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No.174
この世に在らんことを【神+十字】
この世に在らんことを【神+十字】
五月十日はGottの日!
ということで何とか存在してる神様と頑張る十字さんの話。俺設定しかないから雰囲気で読んでください。
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穏やかな呼吸が埃舞う空間に落ちていく。腕にかかる温かな重みに、規則的な落ち着いた寝息に、青年は思わず笑みを含んだ吐息を漏らした。
緋色の瞳が動き、すぐ隣、身体を折るように俯いて眠る蒼を眺める。こちらに少しもたれかかった状態なのもあり表情は見えないが、落ち着いた呼吸からよく寝入っていることが分かった。逡巡、紅い青年は物音立てずに動き、今にも前に倒れてしまいそうな姿勢で眠る青年の身体に触れる。慎重な動きで抱きとめ、椅子の上に上半身を横たわらせた。姿勢が大きく変わったというのに、当人は目覚めることなく穏やかに呼吸をしている。歳らしからぬ――と言っても、彼の年齢は知らないのだけれど――あどけない寝顔に、薄い唇から細く柔らかな吐息が漏れた。
青年の傍ら、いくらか積まれた本を眺める。どれも古く、表紙は擦れて描かれた絵や模様が見えなくなっていた。てっぺんに乗ったものなど、空押しのように残ったタイトルだけがうっすらと見えるような有様である。傷と大差ないようなそのへこみは、その本が地域の伝承をまとめたものであるということを示していた。更に下に積まれたものの表紙は見えないが、おそらくどれも伝承や郷土資料、御伽噺の類だろう。
最近友人――出会いが出会いなだけに、こう表現していいかすら分からないが――である彼は、ひたすらに資料を集めていた。地域に残る数々の伝承の中に『紅い神』の話はないか――神である紅い己が動いた記録が残っていないかと、調べに調べていた。村内に保管してある資料から、隣町が保有する資料、果ては書店に並ぶ御伽噺の本まで調べる始末である。それほど、彼は貪欲に情報を求めていた。ただ一つ、小さな村を訪れ、小さな災い一つだけを跳ね返した神の話を。
全ては己――彼により長い眠りから目覚めた『名も無い神』のためだとははっきり分かっていた。『神』という存在は、信仰によって存在することができる。信じ崇める心はもちろん、その存在を信じる、存在を知るだけでもこの世に顕現する
力
(
信仰
)
となるのだ。だから、彼は記録を求める。神が存在した記録を。他者に『こんな存在がいた』と信じさせられるように。人々の記憶に残るように。
大変な作業だろう。事実、蒐集は難航しているようだった。なにせ、昔々のとある村に伝わるだけの話だ。彼が己の存在を知った書物には詳しく記してあったが、あれは
神に魅せられた者
(
信者
)
が記録したものだろう。そうでなければ説明が付かないほどの分量と熱量である――だからこそ彼も
惹か
(
ここを訪
)
れてしまったのだろうけれど。
実際のところ、『ヒトが困っていた時に神様が助けてくれた』なんて話はよくあるものである。大量にある御伽噺めいた記録の一つが、それも名が知れているわけでもない村に残る記録が大々的に取り扱われているはずがない。それでも、彼は探すのだ。己の――彼が目覚めさせ、今こうやってどうにか存在している神を確かなものにするために。
信仰
(
存在を証明する者
)
は確かにここに在るのに。
信じてくれる者
(
彼
)
がいるから己はこうやって存在できているのに。それだけで十分だというのに。
「
信じてくれる神
(
オレ
)
はちゃんとここにいるんだけどなぁ」
神は小さく漏らす。細く、けれども重さを孕んだそれは、土埃が溜まった床に落ちて消えた。
今、神として存在している。己はそれだけで十分だ。なのに、彼は探す。一人では力が足りないと探す。その姿はまるで狂信者だ。記録に――
魅せられた者
(
信者
)
が文章として残した強い念にあてられ引き込まれた、取り憑かれたヒトだ。ただの郷土史の記録だけを信じて
村外れの廃教会
(
こんな場所
)
に来たのが何よりの証拠である。自覚は無いようだが。
もぞ、と蒼が動く。居心地悪そうにいくらか身じろぎし、また寝息を立て始めた。苦しいのだろうか、と神は考える。己はこの古ぼけた長椅子で眠ることにすっかり慣れているが、彼は違う。常はきちんとヒトとして暮らす蒼は、こんな硬い場所で心地良く眠れるはずなど無いのだ。ヒトは柔らかなベッドで寝るのが普通であることをすっかり失念していた。配慮のつもりが、変わらず苦しい思いをさせてしまうなど失笑ものである。紅玉が細くなり、細い眉が寄せられる。癖のように頭を掻く手付きは粗暴だった。
眠る横顔に手を伸ばす。垂れた蒼髪を指先で退けると、白い頬があらわになった。常日頃中でも外でも働き回っている肌はほんのりと焼けており、健康的な印象をもたらした。大きな傷は無く、荒れた様子も無い。きちんとした生活を送っていることがうかがえた。
逡巡、神は眠るその頬に指で触れる。手袋を付けているのだから、感触は分からない。けれども、確かな温かさが布越しに伝わってきた気がした。
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#嬬武器雷刀
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SDVX
2024/5/10(Fri) 19:34
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この世に在らんことを【神+十字】五月十日はGottの日!
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穏やかな呼吸が埃舞う空間に落ちていく。腕にかかる温かな重みに、規則的な落ち着いた寝息に、青年は思わず笑みを含んだ吐息を漏らした。
緋色の瞳が動き、すぐ隣、身体を折るように俯いて眠る蒼を眺める。こちらに少しもたれかかった状態なのもあり表情は見えないが、落ち着いた呼吸からよく寝入っていることが分かった。逡巡、紅い青年は物音立てずに動き、今にも前に倒れてしまいそうな姿勢で眠る青年の身体に触れる。慎重な動きで抱きとめ、椅子の上に上半身を横たわらせた。姿勢が大きく変わったというのに、当人は目覚めることなく穏やかに呼吸をしている。歳らしからぬ――と言っても、彼の年齢は知らないのだけれど――あどけない寝顔に、薄い唇から細く柔らかな吐息が漏れた。
青年の傍ら、いくらか積まれた本を眺める。どれも古く、表紙は擦れて描かれた絵や模様が見えなくなっていた。てっぺんに乗ったものなど、空押しのように残ったタイトルだけがうっすらと見えるような有様である。傷と大差ないようなそのへこみは、その本が地域の伝承をまとめたものであるということを示していた。更に下に積まれたものの表紙は見えないが、おそらくどれも伝承や郷土資料、御伽噺の類だろう。
最近友人――出会いが出会いなだけに、こう表現していいかすら分からないが――である彼は、ひたすらに資料を集めていた。地域に残る数々の伝承の中に『紅い神』の話はないか――神である紅い己が動いた記録が残っていないかと、調べに調べていた。村内に保管してある資料から、隣町が保有する資料、果ては書店に並ぶ御伽噺の本まで調べる始末である。それほど、彼は貪欲に情報を求めていた。ただ一つ、小さな村を訪れ、小さな災い一つだけを跳ね返した神の話を。
全ては己――彼により長い眠りから目覚めた『名も無い神』のためだとははっきり分かっていた。『神』という存在は、信仰によって存在することができる。信じ崇める心はもちろん、その存在を信じる、存在を知るだけでもこの世に顕現する力となるのだ。だから、彼は記録を求める。神が存在した記録を。他者に『こんな存在がいた』と信じさせられるように。人々の記憶に残るように。
大変な作業だろう。事実、蒐集は難航しているようだった。なにせ、昔々のとある村に伝わるだけの話だ。彼が己の存在を知った書物には詳しく記してあったが、あれは神に魅せられた者が記録したものだろう。そうでなければ説明が付かないほどの分量と熱量である――だからこそ彼も惹かれてしまったのだろうけれど。
実際のところ、『ヒトが困っていた時に神様が助けてくれた』なんて話はよくあるものである。大量にある御伽噺めいた記録の一つが、それも名が知れているわけでもない村に残る記録が大々的に取り扱われているはずがない。それでも、彼は探すのだ。己の――彼が目覚めさせ、今こうやってどうにか存在している神を確かなものにするために。
信仰は確かにここに在るのに。信じてくれる者がいるから己はこうやって存在できているのに。それだけで十分だというのに。
「信じてくれる神はちゃんとここにいるんだけどなぁ」
神は小さく漏らす。細く、けれども重さを孕んだそれは、土埃が溜まった床に落ちて消えた。
今、神として存在している。己はそれだけで十分だ。なのに、彼は探す。一人では力が足りないと探す。その姿はまるで狂信者だ。記録に――魅せられた者が文章として残した強い念にあてられ引き込まれた、取り憑かれたヒトだ。ただの郷土史の記録だけを信じて村外れの廃教会に来たのが何よりの証拠である。自覚は無いようだが。
もぞ、と蒼が動く。居心地悪そうにいくらか身じろぎし、また寝息を立て始めた。苦しいのだろうか、と神は考える。己はこの古ぼけた長椅子で眠ることにすっかり慣れているが、彼は違う。常はきちんとヒトとして暮らす蒼は、こんな硬い場所で心地良く眠れるはずなど無いのだ。ヒトは柔らかなベッドで寝るのが普通であることをすっかり失念していた。配慮のつもりが、変わらず苦しい思いをさせてしまうなど失笑ものである。紅玉が細くなり、細い眉が寄せられる。癖のように頭を掻く手付きは粗暴だった。
眠る横顔に手を伸ばす。垂れた蒼髪を指先で退けると、白い頬があらわになった。常日頃中でも外でも働き回っている肌はほんのりと焼けており、健康的な印象をもたらした。大きな傷は無く、荒れた様子も無い。きちんとした生活を送っていることがうかがえた。
逡巡、神は眠るその頬に指で触れる。手袋を付けているのだから、感触は分からない。けれども、確かな温かさが布越しに伝わってきた気がした。
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