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No.14

ひとりとひとりのおべんきょうかい【嬬武器兄弟】

ひとりとひとりのおべんきょうかい【嬬武器兄弟】
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pixivで非公開にしていたものをサルベージ。キャプションとか諸々全部当時のままです。

嬬武器兄弟が勉強してるだけ。IIIアピカコンで追加されたキャラ紹介文に笑い転げた後何とも言えない気持ちになったので。カタカナ読めて喜んでたもんな……。
設定一通り浚ったけど一人称やら二人称やらにブレがありすぎてつらい。

 昼休み。
 赤志との打ち合わせも終わり教室に戻ってくると、机の上に突っ伏した雷刀の姿が目に入った。また昼食の後すぐに寝たのか、と呆れつつ彼の元へ歩みを進めるがどうも様子がおかしい。よく見ると、寝ているのではなく冊子をいくつか抱えて唸っているようだ。彼の前、自分の座席に座り、背もたれに肘を載せるような形で彼の方に向かい声をかけてみる。
「どうしたんですか?」
「あー……烈風刀……」
 眠気とはまた違う、気だるげな動作で雷刀は顔を上げた。元気だけが取り得の彼だが、今日はそんな姿からかけ離れた酷く難しそうに歪んだ顔をしている。珍しいな、と烈風刀は内心驚く。
 「これ」と差し出された冊子を受け取り目を通す。コミカルな動物が描かれたカラフルな表紙には、『小学生 漢字ドリル』と大きなロゴが配置されていた。
「どうしたんですか? これ」
「ニアとノアにもらった……」
 彼はそれだけ言って再び机に突っ伏した。彼が抱えていた他の冊子を手に取り眺めてみると、どれも似たような言葉が並んでいる。一冊ならまだしも、何故こんなにあるのだろう。先生が出した課題にしては量が多いし、なにより表紙から高校生向けのそれではないことは明らかだ。
「本当にどうしたんですか、これ」
「これはレイシスが『ちゃんと勉強しまショウ?』ってくれてー、こっちはトライプル先生が『設問が読めなければ意味がないのよ』って渡されてー、そっちのは冷音が無言で渡してきてー。で、さっきのはニアとノアが『一緒にお勉強しよーね!』って置いていった」
 「皆してなんなんだよ」と雷刀は頭を抱えるが、烈風刀は合点がいったように頷く。皆の行動も仕方ないことだ。
 だって、彼はろくに漢字が読めないのだから。
「オレ、そんなにダメかな……」
「まぁ、『起動』を『おこうご』と読む高校生は雷刀以外にいないでしょうね」
 はぁ、と彼に悟られぬように小さく溜め息を吐く。『疾走感』や『覚醒』のようなあまりなじみのない言葉や、『KAC』のような横文字ははまだ流すことができるが、小学生でも読める『起動』をああも堂々と間違えたことは流石に無視できない。その上、『ビートストリーム』というカタカナを読めたことにとても喜んでいたのだ。こんな調子では先生は勿論、初等部のニアやノアに心配されてもしょうがないだろう。
「別にちょっとぐらい漢字が読めなくても生きていけるし」
「貴方のは『ちょっと』のレベルを大きく超えています」
 すぐさま指摘すると、雷刀は「うぇー」と潰されたような呻き声を上げた。その姿を見て烈風刀は呆れたように大きく息を吐く。あれを『ちょっと』という神経は理解できない。
「で、でも間違えたり読めなくても烈風刀が教えてくれるし」
「私が常に一緒にいるわけじゃないでしょう」
 「何を馬鹿なことを」と突き放すと、また「うーうー」とどこか聞いたことのある呻き声を上げて力なく机に突っ伏した。それを無視して机の上に散らばったドリル類をまとめる。
「せっかく皆さんがくれたのです、ちゃんとやりましょう。せめて、ニアとノアにもらった分だけでも解かなければ」
 まだ幼い彼女達がわざわざ雷刀のために用意してくれたのだ。全て解かなければ純粋で優しい彼女達の好意を踏みにじるようなものだ。それくらい、雷刀も分かっているだろう。
「………手伝ってくれる?」
「見張る、という意味ならば」
「えー」
「『えー』じゃありません。自力で解かなければ勉強する意味がないでしょう」
 雷刀が反論しようと口を開く前に予鈴が鳴った。いつまで続けても仕方のない話だ。さっさと切り上げてしまおう。
「とにかく、放課後やりますからね。一人だけ帰らないでくださいよ」
 言い捨てるようにして前を向き、授業の準備をする。後ろから「れふとー」と情けない声が聞こえるが無視する。構っていてもしょうがない。
 教室から離れていた生徒たちが続々と戻ってくる度に喧噪が増す。笑い声、眠そうな声、何度もドアが開け閉めされる音、教科書を取り出す音。色々な音が教室に雪崩れ込み満ち溢れていく。
 もうすぐ、午後の授業が始まる。



 カリカリと紙の上をペンが走る音。手元の本から視線を外しちらりと雷刀を見ると、机にかじりつくように問題を解いている姿が目に映った。こういう時はちゃんと集中するのだな、と苦笑する。この集中力をテスト前にも発揮してくれればいいのだけれど、きっとそれは叶わぬ願いだろう。
「――飽きたー!」
 突然叫ぶようにそう言って、雷刀はペンを放りだし力尽きたように机に突っ伏す。せっかく集中してると思っていたのにこれだ。はぁ、とわざとらしく嘆息し、壁にかけられた時計を見やる。短針は数字一つと半分だけ先に進んでいた。意外ともった方だろうか。
「『飽きた』じゃありません」
「飽きたもんは飽きたんだよー」
 座ったまま手足をバタバタさせ「もうやだー」と叫ぶ雷刀をいさめるが効果はない。その腕の下敷きになっているドリルを見ると、書き込むべきページは大分減っていた。この調子ならば今日中に終わらせることも可能だろう。もっとも、彼がここで投げ出さなければの話だが。
「ほら、もう少しなんですから」
「やだー」
 否定の言葉もどこか元気がない。普段机に向かうことの少ない彼が長い時間集中して解いていたのだ、疲れるのも無理はないだろう。少し無理をさせてしまっただろうか、と考えるが、普段の彼を鑑みると明日以降に回せば面倒くさがって逃げるか綺麗さっぱり忘れてしまうだろう。テスト前だって家で勉強する気は更々ない彼だ、持ち帰るよりもこの場で少しでも終わらせてしまった方がずっといい。
 そう結論づけて烈風刀は再び雷刀に向き直る。暴れ疲れたのか、彼は机に突っ伏して「疲れた」「もうやだ」と小さく呻いていた。このままでは終わらないし、帰りも遅くなるだろう。物で釣るのはあまり好ましくないのだが、早く終わらせるためだ。
「今日中に終わったら好きな物を奢りますよ」
「マジで!?」
 ガバッ、と先程の動きが嘘のように目の前の赤い頭が勢いよく上がった。現金だな、と子どものように輝く赤い瞳を見て密かに笑う。
「いくらまで?」
「500円以内ならなんでも」
「よしっ!」
 勢いよく袖をまくり、力強くペンを握り直して雷刀は再び机にかじりつく。少額から納得できる額まで釣り上げていくつもりだったのだが、あっさりと決まってしまった。安いなぁ、と思わず呆れるように溜め息を吐きたくなったが彼に見られぬようにと噛み殺す。そんなことをしなくても、既に雷刀の意識は数多の問題へと向かっており顔が上がる様子はない。
 ふと外に目を向けると、空は昼のそれより薄い青と赤へと近づくオレンジのグラデーションで彩られていた。グラウンドを走る生徒の影も長い。もう夜が近い。そう考えて再度本を開いた。
 グラウンドを走る生徒の掛け声とペンを走らせる音、紙を捲る音が夕暮れ色に染まっていく教室を満たした。



 窓の外のオレンジは鳴りを潜め、深く吸い込まれてしまいそうな藍色と全てを塗りつぶしていくような黒が見渡す限りの空を染め上げる。壁の時計を見ると、いつの間にか長針は周回し、短針は7を少し過ぎた位置を示していた。最終下校時刻が迫ってきている。
「終わったぁー!」
 叫ぶようにそう言って、雷刀はペンを机に放りだし大きく伸びをした。その声に驚いた様子で烈風刀もパタンと本を閉じる。
「お疲れ様です」
 労いの言葉をかけ、机に広げられたドリルを回収する。ざっと目を通してみると、解答欄は全て埋められていた。普段から綺麗と言えない彼の字は急いで書いたためか更に歪んでいたが、それを読み取るのはもう慣れたものだ。
「大丈夫みたいですね」
「よっしゃ!」
「もうすぐ最終下校時刻です。帰りましょう」
「うぇっ、もうそんな時間かよ」
 烈風刀の言葉に雷刀は驚いた様子で外に目をやる。「真っ暗だな」と呟いて机の上に広げられた筆記用具を乱暴に鞄に詰めた。烈風刀も読んでいた本を片付け鞄を手にする。
 パチン、パチン、と小気味いい音で電気を消し、教室を出る。人気のない廊下は外と同じように暗い。グラウンドの照明は既に消されており、廊下を照らすのは黒の中に浮かぶ月だけだ。
「なーなー、さっきの何でもいいのか?」
「言ったでしょう。予算内なら何でもいいですよ」
「じゃあ椿のところの肉まん食べたい! 頭使ったし腹減った!」
「そんなものでいいのですか?」
 「いつでも食べられるじゃないですか」と呟くと、雷刀は楽しげに笑いながら「今食べたいからいいんだよ!」と返した。
「ちゃんと夕ご飯を食べられるようにしてくださいね」
「分かってるって」
 あぁでもごま団子も食べたい、いや饅頭も捨てがたい、と雷刀は宙を見上げ真剣に悩んでいた。今日は普段の彼から考えられないほど頑張っていたのだ、希望する物全て買ってあげよう。そんなことを思いながら烈風刀は隣の赤色と同じ速度で歩みを進める。
 暗い廊下、跳ねる赤と揺れる緑が闇へと溶け込んでいった。



「終わらせたぞ!」
 翌日、昼休み。
 「早く見せに行こう」と烈風刀を引き連れ初等部に駆けていった雷刀は、廊下で遊んでいたニアとノアの目の前に昨日の漢字ドリルを掲げた。
「一日で終わったの? すごーい!」
「全部書けたの?すごーい」
 感嘆の声を上げ、二人はキラキラとした瞳で雷刀を見上げる。彼女らの表情に雷刀は嬉しそうに胸を張った。特にニアはぴょこぴょこと跳ねて雷刀からドリルを受け取り、中を見て「本当だ―!」と嬉しそうに声を上げた。その姿に雷刀も「オニイチャンすごいだろ」と楽しげに笑う。
 その子どもらしい姿に小さく笑みを零すと、くいくいと服を引っ張られる感触がした。そちらを見ると、ノアがどこか不安げな瞳でこちらを見上げていた。
「れふとも一緒にやったの?」
 控えめな声で彼女は尋ねる。渡した翌日に解き終わるという、普段の雷刀ならば考えられないような早さを不思議に思ったのだろうか。彼女と同じ目線になるように屈み、優しく微笑みかけた。
「私はサボらないように見ていただけです。全部、雷刀一人で解いたのですよ」
 烈風刀の言葉にノアはわぁ、と目を輝かせる。ニアと話している雷刀を見上げて「らいと、すごい」と呟く彼女に烈風刀は思わず笑った。素直で表情豊かな彼女達はとても可愛らしい。
「ニア達もちゃんとお勉強しなきゃね! ノアちゃん!」
「らいとみたいに頑張らないとね、ニアちゃん」
 やる気満々といった風に二人は顔を見合わせる。元気にピョンピョンと跳ねる姿を見て、烈風刀は一つの案が思い浮かんだ。彼女達と目線を合わせ、それを口にする。
「では、放課後一緒に勉強しませんか?」
「本当?」
「いいの?」
 烈風刀の申し出にニアとノアは嬉しそうに声を上げた。彼女たちのトレードマークであるカチューシャについた兎の耳のようなリボンが本物のそれのようにピンと立ち、きゃっきゃと笑う彼女らの動きに合わせて揺れる。反して、隣に立っていた雷刀は慌てて烈風刀の袖を引っ張り耳打ちする。
「おい、今日も居残りかよ!」
「だって、まだ全て終わったわけではないでしょう」
「でも――」
「雷刀」
 渋い顔で反論しようとする雷刀に、烈風刀は笑みを返す。わざとらしいほど爽やかで明るい、けれども有無を言わせない笑顔だった。
「家で残りの三冊を全て終わらせるのと、今日も残って一冊終わらせるの、どちらがいいですか?」
「…………残ります」
 疲れ切った表情で雷刀は言った。よろしい、と言った風に取り澄ました顔をすると、チャイムが響いた。もう予鈴の時間になったようだ。時間が経つのは早い。
「さぁ、もうすぐ授業が始まりますよ。教室に戻りましょう」
「はーい! じゃあまた放課後ね!」
「またねー」
 二人は廊下を飛び跳ねる。その小さな背中に「廊下で飛んではいけませんよ!」と言うと、二人一緒に振り返って「はーい」と元気な声で返事した。烈風刀の言う通り飛び跳ねるのをやめ、廊下をペタペタと音を立てて駆けていく。
 その背中が見えなくなったのを確認して、隣の雷刀を見る。居残りが決まったためか力ない顔でうなだれていた。
「私達も戻りますよ」
「ふぇーい」
 返事にも覇気がない。相変わらずすぐ顔に出るのだな、と呆れるように笑った。その背中に届くよう声をかける。
「頑張っていいところを見せてあげてくださいね、『オニイチャン』」
「分かったよ」
 皮肉るような烈風刀の言葉に雷刀も苦笑いをして顔を上げる。「お手本見せなきゃなー」と言って彼は大きく伸びをした。
 今日の放課後は賑やかになりそうだ。そんなことを考えて烈風刀は小さく笑う。
 もうすぐ、午後の授業が始まる。

畳む

#嬬武器雷刀 #嬬武器烈風刀

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