愛らしい妹はいつだって人を思い遣る控えめな子なのだ、今日ぐらいは遠慮せずに自分の好きなものを存分に味わってほしかった。
そうですね、と烈風刀は顎に指を当てる。数拍、思案に耽り結ばれた口元がゆるりと解けた。
「だったら、僕がレモンケーキも頼みましょう。そして、三人で分けましょう? これなら夕飯もちゃんと食べられますよ」
「……いいの?」
「えぇ、僕も季節限定のケーキは気になりますから」
こういう機会でも無ければなかなか食べられませんし、と少年は手元のメニューを撫ぜる。『季節限定』の四文字を、少し硬い指が辿った。
瞬間、皺の痕が残ってしまうのではないかと不安になるほど寄せられていた丸い眉がほろりと解ける。難しげに引き結ばれていた口元が綻び、大きく開き笑みを形取った。
「じゃっ、じゃあ、えっと…………、タルトにする! フルーツタルトがいい!」
「では注文しましょうか」
ようやく少女の決心がついたところで、失礼します、と朗らかな声が響いた。碧と蒼の三つの視線が音の方へと吸い寄せられる。そこには、銀の盆にグラスを載せたウェイトレスの姿があった。重いであろうそれを片手で持つ様はごく自然ながらも感心を誘う。
「こちら、空色クリームソーダとホットカフェオレお持ちしました。ケーキ、決まりましたか?」
「えぇ、ちょうど」
三人の前に注文のドリンクを並べながら、虎子は笑みを投げかける。烈風刀も柔らかな笑みを返した。ふふ、と息を吐くような楽しげな笑声。エプロンのポケットから注文票とボールペンを取り出し、少女はすっと背筋を伸ばした。
「ご注文、承ります」
「えっとね、ノアはレアチーズタルト」
「ニアはね、フルーツタルト!」
「僕はショートケーキとレモンケーキを」
三人のオーダーを書き連ね、店員はかしこまりました、とお手本のようににこやかな笑みを浮かべる。少々お待ちください、と残し、虎子は軽い足取りで店内を歩いていった。
「決まったことですし、クリームソーダ飲みましょうか。アイス溶けちゃいますよ」
うん、と双子兎は元気な返事をする。長い袖をまくり、各々の前に置かれたグラスをそっと引き寄せた。
細く背の高い透明なグラスには、真っ青に色付いた炭酸水が満ちていた。鮮やかに澄み渡るその色は、『空色』の名を冠するに相応しい。美しい青と細かな氷粒が満ち満ちたガラス容器の頂に、まあるいバニラアイスが乗せられている。少し黄みがかった白、散る小さな黒から、濃厚で風味豊かなものだということが想像できる。目も舌も十二分に楽しませてくれるであろうそれを前に、少女らの頬は自然と綻んだ。
いただきます、と声が重なる。大きく開いた口が、白いストローに寄せられる。ちゅう、と控えめに一口。炭酸のぱちぱちとした感覚と、舌を優しく撫でるような甘さが小さな口の中に広がった。
「おいしい!」
「それはよかった」
泡が浮かび上がるソーダと同じほどキラキラと目を輝かせる兎たちを眺め、碧は緩く笑む。彼もクリームで彩られた温かなカップに口を付ける。香ばしい風味とコーヒー特有の苦み、その中にそっと潜む蜂蜜の上品な甘さが少年の口内を満たした。美味しい、と漏れた言葉に、双子は己のことのように嬉しそうに笑った。
「ケーキ、楽しみですね」
「うん!」
「れふとにも分けたげるね」
「あっ、ニアも! ニアもちゃんと分けたげるからね!」
ニコニコと笑みを漏らして言う妹に対抗し、姉も声をあげる。二人が全部食べていいんですよ、と烈風刀は優しい言葉を返した。
「だってれふとが食べさせてくれるんだよ? れふともちゃんと食べて」
「僕も自分の分を頼みましたから大丈夫ですよ」
「そうだけどー……」
むぅ、とノアは頬を膨らます。少女の考えなどとうにお見通しなのだろう、分かりました、一口だけくださいね、と少年はいたずらげに返す。膨らんだ頬が萎み、代わりに喜ばしげに解けた。えへへ、と可愛らしい笑声が二つこぼれ落ちる。
学生たちで賑わう店内に、青色が三つ鮮やかに浮かんだ。
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#ニア
#ノア
#嬬武器烈風刀
#ニア
#ノア
#嬬武器烈風刀
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SDVX
2024/1/31(Wed) 00:00
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クリームソーダとケーキと空色と【ニア+ノア+レフ】
クリームソーダとケーキと空色と【ニア+ノア+レフ】ニアノアちゃんお誕生日おめでと~!
にかこつけてニアノアレフ。お誕生日にケーキを食べるニアノアちゃんと弟君の話。
皆ちょいちょいCafe VOLTE行ってたら可愛いね。
「もっ、もうちょっと! もうちょっとだけ待って!」
手にしたメニューをぎゅっと握り、ニアは叫ぶように乞う。表情も声も、いつだって元気でまっすぐな彼女らしからぬ焦りに駆られたものだ。瑠璃色の視線がラミネートコーティングされた紙の上を滑っていく。色とりどりの写真を追いかける目には焦燥と混乱がぐるぐると渦巻いていた。
「にーあーちゃーんー……」
隣に座ったノアが姉を呼ぶ。可憐な唇は不満げに尖っており、視線が右往左往する片割れを見る目もどこか冷たさを孕んでいた。掴むように机の端に乗せられた手がぱたぱたと上下する。猫が苛立ちを表すそれを思い起こさせる動きだ。どれもこれも、大人しい彼女にしては珍しいものである。当然だ、かれこれ姉の悩みに五分は付き合い待たされているのだから。
悩ましげに唸りながらメニューとにらめっこする姉兎と頬を膨らませる妹兎の姿に、対面に座る烈風刀は小さく笑みを漏らす。愛おしさがにじみ広がる温かな微笑みだ。真剣に悩み退屈に待つ二人には悪いが、じゃれあうような風景は可愛らしいと表現するのが相応しいものだった。
「先に飲み物だけでも頼みましょうか」
メニュー立てに戻した冊子を再び手に取り、少年はドリンク類のページを開いて二人に差し出す。ケーキの写真に釘付けになっていた青い目が二対、碧の手元に寄せられた。
「ノア、このクリームソーダがいい! 青いのすっごくきれい!」
ドリンク一覧の中央を飾る写真を指差し、少女はキラキラと目を輝かせる。普段控えめで甘えることを苦手とする彼女にしては積極的な様子だ。よっぽど、この澄み渡る青に惹かれたのだろう。
「えっと……、ニアもノアちゃんと同じのがいい!」
しばし悩む様子を見せながらも、ニアも妹の指と並ぶように写真を指す。クリームソーダという子どもに大人気なメニュー、それも自分たちと同じ深く鮮やかな青色をしたものがあれば興味を示すのも当然だ。分かりました、と柔らかに笑み、碧い少年は軽く手を上げ店員を呼ぶ。空色クリームソーダ二つとホットカフェラテ一つお願いします。かしこまりました。短いやりとりが少女らの頭上を渡っていく。
上機嫌な様子で宝石めいた鮮やかさの飲み物たちの写真を眺めるノアの隣で、ニアは依然強く眉根を寄せ真剣な目つきでメニュー表を睨む。うーん、と少女らしからぬ重苦しい音が細い喉からあがった。
明日はお誕生日ですね。よければケーキでも食べに行きませんか。
そんなお誘いを受けたのが昨日のこと。兄のような存在である烈風刀の提案に、双子兎はパァと表情を輝かせ、両手を天へと大きく伸ばして元気よく返事をした。ケーキが食べられる上に、大好きなお兄ちゃんと一緒に過ごせるのだ。これ以上嬉しいことなどない。お誕生日とっても楽しみだね、と帰って二人で笑い合ったものだ。
そうして六月十日、ニアとノアの誕生日。放課後に三人でCafe VOLTEを訪れたのが八分前。ノアと烈風刀がケーキを選んだのが六分前。ニアが呻きながらメニューと真剣に相対しているのが現在だ。
どうしよう。どれにしよう。定番の可愛らしいいちごショートも美味しそうだし、重厚で大人な色をしたチョコレートケーキも美味しそうだ。シンプルなチーズケーキはベイクドもレアもきっと濃厚な風味が舌を満たしてくれるし、フルーツをふんだんに使ったタルトは目をも楽しませてくれる。季節限定と大きく謳われたレモンケーキも鮮やかな色合いで目を引いた。
「全部食べたい……」
「お誕生日ですから、二つまでならいいですよ」
「二個も食べたら晩ご飯食べられなくなっちゃうよ。だめだよ」
思わず漏れ出た心の声に、優しい声が返される。ほんと、と顔を上げる前に、厳しい言葉が甘い希望を切り捨てた。うぅ、と泣き出しそうな声が潤った唇からこぼれ落ちる。妹はいつだって優しくて、いつだってしっかり者で、控えめながらも奔放な自分をそっと諫めてくれるのだ。とっても頼りになる自慢の妹だ。今日ばかりはそれが辛くて仕方ないのだけれど。
「どれと迷っているのですか?」
「えっと……、ショートケーキと、フルーツタルトと、レモンケーキのどれにしようかなって」
少年は軽く身を乗りだし、姉兎の手元を覗く。可愛らしいかんばせを俯けたニアは、色鮮やかな写真を三つ順番に指差した。どれも美味しそうですし悩んでしまいますね、とかすかに笑みを含んだ同意の言葉が降ってくる。でしょっ、と頭を必死に回転させる少女は思わず大きな声をあげた。静かにだよ、と少し慌てた妹の声が隣から飛んでくる。わわっ、と姉は急いで口元を押さえた。愛らしい姿に、少年の口元に再び笑みが浮かぶ。
「ノア、レモンケーキにしようか? そしたらニアちゃんに分けたげれるよ?」
「だっ、大丈夫だよっ! ノアちゃん、お誕生日ぐらい好きなもの食べてよぉ」
魅力的な提案を、青い兎はぎゅっと目を瞑って断る。その声は言葉に反して苦しげで、涙がにじむような響きをしていた。すぐさま飛びつきたいほどの申し出だが、こんな時まで大切な片割れに気を遣わせたくない。この可愛らしい妹はいつだって人を思い遣る控えめな子なのだ、今日ぐらいは遠慮せずに自分の好きなものを存分に味わってほしかった。
そうですね、と烈風刀は顎に指を当てる。数拍、思案に耽り結ばれた口元がゆるりと解けた。
「だったら、僕がレモンケーキも頼みましょう。そして、三人で分けましょう? これなら夕飯もちゃんと食べられますよ」
「……いいの?」
「えぇ、僕も季節限定のケーキは気になりますから」
こういう機会でも無ければなかなか食べられませんし、と少年は手元のメニューを撫ぜる。『季節限定』の四文字を、少し硬い指が辿った。
瞬間、皺の痕が残ってしまうのではないかと不安になるほど寄せられていた丸い眉がほろりと解ける。難しげに引き結ばれていた口元が綻び、大きく開き笑みを形取った。
「じゃっ、じゃあ、えっと…………、タルトにする! フルーツタルトがいい!」
「では注文しましょうか」
ようやく少女の決心がついたところで、失礼します、と朗らかな声が響いた。碧と蒼の三つの視線が音の方へと吸い寄せられる。そこには、銀の盆にグラスを載せたウェイトレスの姿があった。重いであろうそれを片手で持つ様はごく自然ながらも感心を誘う。
「こちら、空色クリームソーダとホットカフェオレお持ちしました。ケーキ、決まりましたか?」
「えぇ、ちょうど」
三人の前に注文のドリンクを並べながら、虎子は笑みを投げかける。烈風刀も柔らかな笑みを返した。ふふ、と息を吐くような楽しげな笑声。エプロンのポケットから注文票とボールペンを取り出し、少女はすっと背筋を伸ばした。
「ご注文、承ります」
「えっとね、ノアはレアチーズタルト」
「ニアはね、フルーツタルト!」
「僕はショートケーキとレモンケーキを」
三人のオーダーを書き連ね、店員はかしこまりました、とお手本のようににこやかな笑みを浮かべる。少々お待ちください、と残し、虎子は軽い足取りで店内を歩いていった。
「決まったことですし、クリームソーダ飲みましょうか。アイス溶けちゃいますよ」
うん、と双子兎は元気な返事をする。長い袖をまくり、各々の前に置かれたグラスをそっと引き寄せた。
細く背の高い透明なグラスには、真っ青に色付いた炭酸水が満ちていた。鮮やかに澄み渡るその色は、『空色』の名を冠するに相応しい。美しい青と細かな氷粒が満ち満ちたガラス容器の頂に、まあるいバニラアイスが乗せられている。少し黄みがかった白、散る小さな黒から、濃厚で風味豊かなものだということが想像できる。目も舌も十二分に楽しませてくれるであろうそれを前に、少女らの頬は自然と綻んだ。
いただきます、と声が重なる。大きく開いた口が、白いストローに寄せられる。ちゅう、と控えめに一口。炭酸のぱちぱちとした感覚と、舌を優しく撫でるような甘さが小さな口の中に広がった。
「おいしい!」
「それはよかった」
泡が浮かび上がるソーダと同じほどキラキラと目を輝かせる兎たちを眺め、碧は緩く笑む。彼もクリームで彩られた温かなカップに口を付ける。香ばしい風味とコーヒー特有の苦み、その中にそっと潜む蜂蜜の上品な甘さが少年の口内を満たした。美味しい、と漏れた言葉に、双子は己のことのように嬉しそうに笑った。
「ケーキ、楽しみですね」
「うん!」
「れふとにも分けたげるね」
「あっ、ニアも! ニアもちゃんと分けたげるからね!」
ニコニコと笑みを漏らして言う妹に対抗し、姉も声をあげる。二人が全部食べていいんですよ、と烈風刀は優しい言葉を返した。
「だってれふとが食べさせてくれるんだよ? れふともちゃんと食べて」
「僕も自分の分を頼みましたから大丈夫ですよ」
「そうだけどー……」
むぅ、とノアは頬を膨らます。少女の考えなどとうにお見通しなのだろう、分かりました、一口だけくださいね、と少年はいたずらげに返す。膨らんだ頬が萎み、代わりに喜ばしげに解けた。えへへ、と可愛らしい笑声が二つこぼれ落ちる。
学生たちで賑わう店内に、青色が三つ鮮やかに浮かんだ。
畳む
#ニア #ノア #嬬武器烈風刀