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No.16
蕩かす【ゆか→れいむ】
蕩かす【ゆか→れいむ】
pixivで非公開にしていたものをサルベージ。キャプションとか諸々全部当時のままです。
お題:楽観的なテロリスト[1h]
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博麗霊夢という少女は、八雲紫にとって非常に魅力的に映った。
清流のようにさらりと流れる黒髪、袖から覗く白の中に柔らかな赤が躍る透き通った肌、揺らめく瞳を縁取る柔らかな睫毛。手足は少女らしく折れてしまいそうなほど細く、けれども健康な形をしている。なにより、そのきっぱりとした性格が魅力的だ。
彼女の全てが欲しい。そんな欲が湧いてきたのはいつだったか。
その欲が心の内から溢れ出した時から、紫は霊夢に仕掛けた。
まずは妖怪ならば全てを潰す彼女と会話をするところから。警戒心の高い獣のような彼女の中に入り込むのはなかなかに難しかった。
次は生活に入り込むことを。お茶を出してもらえるような、そんな関係まで。
そして彼女の中での自身の存在を大きくしていく。会話して、行動を共にして、時たま触れ合って。そんな小さな事を積み重ねていく。
ゆっくりゆっくり、侵蝕していくように。博麗霊夢という少女の中に、八雲紫という存在を埋め込んで。消えないように、消せないように刻み込んで。
こたつを挟んで向こう側、霊夢は紫が持ってきたもぐもぐとお茶菓子を食べている。今日はきんつばだ。柔らかな皮から現れる餡を溶かすように味わい、渋いお茶を飲む。湯呑の中のそれを飲みほし、急須を手に取ったが中身がないことに気付いたようだ。
「おかわりいる?」
「お願いしようかしら」
ん、と小さく返事をして、霊夢はお湯を求めて台所へと消えていく。その背中を見て、紫は妖しく微笑んだ。
スキマから覗いた彼女は、他者にお茶を入れるということはしなかった。欲しいならば取りにいけ、というのがなまくらな彼女のスタイルだ。けれども、紫に対してだけは違う。紫が来れば必ず二人分のお茶を入れ、持ってきたお茶菓子も渡す。他者には決してしない、見せない彼女の姿。それを独占している現状が幸せでたまらない。
しばらくして、急須を持った霊夢が戻ってきた。紫の湯呑を取り、自身の物を並べてゆっくりと茶を注ぐ。ふわりとのぼる湯気がその温かさを表している。
「はい」
「有難う」
礼を言って、差し出された湯呑を受け取る。対面を見ると、熱いそれをゆっくり冷ます霊夢の姿が見える。霊夢は熱いものは苦手なのよね、と考えて紫は笑った。彼女がそれを語ったのはいつの日のことだったか。
「きんつば、あんたの分もあるでしょ。あげないわよ」
「いいえ。なんでもないわ」
少し警戒したような目で見る彼女に微笑み、紫は湯呑に口をつける。熱いそれは、温かなこたつの中でも美味しい。
これだけ親しくなったというのに、霊夢が紫に特別な好意を向ける様子はない。霊夢は紫をその他有象無象は違う存在と認識していることは知っている。けれどもそれから進む様子がない。
難しいわね、と紫は彼女と対話する度に思う。妖怪の生は長いが、人間のそれは空に一瞬だけ姿を見せる流れ星のように短い。あまり長い時間をかけることはできない。その前に彼女が死んでしまう。
「ねぇ、霊夢」
「なぁに」
「私のこと、好き?」
「好きよ。いつも言ってるじゃない」
ストレートに聞いてみてもこれだ。まず、この子は愛や恋を理解しているのか怪しいところもある。こればかりは難しい。けれども自身が彼女にそれを教え込みたい、という欲すら湧いてくる。八雲紫という妖怪は貪欲だ。どこまでもどこまでも彼女を求める。
「あんたが何を期待してるかわかんないけど」
「けど?」
「あんたは特別枠よ。上手く言えないけど、あんたの『好き』は別枠」
涼やかな顔でそう言って、霊夢は新しく取り出したきんつばを頬張る。幸せそうなその表情は可愛らしい。けれども、それを気にしてる暇なんてなかった。
あぁもう、この子は。
愛や恋なんて理解していないこの子の純粋な好意。『他者へのそれとは違う』と明確に示された好意。そんな甘い言葉を向けられて、落ちない者などいない。なんて楽観的な、無意識な、性質の悪いその言葉。
自分が彼女を侵蝕していくはずなのに。いつもいつもこの子に振り回されて、この子に惑わされているのは何故なのだろう。惚れた弱みとはこのことなのだろうか。長い間生きているが、こんな気持ちはまだ理解できていない。
「やっぱり弱み、かしら」
「弱い? あんた熱いのだめだっけ?」
きょとんとした表情でこちらを見る霊夢に紫は苦笑する。あれだけ甘い言葉を吐いてもこの表情だ。やっぱり理解していない。
「なんでもないわ。それ、美味しい?」
「美味しい。あんたの持ってくるお菓子は美味しいわ」
ご満悦な様子でお茶を飲む彼女。その言葉も自身を溶かしていく。あぁ、なんて甘い。このお菓子よりもずっと甘い、砂糖菓子のような彼女の言葉。けれども、苦い苦いその言葉。
ずず、とお茶を一口。甘い甘い、苦い苦い彼女の言葉とお茶の相性はあまりよくないようだ。
この味に合うものは、この感情に会う言葉はあるのだろうか。
畳む
#ゆかれいむ
#百合
#ゆかれいむ
#百合
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東方project
2024/1/31(Wed) 00:00
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お題:楽観的なテロリスト[1h]
博麗霊夢という少女は、八雲紫にとって非常に魅力的に映った。
清流のようにさらりと流れる黒髪、袖から覗く白の中に柔らかな赤が躍る透き通った肌、揺らめく瞳を縁取る柔らかな睫毛。手足は少女らしく折れてしまいそうなほど細く、けれども健康な形をしている。なにより、そのきっぱりとした性格が魅力的だ。
彼女の全てが欲しい。そんな欲が湧いてきたのはいつだったか。
その欲が心の内から溢れ出した時から、紫は霊夢に仕掛けた。
まずは妖怪ならば全てを潰す彼女と会話をするところから。警戒心の高い獣のような彼女の中に入り込むのはなかなかに難しかった。
次は生活に入り込むことを。お茶を出してもらえるような、そんな関係まで。
そして彼女の中での自身の存在を大きくしていく。会話して、行動を共にして、時たま触れ合って。そんな小さな事を積み重ねていく。
ゆっくりゆっくり、侵蝕していくように。博麗霊夢という少女の中に、八雲紫という存在を埋め込んで。消えないように、消せないように刻み込んで。
こたつを挟んで向こう側、霊夢は紫が持ってきたもぐもぐとお茶菓子を食べている。今日はきんつばだ。柔らかな皮から現れる餡を溶かすように味わい、渋いお茶を飲む。湯呑の中のそれを飲みほし、急須を手に取ったが中身がないことに気付いたようだ。
「おかわりいる?」
「お願いしようかしら」
ん、と小さく返事をして、霊夢はお湯を求めて台所へと消えていく。その背中を見て、紫は妖しく微笑んだ。
スキマから覗いた彼女は、他者にお茶を入れるということはしなかった。欲しいならば取りにいけ、というのがなまくらな彼女のスタイルだ。けれども、紫に対してだけは違う。紫が来れば必ず二人分のお茶を入れ、持ってきたお茶菓子も渡す。他者には決してしない、見せない彼女の姿。それを独占している現状が幸せでたまらない。
しばらくして、急須を持った霊夢が戻ってきた。紫の湯呑を取り、自身の物を並べてゆっくりと茶を注ぐ。ふわりとのぼる湯気がその温かさを表している。
「はい」
「有難う」
礼を言って、差し出された湯呑を受け取る。対面を見ると、熱いそれをゆっくり冷ます霊夢の姿が見える。霊夢は熱いものは苦手なのよね、と考えて紫は笑った。彼女がそれを語ったのはいつの日のことだったか。
「きんつば、あんたの分もあるでしょ。あげないわよ」
「いいえ。なんでもないわ」
少し警戒したような目で見る彼女に微笑み、紫は湯呑に口をつける。熱いそれは、温かなこたつの中でも美味しい。
これだけ親しくなったというのに、霊夢が紫に特別な好意を向ける様子はない。霊夢は紫をその他有象無象は違う存在と認識していることは知っている。けれどもそれから進む様子がない。
難しいわね、と紫は彼女と対話する度に思う。妖怪の生は長いが、人間のそれは空に一瞬だけ姿を見せる流れ星のように短い。あまり長い時間をかけることはできない。その前に彼女が死んでしまう。
「ねぇ、霊夢」
「なぁに」
「私のこと、好き?」
「好きよ。いつも言ってるじゃない」
ストレートに聞いてみてもこれだ。まず、この子は愛や恋を理解しているのか怪しいところもある。こればかりは難しい。けれども自身が彼女にそれを教え込みたい、という欲すら湧いてくる。八雲紫という妖怪は貪欲だ。どこまでもどこまでも彼女を求める。
「あんたが何を期待してるかわかんないけど」
「けど?」
「あんたは特別枠よ。上手く言えないけど、あんたの『好き』は別枠」
涼やかな顔でそう言って、霊夢は新しく取り出したきんつばを頬張る。幸せそうなその表情は可愛らしい。けれども、それを気にしてる暇なんてなかった。
あぁもう、この子は。
愛や恋なんて理解していないこの子の純粋な好意。『他者へのそれとは違う』と明確に示された好意。そんな甘い言葉を向けられて、落ちない者などいない。なんて楽観的な、無意識な、性質の悪いその言葉。
自分が彼女を侵蝕していくはずなのに。いつもいつもこの子に振り回されて、この子に惑わされているのは何故なのだろう。惚れた弱みとはこのことなのだろうか。長い間生きているが、こんな気持ちはまだ理解できていない。
「やっぱり弱み、かしら」
「弱い? あんた熱いのだめだっけ?」
きょとんとした表情でこちらを見る霊夢に紫は苦笑する。あれだけ甘い言葉を吐いてもこの表情だ。やっぱり理解していない。
「なんでもないわ。それ、美味しい?」
「美味しい。あんたの持ってくるお菓子は美味しいわ」
ご満悦な様子でお茶を飲む彼女。その言葉も自身を溶かしていく。あぁ、なんて甘い。このお菓子よりもずっと甘い、砂糖菓子のような彼女の言葉。けれども、苦い苦いその言葉。
ずず、とお茶を一口。甘い甘い、苦い苦い彼女の言葉とお茶の相性はあまりよくないようだ。
この味に合うものは、この感情に会う言葉はあるのだろうか。
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#ゆかれいむ #百合